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インフェルノ
Inferno
    1980年、イタリア 
 監督   ダリオ・アルジェント 
 撮影   ロマーノ・アルバーニ 
 編集   フランコ・フラティチェッリ 
美術   ジュゼッペ・バッサン 
セット装飾   フランチェスコ・クッピーニ、マウリツィオ・ガッローネ 
視覚効果   マリオ・バーヴァ(クレジット無し) 
    約1時間47分 * 
画面比:横×縦    1.85:1
    カラー 

DVD
* [ IMDb ]によるとイタリア版は約2時間とのこと

………………………

 2016年3月10日、キース・エマーソンが逝去したとのことです。享年71歳。きちんと追いかけてきたなどとはとても言えたものではありませんが、それでも引っ張りだしてみれば、ザ・ナイスの2枚目 Ars Longa Vita Brevis (1968、日本版は『少年易老学難成』)と4枚目 Five Bridges (1970、『組曲~「五つの橋」』)、それに解散後1枚目からの曲を軸に発売された Autumn '67 - Spring '68 (1972、『オータム'67 アンド・スプリング'68』→こちらも参照)、エマーソン・レイク&パーマーの1枚目(1970)から3枚組ライヴ Welcome Back, My Friends, to the Show That Never Ends... Ladies and Gentlemen (1974、『レディーズ&ジェントルメン』)までのLPと、あわせて計7点出てきました(→こちらも参照)。とはいえ EL&Pの2枚目 Tarkus (1971、『タルカス』)と最初のライヴ Pictures at an Exhibition (1971、『展覧会の絵』→こちらも参照)はずっと後にCDで買ったというところが、中途半端なファンたるゆえんでしょう。
 ともあれキース・エマーソンのキーボード、とりわけピアノと単音シンセサイザーに両脇からはさまれたオルガンは、キング・クリムゾンにおけるロバート・フリップのギターとはまた違った形で、プログレッシヴ・ロックにおけるハード・ロックないしヘヴィー・メタル的なるものを体現していたと見なすこともできるでしょうし、何より、クリムゾンも含めて生真面目になりがちなプログレ勢の中で、のりのりの構築系馬鹿ポップ(大いに誉めています)という点では、ジェントル・ジャイアント(→こちらも参照)と比べることができるかもしれません。その点でそれぞれに性格を異にするキーボードをリード楽器とした同時期のバンド、イギリスのクォーターマス(→こちらを参照)、エッグ、グリーンスレイド、イタリアのバンコ、レ・オルメ、トリアーデ、オランダのトレイス、スイスの SFF こと SCHICKE FÜHRS FRÖHLING などなどの中でも際だっていたように思われます。キーボードによる馬鹿騒ぎという点では、パトリック・モラーツの『i』(1975→こちらを参照)がためをはれるでしょうか。
 かくして、ターン・テイブルのゴムがいかれてきたのか、少し音がおかしいような気がするLPプレイヤーで聞き返し、ケーブルTVで放映された1993、2010年のライヴを再見するに加えて、黒田亜樹『タルカス&展覧会の絵』(2003)、コクー「タルカス変奏曲」(アンソロジー『邦楽ニューウェーブ』(2003)所収)、吉松隆『タルカス クラシック meets ロック』(2010)、さらにモルゴーア・クァルテット「悪の教典#9 第一印象・パート1」(『21世紀の精神正常者たち』(2012)所収)、同「トリロジー」および「ザ・ランド・オブ・ライジング・サン」(『原子心母の危機』(2014)所収)などを再聴したことでした。
 イエスのクリス・スクワイアが2015年6月27日に逝去したことを後から知人に教えてもらった際には、本サイトと結びつけるネタをよう見つけなかったのですが、2016年1月10日に亡くなったデヴィッド・ボウイについては出演作『ハンガー』(1983)と『ラビリンス -魔王の迷宮-』(1986)を取りあげることができました。エマーソンはといえば何度か映画音楽を手がけており、見る機会のあった中で『幻魔大戦』(1983、監督:りんたろう)や『ゴジラ FINAL WARS』(2004、監督;北村龍平)を怪奇古城映画と見なすのはさすがに無理があるものの、『インフェルノ』、そして単独で担当しているわけではありませんが『デモンズ3』(1989)は十二分に守備範囲内であります。というわけでこの二作を取りあげて追悼に代えることといたしましょう。

