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死体を売る男
The Body Snatcher
    1945年、USA
 監督   ロバート・ワイズ 
撮影   ロバート・デ・グラッス
編集   J.R.ウィットリッジ 
 美術   アルバート・S・ダゴスティーノ、ウォルター・E・ケラー 
 セット装飾   ダレル・シルヴェラ、ジョン・スターティヴァント 
    約1時間18分
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ 

DVD
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 タイトル・バックで夜空を背に、手前に円形の棟、背後にそれより少し背の高い方形の棟をそなえた城が黒々と浮かびあがります。開幕すれば昼間の同じ眺めです。背後の棟は左下が崖になっていることがわかります。画面左端は暗い陰の帯となってルプソワールの役割をはたし、城から手前は幅の広い橋のようになっているらしい。そこを馬車が奥から手前へ通り過ぎるさまが見下ろされる。この城が舞台かとわくわくせずにいられないところですが、残念ながらそうではない。昼間のカットには「1831、エジンバラ」とのテロップがかぶさり、実際この眺めはエジンバラ城の実景に即したものであるようです。冒頭の城は舞台がエジンバラであることを示すために挿入されたわけです。
 その後は古城が登場することもなく、超自然現象が起こるかどうかも微妙なところです。原作はロバート・ルイス・スティーヴンソンの短篇で、そちらでは結末の出来事は二人の人物によって証せられるのですが、映画版では目撃するのは一人だけなので、単なる幻と解しても支障はありません。とはいえ町の雰囲気や後に述べるある場面などが印象的だったので、手短かにとりあげることとしましょう。


 RKOでのヴァル・リュートン製作作品で、脚本もフィリップ・マクドナルドと共同で、翌年の『恐怖の精神病院』同様カルロス・キース名義のリュートン自身が手がけています。監督はやはりリュートン製作の『キャットピープルの呪い』(1944)に続いてロバート・ワイズ。後年『ウェスト・サイド物語』(1961)と『サウンド・オブ・ミュージック』(1964)でハリウッドの御用達監督として功成り名を遂げつつ、その間には『たたり』(1963)を撮っており、他にも『地球の静止する日』(1951)、『アンドロメダ…』(1971)、『オードリー・ローズ』(1977)など、出自に砂をかけない興味深い作歴を残しました。

 物語が始まって、まずは街中を移動しながら教会とそのかたわらの墓地にたどりつくのですが、この間も小塔がいくつもある建物など、セットは雰囲気を出してくれます。街中にせよ教会にせよ、この映画では概して黒っぽい建物が多く、それが全体の調子を統一しているかのごとくです。手もとのソフトで見るかぎり、『キャット・ピープル』(1942)にように明暗が強く対比されることもなく、その分強く影が浮かびあがることも多くはない。
 こうした調子は次に映る医師邸の場面でも変わりません。玄関から入って、いったん仕切った階段広間が階上から見下ろされます。画面上端にはゆるいアーチが連なって枠取りをなし、それを左端と中央あたりで柱が支えているのですが、この柱がまた黒光りしています。壁や扉の色も全体に黒っぽく、見ようによっては重苦しいと感じる向きもあるでしょう。
 一応の主人公が夜の街を、解剖用死体の供給者である馬車の御者の家へ向かう場面でも、石造りの壁が両側から押し迫ってきます。ところどころ階段や出入り口がのぞき、建物と建物をアーチが結んでいる。そこから歌売り娘が佇むわずかに斜めになった石垣の前を経て、さらに暗がりの方へ入っていく。本作ではこうした移動の場面が雰囲気醸成に少なからぬ役割をはたしているのではないでしょうか。
 酒場の場面では主人公たちが坐るテーブルの背後の天井に、放射状の梁が走り、すぐ背後に斜面らしき手すりのようなものが見えたりします。また全体が暗い中で影が目につく場面としては、御者の部屋で、壁に大きく太い網の目状の影が落ちていたり、医師邸の煉瓦積みの地下室へおりる粗末な階段が、下から光をあてられて、壁に影を映じるところが印象的でした。


 街路にもどると、左側に石造りの建物の壁、右にもやはり壁があって上の方に灯りがともっている。左右の壁をアーチが結んでいます。アーチの向こうはほぼ真っ暗で、右の壁付近が、わずかに奥からの光でうっすらと明るんでいます。手前からアーチの向こうへ、まず歌売り娘が進んでいき、少し間を置いて馬車が続く。双方アーチの向こうに消えて、画面はそのまま動きを示さない。歌売り娘の歌だけが響いてくるのですが、それがぶちっと途切れるのでした。この場面は本篇中の山場の一つと見なしてよいでしょう。

 医師のもとに解剖用の死体を供給する御者を演じたボリス・カーロフについてもふれておきましょう。原作ではほんの少し登場するだけの役回りですが、その設定を活かしつつ、大幅にふくらませてこの映画のすべてをさらってしまいます。この人物の動機そのものは、昔から死体を持ちこみ続けてきた医師をねちねちとからかうことで、おのが存在を確認するという、ある意味でいじましいものです。しかし映画を見ている間は、その存在感に圧されるばかりでした。きわめて愛想がよく、子供にも優しければ、またきわめて冷酷にもなるその人物造形は、ほとんど崇高とも呼びたくなるだけの現前感を誇っており、動機の矮小さなどどこかへ行ってしまうのでした。カーロフ大熱演の巻というべきでしょう。
 なお本作にはベラ・ルゴシも出演していますが、こちらは残念ながらちょい役です。とはいえ、カーロフ演じる御者に向かいあった際の、粗野でおどおどしたさまはなかなか悪くない。


 さて、物語は最後にエジンバラから離れて、近郊の村と山道を舞台にします。ここは原作に忠実に、雨が降りしきる中、末尾で登場するカーロフの姿は、全体に暗い調子が多かった中でここだけ白っぽい。いささか突飛かもしれませんが、『ツイン・ピークス』(1990-91、製作総指揮:デイヴィッド・リンチ、マーク・フロスト)冒頭でのローラ・パーマーのそれを思い起こさせるのでした。
Cf., Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.76-77

原著は Robert Lewis Stevenson, "The Body Snatcher", 1884
原作の邦訳は何種類かあるようですが、とりあえず;
R.L.スティーヴンソン、「死体盗人」、橋本槇矩訳、『夜光死体 イギリス怪奇小説集』(旺文社文庫 645-1)、旺文社、1980、pp.53-82
また
スティーヴンソン、「死骸盗人」、河田智雄訳、『スティーヴンソン怪奇短篇集』(福武文庫 ス0201)、福武書店、1988、pp.5-38

 2014/11/24 以後、随時修正・追補
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