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モデル連続殺人!
Sei donne per l'assassino
    1964年、イタリア 
 監督   マリオ・バーヴァ 
 撮影   ウバルド・テルツァーノ、マリオ・バーヴァ 
編集   マリオ・セランドレイ 
 美術   アッリゴ・ブレスキ 
    約1時間24分* 
画面比:横×縦    1.85:1
    カラー 

DVD
* [ IMDb ]によるとイタリア版は約1時間28分、アメリカ版約1時間24分となっていますが、手もとのソフトではイタリア語版も約1時間24分でした
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 『知りすぎた少女』(1963)に続くマリオ・バーヴァによる〈ジャッロ〉の一つで、前作より捜査の展開にあてる比重は後退し、残酷描写の比重が増えていわゆる殺人鬼もの的な様相が強くなりました。原題『暗殺者のための6人の女』にもあるように、しかし5人のファッション・モデルたちが次々に殺害されるのですが、各人を描き分ける労力は払われず、また相互の関係もよくわからないままでした。伏線が噛みあうにいたるような謎解き、あるいは何らかの臨界点に収束していくサスペンスを期待すると肩すかしを喰らうことになるかもしれません。
 他方超自然現象は起こりませんが、館や階段を始めとする空間は登場します。隠し扉も欠いてはいない。それ以上に『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』(1963)および『白い肌に狂う鞭』(1963)でも見られた色彩の氾濫が、ここではいっそう推し進められています。手短かに取りあげることにしましょう。

 本作品は『知りすぎた少女』同様ローマを舞台としています。もっとも前作ほど観光案内色は強くなく、ある人物の家からローマが見渡させるという台詞が後半に出てきてああそうかと思う程度でしょうか。もっともこれは現地に詳しければきっと違うのでしょう。[ IMDb ]によるとロケ地としてヴィラと庭園にヴィラ・シャッラ Villa Sciarra、古物商にヴェラブロ通り Via del Velabro、ペギーの家にパリオーネ通り Via di Parione、グレタの家にアッピア旧街道 Via Appia Antica などが用いられたとのことです(またイタリア語で不勉強のため中身はよくわからないのですが、ウェブ上で出くわした"LE LOCATION ESATTE DI "SEI DONNE PER L'ASSASSINO"(2009/9/29)([ < il Davinotti ])を参照)。

 さて、タイトル・バックからして、暗い中に真っ赤なマネキンだの、青かったり緑だったり、あるいは骨組みだけのものだのが次々に映されます。そこに主立ったキャストも加わるのですが、一切動きはなく、あたかも彼ら自身人形であるかのごとくでした。
 次いで夜、風が吹き雷が鳴る。噴水越しに立派な館が登場します。高級仕立服店(オートクテュール)の看板が風で落ちてしまう。
 どこかの公園にあるのだろう四阿、その脇の階段を赤いコートの女性(フランチェスカ・ウンガロ)がおりてきて、これも公園内なのでしょう、アーチ状になった木立の下の道を歩きます。何かの気配に怯えて逃げだすも、白布ですっぽり顔を覆った黒ずくめの人物に捕まり、殺されてしまいます。

