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イブン・ラーワンディー(815頃-860前後ないし912以降)とアブー・バクル・ラーズィー(864-952ないし932)、他ファーラービー(870頃-950)、イフワーン・アッサファー(純正同胞団)(10世紀頃)、アブドゥル・ジャッバール(935頃-1024/5)、イブン・スィーナー(980-1037)、ガザーリー(1058-1111)、イブン・ルシュド(アヴェロエス)(1126-1198)、ファフルディーン・アッ=ラーズィー(1149-1209)、スフラワルディー(1155-1191)、イブン・アラビー(1165-1240)、アフサーイー(1434/35頃-1501以後)、ムッラー・サドラー(1571/2-1640)、その他
   x クジャタ、バハムート、ファラク、その他
    おまけ 


vii. グラートなど(ヌサイリー/アラウィー派、アフレ・ハックなど)

Heinz Halm, Die islamische Gnosis. Die extreme Schia und die ʻAlawaiten, (Die Bibliothek des Morgenlandes), Artemis Verlag, Zürich ind München, 1982
『イスラーム的グノーシス 極端シーア派とアラウィー派』
序説/典拠/「アブダッラー・イブン・サバ」/カイサーン派あるいは4シーア派/イマーム・ムハンマド・アル=バーキル周辺の異端者たち/ガービル黙示録『書物の母(ウンム・アル・キターブ)』(『原=書物』)/ハッターブ派/〈5倍にする者〉と〈力を与える者〉/ムハンマド・イブン・バシール/『影の書』
Kitāb al-Aẓilla/3/9世紀の異端者たち/ヌサイリー派あるいはアラウィー派など、
408ページ。

 同じ著者による→こちら(「イスラーム Ⅱ」の頁の「vi. イスマーイール派など」)や、またあちら(同頁の「v. シーア派(12イマーム派)など」)も参照


 本書 pp.139-194 に訳された Umm al-kitāb (《Die Urschrift》) から英語に訳されたのが;

The Gnostic Bible, New Seeds, Boston and London, 2003, pp.665-725 : “44. The Mother of Books”, translated fron German by Heather TerJung, retranslated as blank verse by Willis Barnstone

Matti Moosa, Extremist Shiites. The Ghulat Sects, Syracuse University Press, New York, 1988
『極端主義シーア派 グラート諸分派』
序論//
シャバク/ベクタシー教団/サファヴィー教団とキズィルバーシュ/ベクタシー教団、キズィルバーシュ教団とシャバク/グラートの〈三位一体〉/アリーの奇跡的な属性/預言者の家族/宗教的位階/12人のイマーム/アブダール/儀礼と儀式/社会的慣習/宗教的書物/バジュワンとイブラヒミヤ/サルリッヤ=カカイッヤ//
アフレ・ハック(アリー・イラーヒー)-起源と素性/アフレ・ハック-宇宙論と宇宙開闢論/スルターン・スハーク-アフレ・ハックの創設者/アフレ・ハック-ダーウードの祭式/アフレ・ハック-ジャムウ/アフレ・ハック-アリーの役割//
ヌサイリー派(アラウィー派)-古い時期/ヌサイリー派-中期/ヌサイリー派-フランスの委任統治領下で/ヌサイリー派-政治的権力への勃興/ヌサイリー派の宗教体系-神の概念/ヌサイリー派の宗教体系-アリーの神化/ヌサイリー派の光の概念-〈太陽〉と〈月〉/ヌサイリー派の〈三位一体〉-アリー、ムハンマドとサルマーン・アル=ファーリスィー/ヌサイリー派の宗教体系-12人のイマーム/ヌサイリー派の宗教体系-アイタムの役割と霊的位階/ヌサイリー派の宗教体系-転生/ヌサイリー派の宗教体系-通過儀礼/ヌサイリー派の式典-祝祭/ヌサイリー派の大衆/ヌサイリー派、スンナ派と12イマーム・シーア派//
グラートの信仰における異教的・キリスト教的・イスラーム的要素/キズィルバーシュの信仰におけるアルメニア的要素など、
604ページ。


Meir M. Bar-Asher & Aryeh Kofsky, The Nuṣayrī-ʻAlawī Religion. An Enquiry into Its Theology and Liturgy, (Jerusalem Studies in Religion and Culture, vol.1), Brill. Leiden, Boston, Köln, 2002
『ヌサイリー=アラウィーの宗教 その神学と典礼の探求』
序論//
7/13世紀の論文によるヌサイリーの三位一体的神学;序/論文の書誌的記述とその言語についての覚書/論文の背景と内容/アリーの本性についての議論/アリーの名本性に関する内部での論争/歴史的周期における神性の顕現/イマームたちにおける神性の顕現/三位一体的神学/三位一体のペルソナ間の関係/三位一体的信条についての護教論/結論//
キアーブ・アル=ウスースの神学-初期の偽書的ヌサイリー派作品;宇宙開闢論と宇宙論/神性の神秘/天使論/預言/神義論、神的報いと転生/修復、グノーシスと反律法主義/異端者たちと信徒たち/キリスト教とユダヤ教の問題/結論//
ヌサイリー派グノーシス者の天への上昇;墜落の神話/グノーシス者の帰還/否定神学対グノーシスと神秘的合一/シラートの神秘/ムハンマドの夜の旅//
神性の神秘を知る義務についてのヌサイリー派のある論文;序/論文の内容と言語/翻訳/論文のアラビア語テクスト//
〈マアナー〉と〈イスム〉の関係についてのヌサイリー派のある対話;序/論文の内容と言語/翻訳/論文のアラビア語テクスト//
ヌサイリー派の暦-ムスリムの祭りの寓意的・反律法的解釈 序//一般的ムスリム起源のヌサイリー派の聖なる日;ラマダーンの月/断食開けの祭り(イード・アル=フィトル)/犠牲の祭り(イード・アル=アドハー)//
  シーア派起源のヌサイリー派の聖なる日;ガフディール・クンムの日(イード・アル=ガディール)/アーシューラーの日(イード・アーシュール)/ウマルの死の日(マクタル・ドゥラーム)/イード・アル=ムバーハラ/寝台の祭り(イード・アル=フィラーシュ)/ミド=シャバーンの夜(ライラト・アッ=ニスフ・ミン・シャバーン)//結論//
「知恵の書簡」におけるドゥルーズ=ヌサイリー論争;序/ムスリムの宗教的法に対する反律法主義的な態度/神学的問題/転生/結論//
ヌサイリー派の宗教の教理問答;序/教理問答の形式と内容/教理問答の翻訳/教理問答のアラビア語テクストなど、
256ページ。


 第3章の初出が;

Meir M. Bar-Asher & Aryeh Kofsky, "L'ascension célste du gnostique nuṣayrite et le voyage nocturne du Prophète Muḥammad", Le voyage initiatique en terre d'Islam. Ascensions célestes et itinéraires spirituels, 1996, pp.133-148

William F. Tucker, Mahdis and Millenarians. Shī'te Extremists in Early Muslim Iraq, Cambridge University Press, Cambridge, etc., 2008
『マフディーたちと千年王国主義者たち 初期ムスリムのイラクにおけるシーア派極端主義者たち』
序論:歴史的背景-ウマイヤ朝の支配/早期の諸運動/バヤーン・イブン・サムアーンとバヤーン派/アル=ムギーラ・イブン・サイードとムギーラ派/アブー・マンスール・アル=イジュリーとマンスール派/アブダッラー・イブン・ムアーウィヤとジャナーヒッヤ/4つの分派の影響と意義/結論/エピローグなど、
202ページ。


宇野昌樹、「イスラームと輪廻転生観 - タナースフ及びタカンムスに見られる輪廻転生 -」、『オリエント』、vol.38 no.2、1995、pp.88-102 [ < J-STAGE

 以下、Encyclopædia Iranica より;

H. Halm, ‘AHL-E ḤAQQ
「アフレ・ハック」

M. Reza Fariborz Hamzeh'ee, ‘AHL-E ḤAQQ ii. INITIATION RITUAL
「アフレ・ハック 2. 通過儀礼」

W. Kadi, ‘ʿALAWĪ
「アラウィー派」

H. Halm, ‘BĀṬENĪYA
「バーティン派」

Hamid Algar, ‘BEKTĀŠ, ḤĀJĪ
「ベクタシュ」

Hamid Algar, ‘BEKTĀŠĪYA
「ベクタシー教団」

H. Halm, ‘ḠOLĀT
「グラート」

Yaron Friedman, ‘ḴAṢIBI
「カシビ(969年歿、ヌサイリー派の創設者)」

Meir M. Bar-Asher, ‘NOṢAYRIS
「ヌサイリー派」

 次項ドゥルーズ派のところで挙げた

菊地達也、『ドゥルーズ派の誕生 聖典「英知の書簡集」の思想史的研究』、2021、第1章「極端派(グラート)」

 も参照。本頁では上掲
Matti Moosa, Extremist Shiites. The Ghulat Sects, 1988

「このように、アリーの神格化がグラートの宗教体系の要石となる。この定義によって、ドゥルーズ派は、イスマーイール・シーア派に根ざすものではあるけれど、除外される。彼らはアリーに代わって、ファーティマ朝(第6代)カリフ、ハーキム・ビ・アムリッラー(1021年歿)を神格化するのだから」(p.xiii)

という一節に従って、ドゥルーズ派を次項に送りましたが、菊地『ドゥルーズ派の誕生』では、Moosa の定義を取りあげつつ(上で引用した一節も、先立つ二文とあわせて引かれています;p.21)、

「しかし、アリー(‘Alī ibn Abī Ṭālib, 661年没)からムハンマド・マフディー(Muḥammad- al-Muntaẓar, 没年不詳)までのイマームを神格化した集団に限定しドゥルーズ派を排除する『厳密な宗教的意味』については問題が残る。…(中略)…ドゥルーズ派だけでなく、分派学者に極端派を認識されているが、アリー家の血筋ではない者のイマーム位就任を主張した多くの集団を排除してしまう定義はあまりにも狭すぎると言えるだろう」(pp.21-22)

とされていました。ちなみに同書同章のⅤ節では、「ヌサイル派宇宙創成論における神・人間・輪廻」が扱われています(「ヌサイル派」は「アラウィー派」、p.3)。また先立つⅣ節「ムファッダル文献とヌサイル派」では、「ヌサイル派内で長年に渡って保持・書写・参照されてきたテクスト群」(p.33)に属しつつ、ヌサイル派に先行すると見なしうるムファッダル文献の創世神話が紹介されます。

viii. その他の分派など(ドゥルーズ派、フルーフィー派、ヤズィード派、その他)

 ドゥルーズ派;

宇野昌樹、『イスラーム・ドルーズ派 イスラーム少数派から見た中東社会』(中東パレスチナ選書)、第三書館、1996
プロローグ//
ドルーズ派の宗教と社会 ドルーズ派の誕生;イスラームの誕生と分派の成立/ウマイヤ朝の成立とシーア派の誕生/アッバース朝とシーア派/イスマーイール派の反乱/イスマーイール派の成立とその教義/ファーティマ朝の成立/ファーティマ朝の全盛期/ファーティマ朝周辺部の情勢/ハーキムの治世/ドルーズ派の成立//
  ドルーズ派の宗教体系;初期ドルーズ派の布教と教典/ドルーズ派の教義-神について/ドルーズ派の宇宙観/フドゥード(聖職者)の創造/人間創造と輪廻/最後の審判の日/タキーヤの実践/7つの信仰義務//
  ドルーズ派の宗教社会;ドルーズ派の「特殊性」とは/社会制度としての宗教階層/コミュニティ指導者層(シェイフ・アクル)/知者層(ウッカール)/一般信徒層(ジュッハール)/階層の存在理由/宗教施設と社会統合/マジュリスとその機能/聖廟(巡礼地あるいはマザール)とその機能/通過儀礼を通して見た宗派社会/「誕生」に見る精神世界/「死」とその後の世界/「結婚」に関わる法と裁判制度/「結婚」に見るドルーズ派社会//
中東史のなかのドルーズ派 十字軍とドルーズ派;初期ドルーズ派コミュニティ/十字軍とドルーズ派//
  オスマン帝国のシャーム地方支配;オスマン帝国のシャーム地方支配/ファフル・ディーン2世とドルーズ派/アイン・ダーラーの戦いとドルーズ派/ジャバル・ドルーズ地方のドルーズ派コミュニティ/コミュニティの発展と自立/宗教指導者層の誕生とその権威の確立/ドルーズ・マロン宗派紛争への道程//
  東方問題とドルーズ派;イブラーヒーム・バシャとドルーズ派/ドルーズ・マロン宗派紛争/コミュニティの拡大と社会変動/1860年以降のジャバル・ドルーズ/ドルーズ派農民一揆/旅行家、東洋学者が語るドルーズ派//
  ドルーズ派コミュニティと委任統治支配;フランス委任統治領シリアとドルーズ派/ドルーズ派反乱(抗仏闘争)/フランス委任統治領レバノンとドルーズ派/イギリス委任統治領パレスチナとドルーズ派/ドルーズ派とパレスチナ・シオニスト間抗争/ドルーズ派とシオニズム//
  ドルーズ派の現在;シリア独立とドルーズ派/シリア被占領地ゴラン高原のドルーズ派/レバノン独立後のドルーズ派/レバノン内戦とドルーズ派/イスラエル国家とドルーズ派/ゴラン高原と日本//
エピローグなど、
310ページ。


 上掲の宇野昌樹、「イスラームと輪廻転生観 - タナースフ及びタカンムスに見られる輪廻転生 -」、1995 も参照

菊地達也、「初期ドゥルーズ派における悪の原理」、『日本中東学会年報』、no.16、2001.3.31、pp.139-153[ < CiNii Articles (有料)

 この論文で典拠とする基礎資料については下掲
Daniel de Smet, Les Épîtres sacrées des Druzes. Rasā'il al-Ḥikma Volumes 1 et 2, 2007

も参照

 同じ著者による→こちら(「イスラーム Ⅱ」の頁の「v. シーア派(12イマーム派)など」)や、またあちら(同「vi. イスマーイール派など」)も参照

菊地達也、「『英知の書簡集』の宇宙創成論:『真理の開示』翻訳 (2)」、『慶応義塾大学言語文化研究所紀要』、50号、2019.3、pp.243-254 [ < 慶應義塾大学学術情報リポジトリ(KOARA) ]

菊地達也、『ドゥルーズ派の誕生 聖典「英知の書簡集」の思想史的研究』、刀水書房、2021
はじめに//
序章;研究史/本書の目的//
極端派(グラート);極端派のとらえづらさ/極端派の定義/極端派における神格化と輪廻の教説/ムファッダル文献とヌサイル派/
 ヌサイル派宇宙創成論における神・人間・輪廻;スライマーン・エフェンディー文書/神とその受肉/罪と転落/輪廻と救済//
イスマーイール派神話の復活;融通無碍のイスマーイール派神話/転落者神話/キルマーニーの可能的知性/ハーミディーの霊的アダム神話//
二元論的世界観;ドゥルーズ派教宣組織と二元論/ハーキム・カルトとハムザ/
  天上における悪の出現;神としてのハーキム/天上における善悪の位階/
  地上における悪の顕現;正義の教宣組織/悪の教宣組織//
メシアニズム;ドゥルーズ派における終末と救世主/歴史的背景と資料/
  ドゥルーズ派終末論の成立:1021年以前;1017年の新時代宣言:大キヤーマの到来/1018/1019年の宣教停止:終末論の修正/
  ドゥルーズ派終末論の変容:試練の時代/シーア派思想史におけるドゥルーズ派終末論//
輪廻思想と信仰偽装(タキーヤ)論;輪廻思想と信仰偽装論の起源/ハムザ書簡とヌサイル派論駁書/
  輪廻思想;極端派における輪廻思想/ヌサイル派における輪廻思想/ドゥルーズ派における輪廻思想/
  タキーヤ論;タキーヤの定義と背景/ハムザ書簡におけるタキーヤ/ヌサイル派論駁書におけるタキーヤ//
おわりに、など、
158ページ。


 本書ではドゥルーズ派をグラートの一つとして扱っているので、→こちら(本頁上掲「vii. グラートなど」の末尾に)、また第2章での主題に応じて→そちら(「イスラーム Ⅱ」の頁の「vi. イスマーイール派など」)でも挙げました

ジェラード・ラッセル、臼井美子訳、『失われた宗教を生きる人々 中東の秘教を求めて』、亜紀書房、2017、pp.191-244:「第4章 ドゥルーズ派」

Nejla M. Abu-Izzeddin, The Druzes. A New Study of Their History, Faith and Society, second impression with corrections, E.J. Brill, Leiden, New York, Köln, 1993
 1984刊本の改訂版
『ドゥルーズ派 その歴史、信仰と社会の新しい研究』
種族的起源/歴史的背景/ファーティマ朝での始まり/ファーティマ朝カリフ位-国家/ファーティマ朝カリフ位-アッ=ダウア(伝動)/アル=ハーキム・ビ=アムル・アッラー/霊的典拠/ドゥルーズ派の信仰/ドゥルーズ派の倫理/ドゥルーズ派の環境/ドゥルーズ派の初期の歴史への一瞥/南レバノンとベイルートのタヌーフ首長国/ドゥルーズ派の聖者-アル=アミール・アッ=サイイド・ジャマール・アッ=ディーン・アブダッラー・アッ=タヌーヒー/ファフル・アッ=ディーン・マン2世/ドゥルーズ派1633-1840/ドゥルーズ派の社会/ドゥルーズ派の女性など、
272ページ。


Anis Obeid, The Druze & Their Faith in Tawhid, Syracuse University Press, Syracuse, New York, 2006
『ドゥルーズ派とそのタウヒードへの信仰』
前書き
Sami Nasib Makarem//
序論/歴史的背景/王朝のイスラーム/ファーティマ朝カリフ位/タウヒード信仰の教義/日々の振る舞いにおける教義の表現/挑戦と機会/結論など、
340ページ。


Daniel de Smet, Les Épîtres sacrées des Druzes. Rasā'il al-Ḥikma Volumes 1 et 2, (Orientalia Lovaniensa Analecta 168), Uitgeverij Peeters en Department Oosterse Studies, Leuven, Paris, Dudley, MA, 2007
『ドゥルーズ派の聖なる書簡 Rasā'il al-Ḥikma 第1巻および第2巻』
前書き//
序論(pp.1-124)
 予備的考察と問題の現況;ドゥルーズ派とその宗教;ドゥルーズ派の宗教についての特異な文献-「我らが主ハーキムの誕生」(
Mīlād Mawlānā al-Ḥākim)/〈ドゥルーズ派〉あるいは一性派/秘義(taqīya)の弟子たち/'uqqāl(知者たち)と ğuhhāl(無知な者たち)//
   ドゥルーズ派研究;
Rasā'il al-Ḥikma 校訂の計画//
 ハムザ、ダラズィーと一性教宣の始まり;ハーキム以前の〈極端派〉イスマーイール派/
Al-Ḥasan b. Ḥaydara al-Farġānī al-Aḫram/キルマーニーとハーキム治下での極端派的潮流/非ドゥルーズ派によるダラズィーとハムザ/ドゥルーズ派版による一性教宣の始まり/その神格化に対するハーキム/ハムザとダラズィーの間の争い/ハーキムの隠れとザーヒル治下での迫害/ハムザの確かならざる最期/miḥna(試練)の概念/年表//
 一性派教義;イスマーイール派のタウヒードに対する我らが主の超越性/
lāhūt(神性)と nāsūt(人性)/化肉か副化肉か?/mu'ill 'illat al-'ilal(諸原因の原因の原因となる者)/普遍知性/知性の傲り/ḥudūd(位格)の五者とその敵対者-ドゥルーズ派宇宙開闢論の二元論的性質/連接の形成と ḥudūd の性的両極性/ḥudūd の合体/ḥudūd の位階/霊感(ta'yīd)と流入(mādda)/聖歴史、バールからハーキムまで/ハムザ、〈この時代の復活する者〉/転生(tanāsuḫ / taqammuṣ)/法の廃棄/〈第三の道〉としてのドゥルーズ派/霊的法の7つの戒律/クルアーン、アッラー=サルマーンの言葉/ファーティマ朝マジャーリス・アル=ヒクマ/ドゥルーズ派、カルマト派運動の再来?//
 Rasā'il al-ḤikmaRasā'il の構造と編集;書簡の数、その順序と巻内での配置/文集のタイトル/書簡の著者、その年代と分類/4篇の初期書簡/文集の編集者/不確かな伝播/書簡群の真正性/ハムザに帰属された非正典的著作/ドゥルーズ派の〈公教要理〉/非正典的なドゥルーズ派のその他の著作//
    ハムザとタミーミーの書簡(no.1-40)のジャンル、構成、スタイルと文法的独自性;書簡のさまざまなジャンルとその構成 ファーティマ朝政体から流出としたと考えられる公的書類、教義文書/ハムザとタミーミーの書簡のスタイル/ハムザとタミーミーの書簡の文法的独自性//
    ドゥルーズ派の写本;西欧の図書館に保存された
Rasā'il al-Ḥikma 写本の目録/それら写本の来歴/写本学上の独自性/註釈//
    最初の2巻(書簡1-40)の校訂と翻訳;校訂のために取りあげた写本/校訂の原則/翻訳//
知恵の書簡(
Rasā'il al-Ḥikma) 註釈付翻訳;第1巻(書簡1-14)(pp.125-300)/第2巻(書簡15-40)(pp.301-459)//
アラビア語校訂本(pp.461-724);第1巻(書簡1-14)/第2巻(書簡15-40)//
用語集;アラビア語-仏語/仏語-アラビア語など、
786ページ。


 本書で仏訳された文献については上掲菊地達也「初期ドゥルーズ派における悪の原理」(2001)も参照
 同じ著者による→こちらを参照:「イスラーム Ⅱ」の頁の「vi. イスマーイール派など

ネルヴァル、「東方紀行」、『ネルヴァル全集 Ⅲ 東方の幻』、1998、pp.271-380:「ドルーズ派とマロン派」、および pp.584-590:「補遺 [第2巻への補遺] Ⅲ ドルーズ派の教理問答」
………………………

 フルーフィー派;

Shahzad Bashir, Fazlallah Astarabadi and the Hurufis, (Makers of the Muslim World), Oneworld, Oxford, 2005
『ファドルッラー・アスタラーバーディーとフルーフィー教団』
若年;誕生と子供時代/宗教的彷徨/フワラズムでの夢/サブザヴァル/社会的傑出の始まり//
照明;結婚/タブリーズでの夢解釈/照明/伝道を受けいれる/政治的野心//
死;ティムール=イ・ラン/拘禁/最後の意志と遺言/処刑//
宇宙と人間;大宇宙/小宇宙/宇宙的時間//
黙示録、言語と救済;宗教的言語学/文字の学/アラビア語からペルシア語へ/文字の操作/文字と物理的実在/省略と新たな文字/黙示思想の応報//
霊廟と後継者たち;霊廟/引き裂かれた共同体/第2の到来/主な弟子たち/ミズラ・シャフルフへの攻撃(1427)/イスファハーンとタブリーズでの蜂起/征服者オスマン・メフメトを改宗させようとする企て/要約//
遺産;イラン/インド/オスマン帝国/近代の解釈/オルハン・パムクの『黒の書』//
附録;フルーフィー教団の文献など、
154ページ。


