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恐怖のロンドン塔
Tower of London
    1962年、USA 
 監督   ロジャー・コーマン 
撮影   アーチー・R・ダルゼル 
 編集   ロナルド・シンクレア 
 美術   ダニエル・ハラー 
 セット装飾   レイモンド・ボルツ・Jr. 
    約1時間19分 
画面比:横×縦    1.66:1 
    モノクロ 

DVD
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 コーマンがポー連作の合間に監督した史劇で、 [ IMDb ]によると1962年3月7日公開の『姦婦の生き埋葬』、同年7月4日公開の『怪異ミイラの恐怖/黒猫の怨霊/人妻を眠らす妖術』に続いて同年10月24日にアメリカで公開されました。AIPではなくアドミラル・ピクチャーズ(エドワード・スモール・プロダクションズ)の製作とのことです。ちなみにポー連作の続き『忍者と悪女』は1963年1月25日公開となります。
 リチャード3世の物語といえばシェイクスピアの戯曲が思い浮かびますが、クレジットはされておらず直接原作にしたわけではないようです。シェイクスピアの邦訳は昔読んだはずなのですがまったく憶えていないので、異同を確認するのはまたの機会にしましょう。『リチャード3世』の内容を忘れてしまったせいもあってか、こちらは幾本かの映画のおかげで大まかな筋立てだけは記憶のある『マクベス』が連想されたりもしたことでした(→こちらなどを参照)。
 またやはりクレジットは見当たらないようですが、ユニヴァーサル製作になる『恐怖のロンドン塔』(1939)の再映画化だということです。残念ながら未見なのですが、監督ローランド・V・リー、主演バジル・ラスボーンにボリス・カーロフが共演ということで、かの『フランケンシュタイン復活』(1939)の面子が再会した作品となります。ちなみに『復活』は1939年1月13日公開、39年版『ロンドン塔』は同年11月17日公開とのことです。北島明弘『ホラー・ムービー史』(1986)の p.38 に掲載された、頭を剃りあげたボリス・カーロフがナイフを手ににやりとしている写真が頭にこびりついたりもしているのですが、映画界入りして間もない(1938年)ヴィンセント・プライスもクラレンス公役で出演していたとのことです(追記:2015年にDVD化されました→こちらを参照。なお上に「再映画化」と記しましたが、物語はまったく違っていました)。
 とまれ亡霊はぞろぞろ出てきますが、怪奇映画というのとは少しニュアンスが違うかもしれません。それでもタイトルどおり、ほとんどがお城の中で展開される宿命劇です。登場人物はちゃんと廊下を行ったり来たりしますし、ポー連作恒例行事、地下下降にいたっては3種類登場します。これまた恒例の惑乱場面も欠けてはいません。あまつさえ柩から指先が出てくる場面まで入っています。


 タイトル・バックは暗がりの中、いくつもの燭台の間をカメラが縫っていくというものです。最後にからの鎧が映される。
 次いで夜の街路をカメラが前進していきます。カメラはかなり高い位置に浮いているかのようです。霧がたなびいている。そのまま街路を抜けると、暗い中に上に2つ、下に2つ、灯りのともった4つの窓が見えます。さらに近づけば、この4つの窓を中央に、左右に2つの塔、すぐ後ろにもう2つの塔が守護する本棟がそびえ、下方で左右に城壁が伸びている城であることがわかる。本棟の4つの塔は尖り屋根で、上に旗を立てているようです。下の城壁にも随所で低い円塔が設けてあります。街並みと城はいずれも模型でした。ポー連作でのマット画から模型に替わったのはロンドン塔が現存することと何か関係しているのでしょうか。ただ手もとのソフトで見るかぎり、マット画でのいかにもいかにも感は薄れ、模型のいささかしらっとしたお手軽さが気になってしまったりするのでした。
 ナレーションが1483年4月9日、イングランドの王エドワード4世が死の床についていることを告げます。

