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バンパイア・ラヴァーズ
The Vampire Lovers
    1970年、イギリス 
 監督   ロイ・ウォード・ベイカー 
撮影   モーレイ・グラント 
編集   ジェイムズ・ニーズ 
 美術   スコット・マクレガー 
    約1時間31分 
画面比:横×縦    1.85:1 
    カラー 

VHS
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 吸血鬼小説の古典の1つであるレ・ファニュの「カーミラ」(1871~72)に想を得た映画としては本作以前に、ドライアーの『吸血鬼』(1931/32)、ヴァディムの『血とバラ』(1961)、カミロ・マストロチンクエの『女ヴァンパイア カーミラ』(1964)などがありました。三作品それぞれに雰囲気のあるものですが、ドライアーとヴァディムの2篇は筋立てを完全に換骨奪胎しており、原作のお話とはかけ離れたものになっています。マストロチンクエのものと本作品はそれぞれに新たな設定を加えつつ、しかもその追加は双方必ずしも功を奏していないと見受けられるのですが、とまれ比較的原作に準じた物語を綴ってくれます。
 原作はヒロインの1人称で語られるのですが、本作の場合3人称的になりがちな映画だからか、原作の末尾近くで登場人物の回想として語られる過去の事件を時系列順に並べ直しています。しかしそのため、お話が2つの部分に分かれてしまっているとの感は否めますまい。同様のパターンをくりかえすことで、本題にあたる2度目がどういう決着をつけるのか、サスペンスを高めようとしたとも解せるのかもしれませんが、他方、お話全体が1人の人物の追想であることによって生じるもわっとした雰囲気は霧散してしまったような気がします。
 また原作でもタイトル・ロールを語り手のもとに引きいれるに際して仲介役となる人物が登場し、しかもその人物の素性は不明のままに放置されていましたが、本作品では同様の人物に加えて、影で糸を引く「黒衣の男 Man in Black」なるイメージが加えられています。こちらもその正体は明らかにされないにせよ、カーミラの行動を黒幕の支配下においたことが効果的だったかどうか、いささか微妙なところではあります。このキャラクターについては下に挙げた
Hutchings, Hammer and Beyond, p.164 も参照ください。
 監督は『火星人地球大襲撃』(1967→こちらで少し触れました)のロイ・ウォード・ベイカーで、そう言えばこの監督にはロイ・ベイカー名義で『黒い狼』(1961)という作品がありました。メキシコを舞台にしたイギリス製西部劇で、ダーク・ボガードとジョン・ミルズ演じる男たちの恋愛に近い関係を描いたものでした。そして今回は女たちの物語というわけで、「黒衣の男」だけでなく男性の登場人物の位置づけには微妙なものを読みとれそうです。なおベイカーは本作品の後、立て続けに『ドラキュラ復活! 血のエクソシズム』(1970)を監督することになります。
 さて、充分ではないにせよ本作には古城が1つ、お屋敷が2つ出てきますので、手短かにとりあげることとしましょう。


 まずはフォン・ハルトーク男爵(ダグラス・ウィルマー)の回想がプロローグとなります。姉(1775-94 と記される)の仇を討つべく廃墟と化したかつてのカルンシュタイン家の城に潜んでいます。まずは夜の全景が登場します。右上に満月が見えますが、手もとのソフトのせいか原版のせいか、かなり暗い。シルエットと化した城は丘の上にそびえ2~3基の塔を擁しています。
 次いでより近づいた位置から、左右の木立ち越しに左に塔、右に主棟、その左端からは小塔が突きだしています。左手前には三角屋根におそらく磔刑像を納めたものが斜めになっている。カメラはいったん後退し、男爵のアップを経てまた接近します。霧たなびく手前の地面から白衣の人物が出てくる。男爵は石壁に囲まれた上の窓からそれを見下ろしています。人物の顔はヴェイルに隠れ、下を向いて踊るかのようにゆらゆらした動きを示す。
 城内が下から見上げられる。手前の上に2階回廊があり、その手前に左右に伸びる欄干、奥の上にゆるやかなアーチが二重になっていて、その奥に暗くなった出入り口が2つのぞいています。廃墟化しているということで、いかにもいかにもな雰囲気を漂わせてくれていますが、残念なことに再登場しませんでした。男爵の動きとともにカメラが左から右へ動くと、2階から右下がりに少し低くなり、その先で右へ中2階の歩廊が伸びていく。男爵はいったん視界から隠れ、向こうを回りこんでから中2階へおりてきます。さらに右へ進むと、同じく壁の向こうをおりて1階のアーチ状出入り口に現われる。1階の扉を開けると目の前は墓場です。村で酒場を出た若者が襲われる場面を経て、男爵は地面に残された布をとり、下からまた2階へ上がります。白衣の人物がもどってくると窓から布をひらひらさせます。これは原作13章の最後の方で旅の「モラヴィア人」がとった行動でした。
 白衣の人物は壁の向こうの階段をのぼり、中2階を通ってまた壁の向こうの階段をのぼってきます。上から見下ろされますがはっきりとは映らない。2階まで来ると、ヴェイルははずれており、きれいなお姉さんなのでした。