Orkhan Mir-Kasimov, Words of Power. Ḥurūfī Techings between Shiʿism and Sufism in Merieval Islam, (The Institute of Ismaili Studies. Shiʿi Heritage Series 3), L.B.Tauris Publishers, London and New York in association with The Institute of Ismaili Studies, London, 2015
『力の言葉 中世イスラームにおけるシーア派とスーフィズムとの間でのフルーフィー派の教義』
序論;ファドルッラー・アスタラーバーディとその追随者たち/アカデミックな調査の概観と本書の目的/諸断片のパズル:
Jāwidān-nāma-yi kabīr(『永遠の大いなる書』)の構造と言語//
宇宙開闢論と宇宙論:創造の言語;原初の一性:創造の意味論/不可視のものの顕現:創造の形態論/アダムとエヴァ:言葉の形/知識と愛に関する寄り道/時間:言葉の受け皿/宇宙:言葉の一性の内での多様性//
預言者論:言葉の下降と始源へのその帰還;アダムとエアヴァ:預言者的経験の原型と預言者の周期の人格化/啓示(
Tanzīl):神的言語から人間の言語へ/人間の言葉から神的な言葉へ:始源への帰還(Taʾwīl)の諸段階/イエスとムハンマド:Tanzīl Taʾwīl の間の〈母的な(Ummī)〉預言者たち/イドリースからモーセへ:預言者的使命の他の重要な諸特徴//
救済論と終末論;個々の救いの道:知の楽園と無知の地獄/言葉の周期の最終段階:
Ummī たちと時の終わり//
結論:イスラーム思想の文脈内での
Jāwidān-nāmaクルアーン註釈としての Jāwidān-nāmaJāwidān-nāma 、スーフィズムと秘教的シーア派/Jāwidān-nāma の救世主的計画とキリスト教黙示文書の利用/最後の註など、
608ページ。


Hamid Algar, ‘HORUFISMEncyclopædia Iranica
「フルーフィー派」

 →こちらも参照:「言葉、文字、記憶術・結合術、書物(天の書)など」の頁の始めの方
………………………

 ヤズィード派;

 ヤズィード派に始めて触れたのは;


大林太良編、『世界の神話』、1976、pp.151-154:「63 天地創造と孔雀王(西アジア、イェジード教徒)」

 だったかと思います。

澁澤龍彦、「イスラム教の秘密結社」、『秘密結社の手帖』(1966)、『澁澤龍彦集成 Ⅰ』、1970、pp.339-346

 のp.346にも「ヤズィディス派」として述べられていました。
 ちなみに同じページには「アンサリエ族の宗教(ヌサイル派とも呼ばれる)」が、さかのぼってpp.345-346には「ドルーズ派」、pp.341-345で「異端イスマイリ派」、pp.339-341では「スーフィー派」が記されています。
 澁澤龍彦については→こちらを参照:「通史、事典など」の頁の「おまけ

 続いては;


山田正紀、『孔雀王』(角川文庫 緑446-8)、角川書店、1981

 で、 大林太良編『世界の神話』(1976)を参照した旨が記されるとともに(p.213)、冒頭でエピグラフとして引かれてもいました(p.5)。
 余談になりますが、〈
扇撃ち(ファニング)〉が「引き金を絞りつづけ、左の掌で撃鉄を叩き起こす」(p.15)ことを知ったのも本書によってでした。
 山田正紀について→こちらも参照:「近代など(20世紀~) Ⅵ」の頁の「山田正紀」の項


 その次は「仏教 Ⅱ」のページの「おまけ」で挙げた、

荻野真、『孔雀王』(全11巻)(集英社文庫 お 33-1~11)、集英社、1997(原著は1986-1990年刊)

 の第9巻、「孔雀城」、pp.280-281(「イエディ族」と表記)

 後に、

シーベリイ・クイン、大瀧啓裕訳、『悪魔の花嫁』(創元推理文庫 F ク-6-1)、東京創元社、2010
原著は Seabury Quinn, The Devil's Bride, 1932

 に登場することを知りました(本編中では「イェーズィーディ族」と表記。訳者解説 p.348 を参照)。

 日本語で読める解説として、今のところ目にとまったのは;


青木健、『ゾロアスター教』、2008、pp.93-99
ヤズィード教=古代クルド人の宗教の末裔/シャイフ・アディーの到来/ヤズィード教研究/ヤズィード教の創世神話と社会組織/ヤズィード教研究の成果と課題

ジェラード・ラッセル、臼井美子訳、『失われた宗教を生きる人々 中東の秘教を求めて』、亜紀書房、2017、pp.79-134:「第2章 ヤズィード教徒」

Isya Joseph, Devil Worship : The Sacred Books and Traditions od the Yezidiz, Kessinger Publishing
1919刊本の復刻
『悪魔崇拝 ヤズィード派の聖なる書物と伝承』
序論-写本の起源//
アラビア語テクストの翻訳;序-最も憐れみ深き神の名において/アル=ジルワフ-啓示/マシャフ・レス-黒の書/第1部への附録/シァイフ・アディーを讃える詩/ヤズィード派の主な祈り/ヤズィード派の7つの階級/信仰箇条//
ヤズィード派についての批判的議論 ヤズィード派の宗教的起源;ヤズィード派の神話/キリスト教的伝統/西欧の東洋学者による思弁的理論/ムスリム学者の独断的見解と著者自身の説明//
  ヤズィード派における本質的要素;ヤズィード派の神観/第2位の神性 マラク・ターウース、シァイフ・アディー、ヤズィード//
  他の神性と祭り;いわゆる7柱の神格/サルサルの日あるいは新年//
  秘跡、宗教的慣例と聖職者体系;秘跡/他の宗教的慣例/聖職者体系//
  行事;結婚/葬儀/民族性/地域/居住/言語/職業//
  ヤズィード族のリスト;モースルから川を越えた部族/スィンジャルとジェズィレフ地域の部族/ミドヤト地方の部族//
  迫害など、
222ページ。


Philip G. Kreyenbroek, Yezidism - Its Background, Observances and Textual Tradition, (Texts and Studies in Religion, vol.62), The Edwin Mellen Press, Lewistone, Queenston, Lampeter, 1995
『ヤズィード派 その背景、行事と文献伝承』
前書き//
ヤズィード派について;ヤズィード派の認知/初期の歴史-事実に基づく、および伝説的な報告/宗教的背景/礼拝、聖地と聖なる諸存在/附録、ヤズィード派のきわだった聖なる諸存在の概観/社会的組織-称号、集団と諸機能/いくつかの信仰、行事と慣習//
テクスト;弱くこぼたれたものの頌歌/世界の創造の頌歌/信仰の頌歌/大洋の頌歌/シャイフ・オベクルの頌歌/朝の祈り/夕の祈り/信仰の宣言/庶民の歌/マラク・ターウースの頌歌/マラク・シャイフ・ヘセンの頌歌/タブリーズのシャイフ・シェムスの頌歌/ピール・シェレフの頌歌/シャイフ・エレベゲー・エントゥーシュの頌歌/ピール・ダウードの頌歌/シャイフ・アディーと聖なる人々の頌歌/復活の頌歌/貧しく憐れなものの頌歌/死の瞬間の頌歌など、
370ページ。


 ウェブ上で見つけたのが;

Drower, E. S. (Ethel Stefana), Lady, Peacock Angel ; Being Some Account of Votaries of a Secret Cult and Their Sanctuaries, J. Murray, London. 1941 [ < Avesta -- Zoroastrian Archives [ http://www.avesta.org/avesta.html ]
『孔雀天使 秘められた宗派の信者たちとその聖所の報告として』
序/バーシカ/ヤズィード派の婚礼/蛇と聖堂/誕生/バフザネーとシャイフ・ウベクル/スィット・グレー/岩山の修道院/「サイレイ・ガンプ」再び/ヤコブ派的奉仕/伝説と教義/祭日前夜/祭日-初日/祭日-2日目/祭日-3日目/巡礼の巡行/シャイフ・アディー-神殿の境内/シャイフ・アディーの聖堂/限りない平穏の場所/宿主たちとの対話/谷の嵐/神殿の中で/跋//
附録;婚礼の慣習/生誕など、
211ページ。

 著者はマンダ教の研究者でもあります→こちらを参照:「グノーシス諸派など Ⅲ」の頁の「vii. マンダ教など


 以下Encyclopædia Iranica より;

Christine Allison, ‘YAZIDIS i. GENERAL
「ヤズィード派 1. 概観」

Philip G. Kreyenbroek, ‘YAZIDIS ii. INITIATION IN YAZIDISM
「ヤズィード派 2. ヤズィード派における通過儀礼」
………………………

黒田壽郎、『イスラームの反体制 ハワーリジュ派の世界観』、未來社、1991
序論/ハワーリジュ派の現世観/ハワーリジュ派の神と人/ハワーリジュ派の善悪観など、244ページ。

 同じ著者による→こちらも参照:「イスラーム」の頁の「ii. 思想史・哲学史的なものなど


森川孝典、「シャイヒー派のリーダー、サイイド・カーズイム・ラシュティー」、『人文研究論叢』、no.1、2005.3.31、pp.93-110[ < CiNii Articles

Denis M. MacEoin, ‘COSMOGONY AND COSMOLOGY vii. In ShaikhismEncyclopædia Iranica
「宇宙開闢論と宇宙論 vii シャイヒー派における」

Henry Corbin, En Islam iranien. Aspects spirituels et philosophiques. Tome Ⅳ L'École d'Ispahan, l'École shaykhie, le Douzième Imâm, 1972/1991, pp.202-300 : Livre Ⅵ L'École shaykhie

 ヌクタヴィー教について知ったのは

青木健、「アーザル・カイヴァーン学派研究3 - ポスト・モンゴル期のイスラーム思想史に於けるアーザル・カイヴァーン学派 -」、2016.3、p.179(384)、註6

 でした。その前後も参照。

 ヌクタヴィー教自身による1次資料は現在のところ
「ほとんど研究されていない。この為、ヌクタヴィー教に関する主たる資料はアーザル・カイヴァーン学派の文献
Dabestān-e Mazāheb (1652年頃成立)と歴史書 Tā'rīkh-e Alfī の外部資料2冊に限られている」
とのことです(上掲の註)。その内前者が同論文 pp.114(449)-110(463) の
「補論:
Dabestān-e Mazāheb 第9章『ワーヒド教の信仰箇条と信者たちに関する第9章』全訳-アーザル・カイヴァーン学派によるヌクタヴィー教に関する1次資料」
として邦訳されています。
 そこには各1万6千年の周期が4つで6万4千年の世界史をなすという箇所もありました(第3節、p.109(454))。
 また同論文の参考文献としてあげられており手もとにあったのが;


Abbas Amanat, "The Nuqtawī movement of Maḥmūd Pisīkhānī and his Persian cycle of mystical-materialism", Edited by Farhad Daftary, Medieval Ismaʻili History and Thought, 1996, pp.281-297

 (タイトル中の"Nuqtawī""q"には下に点がつきます)

 同じく青木論文の参考文献から;

Kathryn Babayan, Mystics, Monarchs, and Messiahs. Cultural Lanscapes of Early Modern Iran, (Harvard Middle Eastern Monographs XXXV), Harvard University Press, Cambridge, Massachusetts and London, 2002
『神秘家たち、君主たちと救世主たち 近代初期のイランの文化的諸風景』
前書き//
存在すること、時間を感じることのペルシア的あり方;新たなサファヴィー朝の始まり-「転生の道」を断つ/時間の諸周期と変化のリズム-歴史のペルシア的想像力/マーニーのイメージ-ペルシア的歴史記述における異端者たちの諸系譜/近代初期のイランにおけるヌクタヴィー教徒たちの宇宙//
アリーの記憶と儀礼的ドラマ-政治行動の宗教的諸範例;アブー・ムスリム-キズィルバーシュの衰微の犠牲/アリー的敬神と忠誠の兄弟団-讃美者たち、語り手たちと職人たち/師子の図式を位置づける-宇宙、歴史と共同体/叙事詩と異端-シーア派の歴史から異質性を書く//
帝国的サファヴィーの言語を作りだす;サファヴィー朝の過去を映す-救世主なる父とのシャー・タフマスブの断交/絶対主義のイスファハーン期-1590から1666まで/主流を形成する-神秘家たち、神学者たちと君主たち/回心と民衆文化//
エピローグなど、
634ページ。

………………………

 〈イスラーム〉の範疇には納まらないのでしょうが;

高林藤樹、「バーブ教とバハイ教」、『西南アジア研究』、no.5、1960、pp.8-14

P.R.ハーツ、奥西峻介訳、『バハイ教』(シリーズ 世界の宗教)、青土社、2003
原著は Paula R. Hartz, Baha'i Faith, 2002
序文//バハイ教とその信者;分布/バハイ教の主な特徴/漸進する啓示/精神の信仰/世界共同体/バハイ教と個人/バハイ教としての統一/バハイ教徒と社会政策/バハイ教の原理/バハイ教の独自性//
バハイ教の基礎;ペルシアのイスラム教化/12番目のイマーム/バーブの出現/バーブの宣言/初期のバービ教運動/バーブの伝言/バービ教徒の受難/入牢と審問/ベダシュトの会議/バービ教徒の籠城/シャイフ・タブレシー廟の攻囲戦/籠城の終焉/バーブの死/バービ教の崩壊//
バハイ教の開祖バハーオッラー;ミールザー・ホセイン・アリーのバービ教入信/迫害の増大/神の摂理を顕現する者/追放/ミールザー・ヤハヤー/バハーオッラーの復帰/リドワーン宣言/新宗教の誕生/バハーオッラーの宣言/アッカー幽閉/バハーオッラーの晩年//
バハイ教の聖典;バハーオッラーの著作/翻訳/バハーオッラーの教え/『隠されたる言葉』/『確信の書』/『最聖の書』/補足の文書/『七つの谷』/アブドル・バハーの著作/バーブの著作//
バハイ教の流布;オスマン帝国とエジプトのバハイ教/英領インドとビルマ/ロシア領のバハイ教/母国のバハイ教/アブドル・バハー/継承問題/バハイ教の西洋への流布/アメリカでの動乱/アブドル・バハーの指導/アブドル・バハーの旅/第一次世界大戦/アブドル・バハーの晩年/ショーギ・エッフェンディ/ショーギ・エッフェンディの就任/バハイ教の正典/管理運営計画/教育計画/バハイ世界本部/神の大義の手/ショーギ・エッフェンディの遺産//
バハイ教の信仰と礼拝;精神の旅/天与の本性/バハイ教の戒律/家族生活と子供/聖約/死と埋葬/バハイ教暦/19日祭/バハイ教の聖日/バハイ教礼拝堂//
バハイ共同体;バハイ教の行政制度/バハイ教の機構/精神行政会/万国正義院/バハイ世界本部/被任命職/マイノリティの権利/協議/権力と権威/バハイ教徒と共同体//
今日のバハイ教;バハイ教の普及/炉部集会/教育/開発の努力/バハイ教と国際連合/近代の迫害/イランにおける迫害/将来の課題/新しい世界秩序にむけて/バハイ教と世界平和/世界社会の模範としてのバハイ教など、
184ページ。


 以下Encyclopædia Iranica より;

Moojan Momen, ‘COSMOGONY AND COSMOLOGY viii. In the Bahai faithEncyclopædia Iranica
「宇宙開闢論と宇宙論 viii バハーイー教における」

Stephen Lambden, ‘ESCHATOLOGY iv. In Babism and Bahaism
「終末論 iv バーブ教とバハーイー教における」

ix. 個々の著述家など(イブン・スィーナー、ガザーリー、スフラワルディー、イブン・アラビー、その他)

 まずは;

『中世思想原典集成 11 イスラーム哲学』、平凡社、2000
総序(竹下政孝)//
キンディー 知性に関する書簡/ファーラービー 有徳都市の住民がもつ見解の諸原理/ファーラービー 知性に関する書簡イフワーン・アッサファー イフワーン・アッサファー書簡集キルマーニー 知性の安息イブン・シーナー 救済の書ガザーリー イスラーム神学綱要/ガザーリー 光の壁龕/イブン・バーッジャ 孤独者の経綸/イブン・バーッジャ 知性と人間の結合/イブン・トゥファイル ヤクザーンの子ハイイの物語(→こちらも参照:「ユダヤ」の頁の「vii. ユダヤ思想史など」)/イブン・ルシュド 矛盾の矛盾/アヴェロエス(イブン・ルシュド) 霊魂論註解スフラワルディー 光の拝殿など、
1164ページ。


 以下、それぞれ随所ですでに登場している者もありますが、全て挙げることはしません。
 またスィジスターニー(?-971以降)やキルマーニー(?-1020以降)を「vi. イスマーイール派など」の項に繰りこんだりといった場合もあります;


イブン・ラーワンディー(815頃-860前後ないし912以降)とアブー・バクル・ラーズィー(864-952ないし932)、他
ファーラービー(870頃-950) 
イフワーン・アッサファー(純正同胞団)(10世紀頃)
アブドゥル・ジャッバール(935頃-1024/5)
イブン・スィーナー(アヴィセンナ)(980-1037)
ガザーリー(1058-1111) 
イブン・ルシュド(アヴェロエス)(1126-1198) 
ファフルディーン・アッ=ラーズィー(1149-1209) 
スフラワルディー(1155-1191) 
イブン・アラビー(1165-1240) 
イブン・アビー・グムフール・アル=アフサーイー(1434/35頃-1501以後) 
ムッラー・サドラー(モッラー・サドラー)ことサドル・ッ・ディーン・シーラーズィー(1571/2-1640) 
その他 
………………………

 イブン・ラーワンディー(815頃-860前後ないし912以降)とアブー・バクル・ラーズィー(864-952ないし932)、他;


Sarah Stroumsa, Freethinkers of Medieval Islam. Ibn al-Rāwandī, Abū Bakr al-Rāzī, and Their Impact on Islamic Thought, (Islamic Philosophy, Theology and Science. Texts and Studies, vol.XXXV), Brill, Leiden, Boston, Köln, 1999
『中世イスラームの自由思想家たち イブン・アッ=ラーワンディー、アブー・バクル・アッ=ラーズィーとイスラム思想への衝撃』
序論 中世イスラームにおける自由思想と自由思想家たち;ウンマの境界/自由思想/イスラームの自由思想家たち/方法//
預言の印-ムスリム預言者論の試金石;イスラームにおける主題の出現/預言の印の初期の展開/真の宗教のキリスト教徒による〈否定的な印〉/印の論争的交換//
イブン・アッ=ラーワンディーとその不可解な『エメラルドの書』;伝記/『エメラルドの書』/『エメラルドの書』におけるムバーハラ詩句/異端的イブン・アッ=ラーワンディーとその『エメラルドの書』/『エメラルドの書』とその内容//
アブー・バクル・アッ=ラーズィー-「尊敬すべき」自由思想家;伝記/『預言者の詐欺的策略』/ラーズィーの自由思想の真正性//
自由思想家たちの宗教;無神論者を求めて/神義論/祭式/代わりの聖典/懐疑主義//
イスラームの自由思想家たちにおける異教的遺産;ヘレニズム的伝統/バラモン教徒/サービア教徒//
イスラム思想に与えた自由思想家たちの衝撃;自由思想家たちの〈後世〉/カラームの自然学的理論/弁証家としてのアッ=ラーワンディー/イスラーム哲学における反響//
ムスリムの異端から宗教間論争へ;キリスト教徒の反ムスリム論争-アブド・アル=マスィーフ・アル=キンディーの『書簡』/イブン・アッ=ラーワンディーの『キターブ・アッ=ダーミグ』とイブン・ハズムの論争におけるその後世//
イスラーム的自由思想のイスラームを越えた反響;キリスト教における反響/ユダヤ教における反響/マイモニデスの著作におけるムスリムの異端//
結論など、
274ページ。


 本書で〈自由思想〉と呼ばれるのは、啓示による預言、預言者、奇跡、聖典などを否定する立場を指します(序論第2節)。この立場を論じることが本書の主題であり、また著者はイブン・ラーワンディーについての研究を重ねてきたようなこともあって、時間、空間、質料、魂、創造者を永遠なものと見なすラーズィーの五元論や、魂の墜落によって始まる創造神話は(バルダイサンの開闢論などが連想されなくもないかもしれない→こちらも参照:「キリスト教(古代および東方正教会)」の頁の「ii. 初期キリストクオの諸傾向など」)、p.104、p.128 などで言及されるものの、残念ながら詳しく取り扱われてはいません。
 他方イブン・ラーワンディーについて、本書では宇宙論的な教説は登場しませんが、その師と見なされるワッラーク Al-Warr
āq がマニ教ゆかりの人物らしく(pp.40-46 など)、マニ教神話の断片が言及されたりします(p.42)。
 また第8章3節では、〈楽園に入った4人のラビ〉という、お馴染みのユダヤの伝承(→そちら:「ユダヤ Ⅱ」の頁の「ix. ショーレムの著作とその周辺」や、またあちら:同「xi. メルカヴァー/ヘーハロート神秘主義など」も参照)に対するマイモニデスの取り扱いが、異端者としてのラーワンディーを念頭に置いているのではないかという観点から分析されていました。

 ということで、まず、アブー・バクル・ラーズィーないしムハンマド・イブン・ザカリッヤー・ラーズィーないしラーゼスについては;


アンリ・コルバン、黒田壽郎・柏木英彦訳、『イスラーム哲学史』、1974、pp.163-169:「第4章4 医師、哲学者ラーゼス(ラージー)」

 また

菊地達也、『イスマーイール派の神話と哲学』、2005、pp.76-77

松本耿郎、「中世のプラトニズム-イスラム思想と新プラトン思想-」、2013、p.86

 でラーズィーの「哲学的神話」にふれていました。

Fabienne Brion, "Le temps, l'espace et la genèse du monde selon Abû Bakr al-Râzî. Présentation et traduction des chapitres I, 3 du «Kitâb a‛lâm al-nubuwwa» d'Abû Hâtim al-Râzî", Revue Philosophique de Louvain, vol.87, no.74, 1989, pp.139-164 [ < Persée : Portail de revues en sciences humaines et sociales
「アブー・バクル・ラーズィーによる時間、空間と世界の始まり アブー・ハーティム・ラーズィーの『預言の印の書』第1章3の紹介と翻訳」

 上掲コルバン『イスラーム哲学史』のところでも記したように、アブー・ハーティム・ラーズィーはイスマーイール派に属する論敵。
 訳された部分の前半では、同じくコルバンも述べている
〈絶対的な時間〉と〈限定された時間〉の区別(pp.149-151)、
さらに〈絶対的な空間〉と〈相対的な空間〉の区別(pp.153-154)、
後半では開闢神話(p.156)
が綴られています。

Edited by Seyyed Hossein Nasr and Oliver Leaman, History of Islamic Philosophy, 1996/2001, pp.198-215; Lenn E. Goodman, "Chapter 13 : Muḥammad ibn Zakariyyā' al-Rāzī"