 本人の希望でクレジットされていないということですが、本作にはマリオ・バーヴァが参加しています(下掲の矢澤利弘、『ダリオ・アルジェント 恐怖の幾何学』、2007、pp.163-164。バーヴァについては→こちらなども参照)。矢澤下掲書では「特殊効果」、[ IMDb ]では"visual effects"となっており、具体的にどんな形で寄与したのかは詳らかにしないものの([ IMDb ]の"Trivia"にはカメラの操作、照明、視覚効果、第2班の演出、演技指導などが挙げられていました。他方下掲のTroy Howarth, The Haunted World of Mario Bava, 2002/2014, p.155 によると月蝕、ニューヨーク市街のマット画、クライマックスでの鏡像の処理に限られるという)、照明なりセットにおける赤、青を始めとする色彩設計はバーヴァの作品を連想させずにいません。もっともバーヴァが参加していない([ IMDb ]によると本作同様謝辞を捧げられているとのこと)『サスペリア』(1977)でも同様の画面造りは見られましたから、もともと関心を抱いていたアルジェントが本人の参加を要請したと見なせるのかもしれない。他方手もとのソフトの原版のせいもあるのでしょうか、バーヴァの『白い肌に狂う鞭』(1963)や『呪いの館』(1966)での閉域の息苦しいまでな濃密さは本作では感じがたく、微妙に稀薄な空虚さが漂っているような気がします。ここにアルジェントとバーヴァの時代の違いを読みこむこともできるかもしれません。とはいえバーヴァ自身、『モデル連続殺人!』(1964)や『血みどろの入江』(1971)ではいかにもイタリアらしいといっては語弊のありそうな、過剰な残酷描写を繰りひろげていたのですから、単純に割り切れるものではないのでしょう。
 ちなみに本作はバーヴァの最後の仕事になったとのことです。またバーヴァの息子ランベルト・バーヴァが副監督をつとめています。エリーゼ伯爵夫人役のダリア・ニコロディはアルジェントの当時のパートナーですが、バーヴァの劇場映画監督作としては最後のものとなった『ザ・ショック』(1977)で主演していました。骨董店主カザニアンに扮したサッシャ・ピトエフは『去年マリエンバートで』(1961)での主役の一人でした。『サスペリア』に続いてアリダ・ヴァリも出ています。


 [ IMDb ]にはロケ先として、ニューヨーク(おそらくセントラル・パーク)とともに、ローマのミンチオ広場 Piazza Mincio が挙げられていました。バーヴァの『知りすぎた少女』(1963)で見知った地名ですが、イタリア語版ウィキペディアの"Quartiere Coppedè"のページ(→こちら)に掲載された画像"L'arco tra i Palazzi degli Ambasciatori"(大使たちの館の二棟(?)を結ぶアーチ)には、サラ(エレオノーラ・ジョルジ)が図書館を出る場面でお目にかかることができるでしょう(追記:イタリア語で不勉強のため中身はよくわからないのですが、ロケ先に関しウェブ上で出くわした"LOCATION VERIFICATE: Inferno (1980)"([ < il Davinotti ])を参照)。

 お話は
1. ニューヨーク、集合住宅/ローズ(アイリーン・ミラクル)
2. ローマ/(ローズの弟マーク(リー・マクロスキー)→)マークの友人サラ(→マーク)
3-1. ニューヨーク/ローズ
3-2. ニューヨーク/マーク→エリーゼ(→カザニアン→執事+A.ヴァリ)→マーク
という場所/主要人物で進みます。


 E.Varelli, The Three Mothers なる本が大写しになります。著者は建築家で、表題の〈三人の母たち〉のためにローマ、ニューヨーク、フライブルクに家を建てたという。フライブルクの家が前作『サスペリア』の舞台だったわけです。
 本を読む女性(後に名がローズとわかります)の背後右のガラス窓は薄緑、左の壁は黄色い。彼女は弟のマークへの手紙を書きます。
 建物の正面を描いた立面図が映され、その実物に入れ替わります。夜です。石造の4階建て、ただし中央部分は少し迫りだし、下に玄関、上は5階まである。本体は暗緑色に見えますが、地面付近だけ赤の光が当たっています。赤い光は左隣の家まで伸びている。玄関といくつかの窓はレモン色の光を漏らしていました。向こうの方はビル街のようです。
 左隣の家には、ガラスに"KAZANIAN / ANTIQUES"とある。骨董屋と集合住宅の間は少し奥まり、車庫らしき扉が塞いでいます。奥まった部分の集合住宅寄り、右手の地面に地下への格子張り揚げ戸がある。
 ローズは骨董屋の店主カザニアンに本のことを尋ねます。そこで買ったのでした。著者は昔の錬金術師だとカザニアンはいいます。松葉杖をついています。
 約7分、骨董店の内外での青と赤茶の照明が交互に配されるいかにもバーヴァ風の場面をはさみ、古城映画的山場前哨戦です。ローズは地下への揚げ戸を開く。すると階段が回転して揚げ戸から地下の床につながります。3段ほどでいったん水平になり、しかしすぐにそのままおりていく。
 地下室は物置のようでした。奥でさらに下へ、湾曲階段がおりています。おりた先は柱が林立する部屋です。やはり青と赤の照明が交互に照らしている。
 樋から床に細い水路が延びています。カメラは低い位置でそれをたどり前進する。先に水の溜まった方形の穴が開いていました。水は緑に見えます。ローズは鍵をそこに落としてしまう。灯りを持ってきて腕を差しいれますが届かず、下へ潜っていきます。鍵がないと確かに困るでしょうが、それでも潜るかと思わずにはいられません。
 潜った先は1階分の高さと広さがあるようです。何やら肖像画の下辺のみが見えます。奥の扉がゴトゴトいい、向こうから光が射す。赤剥けた屍が漂ってきます。

