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古城の亡霊
The Terror
    1963年、USA 
 監督   ロジャー・コーマン 
撮影   ジョン・ニコラウス 
 編集   ステュアート・オブライエン 
 美術   ダニエル・ハラー 
 セット装飾   ハリー・リーフ 
    約1時間21分* 
画面比:横×縦    1.85:1** 
    カラー 

VHS
* 手もとのソフトでは約1時間19分
** 手もとの録画では1.33:1
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  コーマンによるポー連作第5弾『忍者と悪女』(1963)で作られたセットの出来がいいことを惜しんで、2日間だけセットをそのまま用いて撮影した部分を中心にした作品で、ポーを原作とするものではありませんが、下掲の『自伝』によれば「ポーよりもポーらしくあろうと試みて、そうした基本要素を組みたててゴシック・ストーリーを創作した」とのことです(p.140)。その他製作の経緯については『自伝』の下掲箇所に、製作に参加したフランシス・フォード・コッポラやジャック・ニコルスンのコメントも含めて詳しく述べられていますので、ご参照ください。
 主演は『忍者と悪女』に続いてボリス・カーロフとジャック・ニコルスンですが、カーロフについては城のセットを用いることのできた2日間だけの参加で、脚本の全体像も定まっていなかった段階だったといいます(この後マリオ・バーヴァの『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』(1963)に出演することでしょう)。他方ニコルスンは一部の演出も担当しました(『自伝』、p.147)。ヒロインは当時ニコルスン夫人だったサンドラ・ナイトで、『恐怖のロンドン塔』(1962)に続くコーマン作品出演となります。
 製作事情のせいなのかどうか、同じ構図が何度か繰り返されるのが目につきます。贔屓目にとれば、こうした反復によって城の空間的布置が見る者に刻みつけられるということもできるでしょう。


 映画は岩だらけの浜に打ちよせる波から始まります。雷鳴入りです。これは『恐怖の振子』(1961)で用いられたものの使い回しなのでしょう。同じく『恐怖の振子』から、急な角度で見上げられた城の全景が続きます。シルエット化しています。
 右下から左上に幅の広い階段がのぼっている。上に踊り場があって、両脇には方形台座に円柱がのっています。『忍者と悪女』の広間奥にあったセットです。ただしずいぶん明るい。そこをカ-ロフがおりてくる。階段の下から右へ向かいます。カメラもそれを追う。階段のすぐ右には半円アーチがあり、奥は真っ暗です。その右手で壁は少し前へ迫りだしている。少し進むと角を経て壁は手前に折れ、半円アーチが見えます。アーチの中には吊し格子戸がはまっている。これは『忍者と悪女』では見かけなかった。左手の壁に柱をはさんで2度、格子の影が落ちています。カーロフは右にある紐か何かを引いて格子戸をあげます。『恐怖の振子』からの城の仰角全景がはさまれる。カーロフが中に入ると格子戸も落ちます。打ちよせる波がはさまれる。
 暗い廊下です。カーロフは左奥から現われます。すぐ右側の壁につけられた燭台から赤い蠟燭を1本斜めにする。石壁が開きます。
 斜め下から暗い階段が見上げられる。左上に半円アーチの入口があります。その向こう、右側にも半円アーチがのぞいている。カーロフは上からおりてきて少し左に曲がり、下の階段を左上から右下へおりていく。階段右側の壁には手すりがついています。
 『恐怖の振子』から、今度は近接ショットが用いられます。2つの塔と欄干を見上げたものです。雷つきです。
 壁の表面が粗い廊下をカーロフは右から左へ進みます。カメラも追う。手前にアーチ状になった柱があり、その向こうを通る。廊下は右で少し手前へ曲がっているようです。カメラは斜め上から前進しつつ床を映す。カーロフがさらに左へ進みます。また床の俯瞰です。奥へと水滴が点々と続いています。『恐怖の振子』から、今回は入江越しのショットです。手前で荒波がどよめいています。左へ進むカーロフが胸から上でとらえられる。また床を見下ろしたカメラは下から上へ動く。扉のノブが映り、そこに手が伸ばされる。開くと朽ちた死骸が飛びだすのでした。
 右上から左下への通路、すぐに踊り場となって下りの階段に続くさまが、上から見下ろされます。踊り場は画面下方で左上がりに伸びている。階段の少し下には半円アーチが見えます。石造りの空間です。ここにタイトルが重ねられる。白い鳥のシルエットが左から右へ横切ります。
 タイトル・バックは柩、地下室、吹抜、上への階段などを描いたいかにもいかにもな絵です。あまり達者とはいいがたい。カメラは左右上下に動く。人の影や怪しげな人物も時に現われ、白い鳥は右から左へ、上から下へと画面をかすめ最後には奥から手前へ飛びだしてきて異形に変じたりする。

