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血みどろの入江
Reazione a catena *
    1971年、イタリア 
 監督、撮影   マリオ・バーヴァ 
編集   カルロ・レアリ 
 プロダクション・デザイン、美術   セルジョ・カネヴァリ 
    約1時間24分 
画面比:横×縦    1.85:1
    カラー 

DVD
* イタリア語タイトルとして他に Ecologia del delitto 他。手もとのソフトは英語版。英題は A Bay of Blood
なお音のバランスが悪いのか、声が割れているように聞こえます。
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 マリオ・バーヴァによる〈ジャッロ〉の一つで、篇中カード占いが結果として的注するものの、はっきりした形での超自然現象は起きません。古城映画とはとてもいえませんが、バーヴァらしい廊下が1度登場することではあり、手短かに取りあげることにしましょう。以下、ネタバレがあります。
 なおこの作品はイタリア版でもタイトルが上に挙げた以外にいくつかあるようで、この点については[ IMDb ]の当該ページや下掲の安井泰平『ジャッロ映画の世界』(2013)、p.258 を参照ください。ちなみに Reazione a catena は「連鎖反応」、Ecologia del delitto は「犯罪生態学」の意。
 また主たる舞台である入江は、[ IMDb ]によればイタリア中西部、ラツィオ州ラティーナ県、ティレニア海に面したサバウディア Sabaudia, Latina, Lazio でロケされたとのことです(追記:イタリア語で不勉強のため中身はよくわからないのですが、ロケ先に関しウェブ上で出くわした"LOCATION VERIFICATE: Reazione a catena (1971)"および"VILLA PARISI A FRASCATI"(2009/10/9)([ < il Davinotti ])を参照。後者は『亡霊の復讐』(1965)や『処女の生血』(1974)でお馴染みのヴィッラでした)。

 バーヴァによる〈ジャッロ〉は『知りすぎた少女』(1963)、『ブラック・サバス 恐怖!3つの顔』(1963)第1話、『モデル連続殺人!』(1964)の後も、『クレイジー・キラー 悪魔の焼却炉』(1970)、『ファイブ・バンボーレ』(1970)が製作されていますが(それぞれ『ジャッロ映画の世界』、pp.216-217、pp.219-220 参照)、この2点は未見につきおくとして、『知りすぎた少女』では素人探偵による犯人捜しが本筋を動かしていたのに対し、『モデル連続殺人!』になると、警察の捜査は申し訳程度に描かれるのみで、加えて単独の人物が視点となることすらなくなり、筋立ては殺人の数珠つなぎによって構成されていました。原題の1つ『連鎖反応』が示すように本作でもその点は受け継がれ、警察は登場もしません。また『モデル連続殺人!』で目立つようになった残酷描写の比重がさらに大きくなっています。
 この点とも関連して下掲『ジャッロ映画の世界』該当箇所に引用されたいくつかの評では本作を、一方でアルジェント作品への応答と、他方『13日の金曜日』などのいわゆるスプラッター・ムーヴィーの先駆けと位置づけている点が目を引きます。ちなみに本作がイタリア公開されたのは1971年9月8日ですが、この時点でアルジェントは『歓びの毒牙』(1970年2月19日公開)と『わたしは目撃者』(1971年2月11日公開)の2本を監督していました。
 他方アメリカのスプラッター・ムーヴィーは、ハーシェル・ゴードン・ルイスの『血の祝祭日』(1963、未見)などを先駆として、『悪魔のいけにえ』(1974、監督:トビー・フーパー)、『ハロウィン』(1978、監督:ジョン・カーペンター)などを経て『13日の金曜日』(1980、監督:ショーン・S・カニンガム)などに連なるというのが、大まかな見取り図となるでしょうか。ここにはまた、『サイコ』(1960、監督:アルフレッド・ヒチコック)を始めとするサイコ・スリラーが大きな影を落とし、ジョージ・A・ロメロによる『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生』(1968)および『ゾンビ』(1978)などのゾンビものもからまってきます。こうした中に本作が位置づけられるわけなのでしょう。

