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白い肌に狂う鞭
La frusta e il corpo
    1963年、イタリア・フランス 
 監督   マリオ・バーヴァ(ジョン・M・オールド名義) 
 撮影   ウバルド・テルツァーノ(デイヴィッド・ハミルトン名義)、マリオ・バーヴァ 
編集   レナート・チンクィーニ(ロブ・キング名義) 
 美術   オッタヴィオ・スコッティ(ディック・グレイ名義) 
 セット装飾   リッカルド・ドメニチ(ガス・マロウ名義) 
    約1時間23分* 
画面比:横×縦    1.75:1
    カラー 

DVD
* [ IMDb ]によるとイタリア版は約1時間31分とのこと。なお手もとのソフトは英語吹替版

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 →こちらでも記しましたが、2015年6月11日にクリストファー・リーの訃報を目にしました。マリオ・バーヴァの怪奇映画をおおよそ年代順にとりあげていたところ期せずして、リーが出演する本作の番で、その日の晩に追悼を兼ねて再見することとなったのでした。英語の台詞が吹替なのは残念ですが、ここでのリーは髪型がドラキュラ伯爵役でお馴染みのオール・バックではなく、短く額にかかっていて、その分、演じるところの生身の人間であるたちの悪い放蕩貴族然としています。それでいて冒頭での帰還場面では、歓迎されない放蕩息子を迎える生家の面々などいっかな太刀打ちできないだけの存在感を発している。ドラキュラ伯の生前かくありなんといえなくもないかもしれない(ヴラド・ツェペシュではなく)。と思いきや約21分にして早々に殺されてしまい、その後は亡霊としてヒロインに取り憑く。感慨尽きるにあらずであります。
 [ IMDb ]によれば1963年8月14日にイタリア公開の『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』とたて続けに、本作は8月29日に公開されました。リーにとって『ヘラクレス 魔界の死闘』(1961、未見)に続くバーヴァ作品への出演となります。この時期リーはハマー・フィルムなど英語圏の作品以外に、イタリアで『顔のない殺人鬼』(1963、監督:アントニオ・マルゲリーティ)、『生きた屍の城』(1964、監督:ワレン・キーファー、ハーバート・ワイズことルチアーノ・リッチ、マイケル・リーヴス)、『女ヴァンパイア カーミラ』(1964、監督:カミロ・マストロチンクエ)、ドイツで『吸血魔のいけにえ(ドラキュラの生贄)』(1967、監督:ハラルト・ラインル)、スペインの『吸血のデアボリカ』(1970、監督:ジェス・フランコ、未見)といった多忙ぶりでした。そんな中で作品としては、見ることのできたものに限ってではありますが、吸血鬼ドラキュラ(1958)と本作が双璧をなすと見なせるのではないでしょうか。ただしゃきしゃきテンポのいい前者とは打って変わって、イタリア的といっていいものかどうか、ねっとりとした調子ではあります。
 また本作は『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』ともども、モノクロの諧調が印象的な『血ぬられた墓標』(1960)に対し、バーヴァの多色画面がいかにも引けをとらないことの証しとなる作品です。舞台はお城とその周辺に限定、登場人物も葬儀の場面に出てくる赤い頭巾をかぶった柩をかつぐ人たち数人に、あれは東欧の衣装なのでしょうか、司祭をのぞけば城の住人6名とリー演じるクルトのみです。色とりどりの照明の中、登場人物たちは廊下をうろうろしてくれます。廊下自体は長くないものの、枝分かれしている。広間の階段は意外に上り下りしてくれませんが、皆無というわけではなく、地下納骨堂への下り階段も出てきます。唯一の瑕瑾は隠し扉が登場しながら、隠し通路の中が映されない点でしょうか。ただ超自然現象は起こったのかどうか、ラストでは登場人物の1人があれはヒロインの妄想だったということで決着をつけますが、そう言った人物たちも確かに耳にした笑い声の説明はつかない。とまれ本作については下に挙げた遠山純生による「解説」が実によくまとまっており、そちらを一読いただければ無理に付け足すことも思いつかないのですが、ここは例によって、ずるずるメモすることといたしましょう。

 なお[ IMDb ]は本作のロケ地として『惨殺の古城』(1965)と同じく中部イタリア東側のアブルッツォ州ラクイラ県のバルソラーノ城 Balsorano Castle, L'Aquila, Abruzzo を挙げていますが、これは『女ヴァンパイア カーミラ』(1964)のロケ地であるバルソラーノのピッコローミニ城 Castello Piccolomini di Balsorano のことでしょう。
 追記:別の機会に[ IMDb ]を見ると消えていました。あるいは当方の勘違いか。またイタリア語で不勉強のため中身はよくわからないのですが、ウェブ上で出くわした"LOCATION VERIFICATE: La frusta e il corpo (1963)"([ < il Davinotti ])を参照。この記事によると下で触れたフェーニス城以外に、ローマのサンタンジェロ城 Castel Sant'Angelo a Roma が舞台となる城の門付近などに用いられているとのことです。
 追記の追記:下掲 Tim Lucas, Mario Bava. All the Colors of the Dark, 2007, p.524 によると、屋内場面の一部はセット、多くは『狂気の爪跡・牙男』(1961)と同じ実際の〈城〉で撮影されたとのことです。なぜか城名は記されていないのですが、p.525註5 には翌年『幽霊屋敷の蛇淫』(1964)でも用いられたという。『狂気の爪跡・牙男』のロケ先は[ IMDb ]にも[ il Davinotti ]にも挙がっておらず、『幽霊屋敷の蛇淫』については、そちらの頁で記したように[ il Davinotti ]では城の外観はボルセーナの城による一方、『顔のない殺人鬼』(1963)の頁で記したように、『モデル連続殺人!』(1964)と同じヴィラ・シャッラだという情報もある。実際本作、『幽霊屋敷の蛇淫』、『顔のない殺人鬼』の広間はいずれも奥の左右にのぼり階段を構えるという点で共通していました。結局どうなるのでしょうか?