Shlomo Pines, translated from German by Michael Schwarz, edited by Tzvi Langermann, Studies in Islamic Atomism, 1997, pp.41-107; "Chapter Two: The Atomic Theory of Al-Râzî", & pp.157-159; "Appendix D: Al-Râzî and Democritus"
第2章の小見出しをあげておくと、pp.41-47 の前置き部分に続いて;
質料/空間/時間/イーラーンシャフリーとラーズィーの宇宙開闢論/ラーズィーの哲学の諸起源/ラーズィーとカラーム/後のイスラーム哲学におけるいわゆるプラトーン的自然学理論の残存/ラーズィーの著作目録


 "Al-Îrânshahrî and the Cosmogony of al-Râzî"の節で引用されるラーズィーの宇宙開闢論は、やはりイスマーイール派のナースィル・フスラウの証言によるものです(pp.68-69)。
 また続く
"The Origins of al-Râzî's Philosophy"の節前半ではハッラーン人の教説として、ラーズィーのそれと類似した証言がいくつか挙げられています(pp.70-82)。著者は前者もラーズイーに由来するものと推測しているようです(p.81)。

 そこでも幾度となく引きあいに出されていますが(とりわけ pp.65-67)、ラーズィーに影響を与えたとされるのが;

Dariush Kargar and EIr, ‘IRĀNŠAHRIʾ’Encyclopædia Iranica
「イラーンシャフリ」

Alnoor Dhanani, The Physical Theory of Kalām. Atoms, Space, and Void in Basrian Muʿtazilī Cosmology, 1994

 の第6章A節でワッラークに再会できます。また pp,161-162、171-172、188-190 などにイブン・ラーワンディーも登場します。後者については前掲 Stroumsa, 1999 の第6章2節(pp.170-172)も参照。

 ワッラークについてはまた;

Wilferd Madelung, Religious Schools and Sects in Medieval Islam, 1985, "Dualist Religions": XX "Abū‘Īsā al-Warrāq über die Bardesaniten, Marcioniten und Kantäer"

 ラーズィーについて、また;

マックス・ヤンマー、髙橋毅・大槻義彦訳、『空間の概念』、1980、pp.103-104
……………………

 ファーラービー(870頃-950);

ファーラービー、竹下政孝訳、「有徳都市の住民がもつ見解の諸原理」、『中世思想原典集成 11 イスラーム哲学』、2000、pp.49-169

  同、 「知性に関する書簡」、同上、pp.171-195

沼田敦、「イスラム哲学における後期新プラトン主義の足跡-ファーラービーによるプラトンとアリストテレスの調和論-」、『ネオプラトニカ 新プラトン主義の影響史』、1998、pp.221-252
プラトンとアリストテレスの調和論について/著述方法における対立の調和/視覚理論における調和/世界の産出者に関する調和/イデア論をめぐる対立の調和

大川京、「ファーラービーの流出論体系」、『オリエント』、vol.44 no.1、2001、pp.117-130 [ < J-STAGE

ファフレッティン・オルグネル、三箇文夫訳、『ファーラービーの哲学 ギリシア哲学をアラビア・イスラーム世界に定着させた中世イスラームの大哲学者』、幻冬舎ルネッサンス、2012
原著は Prof. Dr. Fahrettin Olguner, Fârâbî, 1993/1999
ファーラービーについて//ファーラービーとは如何なる人物か//
ファーラービーの育った文化と思想体系;イスラーム以前のトルコ民族とトルコ文化/トルコ・イスラーム文化//
多様な文化と思想体系に対するファーラービー//ファーラービーの学問的性格と業績//
ファーラービーの哲学;哲学の問題とファーラービー/論理学と哲学/ファーラービー論理学から新世界へ/哲学の主要な問題 存在-存在の出現と存在の段階、知識の哲学、道徳の哲学、社会と国家の哲学//
イスラーム世界における音楽とファーラービー//思想と人間性におけるファーラービー//
ファーラービーより抜粋;テキストについて/論理学/存在/知識/道徳/社会と国家/学問-技術 幾何学の哲学について、保護し罪を許す神の名において//
訳者あとがき/解説と
BIBLIYOGRAFYA など、
260ページ。

……………………

 イフワーン・アッサファー(純正同胞団)(10世紀頃);

イフワーン・アッサファー、菊地達也訳、「イフワーン・アッサファー書簡集」、『中世思想原典集成 11 イスラーム哲学』、2000、pp.197-262

Seyyed Hossein Nasr, An Introduction to Islamic Cosmological Doctorines, 1993, pp.23-104: “Part Ⅰ. The Ikhwān al-Safā'”

Ian Richard Netton, Muslim Neoplatonosits. An Intoroduction to the Thought of the Brethren of Purity (Ikhwān al-Ṣafā'), Routledge Curzon, London, 2002
『ムスリムの新プラトーン主義者たち 純正同胞団(イフワーン・アッサファー)の思想序論』
イフワーン・アッサファーとその『書簡』//
ギリシアの遺産 1;ピュータゴラース/プラトーン/アリストテレース//
ギリシアの遺産 2;新プラトーン主義//
キリスト教的・ユダヤ教的下層;キリスト教と『書簡』/ユダヤ教と『書簡』//
文献の用法;クルアーンの覆い/インドの文献//
イフワーン・アッサファーとイスマーイール派//救済の船など、
156ページ。

 同じ著者による→こちら(「イスラーム」の頁の「ii. 思想史・哲学史的なものなど」)や、またあちら(同「iii. スーフィズムなど」)も参照


Paul E. Walker, ‘EḴWĀN AL-ṢAFĀʾEncyclopædia Iranica
「イフワーン・アッサファー」
………………………

 アブドゥル・ジャッバール(935頃-1024/5);

塩尻和子、『イスラームの倫理 アブドゥル・ジャッバール研究』、未來社、2001
序文//
序章 イスラーム倫理思想とアブドゥル・ジャッバール イスラーム倫理思想の枠組み;クルアーンの倫理/ムウタズィラ派の歴史的位置/ムウタズィラ派倫理思想の特色//
  アブドゥル・ジャッバールの生涯と業績//アブドゥル・ジャッバール研究の展開とその問題点//
啓示と理性 神の唯一性
(al-tawḥīd)神の属性をめぐる論争/属性とその要因//
  人間論//理性//知識-必然知と獲得知//啓示と理性//
善と悪;神の正義/悪の定義/善と利益//
タクリーフの構図;タクリーフの定義/行為と行為主/困難・苦痛/神の意志//
神の恩恵 倫理的利益//ルトフ
(luṭf)-神の導き//イワド(ʻiwaḍ)-補償//
  復活原子的存在論/原子の最小単位/新しい創造など、
346ページ。

 アブドゥル・ジャッバールは「後期ムウタズィラ派最大の学者」(p.iii)。

 上掲書に第1章2および第4章4として再録されていますが;


塩尻和子、「アブドゥル・ジャッバールの人間論 - 原子論的存在論における自己同一性 -」、『オリエント』、vol.33 no.1、1990、pp.30-44 [ < J-STAGE ]

 第4章4は同じ著者による→こちら(「イスラーム」の頁の「ii. 思想史・哲学史的なものなど」)にも再録されました。
………………………

 イブン・スィーナー(アヴィセンナ)(980-1037);

イブン・シーナー、小林春夫訳、「救済の書」、『中世思想原典集成 11 イスラーム哲学』、2000、pp.339-406

五十嵐一訳・解説、佐藤達夫校閲、伊東俊太郎編、『科学の名著 8 イブン・スィーナー 医学典範』、朝日出版社、1981
序説 アラビア科学とイブン・スィーナー(伊東俊太郎);はじめに/アラビア科学について/イブン・スィーナーの科学//
  イブン・スィーナー-人・思想・伝承(五十嵐一);イスラームの知的精華/人と生涯-『自伝』を中心に/イブン・スィーナーの哲学と医学/『医学典範』の成立と内容/翻訳にあたって//
イブン・スィーナー 医学典範;第1巻第1部 医学の定義とその自然的主題について-6教則から成る;第1教則/第2教則 諸元素について/第3教則 諸々の気質について/第4教則 諸体液について/第5教則 第1章 器官の本質とその分類/第6教則 諸能力および諸機能について/最終章 諸機能について//
解剖図譜//ブーラーク版『医学典範』テクストなど、
448ページ。

 全5巻中、「第1巻の三分の一に相当する第1部まで」(p.70)で、「構成する主要な分野としては、古代中世的な意味での生理学、そして解剖学である」(p.60)。
 月報には;

アヴィケンナ焚書(種村季弘)/イブン・スィーナーの「医学詩篇」について(前嶋信次)/医学典範の翻訳に寄せて-解剖学名の背景(金光晟)/フナイン・イブン・イスハークとイブン・シーナーについて(福島保夫)


五十嵐一、『東方の医と知 イブン・スィーナー研究』、講談社、1989
序//オリエント的グノーシスの相貌-イブン・スィーナー登場;文化文明の収縮拡散/グノーシスの光あれ/Sino-Iranica/バランス感覚の妙//
放浪の知識人-イブン・スィーナーの人・生涯・作品;オクソス河を越えて/宮廷から宮廷へ/アリストテレスに倣いて//
医と哲学と-身心の癒し手 医哲学の構図;医史学的観点から/バランス医学の妙/病のモルフォロジー/身心医学の地平//
  『医学典範』点描;一つの血液循環回路/神経生理機構の妙/病因と病気/オリエントの本草学//
知の形而上学;人間の魂とその知的本質/普遍論の構図/宇宙的叡知の神学と人間学//
文献解題など、
296ページ。

 同じ著者による→こちらも参照:「イスラーム」の頁の「ii. 思想史・哲学史的なものなど

S.H.ナスル、黒田壽郎・柏木英彦訳、『イスラームの哲学者たち』、1975、pp.1-80:「第1章 アヴィセンナと哲学・科学者たち」

中村廣治郎、「イブン=シーナーの創造論」、『東京大学宗教学年報』、vol.XVI、1999.3.31、pp.1-14 [ < 東京大学学術機関リポジトリ UTokyo Repository ]

 →こちらに再録:本頁下掲の「ガザーリー」の項

Seyyed Hossein Nasr, An Introduction to Islamic Cosmological Doctorines, 1993, pp.175-281: “Part Ⅲ. Ibun Sīnā”

Henry Corbin, translated by Willard R. Trask, Avicenna and the Visionary Recital, Routledge & Kegan Paul, London, 1960
原著は Avicenne et le récit visionnaire, 1954
『アヴィセンナと幻視的物語』
前書き//
アヴィセンナの物語群 アヴィセンナ的宇宙と幻視的物語;アヴィセンナ主義と哲学的状況/宇宙的地下室-異邦人と導き手/魂の釈義としてのタアウィール/物語群あるいは東方への旅//
アヴィセンナ主義と天使論;天使、霊と知性/大天使=ケルビムたちあるいは諸知性/天の天使たちあるいは魂/天使的教育学と個体化/天球の数/ラテン・アヴィセンナ主義とイラン・アヴィセンナ主義//
ハイイ・イブン・ヤクザーンの物語;物語の構成と真筆性-註釈と写本/「ハイイ・イブン・ヤクザーンの物語」の翻訳/方向づけ//
鳥の物語;天への上昇(ミウラージュ=ナーマフ)/象徴としての鳥/アヴィセンナ的物語とそのペルシャ語訳/「鳥の物語」の翻訳/アヴィセンナ的物語からアッタールの神秘的叙事詩へ//
「サラーマーンとアブサールの物語」;物語の2つのヴァージョン/「サラーマーンとアブサール」のヘルメース主義的ヴァージョン/「サラーマーンとアブサール」のアヴィセンナ主義的ヴァージョン//
エピローグ、あるいはアヴィセンナ的展望;アヴィセンナ主義とイマーム主義/象徴主義と現前//
後書き アヴィセンナの〈東方哲学〉についての近年の研究//
「ハイイ・イブン・ヤクザーンの物語」へのペルシア語註釈の翻訳;プロローグ/天使との出会い/挨拶/通過儀礼の始まり-天使の名前と人格/観相術/魂のための2つの道/魂の3人の悪しき連れ/どのように3人の連れを脅すか/旅の条件/宇宙の東方と西方/生命の泉/極の周辺の闇/世界の西方/地上的質料の地方/天上的質料の地方/諸天球/東方へ向かって-元素的形相と種の形相の地方/魂の王国/魂の悪霊たち/魂の精霊たち/地上的天使たち/諸天球の天使=魂たちと天使=ケルビムたち/誰にも似ていない王の美しさ/王国へ移住する者たち/「汝が望むのであれば、我とともに来い」など、
430ページ
(手もとにあるのはコピー)。

 コルバンについては→こちらを参照:「イスラーム Ⅱ」の頁の「v. シーア派(12イマーム派)など


 「ハイイ・イブン・ヤクザーンの物語」について;

Aaron W. Hughes, The Texture of the Divine. Imagination in Medieval Islamic and Jewish Thought, 2004

Translated and introduced by Toby Mayer, Avicenne's Allegory on the Soul. An Ismaili Interpretation. An Arabic edition and English translation of ʽAlī b. Muḥmmad b. al-Walīd's al-Risāla al-mufīda, 2016

(Multiple Authors), ‘AVICENNAEncyclopædia Iranica
「アヴィセンナ」
………………………

 ガザーリー(1058-1111);

ガザーリー、黒田壽郎訳・解説、『哲学者の意図-イスラーム哲学の基礎概念-』(イスラーム古典叢書)、岩波書店、1985
論理学;序説/語の意味作用/普遍概念ならびにその諸関連性、区分の相違/単純概念の構成と命題の種類/三段論法の命題構成法/三段論法と明証に関する付帯事項//
形而上学;序説/[存在]/必然的存在者の本質ならびに付帯事項/第一者の諸性質ならびにそれに関する主張、序言/[存在者の諸区分]/諸事物が第一原因から発して存在する様態、原因、結果の秩序とそれがあらゆる原因の授与者に帰着する様相//
自然学;あらゆる物体と関連するもの/単純物体、特に場について/混合と合成体/植物、動物、人間霊魂/能動知性の霊魂への溢出//
解説など、
374ページ。


ガザーリー、中村廣治郎訳、「イスラーム神学綱要」、『中世思想原典集成 11 イスラーム哲学』、2000、pp.407-594

ガザーリー、「光の壁龕」、同上、pp.595-663

ガザーリー、中村廣治郎訳注、『誤りから救うもの 中世イスラム知識人の自伝』(ちくま学芸文庫 カ-24-1)、筑摩書房、2003
はじめに//
真理の探究//懐疑と知識の否定//
真理探究者の種類;神学-その目的と成果/哲学 哲学者の区分:唯物論者、自然学者、形而上学者、哲学の区分:数学、論理学、自然学、形而上学、政治学、倫理学/タァリーム派とその危険性/スーフィーの道//
啓示の本質とその必要性/引退後に再び教鞭をとった理由//
解説 ガザーリーの虚像と実像など、
212ページ。

 第3章3節で論難されるタァリーム派とはイスマーイール派のこと(p.110註4)。


中村廣治郎、『イスラムの宗教思想 ガザーリーとその周辺』、岩波書店、2002
序 ガザーリーの生涯について//
シャリーアとガザーリー イスラム共同体の思想;「聖なる共同体」としてのウンマ/ムハンマド以前のウンマ/「ムハンマドのウンマ」/ウンマの現実態//
  シャリーアと救済;「シャリーア」の変遷/シャリーアと「イスラーム」/シャリーアと法//
  ガザーリーの法学観;知識の分類/法学の位置/法学の自立/法学批判/イスラム諸学の再構築//
  ガザーリーの政治思想;ウンマとカリフ制度/マーワルディーの政治思想/ガザーリーの政治思想//
スーフィズムとガザーリー スーフィーとしてのガザーリー;スーフィズムの流れ/ガザーリーのタウヒード論/神秘直観と啓示//
  マッキーとガザーリーの修行論;『宗教諸学の再興』と『心の糧』/ウィルド論/ズィクルとドゥアー//
  ガザーリーの宇宙論;ムルク界とマラクート界/ジャバルートに関する記述/テクストの分析/宇宙論と神秘主義//
  ガザーリーの来世観//
ガザーリーの神学思想と哲学 イスラムの正統信条//
  コーランの被造性;ハンバリー派とムータジラ派/アシュアリー/アシュアリー派//
  ガザーリーの偶因論因果律批判/原子論と因果性/「神の慣行」/神の予定と偶因/タウヒードと聖法//
  イブン=シーナーの創造論存在と神/神の唯一性と属性/世界の創造/創造の問題点//
  ガザーリーの哲学批判//
  ガザーリーと論理学;著作の成立年代/イスラム哲学における論理学/ガザーリーの論理学思想/今後の問題点//
  神の予定と正義;神の予定と人間の選択/人間の選択と獲得/善悪の彼岸/最善の世界/神の意志と必然/大いなる肯定//
神学と哲学の間 ガザーリーとアシュアリー派神学;ガザーリー自身の証言/イブン=ハルドゥーンの証言/ガザーリーの独自性//
  ガザーリーは哲学者か?、など、
372ページ。

 同じ著者による→こちらも参照:「イスラーム」の頁の「ii. 思想史・哲学史的なものなど


中村廣治郎、「ガザーリー研究の回顧と展望 - 秘説の問題を中心として -」、『オリエント』、vol.22 no.1、1979、pp.1-20 [ < J-STAGE ]

ナスロッラー・プールジャワディ、三浦伸夫訳、「愛の形而上学-アフマド・ガッザーリーのスーフィズム」、『イスラーム思想 2 岩波講座・東洋思想 第四巻』、1988、pp.127-159
歴史的展望-理知主義的哲学への挑戦/本質における愛/愛と精神/愛する者と愛される者/愛する者の最終目標への旅

 後掲の青柳かおる『イスラームの世界観 ガザーリーとラーズィー』(2005)も参照
………………………

 イブン・ルシュド(アヴェロエス)(1126-1198);

イブン・ルシュド、竹下政孝訳、「矛盾の矛盾」、『中世思想原典集成 11 イスラーム哲学』、2000、pp.891-1018

アヴェロエス(イブン・ルシュド)、花井一典・中澤務訳、「霊魂論註解」、同上、pp.1019-1102

田中千里、『イスラム文化と西欧 イブン・ルシド[アヴェロエス]研究』、講談社、1991
序説 歴史の中のイブン・ルシド(アヴェロエス);近代の夜明け前/先駆者の悲劇/中世とルネサンス/イスラム圏とヨーロッパ//
イブン・ルシドの著作とその影響;翻訳者と翻訳された書物/イブン・ルシドの著作の刊本/イブン・ルシドの著作目録/イブン・ルシドの実像と虚像/学術の伝播とキリスト教世界観の危機/アリストテレス『霊魂論』のアヴェロエスによる大注解/『霊魂論』解釈の問題点/アヴェロエスによる注解の特徴/アヴェロエスとトマスの解釈の相違/アヴェロエス説とその異端的内容/アリストテレスの『生成消滅論』のアヴェロエスによる中注解/アリストテレスの宇宙観の受容/アイテールと四元素、円運動と直線運動、生成消滅と質的変化/原子論の難点/絶対的な生成消滅と質的変化/アリストテレスにおける質料因、形相因、動力因/アヴェロエスの『生成消滅論中注解』の特徴/アリストテレスの『形而上学』とアヴェロエスによる注解/『形而上学注解』における異端的内容/告発されたアヴェロエス派の異端命題/第13世紀の西欧の学者の対応/矛盾に対するトマスの解決/第14世紀以降のアヴェロエス派/『矛盾の矛盾』のラテン語訳と、イタリアのアヴェロエス派/ローマ教会によるアヴェロエス派排斥/『矛盾の矛盾』-日本語への抄訳と注/宇宙の永遠性についての西欧の学者の見解/神の宇宙創造について、トマスの不可知論的見解への移行/『区分の書』//
イブン・ルシドとイスラム文化 思想と宗教の源泉;時代と地域/アレクサンドリアの学術/文化の伝播経路/ローマ帝国とキリスト教/ユダヤ教とユダヤ人//
  過去のイスラム圏と現状;イスラム圏の成立/カサブランカ/イブン・ルシドとムワッヒド朝/古都マラケシュ、赤い町/モロッコの今昔/過去への回帰/イスラムにおける知識/イベリア半島/古都コルドバ/中世の学術都市トレド/悲劇のグラナダ//
  イブン・ルシドの思想とイスラム社会;イブン・ルシドの思想の特徴/異教文化の流入と学術/アリストテレスの著作とルシドの注解/偽書とイスラム圏の学術/学術の大系とルシドの見解/イスラム圏の学術とユダヤ人/死と魂と知性論/能動知性と人間の死についての夢物語/死と魂に関するイスラムの宗教的見解/哲学的見解と宗教的見解の相違/モハメッドの宗教/ハディースと法源/イスラムの法学者/神学説/イブン・ルシドの生涯//
後記;二重真理/日本における問題など、
308ページ。


小林剛、『アリストテレス知性論の系譜 ギリシア・ローマ、イスラーム世界から西欧へ』、梓出版社、2014
序/アリストテレス/アレクサンドロス/テミスティオス/ファーラービー/アヴィセンナ/アヴェロエス/アルベルトゥス・マグヌス/結びなど、
160ページ。


 目次にあるとおり、イブン・ルシュドだけを扱ったものではありませんが、その〈知性単一説〉の形成過程が焦点の一つになっているので、とりあえずここに入れておきます。

アダム・タカハシ、『哲学者たちの天球 スコラ自然哲学の形成と展開』、2022
………………………

 ファフルディーン・アッ=ラーズィー(1149-1209);

青柳かおる、『イスラームの世界観 ガザーリーとラーズィー』、明石書店、2005
はじめに;本書の目的/ラーズィーの研究史/本書の構成//
イスラームの思想潮流 イスラーム神学;初期の神学論争/ムゥタズィラ学派//
  イスラーム哲学と神秘主義;哲学/神秘主義//
  イスラーム思想史におけるラーズィーの位置//
アシュアリーとアシュアリー学派;アシュアリー/クッラーブ派/初期アシュアリー学派の思想家たち//
ガザーリーとラーズィー;ガザーリーの生涯、研究史、著作/ラーズィーの生涯と著作//
神学から神秘主義への転換-ガザーリーの神名論 文法家による名詞の定義//
  ガザーリー以前のアシュアリー学派;神の属性/神の名前//
  ガザーリー;神の名前/神との近接//
ラーズィーの神秘思想-神名注釈書の分析 称名、瞑想、祈願//
  ラーズィーにおける神秘主義の影響;「神の他にいかなる神もない」の解釈-神秘主義的タウヒード/代名詞の解釈//
  ラーズィーの神秘主義の特徴//
神学と哲学の世界観 クルアーンとハディースの世界観;天上界と地上界/天使//
  神学的原子論の世界観/哲学的流出論の世界観/天使の様態//
ガザーリーの宇宙論 神、天使、現象界//
  ムルク界とマラクート界;ムルク界とマラクート界の対応関係/ガザーリーの宇宙論と神秘主義//
  マラクート界と霊魂//
ラーズィーの宇宙論における哲学の受容 ラーズィーの思想における宇宙論//
  存在者分類;ラーズィーの存在者分類と原子論/霊的実体//
  世界の階層//霊的世界の階層//
ラーズィーの宇宙論と神秘主義-ミゥラージュ解釈 ミゥラージュ;ミゥラージュのハディース/ミゥラージュの解釈//
  ファーティハ(クルアーン開扉章)と同2章286節/霊魂上昇の過程/礼拝の神秘主義的解釈//
終章;ラーズィーにおける神秘主義の受容/ラーズィーの宇宙論/イスラーム思想史におけるラーズィーの宇宙論の位置付けなど、
238ページ。