 舞台は『自伝』によると「バルト海の海岸」とのことです(p.143)。部隊とはぐれたフランス軍のアンドレ・デュヴァリエ中尉(ジャック・ニコルスン)が、アーチ状の奇岩のある海岸で謎めいた女エレーヌ(サンドラ・ナイト)に出会います。海に歩いていくエレーヌを追おうとしたデュヴァリエは鷹に襲われ溺れかける。気がつくと老婆(ドロシー・ニューマン)の小屋で、老婆に仕えているらしきグスタフ(ジョナサン・ヘイズ)に助けられたのだという。老婆は女などいない、エレーヌは鷹の名前だ、この森で一番美しい生き物だと語ります。
 夜ふと目覚めたアンドレは、小屋から飛びたつ鷹を追うとエレーヌと出くわします。エレーヌに誘われるようにして追えば、流砂に踏みこみかけるところをあやうくグスタフに止められる。自分を殺そうとしたのかと問うと、彼女の意志じゃない、悪霊のせいだ、彼女には助けが必要だとグスタフはかすれ声で述べます。彼女はフォン・レッペ男爵の城にいる、エリックを捜せ、彼が知っている。かくしてアンドレは城を目指すのでした。


 途中の山道で落石に見舞われたりしながら、約19分弱にして入り江越しに崖の上の城が見えます。『恐怖の振子』の冒頭で出てきたマット画です。少し近づけば、これも『恐怖の振子』で先のマット画に続いて挿入された、やはり入り江越しで少し接近したマット画が映されます。
 城門前で馬をつなぎ、今度は『恐怖の振子』仰角近接版です。昼間ヴァージョンでした。城門から玄関へと右から左に進む。こちらは『忍者と悪女』でのアプローチをそのままなぞったものなのでしょうが、昼間なのでよく見えます。
 玄関扉の前で声をかけると、下から見上げられた縦長の窓にエレーヌの姿を認めます。窓のすぐ右で角になり、壁が手前へ出てきている。幅の広い大扉にノックして右を向くと、『アッシャー家の惨劇』(1960)での仰角による壁の隅ショットで、ちゃんとその時どおり壁の裂け目も走っていました。
 もう1度ノックしようとすると扉が開きカーロフが顔を出します。肩から上です。この時点で始めてアンドレの名が告げられます。一方カーロフはヴィクター・フレデリック・フォン・レッペ男爵と名乗る。アンドレはノックの音で死者を起こしてしまいましたかとしゃれたことを言います。

 2人は中に入り、右から左へ進む。入ってすぐ、左奥に小さめの尖頭アーチがのぞきます。男爵がご覧なさい、過去の栄光の残骸ですと指し示せば、カメラは右から左へぐるっとパンします。広間です。階段とその右のアーチも映る。階段の踊り場の奥には尖頭アーチがあり、暗がりになっています。階段の左の壁には綴織らしきものがかかっている。これは『忍者と悪女』のままでしょうか。その左には暖炉、さらに左に大きな尖頭アーチが見える。『忍者と悪女』で広間の中央を占めていた4体のグリフォンに守護された炉は取り払われています。
 2人は奥から手前へ進みます。アンドレの父はデュヴァリエ伯爵で、コンコルド広場で斬首されたことが語られます。2人はテーブルにつく。手前に男爵の背、向こうに前向きでアンドレが少し小さく映ります。その背後にはゆるい尖頭アーチがあり、2重になって格子戸を擁しています。
 男爵に呼ばれて執事のステファン(ディック・ミラー)が、男爵の背後にある幅の広いアーチの左奥から現われます。これで登場人物は皆出揃いました。今回は全6名です。アーチの奥には縦長の窓が2つ並んでいます。アンドレが窓の婦人はと問うと、男爵は見せたいものがあると言い、右奥から左前へやって来ます。2人の背後に階段が見える。男爵が指さすとカメラは右から左へ振られ、奥まった空間に並ぶ2つの窓を経て、角をはさんで壁に掛けられた肖像画をとらえます。あまりうまくはありません。肖像画の下には箪笥がある。
 肖像画には1786年との年記が記されているとのことで、アンドレは20年前だと呟く。物語は1806年に設定されていることがわかります。描かれているのは男爵の死んだ妻とのことです。なおカーロフは貴族らしいというべきか、リズミカルではっきりしたしゃべり方をしています。