 襞のよった真紅の布をバックに、クレジットが記されます。ピアノ、追って弦楽が加わるジム・マーフィーことカルロ・ルスティケリのいたく抒情的なメロディーが流れる。手もとのソフトは英語版なのに、クレジットはイタリア語で、しかし監督を始めイタリア映画お得意の英語変名が並ぶのでした。
 まずは夜の海辺です。波打ち際が左手前から右奥へ伸びていく。左が海で、右はシルエットと化した丘です。暗青色の空は、ただ水平線より少し上で紫がかった帯になっています。手前から奥へ騎手が疾走する。次いでほとんど同じ構図ですが、右の丘の上に城のシルエットが現われます。城壁だか本棟の上に、形の異なる塔が幾本かそびえ、一箇所灯りがともっている。やはり騎手が疾走します。
 ケースに収めた短剣がアップになり、雷鳴とともに少しがたがた揺れます。カメラは少し下降してから左にパンする。青灰色の暗がりを経て真紅のカーテン、次いで青い窓が見えてきます。窓の前に後ろ姿の老女が立っている。この作品では窓の前に立つ後ろ姿が何度か登場することでしょう。老女に若い娘が声をかけます。老女はジョルジア(ハリエット・ホワイトことハリエット・メディン)、家政婦です。娘はカーチャ(イスリ・オベロンことイーダ・ガッリ)、現当主の従妹に当たる。ジョルジアの娘ターニャが現当主の兄クルトのせいで自害し、その時使われたのが件の短剣なのだという。カメラはやや下から見上げています。
 また屋外に戻ります。空は薄明るい。雲に夕陽でしょうか、赤く照り返しています。右手の城は前より近づいており、やはりシルエットですが、右の城壁でしょうか、そのすぐ左に少し間を置いて低い塔らしきものが立っています。騎手が手前から奥へ走ります。
 上を見上げるクルト(クリストファー・リー)のバスト・ショットがはさまれます。禍々しい。下から吊り橋が斜めに仰視される。橋の底面が見え、画面左半を右へ横切っています。その右には半円アーチの城門がありますが、橋に対し真っ直ぐではなく、こちら側を向いています。門の前まで伸びる橋の下には白いブロックがずれながら配されている。その右は壁がそびえて画面の外まで伸びていきます。
 またクルトのバスト・ショットをはさみ、引きのシルエットに戻る。空は暗青色です。
 門から入ったのでしょう、左右を暗い茂みにはさまれて、向こうに城の本体が見えます。左寄りにこちらを向いた壁があり、その右で奥へ伸びていく。左の壁には右下から左上へ上がる階段が壁に沿い、その上に方形の入口が開いています。あまり大きな扉ではないので、通用口かもしれません。もっとも別に玄関があったとしても、それが映ることはありません。入口の向こうは下半が赤茶色、上半にあざやかな緑が見えます。奥へ真っ直ぐ階段が上がっていく。右手の壁で赤茶が照り返している。右手の奥に伸びる壁の1階部分は白い壁に半円アーチの大きな窓が二つ並んでいます。窓の格子桟も白です。その上にやや低い2階があり、やはり窓が設けられているようです。2階の右端で、窓からの照り返しで格子が右上がりにひろがっている。2階の上にも建物は続いています。このあたりは茶色です。
 手前から奥へ騎手は進む。白い壁にその影が落ちるのですが、右奥に入っていくと影はそのまま巨大化して左へ逆行します。不吉です(『ドラキュラとせむし女』(1945)における一齣が連想されます)。一方入口への階段をのぼる人影が見えます。足が悪いようです。

 廊下の左から足の悪い男が出てきます。執事のロサートです(アラン・コリンズことルチャーノ・ピゴッツィ。イタリア映画で時たま見かける顔のような気がします。『生きた屍の城』(1964)や同じバーヴァの『モデル連続殺人!』(1964)と『処刑男爵』(1972)、また『ヴェルヴェットの森』(1973)にも出演。追記:下掲 Tim Lucas, Mario Bava. All the Colors of the Dark, 2007, p.523, p.878も参照)。手前へ出てくると、カメラも右から左へ振られます。その先は左手に背の高い半円アーチが左奥に通じ、正面にも幅の広い半円アーチがあります。壁は赤茶ですが、アーチの底面は青みを帯びている。正面のアーチの下の壁に鎧が置かれ、そのまわりだけスポットが当てられています。右手にも鎧がある。この城は廊下の随所に鎧が配されています。『血ぬられた墓標』や『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』第3話が思いだされるところです。廊下にはカーチャとジョルジアがいました。ロサートは「クルトが戻った」と言う。

 ピアノを弾くネヴェンカ(ダリア・ラヴィ)が上半身で映されます。奥に窓が見える。『血ぬられた墓標』でもヒロインは城の広間でピアノを弾いていました。リー、リーと冒頭で騒ぎたてましたが、本篇の主役は彼女です。カメラが右へ動くと、階段が右下から左上へあがっているのが見えます。その前にいた現当主クリスチャン(トニー・ケンドールことルチャーノ・ステッラ)が右へ進むと、カメラも追います。扉口を経てさらに右には暖炉があり、その前に父の伯爵(ディーン・アードウことグスタヴォ・デ・ナルド)が坐っている。人物名を記しましたが、本作では冒頭のジョルジアとカーチャを除き、名前は後から告げられます。伯爵にいたっては名無しのままでした。また家名が出てくるのもずっと後になってからです。もっとも視覚情報が先行するのは映画にとって自然なことでしょうから、深読みは控えましょう。
 広間を正面から見渡したショットの登場です。画面上辺に沿って暗い梁が枠どりしています。その下・向こうに台形状の木の梁があります。両者の間は赤みを帯びている。上端の梁からは右側で、木の柱が手前でおりてきます。この柱は上半が三つ叉状をなし、中間で1本に合流しています。床近くでは円形の板をはいている。三つ叉柱の右、さらに手前にあたる位置には飾り扉が見える。正面奥・左右で上への階段がまっすぐ伸びている。2階部分は歩廊が階段双方をのぼったところを結んでいます。手すりつきです。その奥には半円アーチ、左右の階段の上にはそれぞれ尖頭アーチがあります。左の尖頭アーチの奥は青くなっている。歩廊の下、1階はさらに奥へ伸び、突きあたりに窓がある。ピアノの奥に見えたものです。窓の左右に白いカーテンが下でゆわえられています。その手前、左寄りにピアノがある。右手の壁は階段をおりた先に、前に映った扉口、さらに手前が暖炉となる。左右相称・正面視の構図に支えられることで、陰影が自在に錯綜することが可能になりました。『知りすぎた少女』(1963)における室内の眺めの拡張版と見なせるでしょうか。左右相称という点では『血ぬられた墓標』での玄関広間も思いだされます。この構図の手前に後ろ姿のロサートが現われ、「クルトが戻った」と言う。