 続くタイトル・バックには地図が映され、オーストリアのシュタイアーマルク(スティリア)が舞台であることを示します。
 さて広間で舞踏会が開かれている。礼服を着たシュピールスドルフ将軍が主催者のようです。ピーター・クッシング(カッシング)です。将軍の姪ローラ(ピッパ・スティール)がカール・エプハルト(ジョン・フィンチ)と踊っている。カールは後の場面で将軍の地所の監督をしていると説明される。どこかで見た顔と思えばジョン・フィンチはポランスキーの『マクベス』(1971)の主演でした。また原作ではラウラは語り手の名前でもあります。映画ではローラの友人であるエマ(マデリーン・スミス)が原作のラウラに対応します。なお広間の奥には何やらバロック風の大きな壁画がかかっていましたが、詳しくはわかりませんでした。
 屋外の暗がりの中、やたらと高い列柱の前に馬車が止まります。後の昼間の場面で玄関ファサードを飾るこの列柱は2階分以上の高さがあることがわかります。さて、5キロ先の旧男爵邸に越してきたという伯爵夫人(ドーン・アダムス)が娘のマルシーラ(イングリッド・ピット)と舞踏会に参加します。ローラが彼女を見ないのはあなただけだ、でも彼女はあなたを見てるととカールに言えば、振り向いたカールが答えるに、彼女が見ているのは君だ。しばらくすると帽子とマントの「黒衣の男」(ジョン・フォーブス=ロバートソン)がやって来て伯爵夫人に耳打ちする。急用ができてすぐに立たねばならない、困ったわというと将軍がよければお嬢さんをお預かりましょうと申しでるのでした。
 ローラはマルシーラと仲良くなります。原作どおりマルシーラは日中も行動する。ローラは夜うなされ悪夢を見るようになります。画面は緑がかったモノトーンに変じ、大きな猫が出てくる。ローラが悲鳴を上げると将軍や家政婦が廊下を駆けつけます。廊下にはゆるい曲線のアーチが2つ並び、その奥の右から将軍は曲がってきます。その反対側、ローラの部屋を出て左はすぐ突きあたりで、窓を設けてある。またマルシーラの部屋は廊下の奥を右に曲がってすぐ右の扉です。
 ローラは徐々に衰弱し、マルシーラにしか会おうとしないという。将軍はいささか苦々しげです。いよいよ弱ってマルシーラの名を呼び続けるので、呼びにやらせると明け方に現われたマルシーラは死んだと告げる。医師が寝着をゆるめると、胸もとに2つ傷があります。ふと見上げればマルシーラの姿が消えています。将軍の「マルシーラ!」という叫びが無人の廊下に、次いで広間に響きます。カメラは左から右へ動き、広間の扉が人影もなく閉まるのでした。
 廃城前の墓に場面は移り、「ミルカーラ・カルンシュタイン 1522-1546」との銘がアップになります。ここまでで約26分です。

