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マクベス
The Tragedy of Macbeth
    1971年、イギリス・USA 
 監督   ロマン・ポランスキー 
 撮影   ギルバート・テイラー 
編集   アラステア・マッキンタイア 
 プロダクション・デザイン   ウィルフレッド・シングルトン 
 美術   フレッド・カーター 
 セット装飾   ブライアン・グレイヴス 
    約2時間20分 
画面比:横×縦    2.35:1 **
    カラー 

一般放送で放映
* [ IMDb ]による。手もとの録画では 1.33:1
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 『クリムゾン・ピーク』(2015、監督:ギジェルモ・デル・トロ)を小説化したものを読んでいると、主人公の次のような述懐に出くわしました;「母の愛読書は『真夏の夜の夢』。自分なら、迷わず『ハムレット』か『マクベス』を選ぶ。物語に幽霊が登場するから」(ナンシー・ホルダー、阿部清美訳、『クリムゾン・ピーク』(扶桑社ミステリー ホ 16-1)、扶桑社、2016、p.62)。『真夏の夜の夢』でも超自然現象は起きるわけですから、喜劇と悲劇という以外に、妖精と幽霊でどう違うとされているのか、その点はわかりませんでした。それはともかく、とりようによっては失笑ものと見なされかねない上の感慨も、個人的にはうんうんとうなずかずにはいられません。かてて加えてやはり個人的には、双方お城が舞台だからと追加したいところです。
 さて、本サイトではオーソン・ウェルズの『マクベス』(1948)、黒澤明の『蜘蛛巣城』(1957)に続くシェイクスピアの悲劇を映画化した3本目の作品となります。ポランスキーの監督作としても『袋小路』(1966)、『吸血鬼』(1967)に続いて3作目です。『マクベス』なので魔女や幽霊が出てきます。主な舞台としてお城が2つ、さらにちらっともう一つ登場する。上に記したように手もとの録画では画面の左右が半分近くトリミングされており、この映画を見たとはとても言えたものではありません。加えて電波状態が悪い時、VHSに3倍録画したという態なので、きちんと見るのはまたあらためてとなってしまいますが、ご容赦ください。


 1973年に日本で公開された際にはマクベス夫婦に扮した二人の若々しさや残酷描写が注目されていたような憶えがありますが、一部のファンの間では何より、サード・イアー・バンドが音楽を担当した映画ということで伝説化されています。サード・イアー・バンドは一応プログレッシヴ・ロックに分類されていたものの、通常思い描くところのロック・ミュージックの態をなしていません。→こちらそちら、またあちらここそこも参照ください。プログレというよりサイケデリックの文脈に位置づけるべきような気もしますが、とまれそれがここでは、とてもところを得ているのでした。

 プロダクション・デザインのウィルフリッド・シングルトンことウィルフレッド・シングルトンと美術監督のフレッド・カーターは『吸血鬼』に続いての起用ですが、シングルトンにはそれ以前に『回転』(1961)で出会っていました。セット装飾のブライアン・グレイヴスは後に『レガシー』(1978、監督:リチャード・マーカンド)や『ブライド』(1985、監督:フランク・ロッダム)といったジャンル映画、また『エクスカリバー』(1981、監督:ジョン・ブーアマン)などに参加しています。撮影のギルバート・テイラーには『反撥』(1965)、『袋小路』以来の再会となります。編集のアラステア・マッキンタイアもまた、『反撥』、『袋小路』、『吸血鬼』と、ポランスキーとは4度目のチームでした。
 タイトル・ロールに扮するジョン・フィンチには本サイトでは『バンパイア・ラヴァーズ』(1970)で出くわしました。翌年にはヒチコックの『フレンジー』(1972)で主演します。バンクォー役のマーティン・ショウはハリーハウゼン特撮の『シンドバッド黄金の航海』(1973)で再会できることでしょう。マルコム王子役のスティーヴン・チェイスは『バンシーの叫び』(1970)に出ていたとのこと。胡散臭くも微妙に強調されているロス役のジョン・ストライドは『オーメン』(1976、監督:リチャード・ドナー)に出ていたそうです。なお本作におけるロスについては、英語版ウィキペディア該当頁(→こちら)中の"Treatment of Ross"の項も参照。

