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バンシーの叫び
Cry of the Banshee
    1970年、UK 
 監督   ゴードン・ヘスラー 
撮影   ジョン・コキロン 
 編集   オズワルド・ハーフェンリヒター 
 プロダクション・デザイン、美術   ジョージ・プロヴィス 
 セット装飾   スコット・スリモン 
    約1時間27分* 
画面比:横×縦    1.85:1** 
    カラー 

VHS
* [ IMDb ]によると約1時間31分
** 手もとのソフトでは1.33:1
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 冒頭でポーからの引用が記されますが、下掲の北島明弘『映画で読むエドガー・アラン・ポー』(2009)は「『鐘』の第三連の一部が字幕で出る以外にポーと関連するところはない」(p.102)と述べています。ゴードン・ヘスラーは、コーマンによるポー連作が『黒猫の棲む館』(1964)で終了した後、A.I.P.で『呪われた棺』(1969、未見)、『モルグ街の殺人』(1971、昔TVで見たはずなれどほとんど憶えていません)とポーがらみの作品を監督した、その内の1本となります。ちなみにへスラーはその後、ハリーハウゼン特撮の『シンドバッド黄金の航海』(1973)を手がけています。音楽は『アッシャー家の惨劇』(1960)、『恐怖の振子』(1961)、『怪異ミイラの恐怖/黒猫の怨霊/人妻を眠らす妖術』(1962)、『忍者と悪女』(1963)などコーマンのポー連作中4本でお馴染みのレス・バクスター。カメラのジョン・コキロンは後に幽霊屋敷映画の佳作『チェンジリング』(1980、監督:ピーター・メダック)で撮影監督を担当することでしょう。
 さて、ヴィンセント・プライス演じる主人公の館が物語の主な舞台となってはいますが、筋運びのテンポがあまりよくないように思える点は別にしても、照明のせいか手もとのソフトの原版のせいか、とりわけ暗い場面でいささか見づらかったりもします。部屋の位置も判然としないものが少なくない。とはいえ面白い空間がないわけでもないので、手短かに取りあげることといたしましょう。
 なお [ IMDb ]によればロンドンの北西にあるグリムズ・ダイク・ハウス(ホテル) Grim's Dyke House, Old Redding, Harrow Weald, Middlesex, England, UK でロケされたとのことです。Google で画像を検索してみると、館の前面が用いられたようです。

 プロローグは森の中で、白や黒の貫頭衣をつけたお兄さんお姉さんたちが何やら祭礼らしきものを行なっている場面から始まります。背後に崩れたアーチや壁が見えます。そこに領主のエドワード・ホイットマン(ヴィンセント・プライス)率いる異端狩りが来襲する。何人かが血祭りに上げられ、首魁のウーナ(エリザベス・バークナー)は丘へ消えろと放免されるものの、サタンに復讐の使いをと祈願するのでした。舞台は16世紀の英国とのことです。

 異端審問、館の広間での晩餐の場面と続いて、領主とその息子ショーン(スティーヴン・チェイス、『マクベス』(1971)で再会できます)一党の所業がいかに理不尽かが描かれます。晩餐の途中には何やら獣の鳴き声が響く。
 その後ケンブリッジで学んでいたらしいショーンの兄ハリー(カール・リグ)が新任の神父(マーシャル・ジョーンズ)とともに館へ戻ってくる。兄弟には妹のモリーン(ヒラリー・ドワイヤー(ヒース))、義母のパトリシア(エシー・パーソン)がいます。ハリーとモリーンは比較的まともな人物に描かれますが、パトリシアはいささか繊弱なようです。
 ハリーは父の領主と食堂で再会する。ここは細長い部屋のようで、中央に長テーブルが置かれ、扉の向かいに暖炉、奥に窓が見えます。


 館の玄関前に馬車が到着する。館の前面は画面上方右に寄せられ、前庭が中央を占めます。下方には欄干の一部がのぞいている。玄関は半円アーチをなし、その上左右に2階の木製欄干がずっと伸びているのが見えます。左側で翼が迫りだし、1階には小さな窓、2階に縦長の大きな格子つき窓がある。これはグリムズ・ダイク・ホテルの外観をロケしたものです。
 玄関から入ると、向かって左奥を扉に、その向かいにすぐカーテンがあり、奥もすぐに突きあたりになっているようです。昼間ですが中はそこそこ暗い。人物たちは手前に進み、右に折れます。折れた向こうには細長いガラス窓が配されている。その前を過ぎると、右上に木のアーチがあり、その奥に上への階段がのぼっている。階段の上に赤みがかった石の半円アーチが設けられています。のぼった先にはやはり半円アーチの窓が見え、窓の内側は薄紫でした。右手前には鎧が置いてある。


 夜になってモリーンが階段をおりてきて左へ、背を向けて左奥に進みます。カメラも右から左へ動く。先は玄関です。玄関先でハリーと言葉を交わした後、モリーンは馬丁のロドリック(パトリック・モウアー)の部屋に忍びいる。
 続いて洞窟らしき場所でウーナたちが儀式を行なっています。洞窟内は薄紫に染まっています。
 モリーンは玄関から入ってくる。半円扉の奥の部屋で父とハリーが口論しています。この部屋の位置はよくわからない。モリーンがこっそり階段をあがり、先で左に伸びる欄干のある廊下を進もうとしたところへ、右下から2人が現われますので、中2階にようにもとれます。


