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キャット・ピープル
Cat People
    1942年、USA
 監督   ジャック・トゥルヌール(ターナー) 
撮影   ニコラス・ムスラカ
編集   マーク・ロブソン 
 美術   アルバート・S・ダゴスティーノ、ウォルター・E・ケラー 
 セット装飾   A・ローランド・フィールズ、ダレル・シルヴェラ 
    約1時間13分
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ 

VHS
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 RKOでヴァル・リュートン(1904–1951)が製作した一連の作品の第1弾。古城が登場するわけではありませんが、素敵な階段は出てきます。またこの頃の怪奇風味の映画では概して、壁などに落ちる影がしばしば強調されますが、この作品はやはりリュートン製作の『恐怖の精神病院』(1946)ともども、その最たるものといえるかもしれません。影を強調するために光源は真横に近い角度か、場合によっては下から当てられているように見えることが少なくありません。その分明暗の対比も強い。加えて本篇では、カメラが壁などに対して少しだけ斜めに構えられているようなショットが一度ならず見受けられました。もっともこれらの点は、原版となったフィルムの状態やモニターの設定に左右されるところ大でしょうし、そもそもそれを見る当方の目がいっとう信用をおけないことは言わずもがな、そうした条件のかぎりでという話ではありますが、とりあえずかっこうよかったと思われた点をいくつか記しておきましょう。

 街中にある公園だか動物園の黒豹の檻の前で出会ったヒロインと会社員は連れだって、ヒロインの住む部屋のあるアパートにやってきます。こんな建物に入ってみたかったと会社員が言うだけあって、玄関広間から階段につながる空間はけっこう豪勢です。カメラは少し斜めになっています。階段は床に接する部分で幅が両脇にひろがっており、両端の小柱には箱状の柱頭がのっています。踊り場から右に折れて、上にあがっていくのですが、踊り場の奥の壁にも手すりがあるかのように見えます。
 部屋の前まで来ると、扉にアーチ状の窓とその桟の影が落ちています。室内に入る際も、カメラは少し斜めに映します。おしゃべりを交わす内に日も暮れかけて、室内は薄闇に浸される。手前にランプと騎馬像、奥にカーテンのかかった窓が、逆光の暗がりの中で明暗を強く対比されています。カメラが後退すると、壁によりかかるヒロイン、次いで手前に坐る会社員が映ります。ヒロインにあたる光は横か下から当てられているかのごとくです。暖炉の前から扉の方へ進む際は、影がひときわ濃くなっています。
 部屋から出た会社員も、手すりともども扉に濃い陰を落とします。階段をおりる会社員をヒロインが手すりから見送るのですが、その高さからすると部屋は2階ではなく3階にあるようです。玄関広間では床と壁をそれぞれ、様式化された花模様が覆っています。なおこの階段は、クライマックスでも舞台を提供することになるでしょう。

 ところかわって会社員がつとめる造船会社の事務室。ここも再三登場することになりますが、吹き抜けで右の方は中2階とその下の空間に分かれているようです。左側では図面か何かを貼りつけるための壁があって、その左右に脚立を立て、それぞれに人がのぼって作業しています。この場面では二組の脚立と人物に加えて、その影も壁に落ちていて、一見するとどちらが実物でどちらが影か判別しがたいほど錯綜するさまに、しびれずにはいられません。指示を出すもう一人のヒロイン、アリスが右手で背を向けています。やはりカメラは少し斜めでした。

 ヒロインと会社員は結婚するのですが、居間で二人が会話する際、またその後のヒロインと精神科医との会話の場面などでも、明暗の対比は強調され、またカメラはしばしば斜めになっています。会話する人物それぞれを前からとらえるカットが交互に切り換えられるのですが、それぞれのショットで影は濃い。精神科医の問診の場面では、ソファにもたれるヒロインを上から見下ろし、壁には窓の十字の桟の影が落ちているのですが、ヒロインのからだの前面にも影がかかっていました。壁の左側は暗いひろがりとなっています。
 ヒロインと医師のショットについては、後の場面で、少し奥にいるヒロインに対して、医師の顔が異様に大きく映されていた点も気になるところです。
 後にアリスと精神科医がホテルのロビーで会話する場面では、二人の間にランプ・シェイドのようなものがいくつも影を落としています。これは植物の葉のようです。またこの場面では、奥の方にフロントがあり、訪れた女性の黒服と対応する受付員の白いブラウスとの対比が印象的でした。後半でヒロインがもっぱら黒い服をまとう点からして、衣装の選択にあたっても明暗の設計が配慮されていたと見なせそうです。

 話を戻すと、アリスが帰宅しようと退社する場面では、向かって右側に石垣がずっと続いています。間隔を置いて街灯が設置されているのですが、そのため明るい部分と暗がりが生じることになる。まずはアリスと彼女をつけるヒロインが奥から手前に出てきて、それから石垣と平行に左から右へ進みます。歩みはけっこう速い。次いで二人の足もとだけが映され、また全身で、その後アリスだけになる。上下を縦断する街灯をはさみつつ、光のあたるところと暗がりも画面全体に及びながら交互に現われ、暗い時はほとんど真っ暗になってしまいます。ここが第一の山場でした。

 第2の山場は屋内プールです。ロッカー室で灯りを消すと、戸口の向こうだけが明るくなります。そちらには上からおりてきた階段がのぞいていて、壁に手すりの影が落ちています。この眺めは独立したショットにまで昇格する。踏面は明るく、蹴上げは暗い。手すりの影はずいぶん大きい。手前にガラス扉があるのでしょう、細い白の格子によって区切られています。両脇は暗い面のひろがりです。
 怯えたアリスはプールに飛びこみます。壁一面にゆらゆらと揺れる水影が、明るく、暗く波打ちます。壁は上半分が明るく、下半分がやや暗いというものです、昇降用梯子の手すりの影が大きく映っています。立ち泳ぎするアリスをカメラは上から見下ろし、画面は水面で占められる。安定感を脱臼させようということなのでしょう。