 →こちら(「イスラーム」の頁の「ii. 思想史・哲学史的なものなど」)や、あちらでも少し触れています:「言葉、文字、記憶術・結合術、書物(天の書)など」の頁の始めの方

大川玲子、「イスラームの啓示観 - ファフルッディーン・ラーズィーの啓示(ワフイ)観 -」、市川裕・鎌田繁編、『聖典と人間』、1998、pp.187-205
ムハンマドへの啓示伝達;その経路と形態 - クルアーンとハディース集より -/ジブリールとの邂逅//
『鍵』に見られるファフルッディーン・ラーズィーの啓示(ワフイ)観;ワフイ
[waḥy]とは何か/ムハンマドに如何にして啓示が下されるのか - Q.53:5-11 解釈とその独自性 -

 同じ著者による→こちらも参照:「イスラーム」の頁の「i. 『クルアーン』とその周辺

アンナ・カヨゾ、「中世オリエントの魔術書-ファルク=アル=ディン=アル=ラジの『隠された秘密』における天体の魔術」、『アジア遊学』、no.121、2009.4、「特集・天空の神話学」、pp.46-48
………………………

 スフラワルディー(1155-1191);

 後掲のモッラー・サドラー『存在認識の道』(1978)の後付けや差し込みには、「イスラーム古典叢書」の1冊としてスフラワルディー、井筒俊彦訳・解説、『顕照哲学』が挙げられていますが、残念ながらこれは実現しなかった模様。そこで、
 原典の邦訳として;

スフラワルディー、小林春夫訳、「光の拝殿」、『中世思想原典集成 11 イスラーム哲学』、2000、pp.1103-1145

 概観として;

S.H.ナスル、黒田壽郎・柏木英彦訳、『イスラームの哲学者たち』、1975、pp.81-133:「第2章 スフラワルディーと照明学派」

アンリ・コルバン、黒田壽郎・柏木英彦訳、『イスラーム哲学史』、1974、pp.242-261:「第7章 スフラワルディーと光の哲学」

 コルバンによる原典訳;

Shihâboddîn Yaḥya Sohravardî, Shaykh al-Ishurâq, L'archange empourpré. Quinze traités et récits mystiques, traduits du persan et d'arabe par Henry Corbin, (L'Espace Intérieur), Fayard, 1976
『真紅の大天使 15の論文と神秘的物語』
序;連続性/シャイフ・アル=イシュラーク/真紅の大天使/ソロモンの王国//
第1部 神秘主義哲学の教義 プロローグ 1/哲学者たちの信仰の象徴(アラビア語より)/光の神殿の書(アラビア語・ペルシア語版より)/首長イマドッディーンに献げられた書板の書(アラビア語・ペルシア語より、抜粋)/光の光線の書(ペルシア語より、抜粋)//スーフィズムの言葉の書(アラビア語より、抜粋)//
魂の出来事となる教義 天使との出会い;真紅の天使の物語(ペルシア語より)/ガブリエルの翼のざわめき(ペルシア語)//
  魂の城砦の征服;愛の信徒の必携(ペルシア語より)/高い塔からの書簡(アラビア語より)//
  内的対話;ある日、スーフィーの一団と(ペルシア語より)/子供の状態についての書簡(ペルシア語より)//
  象徴と寓話;蟻の言葉(ペルシア語より)/スィームルグの呪文(ペルシア語より)//
  時禱書;典礼の詩節と神的な勤めなど、
572ページ。


Shihâboddîn Yaḥya Sohravardî, Shaykh al-Ishurâq, Le livre de la sagesse orientale. Kitâb Hikmat al-Ishrâq, commentaires de Qoṭboddîn Ṣhîrâdî et Môlla Ṣadrâ Shîrâzî, traduction et notes par Henry Corbin, établies et introduites par Christian Jambet, (Collection Folio Essais), Gallimard, 2003
1986刊本の再刊
『東方の知恵の書』、コトボッディーン・シーラーズィーおよびモッラー・サドラー・シーラーズィーによる註釈、アンリ・コルバンによる訳註
序文(クリスティアン・ジャンベ);スフラワルディーを今日読む/光/グノーシス/自由/生涯 スフラワルディーの生涯、著作、註釈家たち-シャムソッディーン・シャフラズーリー、コトボッディーン・シーラーズィー、モッラー・サドラー・シーラーズィー/本版の原則//
第1部 スフラワルディーの神秘主義哲学 シャムソッディーン・シャフラズーリーによる序文/プロローグ//
神的な光について、光の光について、存在の諸原理とその位階について
  第1書 光とその本質について。光の光とそこから最初に流出するものについて;光には定義の必要がないこと/それ自身で充分なものを定義するために/光と闇について/存在するために身体は非質料的な光を必要とすること/一般的命題-己自身を知るものは非質料的な光であること/先の主張の細部にわたる説明/光とその範疇について/知性的・非質料的な光の差異化は、原因として完成と欠如を有すること、しかしそれは種の違いではないこと/光の光について//
  第2書 存在の体系について;そのようなものとしての本質的一者はただ一つの生じられたものしか流出できないこと/光の光から流出した第1存在はただ一つの非質料的な光であること/身体の組成について/天球の運動は自発的な運動であることを説明するところ、およびいかに多が光の光から流出するか/上位の光はそれぞれ下位の光を制御すること、下位の光は上位の光に対し愛を有すること/下位の光それぞれが己に感じる愛は、上位の光に感じる愛によって制御されること/非質料的な光が互いに発しあう照明は、断片化と成るわけではないこと/複数のものがモナド的一者から流出する方法と、この流出の段階的秩序について/恒星といくつかの星についての解説の補遺/イシュラークの教説に合致する神的学の説明/光の東方の伝統であるものによる、先在する可能態の主張について/諸知性によって造りだされた諸効果は無限であり、他方魂によって造りだされたそれらは有限であることを示すところ//
  第3書 光の光と天使的光の現実態の世界について。天的運動の解説の補遺;光は永遠に動かし、世界は永遠に存在することを示すところ/宇宙は永遠に存在し、天球の運動は完全な回転であることを示すところ/経度的序列と緯度的序列の大天使的光の解説の補遺。時間の先永遠性と後永遠性について/諸天はその運動によって、聖なる至福のものを目指すこと//
  第4書 バルザフの分割について、その性質・構成とその能力のいくつかについて;バルザフの分割について/あらゆる運動は起源として実体的光あるいは生ずべき光を有すること/状態の変化は様態における変容であって、実体的形相におけるものではないこと/外的な五感について/魂の属性はそれぞれ、小宇宙と大宇宙の照応に従って、身体にその似姿を有すること/思考する魂と活ける霊の照応について/内的感覚は5個に限られていないこと/鏡によって反射された形相、想像力による形相の実在について//
  第5書 帰還、固有性と夢について;移住とは何か?/光の世界へ戻る純粋な魂の救済を示すところ/身体から分離した後の人間の魂の状態について/悪と苦難について/超感覚的実在に関する注意と情報の理由について/完全なるものが出会う超感覚的実在について/天の記録の書板に書かれたこと/理論的・実践的指針/巡礼者の神秘的諸状態/霊的遺言//
第2部 コトボッディーン・シーラーズィーの註釈//
第3部 モッラー・サドラー・シーラーズィーの註釈など、
696ページ。


 コルバン(→こちら:「イスラーム Ⅱ」の頁の「v. シーア派(12イマーム派)など」)は随所でスフラワルディーを取りあげていますが、とりあえずまとまったものとして;

Henry Corbin, En Islam iranien. Aspects spirituels et philosophiques. Tome Ⅱ Sohrawardî et les platoniciens de Perse, 1971/1991

 また、スフラワルディーの主著の別訳として;

Suhrawardī, The Philosophy of Illumination. A New Critical Edition of the Text of Ḥikmat al-ishlāq with English Translation, Notes, Commentary and Introduction by John Walbridge & Hossein Ziai, (Islamic Translation Series), Brigham Young University Press, Provo, Utah, 1999
『照明の哲学 「ヒクマト・アル=イシュラーク」テクストの新たな批評版と英訳、註、註釈、序論』
訳者序論/シャフラズーリーの序論/スフラワルディーの序論//
思考の規則、3つの論説にて;第1の論説-知識と定義(7つの規則を含む)/第2の論説-証明とその原則について、(7つの)規則を含む/第3の論説-照明主義者とペリパトス派の教説との間のソフィスト的論難と判断について、(いくつかの)部門において//
神的な光、光の光と存在の基盤と秩序について、5つの論説で;第1の論説-光とその実在、光の光、そこから最初に生みだされたものについて、7つの部門と規則で/第2の論説-存在の秩序について、(14の)部門で/第3の論説-光の光の活動と支配する光を説明する、また天の運動の議論の残り、4つの部門で/第4の論説-仕切りの分類、その状態、その組みあわせ、その力のいくつかについて、(8つの)部門で/第5の論説-復活、預言と夢について、(9つの)部門で、など、
266ページ。

 コルバンの校訂・翻訳に対する批評については、pp.xix-xx, xxxi-xxxii


クリスチャン・ジャンベ、三浦伸夫訳、「スフラワルディーと照明哲学」、『イスラーム思想 2 岩波講座・東洋思想 第四巻』、1988、pp.109-126
照明学派の長老(シャイフル・イシュラーク)/照明(イシュラーク)の理論/光の序列(ヒエラルヒー)/能動的想像力と根源的形象世界/ヴィジョン的知と個人救済

五十嵐一、『神秘主義のエクリチュール』、1989

 「全体の骨格が、イスラーム神秘主義の精華ともいえるスフラワルディーの『幼児性の状態について』の考究となっている」とのこと(p.32)。

小林春夫、「ANĀ'ĪYAH - スフラワルディーにおける「自我」の概念 」、『オリエント』、vol.33 no.1、1990、pp.15-29 [ < J-STAGE ]

永沢哲、「鳥の言葉、夜の旅」、『現代思想』、vol.20-2、1992.2、「特集 グノーシス主義」、pp.162-172

鈴木規夫、「天使たちのコロス 存在世界の重階層複数性へのタウヒード」、『現代思想』、vol.22-12、1994.10:「特集 天使というメディア」、pp.181-197

鈴木規夫、『光の政治哲学 スフラワルディーとモダン』(愛知大学 文學會叢書ⅩⅢ)、国際書院、2008
プロローグ//
序章-スフラワルディーの死をめぐる三つの位相- 思想史の岐路としての1190年代//
  政治を超越するものを希求する思想の政治的死という〈悲劇〉;イスラーム政治思想史上のスフラワルディー/一神教のパラドクスをめぐるトリアーデ/〈体制〉としてのウラマー/スフラワルディー告発の合法性への疑惑/〈哲学者の政治的死〉の不可避性//
  〈光〉の政治哲学の集束と発散//
自己-〈光〉と自己認識- クリスト教的西欧における自己の発見と〈12世紀ルネサンス〉;〈12世紀ルネサンス〉の外発性/予め分裂を胚胎せざるをえない〈自己〉/宗教的主観主義-トマス・アクィナスにおけるガザーリー-//
  〈光〉と自己認識-個体性認識の岐路-;スフラワルディーにおける〈光〉と自己認識/グローステストとベイコンにおける〈光の形而上学〉と自己/「アヴェロエスへの道」-〈至高の自己認識〉とその事物への還元-//
共同体-西欧近代における政治空間の性格- 内面の構造化-〈透視図法〉の政治性;〈光〉のメタファーの〈透視図法〉への転換/〈人間〉の意味の変容//
  政治空間の作為的組織化-〈印刷革命〉の政治性//
  〈まなざし〉の権力-支配のテクノロジーによる世界の閉塞;〈光の世紀〉の両義性/異質なるものの平等性承認への隘路/〈まなざし〉の権力としての〈近代国家〉//
中間世界-自己統治の技法と〈創造的想像力〉- 個と共同体-〈可視界〉と〈不可視界〉との間;宗教的規範の社会化/中間世界維持の理論的装置としてのタウヒード/〈見えるもの〉と〈見えないもの〉とのあいだにおける人間//
  自己統治から〈創造的想像力〉へ-プラトンの遺産;〈光〉の政治哲学としてのプラトンの『国家』/スフラワルディーの生涯にみる〈自己統治の技法〉/スフラワルディーによる神性〈政治プログラム〉の実践とその挫折//
  中間世界の存在論-根源的形象世界における創造的想像力//
エピローグ//補論 〈オリエンタリズム〉の構造と権力-サイードにおける〈視覚認識〉問題における限界-など、
328ページ。


ハサン・セイエド・アラブ、「コルバンとスフラワルディー:イラン・イスラームと現代哲学との対話」、『国際哲学研究』、別冊3、2013.6.30、pp.121-131 [ < 東洋大学学術情報リポジトリ

 →コルバンに関連してこちらにも挙げておきます:「イスラーム Ⅱ」の頁の「v. シーア派(12イマーム派)など

小野純一、「スフラワルディー:純粋現象としての『東洋』」、『国際哲学研究』、別冊3、2013.6.30、pp.132-140 [ < 東洋大学学術情報リポジトリ

 同じ著者による→こちらも参照:本頁下掲の「イブン・アラビー」の項

タギー・プールナームダーリヤーン Taqī Pūrnāmdāriān、佐々木あや乃訳、、「スフラワルディーの象徴物語『深紅の知性 ('Aql-i surkh)』」、『慶応義塾大学言語文化研究所紀要』、50号、2019.3、pp.1-19 [ < 慶應義塾大学学術情報リポジトリ(KOARA) ]

 →こちら(「天使、悪魔など」の頁「i. 天使など」)でも少し触れています
………………………

 イブン・アラビー(イブヌ・ル・アラビー)(1165-1240);

 概観として;

S.H.ナスル、黒田壽郎・柏木英彦訳、『イスラームの哲学者たち』、1975、pp.135-206:「第3章 イブン・アラビーとスーフィーたち」

R.アルナデス、五十嵐雅子・五十嵐一訳、「イブン・アーラビーにおける神的われ(ヽヽ)」、『理想』、no.559、1979.12、「特集 イスラーム哲学」、pp.55-69
原著は R. Arnaldez, “Le moi divin dans la pensée d'Ibn ʻArabî”, 1977

井筒俊彦、『イスラーム哲学の原像』(岩波新書 119)、岩波書店、1980
序//
イスラーム哲学の原点-神秘主義的主体のコギト-;問題の所在/スーフィズムと哲学の合流/スーフィズムと哲学の歴史的接点/アヴェロイスとイブン・アラビー/神秘主義とは何か?/自我意識の消滅/ナジュムッ・ディーン・クブラー/シャーマン的世界とスーフィー的世界/意識構造モデルの基体としての「魂」/二つの霊魂観/スーフィー的意識の構造/スーフィー的深層意識と唯識的深層意識//
  意識の変貌/観想のテクニック/ズィクル修行/イマージュの湧出/「神顕的われ」と「神的われ」/神的第一人称/スーフィズムと哲学的思惟/意識零度・存在零度/意識と存在の構造モデル/哲学的主体性の成立/存在世界の段階的構造//
存在顕現の形而上学;序/存在概念と存在リアリティー/アヴィセンナの存在偶有説/形而上的実在としての存在/意識の変貌/表層意識と深層意識/意識の「ファナー」と「バカー」/存在の「ファナー」と「バカー」/人間の三段階/存在の自己顕現/存在顕現の構造学など、
228ページ。

 『超越のことば イスラーム・ユダヤ哲学における神と人』、1991 に所収(pp.103-277)

 →こちらでも少し触れています:「有閑神(デウス・オーティオースス)、デーミウールゴス、プレーローマなど」の頁。また→そちらも参照:「イスラーム」の頁の「ii. 思想史・哲学史的なものなど

竹下政孝、「『叡知の宝石』(Fuṣūṣ al-Ḥikam) にみられるイブン=アラビーの『完全人間』」、『オリエント』、vol.25 no.1、1982、pp.73-86 [ < J-STAGE ]

 →こちらにも挙げておきます:「原初の巨人、原初の獣、龍とドラゴンその他」の頁

竹下政孝、「後期スーフィズムの発展 イブン・アラビーを中心として」、『イスラム・思想の営み』、1985、pp.139-168
スーフィー教団の歴史/スーフィー聖者の理論/イブン・アラビーの生涯と思想/ルーミーの生涯と思想/イブン・アラビーの影響

小野純一、「収縮をめぐるシェリングとイブン=アラビー」、2014

小野純一、「イブン=アラビーにおける『自然本性(ṭabīʿah)』について」、『専修人文論集』、98号、2016.3、pp.269-293 [ < 専修大学学術機関リポジトリ

小野純一、「イブン=アラビーにおける遍在貫流(sarayān)の意義」、『専修人文論集』、99号、2016.11.30、pp.357-387 [ < 同上 ]

小野純一、「イブン=アラビーにおける非概念的認識と存在化の香り 」、『専修人文論集』、100号、2017.3.15、pp.251-274 [ < 同上 ]

小野純一、「無限と超越 - 無を無化する唯一性の直観について」、『専修人文論集』、101号、2017.11.30、pp.91-117 [ < 同上 ]

 →こちらでも挙げました:「仏教 Ⅱ」の頁の「iii. 華厳経、蓮華蔵世界、華厳教学など」の冒頭

小野純一、「イブン=アラビーの「法」観念 - 解釈とは何か」、『専修人文論集』、102号、2018.3.15、pp.221-250 [ < 同上 ]

 同じ著者による→そちら(「イスラーム」の頁の「ii. 思想史・哲学史的なものなど」)や、あちら(本頁上掲「スフラワルディー」の項)も参照

Henry Corbin, translated by Ralph Manheim, Creative Imagination in the Ṣūfism of Ibn ʻArabī, (Bollingen Series XCI), Princeton University Press, Princeton, 1969/1981
原著は L'Imagination créatriice dans le Soufisme d'Ibn ʻArabî, 1954
『イブン・アラビーのスーフィズムにおける創造的想像力』
序論;アンダルシーアとイランの間で-手短かな霊的地形学/イブン・アラビーの生涯の曲線と象徴-アヴェロエスの葬儀で、東方への巡礼、ヒドルの弟子、成熟と著作の完成/秘教主義の状況//
共感と神性顕現 神的受難と憐れみ;ヘリオトロープの祈り/「情動的な神」/〈共感的合一〉としての〈神秘的合一〉について//
  ソピア論と〈共感的献身〉;〈愛の信徒〉のソピア的詩/愛の弁証法/創造的な女性的なるもの//
創造的想像力と創造的祈り プロローグ//
  神性顕現としての創造;神的顕現としての創造的想像力、あるいは「あらゆる存在がそこから創造された神」/神性顕現的想像力によって顕わされた神/「信仰の内に創造された神」/創造の回帰/存在の二重の次元//
  神性顕現的想像力と心臓の創造性;想像力の場/微細な器官としての心臓/心臓の科学//
  人の祈りと神の祈り;神性顕現的祈りの方法/一致認定/神的な応答の秘密//
  「神の形」;幻視のハディース/神秘的カアバのまわりに//
エピローグなど、
414ページ。

 コルバンについては→こちらも参照:「イスラーム Ⅱ」の頁の「v. シーア派(12イマーム派)など


W.C.チティック、三浦伸夫訳、「非現象から現象世界へ-イブン・アラビーの『存在一性論』」、『イスラーム思想 2 岩波講座・東洋思想 第四巻』、1988、pp.85-108
存在一性論/全き人間-神の名の存在論/タンジーフ(tanjīh)とタシュビーフ(tashbīh)

 →こちらにも挙げています:「言葉、文字、記憶術・結合術、書物(天の書)など」の頁の始めの方。また→あちらでも少し触れています:「原初の巨人、原初の獣、龍とドラゴンその他」の頁

William C. Chittick, The Sufi Path of Knowledge. Ibn al-ʻArabi's Metaphysics of Imagination, State University of New York Press, Albany, 1989
『スーフィーの知識の径 イブン・アラビーの想像力の形而上学』
序論;イブン・アラビーの生涯と著作/『マッカ開場』/クルアーンの解釈学/西洋におけるイブン・アラビー研究/本書//
概観;神的現前/神を見つける/諸世界と諸現前/存在と非存在/神的諸属性/神的諸行為/大宇宙/小宇宙/宇宙的力動性/神への帰還/神の諸特徴をまとう/神形的倫理/法の秤/あるがままに事物を見る/人間の完成//
神学 神の名前;名前、属性と関係 1. 名前の名前、2. 関係、3. 名前の2つの名称、4. 実在、根、支え、5. 固有性と帰結/生みだされた存在の名前/2次的原因//
  位階と葛藤の神的な根;名前における位階/段階づけ/人格化された名前/神的葛藤/本質の統一性/不可比較性の名前と諸行為の名前//
  本質と神性;神性/本質の不可知性/本質の独立性/〈アッラー〉という名前/天使たちの論議/不可比較性と相似性/不可比較性/相似性/不可比較性と相似性を組みあわせる//
存在論 存在と非存在;存在するものと存在-ウジュードとマウジュード/可能な事物/実体/事物/顕現の場/自己開示と受容性/存在の一性と名前の諸帰結//
  新たな創造;無限の可能性/永遠の更新/神的な仕事/慣習を破る/変換と変形/決して繰りかえすことのない自己開示/退屈/心臓/非限定/宇宙的想像力/彼/彼でない/想像力/夢/不可能なものの顕現//
  至高のバルザフ;雲/全てに慈悲深きものの息/慈悲を通じての解放/創造がそこから起こる真なるもの/宇宙的実在/自然//
認識論 知識と知る者;知識と知る者/知識の有用性/知識への限界/知識の無限性//
  知識を得る;合理的能力/省察/考慮/権威に従う/覆いをとる//
  法の秤;明かされた法/秤/知恵と礼儀/理性の秤/相似性を肯定する/相似性の啓示への反応//
解釈学 信仰と理性的解釈;信仰/解釈/合理的思想家たち/神の諸行為と人の諸行為//
  神の自己開示を知る;光を見出す/自己開示の光/光の知覚を名づける/証言することと幻視//
  クルアーンを理解する;合理的問いかけの神/理性対覆いをとること/ムハンマドの性格/クルアーンの文脈/アッラーの民の註釈/暗示による註釈/ハディースの知識//
救済論 自己開示を秤にかける;知識と実践/法の不可侵性/霊的諸状態/霊的熟練//
  名前と留;神的形相/径の留/神の性格特性をまとう/高貴な性格特性と下劣な性格特性//
  径の落とし穴;善と悪/二つの命令/未完成の完成/神による結論となる議論/真っ直ぐな径/性格の高貴さ//
  しもべであることにおける安全性;しもべによるその主の崇拝/主であることの危険/低くあることの高挙/完全なしもべ/自由意志の献げ物を通じた崇拝/義務と余分の勤め//
成就 信仰の神を超越する;信仰の根/神と自己を崇拝する/自己を知る/信仰の径/信仰と法/グノーシス者の信仰/至福の幻視//
  二つの目で見る;二元性と一性の印/二つの目の所有者/あなたがいるところではどこでも神とともにいる/二つの完成/神的な名前とともに仕える/咎の人々/留のない留など、
500ページ。


