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女ヴァンパイア カーミラ
La cripta e l'incubo
    1964年、イタリア・スペイン 
 監督   カミロ・マストロチンクエ(トーマス・ミラー) 
 撮影   フリオ・オルタス、ジュゼッペ・アックァリ 
編集   ヘルベルト・マルクレ 
 プロダクション・デザイン   デモフィロ・フィダーニ(デモス・フィロス) 
    約1時間24分* 
画面比:横×縦    1.85:1
    モノクロ 

DVD**
* [ IMDb ]によるとイタリア版は約1時間22分となっています。
** 本ソフトは英語版、英題は Terror in the Crypt
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 吸血鬼小説の古典の1つであるレ・ファニュの「カーミラ」(1871~72)に想を得た映画としては本作以前に、ドライアーの『吸血鬼』(1931/32)、ヴァディムの『血とバラ』(1961)、後にはロイ・ウォード・ベイカーの『バンパイア・ラヴァーズ』(1970)などがあり、これ以外にも何度か映画化されているようですが、見る機会のあったのはこれまでのところ以上に留まります。ドライアーとヴァディムの2篇は筋立てを完全に換骨奪胎しているのに対し、本作品と『バンパイア・ラヴァーズ』はそれぞれに新たな設定を加えつつ、しかもその追加は双方必ずしも功を奏していないと見受けられるのですが、とまれ比較的原作に準じた物語を綴ってくれます。
 もっとも本作に対する評価は芳しいとはいいがたいようで、下掲の The Christopher Lee Filmography, 2004 該当箇所でもけっこうぼろくそに書かれています(追記:下掲 Roberto Curti, Italian Gothic Horror Films, 1957-1969, 2015 は積極的に解釈していました)。そこで比較の対象となるバーヴァの『白い肌に狂う鞭』(1963)といっしょにされては気の毒の感なしとしませんが、城内と近隣の廃墟のみに限られた舞台は、雰囲気を欠いているわけではありません。贔屓の引き倒しかもしれませんが、クリストファー・リーも中途半端な役どころの割にがんばっています。当時のイタリア映画ではアフレコが一般的とのことで、英語版でも同じ俳優が声を当てていない場合の方が多いようですが、本作英語版でリー自身の声が聞けるのは、一部ファンにとってはうれしいかぎりでしょう。
 ただ米国の Retro Flicks 社のマスターにより制作されたという手もとのソフトは、いかんせん画質がかなり残念賞もので、その点でも大いに損をしています。電波状態の悪い時にVHSに三倍録画したようなとでもいえばいいでしょうか。個人的な嗜好ですが、登場人物があまり廊下をうろうろしてくれないのは減点の対象といえるかもしれません。
 原題は『納骨堂と悪夢(夢魔)』の意。
The Christopher Lee Filmography では後半が"l'incuba"と女性形、[ IMDb ]では"l'incubo"と男性形になっていますが、いずれが正しいのでしょうか? 手もとの伊和辞典では incubo の形で載っていたので、このページではそちらに合わせておきます。

 [ IMDb ]によると本作は、中部イタリア東側のアブルッツォ州ラクイラ県バルソラーノのピッコローミニ城 Castello Piccolomini di Balsorano, L'Aquila, Abruzzo でロケされました。[英語版ウィキペディアの該当ページ]によるとこの城は教皇ピウス二世の甥アントニオ・ピッコローミニによって1460年に築城されたもので、現在はホテルになっており、イタリア映画のロケにも幾度か用いられているそうです(→こんなウェブ・ページもありました:[ Castello Piccolomini Horror Wiki ]。イタリア語なので内容はよくわかりません。同様に"IL CASTELLO DI BALSORANO"(2008/3/13[ < il Davinotti ])も参照)。五角形の各頂点に円塔を配するという平面を有しています。Google の画像検索等で見ると、城の外観はロケによるもののようです。大きく開けたガラスのない窓など、屋内でも撮影されているのでしょうか。
 なお[ IMDb ]が『惨殺の古城』(1965)や『イザベルの呪い』(1973)のロケ地としてあげるアブルッツォ州ラクイラ県のバルソラーノ城 Balsorano Castle, L'Aquila, Abruzzo はピッコローミニ城のことだと思われます。