 鋸歯型胸壁のある城壁上の歩廊を、衛兵が巡回しています。衛兵とともにカメラは左から右へ動く。左奥には入口があり、歩廊のすぐ奥は壁になっています。進むとすぐ、奥に上への階段が見えてきます。8段ほどのぼれば奥まって扉口に通じています。
 衛兵が顔をあげるとカメラも上を向く。上にも城壁上の歩廊があり、そこにいた衛兵がうなづきます。上の衛兵も左から右へ進み、そちらにいた別の衛兵の右側に立つ。カメラは下から見上げていますが、衛兵は下を見下ろします。切り替わって左の城門から馬車が入ってくるさまが見下ろされます。馬車は前庭を右へ進み、カメラは後退しつつそれを追う。前庭の奥には8段ほどののぼり階段があり、踊り場の奥に扉、また踊り場から右へ階段がのぼっています。この時画面右下に手前の城壁でしょうか、岩が映りこんでいます。
 扉からバッキンガム伯(ブルース・ゴードン)が出てきて、切り替わってアップになる。カメラは下からです。馬車からアン(ジョーン・カムデン)、次いでリチャード(ヴィンセント・プライス)がおりてきます。3人は階段上の扉へ向かう。やはりカメラは下から見上げています。扉の向こうにリヴ・ヴォールトを支える柱が奥へ並んでいるのがのぞきます。

 王の寝室です。カメラはまず上から見下ろし、前進しつつさがっていきます。余命幾ばくもないエドワード4世(ジャスティス・ワトソン)が2人の王子、弟であるリチャード、末弟のクラレンス(チャールズ・マコーリー)をそばに呼び、軍事面で王を支えてきたリチャードをねぎらいつつ、これからは平和の時代だとクラレンスを王子たちの保護役に任じます。医師のタイラス(リチャード・ヘイル)が王の容体を見る一方、連れだって退室するリチャードとクラレンスを見た3人兄弟の母(サラ・タフト)がリチャードにいいのかと問いかける。母の疑念が暗示されるのでした。後に登場する面々も勢揃いしています。
 リチャードとクラレンスは酒蔵にやってきます。大きな酒樽がいくつも置かれ、壁の上半はずっと綴織で覆われています。手前に柱が立つ。扉のある壁の左奥は向こう側に伸びているようで、またその左側は段がさがっています。扉に開けられた覗き孔からは上への階段が見えます。兄弟の情を確認し、未来を祝福しあって2人は抱擁しあいますが、リチャードはクラレンスの背にナイフを突きたてるのでした。そして亡骸を大樽に放りこむ。
 洗水盤で血を落とす両手がアップになります。リチャードの部屋です。妻のアンも事の成行を了解済みでした。ナイフは王妃エリザベス(サラ・セルビー)の実家、スコットランドのウッドヴィル家のものだという。


 夜の城の上部の外観が挿入されます。主棟の4つの塔の尖り屋根が、現実のロンドン塔に応じて微妙な曲線を描いていることがわかります。
 城壁です。上階の衛兵が見下ろすと、カメラも下向きになります。また上の歩廊の奥に、ゆるい尖頭アーチの出入口がのぞきます。
 城壁下の階の歩廊にリチャードが出てきます。右から左へ進むとカメラもそれを追う。奥にある階段の右手前で止まります。階段の右手の壁には篝火がかけられ、その右下に影を落としている。声に右へ振り向くと、胸壁が右手前から左奥へ伸び、ゆるい角度で折れて左に続くことがわかります。その奥の城壁も角で折れている。左手前には歩廊の奥の壁が映りこんでいます。胸壁の角に透明なクラレンスが現われます。約11分にしてさっそく亡霊の登場です。この後もどしどし出現するのですが、本作品に出てくる亡霊は概して快活な口調でしゃべります。クラレンスは「お前が殺したものの手で死ぬことになる」と予言します。弔砲が撃ちだされるとともに城壁の一部が崩れ落ち、あやうくリチャードにあたるところでした。リチャードは死人に人は殺せないと叫びます。
 リチャードは歩廊左奥の出入口へ駆けこみます。そして自室に逃げこむ。この部屋は、暖炉がある手前の居間の奥に三角アーチが開き、その奥にも幅の狭い尖頭アーチがのぞいています。2つのアーチの間の床に網状の影が落ちています。怯えるリチャードをアンが励まします。