William C. Chittick, Imaginal Worlds. Ibn al-ʻArabī and the Problem of Religious Diversity, State University of New York Press, Albany, 1994
想像的(イマジナル)な諸世界 イブン・アラビーと宗教的多様性の問題』
序論//
人間的完成 存在の一性;神的な名前と人間の完成/不可比較性と相似性//
  小宇宙、大宇宙と完全人間;創造の神/完成への径//
  倫理と反律法主義;高貴な性格特性/非難に値する性格特性//
  自己知識ともともとの人間的性向;〈ウジュード〉の非限定/想像的な意識/自己知識/知られざる留/廃滅と存続/人間になる//
想像力の諸世界 啓示と詩的心像;『タルジュマーン・アル=アシュワーク』/想像力/理性と自己開示/類似の啓示/幻視の場を目撃する//
  想像的(イマジナルな)人間との出会い;想像的(イマジナルな)諸実在に気づく/想像的(イマジナルな)知覚の多様性/想像的(イマジナルな)人間//
  死と来世;啓示と理性/死後の地峡/魂の開展/次の世界/内/外/庭と火/火の鎮まり//
宗教的多様性 起源の神話;啓示のクルアーン的見解/神的な名前と宗教の起源/第66章//
  信仰の多様性;信仰の根/二つの命令/神への径/均衡/信仰の印/非限定な信仰/宗教的多様性の輪//
  宗教の神的な根;信仰の神々/理性的探求/名前と結節/神的な形/全と無/預言と導き/摂理による限定/結び目を評価する、など、
216ページ。


William C. Chittick, The Self-Disclosure of God. Principles of Ibn al-ʻArabī's Cosmology, State University of New York Press, Albany, 1998
『神の自己開示 イブン・アラビーの宇宙論の諸原則』
序//
神と宇宙;
存在(ウジュード)と諸存在者/不断の自己開示/神の顔/光の帷//
諸世界の秩序;秩序の諸根/神的で宇宙的な諸関係/宇宙の諸世界//
小宇宙の構造;霊と身体/自然の組成/
想像的(イマジナル)なバルザフ//
附録;幾人かのスーフィーについてのイブン・アラビーの見解/専門用語の翻訳など、
524ページ。


 スペインの本屋で見つけた本;

Edición a cargo de Alfonso Carmona Gonzalez, Los dos horizontes (Textos sobre Ibn al-ʻArabī), (Colección Ibn al-ʻArabī), Editora Regional de Murcia, Murcia, 1992, (Trabajos presentados al Primer Congreso Internacional sobre Ibn al-ʻArabī (Murcia, 12-14 de noviembre de 1990)
『二つの地平 イブン・アラビー論集』(イブン・アラビー第1回国際会議、ムルシア、1990年11月12-14日、での発表原稿)
シャイフ・アル=アクバルの死後の生(その弟子たちの幻視におけるイブン・アラビー)
(Claude Addas)/ムルシアのイブン・アラビーと十字架のサン・フアンが共有した文学的モティーフ(Maravillas Aguilar Aguilar)/イブン・アラビー、神的諸実在の詩人(Ralph W. J. Austin)/イブン・アラビーの照明的グノーシス=ソピアとシーア派の秘教主義に対するその影響(Miguel Cruz Hernandez)/イブン・アラビーのメッセージの有効性(Mohamed Chacor)/イブン・アラビーの著作におけるクルアーン(Michel Chodkiewicz)/イブン・アラビーと十字架のサン・フアン(Roger Garaudy)/イブン・アラビーにおける認識の理論(同)/イブン・アラビーにおけるイエス・キリスト(ダマスカスにおけるマドラサ前でのその名の瞑想)(Francisco Garcia Albaladejo)/彼から、そして彼へ(イブン・アラビーとカトリック的伝統における epectasis と連続創造の二重の逆説)(Dom Sylvester Houédard)/イメージと不可視のもの(イブン・アラビー-美学者)(Abdel Wahab Meddeb)/イブン・アラビーの未刊の著作(Martin Notcutt)/19-20世紀の歴史記述におけるイブン・アラビー(Luisa Irene Meneses)/イブン・アラビーにおける超越的一性(Francisco de Oleza Le-Senne)/イブン・アラビーの宇宙論(Juan Antonio Pacheco Paniagua)/神的な書法-イブン・アラビーの沈黙の内の消滅(Antonio Parra)/カバラーとスーフィズムにおける記憶の機能(Mario Satz)/ムルシアの二人の神秘家、イブン・アラビーとイブン・サブイーンにおける単一宗教主義とその神的単一性的意義(Mohamed Serguini)/ムフイッディーン・イブン・アラビーと内的な学識(Cecilia Twinch)/イブン・アラビー(〈最大の師〉、昨日と今日のスーフィー)(José Valdivia Valor)/カイロにおける『マッカ啓示』の新版とエジプトから引きおこされた政治的=宗教的反応(Osman Yahya)など、
484ページ。


Michel Chodkiewicz, translated by Liadain Sherrard, Seal of the Saints. Prophethood and Sainthood in the Doctrine of Ibn ʻArabī, (Golden Palm Series), The Islamic Rexts Society, Cambridge, 1993
原著は Le sceau des saints, 1986
『聖者たちの封印 イブン・アラビーの教説における預言者性と聖者性』
前書き/共有された名前/「汝を見る彼は私を見る」/ワラーヤの領域/ムハンマド的実在/預言者たちの後継者たち/4つの柱/ワラーヤの最高位/3つの封印/ムハンマド的聖者性の封印/二重の梯子など、
200ページ。


Salman H. Bashier, Ibn al-ʻArabī's Barzakh. The Concept of the Limit and the Relationship between God and the World, State University of New York Press, Albany, 2004
『イブン・アラビーのバルザフ 神と世界との境界と関係の概念』
序論//
イブン・アラビーにおける表象の閾(バルザフィー)理論-現状からの眺望;現前と再現-神秘的体験における相補的要素/カーターの見解/ローティの反表象的立場/イブン・アラビーの立場/ヴァッサーシュトロムの神秘家中心主義批判//
無からの創造、時間の中での創造、永遠創造-イブン・スィーナー対神学者たち;クルアーンにおける無からの創造/無からの創造、時間の中での創造とイスラームの神学者たち/神学者たちの議論に対するイブン・スィーナーの解答/存在の可能なるものと必然的なるものについてのイブン・スィーナー/イブン・スィーナーにおける本質と存在の区別//
世界の永遠性についてのイブン・ルシュド対ガザーリー;『哲学者たちの非一貫性』と『非一貫性の非一貫性』との間で/第1証明/第2証明/第3証明/イブン・ルシュドの永遠創造理論-境界の問題の出現//
神秘主義対哲学-イブン・アラビーとイブン・ルシュドの出会い;神学と哲学との間の神秘主義/イブン・アラビーの視野からの
緑の男(ハディル)とモーセの出会いの解釈/イブン・ルシュドとイブン・アラビーの出会い//
バルザフ;クルアーンと正典的伝承における中間状態(バルザフ)/クルアーンの釈義とスコラ神学におけるバルザフ/プラトーンの形相理論/イブン・アラビーによるバルザフの定義/イブン・アラビー対イブン・スィーナー-相対的なものについての2つの概念//
第3の実体-至高のバルザフ;プラトーンの形相、ムウタズィラ派の非存在とイブン・アラビーの固定された実体/プラトーンによる受容するものの導入/イブン・アラビーによる第3の事物の導入/世界の創造の問題再訪//
完全人間-第3の事物の認識論的局面;神的愛の結論としての完全人間/神的知識の所有者としての完全人間/完成の知識の論理//
境界状況;「分節化の中に階段の知識がある」の中間点を知ることについて/無限性の逆説/境界状況//
結論など、
220ページ。


 原典からの翻訳として;

Translation and introduction by R. W. J. Austin, Ibn al-ʻArabī.The Bezels of Wisdom, (The Classics of Western Spirituality), Paulist Press, New Jersey, 1980
イブン・アラビー、『叡知の宝石』
前書き
(Titus Burckhardt)//
序論;ムフイー・アッ=ディーン・イブン・アル=アラビーの生涯と著作/その歴史的・霊的文脈/知恵の小面/その思想//
知恵の小面;前書き/アダムの言葉における神性の知恵/セツの言葉における終結の知恵/ノアの言葉における高挙の知恵/エノクの言葉における聖なるものの知恵/アブラハムの言葉における熱狂的な愛の知恵/イサクの言葉における実在の知恵/イスマーイールの言葉における崇高の知恵/ヤコブの言葉における霊の知恵/ヨセフの言葉における光の知恵/フードの言葉における一性の知恵/サーリフの言葉における開きの知恵/シュアイブの言葉における心臓の知恵/ロトの言葉における主たることの知恵/エズラの言葉における運命の知恵/イエスの言葉における預言の知恵/ソロモンの言葉における慈悲の知恵/ダヴィデの言葉における存在の知恵/ヨナの言葉における呼吸の知恵/ヨブの言葉における見えざるものの知恵/ヨハネの言葉における威厳の知恵/ザカリアの言葉における主権の知恵/エリアの言葉における親交の知恵/ルクマーンの言葉における徳の知恵/アロンの言葉における指導者性の知恵/モーセの言葉における卓越の知恵/ハーリドの言葉における頼みの知恵/ムハンマドの言葉における単独性の知恵など、
320ページ。


Edited by Michel Chodkiewicz, translated by William C. Chittick & James W. Morris, Ibn al-ʻArabī.The Meccan Revelations, volumeⅠ. Selected Texts of Al-Futūḥāt al-Makkiyya, Pir Press, New York, 1988/2002/2005
イブン・アラビー、『マッカ啓示』、第1巻
前書き
(James W. Morris)/序論(James W. Morris)//
神的な名前と神性顕現
(William C. Chittick)創造の起源-第6章/完全人間-第73章/顔の栄光-第73章/神の美と世界の美-第73章/全てに慈悲深きものの息-第198章/最も美しい名前-第558章//
時の終わりに
(James W. Morris)マフディーの助け手たち-第366章//
小復活と大復活
(James W. Morris)魂の帰還-第302章/自発的な死-第351章/小復活と通過儀礼的な死-第369章/時間の現前-第73章/聖者たちの至福の幻視-第73章/普通の人々の想像的幻視-第73章//
聖者性へ向かって
(William C. Chittick)従属の留-第130-131章/自由の留-第140-141章/手に負えない発話の真の知識-第195章/撤退について-第205章/集まりとその神秘-第222章/想像力の世界-第311章/神の印-第372章/礼拝とその秘密-第470章//
イブン・アラビーの霊的上昇
(James W. Morris)「私の旅は私自身の内でのみあった」-第367章など、
380ページ。


Edited by Michel Chodkiewicz, translated by Cyrille Chodkiewicz & Denis Gril, Ibn al-ʻArabī.The Meccan Revelations, volumeⅡ. Selected Texts of Al-Futūḥāt al-Makkiyya, Pir Press, New York, 1988/2004
イブン・アラビー、『マッカ啓示』、第2巻
前書き
(James W. Morris)/序論(Michel Chodkiewicz)-『マッカ啓示』を読むことへ向けて//
法と道
(Cyrille Chodkiewicz)「法と道」への序論/法の源-第88章/サタンの策略-第318章/赦すことの秘密-第344章/グノーシス者と法-第437章//
文字の学
(Denis Gril)序説と章の分析/文字の位階-第2章1節1部/孤立した文字-第2章1節2部/文字の固有性-第2章1節3部//
旅の終わり
(Denis Gril)留から解放されることについて-第420章/近接について-第73・161章など、
278ページ。

………………………

 イブン・アビー・グムフール・アル=アフサーイー(1434/35頃-1501以後);

Sabine Schumidtke, Theologie, Philosophie und Mystik im zwölferschiitischen Islam des 9./15. Jahrhunderts. Die Gedankenwelten des Ibn Abī Ğumhūr al-Aḥsāʻī (um 838/1434-35- nach 906/1501), (Islamic Philosophy, Theology and Sience, vol. XXXIX), Brill, Leiden, Boston, Köln, 2000
『9/15世紀の12イマーム・シーア派イスラームにおける神学、哲学と神秘学 イブン・アビー・グムフール・アル=アフサーイー(1434/35頃-1501以後)の思考世界』
序説//
イブン・アビー・グムフール・アル=アフサーイーの生涯と著作 伝記的報告//著作;神学的・哲学的著作/その他の著作//
神論 神の証明//神の唯一性(タウヒード)//
  神の属性;存在者としての神/力あるものとしての神/知るものとしての神/意志するものとしての神/見るもの・聞くものとしての神//
正義論;価値客観主義/神的行為/倫理的責任(タクリーフ)/神的代理(アルターフ)/人間的行為/苦と報い//
預言者性;預言者性の有用性と必然性/神に送られたものであること、預言者性と神の友であること/預言者の不可謬性(イスマ)/ムハンマドが預言者であることの証明//
復活(イアーダ)、余論-照明学の徒による輪廻表象//
約束と脅し(アル=ワアド・ワ=ル=ワイード);報酬と罰/信仰(イーマーン)/重罪人の立場(サーヒブ・アル=カビーラ)/悔い改め(タウバ)/神的な赦し(アフウ)/とりなし(サファーア)//
結論など、
366ページ。

………………………

 ムッラー・サドラー(モッラー・サドラー)ことサドル・ッ・ディーン・シーラーズィー(1571/2-1640);

モッラー・サドラー、井筒俊彦訳・解説、『存在認識の道-存在と本質について-』(イスラーム古典叢書)、岩波書店、1978
前書き//
序論;認識の入口 其の1 存在は一切の定義を超えることについて/認識の入口 其の2 存在がありとあらゆるものを包含することについて/認識の入口 其の3 外的リアリティーとしての存在の真相について/認識の入口 其の4 存在の実在性について惹起される種々のの疑点の解決のために/認識の入口 其の5 本質はいかにして存在によって規定されるかについて/認識の入口 其の6 個別的リアリティーとしての存在は何によって特殊化されるかという問題/認識の入口 其の7 創造主によって第1次的に創定されるもの、すなわち太源から直接に発出するものは存在であって本質ではないこと/認識の入口 其の8 創定はいかにして成立するか。存在賦与はいかにしてなされるのか。本源的創造主の存在証明。一切の事物を創定し、これに存在を流出させる絶対者は唯一であって多ではなく、これと共に立つものは全くあり得ないこと/認識の入口 其の8の第1 被創定者が創定者に対して有する関係について/認識の入口 其の8の第2 全ての存在の太源、その属性と働きについて 第1の路 神の存在とその唯一性について、第2の路 絶対者の属性の状態について、第3の路 無によって先行された事物、および無によって先行されない事物の創造について/結びの言葉//
解説など、
268ページ。

 →こちらでも少し触れています:「有閑神(デウス・オーティオースス)、デーミウールゴス、プレーローマなど」の頁。また→そちらも参照:「イスラーム」の頁の「ii. 思想史・哲学史的なものなど

J.モスレフ、五十嵐一訳、「モッラー・サドラー哲学の基礎」、『理想』、no.559、1979.12、「特集 イスラーム哲学」、pp.70-80
原著は J. Moṣlef, “Uṣûl cf. falsafe-ye Ṣadr al-dîn Shîrâzî”, 1977

鎌田繁、「サドルッディーン・シーラーズィーの思想における霊魂 (nafs)」、『オリエント』、vol.26 no.2、1983、pp.31-44 [ < J-STAGE ]

鎌田繁、「シーア派の発展 モッラー・サドラーを中心として」、『イスラム・思想の営み』、1985、pp.169-205
シーア思想の形成/シーア派の法思想/モッラー・サドラーとその時代/モッラー・サドラーの思想

鎌田繁、「モッラー・サドラーの『万有帰神論』訳注」、『東洋文化研究所紀要』、no.100、1986.3、pp.53-131 [ <東京大学学術機関リポジトリ(UT Repository) ]

鎌田繁、「不可知界への参入 - モッラー・サドラーの聖典解釈論 -」、市川裕・鎌田繁編、『聖典と人間』、1998、pp.206-223
イスラームとクルアーンの解釈/クルアーンの位置づけ/クルアーンの多層性と解釈/真の解釈へむけて
………………………

 その他;

東長靖、「存在一性論学派の顕現説における『アッラー』の階位 - カーシャーニーとジーリーを中心として -」、『オリエント』、vol.29 no.1、1986、pp.48-64 [ < J-STAGE ]

 同じ著者による→こちらも参照:「イスラーム」の頁の「iii. スーフィズムなど
 →そちらにも挙げておきます:「有閑神(デウス・オーティオースス)、デーミウールゴス、プレーローマなど」の頁。

東長靖、「イスラーム神秘主義におけるアッラーの至高性について - アブドゥルカリーム・ジーリーの存在論と完全人間論 -」、『超越と神秘 - 中国・インド・イスラームの思想世界 -』、1994、pp.275-290
序/問題の所在/ジーリーの存在論 40の存在階梯、神性と否定的一性の関係、ジーリーの存在論の整理/ジーリーの完全人間論 完全人間とアッラーの照応、完全人間と神性との照応、ジーリーの完全人間論の整理/結論

 →こちらにも挙げておきます:「原初の巨人、原初の獣、龍とドラゴンその他」の頁

藤井守男、「アーホンド・ザーデ Ākhond-zāde (1812-78) に見る『イラン・ナショナリズム』の諸相」、『オリエント』、vol.29 no.2、1986、pp.85-101 [ < J-STAGE ]

藤井守男、「『神秘の花園』Golshan-e rāz のイラン文化史的位相」、『オリエント』、vol.37 no.2、1995、pp.108-126 [ < J-STAGE

藤井守男、「アイヌル・クザート・ハマダーニー ʻAyn al-Quḍāt Hamadānī (d. 1131) とペルシア文学研究との接点に関する覚書」、『オリエント』、vol.44 no.1、2001、pp.161-164 [ < J-STAGE ]

藤井守男、「『聖霊の安らぎ』Rawḥ al-arwāḥ に見る『神秘主義』taṣawwuf の諸相」、『オリエント』、vol.45 no.2、2002、pp.56-74 [ < J-STAGE ]

藤井守男、「神秘哲学の越境性への視座 - 現代イランにおけるイブン・アラビー派『在一性論』理解をめぐって」、『総合文化研究』、no.7、2003、pp.54-67 [ < 東京外国語大学学術成果コレクション

藤井守男、「イランにおけるペルシア語タフスィール Kashf al-asrār (『神秘の開示』) 研究の現在」、『オリエント』、vol.47 no.2、2004、pp.136-140 [ < J-STAGE ]

松本耿郎、「ジュルジャーニーの『存在の書簡』について」、『国際大学中東研究所紀要』、no.3、1988.4、pp.359-376 [ < 新潟県地域共同リポジトリ(NiRR) ]

 同じ著者による→こちらも参照:「イスラーム」の頁の「ii. 思想史・哲学史的なものなど

松本耿郎、「存在一性論と預言者性説とワラーヤ説 - カイサリーの説を中心にして -」、『超越と神秘 - 中国・インド・イスラームの思想世界 -』、1994、pp.253-274
はじめに/存在認識論/預言者性 nubūwah について/ワラーヤ論

竹下政孝、「サドルッディーン・クーナウィーのイスラーム哲学史上の位置」、『哲学』、no.59、2008、pp.61-76
イスラーム哲学の二つの意味/12世紀以降のイスラーム哲学/存在一性論の流れ/クーナウィーの主要著作/『不可知界の鍵』とクーナウィー思想の一端

遠藤春香、「イブン・アラビーの完全人間論に関する研究潮流と今後の展望」、『オリエント』、vol.53 no.2、2010、pp.133-141 [ < J-STAGE ]

遠藤春香、「シャアラーニーの完全人間論 - 形而上学から社会的側面への展開 -」、『オリエント』、vol.55 no.2、2013.3.31、pp.17-32 [ < J-STAGE ]

アブドゥルガニー・ナーブルスィー、山本直輝訳、中田考監訳、『ナーブルスィー 神秘哲学集成』、作品社、2018
監訳者 序 末法の神学 - 存在一性論(waḥdah al-wujūd)とは?(中田考)言葉、人間、神/井筒俊彦の蹉跌 - 言葉と人格神/新たな「地平融合」へ - 普遍主義と諸宗教の共存の可能性//
存在の唯一性の意味の指示対象の解明//
イスラームの本質とその秘義;序論/罪の解明/悔悟の解明/神に関する正しい信条/不信仰の解明/イスラームの解明/イーマーン(信仰)の解明/イフサーン(至誠)の解明//
訳者解説 ナーブルスィーとその思想;その生涯/存在論/行為論/修行論/翻訳資料紹介など、
328ページ。


 アブドゥルガニー・ナーブルスィー ʻAbd al-Ghanī ibn Ismāʻīl al-Nābulusī (1641-1731)、「18世紀シリアのダマスカスを中心として活動したイスラーム知識人であり、『オスマン帝国統治下シリアにおける最も偉大なアラブ人スーフィー』」(p.273)。

Mohammed Rustom, "The Cosmology of the Muhammadan Reality", Ishraq. Islamic philosophy yearbook, no.4, 2013, pp.540-545 [ < Ishraq: Islamic Philosophy YearbookInstitute of Philosophy. Russian Academy of Sciences
「ムハンマド的実在の宇宙論」

x. クジャタ、バハムート、ファラク、その他

 「インド」のページの「ix. 象・亀・蛇など」の項でも挙げましたが;

ボルヘス、ゲレロ、柳瀬尚紀訳、『幻獣辞典』、1974、pp.34-35:「バハムート」

 には、
(1) 上から下へ:               (2) 
大地  大地 
→天使  →水 
紅玉(ルビー)の岩山  →岩山 
→4千の目、耳、鼻孔、口、舌、足をもつ雄牛  →雄牛の額 
→バハムート(=ベヘモット)  →砂床 
→水  →バハムート 
→闇  →重苦しい風 
→人知のおよばぬところ  →霧 
  →霧の下に存在するものは知られていない 

という宇宙構造論が記されています(→こちらでも少し触れています;「世界の複数性など」の頁中)。
 続いて『千夜一夜物語』第496夜が挙げられます
(こちらで引用したことがあります→「新年のごあいさつ」5人目、『三重県立美術館ニュース』、第68号、2009.1.1特別号 [ <まぐまぐ!のサイト ])。

追補 「2019年4月15日より無料バックナンバーの公開を停止しております」とのことでリンク切れなので、以下に転載しておきましょう;

 2009年は丑年です。牛といえば、北欧神話を伝える文献の一つ『スノリのエッダ』によると、世界の始めには深淵ギンヌンガガプがひろがっており、そこに原初の巨人ユミルと彼を養った雌牛アウズフムラが生まれます。ゾロアスター教の開闢神話を記した『ブンダヒシュン』でも、「月のように白く輝く」牛(訳によって雄とも雌ともされる)と原人間ガヨーマルトがペアで登場します。またボルヘスとゲレロの『幻獣辞典』によればイスラームの伝説では宇宙的な雄牛クジャタが語られます(出典の一つとして『千夜一夜物語』第496夜が挙げられています)。世界を支える幾重もの礎の一つで、「四千の目、耳……」をもち、「ひとつの耳からもうひとつの耳へ、あるいはひとつの目からもう一つの目へ達するには、五百年も要する……」(柳瀬尚紀訳)とのことです。