 居間でソファにつっぷすヒロインを映した場面でも、明暗の配分はかっこうがいい。ヒロインは黒服をまとっており、部屋を出る夫の影が彼女の上を横切ります。また夫、アリスと医師が部屋を出る場面でも、灯りを消した途端、影が浮かびあがります。
 とこうして第3の山場、今度は会社です。夜で灯りは必要ものだけにかぎられており、影と面の交錯がきわめて錯綜しています。やはり光は横か下から当てられているかのようです。
 壁に定規が並べてかけてあり、その間に三角定規の、こちらは影だけが映っています。忍び寄った黒豹に夫が定規をかざせば、床に十字架の影が落ちるのでした。
 黒豹は退散したのか、沈黙が漂います。左に寄せて夫とアリス、画面の大半を壁が占め、掛け金具が規則的に配されている。壁は明るく照らされ、画面の縁は暗い。下方にのぞくテーブルの上面が反射のせいか、やはり明るい。カメラはここでも少し斜めでした。
 二人は大丈夫そうだと、事務室を出てビルの1階玄関広間に急ぐ。以前の場面で、事務室の壁に放射状の円弧と直線の影が映っていたのですが、事務所を出た空間の柱の脇で、放射状の線を伴なう楕円だか長円を上下に重ねた影が落ちています。さらに右の方では明るい部分、半明の部分、半暗の部分が配されている。
 事務所の階から1階への階段では、まず二人の影だけが映り、次いで実体が現われます。1階には先の楕円だか長円の実物があり、半分になったその影も見えます。
 向かう先は出口で、柱をはさんで左に回転ドア、右にエレヴェイターの扉が見えます。カメラは上から手前の床も大きくとりながら少し斜めにとらえる。やはり明暗の区分が空気の感触を伝えます。そんな中、回転ドアがゆらりと回っている。たまりません。


 第4の山場はヒロインのアパートで展開します。駆けつけた夫とアリスは、まず始めの方で登場した階段をのぼります。踊り場の奥の壁にも手すりがあるように見えたのが、踊り場の手前に、短く水平の手すりが渡されていて、その影が壁に映っていたことがわかります。また床に接する小柱の下部分は捻り柱なのでした。
 カメラは階段のより正面寄りに移ります。手すりの柱がいずれも白く輝いています。階段下、手前の壁には大きな壺状の影が、また階段上の壁には波打つ影が映っている。
 さらに上階にあがると、手すりの曲がる部分に設けられた小柱には、頂きの部分からさらに細い柱が上の方へ伸びています。光は下から当てられているのでしょう。壁に手すりの影が大きく浮かんでいます。夫とアリスが上階へ急ぐ一方、ヒロインは物陰に隠れてやり過ごし、階段をおりていくのでした。


 映画の冒頭が公園だか動物園の黒豹の檻の前から始まり、アパートの階段に移ったのを反転するかのように、物語の結末はアパートの階段から公園だか動物園の黒豹の檻の前に戻ります。冒頭は明るい昼間でしたが、結末は夜、しかも霧で白く微光を放っているのでした。
Cf.,  美術監督をつとめたアルバート・S・ダゴスティーノとウォルター・E・ケラーはRKOのヴァル・リュートン製作作品では他に;『私はゾンビと歩いた!』(1943)、『キャットピープルの呪い』(1944)、『死体を売る男』(1945)、『吸血鬼ボボラカ』(1945)、『恐怖の精神病院』(1946)などに続投しました。
またダゴスティーノはこれ以前にユニヴァーサルで;『大鴉』(1935)、『倫敦の人狼』(1935)、『透明光線』(1936)、『女ドラキュラ』(1936)を、
同じくRKOで;『偉大なるアンバーソン家の人々』(1942)、『らせん階段』(1945)、
などに携わっています。

マーク・ジャンコヴィック、『恐怖の臨界 ホラーの政治学』、1997、pp.90-99

デイヴィッド・J・スカル、『モンスター・ショー 怪奇映画の文化史』、1998、pp.253-256

スティーヴン・キング、安野玲訳、『死の舞踏 ホラー・キングの恐怖読本』、バジリコ株式会社、2004、pp.230-234
原著は
Stephen King, Danse macabre, 1981
同書から→こちらでも挙げています

岡田温志、『映画は絵画のように 静止・運動・時間』、2015、pp.63-66

José María Latorre, El cine fantástico, 1987, pp.137-164 : "Capítulo 10 Los años 40 y retrato de Jacques Tourneur", "Capítulo 11 Entre panteras y zombies"

Jeremy Dyson, Bright Darkness. The Lost Art of the Supernatural Horror Film, 1997, pp.97-122

Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, pp.225-228

Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.66-67

一応の続篇にあたる『キャットピープルの呪い』(1944)について→こちらを参照
おまけ  David Bowie, Let's Dance, 1983(邦題:デビッド・ボウイ、『レッツ・ダンス』)
のB面3曲目に
“Cat People (Putting out Fire)”(邦題「キャット・ピープル」)
は、もともと再製作版『キャット・ピープル』(1982、監督:ポール・シュレーダー)の主題歌(作曲:ジョルジオ・モロダー、詞はボウイ)とのことです。

こちらも参照

 
 2014/11/22 以後、随時修正・追補
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