 打ちよせる波に続いて、下からの城全景がはさまれます。夜で雲が流れています。
 墓場が上から見下ろされる。霧が這っています。奥の方で左から右へ白衣の人物が歩いている。
 雷鳴がなり、厩の馬が怯えています。ついに仕切りを破って逃げだしてしまう。
 自室にいるアンドレは老婆の小屋で描いたエレーヌの肖像素描を眺めています。奥の上の方に窓がある。これも『忍者と悪女』そのままなのでしょう。風で窓が開き、閉めようと何かの上にのって外を見下ろすと、墓場で左から右へ女が進み、霊廟の中に入っていく。カメラは水平になっています。追おうとすると扉に錠がおりており、下の隙間で影が動くとともに何やら金切り声のようなものが響きます。銃を取りだし、構えながら声をかけ、扉を引くと開いている。
 部屋の外を見回します。カメラが右から左へすばやく振られ、燭台が映る。蠟燭は白いものです。『姦婦の生き埋葬』、「怪異ミイラの恐怖」、『忍者と悪女』と蠟燭は赤く、本作でも冒頭、隠し扉の脇の蠟燭は赤でしたが、ここで変化が見られたわけです。次に左から右へやはりすばやく振られると、先の壁に斜め格子の太い影が落ちています。誰もいないと部屋を出て、カメラは右から左へ、暗い廊下を左奥から手前へ進む。カメラは腰から上をとらえ、後退します。
 右上から左下へくだる階段が下から見上げられます。やはり暗い。アンドレは上からおりてくる。左下、欄干の橋の柱の上に針状の飾りが据えてあります。階段の下には暗い半円アーチが見える。踊り場に達すると、左側に方形台座の上の円柱があります。
 切り替わって、画面下半に広間の階段が正面向きで下からとらえられます。踊り場の右で上にあがっている。踊り場の左右に方形台座つき円柱が立っています。画面の右手前には黒っぽいブロンズの彫像らしきものが映りこんでいます。これはすぐ後でテーブルの上に置かれていることがわかります。アンドレは踊り場におりてきたところです。
 上から広間が見下ろされる。アンドレは手前におり、広間を奥へと左から右に横切る。カメラも追います。カメラの前を横切って背を向け、玄関の方へ銃を手にしたまま向かいます。
 屋外場面となります。右奥からカメラの前を横切り、背を向けて霊廟の扉に進む。カメラは後退しつつ右から左へ振られる。雷鳴に蛙の鳴き声が混ざります。霊廟の手前には左右で柵状の扉が開いている。
 中に入り、左から右へ進み、奥で数段あがります。やはり暗い。奥の壁に"ILSA / BARONESS von LEPPE / 1761-1782 / R.I.P."とある。先の肖像画のくだりでは年記1786と記しましたが、例によってメモで間違えたのかと念のため確認してみると、この通りでした。単純な間違いか、何か意味があるのかはわかりませんでした。
 アンドレは玄関から入り、奥から手前へ進んでそのまま右に大きく曲がります。カメラは後退する。先の奥まったところは奥に窓があり、左に肖像画がかかっていたわけですが、見ると額だけで絵は外されていました。扉の軋むような音に振りかえり、右から左へ進みます。カメラは少し下から撮影している。
 また上から広間が見下ろされる。けっこう広く見えます。奥から手前へやって来て、階段をのぼってきます。踊り場で左に折れる。
 廊下を左から右へ進みます。今回はわりと明るめですが、燭台の蠟燭は消えています。扉の前まで来ると中からエレーヌが現われる。驚いたアンドレのアップを経ると、扉の前には誰もいません。室内に入ると素描が引き裂かれていました。