 王の寝室にリチャードが別れに来ます。そこで母との軋轢があらわになる。母がリチャードを悪魔呼ばわりし、産まねばよかったとまでいう。これはひどい。リチャードは歪んだ背骨で俺を産んだと返す。接吻しようとした王の額に血を見ますが、母には見えません。出入口の向こうではリヴ・ヴォールトを支える柱が連なって下降しているようです。

 リチャードの自室です。カメラは右から左へ動き、眠るリチャードをとらえます。風で窓が開くと、クラレンスが再び現われ、「お前はボズワースで真実を見つけるだろう」と告げます。本作に登場する亡霊たちはリチャードにしか見えませんが、成就するであろう予言をなす点で、良心の呵責から生まれた幻ではなく、超自然のものと見なしてよいでしょう。

 壁に前屈みで左から右へ進む男の影がまず映り、すぐに実物が追ってきます。タイラス医師です。出入口の向こう側の壁には格子の影が落ちています。その右に綴織がかかっている。医師が左奥へ入ると廊下です。左奥から出てきて手前へ進む。すぐ上には隅を丸くした方形アーチがあります。その手前で廊下は右に枝分かれしている。
 医師が近づいてくるとカメラは後退します。医師は左手前へ曲がる。カメラは右から左へ首を振ります。曲がってすぐの扉から入ります。カメラは少し上から見下ろし、医師が中に入っていくとそれを追います。中には王妃、この時点では名前の出ない若者-後にジャスティン卿(ロバート・ブラウン)、その妻だか婚約者-すぐ後でマーガレット(ジョーン・フリーマン)が待っています。対リチャード同盟の結成です。マーガレットの父はスコットランドにいるとのことで、王妃と血縁のようです。


 朝の城の外観です。右から光が射しています。本丸と4本の塔は壁が白い。下の城壁は陰になっています。
 窓です。円の列が規則的に分割しています。円には色違いのものがあります。リチャードと腹心(マイケル・ペイト)が話している。日本語字幕では最後まで腹心の名前が出ませんでしたが、ラトクリフ卿とのことです。原語ではどこかで呼ばれていたと思うのですが、自信はありません。2人が動くとともにカメラも右から左へ従います。広間でした。奥に上への階段があります。階段は左下から壁に向かい右奥へ8段ほどあがり、踊り場で左右に枝分かれしています。左にあがった階段が上に着いたところで、そのまま壁が右から左へ伸びてきます。階段のぼり口のすぐ左手に低い出入口があり、その向こうは低くなっているように見えます。壁は左へしばらく来ると、大きなアーチが開いています。そこを少し奥へ進むと、小さめで幅の広い尖頭アーチがあります。アーチの上方には水平の木の梁が渡され、その中央から真上、右上、左上と3本の梁が出ています。大アーチの左で角となり、壁が手前へ出てくる。少し前に来ると玉座があります。
 奥に小さく、階段の左上からミストレス・ショア(サンドラ・ナイト)が現われ、おりてきます。手前には大きくリチャードと腹心が配され、遠近が対比されるという構図です。ショアは亡くなった母とともに、王子の出産に立ち会ったという。ちなみに演じたサンドラ・ナイトは後に『古城の亡霊』(1963)でヒロインをつとめるとともに、同じ映画で主演したジャック・ニコルスンの妻だということでした。
 偽証に応じないショアを、リチャードは地下の説得者ゲルダーのもとへ追いやります。腹心が彼女を引っ張って階段左手の出入口に消えます。ショアは止めてと叫びますので、地下送りが何を意味するか、知れ渡っているのでしょう。出入口は方形ですが、すぐ奥にゆるい三角のアーチが附属しています。最後に奥へ消える影だけが壁に落ちます。出入口は画面奥に小さく、手前には首をひねって右を向くリチャードが大きく配されている。怯えていた時とは対照的に、冷酷さに揺るぎはありません。