 [ IMDb ]にはロケ先がたくさん挙がっていますが、その内前半の主な舞台であるインヴァネスのグラミス城 Glamis Castle, Inverness (グラミスは当初のマクベスの所領)はイングランド北東のノーサンバーランド州、北海に面したリンディスファーンのホーリー島にあるリンディスファーン城 Lindisfarne Castle, Holy Island of Lindisfarne, Northumberland での撮影とのことで、これは『袋小路』での撮影現場にほかなりませんでした。そちらの頁も参照ください。
 ノーサンバーランド州からはさらにバンブラ Bamburgh のバンブラ城 Bamburgh Castle(→英語版ウィキペディア該当頁、また→公式サイト、さらに太田静六、『イギリスの古城(新装版)』、1986/2010、写真77-80、pp.51-52)と聖アイダン教会 St Aidan's Church(→英語版ウィキペディア該当頁) が記され、前者は後半の主な舞台となるダンシネインのコーダ城 Cawdor Castle, Dunsinane として用いられたという。
 またウェールズのグウィネズ州 Gwynedd, Wales(→日本語版ウィキペディア該当頁)の各所でもロケされたようで、ハーレフ(ハーレック)のハーレフ城 Harlech Castle, Harlech(→日本語版ウィキペディア該当頁、また太田静六、『イギリスの古城(新装版)』、1986/2010、写真135-138、pp.88-90(「ハーレック城」)、J.E.カウフマン、H.W.カウフマン、『中世ヨーロッパの城塞』、2012、pp.107-109、199(「ハルレフ城塞」)、チャールズ・フィリップス、『イギリスの城郭・宮殿・邸宅 歴史図巻』、2014、pp.104-107(「ハーレフ城」))をはじめとして、ペンリンダイドライス村 Penrhyndeudraeth(→英語版ウィキペディア該当頁)、ポルスマドグのモーファ・バイチャン村 Morfa Bychan, Porthmadog (→英語版ウィキペディア該当頁)とそこにある海浜ブラック・ロック・サンズ Black Rock Sand(オープニングの戦場場面)、ブライナイ・フェスティニオグ町 Blaenau Ffestiniog(→英語版ウィキペディア該当頁)、スノードニア国立公園 Snowdonia National Park, Snowdonia(→英語版ウィキペディア"Snowdonia"頁)、タルサルネ村 Talsarnau(→英語版ウィキペディア該当頁)などが列挙されています。どこでどの場面が撮られたのかは残念ながら詳らかにしません。詳しい方はぜひご確認ください。

 冒頭、寒々とした砂浜は『袋小路』を思いださせずにいません。もっともここでのロケは上記のように、『袋小路』と同じイングランドのリンディスファーン、ホーリー島ではなく、ウェールズのブラック・ロック・サンズだという。三人の魔女が霧に覆われ画面が真っ白になるとオープニング・クレジットが流れます。そこに戦さの音声が重ねられる。霧が引くと同じ場所、ただし戦闘はもう終わった後でした。ダンカン王(ニコラス・セルビー)たちがやって来る。

 マクベス(ジョン・フィンチ)とバンクォー(マーティン・ショウ)の背後では何人もの人間が並べて絞首刑に処せられています。この場面はサントラ盤ジャケットの裏面に選ばれていました。
 約8分、二人は壁跡が残る廃墟の下にやって来ます。手前・下の道にも低い塀が設けられている。突きでた庇の下で雨宿りします。裏側に回ると木の柱でテントを支えたところに三人の魔女がいました。さらに向こうには、地下へおりる階段もあります。
 廃墟を去ると下り坂が続き、先に湖が見えます。
 野営地にロス(ジョン・ストライド)が報せを持ってくる。黒服、垂れ眼の優男です。にこにこしています。


 約17分、左手前に白マントの兵たち、右奥に城壁が見えます。半分近くトリミングされた画面では、尖塔が二基、全体に角張った造りのようです。これがダンシネインのコーダ城ということになる。実際にはバンブラ城であります。
 石畳の中庭でしょうか、俯瞰されたその中央に鎖につながれて立つ半裸の男がいます。カメラが右から左へ流れると棟が映りだしますが、2階ほどの高さで壁から少し突きだした木製の回廊が屈曲しながら巡っています。上には斜め屋根がついている。この2階回廊は後に登場するインヴァネスのグラミス城の中庭にも見られます。さかのぼれば『吸血鬼』でポランスキー扮する主人公が逃げ回った中庭2階木造回廊が思いだされる。何やらこだわりでもあるのでしょうか。上掲のJ.E.カウフマンとH.W.カウフマン『中世ヨーロッパの城塞』(2012)、pp.34-36 に掲載された各種歩廊・櫓の挿図ともご比較ください。
 回廊の向かいの壁には扉があります。その上に窓があり、奥には上りの階段がのぞいている。中央に縛められていた男が階段をのぼると、この建物が角塔であることがわかります。上方で欄干のない木製歩廊がめぐっている。