 慌てて這いあがったローズは、ずぶ濡れで玄関ホールに戻ってきます。縦長の磨りガラスの窓に加えて、同じ体裁の柱が随所に立っています。ガラスは中央を縦線が貫き、縦線からは左右にくだる枝状の線が上下に出ている。壁の上半は赤い。
 ローズはそこを左から右へ横切ります。先にエレヴェーターがある。その左には少しあけて扉口とガラス柱が見えます。エレヴェーターの右にも奥への開口部があり、ローズはそちらに入るのでした。
 一方地下では木の柱や梁が崩れ落ち、不規則な格子に区切られた空間となります。


 約17分、第2部、4月のローマです。円形階段教室で音楽史か何かの講義が行なわれています。姉からの手紙をためつすがめつしていた口髭の青年マーク・エリオットは、前・下の席にいた白いペルシャ猫連れの娘(アニア・ピエロニ)のことが気になります。彼女の唇は真っ赤です。突風で窓が開きます。

 講義が終わるとマークの友人サラは、彼が手紙を忘れていったことに気づきます。約21分、古城映画的山場その1です。降りしきる豪雨がアップになり,、次いでタクシーに乗ったサラが手紙を読む。行き先をバーニ街 Via dei Bagni 49 に変更します。日本語字幕では「古文書館」となっていましたが、画面には"BIBLIOTECA FILOSOFICA / FONDAZIONE ABERTNY"とあり、直訳すると「哲学図書館」でしょうか。サラはタクシーから降りる際、扉のどこかの針で指を突いてしまいます。
 10数段の階段をあがると、図書館の玄関口です。ガラス扉の向こうは赤く見える。それに対し手前の街路は青を帯び、また図書館の向かいに当たる画面手前右には噴水があるのですが、下から暗紫色の光が当てられています。
 サラは中に入って右から左へ進みます。薄暗い。真紅のカーテンがアップになる。そこを開くと、吹抜の開架閲覧室でした。壁一面を書架が埋め、2階のみならず3階の回廊まであります(追記:上掲"LOCATION VERIFICATE: Inferno (1980)"([ < il Davinotti ])によるとローマのサンタゴスティーノ広場にあるアンジェリカ図書館 Biblioteca Angelica, Piazza Sant'Agostino, Roma で撮影されたという)。振りかえると先のカーテンの上には窓があり、その向こうは青でした。
 部屋の中央あたりにある低い書架に『三人の母たち』が見つかりました。その書架には赤い光が当たっています。著者である建築家兼錬金術師は失踪し、その日記を友人が刊行したのがこの本なのでした。
 「サラ」と呼び声が聞こえます(ここで彼女の名前がわかりました)。カーテンやその手前は青く染まっている。
 部屋の中央で「出口」と標識のかかった階段が階下へ降りています。閉館の合図に本をこっそり持ちだそうとするサラは、ここを下ります。下は青い。下りたすぐ奥が壁、左に扉があり、廊下は右に伸びています。
 青い廊下を左奥から曲がってきて、サラは手前に進みます。天井は半円アーチの梁が横切っている。
 左先、扉口の向こうには螺旋階段が上下に伸びていました。階段室は赤を帯びています。手前右の壁は青い。下に向かいます。
 下りて右から左へ進む。本棚が一つ、また壁の上方に窓があり、向こうを猫が横切ります。そこが地面の高さなのでしょうか。
 先で廊下は右へ折れていました。左の壁には二つ扉口が並んでいます。右の扉口の向こうは赤い。他方壁は右で青くなります。サラは左の扉口から中に入る。奥に長く伸びる部屋で、ゆるいアーチが前後に二つ横切っています。いくつか火をかけられた鍋がぐつぐつ煮立っている。壁は赤い。図書館の地下になぜこんな実験室のようなところがあるのかはよくわかりません。
 奥の突きあたりで背を向けた修道士風の人物が何か作業しています。その前に小さな鏡があり、サラが手にした本の表紙が映ります。サラは逃げだす。
 暗い廊下を左から右へ、右で奥へガラス戸が3~4重になっています。最後の屋外へのガラス戸で服が引っかかりますが、何とか脱出する。屋外に出ると左に最初に入った階段上の玄関口が来るのでしょうか、さらに左奥で街路に大きなアーチがトンネル状にかぶさっています。その向こうは街路です。アーチも図書館の玄関口付近も何かと装飾的に分節されています。先に触れたミンチオ広場、大使たちの館のアーチであります。ここまでで約31分でした。