 昼間の入江越し城の下半ショットが挿入されます。
 男爵が朝食をとっている。背後に階段、左に暖炉があります。広間の中央部ではなく、奥まったスペースのようです。すぐ前に窓がある。
 朝の霊廟です。外は明るいがアンドレが中に入ると、赤みがかった暗さに浸されています。アンドレがイルザの銘を見ていると、後ろからステファンが咎めだてします。扉から見れば左側、画面奥に祭壇のようなものが据えられているのですが、アンドレはなぜ聖具 holy objects が取り払われているのかと問う。夫人が亡くなった時男爵が命じたとのことです。またここは墓ではなく礼拝堂で、フォン・レッペ家の墓所につながっているのだという。墓所は地下にあります。しかし封印されて20年になる。


 アンドレは広間で男爵を問いつめます。男爵は20年前は地方も繁栄し、村人も幸せだったと語りだす。この後日本語字幕によると、妻が死んでまもなく村で農夫の娘イルザに会ったとありましたが、前妻がいたということでしょうか。ともあれイルザと結婚しましたが軍の招集でポーランドに赴き、1年の後に帰ってくると、花嫁は不倫しており、わしをあざ笑った。この手でイルザを殺し、間男はステファンが始末したという。イルザの亡霊は2年前に現われたとのことで、亡霊はあなたにとって救いなのかというアンドレの問いに、きっぱり諾と答えます。
 この場面でのカーロフは身振りも含めて実に雄弁で、存在感が溢れだしていました。『死体を売る男』(1945)での演技が思い起こされたりもします。年をとってもボリス・カーロフはボリス・カーロフなのでした。

 白昼の崖の上にグスタフがいます。下の浜辺に女の姿がある。グスタフは左から右へ駆け、次いで下から上へ進む様子がかなり上から見下ろされます。また左から右へ、先に女の背が見える。右から回りこんで女の前に出、かすれ声で「イルザ」と声をかけます。
 以下おおよそ日本字幕によると、女がイルザという名は奇妙に聞こえると言えば、グスタフはお前の名だと答える。女:私の名はエレーヌ、老婆がそう言った。グスタフ:違う。女:海から生まれたと言われた。グスタフ:帰れ、お前の魂は面倒に巻きこまれている。女:帰る?エリックのもとへ? グスタフ:海へ。女:海が墓場ならエリックと安らぎたい。グスタフ:だめだ。女:老婆に従わないと。グスタフ:フランス人が助けてくれる。女:アンドレ? 鷹の鳴き声が響きます。女:老婆が呼んでる。


 ステファンは小屋にやってきて、窓からのぞきます。老婆は何か調合しているようで、鍋からぼんと煙が上がる。回転する多色ランプがアップで映されます。『怪異ミイラの恐怖/黒猫の怨霊/人妻を眠らす妖術』(1962)の第3話「人妻を眠らす妖術」に出てきたものと同じようです。老婆は呪文を唱える。前にエレーヌが坐っています。日本語字幕に曰く、イルザの霊は永遠の中に深く沈められる。エレーヌ、お前は存在しない。イルザの霊はこの目で見、この唇で話す。命令どおり復讐すれば救われる。多色ランプの前に凸面鏡が大きくかざされます。エレーヌの目の前で揺らされる。鷹がアップになったかと思うと、エレーヌの姿は消えています。
 ステファンが小屋に入ってきます。曰く、クラインシュミットから来た、お前は2年以上ここにいる。お前の名はカテリナ、コルビンから逃げてきた。魔女と呼ばれたのだ。老婆はここに住んでいたのはエリックだと言う。