 タイトル・バックから城の外観が登場します。夜空を背景に下から見上げた角度で、崖だか丘の上にそびえているようです。手前に太い円塔を配し、円塔より少し低いだけの高い城壁が左右で後退していきます。左端にも円塔が見えますが、右半は陰になっている。塔も城壁も鋸歯型胸壁をいただいています。壁の上の方で階層を分かつ仕切りがあり、上下に窓が並んでいます。雷も轟きます。
 馬車から娘がおりる。向かいに別の黒い馬車が見えます。真っ暗になり娘が悲鳴を上げる。

 また城の外観です。冒頭の時より右に寄った角度で、やはり下から見上げている。中央の塔の下に斜面が伸びている。右端にも円塔のあるのが見えます。カルンシュタイン城とのナレーションが入ります。
 悲鳴とともに寝台で寝ていた娘が跳ね起きます。冒頭の娘とは別人です。左から小間使いが、奥から乳母らしき人物が入ってくるので、入口が2つあるようです。寝台の娘はラウラ(アドリアーナ・アンベシ)、乳母はルイーナ(ネラ・コンジュー)、小間使い(ヴェラ・ヴァルモン)の名はまだわかりません。
 ラウラは「従姉妹のティルダが殺された」という。そのさまを夢に見たようです。

 昼間の城の外観をはさんで、右奥の半円アーチの扉口から男が出てきます。左右手前には壁があり、天井もついているようです。奥は低く鋸歯型胸壁が伸び、その向こうに山並みが見えます。
 男は奥から手前に、カメラの前を横切り、背を向け右に進む。先に扉がある。ノックすると執事が応対します。男はフリードリッヒ・クラウス(ホセー・カンポス)と名乗る。
 彼が中に通されると、カメラは左上へ振られます。蔦に覆われた壁を撫でて、上に窓がある。そこから小間使いが見下ろしていました。


 机でカルンシュタイン伯爵が書き物をしています。クリストファー・リーの登場です。カメラが引きになると、左奥に机、その右に半円アーチの窓、窓の中は2つの細長い半円アーチに区切られている。その右で壁は手前に折れ、暖炉があります。さらに右手前に扉がある、床近くの高さからのショットでした。
 クラウスが通されると、日本語字幕では伯爵はロンドンであなたのことを知った、あなたらなら解決できる案件がある、先祖について調べてほしいと言います。カーテンの陰で小間使いがのぞいています。先祖はシーラ・カルンシュタインという名で、200年ほど前の人物だ。容姿も知りたい。伝説では彼女は魔女で、若い娘たちを殺した廉で十字架にかけられた。調査の動機はとクラウスが尋ねると、好奇心だと答えます。


 書庫に案内しようと二人は部屋を出ます。左奥に扉があり、角を経て右にも別の扉が見えます。手前から背を向けて小間使いが歩み寄り、伯爵に話があるという。伯爵は執事のセドリックに案内を頼みます。
 小間使いと伯爵は胸から上の姿で、下から見上げられます。二人とも手前を向いている。小間使いはまた夢を見たと報告し、伯爵は誰だ?と尋ねる。小間使いはティルダと答えます。伯爵は恐い顔をしています。

 書庫には細い尖頭アーチから入って手前に7~8段くだります。壁は粗造りの白です。あまり広くはなさそうで、本だらけというわけでもありません。クラウスが文書を1枚取りあげると、五芒星の形に切り抜かれていました。
 五芒星形の紙面が映され、それを手にしていたのは乳母でした。このパターンは後にもう1度繰り返されるでしょう。ラウラの寝室です。乳母はラウラに今夜儀式を執りおこなうと告げます。この部屋は扉がアーチをなし、その縁を始めとしてあちこちに装飾が豊富に施されています。

 壁の外観が下から見上げられます。夜です。細長い半円アーチの窓が2つ一組で二組見えます。
 食堂です。暗く、けっこう広い。奥に暖炉、手前に長テーブルが配されています。壁や椅子の背にやはり豊富な装飾が施されています。
 鐘の音が聞こえてきます。廃墟となったカルンシュタインの村の塔の鐘が風で鳴るのだという。
 夜の城の外観がはさまれます。タイトル・バックと同じ角度です。
 続いて丘の上の廃墟が映されます。右に尖り屋根のロマネスク風塔が立っている。その左に少し間をあけて方形、右に接して円形の壁が見えますが、こちらは上部が欠けているようです。

