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黒猫の棲む館 *
The Tomb of Ligeia
    1964年、USA 
 監督   ロジャー・コーマン 
撮影   アーサー・グラント 
 編集   アルフレッド・コックス 
 美術   コリン・サウスコット、ダニエル・ハラー 
    約1時間21分 
画面比:横×縦    2.35:1** 
    カラー 

一般放送で放映
* TV初放映時の邦題は『リージアの墓』
** 手もとのソフトでは1.33:1
………………………

 上記のように放映時画面左右が半分近くトリミングされていることになり、この映画を見たとはとても言えたものではなく、加えて電波状態が悪い時、VHSに3倍録画したという態なので、きちんと見るのはまたあらためてとなってしまいますが、ご容赦ください。

  『アッシャー家の惨劇』(1960)、『恐怖の振子』(1961)、『姦婦の生き埋葬』(1962)、『怪異ミイラの恐怖/黒猫の怨霊/人妻を眠らす妖術』(1962)、連作外の『恐怖のロンドン塔』(1962)をはさんで『忍者と悪女』(1963)、また番外篇『古城の亡霊』(1963)をはさんで実はラヴクラフト原作の『怪談呪いの霊魂』(1963)、そして『赤死病の仮面』(1964)と続いてきたコーマンによるポー連作第8弾にして最終作です。原作は「リジイア」で、主題は原作同様、「怪異ミイラの恐怖」に通じるものがあります。
 『赤死病の仮面』(1964)と同じくイギリスで製作されたもので、これまでの連作のほとんどがもっぱらセット内で組みたてられたのに対し、『古城の亡霊』とともに屋外での撮影が大幅に導入されています。[ IMDb ]によると主なロケ現場は東イングランド、ノーフォークはスワファムのキャッスル・エイカー小修道院(プライオリー) Castle Acre Priory, Swaffham, Norfolk 址とのことで、冒頭を始めとしてこの遺跡の眺めはきわめて印象的でした。また少しだけですがストーンヘンジで撮影された箇所もあります。
 一方荒廃した屋内のセットもがんばっております。ところで本作には恒例の地下下降がありません(墓暴きはあるのですが)。短篇集だった『怪異ミイラの恐怖/黒猫の怨霊/人妻を眠らす妖術』の第1話と第3話をのぞけば、連作では初めてのことです。それと関係するのかどうか、広間からいくつものぼり階段は分岐しているのですが、主階段と呼ぶようなものが見当たらず、当然のぼりおりする場面もなしです。こちらも連作では初めてでしょう。ちなみに肖像画のモティーフは登場しませんが、バルコニーは出てきます。惑乱場面もあります。
 ともあれ地下下りの代わりなのか、上階へのぼっていく場面が2種あります。マット画であれ模型であれ、城の外観に塔はつきものですが、実際にそれをのぼっていく場面が組みこまれることは、実のところ多くはないような気がします。その意味では貴重な作例と見なせるかもしれません。もっともセット設営の都合か予算の都合か、のぼるための階段を引きで映した画面が出てこないのは残念という他ありますまい。

 晴れた日、画面奥左右に粗石積みの壁が伸びています。明灰色で、屋根は落ちてしまっていますが、二層になって半円アーチがいくつも横に並んでいる。二層目の上辺はぎざぎざとこぼたれています。また奥から手前へ、左右にも低く崩れた壁跡が伸びています。
 奥から黒い柩を運ぶ黒服の男たちが手前へ進んでくる。ほぼ真下に濃い影が落ちています。けっこう引きのショットです。彼らは左に曲がり、数段おりてさらに左へ進む。カメラも右から左へ追っていく。鐘の音が響いています。手前で尖頭アーチの墓碑や木、女性の石像などがかすめられることもあります。葬列は左方で奥に折れ、数段おりる。その先に白い墓碑が見えます。
 柩の覗き孔から黒髪の若い女の顔が見える。黒服に黒のシルクハットをつけた女の夫(ヴィンセント・プライス)は、妻は死なない決心をしたと言って、文句をつけに来た牧師が冒瀆だと口走ると、祝福だとやり返す。夫は妻のいまわの際の言葉として、「人はそのか弱い意志の甲斐なきによらねば、天使にも死にも屈従せぬ」と口ずさむ。墓碑にも「永遠に死の内に横たわることもなかった Nor lie in death forever」と刻まれています。以後も反復されることになるこの言葉は、原作のエピグラフでジョウゼフ・グランヴィル(1636-80)から引用されたものとのことでした(下掲邦訳p.425およびp.444訳註1、またp.429、p.435)。黒猫が柩の上に跳びのると亡骸の目が開きます。
 続いてタイトル・バックにはアーケードつきのテラスだの、テンピエットを取り巻く白い石像群だの、何枚かのいかにもいかにもな建築画が置かれます。