 第2部後半となります。サラはまたしてもタクシーから降ります。先に大きな建物があり、中に入る。エレヴェーターで4階に行きます。乗りあわせた男性、テレビのスポーツ記者(後に名がカルロとわかります)を呼びとめ、怖いからと自室につきあわせます。
 窓の外は満月です。鎧戸が青く染まっています。マークに電話する。サラがかけたレコードから流れるヴェルディの曲が、このシークエンスの間ずっと響いています。黒い手袋をはめた手が、黒紙のでできた少女の連なりにはさみを入れる。緑の蜥蜴が蝶を咥えています。娘が首を吊っている(誰なのでしょう?)。建物の外観、これらが交互に反復されます。
 ライトがちかちかします。カルロはヒューズを見に、左から奥へ伸びる廊下を進む。壁は赤く、奥は暗青色です。突きあたりに扉があってその先が物置だという。
 戻ってこないカルロを探してサラは物置に入ります。中で下りの階段が数段折れ曲がっており、左奥に部屋が続いているらしい。壁は黄土色、床はグレーです。首にナイフを突きたてられたカルロが出てきて覆い被さり、動けないサラにナイフが突きたてられるのでした。


 マークがサラの部屋にやってきます。寝室は壁が青い。その向かいで仕切り壁代わりか、大きく布を張ってあります。そこを破って出てきたのは刺されたサラでした。1955年の第1回具体美術展での《入口》他や翌年の第2回具体美術展での《通過》を始めとする、村上三郎による一連の〈紙破り〉が連想されたりもするのでした。
 屋外に出てきたマークの前を、車が通りすぎます。白猫を抱いた娘が乗っていました。
 姉に電話します(ここで姉の名がローズとわかります)。声がよく聞こえません。奥の本棚が赤く染まっています。

 約40分、第3部の1、ニューヨークのローズ篇その2、かつ古城映画的山場その2です。電話機を手にしたローズの背後左には縦長の窓があり、緑になっています。右奥の方、扉口の向こうでさらに奥、左右へ廊下が伸びているらしい。中央突きあたりには何でしょうか、何やら家具が据えられ、その左右の壁は下半が黒い。それを白い線が格子状に分割し、上から2段目では山型に白い線が連なっています。周辺の柱も黒です。
 ローズはここまでやって来て、左右に振り返ります。廊下の右は突きあたりに扉、左も同様ですが、こちらの扉には磨りガラスの窓が嵌っている。窓の形は上端下端の隅が曲線をなし、上は一つ、下は二つに分かれています。その向こうに人影がある。
 ローズは戻り、左から右へ部屋を横切ります。窓は緑、壁は青く染まっている。いったん仕切られた奥に扉がありました。扉のガラス製取っ手で手を切ってしまいます。サラがタクシーを降りる際指を刺されたことが思い浮かぶところです。
 外に出ると、壁は赤い。すぐ右の壁にカーテンがかかっており、青の照明を当てられています。カーテンの向こうに扉があり、その奥は上下に階段が伸びている。
 玄関前の外観がはさまれます。画面手前の街灯、それに奥の建物のすぐ前の街灯も赤みを帯び、風が強い。
 下から裏階段が見上げられます。普段使われていないということなのでしょう、廃墟のように荒れています。左に横長の窓、右上天井には穴が開き、青い光を漏らしている。奥の左からローズが出てきて手前へ、カメラは少し左に振られる。
 またしても外観が挿入されます。街灯が暗くなる。骨董店の2階の窓は赤く、カメラはそこに右から接近します。
 荒れ階段です。カメラは下から上へ向きを変える、階段室は何階分もあります。右からローズが顔を出して見下ろす。彼女が下りてくるとカメラは上から下へ首を振ります。左の壁で影が二重になっている。
 階段をおりた先、ガラス窓付きの4連扉が見えます。裏口でしょうか。向こうに人影がありました。
 ローズは上に戻ります。揺れる薄いカーテンの向こうへ、奥では細い右下がりの梁だの水平の梁だのが見え、そこに何やら布が引っかかっています。奥は青い。突きあたりの壁では水面の反射でしょうか、ゆらゆら揺れています。背を向けて進むローズは、その手前を右に入る。前進していたカメラは少しゆらゆら壁を映したかと思えば、急速で左から右へパンします。先にのローズがくぐった薄布の向こうに人影が現われる。
 やや上から、奥へ伸びる暗い廊下がとらえられます。左で随所に青い光が洩れています。右手前は赤いのですが、点滅している。前の廊下ほどは荒れていないようです。右奥からローズが出てきて、手前に進む。
 ローズの背が捉えられ、奥へ進みます。暗い。雷が鳴る。左のこちら向きの壁に、斜めの欄干の影が落ちている。光は緑です。奥は赤と青が交替している。カメラは前進しています。割れたガラス窓がはさまれ、ローズは立ち止まって振りかえる。
 先にローズが通った荒れ廊下をカメラは前進します。ローズはさらに奥へ、暗がりに赤、青、緑が加わっている。突きあたり手前・右の扉を中に入ります。
 またしても荒れ廊下を前進するカメラをはさみ、ローズが入った部屋は何やら垂れさがる布だか紙、また蜘蛛の巣だらけでした。何やらいろいろあります。黄の光に赤、青が加わる。窓だかガラス戸の向こうは赤い。奥へ進みます。
 俯瞰されます。椅子が積みあげてあるのは食堂か何かだったのでしょうか。青と赤です。割れた窓の外から雨が降りこみます。床に水が溜まる。行ったり来たりするローズは斜めにガラスが割れた窓の前に来ますが、窓の向こうから腕が2本伸びてくるのでした。