 クラウスが古文書を調べています。シーラは子孫に呪いをかけていました。『血ぬられた墓標』(1960)と似たような設定です。最後に5つの星に誓うとあります。クラウスは先だって見つけた五芒星形に切り抜かれた文書をひろげます。
 またしても五芒星形の紙面が掲げられます。やはり手にしていたのは乳母でした。紙面には顔とそれを取り囲む翼らしきものが描かれています。地下室でしょうか、乳母はシーラを降霊します。前にはラウラがおり、上半身裸になって床にうつぶせる。
 五芒星形の紙面を蠟燭にかざします。過去の情景が描かれます。シーラに死刑の判決が下され、シーラは呪いを吐く。屋外です。向こうに鋸歯型胸壁が見えます。
 呪いの言葉はラウラの口から語られる。奥に上への階段があります。
 我に返ったラウラは鋸歯型胸壁の向こうを右から左へ走ります。下からの仰視です。壁は途中で手前にゆるく折れています。
 ラウラは城壁の下をのぞく。乳母が止めます。ラウラは右で暗く、乳母は左で明るい。双方首から上の姿です。


 小間使いが髪を梳いています。鏡に映った姿でした。向こうの寝台にはガウン姿の伯爵がいます。伯爵はラウラのことを心配しています。小間使いは自分のことを愛していないくせにと言う。腹に一物ありげです。思惑のすれ違いをけっこうきちんと描いています。

 門のところに犬を連れた物乞いがやってきます。執事は追い払おうとしますが、乳母が中に通します。門の向こうに前庭のあることがわかります。奥に数段あがって玄関、左にも別の扉が見える。
 物乞いはあちこち足を運ぶ分事情通のようで、ティルダ・コンスタインが死んだことも知っていました。4月に入って3人目のコンスタインだと言います。

 中庭でしょうか、石のベンチにラウラが腰かけ、本を読んでいます。半円アーチの向こうからクラウスがやってくる。奥に山裾が見えます。アーチの右手にラウラの坐るベンチがある。
 父は私のことに興味がないとラウラは言います。先だって伯爵が娘の心配をしていたのとは裏腹に、娘からは冷たい父親と思われているようです。
 クラウスがキスしかけると馬のいななきが聞こえてきます。塀沿いに馬車が走ってきたのですが、車輪が外れてしまう。二人が駆けつけると、気絶した娘が馬車から救いだされる。約24分、本作ではリューバの名、原作のカーミラの登場です。原作どおり、いっしょに母親もいて、急ぎの用があるのに困ったと呟き。ラウラがうちで預かると請けあいます。
 馬車はなぜかやって来た方に戻っていきます。それを見送るラウラとリューバ(ウルスラ・デイヴィス)のアップとなる。ラウラの方が少し高い位置に配されています。

 明るい窓に透けたカーテンがかかっています。カーテンが風でふくらみます。部屋の内装も明るい。
 カーテンの奥からラウラが現われ、眠るリューバを見つめます。ラウラはすでにリューバに魅せられているようです。

 廊下でしょうか。奥は石積みの壁で、右で手前に折れています。ガラスのはまっていない大きな窓が開き、蔦が絡んでいる。向こうに中庭か何かをはさんで低い棟が伸びており、白く照り返しています。鋸歯型胸壁を上に走らせている。その下に細長い尖頭アーチの窓が並んでいます。窓の縁は黒っぽい。右手には大きな木が茂っている。向こうの棟のさらに向こう、山裾がひろがっています。『血ぬられた墓標』におけるやはりガラスのはまっていない窓が思いだされるところです。
 小間使いが手前のテーブルに籠を置く。通りかかったクラウスが問いつめます。