 約18分、山上の城外観です。こちらはインヴァネスのグラミス城、当初のマクベスの居城です。夕刻でしょうか、周りは平原がひろがっているようで、山は孤立しています。裾に沿って道がめぐっており、その上に城壁と主尖塔、何基かの塔が見えます。装飾は乏しい。『袋小路』と同じロケ先のリンディスファーン城もたしかに小山の上にあるのですが、高さはずいぶん強調されているように見える。期せずしてか、ウェルズの『マクベス』における城外観と通じるところがあるような気もします。
 その中庭でしょうか、左に小塔のある城壁、右が主棟らしい。こちらはやはり2階木造回廊がめぐっています。左右の間、奥に鋸歯胸壁のある城壁が見えます。
 左の城壁には左上がりの階段がある。下は石、その上に木製の段がかぶせてあります。ここをマクベス夫人(フランチェスカ・アニス)がのぼる。城壁ならぬ別の棟だったようです。画面が半分近くトリミングされているせいか。右手の2階回廊には地面から右上がりの木製階段が通じています。

 ダンシネインのコーダ城に戻って、王の玉座を据えた広間です。さほど広くはない。壁には赤で横にギザギザ紋様が描かれています。王の息子の一人マルコム(スティーヴン・チェイス)がカンバーランド公に任じられる。
 マクベスは広間を出て階段をおります。2階木製回廊でした。向かいに首吊り角塔があります。

 城門の向こうに野原がひろがっています。半分近くトリミングされた画面ですが、奥に左上がりの山腹がのぞいている。門を入るとインヴァネスのグラミス城の中庭でした。ただし先ほどの門の外の眺めは、山上にあるようには見えませんでした。後に同じ眺めがもう1度登場します。
 石+木の左上がり階段の上も2階木製回廊であることがわかります。中庭を囲んで回廊が巡っているわけです。これは後に確認できることでしょう。あがると回廊は右に伸び、先にマクベス夫妻の居室がある。
 ダンカン王を迎えるべく、王のための部屋や宴の広間が準備される。
 一行が到着します。それが城壁の上から見下ろされる。まわりは高地のようにも見えます。期せずしてか、『蜘蛛巣城』での立地と通じるところがあるのでした。切り替われば下から空が見上げられ、半分近くトリミングされた画面では右に尖塔が配されます。
 約25分、また外観です。手前で低い石の塀が道をはさんでいる。空は薄曇りですが青みも欠いてはいません。城壁上で風に揺れる旗がいやに大きく見えます。城が小さいのか、とするとリンディスファーン城に合っていることになる。
 ダンカン王たちが城門から入ると雷が鳴り、すぐに雨が降りだします。
 宴の広間です。中2階回廊があり、そこで楽師たちが演奏しています(なお嶋田博幸による『ユーロ・ロック・プレス』、vol.22、2004.8、pp.96-97 の記事や Third Ear Band, The Magus, 1972/2004、邦題:サード・イアー・バンド『ザ・メイガス』に付された同じく嶋田博幸のライナー・ノーツによると、楽師に扮しているのはサード・イアー・バンドのメンバーとのこと)。雷は鳴り止まず、突風が吹きこむ。
 約29分、夜の外観です。雷と雨付きです。
 宴の広間では少年がボーイ・ソプラノで歌います。映画ではすぐに切り替わってしまいますが、サウンド・トラック盤のB面1曲目に"Fleance"として最後まで収められています。フレアンスはバンクォーの息子とのこと。
 2階回廊でマクベスが逡巡します。雨は降り止まない。向かいにも回廊のあることが確認できます。もといた回廊を戻った先の扉口が、宴の広間の入口でした。


 王の部屋の向かいの回廊にマクベスと夫人がいます。夫人は酒の入った甕を持ってまず奥へ、折れて左から右へ、右端でまた折れて手前へと王の部屋の方に向かいます。奥の方で数段あがり、王の部屋の前では数段おりる。また途中には柵のない部分もありました。回廊がいくつかの不連続な部分を継ぎ足したものであることがわかります。古城映画の醍醐味にほかなりますまい。
 下にバンクォーと息子が現われます。12時とのことです。二人とマクベスは石+木の階段をあがる。先の部屋は床に藁が敷かれ、犬もいます。近世以降の宮殿ではなく、中世の城塞らしいというべきでしょうか。

 約39分、マクベスは宙に浮く短剣を見ます。手にとれず、しかし誘うかのようです。
 ウェルズの『マクベス』でも『蜘蛛巣城』でも原作同様言葉で伝えられただけだった暗殺の場面が、本作では実際に映されます。
 中庭の奥に井戸がありました。すぐそばに梯子が立てかけてあります。