 狐狩りです。右から左へ、左から右へ、狐とそれを追う騎馬の面々の中で、男爵(デレク・フランシス)が娘のロウィーナ(エリザベス・シェパード)を見失なう。クリストファー(ジョン・ウェストブルック)が探しに行きます。ちなみに[ IMDb ]によるとジョン・ウェストブルックは『赤死病の仮面』で赤衣の人物に扮していたとのことです。
 ロウィーナは馬で修道院址の廃墟に迷いこむ。やはり明灰色の粗石積みの壁で、天井は落ちている。一部の壁では崩れずに残った部分が塔のようにそびえているものも一つならずあります。このあたりはGoogleで"castle acre priory swaffham norfolk england uk"を画像検索するとうかがうことができます。なかなかの奇景であります。
 冒頭同様、墓地に当たる部分をロウィーナは右から左へ進みます。白い墓碑の前で馬に振り落とされてしまう。ロウィーナは黒襟に赤のブラウス、黒のスカートといった乗馬服を着ているのですが、それが緑の芝や赤い花といっしょになってあざやかです。墓碑の上には黒猫が陣取っています。また墓碑の裏から黒眼鏡に黒ずくめのヴィンセント・プライスがにゅっと顔を出して、ロウィーナは悲鳴を上げます。今回のヴィンセント・プライスはウェーヴのかかった黒髪で、ひげも生やしていません。
 駆けつけたクリストファーと黒眼鏡は知りあいでした。名をヴァードン・フェルといい、墓碑は亡妻ライジーアのもの、僧院に執事と暮らしているとのことです。黒眼鏡をかけているのは日光に弱いせいだという。暗いところならはっきり見えるそうです。

 馬から落ちた時に足をくじいたロウィーナをヴァードンは抱きあげ、僧院まで運んでいきます。左から右へ、そして右奥へ、カメラもそれを追う。奥に塔状の壁の残骸が見え、その右には2階部分に大きな尖頭アーチのみがそびえています。1階部分には半円アーチがある。この巨大なアーチが斜め横から見られます。その下を抜けると、奥の方で右にこちらはきちんと屋根のついた棟が右に伸びている。屋根は茶色で、その下は陰になっていますが、2階あってそれぞれに半円アーチが並んでいるようです。Googleの画像検索によるとこのあたりも実際にこのとおりなのでした。
 途中でロウィーナが悪戯で黒眼鏡を取ると、ヴァードンはひどく苦しがります。アーチを越えたところですぐ奥に曲がる。数段おりて低くなった扉があります。中に入る。斜めに背を見せて右へ向かいます。少し真っ直ぐ進み、左に折れる。右の壁には窓がある。カメラも追いつつ左に回りこみます。ヴァードンは執事のケンリック(オリヴァー・ジョンストン)を呼ぶ。壁はやはり明灰色の石積みです。
 先に広間が見えてきます。左から右奥にかけて陰になった大きな尖頭アーチが並んでいます。アーチとアーチの間は細い柱4本組みによって支えられている。右の方に格子がある。真ん中のアーチの奥には、方形アーチがありその向こうで右上がりの階段がのぼっていきます。背を向けたヴァードンが奥へ進むにつれ、カメラはわずかに右から左へ振られる。左のアーチの奥でも階段が手前から奥にあがっています。10段ほどで踊り場になるようです。ごつい欄干がついている。
 カメラは奥からの視点に切り替わります。こちらから見ても奥に尖頭アーチがあり、その向こう左寄りに窓が見える。赤と黄の窓のようです。アーチの手前には捻り柱があります。画面左手前には蜘蛛の巣がかかっており、館の中があまり過ごしやすい状態に整えられてはいないことがわかります。ヴァードンが前進するにつれカメラは左から右へ動く。ヴァードンはロウィーナを寝椅子にかけさせます。
 カメラは寝椅子の手前からの位置に換わる。下辺沿いに寝椅子が伸びています。そこには黒猫がいる。左奥で尖頭アーチの下に格子がはまっており、その向こうに左上がりの階段が壁に沿ってのぼっています。こちらの階段は手すりもない幅の狭いものです。画面右にロウィーナ、その左にヴァードンが立ち、左から執事がやってきます。
 ロウィーナの父の男爵たちが騒々しく入ってきます。左奥の階段は半階分ほどのぼって折れ、右奥の壁の中に続いているようです。男爵が見せた狐について、ヴァードンはエジプトとヌビアが原産のフルペス種で、エジプト彫刻では不吉な結婚の女神が連れているものだという。男爵は煙に巻かれます。不吉な結婚を司るエジプトの女神「アシュトフェット」については原作でも言及されていました(下掲邦訳p.426)。古代エジプトにまつわるイメージはこの後も登場することでしょう。
 さて、ヴァードンはこの狐はレディ・ライジーアが飼っていたものだといい、気づくと籠の中から消えています。寝椅子の左向こうに暖炉があり、そのかたわらにヴァードンが立つ。彼が右を向くと、末広がりで曲線をなす階段があがっています。手すりつきで、10段ほどのぼると扉になります。なぜか途中の踏面に燭台が置いてある。暖炉と階段の間は奥まっていて、低くなっているのか背が低いのか、半円アーチの扉があります。扉の上の壁には3体ほどの人像柱がついている。