 その声にかぶさるように本人が登場します。背後右寄りに半円アーチがあり、奥を右の方へ伸びている。その突きあたりにはまた半円アーチ、その下に鎧が置いてあります。奥の半円アーチの下、上方は白く、鎧周辺は緑を帯びている。クルトの背後、左手には飾り扉が見えます。クルトの立つ床付近は赤みを帯びています。手前の半円アーチの右手には太い柱が境となり、右に壁が伸びています。女性の肖像画が一点、その右に紅と白のカーテンがのぞく。クルトは前へ進み、その間にロサートは奥を右へ下がります。

 朝でしょうか、右手に城が見える波打ち際の眺めがはさまれます。海上の雲が山脈のようです。
 赤薔薇の束がアップになります。赤と葉の緑が補色対比をなす。カメラが後退すると、花束を整えるカーチャが左向きで映ります。花瓶は画面奥に伸びる長テーブルの上に置かれており、カーチャはそれを持ちあげて同じテーブルの奥の位置に移動します。テーブルの上には黄で縁取りされた赤い布が敷いてある。向こうの方にはゆるい半円アーチがあり、その左奥の壁は緑に染まっています。右にもアーチがある。
 カメラはさらに後退する。カーチャは右奥のカーテンを開きます。と中にクルトが窓の前で背を向けていました。格子状の桟をはめた縦長の窓から射しこむ朝の光がフェルメールを思わせます。クルトの位置は一段高くなっているようで、おりてきてカーチャに「君は今も弟を愛している」と言う。
 左奥から茶器をのせたお盆を手にしたジョルジアが現われます。突きあたりの壁には皿をいくつも飾った棚が置いてありました。『血ぬられた墓標』の広間でも似たものが見かけられました。
 足音がします。食堂が逆の向きでとらえられ、左のアーチからネヴェンカとクリスチャンが出てきます。本作ではまず足音などの音がし、次いで場合によっては影、あるいは本体が画面に入ってくるというパターンが何度か見受けられることでしょう。『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』などでも用いられたパターンです。さて、カメラは2人に近づきます。手前と奥にゆるい半円アーチが二つ見えます。突きあたりには扉らしきものがあり、その左の壁は緑を帯びています。向かいの壁もそうでした。


 父伯爵の寝室です。目をやるとベッドの向かいに暖炉があります。暖炉の上辺沿いには縦の棒が文字だか抽象化された人型のように並ぶ浮彫が帯状に伸びている。暖炉の奥が隠し扉になっており開くのでした。見つめる父伯爵のカットをはさんで、入ってきたのはクルトです。ただし隠し扉をくぐるところは映されません。同じく出ていくところも映りませんでした。何か意図があるのか、単にセットをそこまで作らなかっただけなのか。

 城の外観が登場します。昼間で明るい。ただし前に映ったのとは反対から見た眺めで、海が右に位置しています。左側にさほど高くはない崖が左端までひろがっている。崖はほとんどが土で、上の方だけで横に緑が伸びています。下が浜辺で、右から左へ馬に乗ったネヴェンカ、続いて同じく騎馬のカーチャが進んでくる。崖の上の城はかすかに黄色を帯びた石造で、城壁が入り組み、その上に本棟、そして幾本かの塔を備えています(上掲"LOCATION VERIFICATE: La frusta e il corpo (1963)"([ < il Davinotti ])によるとこれはイタリア北西部のヴァッレ・ダオスタ自治州にあるフェーニス城 Castello di Fénis, Valle d'Aosta の眺めを合成したものだという。追記:下掲 Tim Lucas, Mario Bava. All the Colors of the Dark, 2007, p.524 によると絵はがきを用いたとのことでした)。
 ネヴェンカとカーチャは仲良しというわけではなさそうです。途中でカーチャは戻り、ネヴェンカは波打ち際に進みます。岩に腰かけ鞭を地面に垂らしていると、それを踏みつける足がありました。カメラが上を向けばクルトです。ネヴェンカはクルトに鞭を振るいますが、奪われ鞭打たれる。そして口づけを交わす2人が右下に配され、強い光があてられる一方、向こう側には浜とシルエット化した馬、右上は崖へ続く。いつの間にやら空は夕刻のように見えます。


 広間の奥、左側の階段をクリスチャンとカーチャがおりてきます。その下では右からロサートとジョルジアが出てくる。この上下の配置はすぐ後、またずっと後にも見かけられることでしょう。階段をおりて左に扉口が見えます。上にカーテンがかかり、向こう側・右の壁に斜めになった格子の影が落ちています。階段をあがったところの尖頭アーチは、奥が薄緑です。その右の歩廊の壁、および階段の壁は赤みを帯びている。このあたりは陰影が濃い。
 カメラが前進するとクリスチャンの上半身が下から見上げられます。足音が響きます。階段の向かい側、右奥からクルトが現われる。仰視されたクリスチャンが「ネヴェンカはどこだ?」と問う。クルトも同じく上半身を下から見上げられます。またクリスチャンの上半身仰角のカットがはさまれる。カーチャがもう日が暮れると言って、捜索を促します。クルトは背を向け奥へ進む。カメラもそれを追います。左の階段を少しのぼって立ち止まり、振り返ります。左下の壁に濃い影が落ちています。右下にジョルジアの背が配される。