 約48分弱、第3部の2、ニューヨークのマーク篇です。集合住宅の外観が始めて昼間に映されます。前にマークがいる。建物の銘に「1910」とあるのは建てられた年でしょうか。別のパネルには"G.GURDJIEFF / 1877-1949 / RESIDED HERE DURING / THE YEAR / 1924"と記されていました。日本語字幕では「グルジェフ館」となっていました。グルジェフについては→こちらも参照。そこでは生年を1866年としましたが、諸説があるそうです。
 屋内に入って右奥に台所らしきところがありました。そこにいたのはアリダ・ヴァリです。日本語字幕では役名は出てこなかったかと思いますが、[ IMDb ]によるとキャロルとのこと。台所を出て左の赤い壁には角を上にした正方形の棚がかかっており、斜めの格子で分割された中にそれぞれ部屋の鍵が入れてあります。ローズの部屋は4階の45号室、ちなみに彼女は詩人でした。
 鍵入れの左、扉口をはさんでエレヴェーターで、中の壁は金色です。その前に車椅子の老人アーノルド教授(フェオドール・シャリアピン・Jr.。『薔薇の名前』(1985、監督:ジャン=ジャック・アノー)、『悪霊墓地カタコーム』(1988、監督:デヴィッド・シュモーラー)、そして『デモンズ3』で再会できることでしょう)と看護士(ヴェロニカ・ラザール)がいました。

 エレヴェーターからおりた4階の廊下は、壁は赤、それに縦長磨りガラス窓があるという玄関ホールと同じデザインです。
 ローズの部屋に入ると、正面が書斎状で、奥の扉口を介して黒壁の廊下となります。暖炉の上に前にも映った建物正面の立面図がかかっていました。


 夜の外観に続いて、包丁で肉を叩くアップ、次いで数段ののぼり階段に青と赤の光が奇妙な模様を描いています。あがった奥の壁は赤く、下からの照明で左の壁に大きく欄干の影が落ちている。この印象的な眺めは後にもう1度出てくることでしょう。手持ちカメラが前進します。突きあたりの扉には下方に蓋がついており、そこから生肉入りのボールが入れられます。何かを食べる黒猫が下からのアップでとらえられますが、中にいたのは猫なのでしょうか。
 骨董屋のショー・ケイスがまず外から、それから中に入ります。
 ローズの部屋です。マークが鞄を整理している。左を向くとカメラも左へ、立面図を映しまた戻ります。
 「ローズ」という声が聞こえる。廊下に女性(ダリア・ニコロディ)がいました。裸足です。上階の者だという彼女は、壁の穴を示し、縦横に走るパイプでローズと連絡しあっていたのだという。名はエリーゼ、夫は伯爵です。
 天窓が見上げられます。赤いカーテンが開くと満月でした。右の壁は青です。執事が呼びに来てエレヴェーターに乗ります。
 骨董店です。控え部屋のカザニアンと交互に閉店後の店内をカメラが撫でます。三冊並んでいた『三人の母たち』が抜き去られる。様子を見に来たカザニアンは猫に引っかかれます。