 ミノタウロスや件のようにいささか無気味な面々も見受けられるものの、ことほどさように牛さんは由緒正しい生きものであって、ゆめゆめおろそかにすることなかれという話なのでした。舞踏家のニジンスキーもたしか「私は神であり、『牛』だ」とか言ってなかったでしょうか(鈴木晶訳)。

 ちなみに年明けの『山口薫展』には牛を描いた絵が何点か出品される予定です。当館所蔵品でもゴヤの《闘牛技》はもとより、同じゴヤの《妄》の内《馬鹿者たちの妄》、曾我蕭白の《牡牛図》や《許由巣父図》、月僊《人物と牛(曳牛人物図)》、シャガール《サーカス》、三輪勇之助《パストラル》、飯田善國《牛頭人》、山出守二《牛祭》、楠部彌弌《黒牛置物》、宇田荻邨《田植(下絵)》などに牛が登場します。さらに村山槐多《自画像》のX線写真は、表面の下層に隠れた牛の姿をあきらかにしました。展示される機会がありましたらお見逃しなく。
石崎勝基 

 戻って手もとにある

大場正史訳、『バートン版 千夜一夜物語 第4巻』、河出書房、1967

を見ると、pp.278-279 に述べられていました。そこには、

(3) やはり上から下へ;
段々に積み重なっている大地の7つの層
→天使
→大きな岩
→牡牛
→巨大な魚(バハムート)
→大いなる海原
→底知れぬ空気の深淵
→火
→ファラクという巨大な蛇

の系列が、イサ(イエス)のバハムート目撃談をはさんで語られています。

 この第496夜は「
巨蛇(おろち)の女王」に含まれる「ブルキヤの冒険」という話に属しており、先立つ第493-495夜、続く第497夜にも宇宙論に関わる興味深い細部を見出すことができます。バートンは「巻末論文」の「第3章 A 内容」でも、「真にペルシャ的なロマンスの見本として」(第7巻、p.367)この物語をとりあげています。
 ちなみに、少し前の「アブ・アル・フスンと奴隷娘のタワッズド」(第436夜~462夜、同巻、pp,136-192)は「シャフィ派(スンナ派の4分派のひとつ)による教義と実践のすぐれた概説」となっています(p.179 原注1)。


 『幻獣辞典』にもどれば、

p.128;「クジャタ」

 は、バハムートの背に立つ
「4千の目、耳、鼻、口、足をもつ巨大な雄牛」
です。


キャロル・ローズ、『世界の怪物・神獣事典』、2004

 の
p.149 に「クジャタ
Kujata」、
pp.326-327 に「バハムート
Bahamut」、
p.354 に「ファラク
Falak
 の項がありますが、ボルヘス+ゲレロ以上の情報は載っていません。


 ボルヘス+ゲレロが依拠した、(1)と(2)の典拠は、さいわい英語版『ウィキペディア』の
Bahamut”( [ < Wikipedia ])のページで、

Edward William Lane, edited by Stanley Lane-Poole, Arabian society in the middle ages: studies from the Thousand and one nights. Chatto & Windus, London, 1883, pp.105-107Open Library

 が引かれ、

Ibn al-Wardi (d. 1348 CE), Kharidat al-'Aja'ib wa Faridat al-Ghara'ib (The Pearl of Wonders and the Uniqueness of Things Strange).

 が参照されているとのことです(追補:日本語版ウィキペディアに「バハムート」の頁が作成されていました→こちら。「クジャタ」の頁とあわせ、ご参照ください→そちら)。
 Open Library に掲載されているレインの本(『中世のアラビア社会 「千夜一夜物語」の研究より』)は、レインが『千夜一夜物語』を翻訳するに際して作成した註釈を編集したもので、
そこでは
Ibn al-Wardi Ibn-El-Wardee と、
KujataKuyootà と(Ibn-Esh-Shiḥneh によれば Kuyoothán、p.106 註1)、
BahamutBahamoot と表記されています。

 ともあれ先の(1)と(2)はレインのこの箇所にも同じ順、おおよその分量比で記されており、ボルヘス+ゲレロはここを参照したものと見なしてよさそうです。
 ちなみに(1)の p.106 から p.107 まで引用符“ ”の後に註があって、
'Ed-Demeere, on the authority of Wahb Ibn-Munebbih, quoted by El-Isḥáḳee, 1.1'
と(p.107註1)、
(2)にあたる
‘Another opinion is’で始まる段落には、註で Ibn-El-Wardee が指示されています(p.107註2)。

こちらでも少し触れています;「原初の巨人、原初の獣、龍とドラゴンその他」の頁中

 なお、上の箇所を含む同書 pp.97-108 は「第5章 宇宙誌」にあたり、手短かながら、これ以外にも興味深い細部が含まれています。

 たとえばその一つに、諸天と大地の幅と厚み、またそれぞれの間の距離が500年の旅に相当すると述べられています(p.98、また p.101)。

 先の『千夜一夜物語』第496夜でも、
カフ山

「の後ろには、500年の旅程もある山系があり、…(中略)…それにまた、カフ山の後ろには、40の世界があって、どれもこの世の大きさの40倍あり、……」

と述べられています(前出第4巻、p.278)。
David Halperin, The Faces of the Chariot, 1988, pp.470-471, また pp.473-474 も参照。

 Nocolas Sed, La mystique cosmologique juive, 1981 “chapitre Ⅲ A-f-7 Les cinq cents années de marches”
にあったように、ユダヤの伝承にも大地と天、諸天間の距離を〈500年〉と言い表わしていました。また同書の pp.283-285 では、〈500年〉という数字が、不死鳥の伝承と関連づけられています。

 A.コーヘン、『タルムード入門』、Ⅰ巻、1997、p.143、

 Shuchat, The Creation according to the Midrash Rabbah, 2002, p.237, p.240

なども参照。
 〈500年〉という数字は、もとより莫大さを示す符牒にすぎないのでしょうが、だからこそ、具体的な〈500年〉というイメージを選び、またその選択が一致する点が面白いのではないでしょうか。下掲の
Anton M. Heinen, Islamic Cosmology. A Study of as-Suyūṭī's al-Hayʾa as-sanīya fi l-hayʾa as-sunnīya, 1982, pp.88-94, 198-201

も参照

 ちなみに同じセーの著書の
“chapitre Ⅲ A-f-5 Les dix-huit mille mondes”
にあるように、ユダヤの伝承には〈1万8000の世界〉というイメージがあり、それがイスマーイール派にもつながると指摘されていることは、セーの本のところで記しましたが(→そちら;「ユダヤ Ⅱ」の頁の「xi. メルカヴァー/ヘーハロート神秘主義など)、
下に挙げる
 トゥースィー 『被造物の驚異と万物の珍奇

 「第1部 高き諸天とそこに属するものの驚異について、第2章 天界と諸天の驚異について」
でも、

「創造主が『諸世界の主
(rabb al-ʻālamīn)』であり、1万8000の世界をお創りになったのだ、…(中略)…[1万8000の世界のうちの]1つは太陽がその中をまわって[いるこの世界であり]、1万7000[の世界]はこの世界の外にある」(連載(2)、『イスラーム世界研究』、vol.3 no.1、2009.7、p.417)

 と、またそのすぐ後で

「もし、『天の向こうには何があるか』と問われたら、『別のさまざまな世界がある。だがそれは、至高なる造物主のみが知り得るのだ』と答えよう。なぜなら、広大な荒野の中にたった1本の草しかない、ということはあり得ず、同様に、創造主の王国の中に1つの世界しかない、というのもあり得ないからである。その上、[創造主は]自らを『諸世界の主』と呼んでいる」(同、p.418)、

 「第3部 大地と水の驚異について、第4章 大地の驚異とその性質について」では、

「1万8000の世界があり、1つは東から西まで[のこの世界である]。1万7000[の残りの世界]は、人がそこに至るすべはない。その大きさは神のみがご存じである」(連載(4)、『イスラーム世界研究』、vol.4 no.1・2、2011.3、p.513)

と記されています。
 →あちらも参照;「世界の複数性など」の頁中


 この

「1万7000[の残りの世界]は、人がそこに至るすべはない。その大きさは神のみがご存じである」

という1節や、先の図式(1)での

「そしてこの闇のかなたは人知のおよばぬところである」、

図式(2)での

「霧の下に存在するものは知られていない」

など、
『ブリハッド=アーラヌヤカ=ウパニシャッド』第3章6節の

「問い過ぎてはいけない。あなたの首が落ちてしまうといけないから。あなたはそれをこえて問うべきではない神格について問うているのだ」(『バラモン教典 原始仏典 世界の名著 1』、1969、p.70)

を思いださせてくれます。
 →ここも参照;やはり「世界の複数性など」の頁中や、またそこ:「仏教」の頁の「i. 須弥山/三千大千世界/四大劫・六十四転大劫など」中の 松山俊太郎、「インドの回帰的終末説」(1982)のところ

Ibn al-Wardi (d. 1348 CE), Kharidat al-'Aja'ib wa Faridat al-Ghara'ib (The Pearl of Wonders and the Uniqueness of Things Strange).
(『驚異の真珠と珍奇な事どものユニークさ』)

 について、ウィキペディアのページ以上の詳しいことは今のところわからないでいますが、タイトルからして、


ブズルク・ブン・シャフリヤール、家島彦一訳、『インドの驚異譚 10世紀〈海のアジア〉の説話集』(全2巻)(東洋文庫 813/815)、平凡社、2011

 の1巻「はしがき」にいうような、〈アジャーイブ(驚異譚、奇譚)文学〉(p.15)に属するものと思われます。

 宇宙誌と〈アジャーイブ〉のつながりについては、

三橋富治男、「オスマン・トルコ初期に於けるアナトリアとマワラン・ナフルの學術交流」、『史学』、vol.32 no.2、1959.7、pp.129-149 [ < KOARA(慶應義塾大学学術情報リポジトリ) ]

 でも述べられています。

 そうした類で邦訳を読めるのが(クジャタやバハムートは2015年3月現在まで訳された部分には登場しませんが(→そこを参照;邦訳完結後の追補)、上にも一例挙げたように、興味深い宇宙論的細部が豊富です);


守川知子監訳、ペルシア語百科全書研究会訳注、「ムハンマド・ブン・マフムード・トゥースィー著 『被造物の驚異と万物の珍奇』(1)」、『イスラーム世界研究』、vol.2 no.2、2009.3、pp.198-218 [ < 京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI) ]
解題//序文

 「本書は、セルジューク朝最後の君主トゥグリル3世Rukn al-Dīn Abū Ṭālib Ṭuġril b. Arslān b. Ṭuġril、在位 571-590/1175-94 年)に献呈すべく著された百科全書(博物誌)的書物である」(p.198)。

  同、 「ムハンマド・ブン・マフムード・トゥースィー著 『被造物の驚異と万物の珍奇』(2)」、『イスラーム世界研究』、vol.3 no.1、2009.7、pp.403-441 [ < 同上 ]
第1部 高き諸天とそこに属するもの驚異について;序/北天・南天とそれらの星座について/天界と諸天の驚異について/太陽の驚異とその諸性質について/この世界での月の効用とその性質について/星々とそれらの創造のすばらしさについて/諸宮について、至高なるアッラーはどのようにそれらを創造されたのか

  同、 「ムハンマド・ブン・マフムード・トゥースィー著 『被造物の驚異と万物の珍奇』(3)」、『イスラーム世界研究』、vol.3 no.2、2010.3、pp.378-391 [ < 同上 ]
第2部 天と地の間で生じる驚異について;火の驚異について/空気の驚異について

  同、 「ムハンマド・ブン・マフムード・トゥースィー著 『被造物の驚異と万物の珍奇』(4)」、『イスラーム世界研究』、vol.4 no.1・2、2011.3、pp.483-550 [ < 同上 ]
第3部 大地と水と海の驚異について;水の驚異について/海の驚異について-アルファベットの順に従って-/川と小川の驚異について/大地の驚異とその性質について/山々の驚異とその性質について/石と鉱物の驚異について/石碑とその他の岩について

  同、 「ムハンマド・ブン・マフムード・トゥースィー著 『被造物の驚異と万物の珍奇』(5)」、『イスラーム世界研究』、vol.5 no.1・2、2012.2、pp.365-494 [ < 同上 ]
第4部 町やモスクや聖堂などについて;モスクについて/有名な聖堂とその驚異について/諸都市や諸地域について-アルファベット順に配列される/逆転した地方と、転覆され埋められた土地について/さまざまな時代に生じた疫病や死病について/降礫、降石、埋没について

  同、 「ムハンマド・ブン・マフムード・トゥースィー著 『被造物の驚異と万物の珍奇』(6)」、『イスラーム世界研究』、vol.6、2013.3、pp.549-570 [ < 同上 ]
第5部 樹木、果実、香草について-アルファベット順に配列される;樹木、果実、香草の驚異/珍しい未知の木々の驚異につい00て

  同、 「ムハンマド・ブン・マフムード・トゥースィー著 『被造物の驚異と万物の珍奇』(7)」、『イスラーム世界研究』、vol.7、2014.3.14、pp.499-532 [ < 同上 ]
第6部 彫像・墓廟の驚異について;預言者たち-彼らに平安あれ-の像/珍しい像について/不信心者たちの像について/墓とその驚異について/もろもろの財宝について

  同、 「ムハンマド・ブン・マフムード・トゥースィー著 『被造物の驚異と万物の珍奇』(8)」、『イスラーム世界研究』、vol.8、2015.3.16、pp.266-358 [ < 同上 ]
第7部 人間のすばらしさとその性質の驚異について;人間の知性と霊魂について/人間の諸器官について/女と去勢された者について/様々な階層の人間とそれぞれの気質や姿について/人間とその位階について/錬金術について――錬金術とは霊的技法である/医学と治療の知識について/夢と[その際の]霊魂の状況について/死と、肉体からの霊魂の分離について

 同、 「ムハンマド・ブン・マフムード・トゥースィー著 『被造物の驚異と万物の珍奇』(9)」、『イスラーム世界研究』、vol.9、2016.3.16、pp.315-339 [ < 同上 ]
第8部 ジンや魔物(marada)の驚異について;ジンやディーヴについて/ナスナースについて/グール各様/イブリースやイフリートたちよりも幽質であるジンについて

 同、 「ムハンマド・ブン・マフムード・トゥースィー著 『被造物の驚異と万物の珍奇』(10)」、『イスラーム世界研究』、vol.10、2017.3.20、pp.275-302 [ < 同上 ]
第9部 鳥の驚異について;大型の猛禽について/[種子や虫を食べる]鳥について/世界各地の珍奇な鳥について/不吉で小型の猛禽や小さな鳥について

 以下、
 第10部 動物の驚異
 と続く予定とのことです。

追補;2018年春、完結しました。


 同、 「ムハンマド・ブン・マフムード・トゥースィー著 『被造物の驚異と万物の珍奇』(11・完)」、『イスラーム世界研究』、vol.11、2018.3.23、pp.322-386 [ < 同上 ]
第10部 動物の驚異について;野獣や大型の動物について/小型の動物について/海の動物について/毒蛇(
afāʻī)と竜(ṯaʻābīn)と蛇(ḥayyāt)について/毒[と毒を持つ動物]について/昆虫について

 「(11・完)」 p.363 に
「『ヌーン(
nūn)』とは頭上に世界を載せている魚のことである」
と記されていました。この魚は同回 p.385、つまり全巻の末尾近くにも登場します。
 同回 p.328 では牛について、
「耕作するこの動物によってこの世界は支えられている」
とありましたが、これは耕作が世界を支えるという意味で、宇宙論とは関係ないのでしょうか?

 「イラン」の頁の「v. Encyclopadia Iranica 他」の内「Alborz」のところで(→こちら)、
*カーフ山について→

 守川知子監訳、ペルシア語百科全書研究会訳注、「ムハンマド・ブン・マフムード・トゥースィー著 『被造物の驚異と万物の珍奇』(2)」、『イスラーム世界研究』、vol.3 no.1、2009.7、pp.411-412、および 同、註(25)、(27)、

また

 同、「(4)」、vol.4 no.1・2、2011.3、p.517、p.526

も参照と記しました。前者の p.412 註27 には、

「カーフ山は、イランの伝承にもとづく伝説の山であり、アルボルズ山に比定され、世界の端にあり神々の居所である。イスラーム時代の地理書にはよく登場し、ヤークート(1229年没)などによると、世界を取り囲み、世界のすべての山の根元はカーフ山につながっているとされる。、また空が青いのは、カーフ山にあるエメラルドの色の反射のためだともいわれる[EI2 : Ḳāf; Šihāb al-Dīn Yāqūt, Muʻjam al-Buldān, Dār Ṣādir, Beirut, 1984, vol.4, p.18]]」

とありました。少し前にある

「[天の]北極の下には山があるが、ヒンドの言葉でそれは『ミールーン(mīrūn)』と呼ばれ、ア ラビア語では『大地のドーム(qubba al-arḍ)』と呼ばれている」(p.411)

というくだりも気になるところで、p.411-412 の註25 によると〈ミールーン〉は〈メール山=須弥山〉に他ならないそうです。
 それはともかく、後者=連載第4回では、

「カーフの山だ。天はこの山の頂きにあり、ドームのように載っている。この山は『山々の母(umm al-jibāl)』であり、すべての山がここに連なっている」(p.517)

と語られていました。
 それはさておき、先の註25 の最後で引用先を記した「EI2」は連載第1回の「凡例」によると(上掲「ムハンマド・ブン・マフムード・トゥースィー著 『被造物の驚異と万物の珍奇』(1)」、p.205)、

 「略号 EI2 は、Encyclopaedia of Islam, 2nd. Edition を」

指すとのことです。おそらくその Vol. Ⅳ, Iran-Kha(1978) 中の、

 "KĀF", by M. Streck - [A. Miquel], pp.400+402

のコピー(湿式)が、なぜか手もとにありました。

「ムスリムの宇宙論において、地上世界を取り囲む山脈の名。この概念がイランの諸伝承から借りられたものであることは、あまり疑いようがない」(p.400)

と書き起こして、アルボルズ山のことが解説されます。
 次いでインドのプラーナ文献における〈ローカ・アローカ山〉に触れた上で(pp.400-401)、それらがバビロニアの宇宙論に起源が求められるのではないかという(Cf., Wayne Horowitz, Mesopotamian Cosmic Geography, Eisenbrauns, Winona Lake, Indiana, 1998, pp.331-332)。
 その後、カーフ山が緑のエメラルドでできているという見解に対して、カーフ山がその上に載る岩こそがエメラルド製だという説から、お馴染み、大地を支えるものたちの話に移る(p.401)。
 続いてカーフが世界中の山々と地下に伸びる枝でつながっていること、世界の果てとしてのカーフ山の性格が記され、その彼方の領域について、またスィームルグ鳥の住処とされる点などにも関連づけられます(pp.401-402)。
 最後に、マンダ教における、世界の北の果てにある、純粋なトルコ石でできた山の概念が、イスラームから得られたのだろうと述べられる。

 ところで Encyclopadia Iranica の"Alborz"の内、「i. アルボルズという名」および「ii. 神話と伝説におけるアルボルズ」の中には、カーフ山の名は見あたりませんでした。
 それはそれとして、メアリー・ボイスが執筆した後者によると、ハラー(ハラティー)山=アルボルズ山は一方で世界の中心に位置すると考えられており、その点でインドにおけるメール山=須弥山と平行していた。他方、『アヴェスタ』中の『ヤシュト』の時点ですでに、世界を取り巻くものと捉える見方も存在した。ボイスが指示した『ヤシュト』19.1 を邦訳から拾っておくと;

 「この大地に隆起した最初の山は、高いハラティー山、それはすべて西の国々から東の国々までを取り囲む」
   (『ヤシュト』第19章「ザームヤズド・ヤシュト(大地神への賛歌)」、野田恵剛訳、『原典完訳 アヴェスタ ゾロアスター教の聖典』、国書刊行会、2020、p.519。
  また岡田明憲、『ゾロアスター教 神々への讃歌』、平河出版社、1982、p.319;「ザームヤズド・ヤシュト」)。

カーフ山同様、世界中の山々はやはり地下でアルボルズ山につながっています。またここでも、インドの〈ローカ・アローカ山〉との平行が指摘されています。ともあれ、

「結果として生じた曖昧さを限定する試みがなされ、かなり規則正しく、中央の山を"Taēra (Tērag)"と"Hukairya (Hukar)"という同義語で、他方取り囲む山脈は時として"Harborz var"ないし〈囲い〉として区別された(Dādestān ī dēnīg, pursišn 20.2 ; Indian Bundahišn5.3)」

そうです。
 仏教の宇宙論における須弥山と閻浮堤との位置関係の変遷と比べることもできるでしょうか。「仏教」の頁の「i. 須弥山/三千大千世界/四大劫・六十四転大劫」中の「各論等」に挙げた(→そちら

 御手洗勝、「古代中国における地理思想 - 崑崙四水説について -」、『民族学研究』、24巻1-2号、1960.3、pp.438-450

のところで記したメモも参照ください。

 Encyclopadia Iranica の"Alborz"に戻ると、その後チンワト橋が世界の中央にあるチャガード・イー・ダーイティー Čagād ī dāidīg =「法にかなった頂き」と〈囲いのアルボルズ山〉にかかっていること、太陽や月などが通る窓がアルボルズ山にあること、そこから暦との関連、やはりスィームルグ鳥など伝説の舞台となることなどが記されるのでした。

 2023/9/28 


 〈カーフ山〉に関連して、「イラン」の頁の「iv. ゾロアスター教など - 洋文献」にも挙げた;

Faranak Mirjalili, “Goddess of the Orient : Exploring the Relationship between the Persian Goddess Anahita and the Sufi Journey to Mount Qaf”, Religions, 2011, 12(9), 704

 上著の概観を得るには;

守川知子、「天上・地上の驚異を編纂する - ペルシア語百科全書成立の12世紀」、山中由里子編、『〈驚異〉の文化史 中東とヨーロッパを中心に』、2015、pp.76-94
トゥースィーの『被造物の驚異と万物の珍奇』/諸学を編纂する/12世紀の思想潮流の中で

 なお、この編著にはこれ以外にもイスラームにおける〈驚異〉のイメージをめぐる興味深い論考が収められています。
 また、そこで参考文献としてあげられていたのが;

Persis Berlekamp, Wonder, Image, & Cosmos in Medieval Islam, Yale University Press, New Haven & London, 2011
『中世イスラームにおける驚異、イメージ、宇宙』
序論//
イコン的なイメージ;プラトーン的形相と畏怖を呼び起こす宇宙//
物語的なイメージ;驚歎すべき逸話と宇宙的な時間//
鏡に映されたイメージ;半陰影の驚異、観者の位置//
護符的なイメージ;占星術的な混成物と効能のある共生//
エピローグなど、
232ページ。