 男爵の館が少しだけ登場します。広い芝の向こうで、左右に伸びる2階建てです。クリストファーは法律関係の仕事をしているようです。クリストファーからヴァードン宛ての手紙をもってロウィーナはまた馬で僧院に向かいます。僧院と直交するアーチ址の、僧院の方に面した側が前よりよく見えます。明るい表面はいくつもの縦長の半円アーチによって区切られています。また僧院は中央あたりで手前に半円をなして迫りだしている。双方Googleの画像検索で実物を確かめることができます。
 ロウィーナが馬からおりるところで、カメラは下からその姿をとらえ、大きく上へ伸びるアーチが背後に配されます。アーチの下・向こうは青空でした。馬をおりるとカメラは水平になり、彼女の歩みとともに左から右へ進みます。
 中に入って左奥から出てきて、手前へ進む。ポー連作でさんざん繰り返されてきた構図です。右の壁の前に置かれた箪笥の上に、白いオベリスクが2つ見えます。カメラは後退しつつ右に振られる。ロウィーナはカメラの前を横切り右へ、背を向け向こうの広間を見る。右奥で暖炉の前に腰かけるヴァードンがいました。カメラがより近い位置になり、ヴァードンは急いで立ちあがります。引きで向こうにいるロウィーナがとらえられる。上のアーチが陰になっています。ヴァードンが前進、カメラは後退します。ロウィーナにカメラは接近していく。ヴァードンの右後ろに青いエジプト風の立像が見えます。
 ヴァードンはロウィーナに飛びかかる。ロウィーナが左に逃げるさまが格子越しで映されます。ヴァードンは追いつき、すぐにロウィーナと気づきます。2人は格子の少し向こうにおり、カメラは真横から、かつ下からとらえます。ヴァードンがロウィーナを引きずり回すと、格子のすぐ向こうに近づいてきて、同時にカメラはわずかに上向きとなる。ロウィーナは背を、ヴァードンは顔を向けています。格子上部の曲線的な紋様越しになるのでした。

 2人は台所に入ってきます。『アッシャー家の惨劇』での台所の場面が思いだされるところです。奥に扉が、右に炉がある。このあたりでのロウィーナは自分の意志をはっきり持ち、かつプライドも高い。終始受け身だった『赤死病の仮面』のフランチェスカとは対照的です。日本語字幕によるとヴァードンは「彼女の生への執念が私を悩ませる、死んでからも執念は生き残った」と悩ましげです。2人がキスしかけると黒猫がロウィーナの頬を引っかきます。

 クリストファーが院長室で待っていると執事が告げます。しかし映った場所は広間ではないかと思うのですが。各種のエジプトの文物が置いてあります。ヴァードンは奥に見える末広がりの階段の上の扉から出てきます。文物は実物ではなく蠟による複製とのことです。墓を暴き宝を盗む考古学は嫌いだとヴァードンはいう。クリストファーが手にした仮面について第21王朝か?と問うと、ヴァードンはあまり知られていない第20デルタ王朝と答える。なかなか衒学的に聞こえますが、あちらでは一般教養なのでしょうか。ヴァードンは日本語字幕によれば、「エジプト彫刻の目にはある種の無意識的な悪意があり、その秘密を明かさない」と語ります。世紀末色を感じさせる発想ですが、とまれ原作でも触れられた古代エジプトにまつわるイメージは、冥界への関心に結びつけられているのでしょう。
 一方台所で執事から手当を受けるロウィーナは、ライジーアのことを聞きだそうとしますがうまくいきません。執事の表情はなかなかに複雑そうで、こちらも『アッシャー家の惨劇』での執事を連想させることでした。
 ヴァードンとクリストファーは廃墟を散策します。右から左へ進めば、カメラもそれを追います。ヴァードンはライジーアの墓碑から没年が消えていたという。この時の空は白っぽく見えます。2人は左から右へ、折れて少しさがっては右から左へ進み、墓碑の前まで来る。没年の削除は復活の予言だとヴァードンは語る。