 エマ篇となります。エマと父モートン(ジョージ・コウル)の館は、将軍邸のファサードの列柱が垂直性を強調していたのと対比されるかのように、2階ほどの高さで横に長い石造りの建物です。玄関先は張りだしてポーチをなしています。森を怯えて走る娘をカメラが揺れながら追う場面をはさんで、父と遠乗りに出かけると故障した馬車に出くわし、伯爵夫人から今度は姪のカルミーラを預かることになる。エマが馬車の中をのぞきこむと、元マルシーラでもあるカルミーラは原作どおり物憂げです。
 館の中、画面左に手前から奥へのぼる階段があり、のぼった先から左へ回廊が伸びています。手前は吹抜になっている。階段の上に扉が1つ、これは後に家庭教師のペロドー女史(ケイト・オマラ)の部屋とわかります。左の壁は途中で少しだけ前に迫りだし、次の扉はエマの部屋です。その左手で回廊は手前へ折れていますが、折れてすぐのところで奥への廊下に通じており、扉が1つ見えます。ここにカルミーラが陣取ることになる。なお後の場面で、階段をあがって右にも奥への廊下があり、小間使いがここから出てきます。
 吹抜の下、突きあたりには両開きの扉があり、ここの壁も途中で少し迫りだしている。向かって左で折れて壁に、こちらでは奥への出入り口が2階のそれよりも幅が広い。晩餐の際こちらの方へ向かっていました。階段の手前、右にも部屋は続き、突っ切った先がテラスのようです。朝食はそこでとる。おそらく階段の向かいが玄関扉らしいと、後の場面から推察されます。


 カルミーラが自室の風呂に入ったり、エマとファッション話できゃっきゃとじゃれあったり、ワインは飲むわ、おそらくは食事もするわなどしている内に、エマが緑がかったモノトーンの悪夢にうなされるようになります。女史はこの地方にはおとぎ話が多すぎると呟く。モートンはウィーンへ出張に出かけます。
 カルミーラは死の話を聞くと気分が滅入ると言い放つ。夜の小屋で眠る娘のもとへ伸ばされる腕の影の場面を経て、廃城の付近を歩む白衣の女の後ろ姿がはさまれます。エマがカルミーラになぜいつも日陰にいるのと尋ねれば日差しがまぶしいと答え、近くを葬列が通ると、詠唱がカルミーラだけにはエコーをなして反響するかのごとくです。カルミーラは葬式は大嫌いと言います。このあたりも原作をなぞっており、原作でのサド風の自然論までは出てこないものの、カルミーラを演じるイングリッド・ピットの表情は痛みと誘惑、やりきれなさなどを伝えてくれているように思われます。

 執事のレントンを演じるハーヴェイ・ホールはちょくちょく見かけるような気がする面構えで(ロジャー・コーマンの『赤死病の仮面』(1964)にも出ていました)、カルンシュタインもの次作『恐怖の吸血美女』(1971)および第3作『ドラキュラ血のしたたり』(1971)にも出演しています。悪役がとても似合いそうですが、衰弱するエマを心配して村の酒場で飲んでいます。まるで吸血鬼だとこぼすと、とたんに沈黙に包まれる。冗談だよと言うも亭主はこの辺じゃ違うと告げるのでした。最近3人が変死を遂げ、夜中に叫びを上げて失血死するのだという。ちなみにこの作品では、吸血鬼に咬まれると皆悲鳴を上げます。個人的にはどうかと思いますが、それはともかく、大変だと慌てた執事は酒場を飛びだす。出たところは噴水のある広場のようですが、そこに面した医師宅の扉を叩く。

 医師と彼を追う女史が階段をのぼるさまをカメラは上から見下ろし、そのまま回廊を手前へ進むところを追います。この時点で女史はカルミーラに籠絡されており、執事がニンニクの花束を持ちこむといやがる。
 夜の2階回廊は、壁のあちこちに手すりの影が落ちています。下から光を当てているのでしょう、とりわけエマの部屋の前付近では、左からは階段状の影、右からは左下がりの斜線の影が向かいあうとなかなかにあざやかです。この回廊の影は後にも出てきます。
 医師は森を馬で帰途につきますが。馬が怯えて放りだされれば、風とともにカルミーラが現われるのでした。それを離れたところから「黒衣の男」が見ています。


 執事の手紙でモートンが帰ってきて、酒場の亭主に話を聞きます。カルンシュタイン家の者が戻ってきたのだ、絶えたというのは皆の思いこみに過ぎないのだという。また昔男爵が経帷子を失なった吸血鬼に安息はないことを見つけた。
 モートンは馬車で移動中の将軍および男爵と合流します。夕刻になると「カルミーラ」という呼び声が宙に響く一方、男爵はプロローグでの顛末を回想する。