 打ちよせる波、続いて城の仰角近接版がはさまれます。夜です。
 広間が上から見下ろされます。ステファンは居座るアンドレに対し最後の手段をとることを提案しますが、男爵は罪もない若者を始末は出来ないと斥ける。
 廊下の右奥からアンドレが現われ手前へ進みます。突きあたりの壁に斜め格子の影が落ちるとともに、アンドレ自身の影もくっきり映っています。手前・上には三角アーチがある。左の扉を開くと、奥の壁に斜め格子の影が見えます。のぞいただけで扉を閉じ、右手前へさらに進む。扉の左には燭台があり、蠟燭は白です。
 角を左奥から出てきて、手前へ、さらに左に向かいます。また左手にある扉を開き中に入る。快適そうな内装です。男爵の部屋でしょうか。窓はやはり高い位置にあります。あちこち探り、拳銃を確認、また戸棚の中に夫人の肖像画を見つけます。扉が閉ざされ、「アンドレ、助けて」というエレーヌの声が聞こえる。扉が開きます。
 奥に扉が見え、その上に尖頭アーチのあるさまが上から見下ろされます。アンドレは扉から出てきて右へ進む。カメラも追います。奥で右に曲がる。
 やや暗い廊下です。左奥から手前へやって来ます。カメラは後退する。アンドレが前を見ると、上から広間が見下ろされます。男爵が奥から手前へ進んできて、階段をのぼります。これは前夜、まったく同じ構図でアンドレがとった動きをなぞっています。アンドレは脇に隠れる。突きあたりの壁に斜め格子の影が落ちる廊下を、男爵は右奥から手前へ進む。これも少し前のアンドレの構図を反復しています。男爵が通り過ぎた後、アンドレが出てきた扉の奥には斜め格子の影が落ちています。少し前のぞいた部屋です。アンドレは左へ追っていく。カメラは後退します。
 男爵は左奥から出て、直角ではなく三角に見える角を曲がり、カメラの前を横切って横になったまま左へ、そして背を向けて扉に入ります。カメラは右から左へ振られました。廊下の壁にはぼんやりした影が浮かび、扉の右上に曲線がからんだかのような影が見えます。男爵が室内に入ると、カメラは急速で左から右へ振られる。やはり三角に見える角の向こうからアンドレが現われます。アンドレは扉の前でからだを横に向けている。画面左半は真っ暗です。
 なお以上のシークエンスで、城の2階が広間の階段をあがってから何度か曲がる廊下の両脇に部屋を配していることが何となく読みとれます。細部のデザインは異なるものの、『アッシャー家の惨劇』や「怪異ミイラの恐怖」での2階におおよそ対応した経路をなしていると見なせるでしょうか。


 入江越しの城の外観下半をはさんで、ステファンから代わりの馬をもらって出立しようとするアンドレは、エリックとは?と尋ねます。間男の名とのことでした。馬上のアンドレを見上げるステファンが下からとらえられます。複雑な感慨を抱いているかのように見えます。このあたりで、いささか物騒な振舞に出かねない人物と思われたこの執事が、けっこう重要な位置を占めているらしいとわかってきます。例によって男爵にせよアンドレにせよ、加えてエレーヌも、1つ事に囚われているのに対し、執事だけが微妙な距離感をもって関わっているわけです。『アッシャー家の惨劇』における執事が思いだされもしますが、あちらがもっぱら穏やかそうな人物だったのに対し、こちらは暗い部分を抱えているらしい。陰の主役と呼ぶにふさわしそうです。演じるディック・ミラー(リチャード・ミラー)はコーマン作品の常連で、『金星人地球を征服』(1956)や『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(1960)にも出ていた他、ポー連作では『姦婦の生き埋葬』(1962)で墓掘り人夫の1人を演じていました。[ allcinema ]や[ IMDb ]で見るとその後も長くけっこういろんな作品に出演していたとのことです。やはりコーマンの人脈だったジョー・ダンテが監督した『ハウリング』(1981)や『グレムリン』(1984)、『インナースペース』(1987)、『メイフィールドの怪人たち』(1989)、『グレムリン2 新・種・誕・生』(1990)などの他、『1941』(1979、監督:スティーヴン・スピルバーグ)、『ターミネーター』(1984、監督:ジェイムズ・キャメロン)などなど。
 もう1人、グスタフも訳知りのようですが、その立ち位置はまた同じではないように思われるのでした。演じるジョナサン・ヘイズはニコルスンやミラーも出た『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』で主演をつとめました。
 さて、海辺を騎馬で左から右へ進むアンドレに続いて、右からグスタフが現われます。鷹が空を舞っている。グスタフは下方のアンドレを見て、待てと手を振ります。そこへ鷹が襲いかかる。グスタフは目をえぐられ、崖から転落してしまう。アンドレが岩だらけの浜を駆けつけます。グスタフはいまわの際に彼女を助けてやれ、今夜だとかすれ声で言い残して事切れる。