 眠るラウラが真上から見下ろされ、ズーム・インする。ふと目を覚ますと、盃を両手で抱えた娘が現われます。足腰を動かさず手前に出てくる。ティルダでした。盃にはカルンシュタイン家の血が注いであるという。乳母、小間使いが現われ、やはり盃を掲げています。
 リューバも現われ、ラウラは彼女のもとへ行く。差しだされた手に頬ずりし、見上げると髑髏でした。
 悲鳴を上げて飛び起きる。カメラは右から左へ振られます。誰もいない。ドアがノックされます。リューバでした。向かいの階段の陰で小間使いがのぞいています。


 クラウスが文書を洗浄しています。上層の書面を拭い落としてしまう。現在の修復からすると、こんなことをやってはいけません。
 書庫です。乳母が入ってきます。もう朝だという。クラウスは乳母に、城には何枚くらい絵があるのか尋ねると、100枚以上とのことです。また小間使いは? と訊けば寄生虫という答えが返ってくる。約33分、小間使いの名がアネットだと、少なくとも日本語字幕ではようやくわかります。
 伯爵が入ってきます。クラウスはシーラの肖像が城にあり、ただし上に別の絵を重ねられている、文書ではニスの上に上書きされていたと告げます。伯爵は知りたい、知りたくないの間で揺れているようです。


 庭のブランコでリューバとラウラが戯れています。奥に緑の植物アーチが見える。壁の上から小間使いがのぞいています。リューバと入れ替わりにクラウスが来ます。向こうに鋸歯型胸壁が走っている。リューバによってラウラが笑うようになったという。クラウスは振られます。
 小間使いがのぞいていた室内には伯爵もいました。小間使いもまた複雑な心情を抱えていることがわかります。


 顔の削られた天使像が映り、その下にはラウラの寝台がありました。夢遊状態なのでしょうか、ラウラはふらふらと窓の方へ背を向けて歩み寄ります。急な風がカーテンを跳ねあげる。
 振り向くと扉が勝手に開きます。室外に出る。廊下なのに左の壁には暖炉があります。右から左へ進む。首から上の姿で階段をおりているようです。カメラも合わせて下に動きます。何点も絵がかかっている奥の壁に、欄干の曲線細工が大きく影を落としている。
 おりて向こう側・右に扉があります。勝手に開く。中に入ります。リューバが眠っている。強風に刺繍付きカーテンが揺れます。画面が真っ暗になり、またカーテンが映る。燭台の火が消えます。リューバが目を見開く。
 「リューバ」と呼びながらラウラが目覚めます。廊下に出る。先だってよりやや引きで、やや上からの角度です。右から左へ進みます。
 下から階段が見上げられ、ラウラがをおりてきます。下で泣きながらしゃがみこむ。階段の上からのショットに切り替わります。階段をおりて少し先に半円アーチがかぶさり、その手前・右に半円アーチ型の扉があります。
 正面の半円アーチの向こうに少し廊下が伸びており、奥・突きあたりの扉から伯爵が出てきます。半円アーチの向こう・右からクラウスが現われる。左からは乳母がやって来ます。
 伯爵とクラウスはリューバの部屋に入る。半円アーチの手前・右の扉の部屋です。リューバの首筋に2つ、小さな咬み跡らしきものがありました。伯爵はラウラがシーラに乗りうつられているのではないかと疑います。
 ラウラの寝台に血の跡がついていました。
 夜の城の外観がはさまれます。冒頭と同じ角度です。雷が轟く。


 朝の庭園です。リューバのもとにラウラが近づいてきます。早起きねとラウラが言うと、夜明けとともに起きるとリューバは答える。ここは舞台、喜劇か悲劇か、快楽か死か誰が知ろうと、何やら物思わしげです。ラウラはリューバの肩に寄りかかる。
 物乞いが近づいてきます。ラウラにお守りか何かを渡す。ラウラが怯えて去ると、ずっと旅をしていろんな顔を見てきた、100年、200年、300年も一瞬に過ぎぬなどと呟きます。