 稲妻の走る空をはさんで、地下行き第1弾です。手前の半円アーチと格子を通して、上への階段が下から見上げられます。リチャードがおりてくる。格子の向こう、すぐ右では上方に岩が出っ張っています。格子戸を開くリチャードとともにカメラは左から右へ振られる。格子の向こう、右手は奥まっており、壁に歪んだ格子の影がややぼやけて落ちています。左下にアーチの出入口らしきものが黒くのぞいている。格子の手前、右側の壁には格子の影がくっきり落ちています。リチャードが少し進みます。カメラも左から右へ動く。先に扉があります。扉の奥は拷問室です。奥の方に扉が3つほど並んでいます。ショアはからだを引き伸ばす台での拷問の末殺されてしまう。太腿がさらけだされます。リチャードは悪行を働く時は自信に満ちています。

 廊下の奥に隅を丸めた方形アーチが見え、軽業師たちが奥から手前へ走りでてきます。廊下は手前左側で角柱を経て、その左に小さめの尖頭アーチが奥へ開いています。軽業師たちはその前を右から左向こうへ進む。その先は広間です。まっすぐ向かいに窓があり、その右は暖炉、左は階段です。階段の上から見下ろすショットが随時挿入される。
 リチャードが医師たちの方を見ると、背後の壁に頭巾か兜の両目の部分が透けた影が落ちています。ぎくりとして立ちあがるリチャードですが、召使いが食器類を頭に載せて運んでいる姿の影なのでした。
 階段をのぼる王子たちが上からとらえられます。踊り場から右への階段をあがっていきます。


 廊下を左奥からリチャードと腹心が進んできます。手前に近づくとカメラは後退する。映るのは腰から上です。2人は左へ曲がり、そこで立ち止まります。カメラは左から右へ振られ、前進します。腹心はすぐ向こうの扉に入っていく。
 リチャードはさらに進みます。カメラは後退する。また手前で左に折れる。しばらく歩いていると、先にショアの亡霊が出現します。やはり快活です。リチャードは逃げだし、廊下をもとの方へ戻ります。背を向けて手前から奥へ進むさまをカメラは上から見下ろす。少しぶれさせてあるようです。風が吹くと笑い声が響きます。カメラはひずみ揺れます。ポー連作で恒例の惑乱場面に対応するのでしょう。
 リチャードが自室に入るさまが下からとらえられる。向かいにまたしてもショアが立っています。ショアは相変わらず快活ですが、身体的特徴を愚弄することまでやってしまいます。映画の製作者陣が気に留めなかったというのが第一の理由なのでしょうが、物語の中に入るなら、まず当時の人間も気に留めなかったであろうことともに、あんなひどい殺され方をしたのであれば何でもやりかねない点とつながって、亡霊たちがもはや善悪の規矩を超えでてしまっていると深読みすることもできるかもしれません。リチャードはたしかに大悪党として描かれていますが、対する亡霊たちもラストでとってつけたように語られる正義の使者などではなく、あるのはただ政争とそれを操る宿命なのでしょう。これは次の場面でも念押しされます。
 その前にとまれ、ショアの姿と重なるように奥から出てきたアンは、ショアと思いこんだリチャードによって絞殺されてしまいます。日本の怪談映画を思わせるエピソードですが、寡黙な日本の幽霊と違ってここでの幽霊はしゃべりまくるのでした。


 王妃たちの2度目(?)の会合です。タイラス医師がリチャードの部屋に入ると、彼は深く悲しみ虚ろな目つきでアンの亡骸を抱いていたと語る。マーガレットがそれにつけこもうと提案します。医師は心に平穏をもたらし、警戒心を解く薬草があると言う。ジャスティンは奴に平穏が必要かと問います。この時点で見る者は、ジャスティンたちに対する同情心をかなり削がれるのではないでしょうか。実際この後しばらくのリチャードの描写は、同情ならぬ感情移入を誘うに充分です。といって非道の行ないを止めるわけでもない。

 リチャードの部屋を医師が訪ねます。2人は右から左へ動き、画面には暖炉の火が残される。この火はそのままアップで映される別室での香炉の火に重ねられます。カメラは上昇して上から見下ろします。医師は悪魔に呼びかける。当時の規準からすると見つかれば火あぶりか断首ものでしょう。火を見下ろすリチャードが下から見上げられます。エドワード先王の亡霊が現われます。

