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吸血鬼*
Vampyr
    1931/32年**、ドイツ/フランス 
 監督   カール・テオドア・ドライヤー 
撮影   ルドルフ・マテ 
編集   トンカ・タルディ 
 美術監督   ヘルマン・ヴァルム 
 セット・デザイン   セザール・シルヴァニ 
    約1時間11分*** 
画面比:横×縦    1.19:1 
    モノクロ 

ケーブルテレビで放映されたもの
* 手持ちのVHSソフトの邦題は『ヴァンパイア』
** 製作は1931年となっている場合と1932年となっている場合があります。[ IMDb ]によると公開はドイツで1932年5月

*** [ IMDb ]によると、ドイツ版は1時間23分などと、いくつかのヴァージョンがあるようです。
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 レ・ファニュの短編集 In a Glass Darkly (1872)が原作として挙げられていて、そこには「緑茶」、「仇魔」、「判事ハ-ボットル氏」、「ドラゴン・ヴォラントの部屋」とともに「吸血鬼カーミラ」が収められているのですが(下掲レ・ファニュ『吸血鬼カーミラ』、p.384)、「カーミラ」の筋が再現されるわけではありません。この点については下に挙げたプロウアーの本を参照ください。
 ともあれ、トーキーなのに最小限の台詞しかなく、状況説明はサイレント映画風の字幕や、後半では本のページで行なわれるこの映画では、登場する4つの建物それぞれに面白い描き方がされています。

 まずは例によって、お城探訪の前の旅籠ですが、主人公が2階にあるらしき部屋に通される前の廊下には、上の階だか屋根だかに上がるための梯子がかけられており、また部屋から扉を開くと、先の梯子とは別に、廊下の右に上の階への階段がありました。ここですでに、廊下や扉、階段などがいささか入り組んだ関係をなしており、続くメインの建物2つにも引き継がれることになります。また撮影するカメラが人物を中央に配しつつ、左右によく動くことも頭に留めておきましょう。


 さて謎めいた人物の訪問に促されて、主人公は宿を抜けだし、川の対岸側の水面に映る、実体のない影に案内されるようにして窓も破れた、荒れた印象の建物にたどりつきます。主人公がまず潜りこむのは地階で、決して広そうではないのですが、アーチの連なる廊下や上への梯子が細かく分割された空間の感触を伝えます。土壁は白く塗られ、そこに影たちが戯れる。吹き抜けになった部屋もあって、壁には馬車か何かの車輪がかけられ、奥から老婆が現われて影たちを静まらせる。
 粗い石壁の区画を経て、上の階に上がると、1階は使用されているようで、やはり細かく部屋割りされ、2階に上がる階段もあれば、外に出る鉄の扉もあり、その脇にも地下に通じるらしい扉があるようです。それらをカメラが横へ横へとなぞっていく。
 壮大でもなければ豪勢でもなく、といっていかにも不気味だというのでもありませんが、空間が幾重にも枝分かれしているという感触こそが、それらの空間の隅ごとに何かを淀ませるのではないでしょうか。


 影に導かれて林を抜けると、蔦に覆われた別の館に出くわします。ここは普通に家族が暮らしているのですが、まさに凶事に襲われているところなのでした。階段や廊下、部屋の連なりが人物の動きを追ってたどられ、とりわけ玄関ホールではカメラがぐるっと一周分パンします。

 輸血のため困憊した主人公は庭のベンチに倒れるのですが、そのまま夢の中で最初の館に戻ったりします。生きたまま棺に入れられ、運ばれる際には教会を見上げることになります。ともあれいささか判然としない成りゆきを経て、最後に吸血鬼の手助けをしていた人物が逃げこむのが、風車か水車か、粉挽き小屋です。迷いこんだ先の金網で区切られた区画に閉じこめられ、上階の人物に助けを求めるのですが……。白っぽい金網と黒っぽい巨大な歯車が対比され、しかし歯車の稼働とともに白い粉が降り注ぎ、金網が灰色を帯びたりもするのでした。
 淀川長治がどこかでこの最後の場面を恐怖の秀逸な表現として誉めていたのを見たような記憶があるのですが、死に方としてはなかなか苦しそうな代物です。後にジャン=ポール・ベルモンド主演の『華麗なる大泥棒』(1971、監督:アンリ・ヴェルヌイユ)で、オマー・シャリフ演じる人物が同じような目に遭わされており、たしかそちらを先にテレビで見たかと思います。どうも苦手のツボを突かれたらしく、そこだけ頭に残っています。
 この粉挽き小屋の場面と交互に、囚われの娘を救いだした主人公が手に手をとって舟に乗りこむ場面が映されるのですが、いかにもハッピーエンドを言祝ぐ描写を経て、エンド・マークが出る直前のカットは、歯車のアップなのでした。

Cf.,  S.S.プロウアー、『カリガリ博士の子どもたち』、1983、「第5章 本から映画へ(Ⅱ) ドライヤーの『吸血鬼』」

ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、pp.50-52/no.018

黒沢清+篠崎誠、『黒沢清の恐怖の映画史』、2003、pp.48-50

「受難する女たち」、 『yaso 夜想/特集#「ヴァンパイア」』、2007.11、pp.110-113

岡田温志、『映画は絵画のように 静止・運動・時間』、2015、pp.50-54

エリック・バトラー、松田和也訳、『よみがえるヴァンパイア』、2016、pp.203-207
また『カーミラ』について;pp.185-192など


José María Latorre, El cine fantástico, 1987, pp.101-108 : "Capítulo 8 La extraña aventura de David Gray"

Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.32-33

Jonathan Rigby, Euro Gothic: Classics of Continental Horror Cinema, 2016, pp.40-42

美術監督のヘルマン・ヴァルムについては、本サイトから他に;『カリガリ博士』(1919)、『死滅の谷』(1921)

上にも記したように、原作として挙げられている短篇集
Joseph Sheridan Le Fanu, In a Glass Darkly, 1872
から、
レ・ファニュ、平井呈一訳、『吸血鬼カーミラ』(創元推理文庫 506A)、東京創元社、1970
に「仇魔」、「判事ハ-ボットル氏」、「吸血鬼カーミラ」が所収、
また「緑茶」は
平井呈一訳、『怪奇小説傑作集 1 英米編Ⅰ』(創元推理文庫 F ン 1-1)、東京創元社、1969
に収録。
残る「ドラゴン・ヴォラントの部屋」が邦訳されているかどうかは不詳。


「カーミラ」に関して→こちら(『バンパイア・ラヴァーズ』)、またそちら(『女ヴァンパイア カーミラ』)あちら(『血とバラ』)も参照

追ってこんなのが出てきました;
1982年1月24日(日)午後5時30分から大阪府立青少年会館小ホール(森の宮)で開かれた「1カール・テホ・ドライヤー監督特集」(主催:プラネット、シネマ・ダール)の際に配布されたと思われるもので、B4二つ折りで計4ページのリーフレット。上映されたのは本作と『裁かるるジャンヌ』(1928)、『トーヴァルスン』(1949、短篇)。上映3作のスタッフ・キャストと解説が掲載。→こちらも参照


おまけ
 
夢幻、『レダと白鳥』、1986(1)
セカンド・アルバム、B面3曲目が「カーミラの幻」
こちらや、あちらも参照

 
1. ヌメロ・ウエノ、たかみひろし、『ヒストリー・オブ・ジャップス・プログレッシヴ・ロック』、マーキームーン社、1994、pp.199-201。
 
 2014/08/24 以後、随時修正・追補
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