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大鴉
The Raven
    1935年、USA 
 監督   ルイ・フリードランダー(ルー・ランダース) 
撮影   チャールズ・J・ステューマー 
編集   アルバート・アクスト 
 美術   アルバート・S・ダゴスティーノ 
    約1時間1分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ 

DVD(『アメリカン・ホラー・フィルム・ベスト・コレクション vol.1』(→こちらを参照)より)
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 前年の『黒猫』に続いて、ユニヴァーサルが製作したベラ・ルゴシとボリス・カーロフ共演、エドガー・ポーに基づくとされる作品です。ポーの「大鴉」(1845)に示唆されたとクレジットされますが、お話は詩である原作をなぞるものではありません。とはいえまったく別物だった『黒猫』とはちがい、ルゴシ演じるヴォリン博士はポーに傾倒しており、博物館が欲しがるようなポーのコレクションを所蔵しているという設定で、始めの方で「大鴉」を暗誦してみせますし、舞踏家であるヒロインは「大鴉」の朗読にあわせた一幕を演じるといった次第です。冒頭で事故が起こり、その被害者を天才的な医師である博士が手術で救うところから話が始まるという点では、同じ年の『狂恋』に通じるところもあります。
 ルゴシは目を細め口の両端を吊りあげながら幾度となく哄笑する狂気の医師を演じています。カーロフ扮するベイトマンはおのが醜貌に悩まされてきたという設定で、当たり役のフランケンシュタインの怪物が思い浮かばずにはいません。わけても、うなりながら暴れる時などにこれは著しい。また、感情に呑みこまれて凶行に走った過去を有し、実際手術後にその片鱗を示しつつ、一方で博士との駆け引きを通じ、他方でヒロインとの接触によって、微妙に変化していくことになります。
 他方、ヴォリン博士がベイトマンを操ろうとする場面では、『吸血鬼蘇る』(1943)における吸血鬼と人狼、『凸凹フランケンシュタインの巻』(1948)などにおけるドラキュラ伯爵とフランケンシュタインの怪物等との関係を先駆けていると見なすこともできるかもしれません。もっとも『黒猫』同様、本作品では超自然現象は起こらないので、やっぱり一番怖いのは人間だという話に落ち着いてしまうのですが。

 主な舞台となるのは博士の屋敷です。博士が「大鴉」を暗誦している際には、壁に大きな鴉の影が映っています。これは机の上に置かれた剥製によるものなのですが、後の場面では博士に手術を依頼するべく駆けつけた判事の影が横に並んだりします。
 執事が電話に応対する場面では、電話をおいた棚のすぐ上に大きな鏡がかけてあります。その額は蔓が巻きついたかのような飾りが施されており、右脇にギザギザした影を落としています。鏡には階段が映っていて、その上の壁には女性の肖像画がかけてある。階段は裏側が見えていて、格子状の板貼りとなっています。
 この階段は玄関から伸びる廊下の先にあるのですが、手術後の場面で映る居間の戸口からも見えています。居間は戸口側が少し高くなっていて、奥の方と段差がある。段差の部分には左右に仕切りが設けられています(最初映るのは右側だけ)。ゆるいアーチを描く上端部分、上半は縦棒が連なり、下半は腰板となります。アーチ部分や端の柱には浮彫が施されているようです。居間の奥の側は暖炉や椅子が置かれているのですが、入口側の突きあたりにはオルガンがあります。
 カメラは縦棒の格子越しにオルガンを奏でる博士をとらえたかと思えば、引いて手前のソファに腰掛けるヒロインを映し、さらに後退して戸口の奥の階段を見せたりします。立ちあがる博士は下から、腰掛けるヒロインは上からとカットが切り換えられる。


 ヒロインがポーに捧げた舞踏を披露する舞台では、正面少し奥に数段高くなったところが設けられ、その左右にいやに背の高い燭台らしきものが控えています。中央には縦長の大きな窓があり、向こうにねじくれた木が見えている。窓の左右は舞台の両端まで暗色のカーテンで覆われています。右端に朗読者とその机、左端には上に丸窓をいただく大きな扉があるのでした。