 屋内の石畳が低い位置から見下ろされます。左にテーブルの脚の影、下寄りに黒眼鏡が落ちている。カメラが上向きになると、奥からロウィーナと執事がやってきます。この間、墓碑の前で話すヴァードンの声が響き続ける。冒頭でのグランヴィルの引用に始まります。
 ロウィーナは落とした帽子、次いで黒猫と黒眼鏡に気づき、しゃがみこみます。黒猫は黒眼鏡をくわえて右手の扉の隙間に入っていく。ロウィーナも追って入ります。中は暗く、蜘蛛の巣が張っていました。手前を胸の上の姿で左から右へ進む。カメラもそれを追います。切り替わってカメラは後退しつつ上から見下ろす。ロウィーナは奥から手前へ進んできます。黒猫を追って、足もとのアップが左から右へ向かう。次いで頭部が左から右へ。
 また上からのショットに換わり、扉を開いて見上げる。暗い階段を駆けあがる黒猫が下から見上げられます。扉のすぐ前、右手に階段があります。階段は左下から右上へ湾曲しながらのぼっていく。やや上から見下ろしていたカメラは、ロウィーナが階段をのぼるとともに上向きになる。階段は右下から左上へ、さらに螺旋をなしてあがっていきます。暗い。黒猫、ロウィーナの上半身。また黒猫、ロウィーナの足もと、次いで上半身と、逆時計回りにのぼってきて上に達すると全身が映される。先にも触れたように、上昇していく螺旋階段を引きで映した画面は出てきません。
 少し引きで、やや下からの視角で、左後ろに大きな車輪の上半分が左右に揺れています。その上を半円アーチが覆う。ロウィーナは下をのぞきこみます。ここで鐘塔内部が下の方までずっと落ちこんでいくさまを描いたマット画あたりを挿入してほしかったような気もしますが、こちらも残念ながらありませんでした。かがみこんで細い床の下を見ると、先ほどの車輪は鐘を吊るためのものでした。この螺旋階段は鐘楼だったわけです。右上にしゃがみこんだロウィーナが下から見上げられます。ここまで音楽はなく、ヴァードンの台詞がずっとかぶせられていたのですが、鐘の登場とともに音楽が入ります。鐘は揺れ、上に黒猫がのっている。猫は左の梁に飛び移ります。ロウィーナは梁を伝い黒猫のところに行こうとする。ロウィーナには下から強い照明が当てられています。手前では鐘が揺れ続ける。
 ヴァードンが怖いのは自分の心だ、ライジーアの存在を信じすぎた、日付を削り取ったのは私の手だ、たった今わかったと述べる。その時鐘が鳴りだします。ヴァードンとクリストファーは背を向けて奥へ走ります。すぐ上には粗石の尖頭アーチがあり、向こうには方形の鐘楼が見える。上の方は崩れているようです。その左に三角破風の建物があり、これが僧院なのでしょう。1階には半円アーチが並び、2階は壁の中央をアーチが占め、その真ん中に縦柱があります。このあたりも実景で、Googleの画像検索でご確認ください。
 耳を塞ぐロウィーナが下からとらえられる。螺旋階段を駆けあがるヴァードンとクリストファーの足もとがアップになります。ヴァードンがロウィーナを助けだす。下から執事ものぼってきました。


 約35分弱、今度は結婚式の鐘が鳴り響きます。小規模な粗石積みの教会が映される。左に角塔が立っているのですが、上方で破風を経てその上はぐっと幅が狭くなっています。その下には手前に突きだす三角破風と半円アーチの扉口があります。角塔の奥は右に伸びており、1階のみです。細長い半円アーチの窓が設けられています。その右で少し低くなり、さらに右へ続く。右端も低くて前に迫りだしています。Googleの画像検索からするとこの教会も近辺に実在するもののようです。
 ヴァードンはグレーの上着を着て、黒眼鏡もしていません。クリストファーは当初祝福顔ですが、2人の乗った馬車を送りだした後は笑みが消えます。馬車の後ろ姿が横に寝た巴旦杏型の黒枠で囲まれ、枠はいったん閉じかけてまた開く。猫の目ということでしょうか。
 海辺です。真横からの視点で、上は広く明るい水色の空で占められています。空の下の方には白い雲が横に伸びている。右手にはごつごつした岩が見え、そこより低く、海は暗めの青で細い帯をなしています。下4分の1ほどを明るい黄を帯びた砂浜がひろがっている。濡れているように見えます。中央あたりに小さく、2人の黒いシルエットが右から左へ話しながら歩いていく。カメラも右から左へ平行移動します。
 次いではるか上から草地が見下ろされます。画面半ばを鉤型に折れ曲がった影が占めています。
 そしてストーンヘンジが少しだけ出番となるのでした。
 新婚旅行から僧院への帰還です。使用人が増えて賑やかになっていますが、屋内に入ったとたんヴァードンは黒眼鏡をつける。