 夜の礼拝堂へアンドレが戻ってくると、エレーヌが待っています。彼女は夜になると私は冷たくなる、死者を滅ぼさねばならないと言う。アンドレはいっしょにパリへ行こうと、礼拝堂の外へ出ます。青みがかった夜景です。馬を連れてこようと手を離し、しかすすぐに振りかえれば彼女はもういません。雷が鳴ります。
 アンドレは玄関から城内に入る。階段から下りてくる男爵が奥に見える。ここからはタイトル前に映されたシークエンスが反復されます。ただ合間合間にアンドレの姿が挿入される。扉を開けると死骸が飛びだす場面はなしです。また冒頭で映された時より暗く色が濃いように感じられました。気のせいかもしれません。恒例の地下下りでもあります。
 とまれ男爵は地下におりていき、画面手前を幅の広い半円アーチが縁取る中、向こうに石棺が2つ前後に置いてあります。手前の半円アーチは紫がかり、石棺は青緑を帯びている。石棺のさらに奥、左半は床から5段ほどののぼり階段になっています。これは紫がかっています。ここに男爵がいる。右に柱をはさんで左下から右上への階段が伸びている。こちらは緑がかっています。手前の左下には巻き上げ機が配されている。
 男爵は石棺の奥側にあるものの方へ行く。イルザの声がお前は一人じゃないと言う。男爵はわしがいる、ともに永遠の眠りにつこう、もうじきステファンがここを水浸しにする、2人は愛で封印されると続けます。「イルザ、どこだ?」 一方アンドレが階段をおりてくるさまが下からとらえられます。声:やるのよ。男爵:これだけはだめだ。声:私を見て。目を向けた先に半透明の姿で現われます。男爵:なぜ私を苛む? 声:やらなきゃいっしょになれない。アンドレは階段を駈けおり、誰だ?と叫ぶ。男爵を振り払い再び誰だと問います。


 寝室でステファンが男爵を介抱しています。横にアンドレがいる。アンドレはステファンに礼拝堂の鍵をくれと言います。2人は礼拝堂の奥へ進み、イルザの銘を嵌めた扉を開けようとしますが、錆びついて開きません。道具をとりに外へ出ると、ステファンが夫人の部屋に灯りを見ます。
 上からの広間です。2人は広間を横切り、階段をのぼってきます。この構図3度目の登場です。右上の階段を駆けあがるさまが下から見上げられます。この構図も以前おりてくるアンドレとともに出てきていました。突きあたりの壁に斜め格子の影が落ちた廊下を左奥から手前へ進み、カメラも右から左に動きます。左奥の角から出て手前へ、カメラの前を横切り、背を見せて右の扉へ向かいます。この廊下の連なりも以前の反復ですが、前は先に男爵の部屋がありました。今回は夫人の部屋ということになっています。扉の左の燭台は蠟燭が赤い。
 扉を突き破って中に入ると、男爵が現われこの男を追いだせと言う。男爵は「イルザ」と呟き、「私はここ」と答える声がありました。「あなたは私の命を奪った。今度はあなたの番」。