 暗い廊下が低い位置からとらえられます。奥からラウラが駆けてくる。手前・右の扉からクラウスが出てきます。ラウラの部屋で肖像画の話をしますが、元気づけることはできません。退室の際、ラウラが投げ捨てたお守りか何かを拾っていきます。廊下に出てそれを開くと、シーラの呪いが記された紙面が入っていました。
 リューバがやって来ます。ラウラが私を見る眼が時々恐いとクラウスに言います。ラウラはころころ変わるのだと。自分がシーラに憑かれており、殺人を犯しているのではないかラウラが疑うというのは原作にない設定ですが、本作ではまた、ラウラとリューバが互換性を有しているかのごとき感があります。
 とまれクラウスは、ラウラには君の助けが必要だと言って離れていきます。入りかけた扉の陰からリューバが見ています。
 階段をおりるクラウスが下からとらえられます。クラウスが近づいてくるとカメラは接近する。向かいの鏡に自分の姿が映っているのに目をやります。これは後に伏線として用いられることでしょう。


 蔦だらけの鐘塔が下から見上げられます。夜です。鐘の音が響く。廃墟に次いで城の外観が映される。やはり下からの仰視ですが、以前のショットより少し近づいているようです。
 壁の2連窓が下からとらえられる。屋内で灯りが左から右へ移動します。
 瓢箪型のテーブルに燭台を置くラウラが、かなり上から見下ろされます。その前にいったん坐るも、立って右へ向かう。ノックの音がしてリューバが入ってきます。ずっと鐘が鳴っている。リューバは風なんて吹いていない、雲一つないと言います。
 廃墟に行ってみようとラウラを連れだす。二人が丘をくだります。上に別の廃墟のようなものが見える。
 下から蔦だらけの鐘塔がまた見上げられます。二人はその扉口まで来て、中に入ります。物乞いが首を吊っていました。犬が裾を引っ張ったため、鐘が鳴っていたのです。手が切りとられていました。


 約1時間弱、古城映画的山場です。乳母が悪魔への祈りを唱えています。首吊り死体を見つけ、手を切りとったとのことです。乳母が手にしている燭台は〈手〉でした。各指先に蠟燭がつけてある。いわゆる〈栄光の手〉です。左上への階段をのぼります。壁に右上がりの欄干の影が落ちている。
 いったん屋外に出たようです。乳母が下から上がってきます。螺旋階段がほぼ真上から見下ろされる。陰影が濃い。あがってきます。
 扉にかけられた手がアップになります。伯爵でした。開いた扉から小間使いが出てきます。向こうを見ると、左側に暗く階段が左上がりに伸び、その右下に半円アーチの扉口があります。階段をのぼった先には窓があり、その右から手前へ、アーチの上に歩廊の欄干が伸びています。アーチの向こうから光が射しており、左から手の影が現われます。乳母が出てきて階段をのぼり、上で右に進みます。小間使いが追う。
 乳母は男を殺したもののもとへ導けと唱えます。カメラは下から見上げています。彼女は時計回りにぐるっと回る。画面は蠟燭の火以外真っ暗になる。違う、ラウラのはずがないと呟く。悲鳴を上げてのけぞります。
 様子をうかがっていた小間使いも悲鳴を上げ、左へ逃げだす。廊下を右から左に進みます。奥の大きな扉の中に入る。入った先、扉の上には尖頭アーチがあります。すぐ下り階段でした。上から見下ろされます。おりて左に進むも、何かを見て引き返したようです。奥に先ほどの左上がりの階段が見えます。そこをのぼる。上には尖頭アーチがあります。右奥から出て左前に、暗い廊下でしょうか。手前に長テーブルが置いてあります。左奥に尖頭アーチの扉があります。そこに背中を寄りかからせると、そのまま奥に入る。画面が真っ暗になり、悲鳴が聞こえてきます。約1時間4分弱でした。


 風が吹き荒れ、雷が鳴っています。正門の前に何人かの男たちがやって来る。やや下からの視角です。
 葬儀が執りおこなわれています。柩の中には乳母が横たわっている。突風に窓が開き、蠟燭の火を吹き消します。乳母が起きあがりラウラを指さすのでした。
 奥の扉が開き男たちが出てきます。下に下り階段がある。引きで撮影されています。手前には蠟燭が3本、高く映りこんでいる。男たちが階段をおりてきて、柩の蓋を閉めます。