 城門を叩く音がします。マクダフ(テレンス・ベイラー)たちでした。城門の外の眺めがまた見えます。
 マクベスが右上がり木製階段の上に現われます。斜め向かいに石+木の階段がある。ここをのぼって回廊を逆に進むと、アーチの仕切りを経て王の部屋が突きあたりに来ます。この部屋に入ると扉周辺は石積みですが、浮彫で装飾が施されていました。
 マルコムともう一人の王子ドヌルベインは逐電します。ドヌルベインは片脚が悪い。


 約1時間、マクベスが即位する。屋外です。環状列石の中央でした。
 約1時間1分、ダンシネインのコーダ城外観です。前回とは角度が違いますが、やはり角張っています。手前の城壁には左に尖塔、その右で角塔が2つ並ぶ。城壁の奥に主棟がのぞきます。
 中庭は手前と奥で上に通路のあるアーチで区切られています。奥の方の脇にのぼり階段がある。ここをあがると白っぽい壁の空間です。半円アーチで区切られている。
 屋内に入ってしばらく進めば、奥にあがっていく階段が見えます。幅はさほど広くない。階段は上で踊り場となり、斜め左上に折れています。
 その先が居室なのでしょう。薄暗い。あちこちに円柱が貫いています。壁に床より少し高くなった扉があり、そこから暗殺者たちが入ってくる。扉の向こうはすぐに左上がりの階段でした。


 夢を見ます。まずバンクォーの息子、次いで本人が出てきます。
 祝宴です。その最中マクベスは呼ばれ、奥の扉をくぐる。その先は狭く暗い廊下でした。暗殺者たちに首尾を聞きます。
 約1時間19分、宴の席でバンクォーの亡霊を見る。梟もいます。もう夜明けだという。屋内階段を上にのぼります。


 約1時間26分、魔女たちの廃墟です。夜明けらしい。地下室へおりると、三人だけでなくたくさんいました。皆裸です。何やら飲まされ、幻を見ます。鏡が連鎖する。コーマンのポー連作における惑乱場面が連想されるところでした(→こちらなど参照)。

 約1時間34分、手についた血がとれないと夫人はいう。
 約1時間36分、手前に数人の人物、右からゆるい斜面がおりてきて、左奥の方に城が見えます。マクダフの城でした。
 その中庭です。マクダフの妻が訪ねてきたロスになぐさめられています。ロスはしかし、出発する際に門を開けっ放しにする。惨劇が起こります。


 夫人は夢遊病になります。侍女と医師が様子を見る。
 城から逃亡する者が後を絶たない。
 マクダフとマルコムたちの野営地にロスがやって来ます。
 約1時間58分、城の外観が2カット重ねられる。
 夫人の様子をはさんで、角塔が上でひろがり、また狭まって尖り屋根になるさまがやや下から見上げられる。左奥に尖り屋根が2つのぞいています。
 夫人が死んだという。また角塔が下から見上げられる。
 約2時間3分、バーナムの森が動きます。見て人とわかります。城の見張りもすぐ見破る。『人類SOS』(1963、監督:スティーヴ・セクリー、フレディ・フランシス)におけるトリフィドの群れが連想されなくもない。
 逃亡兵たちの様子をはさんで、約2時間6分、城の外観がやや下からとらえられます。霧付きです。
 約2時間8分、マクダフたちが城内に攻めこみます。迎え撃つ兵はいません。以前に出てきた赤いギザギザ紋様のある玉座の間にマクベスがいました。チャンバラになります。マクベスは強い。
 マクダフとの対決となる。マクベスは押しますが、マクダフの生まれ方を聞いて動揺します。中庭から2階への階段を駆けあがったところで首を落とされるのでした。ロスが王冠を拾いあげてマルコムに捧げる。


 約2時間17分、魔女たちの廃墟です。雨が降っている。脚の悪いドヌルベインが来合わせます。

 余談になりますが、シェイクスピアが『マクベス』(1606)が執筆した17世紀初頭のイギリス・ルネサンス演劇において、本作のように凄惨な物語は決して例外的なものではなかったそうです。期せずして次回は、シェイクスピアより少し後の戯曲を原作とする、やはり血みどろの悲劇-『さらば美しき人』(1971)を垣間見る予定なのでした。
Cf.,  Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, pp.178-181

ポランスキーについては→こちらも参照

原作については→こちら(『蜘蛛巣城』)を参照
シェイクスピアに関連して→こちらも参照

サード・イアー・バンドによるサウンド・トラックについて→こちらも参照
 2016/06/15 以後、随時修正・追補
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