 屋外でステファンがアンドレに銃を突きつけています。ちょっと前にはアンドレといっしょに行動していたのが、今度は男爵に忠実です。矛盾というよりここはステファンの揺れを読みとりたいところです。雷が轟き、礼拝堂の前にエレーヌが立っている。ステファンとアンドレの格闘が始まります。ステファンを殴り倒してアンドレがエレーヌを追おうとすると、老婆に出くわします。宙を鷹が舞う。老婆の目的は復讐でした。男爵は息子のエリックを殺した。今夜男爵は自殺という罪を犯す。
 また正面から見られた広間の階段を男爵がおりてきます。構図は同じです。前回はガウンをまとっていましたが、今回は正装です。玄関からステファンが駆けこみ、止めようとするが殴り倒されます。男爵は隠し扉へ向かいます。
 ステファンは玄関に戻ります。出たところでアンドレに出くわす。すぐ後ろに老婆がいます。ステファンは20年前に死んだのは男爵の方で、エリックはその後の20年間、身も心も男爵になったのだと告白します。老婆は2人とも死んでしまうと叫ぶ。ステファンは海から墓所へ水路があると言います。
 ステファンとアンドレは玄関から格子戸へ急ぎます。奥を右へ曲がる。隠し扉は中から鍵がかけられている。ステファンを残し、アンドレは礼拝堂の方から入ろうとします。男爵が地下の廊下を右から左へ進む。アンドレは老婆も連れて行こうとしますが、老婆は信仰が違うので入れないと叫んで逃げようとします。と落雷に撃たれ、燃えあがってしまう。
 アンドレは礼拝堂のイルザの銘のある扉をこじ開けようとする。ステファンは隠し扉をやはりこじ開けようとしています。
 半円アーチが枠どりをなす地下墓所です。前回同様男爵は踊り場をおりてくる。色が前回より暗めのような気がしました。気のせいかもしれません。柩の蓋を開きます。背後に右上がりの階段が見える。中は紅の布に覆われた亡骸が入っています。声がヴィクターと呼びかけます。「海水を墓地へ」。
 ステファンが隠し扉をこじ開けることに成功します。階段をおりるさまが下から見上げられます。背後の壁は暗緑色をしている。上のアーチの向こうに階段が見え、そちらは赤みがかっています。カメラは下向きになる。
 男爵が巻き上げ機を回しています。屋外で海辺の滑車が回転するショットが挿入されます。水路の扉が上にあがり、水が流れこむ。
 声はヴェイルを取って私を見てと言います。その通りにすると、ミイラでした。とはいえ干涸らびたものというより屍蠟化しているように見えます。声は柩の中で腐っている私を見よと言う。半透明のエレーヌが現われます。私はイルザの霊、お前を闇の力に渡した、私は自由だ、エリックと言う。男爵あらためエリックは巻き上げ機を戻そうとします。それを阻止しようと駆け寄るエレーヌは実体化しています。格闘が始まります。
 流れこむ水、外で回転する滑車のショットがはさまれます。ステファンが階段をおりてきます。すっかり水浸しになった下方に飛びこみ、男爵=エリックから女を引きはがそうとする。ここでのステファンの行動はいかなる動機によるものなのでしょうか。
 一方アンドレは礼拝堂奥の扉をこじ開けることに成功し、右奥から手前へ、通路を走ります。壁は赤みがかっている。
 腰から下を水に浸かって3人がもつれています。水路は崩れ、さらに流れこむ水の勢いが増す。3人の上から天井が崩れだします。


 木で組みたてた櫓状の階段が下から見上げられます。これは『忍者と悪女』には出てこないもので、連作次回作の『怪談呪いの霊魂』(1963)でお目見えするものを思わせます。このあたりの先後はよくわかりませんでした。
 とまれアンドレは奥から現われ、右へ回ってから下へおりていきます。左下がりの墓所に通じる階段を駈けおり、水に飛びこみます。エレーヌを救いだし、彼女を抱えたまま右上への階段をのぼる。後の2人は溺れてしまったようです。
 エレーヌを抱いたアンドレは櫓の階段を右下から左上へのぼり、踊り場で折れる。また左上へ半階分ほどあがり、また踊り場です。その先に右上への段がある。この間にカメラは下向きから上向きに移行します。
 沸きたつ水流のショットを経て、かなり下から櫓が見上げられる。アンドレは上の方で右から左奥へ進む。


 エレーヌを抱いたアンドレは礼拝堂の外に出てきます。手前にY字状に枝分かれした木が立っている。カメラが右下に振られると、木の右下にアンドレがやってきて、根元にエレーヌをおろします。「終わった、君は自由だ」と言うと、「自由、アンドレ」と答える。口づけを交わすも、アンドレはぱっと身を引きはがします。エレーヌの顔が茶色い液体に覆われていく。この場面は昔TVで見て以来記憶にこびりついてしまいました。鷹の鳴き声が響き、アンドレが見上げると鷹が宙を横切ります。エレーヌの顔が髑髏と化してエンド・マークが出るのでした。結局エレーヌがいかなる素性なのか、あきらかにされないまま終わってしまったわけです。
Cf.,  ロジャー・コーマン、ジム・ジェローム、『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか-ロジャー・コーマン自伝』、1992、pp.140-150

The Horror Movies, 1、1986、pp.140-141
 2015/4/11 以後、随時修正・追補
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