 ラウラの寝室です。ラウラは衰弱しています。看病するリューバを残して伯爵とクラウスは廊下に出ます。クラウスは机の上の肖像画が額から抜きとられていることに気づきます。探していたのはこの絵だったのです。絵を探していたことを知っていたのはラウラと小間使いでした。伯爵は苦悩しています。

 ラウラは自分を呼ぶ声がすると言います。リューバは母が戻ったらいっしょに行こう、今よりもっと友達になれると言います。ラウラの目元のアップ、リューバの目元、ラウラの目元と切り返され、右に目をやります。乳母が下から見上げられる。約束どおりあなたを殺すという。消えます。ラウラとリューバは抱きあいます。

 クラウスと伯爵です。文書には名のない棺のことが記され、黒い石に覆われているという。
 クラウスは振り返った際、扉の左の鏡の位置が変わっていることに気づきます。部屋に戻ろうとした時驚かされた、自分の鏡像が幽霊のようでとのことです。鏡を動かすと中に肖像画がありました。あっさり見つかったものです。
 書庫が上から見下ろされます。クラウスは絵の上層をそぎ落とします。現在の修復ではこんなことはやってはいけません。そぎ落とされた画面を見下ろす伯爵とクラウス、しかし画面は映されません。


 夜の庭を娘二人が奥から駆けてきます。右奥に向かって欄干が伸びており、その奥に半円アーチが見えます。二人は奥から手前に走る。
 ラウラの部屋に伯爵とクラウスが入ってきます。いません。リューバの部屋に行く。やはりいません。伯爵は村だという。外へ出るのを執事が見送っています。先ほど娘二人が駆け抜けたところを男二人も急ぐ。
 娘二人は欄干のある分かれ道を左に進みます。
 男二人が下から見上げられる。向こうに廃墟が見えます。あたりを見回した後、右に戻る。
 娘二人は手をつないで丘を手前へおりてきます。
 男二人は欄干のある分かれ道で右に進みます。そこはくだり階段で、おりていくさまがほぼ真上から見下ろされます。
 おりた先の床には五芒星が描かれていました。伯爵は何年も誰も来なかったと思っていたといいます。クラウスが穴蔵は奥まで続いているといいます。奥に格子戸があります。伯爵は鍵がなくて入ったことがないといいます。格子戸はすんなり開きました。ここの敷居から一族の城だという。日本語字幕では意味がよくわかりません。
 伯爵は松明を手に、右から左へ進みます。洞窟のような態です。手を縛められた骸骨もあります。
 柩、装飾で覆われた柱、壁には墓碑がいくつもある空間に出ます。柩の中に潜んでいた人物がクラウスの首に手をかける。
 娘二人が丘をくだってくる。風がきつい。右上には粗石積みの廃墟が見えます。
 伯爵が男を止めます。男はティルダの父フランツで、自分は従兄弟のルートヴィヒだと言い聞かせる。日本語字幕で伯爵の名が出たのはここが初めてでした。フランツは娘を殺したものを知っていると言います。しかしどのくらいの間柩に潜んでいたのでしょうか。
 クラウスが奥でカーテンを引くと、小間使いの亡骸が転がりだします。その奥に黒い石が嵌めこまれている。
 娘二人が左上から右下へ、丘を駈けおります。
 フランツとクラウスが黒い石を壊しています。伯爵は松明持ちです。中に塞がれた壁があり、それも崩す。中に入って少し進むと、五芒星を刻んだ柩が安置されていました。三人は蓋を開けます。指を折り曲げた手がアップになる。
 左から右へ、二人娘が駆けます。双方白い衣が風にたなびいており、あたかも自由への逃走であるかのごとくです。なかなかかっこうがいい。娘二人が立ち止まります。先で黒い馬車が待っている。
 柩の中は生時そのままのシーラ=リューバでした。
 娘二人の握りあった手が伸ばされ、腕が水平になる。リューバが「恐いの?」と恐い声で訊ねます。
 フランツが後ろから銛を取り、振りあげます。伯爵はもう誰も殺すなと止める。
 ラウラはこの期に及んで躊躇しています。
 クラウスがフランツから銛を受けとります。三つ叉です。シーラに向けて振りあげる。
 リューバが悲鳴を上げ、雷とともに衣のみ残して消え去ります。ラウラはあたりを見回す。
 夜の城外観、廃墟と続いて、昼の城外観、次いで昼の城の前庭となります。伯爵、クラウス、ラウラが馬車に乗りこむ。執事が見送っています。
 角の円塔をカメラは上から下へ撫で、下の森を走る馬車をとらえます。左奥から右奥へと進むのでした。