 前庭で剣の稽古をする王子たちとジャスティンのところへ医師がやってくる場面を経て、部屋にいるリチャードの耳にアンの声が響きます。アンは墓へ来て私を起こしてと言う。リチャードを扉を出て、左から右へ進む。
 地下行き第2弾です。階段にカメラが下から近づきます。リチャードは中央にある小アーチの入口から右下へおりていく。すぐ左に柱が立っており、その左の壁は奥へ後退している。カメラは少し上昇し、階段をおりるリチャードを見下ろします。おりた先の奥には何やら湾曲して2列になった階段状のものが見えます。階段の下の向かいは半円アーチの格子戸です。そこには入らず、前を手前へ進みます。カメラは水平になっている。前に柱が2本立っています。ここまで1カットでした。
 切り替わると左奥から出てきます。壁に格子の影、そしてまずはリチャードの影のみが落ちます。すぐに本体も現われる。右へ進むとカメラも追います。手前には何本か柱が立ち、その向こうを歩いていく。しばらく進むと手前に格子戸が映され、その向こうからリチャードがやって来ます。中に入る。カメラは後退しつつ上昇します。奥の壁に格子戸の影が落ちています。まずは薄く、壁の区切りの右では濃くなり、幅が広がっていく。カメラがさらに後退・上昇すると、いくつも柩が置かれているのがわかります。先にあるのがアンのものなのでしょう、柩の蓋が少し開き、間から指先が出てくるという、『アッシャー家の惨劇』(1960)や『恐怖の振子』(1961)でお馴染みのモティーフが律儀に反復されます。柩から半透明のアンが起きあがる。リチャードが抱きしめてくれと言うと、私の腕を冷たく柔らかい抱擁はできないと答えて消えてしまいます。


 ジャスティンと医師は王妃と王子たちをウエストミンスター寺院へ、マーガレットをスコットランドへやるべく脱出をはかります。一行は廊下を左奥から右手前へ進む。カメラは後退します。衛兵が通り過ぎるのを待って手前から奥へと背を向けて進みます。手前は両脇に柱がある。奥は上に石の梁が走っており、その真下に影が1つ落ちる。すぐ後で右にも影が落ちます。さらに奥には低くなって隅を丸めた方形アーチが見える。
 広間が階段の上から見下ろされます。医師が先行すると、右階段の上からバッキンガムが声をかける。医師はバッキンガムを自分の部屋へ誘います。残りの面子は2人の姿が消えたのを見計らって、階段をおり、その向かい、広間を横切って左の玉座と右の暖炉の間にある通路へ向かいます。カメラは上から見下ろしています。通路の奥、突きあたりにも暖炉があります。
 狭い石積みの半円アーチが画面正面に来て、奥の階段を左上から一行がおりてきます。螺旋階段のようです。階段下の廊下、右を少し先には衛兵室があります。扉を閉めて出てきた衛兵を一人片づけ、暗い廊下を進む。壁に格子の影が落ちています。左奥から出てくると、すぐにゆるい角をなしているところを手前へ進む。何本か柱が立つ、その向こうを一行は進みます。カメラは斜めになって後退する。切り替わるとまた左奥から手前へやって来ます。カメラの前を横切り、右の石壁に隠し扉がありました。
 そこをくぐると酒樽が置かれた部屋です。ただし使われていないようで、蜘蛛の巣だらけです。そこを奥から手前へ進めば、右に吊し格子戸があります。王妃とマーガレット、弟王子が出た時点で吊し戸は落ちてしまいます。ジャスティンと兄王子は残される。王妃にトンネルから川岸へ出てウエストミンスター寺院に行くよう言う。狭い廊下が上から正面向きで映されます。壁はやはり蜘蛛の巣だらけです。奥から衛兵たちが手前へやって来る。地下行き第3弾でした。