 鏡台に向かってロウィーナが髪を梳っています。背を見せ、鏡像がこちらを向いている。鏡の左手前に燭台が置いてあり、白い蠟燭をのせています、カメラは近づいていく。ロウィーナが蠟燭を吹き消し、左から右へ動く。カメラもそれを追います。ベッドに横たわり、ふと見上げるとカメラは急速に右から左へ振られ、鏡像と目を合わせることになります。ロウィーナは蠟燭を手に右から左へ進む。カメラもそれを追います。ベッドの左手、ずっと奥に窓が見えます。櫛に黒い髪の毛がからまっていました。ロウィーナの髪はブロンドです。急いでベッドからガウンをとり、それをひらりと翻してまといます。左の扉へ向かう。
 暗い廊下です。左奥から出てきて手前へやって来るさまを、カメラは上から見下ろす。手前右側のドアをノックします。ここがヴァードンの部屋なわけです。返事がないので入るとベッドはからでした。右奥でバルコニーに通じています。バルコニーに出て外を見下ろしますが、誰も見当たりません。

 広間の長テーブルで来客とともに食事しています。クリストファーが僧院を売却する件に関し、ライジーアの死亡証明書が見つからないと告げます。僧院のほとんどがライジーアの名義になっているとのことです。また僧院が2つの州にまたがっている点も触れられます。
 会食者の1人が同僚にメスマーというほら吹きがいるという話を持ちだします。メスマーは1734年生まれ、1815年歿なので、物語は18世紀後半から19世紀初頭にかけてのいずれかに設定されているわけです。ヴァードンが催眠療法は有効だと反論し、ロウィーナを被験者に実験することになる。
 暖炉の前にいるヴァードンやロウィーナをカメラはかなり上から見下ろします。次いで左に腰かけるロウィーナ、右で暖炉の前に立つヴァードンを下からとらえる。ロウィーナは3歳の時母親を亡くし、ほとんど憶えていないのですが、催眠のさなかに母親が彼女をあやすために歌った歌を口ずさむ。いつも賑やかな父の男爵も真面目な表情をしています。ところが途中でロウィーナの表情が変わり、ライジーアの言葉を語りだす。暖炉の大きな火越しに、首から上がとらえられます。


 眠るロウィーナが夢を見る。カメラは斜めになり、かつスロー・モーションです。惑乱場面の始まりなのでした。メイドが差しだした白い花束の中に狐の死骸があり、猫の威嚇する鳴き声が響く。ロウィーナは逃げだし、暗い廊下へ、奥から手前に走ります。カメラは上から、切り替わると水平に後退し、今度はほぼ真上からになる。また胸から上を水平にとらえ、右へ振られます。猫の影のみが右へ走ります。右の扉へ駆けこむさまがほぼ真上から見下ろされる。倒れ臥し、起きあがります。黒っぽい彫像群をカメラは撫でます。広間らしき空間を上向きのカメラが右から左に動く。大きな鏡が映ります。ヴァードンと抱きあうも後ろから肩に手がかかり、黒い布ともつれあう。今回の惑乱場面は後に起こることの予告ともなることでしょう。
 ロウィーナが目覚めると、胸の上に狐がのせられ、すぐそばの床にはミルクを入れた皿が置いてある。部屋を出て廊下からヴァードンの部屋に入ります。バルコニーからヴァードンが入ってきます。食べ物類をのせた皿を手にしている。声を聞いて執事も入ってきます。ヴァードンはまたバルコニーに戻る。

 廃墟にテーブルを置いてロウィーナとクリストファーがお茶を飲んでいます。それを物陰から黒猫が見ている。
 広間の奥に長テーブルがあり、カメラは少し斜め上から近づきます。席についているのはロウィーナだけです。燭台の青蠟燭を手にします。右に緑蠟燭が見える。蠟を皿の肉の上に垂らし、"VL"の文字にする。掌で蠟燭の火を消します。
 クリストファーが入ってきて執事を問いつめます。カメラは上から見下ろしています。いったん坐らされた執事は席を立ちます。背後左に低い半円アーチが見え、その右には右上がりに湾曲する幅の狭い階段がある。