 エリーゼは自室で執事をさがらせた後、ローズの部屋でマークと話します。声がパイプを伝わっていく。
 約1時間2分、古城映画的山場その3です。床に残る血の跡を辿って、マークは裏階段に来ました。下におります。
 どこやらの扉を開くと、螺旋階段が下に続きます。吹抜の広い部屋でした。カメラは仰角になっている。壁は薄赤で、右に大きな格子の影が落ちています。柱は青い。切り替わってカメラが俯瞰になると、角をはさんで右の壁には大きな窓が連なっており、左の壁にはパイプが伝わっています。壁は濃い青で、窓と床は赤い。マークは階段をおりる。
 エリーゼがアップになります。顔の左半は青、右半は赤、背後左は入れ替わって赤、背後右は青です。
 マークは横に長い排気口らしき窓を覗きこみます。向こうは青い。窓の赤がアップになり、奥では青が脈動しています。
 エリーゼは下へ向かう。階段室が真下から見上げられます。右から頭を突きだす。以前のローズと同じです。
 マークがふらふらになっている。
 エリーゼが下りてきてギロチン状に割れた窓のところに着きます。ローズが殺されたところです。風で窓が開く。窓から向かいの下方、マークが誰かに引きずって行かれようとしていました。エリーゼは上へ戻ろうとしますが、扉が開かない。
 最上階です。天井は低く、欄干の影が落ちています。前に出てきた青と赤の光が奇妙な模様をなしているところです。扉がありました。低い扉を開けて中に入ります。物置でした。けっこう奥に続いているようです。青の光に浸されている。猫たちが襲いかかります。ナイフが走る。


 約1時間8分、玄関ホールにふらふらになったマークが現われます。キャロルと看護士、他に二人が寄ってくる。なぜか打ちよせる波のカットをはさんで、マークは自室にいました。窓から川をはさんで街並みが見えます。窓枠を蟻が這っていました。
 エリーゼの部屋の前に来ます。廊下の壁はやはり赤く、縦長磨りガラス窓があります。
 室内には中2階への折れ曲がった階段があります。カメラは右から左へ撫でる。横長の楕円形の鏡があり、その左に執事がいました。

 マークはカザニアンと話します。今夜は49年ぶりの皆既月蝕だという。
 夜です。集合住宅の外観をはさんで、カザニアンは店内にいる猫を捕まえてずた袋に入れます。何匹も入っている。セントラル・パークらしきところにある橋を渡ります。満月です。川だか池のはたにおります。周囲は鼠だらけです。猫入り袋を沈めようとします。これはひどい。月蝕が始まります。転びます。鼠たちが襲ってくる。
 岸辺にホットドッグを売る車が駐まっていました。悲鳴を聞きつけてその店主が駆け寄り、助けるのかと思いきや、鉈を叩きつけるのでした。月蝕が終わります。


 執事とキャロルが行方の知れなくなったエリーゼの宝石を物色しています。
 約1時間22分、執事はエレヴェーターから57室に行きます。エレヴェーター内は黄土色、廊下の壁は赤、窓は青い。
 部屋に入って電灯のスイッチを入れますが、つきません。階段ホールを右から左へ横切ります。カメラもそれを追います。壁は赤く、カーテンは青い。階段の上は左に回廊が伸びており、すぐ奥に広い窓があります。そこから夜のビル街が見える。回廊の下は奥まってピアノが見え、その向こうの窓は青い。回廊は左で少し手前に折れています。その下、および右の階段下の壁には三角アーチの壁龕があり、彫像を飾ってあります。壁龕内にも赤いランプがあるようです。
 物音がします。階段ホールから枝分かれしているらしき青い廊下の奥に執事の姿が配される。あちこち見て回ります。青いカーテンの陰から手が出てくる。


 約1時間24分、キャロルが執事の名「ジョン」を呼びます。エリーゼの部屋にやってくる。電灯が付かないので、扉の脇にあった赤蠟燭の燭台に火をつける。蠟燭を1本手に進みますが、執事の屍体に驚き落としてしまいます。カーテンに火が燃え移る。消そうとしますがカーテンに巻きこまれ、窓から下へ落ちる。下は天窓のある車庫か何かでした。
 青いカーテン越しに満月が見える窓にカメラは接近する。風で窓が開き、カーテンが青から赤に変わります。