 ラストで伯爵が馬車に乗ると、ラウラとクラウスが見つめあっています。伯爵はやれやれといった表情で馬車を出すよう合図する。何じゃそりゃあといった感じ必至ですが、そもそも本作のお話は(『血とバラ』同様)、ラウラの成長ないし脱皮の物語として深読みすることができます。最初の登場以来ラウラは疑念に取りつかれています。この場合自分が悪しき魔女ではないかというものですが、その内容はともかく、己への疑念によって揺れ動いているという事態が重要なのでしょう。
 ラウラを保護し、同時に真相を解明しようとする乳母は、ラウラの実質的な母親であると同時に魔女でもある。地縁血縁等、地母神に連なる者ということで、ラウラを構成する過去の体現であるわけです。だから振り払わなければならない。
 父の愛人でもある小間使いは、正式な婚姻によるのではない関係を父と結んでいる点で、やはり社会的に排除されるべき対象となる。
 擬似精神分析風に図式化するなら、城という閉域で父への欲望を禁じられた娘は、母を二極化する。一方に父の妻という立場を奪われた乳母、こちらは無条件で娘を庇護しようとします。他方で母という立場を奪われ、しかし父の正妻ではあり得ない小間使い。双方を排除することで娘のエレクトラ・コンプレックスは成就するようにも見えますが、しかしその欲望は法によって禁じられたものであるがゆえに、自らを揺るがし、ついには己自身をも二極化する。
 さてリューバですが、本作では当初からラウラの方が能動的に彼女に引き寄せられていったように描かれています。そのラウラ自身がすでに潜在的な加害者なので、少なくとも本篇中での描写によるかぎり、原作のカーミラのような誘惑者というより、リューバは不安定なラウラを支える立場に置かれています。リューバを演じたウルスラ・デイヴィスが、ラウラ役のアドリアーナ・アンベシと並ぶといささか少女めいて見えることも、そうした様相に与しているのでしょう。
 その点でリューバは、ラウラの内なる思春期の体現でもあります。だから原作のラウラ/カーミラの関係が本作では逆転しているかのように描かれたりもする。二人は互いに入れ替わることができるのでしょう。思春期は他方、社会的な現実からはみだそうとする傾向をも宿す。二人が手に手をとって丘を駈けおりる場面が自由への解放を印象づける一方で、だから最後でリューバは恐い顔になるわけです。
 そのリューバからも身をふりほどいた時点で、ラウラは一個の社会人として安定することができる。閉域の外から到来した他者であるクラウスの介入によって、ラウラは揺り籠である城から出て外の社会へ踏み出すことになります。ただしこの社会性は、父とクラウスが体現する家父長制・強制異性愛に身を委ねることによって獲得されるというわけです。何じゃそりゃあの所以でした。
 もっともこうした寓意的な読解を引き寄せるということは、イメージを意味に回収するという点で、作品にとっても観者にとっても長所とは言えないのではないでしょうか。ただ古城の廊下をうろうろと行ったり来たりするだけで何らかの雰囲気が醸成される、やはりそれしかありますまい。この点で本作は充分でないにせよ、乳母と小間使いの彷徨場面や二人が丘を駈けおりる場面を始めとしたいくつかのイメージを含んでいることをもって、柩の中の実体とは別に行動する吸血鬼という設定とともに、それなりに評価されていいのではないかと思われるのでした。

Cf.,  ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、p.142/no.090

The Christopher Lee Filmography, 2004, pp.128-129

Roberto Curti, Italian Gothic Horror Films, 1957-1969, 2015, pp.128-135

原作に関して→こちら(『吸血鬼』1931)、またそちら(『バンパイア・ラヴァーズ』)を参照
 2015/8/3 以後、随時修正・追補
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