 窓の両脇に真紅のカーテンが寄せられた部屋、ここは高級服飾店の舞台裏にあたります。冒頭で出てきた館の中らしい。古い屋敷を用いているということなのでしょうが、どんなお店だといいたくなるほど豪華で広い。ただし店舗と聞いて思い浮かぶようなところは出てきません。
 赤いコートの女性-イザベラの死体が発見され、シルヴェストリ警視(トーマス・ライナー)による捜査が始まる。店のオーナーらしき黒いドレスの未亡人クリスティーナ(エヴァ・バルトーク、[ IMDb ]によると役名はコモ伯爵夫人)、支配人らしきモルラッキ(キャメロン・ミッチェル)、デザイナーのチェザーレ(ルチアーノ・ピゴッツィ。イタリア映画で時たま見かける顔のような気がします。『生きた屍の城』(1964)や同じバーヴァの『白い肌に狂う鞭』(1963)と『処刑男爵』(1972)、また『ヴェルヴェットの森』(1973)にも出演)、そしてイザベラの同僚のモデルたち、顧客のモレキ侯爵(フランコ・レッセル)らが登場します。とはいえ誰が誰かよくわからない。
 ショーが行なわれる、その舞台裏はいつの間にか少しくすんだ緑のカーテンの広間です。イザベラの黒いドレスをニコール(アリアーナ・ゴリーニ)が着ることになる。アクセサリーを探しているとイザベラの黒いハンドバッグも見つかり、その中から彼女の赤い日記が出てきます。
 舞台裏の一部はピンクのカーテンでいくつもに仕切られ、各モデルの楽屋として使われています。ニコールは麻薬中毒のフランコ(ダンテ・ディ・パオロ)に電話で呼びだされる。
 ニコールは同居人のペギー(マリー・アルデン)に車を借り、古物商であるフランコの店に駆けつけます。店の向かいの街角が青と緑に染め分けられています。フランコの店は前段ですでに登場しており、教会にあった祭壇衝立か何かでしょうか、浮彫を施された木製の大きな壁状のものが印象的でした。
 今回は夜で店内の照明は落とされており、外からの青と緑の光が点滅します。物がやたらと多く、迷路状をなす。鎧もあります。奥は中2階の事務所になっており、そこにのぼる階段も出てくる。階段の裏が赤から赤紫に染めあげられます。ニコールは青い服を着ています。フランコを捜して店内を歩きまわるも見当たらず、怪人に追いまわされるのでした。

 一方ペギーは送ってもらってアパートに戻ります。緑の服です。このアパートがまた、いやに広く豪華です。椅子に白布がかけてあったりもする。こっそり持ちだしたイザベラの日記を暖炉で焼き捨てます。ここにも怪人が現われます。メモで「日記はどこだ?」と書くのがなぜかドイツ語でした。
 ペギーとニコールの部屋は2階あたりにあるようで、怪人は気を失なったペギーを担いで、玄関から出た先にある階段を上にあがるところが見上げられる。カメラが右へ振られると、下からの階段が見下ろされ、警視たちがのぼってきます。階段の正しい使い方といってよいでしょう。階段は少し幅が広く、天井が高そうです。石造の建物が寒々としています。警視たちが開きっぱなしの玄関に訝しんで中に入っている間に、怪人はさらに上階にあがります。なぜか上階の部屋にすんなり潜りこむ。


 食堂でグレタ(レア・クルーガーことレア・ランダー)と侯爵が食事しています。向かって奥の壁は煉瓦積みで、その他の壁が白壁のようです。食堂自体はそんなに広くなさそうです。煉瓦壁には左下から右上へ木の階段が渡され、中2階の扉口に通じています。木の階段をおりた左側には扉口があり、奥へ階段がおりている。こちらの階段室は白壁です。そこから古物商が上がってきます。

 椅子に縛りつけられたペギーが目を覚ますと、煉瓦壁の地下室のようなところでした。すぐ左に壁があり、その向こうに、手前から奥へ上がる階段が登っていきます。こちらの階段室の壁も、煉瓦部分と漆喰が落ちたような部分とがない交ぜになった、荒れた感触でした。けっこう長そうです。ここを怪人がおりてくる。

 館の広間です。緑のカーテンの一つ、その向こうに真紅のカーテンがのぞいていました。風でカーテンが揺れます。窓ががたつき、何かが倒れます。真っ赤なマネキンでした。赤マネキンがある部屋は広間ほど広くはなく、カーテンは真紅です。

 男性陣は容疑者として拘留されます。他のモデル仲間で同居組は帰ってしまい、怯えたグレタは残った短い黒髪・つり目のモデル(クロード・ダンテス、日本語字幕では役名は出なかったようですが、[ IMDb ]によると Tao-Li、タオリー?、陶李、桃李、桃里?)に家に泊まってと誘うと、自分の家はこの近くだ、あんたの家は郊外だ遠いと断られ、じゃあ泊めてと言うと、ひとりが好きなのとまたしても蹴られる。伯爵夫人に館に泊まるのも駄目出しされ、いやいや一人帰宅します。
 案の定帰り着いて車のトランクを開けるとペギーの屍体が入っていました。なぜかグレタは屍体を家の中に運びこみます。庭に面したフランス窓から入り、やや屈曲した部屋を抜け、奥にある6段ほどの階段をのぼると、食堂です。煉瓦壁前の木の階段の下に死体を隠し、衝立を前に立てておく。木の階段の上は寝室でした。グレタが寝室に上がっている間に、カメラは手前から奥へ食堂内を前進し、衝立の右側に向かう。するとそちらにはみだしていた屍体の頭部が、左から引っ張られるのでした。先ほどのカメラの動きは、屍体を引っ張った怪人の動きと一致していたのではなかったわけです。


