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美女と野獣
La belle et la bête
    1946年、フランス
 監督   ジャン・コクトー 
撮影   アンリ・アルカン
編集   クロード・イベリア 
 プロダクション・デザイン   クリスティアン・ベラール、リュシアン・カレ 
 セット装飾   リュシアン・カレ、ルネ・ムレール 
    約1時間33分* 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ 

VHS
* [ IMDb ]によると、フランス版は1時間36分とのこと。
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 超自然現象は起こるものの、怪奇映画と呼ぶにはいささか語弊があります。とはいえ舞台は古城で、けっこう怪奇色を出しています。城の内部はセットによるものなのでしょうが、それ以外に[ IMDb ]によると、北フランスはピカルディー地方オワーズ県サンリス郡にあるラレ城 Château de Raray, Senlis, Oise およびアンドル=エ=ロワール県ロシュコブロン郡 Rochecorbon, Indre-et-Loire でロケしたとのことです。

 〈野獣〉の城が舞台となるに先立って、〈美女〉とその家族が暮らす館が登場し、けっこう面白い空間を見せてくれます。玄関から入ると正面に階段があって、踊り場を経て左右に枝分かれする。右に分かれた先は映りませんが、左に分かれたものは、二階の高さで壁に沿った廊下となり、その先が部屋になっています。中2階の踊り場、廊下それぞれに窓が設けられているのですが、高さに応じて段差があるのがうれしいところです。さらにうれしいのは、廊下の先から部屋に着く手前が、六角形くらいの平面になっているのでした。
 1階、階段の左手は奥に暖炉のある居間になっています。1階の床は市松模様で、2階の部屋の床は板貼りでした。
 また一家の父親が出発する場面で外観が映るのですが、扉は地面から5~6段は上がった位置にあります。扉から門までの壁には窓がいくつも開いているのですが、1階2階それぞれで、やはり窓の間に段差が設けられていました。
 一家の息子とその友人がしゃべっているのは酒場らしく、奥から手前にテーブルが伸び、そのすぐ奥にさらに奥への入口が接しているかと思えば、左上には階段が見え、また右は下に降りるようになっているらしく、短い場面ながらここでも空間の分岐が押さえられています。


 失意の父親の帰途、夜の森には霧がたなびき、雷が鳴ります。左下に暗い部分が額縁をなし、そのすぐ内側に半暗部、さらにその先に建物らしき、しかしはっきりとはわからないごちゃごちゃした光景が見えます。奥にあったのは城の入口で、左側に折れ曲がる階段、右下には石像に囲まれた上部が半円形の木の扉がありました。しかしこの扉の奥に入れるのは馬だけで、父親は階段をのぼってやはり半円アーチの玄関に向かう。下から光が当てられ、影が大きく落ちます。
 玄関から入ると暗い廊下で、壁から腕が突きだし、燭台を支えている。この腕の列は7~8箇ほど連なっていて、後の場面で廊下の両側の壁に並んでいることがわかります。天窓か何かがあるらしく、上からも光が落ちています。
 その先には暖炉、その前に丸いテーブルがあります。暖炉の上には時計、両側には半柱と胸像が配されているのですが、この胸像がやけに写実的で、目が光り首を回すのでした。人間が演じているのでしょう。テーブルの上には燭台が置かれ、はえだした腕が給仕する。椅子も凝った背もたれを見せてくれます。
 城の外には庭園がひろがっていて、欄干の上には犬や獅子らしき像が並んでいます。これはサンリスのラレ城でのロケによるものでしょう。壺をのせた柱が見えたかと思えば、高い柱の上に犬らしき像がのっているさまが、見上げる角度で映されたりするのでした。


 父親に替わってヒロインが〈野獣〉の城にやってきます。彼女が通り過ぎると森の木立は道を閉ざす。城内に入る場面はスロー・モーションで撮られ、夢幻感を高めてくれます。腕の列の廊下を通り抜け、暖炉の右にある階段をのぼる。階段は2度ほど曲がって、奥に廊下への入口があります。そこでも燭台を支える腕がはえていました。廊下はその先から映され、奥にペディメントをのせた扉口、向かって左に白い縁のある扉が並び、右には窓の列があります。そして窓からは風が吹きこみ、カーテンをたなびかせるのでした。これはほとんど法則化しているというべきでしょう。床には柱の影が列をなしています。
 1階の広間に戻ると、暖炉の左側には半円アーチの扉口があって、奥の光源から手前に格子の影が落ちています。奥は外に出るのではなく、建物の別の区画につながっているようで、野獣が一度はここから出てきます。
 またこの扉口のさらに左に階段があって、上から光が射す。野獣は別の場面でここからも登場し、城の空間の錯綜加減を暗示してくれます。ちなみに、野獣がふだん、どこでどんな風に暮らしているのかは、映画の中では描かれません。登場するのはたいがいがヒロインのいるところに現われるという形で、ヒロインが里帰りした際には当然一人でいるわけですが、それもヒロインの部屋で嘆く姿でした。ドラキュラ伯爵なら昼間は納骨堂の棺桶に眠っているでしょうし、人狼なら満月の夜以外は普通の人間なのでしょうが、この野獣の場合はどうしているのでしょうか。
 ともあれ階段の上には白い彫像が並び、ヒロインの部屋にいたる廊下につながっているらしい。ヒロインが暗い廊下をさまよう場面では随所に白い胸像をのせた半柱があり、窓には太い十字形の桟がはめられています。これだよこれ、といった感じで、古城映画愛好家にはたまらなかったりするのでした。

 古城での場面はだいたい夜のようで、庭園は日が出てからの話が多いようです。これは撮影の都合に応じているのでしょうか。最初に父親の馬が入っていった外の階段下の扉の奥には泉があって、これはさらに後の場面でのグロッタと同じものかどうかは、よくわかりませんでした。
 また城の半円のバルコニーから見下ろす形で、別棟に当たる、宝物を貯めこんだ〈ディアナの館〉が映ります。これは模型でしょう。


 ことほどさように怪奇映画とはいいがたいにせよ、怪奇映画的古城に惹かれる向きには見逃せない作品です。なおラストで呪いを解かれた王子とヒロインは、いかにもバロック期の絵に出てきそうな、明と暗の雲の中へ飛翔していきます。余談になりますが、昔テレヴィで見て以来、このラスト・シーンで二人はなぜか死んでしまい、昇天したものだとずっと思いこんでいました。不思議な結末だわいと思い続けてきたわけです。今回見直してみれば飛び立つ前に台詞できちんと説明されており(これはこれで筋が通っているとはいいがたいにせよ)、言葉がすっぽ抜けてイメージだけが頭に残ったという仕儀なのでした。
Cf.,  レオン・バルサック、『映画セットの歴史と技術』、1982、p.234

原作の邦訳は;
ボーモン夫人、鈴木豊訳、『美女と野獣』(角川文庫 ホ 4-1)、角川書店、1971
中の表題作(pp.5-32)
原著は
Jeanne-Marie Leprince de Beaumont(1711-1780), Le magasin des enfants, 1757
邦訳は原著から物語の部分のみを訳したもの(「解説」、pp.265-271)。全15篇。
おまけ  David Bowie, "Heroes", 1977
からA面1曲目"Beauty and the Beast"
こちらも参照

 
 2014/10/21 以後、随時修正・追補
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