 イスラームの宇宙誌の写本挿絵を扱った本で、もちろんまだ読んでいないのですが、ぱらぱらと繰っているとその中に右の図版が掲載されていました(p.159)。
 カズウィーニーの『被造物の驚異』(13世紀後半)の16世紀末の写本に収められた挿絵で、
「水に休らう魚の上に立つ牛の上に天使が立ち、大地を持ちあげる」(p.158)。
「世界の危なっかしい基本的下部構造の面喰らわされるようなイメージは、イスラーム思想に深く根を下ろしている」
とのことです(同上)。
魚がバハムート、
牛がクジャタにあたるのでしょう。
 天使が支える大地は、帯状の山並みで飾られていますが、7層の大地を表わしているのでしょうか。
 《世界を支えるもの》 カズウィーニー『被造物の驚異』挿絵、1595年頃
《世界を支えるもの》 
カズウィーニー『被造物の驚異』挿絵
1595年頃


* 画像をクリックすると、拡大画像とデータが表示されます

 またその箇所に附された註で、9世紀の神秘家ハキーム・ティルミズィー(820-30の間~905-10の間)がその著作で同様の配置について述べていることが記されていました(p.197, note 28)。そこで参照されているのが;

Bernd Radtke and John O'Kane, The Concept of Sainthood in Early Islamic Mysticism. Two works by Al-Ḥakīm Al-Tirmidhī, 1996, pp.230-1

で、さいわい手に取ることができました(手もとの版では pp.229-230)。
 この本はティルミズィーの『テルメズの神智学者の自伝 Badʾ shaʾn Abī ʿAbd Allāh Muḥammad al-Ḥakīm Al-Tirmidhī 』および『ハキーム・ティルミズィー:神の友人たちの生涯 Kitāb Sīrat al-awliyāʾ 』の註釈付き英訳なのですが、とりあえず関連箇所だけ見ると、問題の参照元は Appendix の Text VI にあたり、後者(本書中では Sīra と略)の第53節(pp.96-97)を補足するために別の著書から抜粋されたものでした(p.11)。p.230註(5)からはまた Sīra 第29節の註(3)が指示されており(p.65)、そこには件の附録第Ⅵテクストの出典が ʿIlm al-awliyāʾ である旨記されています(p.4 の書誌(12)、また p.Ⅸ の略号 Gött. も参照)。
 とまれ附録第Ⅵテクストには、上から下へ

(4)
大地
→天使
→楽園の岩(そこから青緑の空が生じる)
→楽園の牛(岩は牛の3つの角の上に落ち着く)
→魚
→水(5万年の深さを有する)
→風
→世界の土台(tharā)(単層の形をしている)
→7層の被造物たち(その数を知るのは神以外にいない)
→神の全能

という構造が綴られていました。
 7層の被造物たちは空、大地、天使たちのことを知らず、復活の日に初めて、これらの層から出てきて他の被造物とまみえるのだという。
「彼らが住まう空気は煙に似ており、厚みある空気の一部をなす。天の玉座がその上で休らう空気は、精妙で純粋な空気の部分である。空気は霊から作られた。神が最初に創造したのは霊であり、そこから空気が分かれ出た」
とのことです。


 こちらでも触れました:「仏教」の頁の「i. 須弥山/三千大千世界/四大劫・六十四転大劫など」中の 松山俊太郎、「インドの回帰的終末説」(1982)のところ

 また p.65(3) には、こうした表象はいわゆる〈イスラーム的宇宙論
Islamic cosmology〉の一部をなすもので、いまだ古代ギリシャ哲学の世界模型から影響を受けず、クルアーンとハディースに基づくものであると記されています。その参考文献として;

Anton M. Heinen, Islamic Cosmology. A Study of as-Suyūṭī's al-Hayʾa as-sanīya fi l-hayʾa as-sunnīya, with critical edition, translation, and commentaruy, (Beiruter Texte und Studien. Band 27), Orient-Institut der Deutchen Morgenlãndischen Gesellschaft, Beirut, 1982, in Kommission bei Franz Steiner Verlag, Wiesbaden

 のあることが同箇所および p.230 の註(1)(3)(5)からうかがえますが、誠に残念ながら未見なのでした。
追補:と思っていたらさいわい見る機会ができました;

『イスラーム的宇宙論 アッ=スユーティーの al-Hayʾa as-sanīya fi l-hayʾa as-sunnīya 研究 校訂本、翻訳、註釈』
序論//
伝統的なイスラーム的宇宙論の歴史的分析;15-16世紀における伝統的なイスラーム的宇宙論の復興/9世紀から11世紀の間の時期における
Hayʾa as-Sunnīya の前史/初期イスラーム共同体におけるHayʾa as-Sunnīya の前史//
テクスト;アッ=スユーティーの
al-Hayʾa as-sanīya fi l-hayʾa as-sunnīya の写本/
  英訳;序/玉座と足台に関して述べられたこと/書字板と尖筆…/七つの天と七つの地…/太陽、月と星々…/夜と昼と時刻…/水と風…/雲と雨…/雷、稲妻と雷電…/銀河と虹…/地震…/山々…/海…/ナイル川…/結論//

Al-Hayʾa as-Sanīya のテクストについての註釈//
アラビア語序文/アラビア語テクストなど、
英文298ページ、アラビア語88ページ。


 スユーティーは 849-911/1445-1505 A.D.(『岩波 イスラーム辞典』、pp.541-542)。
 al-Hayʾa as-sanīya fi l-hayʾa as-sunnīya を著者は『輝ける宇宙誌 伝統の宇宙誌を含む The Radiant Cosmography. Containing the Cosmography of Tradition 』と訳しています(p.129、また註釈 pp.177-179 も参照)。同じスユーティーによる後掲 S.R.Burge, Angels in Islam. Jalāl al-Dīn al-Suyūṭī's al-Ḥabā'ik fī akhbār al-malā'ik, 2012 同様、それまでの諸伝承のアンソロジーです。英訳は pp.129-176。

 Part A 第Ⅲ章の第3節「初期ムスリム宇宙論の諸要素 アッ=スユーティーの諸断片の組織的調査」(pp.76-120)
 およびPart C「註釈」が、
 本文に即する形で具体的な情報に富んでいます。前者の内訳は;

玉座と足台/書字板と尖筆/七つの天と七つの地(七つの天、七つの地、宇宙的寸法)/太陽、月と星々(星々、太陽、月、彗星)/銀河と虹/夜、昼と時刻/水と風/雲と雨(起源、雲の様々な種類、雨の効果)/雷と稲妻/地と海/山々/地震/ナイル


 本文の第3章「七つの天と七つの地…」(pp.138-145)中に
〈大地を支えるものたち〉、〈500年〉の話などの他、
七つの天の上には海があり、その上に8頭のシロイワヤギ(? mountain goat)、さらにその上に玉座があるという話もありました(p.138、また p.85、pp.201-202)。
 〈500年〉問題については→上のあそこで触れました
 また本文第12章「海…」に大地がその背の上にのる魚の名はバハムートとの箇所があります(p.172、また p.235)。


 本文第2章「書字板と尖筆…」に関し→こっちにも挙げておきます;「言葉、文字、記憶術・結合術、書物(天の書)など」の頁中の「本・書物(天の書)」の節

 戻って先の註に挙げられたもう1冊は;

Bernd Radtke, Weltgeschichte und Weltbeschreibung in mittelalterlichen Islam, (Beirut Texte und Studien, Band 51), Beirut, in Kommission bei Franz Steiner Verlag, Stuttgart, 1992
『中世イスラームにおける世界史と世界記述』
問い//
調査の対象;イスラームの普遍史家・アラビア語/イスラームの普遍史家・ペルシア語/キリスト教の普遍史家・ラテン語/キリスト教の普遍史家・ギリシア語/キリスト教の普遍史家・シリア語/キリスト教の普遍史家・アラビア語//
評価;概念規定/諸科学のもとでの歴史記述の位置/救済史的な描写法/文化史の一部としての世界史/補説 イスラームの歴史記述の文学化/末見//
例- Ibn ad-Dawādārī の校訂による Sibṭ ibn al-Ğawzī の宇宙誌;前言/テクスト/余談//
英文要旨など、
556ページ。


 第2章は解題付き典拠のリスト。その内

pp.17-18(タバリー)、pp.27-28(マスウーディー)に宇宙を支えるものたちの話など、
p.72 に〈500年〉、
pp.80-81 に宇宙を支えるものたちの話など(マクディスィー)が出てきます。
第3章では第3節4が「救済史の宇宙論的モデル」(pp.164-165)、
同5が「度量単位」(pp.166-167)で〈500年〉の話あり。

 第4章の「例」は本文の訳ではなく、目次の各項目に出典や文献をつけてリスト化したものですが、さいわい
「宇宙論的な部分はしかし、その編集的な性格のために関心なしとしない」(pp.206-207)
とのことで、短いながら概要を記していてくれます。目に止まった範囲内でも;

pp.216-217、284 に世界の総数の話
pp.228、353 に世界を支える魚の話
p.230 に最初の被造物が点であった話
pp.235-238 に世界創造に費やされた時間の話
pp.254-255 に〈5万年〉の話
pp.272-275、327-328 に〈500年〉の話
pp.324--325 に神の玉座と足載せの話
pp.354-355 に宇宙を支えるものたちの話
pp.362-365 に大地の大きさの話

 などなどが出てきます。


 こちらでも触れました:「仏教」の頁の「i. 須弥山/三千大千世界/四大劫・六十四転大劫など」中の 松山俊太郎、「インドの回帰的終末説」(1982)のところ

 上の Heinen, Radtke 双方を参照する部分があり、またこうした宇宙誌の枠組みについて垣間見せてくれるのが;

加藤瑞絵、「アブー・シャイフ著『威厳の書』序論分析」、『イスラーム世界研究』、vol.2 no.2、2009.3、pp.176-187 [ < 京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI) ]

Toufy Fahd, “La naissance du monde selon l'Islam”, La naissance du monde. Sources orientales Ⅰ, 1959

 中の
”La création des sept terres”
から pp.252-253, p.274 : notes 68-71.
 も参照

 ついでに

バグダッドの盗賊』(1940、監督:ルートヴィヒ・ベルガー、マイケル・パウエル、ティム・ウェラン)

 中で台詞だけではありますが、大地を支えるものたちについて言及されます
 →そっちを参照;「古城と怪奇映画など」中の当該作品の頁


 なおカズウィーニーの『被造物の驚異』(13世紀後半)については;

林則仁、「中東イスラーム世界の写本絵画と驚異」、前掲『〈驚異〉の文化史 中東とヨーロッパを中心に』、2015、pp.138-153

 また

岡﨑桂二、「カズウィーニー:『被造物の驚異と万物の珍奇』における天使論 - ワースィト写本に即して -」、『四天王寺大学紀要』、no.57、2014.3 [ < CiNii Articles

 →下のあっちや、こなた(「天使、悪魔など」の頁の「i. 天使など」)にも挙げておきます

 この他;

A.J.ハーンサーリー、サーデク・ヘダーヤト、岡田恵美子・奥西峻介訳注、『ペルシア民俗誌』(東洋文庫 647)、平凡社、1999

 所収のA.J.ハーンサーリー『コルスムおばさん』(17世紀後半)とサーデク・ヘダーヤト『不思議の国』の内、
後者の「第21章 神話」、p.296 には、

「大地はウシの角の上に載っている。
ウシは魚の上に載っている。
ウシが疲れると、大地は一方の角から他方の角へ移しかえる。
これが地震の原因である」

と記されていました。
 この章(pp.296-320)では、他にも興味深い記述が見出されます。
『不思議の国』の原著は
Sâdeq Hedâyat, Neirangestân, 1933
 全340ページ。

 なお、ヘダーヤトについて、また;

石井啓一郞、「サーデグ・ヘダーヤト著『創造の伝説』[含 解題]」、『イスラーム世界研究』、vol.3 no.2、2010.3、pp.392-405 [ <
京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI) ]

ヨアン・P・クリアーノ、『霊魂離脱(エクスタシス)とグノーシス』、2009、「第9章 玉座の神秘からミウラージュ伝説へ」

「イスラームの伝承は11世紀以来、スペイン・キリスト教圏に滲透することとなった。最初のラテン語版『昇天伝説(ミウラージュ)』」(pp.218-219)、
そのフランス語版(『エゼキエル=ムハンマドの書』)」に関し、
「P・ヴンダーリが学位請求論文『エゼキエル=ムハンマドの書研究』に掲げたフランス語版の要約」(p.219)
した中に以下の数節がありました;

「われらの棲むこの大地の下には、ことごとく火焔からなる七層の火獄が上下に連なる。…(中略)…これら火獄の層の下にはこれを支える石があり、さらにこの石を支えるのは頭が尾を(くわ)えて円環状になった魚である。魚の下にあるのは漆黒の闇ばかりである」(p.223)。

 重複しますがすぐに続けて、

「火獄の第一層は他の層とは隔絶していて、天使が掌で支える緑岩の上に載っている。この天使はさらに魚の上に立っているのである。この火獄の下では烈風が吹きすさんでいる…(後略)…」(同上)。

 少しおいて、「七層火獄の土台の構造」ということで、また重複しつつ;

「これらは最初あてどもなく海に漂っていた。天使らの求めに応じて、神はその一人にそれらを支えるよう命じられた。この天使はある緑石で脚を支えた。この緑石はまたレヴィアザン(レヴィアタン)という巨魚の背に乗って脚を支えた」(同上)。

 すぐに続けて、今度は視点の変更と重複;

「ここで火獄の七層があらためて描き出される。各層がそれぞれに海をもつが、われらの大地は七つの海をもつ。そのほかに火獄の入口をめぐって海がある。われらの大地は四方をカフ山に囲繞され、一尾の魚に支えられている。火獄の七層とわれらの大地の間には、ハルマンゲと称する大気層がある」(pp.223-224)。

 少しおいて、また視点の変更と重複;

「この七層火獄を支えているのは天使アルサニエルである。この天使は緑石の上にうずくまった牛ベアムト(ベヘモト)に跨っている。この石の上にはカフ山の一部も載っており、他の部分はその下にある。緑石の下は空気と闇しかなく、大いなる水の上を漂っている」(p.224)。

 すぐに続けて、視点を変更しつつ、

「一方、サレという七つに分かれたもう一つの山があり、これらは上記の七火獄に配分される。この山はカフ山に囲まれている。ムハンマドの求めに応じて、ジブリールはこの山のかなたに棲むという不可思議な生き物たちの話をする。神の雌鶏が棲むのもカフ山であり、この山に発する一七の山脈が天を支えるのだと言う。カフ山のかなたには世界をめぐる七つの海がある…(後略)…」(同上)。

 やはり「インド」のページの「ix. 象・亀・蛇など」の項で挙げた


ウノ・ハルヴァ、田中克彦訳、『シャマニズム アルタイ系諸民族の世界像』、1971、pp.21-27、「大地の支え手」

 とりわけ pp.24-25 も参照

大林太良、『神話の話』、1979、pp.81-113:「六 地震の神話と民間信仰」(1976)
はじめに/地震と牛/世界蛇と地震/地震鯰/大地を支える巨人/世界柱と地震/性交と地震/われわれはまだ生きている/人類文化史上の地震観念

 とりわけ pp.96-97 など


 地震といえば4節目(pp.93-97)の見出しにあるように鯰、ということで鯰絵に関して→こちらにも挙げました;「日本 Ⅱ」の頁の「v. 江戸時代の儒学その他

 また、

竹田新、「シンドバードたちの地理的世界観」、後掲『アラビアンナイト博物館』、2004、pp.34-35

松村一男、「神話学から見たシンドバードの航海」(2005)、『神話思考 Ⅱ 地域と歴史』、2014、pp.559-571
シンドバードの七つの航海/分析
………………………

カイ・カーウース、ニザーミー、黒柳恒男訳、『ペルシア逸話集 カーブースの書・四つの講話』(東洋文庫 134)、平凡社、1969

 は、カイ・カーウース『カーブースの書』(11世紀後半)とニザーミー『四つの講話』(12世紀後半)を収めていますが、その内前者には、
「第1章 至高至尊なる神を識ることについて」、
「第2章 預言者の創造とその使命について」
 などを含み、後者の序論部分は
「第2節 宇宙の形成」、
「第3節 鉱物界、植物界の進化」、
「第4節 動物界と外的五感」、「第5節 内的五感」、
「逸話 野生の人間(ナスナース)と人間の世界について」
 からなり、その後
「第1講話 書記」、
「第2講話 詩人」、
「第3講話 占星術師」、
「第4講話 医師」
 と続きます。「占星術師」にはアル・キンディ、アル・ビールーニー、オマル・ハイヤームなど、「医師」にはイブン・スィーナー、(ムハンマド・ビン・ザカリーヤー・)ラーズィー、ガレーノスなどの逸話が記されています。
328ページ。

イネア・ブシュナク編、久保儀明訳、『アラブの民話』、青土社、1995
原著は
Inea Bushnaq, Arab Folktales, 1986
はじめに 言葉と糸が綾なす綴れ織り/粗布で織られたテントの下で語られた物語 ベドウィン物語/ジンとグールとイフリート 魔術と超自然の物語/魔術による結婚と不釣り合いな夫婦 超自然の物語/地を行く獣たちと大空を舞う鳥たち 動物物語/広くその名を知られた愚か者と悪戯者 ジュハーとその同類の物語/善男善女と金言 宗教的な物語と道徳的な教訓/手練手管に長けた女たちと利口な男たち 機知と知恵の物語/どのようにして本書は編纂されたか、など、

 「長短とりまぜ130ばかりのアラブの民話を体系的に収録した本格的な民話集」(p.514)、
524ページ。


桂令夫、『イスラム幻想世界 怪物・英雄・魔術の世界』(Truth in Fantasy XXXVII)、新紀元社、1998
昼の世界 イスラム世界の形成//
夜の世界 怪異と幻想;第1夜-怪物の世界/第2夜-英雄の世界/第3夜-魔術の世界など、
250ページ。


佐藤次高、『聖者イブラーヒーム伝説』(角川選書 15)、角川書店、2001
ジャバラと聖者イブラーヒーム;聖者イブラーヒームとの出会い/ジャバラの風土と歴史/ヌサイリー教徒の反乱//
イブラーヒーム伝説の成立;イブラーヒームの実像/イブラーヒーム伝説の成立/伝説の諸相-聖者へのあこがれ-//
イブラーヒーム廟への参詣;イブラーヒーム廟への参詣/イブラーヒーム伝説の拡大/現代に生きるイブラーヒーム伝説など、
246ページ。


グスタフ・E・フォン・グルーネバウム、嶋本隆光監訳、伊吹寛子訳、『イスラームの祭り』(イスラーム文化叢書 5)、法政大学出版局、2002
原著は G. E. von Grunebaum, Muhammadan Festivals, 1951
序(C.E.ボズワース)//
イスラームの基盤-祈禱と金曜礼拝/巡礼/ラマダーン/預言者と聖者/ムハッラム月10日//
シーア派小史-誕生からイラン・イスラーム共和革命まで(嶋本隆光)など、
214ページ。


赤堀雅幸編、『民衆のイスラーム スーフィー・聖者・精霊の世界』(異文化理解講座 7)、山川出版社、2008
序章 民衆のイスラームを理解するために(赤堀雅幸)/イスラームの聖者論と聖者信仰 イスラーム学の伝統のなかで(東長靖→こちらも参照;東長靖『イスラームとスーフィズム 神秘主義・聖者信仰・道徳』2013/「イスラーム」の頁の「iii. スーフィズムなど」)/預言者ムハンマドの遺品信仰 南アジア・イスラーム世界の聖遺物(小牧幸代)/ムスリム社会の参詣と聖者生誕祭 エジプトの歴史と現況から(大稔哲也)/聖者崇敬の祭り、精霊信仰の集い モロッコとエジプトを舞台に(赤堀雅幸)/邪視と村の精神世界 トルコ西黒海地方から(中山紀子)/民衆のなかの聖なるイメージ イランの聖者像から(阿部克彦)/終章 民衆イスラームの時代(赤堀雅幸)//
コラム;「ハラール・チャイニーズ」レストラン ジャカルタ最近食生活考(久保美智子)/女性が呪術に頼るとき オマーンの呪術信仰(大川真由子)/西域からやってきた聖者 中国寧夏回族自治区の聖者崇敬(澤井充生)/「預言者の医学」の実践 東アフリカ沿岸部から(藤井千晶)など、
220ページ。


山中由里子、『アレクサンドロス変相 古代から中世イスラームへ』、名古屋大学出版会、2009
序章 歴史と虚構の狭間でのアレクサンドロス//
アレクサンドロスに関する知識の源-古代世界からイスラーム世界へ- 偽カッリステネスのアレクサンドロス物語;物語の生成/東方への伝播/物語の概要//
  ギリシア・ローマ古典史料におけるアリストテレスとアレクサンドロス;天才と天才の出会い/アリストテレスに宛てたインドの不可思議についての書簡/アレクサンドロスへの忠言の手紙//
  イスラーム以前のイランにおけるアレクサンドロス;ペルセポリス焼尽/大王の記憶/ササン朝ゾロアスター教文献におけるアレクサンドロス//
預言者アレクサンドロス 「二本角のアレクサンドロス」;『クルアーン』第18章「洞窟」82-97節/「二本角」の正体/アレクサンドロスにまつわるシリア語キリスト教伝説/一神教とアレクサンドロス//
  イスラーム世界におけるアレクサンドロスの神聖化;タバリーの『タフスィール』/預言者伝集/ディーナワリーの『長史』/ニザーミーのアレクサンドロス物語//
哲人王アレクサンドロス 「君主の鑑」文学におけるアレクサンドロス;「君主の鑑」とは/アダブ文学と先行文明の影響/サーリム・アブ・ル=アラーの「アレクサンドロスに宛てたアリストテレスの書簡集」/「秘中の秘」//
  アダブからヒクマへ;アリストテレスの忠言/アレクサンドロスの金言/「インドの禅行者」との問答/アレクサンドロスの最期//
歴史叙述の中のアレクサンドロス 初期のアラブ歴史学-ハディースの時代;歴史としてのイスラーイーリーヤート-ワフブ・ブン・ムナッビフ/スィーラの歴史観-イブン・イスハーク/イブン・ヒシャームの『王冠の書』/征服史とアレクサンドロス-イブン・アブド・アル=ハカム//
  非アラブの貢献-ペルシア、ビザンツの遺産;『列王伝』の翻訳-イブン・アル=ムカッファア/ビザンツ、キリスト教史学の影響//
  万国史の登場-ハディースからの解放;事典的歴史-イブン・ハビーブとイブン・クタイバ/物語的歴史-ディーナワリー/博識と原典批評-ヤァクービー/ハディースへのこだわり-タバリー/時代の知の集成-マスウーディー//
  権力の地方分散と歴史-東方イスラーム世界を中心に;ブワイフ朝下の歴史家/サーマーン朝下における近世ペルシア語の台頭/ガズナ朝スルタンたちの「アレクサンドロス模倣」/セルジューク朝期の歴史書/歴史の指標としてのアレクサンドロス//
終章 超越と限界を体現する男など、
588ページ。


 上でも触れた著者による編著→こちらを参照;山中由里子編、『〈驚異〉の文化史 中東とヨーロッパを中心に』、2015/「通史、事典など」の頁の「iii. 地学・地誌・地図、地球空洞説など