 霧が這う中、馬車にたどり着いたマーガレットは待ち伏せで捕らえられ、広間に切り替われば兄王子は庭園の塔へ、ジャスティンはスコットランドのスタンリーに使いとして送られることになる。
 リチャードが仕立屋に礼装を準備させています。寸法を測ろうとした仕立屋に、リチャードは背中に触れるなと叫ぶ。訪ねてきたウエストミンスター寺院の大司教に弟王子をよこすよう脅しをかけます。
 前庭でスコットランドへ出発しようとするジャスティンに医師がこっそり計略を伝えます。
 広間の階段・右上からリチャードと腹心が出てくる。悪巧みの相談です。その後2人は眠る王子たちの顔に枕を押しつけます。壁に暗殺する2人の影が映る。王子の1人が抱いていた人形がだらりとします。
 カットが換わって壁に人物頭部の影がぐるぐる回っています。カメラが左から右へ振られると、人形とそれを持つリチャードであることがわかります。王子の声がし、また弟王子の声が隠れんぼしようと誘います。窓から風が吹きこみ、カメラは右から左へ、暖炉の火が燃えあがる。次いでカメラは左から右へ、燭台の火が消えます。少し上から見下ろされれば、奥に暖炉、手前にリチャードがとらえられる。リチャードの手前右には別の燭台が大きく映りこんでいます。カメラが後退し、少し右から左へ振られると、扉が勝手に開きます。
 リチャードは人形を抱えたまま奥から手前へ、そのまま肩から上の姿で右へ進む。廊下は奥から手前になるにつれ左右にひろがっています。リチャードは人形を抱いて奥から手前へ来る。右手の壁でその影が濃く、次いで薄く、また濃くなります。そのまま右へ進むと扉があります。開くとすぐ前に揺り籠がある。王子たちが使っていたものです。リチャードは戻って廊下を右へ進みます。カメラもそれを追う。また扉があり、開けると鳥が飛びこんできます。また左へ戻る。声は胸壁へと言う。リチャードは背を向けて左奥へ向かいます。奥には隅を丸めた高い方形アーチがあり、その右では低い尖頭アーチが枝分かれしています。方形アーチの向こう側では、2本の線の影がやや右下がりになって落ちています。右の方で幅が広くなる。また右下に低く方形の出入口がのぞいています。暗い。リチャードは方形アーチの向こうを左奥へ進みます。
 カメラは画面いっぱいに城壁を下から上へ撫でる。歩廊が下から見上げられます。歩廊の奥の壁には三角アーチがあり、その奥からリチャードが現われる。アーチの向こうにも城壁が見えます。
 胸壁の向こうで王子たちが宙に浮いています。「おいでよ」と誘う。王子たちはからかうような調子です。リチャードは少しほうけた様子で2人を追います。リチャードが王子たちと遊ぼうとしているのは本心からのように見えます。自分が子供の頃は誰も遊んでくれなかったと言う。ここでのリチャードの姿はなかなか悲痛で、それだけに王子たちの亡霊はある種悽愴感を感じさせてくれます。
 王子たちはボズワースの名を口にし、後退します。リチャードは胸壁を越えて追おうとする。彼の前にひろがるのは霧が揺れる宙空です。
 窓の格子越しにそれを見たバッキンガムが走りだします。右に影が落ちている。三角アーチの左奥から現われます。アーチの向こうには左奥に半円アーチ、右上に鋸歯型胸壁がのぞいています。胸壁を乗り越えるところを止められたリチャードは「なぜ止める?子どもたちが私と遊びたがっている。もう待ってくれない。行ってしまった」と言う。


 廊下の奥からバッキンガムと腹心が手前へ歩いてきます。カメラは上から下へおりてくる。2人はいったん止まり、それから左へ、カメラの前を横切り背を向けます。カメラも右から左へ動く。先は広間です。腹心は振り返りざまバッキンガムにナイフを突きつけます。
 地下の拷問室です。バッキンガムは両手を天井からの鎖につながれています。リチャードは彼の頭部に囲いをかぶせ、その中に飢えた鼠を放りこみます。いやな殺し方です。たしか翌年の『顔のない殺人鬼』(1963、監督:アントニオ・マルゲリティ)でも出てきました。リチャードも非道を働く時は自信満々です。奥の牢に入れられたマーガレットが扉の覗き孔から見ています。
 礼拝堂です。奥に磔刑像、その右に窓、左に三角アーチの出入口があります。アーチの向こうに柱が見える。右奥には暖炉があります。アーチから大司教が入ってきます。リチャードは自分の力で王になったのだ、この手で英国を守ってみせると、教会の権威を歯牙にもかけません。鏡に向かいます。すると鏡像が笑う先王に変わる。磔刑像の向かいにある尖頭アーチからバルコニーでしょうか、外に出ます。民衆の喝采はしかし嘲笑に変わる。少なくともリチャードにはそんな風に聞こえたのでしょう。
 地下ではタイラス医師が拷問人ゲルダーに声が出る薬を与えます。ゲルダーは口がきけなかったのです。右手前に壁に隠れるジャスティンが大きく映りこんでいる。薬と言ったのは毒で、ゲルダーが倒れると医師は扉を開けジャスティンを入れます。ジャスティンはマーガレットの名を呼び、医師から鍵を受けとって数段あがり、右の方へ走ります。カメラもそれを追う。先にマーガレットの入れられた牢がありました。ジャスティンとマーガレットが拷問室から出て医師も後を追おうとすると、ゲルダーが矢を投げつけます。
 リチャードはアンの小さな肖像画を手に、永遠にいっしょだと囁いています。するとアンの似姿が髑髏に変わってしまう。