 さて、バーヴァ作品のお楽しみ、廊下行その1、クルト篇です。カーテンが左右にたくしこまれた扉口からクルトが出てきます。扉口は右奥にあり、そこから手前へ進む。廊下の奥、突きあたりの壁には真ん中に背の低いチェストが置いてあります。その上、左右に燭台がついており、蠟燭の周囲だけ黄色く明るんでいますが、まわりは暗い。壁の上の方は青く、ゆるい半円アーチがかぶされてある。向かって右の壁は途中に鎧が一体、手前に松明が見えます。壁は青みを帯びている。左手前に大きく唐草紋の飾り扉が映りこむ。
 背の低いチェストの壁の右側が、広間左階段をのぼってきた先ということのようです。クルトは前進し、カメラは後退します。カメラの前を横切り、背を見せ右へ曲がる。曲がった先にも廊下が伸びています。
 廊下の先、突きあたりには幅広アーチの奥に扉がある。前の方に水平の梁、その手前左に暗くなったアーチ、さらに手前左手にもアーチがあるようです。壁の上の方は赤みを、床は青みを帯びています。
 床に濃い影を落としたクルトは奥へ進みかけて止まり、左のアーチの奥へ向かいます。すぐに扉がある。父伯爵の部屋でした。中を覗きこむも眠る父伯爵の姿を確認しただけで入らず、また戻る。眠っていたはずの伯爵は起きあがり、暖炉の隠し扉の方へ行きます。


 クルトは自分の部屋に入る。暗い。暖炉の火だけが明かりです。クルトは暖炉の火を蠟燭に移します。上着を椅子にかける。家族の前では傲然としていた彼が、自室では少し緊張を解いているように見えたことでした。雷が轟き、部屋が青く染まる。「クルト」とどこからともなく女の声が呼びかけます。左手の暖炉周辺は暖色に染まっていますが、扉周辺は青みを帯びている。
 扉から外をのぞきます。暗い廊下が正面から見渡されます。左右の壁の前には椅子が何脚も置いてある。床は市松模様で、手前は青緑になっています。突きあたり、奥にアーチがあり、その向こうに扉が見えます。その左に燭台が据えられ、黄色い光を発していますが、右手は青緑になっている。屋内だというのに風の音が鳴っています。
 扉を閉じると、左手のフランス窓が風で開きます。カーテンがふくらみ、蠟燭が消えてしまう。窓の向こうには木の枝が見え、風に揺れています。クルトは左側のカーテンにからみつかれる。自分でやっているのが丸わかりです。カーテンは紅色で黄色の縁がついています。いつの間にか首に短剣が刺さっている。約21分のことでした。


 夜の波打ち際がはさまれます。右上に城のシルエットが見える。
 ロサートがカンテラを手に、濠の下を探している。気を失なって倒れたネヴェンカを見つけます。
 寝室に運びこまれたネヴェンカはうわごとでクルトの名を口にする。ロサートがクルトを呼びに遣られます。
 廊下行その2、ロサート篇です。扉を出て左から右前へ、上半身でとらえられる。カメラは後退します。途中で右にアーチが見えますが、奥は青みがかり、右手前の壁は緑に染まっています。通り過ぎる時顔も陰に入り、出れば下からの明かり、また暗くなる。周囲も暗くなっています。奥の扉から暖色の光が洩れて縦の帯をなしている。その前を過ぎると扉から父伯爵が顔を出し、呼びかけます。壁の右側は青い。ロサートは背を向けており、向こうにアーチ、その奥に扉が見えます。その周辺は緑になっている。伯爵の声に振り向き、戻ってきます。カメラは後退する。カメラの手前を左へ、左向きになる。伯爵に様子を知らせます。それから突きあたりの扉に入っていく。ここがクルトの部屋なのでした。
 クルトの部屋とネヴェンカの部屋は廊下の両端にあることになります。その途中で左へ、直交する廊下が伸びている。交差点に入る手前、左側に伯爵の部屋がある。直交する廊下の突きあたりの壁にはチェストが置かれ、その手前右が広間の左階段に通じているのでしょう。全体は⊥の形で、縦棒右上あたりで広間左階段につながっていることになる。下の横棒は左に短い。他の部屋割りは描かれませんし、広間右階段の上がどうなっているのかも不明です。1階も詳細は記されず、たとえば食堂の位置もよくわかりません。塔を始めとする上の階、こんな城ならありそうな地下室も登場しない。それでも色とりどりの照明が施された暗い廊下は、バーヴァ作品の真骨頂にほかなりますまい。廊下行その2前半はロサートのアップにカメラが据えられるため、まわりのひろがりが見えないきらいはあるものの、照明の変化によって表わされる空間の通過および時間の経過がそれを補ってあまりあります。


 葬儀が執りおこなわれます。礼拝堂の入口から面々が入ってくる。次いで正面から奥がまっすぐとらえられる。左手前に入口が位置するわけです。ゆるい半円アーチが中ほどと奥で横切っている。柩は手前から奥へ、画面と垂直に配されます。その向こうに司祭が立つ。先に触れたようにおそらく東欧の祭服なのでしょう。柩運び人たちは皆赤頭巾をかぶっています。突きあたりの壁は左右の燭台で黄に染められる。天井のアーチは暗色で、左右は暗青色、上の方の光は黄と緑です。
 メンリフという一家の姓が出てくるのは、少なくとも日本字幕ではここが初めてではないでしょうか。司祭にカメラが正面から接近する。柩に横たわるクルトがほぼ真上からとらえられます。柩の蓋が閉ざされ、手前右の扉口に運びこまれる。その奥で左に曲がります。付き添うのは柩運び人たち以外はロサートだけでした。