イブン・カイイム・アルジャウズィーヤ原著、水谷周訳著、『イスラームの天国 イスラーム信仰叢書 2』、国書刊行会、2010
イスラームの天国と地獄;イスラームにおける人の生涯/天国と地獄のあらまし/他宗教との比較//
イブン・カイイム・アルジャウズィーヤ『喜びの国への魂の導き』;イスラームにおける天国論/イブン・カイイム・アルジャウズィーヤについて/『喜びの国への魂の導き』について/同書の適訳について//
『喜びの国への魂の導き』適訳 序言//
  第1部;今すでに天国のあること 補足:アーダムの居た所/天国はまだ創造されていないとの主張について/それに対する答え/天国の門の数と大きさについて/門の様子とその取っ手並びに門の間の距離について/天国の場所/天国への鍵と記録帳 補足:善悪の鍵/天国への道は一つしかないこと//
  第2部;天国の階層について/一番高い階層とその名前/天国を対価として主が僕に提示すること 補足:僕の行為とアッラーの慈悲/天国の人たちが主に求めること、天国が彼らに対して求めること、彼らへの執り成しについて/天国の名称とその意味/楽園の数とその様子/天国の門番と天国の門を初めに叩く人について/天国に初めに入る人たち、貧者が富者より先に天国に入ることについて/天国は篤信の人たちのもの/審理なしで天国に入る人たち//
  第3部;天国の土壌、泥、石、砂利や光、白さについて/天国の建物と道のり/天国に入る方法とその住民について/天国で一番身分が高い人と低い人、その貴重品について/天国の香りと告知について/天国の樹木、庭園、影、果実について/天国の川、泉、その種類について/天国の人たちの食べ物、飲み物について/天国の食器、衣類、装飾品、家具類、召使について//
  第4部;天国の女性たち/目が大きくて美しい女性が創られた物質などについて/天国の結婚、性交、出産について/美しい女性の歌とアッラーの御声/天国の馬について/天国の人々の相互訪問と市場/彼らの主を訪問することについて/天国の全員が国王であること/天国の人たちは主をその目で見て話しかけられ微笑みかけられること/天国は永遠であること/天国の人々の諸相/この吉報に値する人//
参考;『喜びの国への魂の導き』原文目次/クルアーンにおける天国/預言者伝承集一覧など、
254ページ。

 イブン・カイイム・アルジャウズィーヤは西暦 1292-1350 の人、イブン・タイミーヤを師とする。
『喜びの国への魂の導き』の原本は5部70章からなり、
「日本語への訳注をするとなると、優に1000ページ以上の大部なものになると思われる」とのことで(p.41)、
「適訳である本書は全体で原文の約5分の1から6分の1ほどの長さに短縮されている」
 とのこと(p.229)。


大稔哲也、「ムスリムの他界観研究のための覚書 - イブン・アフマド・アル・カーディーとサマルカンディーによる他界論をめぐって」、『死生学研究』、no.13、2011.3、pp.362-339 [ <東京大学学術機関リポジトリ(UT Repository) ]

岡田明憲、「イスラムの秘教書」、藤巻一保・岡田明憲、『東洋秘教書大全』、学研パブリッシング、2012、pp.403-449
イスラムの秘教書とは 東西世界に伝播した〝東と西の融合〟思想/アラビアン・ナイト/神秘聖者列伝/光の壁龕/ガブリエルの翼の歌/ルーミー語録/大序説/夢判断の書/石の書/予言の学/ハーフィズ詩集/匂いの園など

竹下政孝、『イスラームを知る四つの扉』、ぷねうま舎、2013
序 イスラームと現代;イスラーム文化-その普遍性と特殊性-/アラビアにおける精神革命と現代-ムハンマドの場合-//
第1の扉 生と死の思想;イスラームにおける死後の世界/イスラームにおける天国の表象/イスラームにおける地獄の表象//
第2の扉 魔術・科学・習俗 イスラームという意識;イスラームと魔術/預言者の医学/イスラームにおける聖遺物/イスラームの暦と年中行事/トルコの世俗主義とヴェールの問題//
第3の扉 預言者・追随者・天使 イスラームの根;預言者の奇跡について/ムハンマドの奇跡と『コーラン』/神の友、アブラハムの物語/ハサン・アルバスリーとイスラーム思想の起源/イスラームにおける天使・悪魔・妖鬼//
第4の扉 聖者・聖女・スーフィズム イスラームの心;スーフィズムと人間の尊厳性/イスラームの聖女ラービア・アダウィーヤ/イスラームの聖者マウラーナー・ジャラール・アッディーン・ルーミー/『精神的マスナヴィー』の物語など、
294ページ。


幻獣辞典』、1974、
  pp.120-121;「ジン」、
  pp.176-177;「ルフ」、
  pp.188-189;「シムルグ」


奴田原睦明、「ジン・この霊的なるもの-アラブ世界の〈見えない現実〉」、『ユリイカ』、vol.25 no.1、1993.1:「特集 幻想の博物誌」、pp.148-157
ジンの意味/ジン誕生諸説/ジンとは?/民間信仰の中のジン/ジンと人間との交渉/ソロモンとジン/ジンと人間との闘い/ジンは何処にいるか?/ジンは何時出るか?/ジンに対する配慮/ジンの禍を除けるには

 以下、Encyclopædia Iranica より;

Mahmoud Omidsalar, ‘DĪV
「ディーヴ」

Mahmoud Omidsalar, ‘GENIE
「ジン」

A. Shapur Shahbazi, ‘HĀRUT and MĀRUT
「ハールートとマールート」

Michele Bernardini, ‘HAŠT BEHEŠT (2)
「ハシュト・ベヘシュト(8つの天、8つの楽園)」

Mahmoud Omidsalar, ‘HELL ii. Islamic Period
「地獄 ii イスラーム期」

Mahmud Omidsalar, ‘MAGIC ii. IN LITERATURE AND FOLKLORE IN THE ISLAMIC PERIOD
「魔術 ii イスラーム期の文学と民間伝承における」

 →こちらでも少し触れておきます;「天使、悪魔など」の頁の「ii. 悪魔など

S.R.Burge, Angels in Islam. Jalāl al-Dīn al-Suyūṭī's al-Ḥabā'ik fī akhbār al-malā'ik, (Culture and Civilization in the Middle West), Routledge, London and New York, 2012
『イスラームにおける天使たち ジャラール・ディーン・スユーティーの「天使たちについての諸伝承の整理」』
天使たち、イスラームとスユーティーの『天使たちについての諸伝承の整理』;古典的イスラームにおける天使たちと同時代の学問-天使たちについての古典的典拠:イスラームにおける天使たちについての近代の学問/スユーティーとその著作-その歴史的・宗教的文脈の中でのスユーティー:ジャラール・ディーン・スユーティー、方法論と諸典拠:『整理』の目的とその読者//
イスラーム天使学における諸主題;天使たちを名づける-神名を戴いた名前:機能の名前:〈天使(マラク)〉なしの機能名:他のさまざまな天使の名:イスラームにおける天使命名法の諸潮流/天使たちを想像する-天使たちの物理的形態:大きなサイズの天使たち:より精細な細部づけ、衣裳、宝石と色彩:イスラームにおける天使の図像誌/天使という仲間-揺籠から墓まで、さらに:地上における神の臨在としての天使たち:天使たちと儀礼:天使の仲介/天使たちと神学-位階と地位:天使たちの実体:神、天使たち、救済史と預言:天使たちについての神学的信仰は一貫していないか?//
スユーティーの『天使たちについての諸伝承の整理』の翻訳;スユーティーの『天使たちについての諸伝承の整理』-使用した写本の記述・:『天使たちについての諸伝承の整理』//
結論;イスラームにおける天使たちとイスラーム的天使学-天使たちと間文化的交換:イスラームにおける天使たち、スユーティーの視野//
附録;翻訳しなかったハディースの概要/『天使たちについての諸伝承の整理』におけるハディースの名をあげられた典拠など、
350ページ。

 同じスユーティーによるアンソロジーとして、上掲
Anton M. Heinen, Islamic Cosmology. A Study of as-Suyūṭī's al-Hayʾa as-sanīya fi l-hayʾa as-sunnīya, 1982
  も参照。
 『天使たちについての諸伝承の整理』はハディースに現われた天使に関する文面を集めたもので、
英訳(抄:pp.111-112)は pp.114-174、
訳さなかった部分の梗概である附録Aは pp.184-225
 →こちらにも挙げておきます;「天使、悪魔など」の頁の「i. 天使など

 また上掲

岡﨑桂二、「カズウィーニー:『被造物の驚異と万物の珍奇』における天使論 - ワースィト写本に即して -」、2014

 も参照
………………………

サイイド・フセイン・ナスル、黒田寿郎訳、「ペルシャ・ミニアチュア絵画における“想像世界”と空間の概念について」、『オリエント』、vol.12 no.1・.2、1969、pp.119-127 [ < J-STAGE ]
原著は Seyyed Hossein Nasr, “‘The World of Imagination’ and the Concept of the Persian Miniature”, Islamic Quarterly, vol.XIII, no.3

 同じ著者による→こちら(「イスラーム」の頁の「ii. 思想史・哲学史的なものなど」)や、そちら(同頁同項の別の箇所)、またあちら(「イスラーム Ⅱ」の頁の「v. シーア派(12イマーム派)など」)も参照

 「宙吊りの形相」(1989)の冒頭で参照したりしています(→ここ)。


A.S.メリキアン、五十嵐雅子・五十嵐一訳、「イラン、ブロンズ作品に表われた秘教的主題と神秘的主題」、『理想』、no.559、1979.12、「特集 イスラーム哲学」、pp.81-119
原著は A. S. Melikian-Chirvani, “Les thèmes ésotériques et les thème mystiques dans l'art du bronze iranien”, 1977
ホラーサーン地方の芸術における秘教的テーマ(10~12世紀)/ブロンズ芸術における祈願と文字の問題/14世紀神秘主義の詩的表現/サファーヴィー朝代の神秘主義的、シーア派的主題

『美術手帖』、no.494、1982.3、pp.49-119:「特集 イスラームのかたち 色彩と空間のアラベスク」
無限の表象 イスラーム芸術へのてびき(チャフチャウニ・ムハンマド・アジズ)/イスラーム美術の特質(黒田壽郎)/神の鏡としての世界 イスラーム絵画(前田耕作)/アルハンブラの空間 スペインのイスラーム(岡村多佳夫)/用語解説(佐藤知子)など

小林一枝、「イスラーム美術における天の表象 - 想像界と科学の狭間の造形」、山中由里子・山田仁史編、『この世のキワ 〈自然〉の内と外 アジア遊学 239』、2019、pp.138-148
天界の視覚化 - イメージソースとしてのテキスト/『被造物の驚異』の書における天界 - 「神の玉座」の象徴と天使像/天体の表象 - 七惑星と黄道十二宮/中近東文化センター所蔵のミナイ手陶器片/第八番目の惑星ジャウザハルと蝕の伝説

 イスラームのみを主題とする本ではありませんが;

中島智、『文化のなかの野生』、2000

 の「第4講 砂漠民の遺産-スペイン」では、スーフィズム、とりわけイブン・アラビーが言及されています。

おまけ

 外から見たイスラーム世界となると、19世紀のフランス美術史を少しかじっていれば、ただちに〈オリエンタリズム〉というジャンルが思い浮かびます。
 他方、

エドワード・W・サイード、板垣雄三・杉田英明監修、今沢紀子訳、『オリエンタリズム』、平凡社、1986
原著は
Edward W. Said, Orientalism, 1978, +“Orientalism Reconsidered”, 1985

 以降、どのような立場をとるにせよ、サイードの議論を通過せずに話を進めることはできなくなってしまいました。同書の「『オリエンタリズム』と私たち」(杉田英明)や「訳者あとがき」(今沢紀子)にも本書が引きおこした議論が紹介されていますが、その他に目についたものとして;

彌永信美、「問題としてのオリエンタリズム 『歴史』からの撤退に向けて」、『歴史という牢獄 ものたちの空間へ』、青土社、1988、pp.19-53

 同じ著者による→こちらを参照:「仏教 Ⅱ」の頁の「vi. 仏教の神話など」、また〈オリエンタリズム〉に関して→そちら(「ルネサンス、マニエリスムなど(15~16世紀)」の頁の「ギヨーム・ポステル」の項)も参照

 美術史上の〈オリエンタリズム〉について、日本語で読めるものから;

リンダ・ノックリン、坂上桂子訳、「Ⅲ 虚構のオリエント」、『絵画の政治学』(フェミニズム・アート)、彩樹社、1996、pp.61-92+原注
原著は Linda Nochlin, The Politics of Vision. Essays on Nineteenth-Century Art and Society, 1989

稲賀繁美、「第1章 オリエンタリズム絵画と表象の限界」、『絵画の東方 オリエンタリズムからジャポニスムへ』、名古屋大学出版会、1999、pp.9-69+註

 また、建築史的なものとして;

シュテファン・コッペルカム、池内紀・浅井健二郎・内村博信・秋葉篤志訳、『幻想のオリエント』、鹿島出版会、1991
原著は Stefan Koppelkamm, Der imaginäre Orient. Exotische Bauten des achtzehnten und neunzehnten Jahrhunderts in Europa, 1987

 →こちらにも挙げておきます:「図像、図形、色彩、音楽、建築など」の頁の「v. 建築など」の冒頭、また→「怪奇城の肖像(幕間)」の頁や、『恐怖の足跡』(1962)の頁でも触れました

 さて、虚構としてのイスラーム世界を描こうとしたものは、とりわけ『千夜一夜物語』ないし『アラビアン・ナイト』に触発されて、無数に生みだされたものと思われます。
 その受容史として;


国立民族博物館編、西尾哲夫責任編集、『アラビアンナイト博物館 ガラン訳「千一夜」出版300年記念』、東方出版、2004

西尾哲夫、『アラビアンナイト - 文明のはざまに生まれた物語』(岩波新書 1071)、岩波書店、2007

 『アラビアン・ナイト』とは別に;

Farhad Daftary, The Assassin Legends. Myth of the Ismaʻilis, I. B. Tauris Publishers, London, New York, 1994
『暗殺者教団の伝説 イスマーイール派の神話』
序論/歴史と中世ムスリムの著述におけるイスマーイール派/イスラームとイスマーイール派についての中世ヨーロッパの知覚/諸伝説の起源と初期における形成//
附録 シルヴェストル・ド・サシの〈暗殺者教団〉についての『覚書』;
(Farhad Daftary)/アントワーヌ・I・シルヴェストル・ド・サシ、Azizeh Azodi 訳、Farhad Daftary 編、『暗殺者教団の王朝、彼らの名称の語源についての覚書』など、
222ページ。

 同じ著者による→こちらを参照:「イスラーム Ⅱ」の頁の「vi. イスマーイール派など


 きちんとした概観は上の文献で得ていただくとして、イスマーイール派とヤズィード派についてはそれぞれその冒頭で挙げたので(→そちら:同頁同項と、あちら:本頁上掲「ヤズィード派」の項)、それ以外のものでとりあえず思いつくものだけ挙げておけば;

ウィリアム・ベックフォード、川崎竹一訳、『呪の王 バテク王物語』(角川文庫 赤 406-1)、角川書店、1976
原著は William Beckford, Vathek, 1782/1786

 『ヴァテック』の邦訳は次の本にも収められています;

東雅夫編、『ゴシック名訳集成 暴夜(アラビア)幻想譚 伝奇ノ匣 8』(学研M文庫 ひ 1-4)、学習研究社、2005
ヴァテック(ウィリアム・ベックフォード、矢野目源一訳)/黒島王の伝 『開巻驚奇 暴夜物語』より(永峰秀樹訳)/黄銅の都城の譚 『一千一夜譚』より(日夏耿之介訳)/シャグバットの毛剃(ジョージ・メレディス 皆川正禧訳)/シャグバットの剃髪(小泉八雲、田部隆次訳)/蓬萊(皆川正禧)/サイプレス 『アラビアの夜の種族』外伝(古川日出男)//解説など、
698ページ。


エドガー・アラン・ポオ、高松雄一訳、「シェヘラザーデの千二夜の物語」、『ポオ全集 2』、東京創元新社、1970、pp.406-426
原著は Edgar Allan Poe, “The Thousand and Second Tale of Scheherazade”, 1845.2

 ポーについては→こちらも参照:「ロマン主義、近代など(18世紀末~19世紀)」の頁の「viii. ポーなど

スティーヴンスン、河田智雄訳、『自殺クラブ』(講談社文庫 18-1 BX35)、講談社、1978
原著は Robert Louis Stevenson, The New Arabian Nights, 1882

 原題は『新アラビア夜話』。ただし舞台は「ビクトリア朝時代後期のロンドンのど真ん中やパリ」(「解説」、p.222)です。

F.マリオン・クロフォード、船木裕訳、『妖霊ハーリド』(ハヤカワ文庫 FT 79)、早川書房、1985
原著は F. Marion Crawford, Khaled. A Tale of Arabia, 1891

 同じ著者による→こちらを参照:『ワルプルギスの夜 - ウルフ VS ヴァンパイア -』(1971)の頁の「Cf.

スティーヴン・ミルハウザー、柴田元幸訳、「シンバッド第八の航海」、『バーナム博物館』(海外小説の誘惑 白水Uブックス 海外小説 140)、白水社、2002
原著は Steven Millhauser, "The Eighth Voyage of Sinbad", The Barnum Museum, 1990

 同じ著者による→こちらを参照:『アッシャー家の末裔』(1928)の頁の「おまけ」.

J.L.ボルヘス、『七つの夜』、2011、pp.73-99:「第3夜 千一夜物語」

 ボルヘスについて→こちらも参照:「近代など(20世紀~) Ⅳ」の頁の「ボルヘス」の項

古泉迦十、『火蛾』(講談社ノベルス コJ-01)、講談社、2000

 スーフィズム探偵小説です。

古川日出男、『アラビアの夜の種族』、角川書店、2001

 本書から p. 454 の一文をエピグラフにしたことがありました→「あわいよりあわあわと泡が立ち」、『秋岡美帆展』図録(2002) [ < 三重県立美術館のサイト

G.ウィロー・ウィルソン、鍛冶靖子訳、『無限の書』(創元海外SF叢書 12)、東京創元社、2017
原著は G. Willow Wilson, Alif the Unseen, 2012

 「幽精(ジン)」およびその世界との交わりが軸の一つになるほか、円柱の都イレムも登場します(第12章)。「アイレム」の訳語でクトゥルー神話に出てきたことが思いだされますが(『エンサイクロペディア・クトゥルフ』、2007、pp.20-21 など参照)、もともとは『クルアーン』「89 夜明けの章」6~8 に由来するとのことで、この点については;

堀内勝、「亡びたアラブ・アード族伝承(4) - シャッダード王と円柱立ち並ぶ都イラムについて -」、『貿易風 - 中部大学国際関係学部論集』、第3号、2008、pp.138-155 [ <e-LIB リポジトリ(中部大学)]

 小説以上に、ある意味問題のあるイメージを形成するに与って力あったのは映画でしょう。
 例によって思いつくものとしては、まず何より、レイ・ハリーハウゼンが特撮を担当した


シンバッド七回目の航海』(1958、監督:ネイザン・ジュラン)

 同じくハリーハウゼンの特撮で、初発的な初々しさは徐々に減じていく感なしとしない気がするのですが、

シンドバッド黄金の航海』(1973、監督:ゴードン・ヘスラー)

『シンドバッド虎の目大冒険』(1977、監督:サム・ワナメイカー)

 前掲『アラビアンナイト博物館』(2004)には「アラビアンナイト関連映画一覧」(pp.124-126)が掲載されていますが、他に見た範囲内で特撮を活かしたものとして;→こちら(本頁の「x. クジャタ、バハムート、ファラク、その他」の項)でも挙げた

『バグダッドの盗賊』(1940)

 音楽方面では、リムスキー=コルサコフの交響組曲『シェヘラザード』 (1888)をはじめとして、あまたあることでしょうが、ここでは;


Renaissance, “Song of Scheherazade”, Scheherazade and Other Stories, 1975(邦題:ルネッサンス、「シェエラザード夜話」、『シェエラザード夜話』)(1)

 アルバムのB面全体を占める組曲。
1. 大鷹俊一監修、『ヤング・パーソンズ・ガイト・トゥ・プログレッシヴ・ロック』(ONTOMO MOOK)、音楽之友社、1999、p.89。
 『200CD プログレッシヴ・ロック』、立風書房、2001、p.74。
 深見淳・松崎正秀監修、『UKプログレッシヴ・ロック メインストリーム・エディション~The Golden Era』(THE DIG presents Disc Guide Series #017)、シンコーミュージック、2004、p.55。
 岩本晃一郎監修、『ブリティッシュ・プログレッシヴ・ロック100』(Masterpiece Albums vol.2)、日興企画、2012、p.77。
 →こちらも参照(『妖婆死棺の呪い』(19673)の頁の「おまけ」)。
 第1期ルネッサンスについては→そちらを参照(「ルネサンス、マニエリスムなど(15~16世紀)の頁の「おまけ」)

 また

David Bowie, "Heroes", 1977

 からB面ラスト"The Secret Life of Arabia"(2)
2 . 『ストレンジ・デイズ』、no.90、2007.3、「デヴィッド・ボウイ~八つの時代」、p.11。
 →あちらも参照:『ハンガー』(1983)の頁

Amarok, Sol de medianoche, 2007(邦題:アマロック、『真夜中の太陽』)

 7曲目が
"Ishak el pescador"(「漁師イシャーク」)。『千夜一夜物語』に触発されたとのことで、

"El geni rebel"(The Rebel Genius)
"Meitat home meitat pedra"(Half Man Half Stone)
"El castell de les cent doncelles"(The Castle of the One Hundred Maidens)
"El gran secret"(The Great Secret)
"Tornada a la llar"(Ishak Returns Home)


の5部構成。歌詞はカタルーニャ語です。
 同じアルバムから→こちらも参照(「ユダヤ Ⅲ」の頁の「おまけ」)


Maneige, Libre service - Self-service, 1976

カナダのプログレ系バンドの4枚目、元のLPではA面5曲目
"Bagdad"、1分26秒、器楽曲。
 同じアルバムから→こちらの2も参照:『美女と野獣』(1946)の頁の「おまけ


Siouxsie and the Banshees, juju, 1981(邦題:スージー・アンド・ザ・バンシーズ『呪々』)

 4枚目のA面3曲目が
“Arabian Knights”(「アラビアン・ナイト」)、3分8秒。
 →そちらも参照(「中国 Ⅱ」の頁の「おまけ」)


Ian Anderson, Divinities. Twelve Dances with God, 1994(邦題;イアン・アンダーソン、『ディヴィニティーズ:神との12のダンス(舞曲)』)

 その2曲目が、“In Sight of the Minaret”(邦題;「サイト・オブ・ザ・ミナレット」)、3分54秒、器楽曲。
 このアルバムからは→あちらを参照(「北欧、ケルト、スラヴなど」の頁の「おまけ」)


 ちなみにミナレットにまつわる曲といえば→ここも参照:「怪奇城の外濠 Ⅲ」の頁の「おまけ
 
2014/02/21 以後、随時修正・追補
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