 画面を大きく楕円形の鏡が占めます。鏡面、そして鏡の周囲も真っ暗です。左に赤マネキン、右で赤カーテンが枠取っている。鏡面に Tao-Li が映ります。黒と赤の服を着ています。

 モルラッキの部屋です。真っ赤な彫像があったりします。本棚が隠し扉になっていました。いささか薄手です。
 中に入ると、右上から手前へおりてきて、踊り場をはさみ左手前から下へおりる階段が踊り場の位置からとらえられます。中間の手すりの上方、底面が紫を帯びている。右上は茶色、左のおりた先は青です。右上からおりてきたモルラッキがカメラの前を横切って左下に向かうと、そこは短い廊下で、奥の左に扉があります。扉の先は前に出てきた地下室への階段でした。


 Tao-Li のアパートもやたらに豪華です。ニコールとペギーのアパートと似たようにも見えなくはない。日本語字幕によると前段の会話で、このアパートが伯爵夫人のところという話が出ていましたが、これは服飾店のオーナーのことなのでしょうか。怪人が浴槽で彼女を殺すと、ドアがどんどんと叩かれる。照明を落とされた暗い廊下には、彫像がいくつも並んでいます。

 冒頭同様、館前の噴水が映されます。右下から左上へカメラはドリーし、いったん止まって今度は水平に左へ動きます。
 次いで緑カーテンの間です。骨組みだけのマネキンが間を置いて配されています。カメラは前進する。手前にあった白い骨組みマネキンはカメラが止まるとぐらぐら揺れます。また進む。カメラはわずかに左右に揺れながら前進します。紫の骨組みマネキン、白の骨組みマネキンの脇を通り、扉口にいたる。その向こうは楕円形の鏡、赤マネキンに赤カーテンの部屋です。その奥の扉口の向こうはモルラッキの部屋でした。
 机に就いていたモルラッキは軋み音を耳にして、広間の様子をうかがいに出ます。何もない。戻ってくるとまた軋み音がして、クライマックスを迎えるのでした。

 
ラスト・シーンでは、薄暗い中、真っ赤な電話の受話器だけがぶらぶらと揺れます。『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』第1話「電話」の電話機も赤かったことが思いだされるところです。


 本作では青や緑、紫の照明だけでなく、マネキンやカーテン、そして最後の電話機など物として真っ赤に塗られたものも登場します。その鮮やかさはいかにも人工的で、また照明にせよオブジェにせよ、色を活かすためにはまわりが暗めの、つまり夜の場面で、かつセットの方が都合がいい。それゆえ息苦しいまでの濃密さがいっそう増すことになります。濃密でありながらもその人工性ゆえ、重さを脱した浮遊感も欠いてはいない。また色の鮮やかさを映えさせるためには、色自体は静止していた方がよい。その中を人物が動き廻ることになる。場合によっては人物抜きでカメラが動くのもありなのがバーヴァのバーヴァたるゆえんでしょう。
 『凶人ドラキュラ』(1966)のページで涙が出るほど大ざっぱかつ無根拠に、映画における光や色の感触の変化について触れましたが、バーヴァにおける色の使い方は、いささか大げさにいえば、明暗法に主導権を与えた上で色彩を輝かせた17世紀バロック、カラヴァッジョやレンブラント、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールに通じると見なせなくもない一方で、映画製作やフィルムの感度の変化に伴って、より自然な採光が主流となる前夜における、爛熟期の白鳥の歌ではなかろうかと、これまた大仰に言ってみたくなるのでした。

Cf.,  The Horror Movies, 2、1986、p.63

ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、pp.139-140/no.085

安井泰平、『ジャッロ映画の世界』、2013、pp.152-153

Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.126-127

Troy Howarth, The Haunted World of Mario Bava, 2002/2014, pp.64-69, etc.

Tim Lucas, Mario Bava. All the Colors of the Dark, 2007, pp.540-567

Danny Shipka, Perverse Titillation. The Exploitation Cinema of Italy, Spain and France, 1960-1980, 2011, pp.75, 77-80, 101-102

バーヴァに関して→こちらも参照
 2015/6/20 以後、随時修正・追補
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