 広間のシャンデリアが画面いっぱいに、斜め上からの角度でとらえられます。カメラは下降して前進する。階段前のテーブルでリチャードと腹心が協議しています。腹心が敵はボズワースに集結していると報告する。「ボズワース?」と呟くリチャードを、カメラはやや下から映します。向こうに左上への階段が見えます。リチャードが右へ動くとともに右上に枝分かれした階段も入ってきます。リチャードは暖炉の前まで来る。奥で窓が1枚風に揺れます。腹心は攻撃を思いとどまらせようとしますが、リチャードはむしろ確認したいのでしょう、聞く耳を持ちません。腹心は左奥から右手前へ、カメラもやや下からの角度で後退します。腹心は戻って背を向け左奥へ行く。カメラもそれを追います。
 宙に笑い声が響き、やがて増幅されます。バッキンガムの声です。リチャードは左から右へ動く。カメラも追います。斧を窓へ投げつける。カメラは後退しつつ上昇します。リチャードは王座へ向かう。宙に笑い声がまた響きます。
 朝の城の外観がはさまれます。
 自室にいるリチャードのもとへ腹心が悪い知らせを報告しに来ます。リチャードはかたくなに一戦交えることを命じます。この時のかたくなさは、以前悪事を働いてきた時の冷酷な自信とは微妙に違っており、すでに余裕を失なっているかのようです。怯えや惑乱とも異なるそれは、リチャード第3の相と見なせるでしょうか。
 また攻撃の命令を受けた時の腹心の表情がなかなか微妙です。マイケル・ペイトの見せ場でした。これまでリチャードとともに唯々諾々と凶行を共にしてきた腹心が、リチャードの末路を察知しつつ、逃げだすこともできない諦念を読みとれたような気がします。深読みでしょうか。
 その後医師の亡霊が現われます。この期に及べばリチャードにとって亡霊とは、もはやコミュニケーションの表現であるかのごとくです。


 戦闘の様子がまずはボズワース周辺の地図越しに、次いでリチャードのアップに透けて繰りひろげられます。雷と雨が降っています。[ IMDb ]の"Did You Know?"中の"Trivia"によると戦闘場面は39年版『ロンドン塔』のフィルムを流用したものとのことです。
 上からぬかるみが見下ろされます。中央でリチャードが剣を振り回している。土手の上に亡霊の一団が現われます。下へおりてくる。手前に騎馬の敵将3人がやって来ます。リチャードは馬に乗ろうとして振り落とされ、倒れていた兵の斧に胸を貫かれ、やがて水に沈んでいきます。騎馬の1人、よく見分けられなかったのですが、おそらくジャスティンでしょう、その表情は勝利に喜び口にする〈正義〉を誇るというよりは、無惨なものと見えたことでした。主観的な思いこみかもしれません。

Cf.,  Joel Eisner, The Price of Fear. The Film Career of Vincent Price; In His Own Words, 2013, pp.131-132

一応挙げておきましょう、各種の邦訳があることと思いますが、とりあえず;
シェイクスピア、福田恆存訳、『リチャード三世』(新潮文庫 赤 20K)、新潮社、1974


シェイクスピアに関連して→こちらも参照
 2015/4/7 以後、随時修正・追補
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