 "Kurt MENLIFF"と刻まれた壁つきの墓碑が映された後、カメラは少し後退してから右へ動きます。地下納骨堂です。破風つき墓碑の右には半円アーチの扉口があり、中は暗緑色です。まわりは暗い。さらに右に幅の広い半円アーチがあり、頂点にランプが吊してあります。その下に石棺がほぼ奥行き方向に配される。このアーチの左下には格子らしきものが見えます。左側は柿色で右は緑でした。
 礼拝堂の外観が登場します。三角破風のファサードは下方に半円アーチの入口があり、鉄格子がはまっています。その上の方に白い灯りがついている。破風のすぐ奥は上に伸びるドームをなしているようです。模型でしょうか、礼拝堂はあまり奥行きがなく、夜空をはさんで右に暗い壁らしきものが見えます。


 父伯爵が戸棚に短剣をしまい、施錠します。右側にあった戸棚の前から奥の窓の方へ行く。窓は少し高い位置にあります。縦長で、格子状の桟がはまっている。左右に赤系のカーテンが見えます。奥まった右の壁に格子の影が落ちている。伯爵は背を向けて窓の方を向く。先だってのクルトも相似た姿勢を見せ、やはり少しフェルメール風の光を感じさせたものでした。
 伯爵はノックの音に振り向きます。クリスチャンが入ってくる。彼はクルトが刺された時、他のものは皆ネヴェンカを探して城外にいた。中にいたのはクルトと伯爵だけだという。観者にとってはあの時隠し扉に入った後どうしたのか、気になるところです。


 約31分弱、古城映画的山場の始まりです。まず壁にかかった十字架が映されます。次いでその手前にあるベッドの足側の敷居が見えてくる。そこに向こう側・下から手がかかる。ネヴェンカでした。鞭の音がします。起きあがるとカメラが接近し、アップになる。カメラが後退すると右へ進みます。カメラもそれを追う。扉を開きます。廊下が正面からとらえられる。今は明るめです。奥のアーチの向こうに扉がある。クルトの部屋なのでしょう。クルトが扉口から廊下を見た時同様、風が鳴っています。右向きで扉から出ます。
 廊下行その3、ネヴェンカ篇です。また廊下が正面から見渡され、ネヴェンカが背を向けています。上半身で、手前から奥へ進む。音に左を向き、すぐ左の廊下に背を向けて入っていく。突きあたりにチェストが見えます。また鞭の音に振り返ります。シルエット化しています。左手前に戻ってきます。カメラも左へ振られる。手前に燭台の唐草紋が入りこんでいます。自室の扉の前まで戻り、また曲がって手前へ来る。腰から上の姿です。カメラは後退する。
 廊下が正面から見られる。突きあたりにやや近づいた構図です。突きあたりの壁は青緑で、扉は暗紫色です。左の壁ではアーチの向こうに赤い緞帳がかかっているようです。右の壁は暗青色。
 アップがやや上からとらえられる。前へ進むとカメラは後退します。扉がアップで映される。カメラは前進します。またネヴェンカのアップをはさんで、扉の取っ手が大きく映されます。右から手が伸びる。
 扉を開くと、室内は暗く青い。早々と家具に白布がかけてあります。カメラは右から左へパンする。ネヴェンカが中に入ると、室内に対しカメラは急に前後し、次いでネヴェンカに対し同じく急に前後します。風で窓が開き、外から枝が飛びこんできてはしなる。それが鞭の音に聞こえたのでした。約34分半のことです。


 広間でピアノを弾くネヴェンカの肩から上が、背後からとらえられます。カメラは左から右へゆっくり動き、ネヴェンカの斜め前まで来るといったん止まり、すぐに前進して奥の窓の方へ向かう。『血ぬられた墓標』でも見られた、誰の視線をも肩代わりしないカメラの動きなのでした。窓の向こうは暗青色で、雨が降っているようです。
 2階の歩廊から見下ろす視角に換わります。すぐ下にピアノとネヴェンカ、さらに広間入口のアーチ下の柱まで見渡されます。向かって左の階段の下の扉口からジョルジアが出てきます。ネヴェンカと暖炉の前の椅子に腰かける伯爵にグラスを渡し、左側口の扉に戻る。扉口の向こうは青緑に染まり、左奥に別の扉口が見えます。こちらが使用人用の空間なのか、あるいは厨房などがあるのでしょうか。ジョルジアは「ロサートが礼拝堂で人影を見た」と告げます。
 カメラは演奏を中断したネヴェンカに接近します。伯爵とジョルジアのカットをはさみ、カメラはネヴェンカの左へ向かう。ネヴェンカの首から上が窓の方を振り向きます。窓の向こうにクルトの姿が見える。クルトは後退し、闇に消えます。ネヴェンカと伯爵のやりとりは声だけに放っておいて、カメラは窓を向いたまま後退する。窓は真っ黒で、左のカーテンは暗青色、右のカーテンは暗紅色に染まっています。


 そのまま別の窓に切り替わります。左右の金色を帯びたカーテンは重そうです。窓の向こうは青く、雨が降っています。カメラが後退しつつ右から左へ振られると、ネヴェンカのベッドを映します。そのあたりは暖色を主調に、色ガラスを通った光が少し混じっている。
 付き添っていたクリスチャンが出ていくと、ネヴェンカは起きあがります。右に鏡がある。まず鏡像だけ、次いで左から本体が現われます。さらに右手前へ進む。カメラもそれを追います。窓の前に来る。レースのカーテンが青みを帯びており、ベッド周辺の暖色と対照的です。右向きの視線の先に礼拝堂があるのでした。
 切り替わると、暗青色の暗がりを背景に、髪の毛のような影が見えます。カメラは右へ、暗がりを経て、目元のアップになる。ネヴェンカです。青く染まっています。足音が響く。窓からカメラは左から右へと室内をパンする。先に暖炉があります。ネヴェンカの目元、上半身のカットをはさみ、床に泥だらけの靴が現われます。前へ進むと泥が残る。ネヴェンカが見上げると、窓の前に人影があります。顔を手で覆い、また外すと消えている。暗がりの中から青緑に染まった手のアップが手前へ真っ直ぐ出てくる。
 悲鳴を聞きつけたクリスチャンが駆けつけると、足跡などありません。カメラは床をなめ、左から右へ、次いで上昇してカーテンにはさまれた真っ黒な窓を映す。この間ネヴェンカはまたしても声だけになっている。