 [ IMDb ]によると『ブラック・サバス 恐怖!3つの顔』(1963)以降の作品でも、クレジットはされていないもののバーヴァは撮影に加わっていたようですが、本作では『血ぬられた墓標』(1960)や『知りすぎた少女』(1963)同様、撮影はバーヴァ単独のクレジットとなっています。それかあらぬか、冒頭は舞台となる入江をえんえんとパンし続けるところから始まります。時は夕刻のようです。そして海辺の丘の上に館がシルエットでとらえられる。
 車椅子の側面がアップになります。乗っている人物は赤いズボンをはいている。車椅子が奥へ進むと、赤い絨毯が敷かれています。右手に暖炉があり、その周辺のソファ類も真っ赤です。人物の上着も赤い。まわりは青みを帯びています。『モデル連続殺人!』での赤マネキン等が思いだされるところです。
 人物=老女はアップで前進します。陰の中を通り過ぎる。いきなり殺されてしまいます。殺人犯の背後の壁に壁画らしきものが見える。
 犯人は背を向け、正面に伸びる廊下を手前から奥へ進みます。3つ扉口が真っ直ぐ並んでいる。手前左は暗く、右は明るい。一つ目の部屋は逆に左が明るく、右は暗青色です。その先は暗がりとなり、突きあたりの扉は赤茶色。さっそくバーヴァ印の色つき明暗廊下です。
 犯人は奥の扉の前を左に曲がる。暗い部屋を左から右へ通りぬけ、赤茶色の両開き扉に向かいます。そこから外を覗く。外からの視点に換わります。目元が大アップになる。カメラは後退し、首から上の姿に落ち着きます。
 視線の先は屋外でした。先ほどの扉は玄関だったようです。外には右手前から左奥へ石の欄干が伸びている。欄干の上には大きな壺状のものが4つほど載っています。途中のものには青い照明が当たっている。欄干は途中で右にも枝分かれしているようですが、定かではない。カメラは前進しつつ右から左へ動く。欄干の先にあった腰までの格子戸が風でバタバタしていました。
 犯人は戻ります。先ほどの廊下がまた正面からとらえられ、奥から手前へやって来る。手前で左に曲がります。
 ぐらぐらする手持ちのカメラが前進します。また壁画を背にした犯人が下からとらえられる。と今度は犯人が背中を刺されてしまいます。手持ちカメラが後退する。

 残念ながら館の出番はこれで終わりです。続くのは情事の後らしい男女の場面です。2人の背後に小さめの赤い風船、ピンクのものも交えて、上からたくさん吊り下がっているらしい。風船の向こうには黄とオレンジのカーテンが見える。色が鮮やかです。
 男が起きあがり、女がベッドの足側から頭を出してこちらを見る際、手前の棚の上に方形のガラスがいくつものせてあります。ガラスの中央は円が刻まれ、レンズになっているようで、その内の一つ、女の首の左側で女の像が反復されています。
 2人のいる家では、壁にいくつもオプ・アート風の幾何学的抽象絵画がかかっています。さほど大きなものではない。いかにも近代的なインテリアでした。同年公開の『ヨーガ伯爵の復活』(1971)のある室内と比べることもできるでしょう。
 2階以上だったらしく、下へおりる階段がある。


 男=フランク(クリス・アヴラム)は入江へ行くと言って去りました。女はその秘書ラウラ(アンナ・マリア・ロサーティ)。そして舞台は入江に移る。
 ボートで烏賊漁をする若者=シモン(クラウディオ・ヴォロンテことクラウディオ・カマソ)、昆虫採集に血道を上げるファサーディ(レオポルド・トリエステ)などが紹介される。2人を双眼鏡で見ている男女がいます。海の青が鮮やかです。フランクが電話で何やら悪巧みしています。
 車で男女二組の若者たちがやって来る。海辺に使われていない四阿のようなものがあります。けっこう広い。

 女=アンナ(ラウラ・ベッティ)がカード占いしています。彼女は「パウロ!」と呼びながら階段をおりる。階段がほぼ真下から見上げられます。画面中央を上にあがる階段は、幅が狭い。蹴込みは真紅です。両脇に赤茶の手すりがついています。階段の上は上階の床に開く穴になっており、左右の天井は粗造りの白です。
 階段をおりて向こうを左から右へ進む。この動きは後にもう1度繰り返されることでしょう。パウロとは昆虫狂のことでした。


 入江には鉤型に曲がった長い桟橋がいくつか設けてあります。若者たちの内、娘一人は服を脱ぎ捨て泳ぎます。
 残り三人は四阿近くのプールを経て、その向こうにある家に無断で入りこみます。波打つ白い曲面が上下にいくつも層をなす、椅子ほどの大きさの彫刻が床に置いてあります。こちらに加わった娘は奥の廊下に進む。壁は青みを帯びています。浴室の磨りガラスの扉は黄色い。


 泳いでいた娘は桟橋にあがろうとしていた時、足にロープを引っかけてしまう。ロープにつながっていたのは死体でした。四阿に逃げこみます。天井の上から、錯綜する木組み越しに下方を左から右へ、カメラがパンします。娘はここも飛びだし、家屋の方へ走りますが、途中で後ろから鎌で襲われる。
 家に向かって手持ちカメラが前進します。物音に玄関の方へ出てきた若者が鎌で襲われる。
 カメラは死体に始まり、左から右へ、えんえんと撫でます。寝室で情事に耽っていた男女は槍で串刺しにされる。
 夕暮れの入江をカメラがまたえんえんパンします。