 約1時間26分、マークは立面図を見てから行ったり来たりします。また立面図の前に来る。階と階の間がやけに厚く、それが外観のフリーズに応じていることに気づきます。
 床を蟻が這っていました。孔を見つけます。青い針金を差しこむ。手を切りそうな持ち方で両刃のナイフを使い、床板を剥がします。さらに孔をひろげる。孔に猫が飛びこみます。床下に巻いた紙面がありました。ヴァレッリが署名したものでした。この間火は燃えひろがっています。
 マークは床下へ下ります。ローズが水の中へ下りていったのが思いだされるところです。下はかがみこむだけの高さですが、柱が林立しています。柱は上でアーチ状に左右へ分かれている。このあたりからコーラス付きのエマーソンの曲が響き続けます。
 奥に進むと、横長の扉がありました。開けると少し向こうに縦格子があります。扉から出ると縦の格子は階段の欄干でした。欄干の上面は赤い。階段は左下へ、一度折れて手前へ、その下の踊り場沿いの壁にも横長扉がありました。開くとやはり床下空間です。赤と青が交錯しています。
 そこには入らずさらに下へ、右に折れ、また右に折れます。その下が床でした。カメラは俯瞰しています。すぐ先に扉があります。
 中に入ると赤い壁紙に覆われている。少し奥へ進んで1~2段上がり、左に折れます。左側はガラス窓付きの仕切り壁になっており、向こうをのぞけば、吹抜の空間でした。マークがいるのは2階回廊になっているわけです。下が見下ろされ、濃褐色の壁に青い光が差しこんでいます。今度は2階回廊が見上げられる。
 また俯瞰されると扉が開いて光が差しこみ、車椅子の教授と看護士が入ってきます。画面上辺に近い鏡の前に車椅子を止め、看護士はさがります。教授の見る鏡に回廊のマークが映ります。教授は奥の部屋に向かいますが、扉口右の壁にも楕円形の鏡がかかっていました。奥の突きあたりにはローズの部屋にあったのと同じ上下が変形の磨りガラスが見えます。
 マークは追ってきて(どこから部屋に入ったのでしょうか?)、暗い部屋を通りぬけ奥の部屋へ進む。
 教授は発声器で話します。彼こそがヴァレッリだという。彼が建てた家は三人の母たちの目と耳になった、そしてこの建物が自分の躰になった。煉瓦が細胞、通路が血管、恐怖が自分の心臓だ。
 教授はマークに注射を打ちますが、転んで発声器のコードが首に絡まる。マークは打たれた液を吸いだします。自分は主ではなく召使いにすぎないと教授はいう。

 約1時間39分、煙がひろがってきました。マークは左から背を向けて右に走ります。奥に豪奢な額縁付きの縦長鏡があり、そこに階段が映っている。その前を通り過ぎ左から右へ、カメラもそれを追います。先に右上への白い階段がありました。10段ほどで廊下になる。緑の扉と赤いカーテンが上に見えます。
 階段をあがって右へ、カメラは見上げています。すぐ先に今度は下への階段が赤いカーテンにはさまれています。階段室の壁は黄色い。
 切り替わると暗い部屋の奥の扉が開かれる。マークとともに光が差しこめば、左右の壁は茶色い洞窟状でした。床は碁盤状に区切られています。この部屋は何なのでしょうか、いずれにせよ見栄えはする。そこを手前へ走る。
 次いで幅の狭い通路の左右で、暗褐色のパイプだか細い円柱が林立しています。そこを奥へ、突きあたりは粗石積みの壁にはさまれた扉です。

 中に入ると、やはり粗石済みの壁の部屋です。テーブルに女性が突っ伏している。背を向けたマークが右を見上げると、中2階回廊から左下がりの階段がおりてきていました。階段付近の壁は青い。カメラは右から左に撫でます。テーブルを通過してさらに左へ、壁には下が腰掛けになった豪華な木彫パネルが嵌めこまれ、そのさらに左には大きな方形の鏡がありました。女は看護士でした。実体が消え、鏡像だけになります。啖呵を切ります。哄笑する女は死神に変じる。
 燃えさかる中をマークは行ったり来たりしつつも何とか脱出、屋外に出るのでした。振りかえると窓々から火が噴きだしています。炎の中で両腕を挙げる死神の姿をさらに炎が覆い、クロージング・クレジットとなります。