 村の酒場でショーンたちが狼藉に及び、ウーナの行方を探して夜の森に向かう。ショーンが1人になったところで何かに襲われます。背後には教会址のアーチが見えますので、冒頭の廃墟と同じ場所ということなのでしょう。

 館の玄関が地面から3段ほどあがった位置にあることがわかります。
 次いで墓地に接して教会が映ります。大きな建物ではありませんが、手前に三角破風の棟、右奥に少し低くなった棟が続き、その先に方形の塔があります。塔の上辺は鋸歯型胸壁をいただいている。
 ショーンを襲ったと目された狂犬狩りが行なわれます。秋か冬でしょうか、寒々とした景色ですが色味はそこそこ出ています。
 狂犬がハリーによって仕留められ、広間で祝宴が催される。広間は正方形に近いプランのようで、左の壁に領主たちの席、向かって右の壁の左端に小さめの半円アーチがある。左の壁の左端には大きめの尖頭アーチが開いています。向かって手前の壁に暖炉があるようです。広間も玄関からどうつながっているのか、映しだされませんでした。


 館には地下室があり、ここにウーナの行方を知ると目されたマギーが連行され、拷問を受けることになる。
 その声を聞きつけたハリーは、狭くて暗い廊下の左奥から現われ、手前へ、カメラの前を横切り左奥に進む。そこに扉があります。
 地下室の奥には壁沿いに5段ほど左上がりで木ののぼり階段が設置されています。それをのぼると、大きな樽を置いた棚の上段が左に伸びている。その手前左上に半円アーチの左半がシルエットと化して枠取ります。
 マギーは息を引き取る前に、日本語字幕によれば「火に生まれ火によりて死ぬ」と謎めいた台詞を残す。


 パトリシアが暗い廊下で襲撃される。広間でその葬儀が行なわれるのですが、領主が棺の蓋を開くと老婆の姿になっています。
 ハリーと神父が墓地にやってくる。空の墓を見つけ、蓋を開けてみると地下への通路になっています。階段をおりて少し先に天井の低い広間があり、床の中央には低い円陣が設けられています。奥の壁には祭壇があり、その左右を獣の石像が守っている。
 そこにいた墓守兼墓泥棒の老人に神父が上の墓の文字について訊ねると、「火に生まれ火によりて死ぬ」とのことです。
 ハリーと神父が戻ろうとすると、廊下が実は結構長いことがわかります。柱の向こうを2人が進むと、奥からウーナ一味がやってきます。分かれ道があるのでしょうか。2人は陰に隠れる。隠れるだけの空間があるわけです。
 ウーナたちが儀式を行なっているところへ神父は飛びだします。ロドリックに魂はないとウーナはいう。ハリーはウーナを手にかける。


 この間にモリーンとロドリックは密会していたところを領主に見つかり、ロドリックは地下で壁の鎖につながれます。モリーンは地下へやってくる。廊下の奥左に上からの螺旋階段のあることがわかります。

 玄関の奥に格子窓のあることがわかった後、領主は左の玄関から手前へ進む。カメラは後退します。画面は暗い。右奥から出てきて階段を右寄りでのぼるさまが上から見下ろされる。カメラは後退しつつ上昇します。
 カメラが斜めになり、領主が館内をさまよう。廊下から広間に入りますが、暗いままで誰も答えない。
 襲われるも命を取り留め、地下室に潜んでいたモリーンのところへロドリックがやってきて、扉を開けてくれという。
 領主がいるのは、天井が低く狭い空間です。天井はほぼ半円というか小さなドームをなすようで、下方で段になっている。その奥に腰から上の姿でとらえられます。背後に低く、格子の影らしきものが見えます。いったいどこにいるのか、この前後が本作でもっとも気を引いてくれた空間にほかなりません。
 モリーンとロドリックが螺旋階段をのぼります。カメラは後退しつつ上から見下ろす。また下から見上げられたモリーンのアップと上から見下ろされたロドリックのアップが交互に映される。
 また領主のいる空間です。ぐるっと囲む木の手すりが下に反っているのに対し、その影が大きく奥の壁に、こちらは下からの光で上に反って落ちています。奥の壁は白っぽく、円形をなしているように見える。壁の中ほどをぐるっと窓でしょうか、黒っぽい帯が取り巻いています。
 ここの手すりの下が螺旋階段なのでした。外から見れば小塔をなしているのかもしれません。ロドリックと領主はつかみあいながら下へおりていき、さらに奥に入っていく。その間にもロドリックは獣人化します。モリーンが2人を追って狭い廊下を進むさまが上から見下ろされます。

 玄関の前に深緑の馬車がとめられ、手前と奥の窓越しに向こうに立つ領主が映されます。この後お話は結末を迎えるのでした。
 本作でプライス演じる領主は、当初怖いもの知らずの暴君として登場しますが、物語が進むにつれ、妻や子どもたちに対する態度が決して単純ではないことをうかがわせます。ただ話を動かす実働隊をハリーとモリーンが受けもっているためか、視点が分散され、それぞれの人物が充分に描きこまれずにすんでしまったような気がします。そうした点もあって筋運びがうまく収斂していかなかったのではないかと思われもしますが、ともあれ地下への螺旋階段周辺が登場したことをもって諒としておきましょう。

Cf.,  北島明弘、『映画で読むエドガー・アラン・ポー』、2009、pp.101-102

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, pp.164-166

Derek Pykett, British Horror Film Locations, 2008, p.33, pp.158-159

Joel Eisner, The Price of Fear. The Film Career of Vincent Price; In His Own Words, 2013, pp.169-170
 2015/4/25 以後、随時修正・追補
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