 クリストファーが人夫2人と墓暴きします。
 自室でロウィーナが鏡に向かっていると、メイドが白い花束を渡します。その際引きつったようになる。
 墓暴きの作業中、雷が轟きます。
 ロウィーナの部屋のドアを外から猫が引っかいています。威嚇の鳴き声つきです。ドアはがたがた揺れる。ロウィーナが閂に手を伸ばすと音は止みます。黒猫はすでに室内にいました。
 ロウィーナは飛びだし、左奥から手前を右へ走ります。カメラは後退しつつ追う。切り替わるとまた左奥から右手前へ走る。カメラはやはり後退しつつ追います。奥の扉から出てくればヴァードンの部屋でした。ここにも黒猫がいる。ベッドはからです。
 ロウィーナは猫に追われてバルコニーに逃れる。右上を見上げると、かなり下から角塔が見上げられます。角塔の左からは手前に壁が伸びている。角塔は2層からなり、それぞれの層に2つずつ半円アーチが並んでいます。横に並ぶ半円アーチの間は柱が区切っている。雷光で明るく、また暗くなります。上の層のアーチに灯りがともっています。バルコニーの右手に扉があり、ロウィーナは入っていきます。


 黒猫が左から右へ走るさまをカメラはやや上からとらえます。
 暗い廊下をロウィーナは奥から手前へ進む。カメラはかなり上から見下ろしています。すぐ右は柱です。ロウィーナは右に回って、背を向け右奥へ走ります。カメラは少し上から、やや斜めになります。ロウィーナは奥から手前に走る。奥や右横に火のついた燭台が見えます。しばらく走ると、カメラはまたほぼ真上からの視角になり、上から下へ撫でる。右にのぼり階段の下3段ほどが見え、すぐに扉となる。
 奥に低く半円アーチの扉が見えます。天井はかなり高いようです。扉の上の壁に燭台がついています。扉からロウィーナが出てきます。足もとが数段くだりになっています。すぐ後でこのくだり段が半円形をなしていることがわかります。ずっと赤い絨毯が敷いてあります。手前左右には飾り柱が立ち、その左右に大きな浮彫像らしきものが陰に沈んでいます。ロウィーナが転んで見上げると、黒っぽいエジプト風の彫像が下からとらえられます。浮彫でしょうか、夢の中に出てきたもののようです。
 振りかえると、半円段の上に黒猫がいます。カメラは低い位置で近づいていく。すぐに切り替わって、床で足を伸ばしたままロウィーナが後ずさる。カメラは上からです。ロウィーナは立ちあがり、カメラは左からロウィーナを映し、そのまま右に振られ、奥の方を向きます。ロウィーナの背を追い越して、そのままぐるっと左に回る。ロウィーナの背が鏡に映っています。カメラは少し斜めになっている。ロウィーナがよろめいて正面向きになると、鏡は砕け散ります。
 ロウィーナは左へ向かいます。カメラは右へ振られているかのように見える。ロウィーナの動きより遅いのでしょう。実際には左に動いており、ロウィーナの背をとらえます。少し斜めになっている。
 割れた鏡の向こうに階段がのぼっています。赤い絨毯が敷いてあります。のぼっていく左手だけがアップになる。
 墓場でクリストファーは人夫たちを帰らせる。柩の覗き窓にランプを落とすと、亡骸は蠟造りでした。上から執事が現われます。ご主人様を助けてくださいという。
 ロウィーナは背を向け奥へ進みます。天井はやはり高い。右から左へ、カメラは斜めになってやや上から追います。以後しばらくの間カメラは斜めのままです。先に火床があります。『忍者と悪女』の広間が思いだされるところです。こちらの火床は柵に囲まれています。その右には台座にのった赤大理石の狛犬のようなものが見えます。けっこう背は高い。右奥の黒カーテンの向こうからヴァードンが出てきます。カメラは下から、やや斜めです。ヴァードンが右手前に歩みだすとカメラは後退する。火床をはさんでヴァードンとロウィーナが向かいあいます。
 手前に大きくヴァードンの背がとらえられる。ヴァードンは自失状態のようです。向こうにロウィーナが小さめに映されています。彼女は左に回って近づいてきます。カメラは右から左に動く。ロウィーナはヴァードンの脇を通り過ぎて左奥へ背を向けて進みます。黒カーテンを開くと、ライジーアが横たわったまま、両手を上にさしのべ、目を開いている。ちなみにロウィーナとライジーアはエリザベス・シェパードの二役とのことです。ロウィーナはブロンズで額をさらし、ライジーアは黒髪で前髪を下ろしています。
 薄緑の寝着を着たロウィーナは両手を左右やや上にかけます。右腕に血が流れている。鏡が砕けた時に切ったのでしょう。前へ倒れると、透けた黒カーテンがうあからかぶさり、もつれあいます。これも夢に出てきた状況です。向こうにライジーアの顔がのぞいている。
 ロウィーナは起きあがり、右へ進んでヴァードンに黒カーテンを投げつけます。ヴァードンは自失のままです。「彼はもう望みがない」というクリストファーの声が響きます。執事といっしょに入ってくるのが火越しに映される。執事は語ります。日本語字幕によれば;ライジーアは亡くなる時、夕べのように視線で彼を縛りつけ、絶対に死なない、ここで彼を待つといった。昼間は忘れ、夜はここに来るようにと。彼は彼女の狂気と戦ったが、夜は言いなりになった。