 執事とカルミーラがテラスの手前の部屋にいます。画面左に2人の本体が位置するのですが、右奥に鏡がかけられていてそこに2人の像が移っています。
 男爵の回想が続く。彼は夜、次々と墓を暴いては杭を打っていきました。しかし1つ見落としたという。その主が壁にかかっている肖像画のモデルなのです。絵の出来はよいとはいいがたい。
 「黒衣の男」が哄笑しています。何に対してなのでしょう?この時点でカルミーラはピンチに陥りかけていたのですが。
 男爵、将軍、モートンのトリオはミルカーラの墓を探します。しかし庭の石棺からは中の柩が消えていました。男爵は城か墓地のどこかにあるだろうという。日本語字幕によれば吸血鬼は知能が高い、善の力が迫ると察知し、安らかな眠りにつきたがるとのことです。


 カルミーラはエマを私の家へ行こうと連れだそうとします。よれよれになった女史も階段の上から連れてってと懇願しますが、のぼってきたカルミーラが牙を剥きだすと悲鳴を上げる。
 トリオからエマのことを頼むと言われたカールが到着します。彼をねじ伏せようとするカルミーラの顔は泣きそうです。振りかえるとエマが目を背けます。カルミーラは気にしているようです。カールがナイフを投げると消えてしまう。


 カルミーラは城へ戻ります。トリオは城内に入ります。広間には肖像画と長いテーブルがある。モートンは床に落ちたペンダントを拾いあげ、その地点なのでしょう、床の石板をどけると柩が見つかりました。トリオは柩を礼拝堂に運びます。十字架が映り、周りにはイコンがたくさんかけてあります。カメラは右から左へ動く。奥には2連のステンドグラスらしきものが見えます。
 将軍は「私がやろう I will do it」と言う。クッシングが峻厳です。ポールの腕に抱かれたエマは日本語字幕で「神様だめ!」と叫び、杭が打たれると悲鳴を上げます。カルミーラ/ミルカーラと同調していたということなのでしょうが、柩の中の彼女が眠りに入っていた点からすると、エマ自身の声と深読みできるかもしれません。
 トリオは柩を石棺に戻します。「黒衣の男」がそれを見ています。ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』よろしく、肖像画は髑髏の像に変じるのでした。

Cf.,  ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、pp.103、105/no.057

Peter Hutchings, Hammer and Beyond. The British Horror Film, 1993, pp.160-164

David Miller, Peter Cushing. A Life in Film, 2000/2013, pp.125-127

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, pp.169-171

David Pirie, A New Heritage of Horror. The English Gothic Cinema, 2008, pp.179-180

Derek Pykett, British Horror Film Locations, 2008, pp.122-123, 166

原作に関して→こちら(『吸血鬼』1931)を参照

同じ平井呈一訳は
『真紅の法悦 怪奇幻想の文学Ⅰ』、新人物往来社、1969、pp.57-139
にも収録されていました。


別訳として、
ジョーゼフ・シェリダン・レ・ファニュ、清水みち・鈴木万里訳、『吸血鬼カーミラ』(STORY REMIX)、大栄出版、1996
徳吉久によるいかにもいかにもな写真が30数点併載されています。シャセリオーの《姉妹》(1843)の図版を用いた作品もあったりします(p.136)。


余談になりますが、
キム・ニューマン、梶元靖子訳、『ドラキュラ紀元』(創元推理文庫 F ニ-1)、東京創元社、1995
原著は
Kim Newman, Anno Dracula, 1992
の中で主人公の台詞として、「友人のカーミラは、追われ、滅ぼされたわ。温血者(ウォーム)の恋人がいないと何もできない、めそめそした娘だったけれど。串刺しにされて首を切り落とされ、柩のなかで血の海に放置されるような、そんな目にあうほどのことはしていなかった」(p.290)とあったのが印象に残っています。

本作の一場面が篇中でTV上映されるのが;
ヨーガ伯爵の復活』、1971

 2015/2/22 以後、随時修正・追補
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