 占い女が階段をおりて昆虫狂の部屋へ向かう動きが反復された後、漁師のシモンが大きなランプをこちらに向ける。そのランプはそのまま懐中電灯につなげられます。『呪いの館』(1966)の終盤、床に転がる禿げ人形を介して、離れていたはずの場所に舞台が跳躍したことが思いだされるところです。
 懐中電灯を持った女、それに男がキャンピング・カーから自家用車に乗る。キャンピング・カーの窓に子供が二人見えます。女=レナータを演じるクローディーヌ・オージェ、男=アルベルト役のルイジ・ピスティッリはキャストのトップなのですが、約40分にしてようやく本番です(約10分ほどのところで双眼鏡で覗いていた男女ですが、それきりでした)。もじゃもじゃ頭のピスティッリはどこかで見たような顔だと思えば、『夕陽のガンマン』(1965、監督:セルジョ・レオーネ)で最後まで残っていた悪役を演じた俳優でした。『続・夕陽のガンマン』(1966、同)にも出ていたとのことです。
 二人はいちゃいちゃするような仲良し夫婦ではないようです。占い女と昆虫狂の家に事情を聞きにいきます。レナータは失踪した伯爵の娘で、その行方を捜しています。伯爵は以前近辺でクラブを開いたことがあり、それが四阿らしい。また伯爵夫人は自殺したとされています。占い女は伯爵夫人に不義の息子シモンがいたことを明かす。
 占い女たちのお隣さんは建築家であるフランクということです。フランク邸こそ若者たちが無断侵入した家でした。フランクとシモンが何やら相談しています。その後レナータたちがシモンと話していると、脇にあったボートの布の下に死体がありました。顔の上で烏賊だか蛸がうねうねしています。死体は最初の殺人犯で、レナータの父の伯爵でした。


 その後何やかや起きます。舞台はフランク邸、占い女たちの家、四阿、シモンの小屋、そしてそれらをつなぐ道だの木立だのとなります。レナータとアルベルトも他意のない父親探しというわけではないようです。
 ガソリン・スタンドからフランクの秘書が電話をかける。相手の電話は『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』第1話「電話」および『モデル連続殺人!』に続いて赤電話です。フランク邸の電話でした。
 キャンピング・カーで子供二人が焼きものか何かを床に落として割ってしまいます。
 桟橋が正面・やや上からとらえられ、手持ちカメラが前進します。
 シモンに殺すと脅された秘書の回想が挿入されます。シモンとフランクの回想場面もあります。
 シモンが小屋から出る時、割れた真っ赤なガラスが画面手前・上下に配されます。彼が四阿に来るといやに抒情的な曲が流れたりします。
 電灯が消え、闇の中での争いが繰りひろげられます。そしてレナータとアルベルト以外の皆が死んでしまう。


 伯爵夫人は夫に殺され、その夫は母思いのシモンに殺されたようです。ただ若者4人を殺したのもシモンのようではありますが、こちらはもう一つはっきりしない。シモンとフランクの関係がどのようなものだったのかもよくはわからず仕舞いでした。フランクにせよレナータ夫妻にせよ、殺人に手を染める必要はないはずなのですが、躊躇を見せません。ともあれ単一犯による連続殺人ではなく、複数の犯人が連鎖反応を起こすという『モデル連続殺人!』に見られた主題が、ここではさらに敷衍されたのでしょう。

 その後たぶんに唐突な出来事をもって終幕となります。『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』のエピローグが思いだされなくもありませんが、あちらは三つの短篇を枠どるメタレヴェルに配置されていました。対するにこちらはあくまで物語の内側で、しかし、穴だらけとはいえそれまで積み重ねてきた起承転結をご破算にするかのように機能しています。ブラック・ユーモアだヴァニタスだなど、どのように位置づけ、意味を読みとるかはさまざまな意見があることでしょうが、この唐突さそのものが、ある意味で時代の兆候であるような気がしなくもありません。ハッピー・エンドならざる結末はもとよりいくらでもあろうにせよ、それはこれまで起承転結の帰結として導きだされるべきものでした。それが第二次大戦以後、おそらくネオレアリズモやヌーヴェル・ヴァーグを経てアメリカのニュー・シネマにいたる過程で、虚構の外部から他者である現実が死という形で虚構自体を断ち切ってしまう、と大ざっぱにまとめていいものかどうか、映画に限っても古城の出てくる怪奇映画以外はいたって不案内なので、あまり自信はありません。ともあれ『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生』(1968)だの、怪奇映画ではありませんが『イージー・ライダー』(1969、監督:デニス・ホッパー)だの、あるいは70年代の日本映画でもこうした結末はいくつか見たようなおぼろげな記憶があるのですが、それらと本作のラストをいっしょくたにしていいのかどうか、こちらもまたはなはだ心許ないことなのでした。
Cf.,  安井泰平、『ジャッロ映画の世界』、2013、pp.258-259

Troy Howarth, The Haunted World of Mario Bava, 2002/2014, pp.121-125, etc.

Tim Lucas, Mario Bava. All the Colors of the Dark, 2007, pp.846-869

Danny Shipka, Perverse Titillation. The Exploitation Cinema of Italy, Spain and France, 1960-1980, 2011, pp.80-81, 109-110

Jonathan Rigby, Euro Gothic: Classics of Continental Horror Cinema, 2016, p.239

バーヴァに関して→こちらも参照
 2015/6/27 以後、随時修正・追補
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