 朝の浜辺です。奥に朝日が見える。城は映っていません。
 日中の礼拝堂です。入口の格子の向こうにネヴェンカが現われる。右の壁に格子の影が落ちています。中へ入り、右へ進む。カメラも右に動き、次いで後退します。ネヴェンカは引きで小さくなる。跪いて祈っていると、左奥の扉が風で揺れます。床に泥の足跡が見える。扉が開くと、右の壁に青と緑の光が照り返します。
 下から暗い階段が見上げられます。上はゆるい半円アーチをかぶっている。アーチの手前は粗造りの表面で、緑がかっています。上から木の根らしきものが垂れている。その下で左手前から右奥へ階段はのぼり、踊り場となる。そこから右上にあがっていく。踊り場左の壁には扉らしきものが見えます。踊り場突きあたりの壁は青緑に染まり、右下がりの斜線の影が数本並んでいます。
 右上からネヴェンカがおりてくる。カメラが後退すると、左手前に大きく石の十字架の右腕が入ってきます。右奥をのぞくと、暗い半円アーチの下に横長の長方形が見えます。石棺でしょうか。長方形とアーチの縁は青緑、長方形の下は青みを帯びています。カメラはさらに左へ動く。格子戸があります。ゆるく折れて配されている。さらに左へ、床の石棺が奥へ伸びていく。さらに左、縦長の半円アーチがあり、向こう右手は緑です。その左にクルトの墓碑がある。前に地下納骨堂が登場した時とは逆の向きでなぞられたわけです。墓碑にカメラは接近する。前の床に足跡があります。
 足音がします。ロサートでした。日本語字幕によれば、彼は「死人は墓から起きられない」と言い、それに対しネヴェンカは「安息を得られなければ別」と答えます。


 青い円柱が上下を区切り、右の壁に照り返しが映っています。その奥に窓があるらしい。柱の左は奥に続く半円アーチで、左手に鎧が置いてある。鎧の奥・左からネヴェンカが入ってきます。クリスチャンの声がカーチャに話しかけています。向こうは広間で、右に暖炉、手前に三つ叉の木柱があります。二人の話を聞いたネヴェンカは孤独に突き落とされる。『血とバラ』(1960、監督:ロジェ・ヴァディム)のクライマックスが連想されたりもします。

 夜の浜辺の眺めをはさんで、ネヴェンカが鏡を前にしています。左に背を向けた本体、右に鏡面とこちら向きの像が配される。鏡像の右にクルトの像が出現します。鞭打ちの始まりです。

 父伯爵の死体が発見されます。約53分弱のことです。同じ手口で、戸棚にあったはずの短剣は紛失している。
 浜辺を奥からクリスチャンが歩いてくる。奥に低く太陽が見えます。右から手が伸びる。カーチャでした。
 カーチャは一人戻ります。トンネル状になったところを下から上がってくると、崖の下から手が伸びあがる。ロサートでした。
 自室に戻るとジョルジアが待っていました。短剣がマットの下にあったという。皆疑心暗鬼に陥っている様子です。
 左手にある扉の外で二人の会話を耳にしたネヴェンカは、暗い廊下を奥へ走ります。右側の壁の前に何やら奇妙な燭台のようなものが立っており、すぐ右の壁に影を落としています。右に曲がる。カーチャの部屋の位置はもう一つよくわかりませんでしたが、ネヴェンカに曲がった様子のない点を額面どおり受けとるなら。階段からあがって枝分かれする前の廊下のどこかとなるのでしょうか。
 広間が正面からとらえられます。手前右下でクリスチャンが背を向けて奥へ歩く。奥左の階段の上にネヴェンカが現われます。下からのバスト・ショットになり、階段をおりてくるとカメラも下へ首を振る。右下からクリスチャンが近寄ってくる。以前にも出てきた階段をはさんで上下に人物を配する構図です。カーチャの部屋でのジョルジアとカーチャの言い争いをはさみ、ネヴェンカとクリスチャンも言い争いになり、ネヴェンカは階段をあがっていきます。
 クリスチャンがピアノの前に坐り、顔を両手に埋めると、カメラは急速に上昇します。ピアノの茶色と左の階段脇の壁の暗青色が対比されています。このあたりからただの二枚目要員かと目されたクリスチャンが活躍し始めます。
 悲鳴を聞いて階段を駆けあがる。カメラはいったん後退し、クリスチャンが階段の下に達した時点で右下へ振られる。階段の上、左のアーチの奥は緑です。やはり下の脇壁の暗青色と対比されています。そこを入って左に曲がる。
 廊下行その4,クリスチャン篇です。廊下の奥、右から出てきます。その右の壁は赤みを帯びている。床は暗青色。廊下は奥へ続き、突きあたりにチェストが見える。奥左の壁は緑です。
 右手前へ進む。カメラは右に振られる。左奥に曲がる廊下の前で背を向けます。曲がった先の床は緑、左の壁は青です。左下を見下ろすと、泥の足跡がありました。
 ジョルジアが現われ、叫び声は伯爵の部屋からだと言う。クリスチャンは左に曲がり、すぐ左の扉に向かいます。廊下の奥からカーチャも出てきます。クリスチャンは扉を開けるも誰の姿も見えない。ネヴェンカの部屋へ向かいます。扉が閉じられた後、カメラは伯爵の室内を右へ撫でる。隠し扉が閉まるのでした。