 ヴァードンの胸から上が映ります。やや下からの角度です。白いシャツを着ており、背後の壁が暗い。カメラは近づきます。右いっぱいに横向きのヴァードンが配されます。左少し奥、やや上からロウィーナが正面向きになっている。執事のアップを経て、ロウィーナは右から左へ動き、ヴァードンの正面に回りこみます。カメラはやや上から見下ろす。ロウィーナはヴァードンに催眠をかけるようにして、見て、私はライジーアと言う。上からの視角で、左で右上を向くロウィーナのアップ、右にヴァードンの肩から上が背後からとらえられます。「あなたに頼んだことを全部思いだしたら自由になれる。私は死んでいく I am dying」。ロウィーナはヴァードンの肩に手をかけたまま倒れます。ヴァードンの右肩から下へ、シャツに血がついています。クリストファーと執事が右から火床をまわり、倒れたロウィーナの方へかがみこむ。カメラは斜めのまま右から左へ、そして上から下へ振られる。
 ヴァードンがロウィーナの目を閉じます。カメラは部屋の奥・上から床にしゃがみこむ3人を見下ろす。ヴァードンが立つと、カメラは右から左へ動き、暗がりを経て左下にライジーア、右上にヴァードンという配置になります。雷鳴が響きます。ヴァードンはライジーアを抱きあげる。火越しに左でクリストファーと執事が右奥を向き、そちらからヴァードンが手前へ進んでくる。カメラは少し後退する。ヴァードンは火床にライジーアを投げ落とします。カメラが下向きになり、ヴァードンは右下を向いてしゃがみこむ。右下でロウィーナが横たわっています。「妻と2人にしてくれ」と頼みます。クリストファーと執事は右から左へ動きます。カメラもそれを追う。向こうの壁は暗い。2人が振り返ると、カメラは急速に左から右へ振られる。ロウィーナを抱きあげたヴァードンは火床の前へ少し進み、すぐに振り返って背を向け左奥へ入っていきます。
 頭を左にしてロウィーナを横たえ、キスして黒カーテンをしゃっと閉じる。画面は真っ暗になります。カメラは右へ振られ、右向きのヴァードンが左に振り返ります。カメラは斜めで、上の方の空間を空けている。カメラは左上に戻され、また真っ暗になる。そのままカーテンがしゃっと開かれます。上から見下ろされると、ロウィーナの胸の上に黒猫がのっており、右上にヴァードンの背です。ヴァードンは黒猫を投げ飛ばす。黒猫は動かなくなる。ロウィーナが息を吹き返したかに見え、一方黒猫は起きあがり左へ走る。やはりロウィーナの息は戻らない。ヴァードンがキスする真上からのショットを経て、薄緑のヴェールをかぶせます。
 火越しに奥から手前へ進むヴァードンが映されます。カメラはやはり左下がりになっている。火の手前では先の尖った柵がシルエットと化しています。ヴァードンはそのまま右へ回る。カメラもそれを追います。柱や他の何か越しに歩き続ける。立ち止まって振りかえると、カメラは急速に右から左へ振られる。火床の向こうで、壁に落ちたカーテンの影が開き、下に人の影が現われる。続いてヴェールをかぶった人物が手前へ進んできます。火床をはさんでヴァードンと人物が近づくさまを交互に切り換える。
 ヴェールをあげるとライジーアでした。彼女は腕をさしのべます。ヴァードンは火床をまたぎこし、飛びかかって首を絞める。ロウィーナが訪問した時の行動の反復です。ライジーアは襲われながら笑います。
 クリストファーが駆けこみ「殺したな」と叫ぶ。ヴァードンはロウィーナの仇を討ったと答えますが、見下ろすとロウィーナの首に手をかけているのでした。
 ロウィーナを運び去るクリストファーと執事が下からアップで見上げられます。執事が振り返ると、火床の向こうに小さくヴァードンが引きでとらえられます。かなり斜めになっています。
 ヴァードンは前を向いたまま右から左へ動く。カメラもやや下からそれを追います。左には奥まって窓があり、曲線紋様の格子がはまっています。右手の壁に格子の影が落ちている。ヴァードンは鞭と格子の1本を抜きとり、また右へ戻る。カメラも後退しつつ右へ動きます。ヴァードンは黒猫に攻撃を仕掛ける。相互のアップが、引きを交えつつ切り換えられます。ヴァードンが右を見上げると、石像群をカメラは急速に右から左へ撫でる。以前ロウィーナの視点で見られたのと同じです。黒猫が飛びかかりヴァードンの両目をえぐる。『古城の亡霊』で登場人物の1人が遭わされたのと同じです。ヴァードンが右から左へ動くさまが斜め下からとらえられます。背後に間隔を置いて柱身像が並んでいます。ヴァードンは倒れ、その時黒ヴェールのついた柱を右に倒してしまいます。火が燃え移り、瞬く間に右から左へ走っていくさまをカメラはアップでとらえる。カメラは左で下から上に向けられます。
 クリストファーがロウィーナを抱いたまま右を見上げる。シルエットと化した階上に炎があがっています。以前ロウィーナがバルコニーから見上げた時より離れているということでしょうか、角塔部分の下に横に伸びる階が2層になっており、いずれもシルエットと化しています。上の角塔部分の窓から炎が漏れている。これらの左に角をはさんで壁が手前に伸びています。こちらの壁には凹凸の陰が目立つ。夜空は暗青色です。この下を馬車が右へ走ります。
 炎上する室内では、装飾柱越しにヴァードンが右から左へ進む。カメラもそれを追います。炎が画面いっぱいになり、ヴァードンは左から右へよろめいていく。天井等が崩れだし、猫が鳴きます。『アッシャー家の惨劇』での炎上のショットと炎越しの黒猫のアップを交えつつ、黒猫はまたヴァードンに襲いかかる。火にまといつかれた石像群が下から見上げられます。
 ロウィーナが息を吹き返し、クリストファーが抱きつきます。弦楽のロマンティックな調べが流れますので、本当に生きていたということなのでしょう。
 『アッシャー家の惨劇』の真下からの炎上ショットが出てくると金管が吹き荒れる音楽に換わります。ライジーアとヴァードンが寄り添うように横たわっている。
 暗がりで僧院が燃え、ポーからの引用がかぶさるのでした。