 〈ジャッロ〉ことイタリア流犯罪スリラーを主たる持ち場とするアルジェントにとって、本作は『サスペリア』に続いて、ニコロディの発案に基づいた超自然現象が起こる2作目となります(『サスペリアPART2』(1975)や『フェノミナ』(1985)でも超能力は登場していました)。もっともジャッロでも怪奇ものでも大差ないのがアルジェントではあるのですが、他方、筋運びを二の次にしても視覚的効果を重視するという、バーヴァを始めとするイタリアB級映画から引き継ぎ、アルジェント作品でことさら目につく特徴は、本作では、筋を追うのが難儀なほど最大限に増幅されています。加えて『モデル連続殺人!』などを始めとするジャッロなどでお馴染みの生理的に訴求することを狙った残酷描写が、やはりアルジェントにあっては大いに強調されることもあって、いささか好悪が分かれるのは致し方ないところでしょう。
 そもそもサラやローズ、マークはなぜ追い回されるのか、ローマとニューヨークで実行犯は誰なのかなど、判然としない点は少なくない。本作は「ヘンゼルとグレーテル」をモティーフとしているとのことで(矢澤下掲書、p.156)、童話的な不条理さはある程度まで意図の内なのかもしれません。
 他方『歓びの毒牙(きば)』(1970)における画廊、三角階段室、画家の田舎家、『4匹の蠅』(1971)でのアーケードから廃劇場、公園の生垣と狭い路地、裏階段周辺、『サスペリアPART2』での夜の広場や廃屋敷、夜の学校などなど、アルジェント作品では面白い空間が一度ならず登場します。先にも触れたようにバーヴァに比べると出てくる建物の新旧を問わず、都会的・近代的な虚ろさをその特徴と見なせるでしょうか。本作でもローマの図書館、そして主たる舞台となるニューヨークの集合住宅、とりわけその裏階段周辺は、位置関係が定かでなく、いやに広いようにも思われる迷宮めいたあり方をもって、古城映画の衣鉢を継ぐものといえるでしょう。

Cf.,  矢澤利弘、『ダリオ・アルジェント 恐怖の幾何学』、ABC出版、2007、pp.148-165
同書から→こちらでも挙げています


The Horror Movies, 2、1986、pp.12-13

菊地秀行、「Ⅳ 怪奇映画ベスト100」、『怪奇映画の手帖』、1993、p.219

二階堂卓也、「十六人目 ダリオ・アルジェント マカロニ・ホラーの帝王」、『マカロニ・マエストロ列伝 暴力と残酷の映画に生きた映画職人たち』、洋泉社、2005、pp.214-230

[SPECIAL INTERVIEW]ダリオ・アルジェント(矢澤利弘)、『イタリアン・ホラーの密かな愉しみ』、2008、pp.56-59
山崎圭司、「女が一番、恐ろしい。-妖しげな月光を放つイタホラ女優たち」、同上、pp.82-89
矢澤利弘、「魔女 イタリアにおける魔女とはこのうえなく怖い存在」、同上、pp.134-139
矢澤利弘、「ダリオ・アルジェント 現役バリバリ!人気No.1ディレクター」、同上、pp.192-195

本作は〈ジャッロ〉の範疇には含まれませんが、とりあえず;
安井泰平、『ジャッロ映画の世界』、2013、pp.103-132:「第Ⅰ部 6 ダリオ・アルジェントのジャッロ映画」


Troy Howarth, The Haunted World of Mario Bava, 2002/2014, p.155

Tim Lucas, Mario Bava. All the Colors of the Dark, 2007, pp.1008-1019
おまけ  松井巧、『エマーソン、レイク&パーマー』(地球音楽ライブラリー)、TOKYO FM 出版、1996

キース・エマーソン、川本聡胤訳、『キース・エマーソン自伝』、三修社、2013
原著は
Keith Emerson, Pictures of an Exhibitionist, 2003

『エマーソン・レイク&パーマー 文藝別冊 KAWADE夢ムック』、河出書房新社、2016.7
こちらでも挙げています


EL&Pの『トリロジー』(1972)のB面最後の曲"Abaddon's Bolero"(「奈落のボレロ」)が
Amarok, Sol de medianoche, 2007(邦題:アマロック、『真夜中の太陽』)
でやはり最後に
"Abaddon's Bolero"(「奈落のボレロ」)として演奏されていました
同じアルバムから→こちらも参照


追記(2016/12/9):
2016年12月8日にEL&Pのメンバーの一人、グレッグ・レイクが歿したと報じられました。享年69歳。レイクはEL&Pはもとより、それに先だってキング・クリムゾンのファースト・アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』(1969)、いったん脱退したもののヴォーカルとしてセカンド・アルバム『ポセイドンのめざめ』(1970→こちらを参照)にも参加していました。合わせて追悼の意を表したく思います。


追記の2(2017/3/11):
2017年3月、
モルゴーア・クァルテット、『トリビュートロジー』
が発表されました。全曲EL&Pないしキース・エマーソンの曲で、曲目は
アフター・オール・オブ・ディス/タルカス/スティル…ユー・ターン・ミー・オン/トリロジー/ザ・シェリフ/悪の教典#9 第1印象パート1/悪の教典#9 第1印象パート2/《悪の教典#9 第3印象》への間奏曲(《石をとれ》より抜粋)/悪の教典#9 第3印象
この内「トリロジー」は上に挙げた『原子心母の危機』(2014)、「悪の教典#9 第1印象パート1」は『21世紀の精神正常者たち』(2012)収録曲と同じ音源によるとのこと(松山晋也、「曲目解説」、CD所収ライナー・ノーツ、p.11、p.13)。

 2016/4/4 以後、随時修正・追補
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