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キャットピープルの呪い*
The Curse of the Cat People
    1944年、USA
 監督   ギュンター・フォン・フリッチュ、ロバート・ワイズ 
撮影   ニコラス・ムスラカ
編集   J.R.ウィットリッジ 
 美術   アルバート・S・ダゴスティーノ、ウォルター・E・ケラー 
 セット装飾   ダレル・シルヴェラ、ウィリアム・スティーヴンス 
    約1時間10分
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ 

VHS
*北島明弘責任編集、『ホラー・ムービー史』、1986、p.52 ではTV放映時の邦題として『幽霊屋敷の呪い』となっています。
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 RKOでヴァル・リュートンが製作した『キャット・ピープル』(1942)の続篇で、監督は替わりましたがやはりリュートン製作、脚本も同じドゥウィット・ボディーン、キャストはシモーヌ・シモン(イレーナ)、ケント・スミス(オリヴァー)、ジェイン・ランドルフ(アリス)と主役三人が続投、また前作でイレーナに「私の妹なのか?」と声を掛けたセルビア人女性役のエリザベス・ラッセルが、別の人物として、より重要な役柄で登場します。
 もっとも、前作のラストでオリヴァーは(日本語字幕によれば)全て本当のことだったんだと述べるのに対し、本作ではイレーナの事件はすべて暴走した想像力のなせるわざということになっています。お話の主調もかなり違っています。今回の主人公はオリヴァーとアリスの娘エイミー(当時8歳のアン・カーター)で、彼女が「お友だち」をイレーナと名指し、その姿が画面に映るのは、その写真を見、名前を聞いた後なので、これが超自然現象なのか、想像力のなせるわざなのかは、曖昧なままにとどめられています。タイトルには「呪い」とありますが、エイミーのもとに現われるイレーナに害意は感じられません。
 他方、前作では、普通に考えればもっともなのに、物語の上ではいい加減な奴としか見えないという損な役回りだったオリヴァーですが、今回も性格の設定は基本的に同じで、やはりとても鈍感なまま、しかしだからこそ最終的に赦されるという、影の主役的な位置を占めていると見なすこともできるでしょう。

 舞台は前回の都会から郊外に移り、その名も「眠れる谷(スリーピー・ホロウ)」です。首無し騎士の伝説もちゃんと劇中で言及され、それが後の場面の伏線にもなっています。
 前作では結婚してもイレーナのアパルトマンで同居していたオリヴァーで、その辺の事情はよくわからなかったのですが、その後独立したのかどうか、一家が住む家はまずまず普通のものなのでしょう。住みこみらしき召使いが一人いるのだから、それなりに経済的な余裕があるはずです。娘へのプレゼントとして船の模型を作ったりして、仕事も同じ方面で続けているようです。
 子供の足でも遠くない、そのすぐ近くに、こちらはなかなか雰囲気のある屋敷が建っています。まずは正面からとらえられるのですが、手前を区切る石の塀の向こう、中央の玄関部分から左右にひろがっています。玄関は三角のペディメントに大きく馬蹄形のアーチがえぐられ、その奥に扉がある。扉には地面から階段を数段のぼる形です。玄関一式の真上、二階部分も同じ馬蹄形アーチがえぐってあり、その奥に窓があるのでしょう。左翼の端は六角形の塔になっています、右翼は少し伸びて、奥につながっているようです。
 次いで前庭に入ったところから、見上げる形で映されるのが、三角の破風とその上にそびえるやはり六角形らしき塔です。細部は玄関や左翼の塔とはちがっているように見えます。破風の下には小さな円形の窓らしきものがあり、その下に窓と手前の手すりがあるのですが、左半分は凹んだ位置に、右半分は少し前に出ています。塔は上の方で窓か何かが周囲を巡っているようです。この下からのショットはけっこう迫力があり、後のロジャー・コーマンの一連のエドガー・ポーものや(→こちらを参照)、ワイズの『たたり』(1963)などでの対応するショットが連想されるところです。
 なお、この屋敷のことをエイミーは'old dark house'と呼び、両親も同じ言い回しをくりかえします。〈オールド・ダーク・ハウス〉は『魔の家』(1932)の原題でもあり、当の作品も含めて、〈オールド・ダーク・ハウス〉ものなる範疇があるとのことは、そちらのページでもふれました。ここでそうした事情が意識されているのか、あるいは日本で「お化け屋敷」という時のように日常的に使われる言い回しなのかどうかはよくわかりませんが、とまれ本作品をとりあげるのも、この屋敷が登場するからにほかなりません。

 2度目の訪問では屋敷の中に入ります。玄関から見て左側に2階へ階段がのぼっており、1階の床に接するところの半柱は、左右とも上にクピドーらしき像をのせています。突きあたりはいったん半円アーチで区切られ、その向こうに女性の彫像をおさめた壁龕がのぞいています。
 階段はすぐ奥に、下へおりる部分が続いており、エリザベス・ラッセル扮する女性がそこをおりていく時、壁に2階への階段の手すりとは逆向きになった、手すりの影が落ちています。
 次いで階上から見下ろす形で玄関広間が映される。階段の向かいは壁で、その前にエイミーが待つよう言われた椅子、その左隣には柱時計が置いてあります。さらに左奥はカーテンで仕切られており、エイミーが入りこめば、そこは居間なのでした。古めかしい屋敷のさまに似合った、古めかしい調度がそろっています。
 また後の場面で、玄関のすぐ脇に大きな鏡が設置されていることがわかります。玄関の扉に手をかける人物が二重像になるのでした。


 映画の前半ではそうでもないのですが、中盤あたりから光や影の役割が強調されるようになります。イレーナの幽霊(?)が現われると、庭や夜の窓が明るくなったり暗くなったりする。また庭に面した戸口には斜め格子の影が落ち、オリヴァーがエイミーを2階に連れてあがる時も影が目立っています。
 イレーナがエイミーに別れを告げる場面では、ベッドの手前にエイミー、向こう側にイレーナが立つ。イレーナは逆光気味にとらえられ、この世ならぬ雰囲気を放っています。エイミーが取りすがろうとベッドを回っていくと、さらに手前にある椅子の背が大きく画面をふさぎ、その向こうを通り過ぎた時にはイレーナの姿は消えているのでした。この場面は柔らかい光に浸されています。

 お話は雪の夜にさまよいでたエイミーと彼女を探す両親、教師たちを描いた後、件の屋敷でクライマックスを迎えることになります。
 屋敷内で画面に映ったのは結局、玄関広間と居間の二部屋だけでした。広間の階段から下におりれば地下になるはずですが、そこはどうなっているのか。クライマックスであがらずじまいになった2階はどんな風なのか。外観で見えた二つの(?)六角塔はいかに。以上は描かれないままですが、二つの部屋と外観のかもす雰囲気をもって、よしとするべきところなのでしょう。

おまけ Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, pp.249-250

上でふれたスリーピー・ホロウと首無しの騎士の伝説については;
W.アーヴィング、吉田甲子太郎訳、「スリーピー・ホローの伝説」、『スケッチブック』(新潮文庫 ア 22-1)、新潮社、1957/2000、pp.192-243

原著は Washington Irving, "The Legend of Sleepy Hollow", The Skettch Book, 1819-20
『スケッチブック』の原著は32篇の物語とエッセイを含んでいるとのことですが、新潮文庫版はその内12篇を邦訳したもの。手もとにある版は映画
『スリーピー・ホロウ』(1999、監督:ティム・バートン)
の公開に合わせたもので、カヴァーの袖に映画版のスティールが掲載されています。

 2014/11/22 以後、随時修正・追補
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