Cf.,  ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、pp.160-161/no.129

北島明弘、『映画で読むエドガー・アラン・ポー』、2009、pp.95-96

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, pp.118-120

Derek Pykett, British Horror Film Locations, 2008, pp.119-120, 152-153

Joel Eisner, The Price of Fear. The Film Career of Vincent Price; In His Own Words, 2013, pp.145-147

原作等については;
阿部知二訳、「リジイア」、『ポオ全集 1』、東京創元新社、1970、pp.425-444
原著は
Edgar Allan Poe, "Ligeia", 1838

ポーについては→「viii. エドガー・アラン・ポー(1809-1849)など」(<「ロマン主義、近代など(18世紀末~19世紀)」<「宇宙論の歴史、孫引きガイド」)も参照
おまけ 
 
Pierrot Lunaire, Pierrot Lunaire, 1974(邦題:ピエロ・リュネール『ピエロ・リュネール』)(1)
バンド名はフランス語ですが、イタリアの分類しづらいプログレ系グループの1枚目、4曲目が
"Lady Ligeia"(邦題:「レディ・リジイア」)。器楽曲です。
こちらも参照

また
夢幻、『過ぎ去りし王国の王女』、1988(2)
サード・アルバム、B面1曲目が「幻惑のリジェイア」

こちらも参照
 
1. アウグスト・クローチェ、宮坂聖一訳、『イタリアン・プログ・ロック イタリアン・プログレッシヴ・ロック総合ガイド(1967年-1979年)』、マーキー・インコーポレイティド、2009、pp.403-404。『ユーロ・ロック・プレス』、vol.49、2011.5、p.88。 

2. ヌメロ・ウエノ、たかみひろし、『ヒストリー・オブ・ジャップス・プログレッシヴ・ロック』、マーキームーン社、1994、pp.199-201。
 2015/4/19 以後、随時修正・追補
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