 かなり下から階段上の玄関口が見上げられます。上には方形の格子窓があり、右の壁は赤茶です。左側の壁と欄干はグレーを帯びている。扉口の向こうは大部分が赤茶ですが、右上が緑になっています。右側で折れて後退する白壁は、今回暗青色に染まっています。窓格子も同様です。白壁部分の上階にも窓格子が見えます。
 引きになります。冒頭で出てきたのと同じ構図です。階段の上にいるカーチャの白いブラウスが映えます。クリスチャンは足跡を辿って奥から手前へ、そして右に曲がります。まわりは暗がりになっている。
 木立の間を抜けます。右へ進むクリスチャンにカメラは並行する。玄関口を下から見上げるカットをはさんで、また木立の間のクリスチャンに戻る。
 先に礼拝堂が見えてくる。空が濃紺です。入口付近に人影がある。
 黒い格子戸の向こうにクリスチャンが現われます。右の壁は暗青色です。入って左へ向かう。手前に鉄籠状のランプらしきものが映り、緑の光があたっています。さらに左へ、首だけ大きく右を向いています。
 祭壇方向が正面からとらえられます。暗く青みがかっています。祭壇の上に置かれたランプを向こう・下から出てきた手がとる。また祭壇正面の構図になる。祭壇の上は暗赤色で、人影が加わる。ロサートでした。トンネル状のところでカーチャと出くわした時も、ロサートはまず下から出てくる手だけで登場していました。ロサートは泥の足跡をつけ、人影を見たのだという。男の笑い声が響きます。二人ともそれを聞く。クリスチャンは右の扉へ向かいます。カメラも右へ動く。
 下から階段が見上げられます。奥の上は緑です。カメラは右から左へ、いったん止まり、少し後退、また右から左へ動く。石棺の右奥に何やら赤いものが見えます。この赤はこれからどんどん出てくることでしょう。黄色や柿色系の暖色の照明は比較的自然に見えるし、青や緑といった寒色系は退く傾向をはらむためか納得できなくはない。しかしこの赤というか真紅はかなり強い。『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』第2話でも1度ちらりと用いられていましたが、本作では終盤近くになってから、しかも地下納骨堂に限って登場するというのは、場所の異界性を強調しているとでもとるべきなのでしょうか。
 さらに左へ、二人はクルトの墓碑の前から奥へ進みます。カメラは後退する。突きあたりに格子戸があります。その向こうに真紅の何かが見える。右の壁は緑です。格子の向こうでは真っ赤な枝だか針金のようなものがもつれていました。向こうの壁に髑髏が置いてあります。
 二人は引き返し、クルトの墓碑のさらに左へ向かう。そこに暗い扉口があります。床から一段上るかっこうです。抜け道からの出口だという。二人とも知っていたようです。残念至極にも中には入りません。痛恨の極みです。そこから足跡が出てきていました。左手前には赤い根とその下に赤い石が映っています。
 またクルトの墓碑の前に来て、開くと中から喪神したネヴェンカが転がりだすのでした。


 坐り、かがみこむクリスチャンをカメラは上から見下ろします。カメラが右から左へ振られ、クリスチャンの背中を見る位置で止まると、右上からスカートが出てくる。カーチャでした。「兄の笑い声を聞いた」とクリスチャンは言います。右上に右側の階段の下方が見えます。
 奥に窓が見え、手前右にはピアノの上の薔薇の花束が映ります。赤と緑の対比、再びです。花びらが少しピアノの上に落ちています。花瓶を見ながらカメラは右から左へ接近しつつ回りこむ。この間クリスチャンは声だけになる。人物を放っておいて動くカメラ再びであります。回りこみきると、右奥で二人が暖炉の前にいます。


 廊下行その5、カメラ篇です。暗い廊下です。緑の光が射しています。柱のいくつかは青い。突きあたりは扉です。左に暗赤色の緞帳、その左に紫の壁。カメラは右から左へ振られます。角を経て、直交する廊下が映る。突きあたりはチェストです。そのあたりは暗青色です。右の壁は赤茶。その向こうに曲がり口が見えます。壁は緑です。
 足音がする。曲がり口から影が現われます。床に足とその手前に伸びる影が映る。泥を落としつつ進みます。奥から手前へ、カメラもそれを追います。右で奥へ向かう。
 廊下がより近づき、少し左からとらえられます。カメラのみ前進する。右の扉へ、そして室内に入る。
 カーチャが悲鳴を上げる。「誰かを見た」と言う。床に足跡が残っています。


 クリスチャンが墓碑を開け、ロサートと柩を引っ張りだします。
 ネヴェンカの部屋です。真っ赤な光が射す。声がします。見上げるとクルトがいました。顔の左は赤く、右は青く染まっています。日本語字幕によれば、「私の墓が暴かれる。もう一緒にいられない」と言う。「今すぐ二人でここを永遠に去る」、否というネヴェンカに、「私を愛しているかぎり、この世で最強の愛で」、ネヴェンカは「私はあなたを憎んでいる」と叫ぶ。なおクルトが墓暴きを知っているのも、説明のつかない点でしょうか。
 真上から柩がとらえられる。開くとドロドロに朽ち果てた屍で、誰か分からないと言う。埋葬してそんなに日は経っていないはずなのですが。クリスチャンは"I destroy it"と言って火をつけます。
 カメラが右へ動くと、階段の上におりてくる足が映ります。階段上の踊り場は緑です。
 柩の向こうにクリスチャンとロサートが立っていると、男の笑い声が響きます。階段の手前に金茶の十字架が映り、中央に蠟燭の火が点されています。その右前に石棺が配されている。クリスチャンは右に走ります。緑の階段上の踊り場を駆けあがるシルエットが目に入る。
 クリスチャンが追います。礼拝堂の1階扉から入口へ走る。切り替わって礼拝堂を出て手前へ走ります。また切り替わり、手前から玄関階段へ走る。次いで広間を手前から奥へ、左の階段を上に駆けあがります。今度は廊下です。半ば右の扉口から出て手前へ走る。カメラの前を横切り曲がって奥へ、カメラは左から右へ振られます。あたかも城の関連箇所を復習するかのごときカットの積み重ねは、『吸血鬼ドラキュラ』
(1958)のクライマックスを連想させずにいません。
 突きあたりの扉がゆらゆら揺れます。クリスチャンの胸から上が正面視でとらえられます。左から光が射している。背後上方にはアーチがあり、赤茶です。左は緑、右は青です。クリスチャンが前進するとカメラは後退する。クリスチャンが陰に沈み、青くなり、また暗く、暖色、右からの緑と移行します。廊下行その2、ロサート篇の変奏といったところでしょうか。
 扉の前で背を向ける。カメラは前へ進む。扉口が真っ暗です。中はクルトの部屋でした。室内から右を向くクリスチャンの肩から上がとらえられる。家具に白布がかけられています。カメラは左から右へ振られ停止する。またクリスチャンのショットに換わり、右から左へ首を向けると、椅子の下に靴が見える。クリスチャンの動きとともにカメラは左から右へ振られる。長靴だけでした。クリスチャンの正面アップがやや下からとらえられます。前へ進み、カメラは後退します。後ろから手が現われる。暗がりに短剣が浮かびます。手にしていたのはネヴェンカでした。
 逃れたネヴェンカは暖炉の隠し扉に消えます。ロサートが「中から鍵がかけられた。礼拝堂へ」と言う。
 柩の中で亡骸が燃えています。右に格子が見える。カメラは左下から右上へ動く。格子越しに向こうからネヴェンカが現われ、右を向くと別の格子の向こうにクルトがいます。上はアーチになっている。ネヴェンカは右へ進む。手前に唐草格子が映ります。その右では背後に真紅の根や格子が見えます。ネヴェンカが進むと顔が緑に染まります。中に入り格子を閉じる。クルトに口づけしつつ背に短剣を振りあげる。
 クリスチャンとロサートが駆けつけます。格子戸の向こうです。手前に黒い格子があり、向こうの上半は真紅、下半は緑になっています。左にネヴェンカ、右に赤茶の格子戸とその向こうの二人、間のアーチは紫に染まっています。二人の奥左は緑です。
 二人にはクルトは見えない。ネヴェンカは短剣を振り下ろす。格子戸を開けて入ってきたクリスチャンに「私は彼を再び殺した」と言う。
 屍が崩れ落ち、鞭がのたくります。火だけがアップになり、襞のよった赤布をバックにエンド・マークが出るのでした。


 余談になりますが、大昔テレヴィで見て以来、本作を吸血鬼もののヴァリエーションだと思っていたのは解釈の一つだとするとして、もう一点、なぜかクライマックスは昼間、石造の回廊のようなところで、その向こうに海が見える、そんな場所で柩の屍が燃やされ、ネヴェンカとクルトの結末が訪れたものと思いこんでいました。なぜそんな風に思いこんだのやら、何か他のイメージとごっちゃになったのでしょうが、記憶のいい加減さを例によって例のごとく証してくれるのでした。
Cf.,  手もとのソフトに封入されたリーフレット掲載になる
遠山純生、「解説」
はとてもよくまとまっています。さいわいウェブ上で見ることができるので、ぜひご覧ください;
『白い肌に狂う鞭』をめぐって」 [ < ARCHIVESmozi by 遠山純生


またこのDVDは、『回転』(1961、監督:ジャック・クレイトン)および『生血を吸う女』(1960、監督:ジョルジョ・フェローニ)とあわせて『映画はおそろしい HORROR MOVIES THE BEST OF THE BEST』(紀伊國屋書店、2005)というボックス・セットに含まれているのですが、このセット附属の小冊子が;
『恐怖の手帖』
ホラー映画談義(黒沢清・手塚眞)/ホラー映画論(黒沢清)/ホラー映画の愉しみ(中原昌也)/西洋恐怖映画鳥瞰(遠山純生)など、54ページ。

なお「ホラー映画談義」は
黒沢清、『恐怖の対談 映画のもっとこわい話』、青土社、2008、pp.73-110
に再録(→こちらでも触れています)。
またボックス・セットの3作は、
黒沢清、『映画はおそろしい』、青土社、2001、pp.28-43:「ホラー映画ベスト50」
中の上位3作で、第3位(p.29)に本作が挙げられています。


黒沢清はまた;
黒沢清+篠崎誠、『黒沢清の恐怖の映画史』、2003、「3. マリオ・バーヴァとヨーロッパ怪奇の神髄」、とりわけ pp.152-160

The Horror Movies, 2、1986、p.60

菊地秀行、「白い肌に狂う鞭」、『夢みる怪奇男爵』、1991、pp.212-216

山崎圭司、「白い肌に狂う鞭」、『イタリアン・ホラーの密かな愉しみ』、2008、pp.24-27
西村安弘、「家庭内の権力闘争が怖い!-マリオ・バーヴァ作品における家父長制」、同、pp.73-74

古谷利裕、「白い肌に狂う鞭」、『映画空間400選 映画史115年×空間のタイポロジー』、2011、p.88

José María Latorre, El cine fantástico, 1987, pp.319-336:"Capítulo 20 La escuela italiana del terrori" より pp.330-332

The Christopher Lee Filmography, 2004, pp.121-124

Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.122-123

Troy Howarth, The Haunted World of Mario Bava, 2002/2014, pp.58-63, etc.

Tim Lucas, Mario Bava. All the Colors of the Dark, 2007, pp.516-539

Danny Shipka, Perverse Titillation. The Exploitation Cinema of Italy, Spain and France, 1960-1980, 2011, pp.47-48, 58-59

Roberto Curti, Italian Gothic Horror Films, 1957-1969, 2015, pp.102-108

バーヴァに関して→こちらも参照
 2015/6/17 以後、随時修正・追補
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