 屋敷に戻れば、書斎には隠し扉があります。腰の高さまで本棚が横にひろがり、肖像画をかけた壁があるのですが、肖像画とその下の本棚あわせて、分厚い回転扉になっているのです。スイッチは机の引出の中にありました。ちなみに本棚が天井まで伸びている壁もあって、端は捻り柱です。
 隠し扉の奥でまず映されるのは手術室です。戸口付近は石積みの壁ですが、画面奥にあたる部分はカーテンに覆われています。カーテンは一連なりではなく、六面ほどに分かれていて、全体でゆるやかな多角形をなしているようです。おのれの顔の異状を確かめようとベイトマンがカーテンを引けば、六面全てに鏡が貼られている。怒り狂ったベイトマンは鏡全てに銃弾を放ちます。そのさまを博士は、天井付近にある覗き窓から見ているのでした。覗き窓には装飾的な格子がはまっています。


 居間の仕切りの格子越しに、階段とそちらから進んでくるベイトマンをとらえたカットを経て、屋敷の外観が映されます。これは模型らしく、嵐の吹き荒れる夜、右側に塔状に高くなった方形の棟、その左に少し低く、また少し奥まって本棟がが伸びています。本棟2階あたりには半円アーチの窓が横に並び、塔状の部分のやはり2階あたりには、左からだんだん高くなる細長い窓が三つ見えます。
 次いで客たちを案内して2階の廊下が正面からとらえられます。画面両脇にはカーテンが縛りつけてある。天井は奥の方へ二つのゆるいアーチによって区切られており、突きあたりにはカーテンに覆われた窓があります。アーチの間ごとに部屋へ通じる扉があり、左側2つ目の区画では、さらに上の階にあがる螺旋階段がちらっと覗いています。この廊下を客たちは、手前から奥の方へと背を向けながら進んでいきます。


 博士はベイトマンを伴なって隠し扉の奥へ向かう。まずは地下におりる階段が正面から映されます。石造りのひずんだアーチが枠どりをなし、突きあたりはかなり天井の高そうな踊り場です。右上からやってきて、踊り場で折れ正面を手前におりてくる。右上でわずかに奥からの光が漏れています。突きあたりの壁は上の方で段になっており、左に寄せて格子のはまった窓が見えます。右の方は蜘蛛の巣に覆われている。ここを降りてくる博士とベイトマンを、カメラは下からとらえます。いやいやたまりません。この階段は後に救出メンバーが通過することになります。
 階段をおりた先は、やはり徐々に下りになっていて、天井に半円アーチをいただきつつ、水平部分がしばらく続き、数段さがってまた水平部分というパターンが何度かくりかえされる。ここには鉄の処女を始めとする拷問具が随所に配されており、博士は「拷問博物館」と呼んでいます。
 一番奥らしき部屋はかなり天井が高く、向かって右の壁は上の方で前傾しています。奥には半円アーチの出口だか壁龕があり、左手にも戸口があるようです。左側の壁の高い位置に燭台が設置されています。中央の床には白っぽい石の台が置かれ、右側、頭の方に燭台が二つ置かれている。台の真上には天井から棒状のものがおろされていて、これはポーの「陥穽と振子」(1842)の装置を実現したものなのでした。
 寝台に横たわって振子が揺れるさまを見上げるカットが何度か映され、天井付近の石壁はゆるく湾曲しているようでもあれば、振子の影は壁に落ち、また装置付近にも何本か斜線の影が走っています。


 婚約者と替わってもらってヒロインが寝ていた部屋には、床に揚げ戸があります。嵐で窓を木の枝が突き破ったため結局もとの部屋に戻るのですが、この部屋全体がエレベーターになっていて、地下にくだるのでした。地下に着いた際には、向かって左側に黒服の博士が背を向け、その両脇には暗めの装置と壁がある一方、ヒロインのいる室内は明るく、その明暗差のためでしょう、室内が妙に映像内映像のように感じられるのでした。

 ヒロインの悲鳴を聞きつけた婚約者は書斎の隠し扉まで追いますが、間に合わず、開け方がわからない。そこで同宿の客たちを呼びます。1階の階段広間から、階段を経て2階廊下の入口を見上げるかっこうで、このカットが空間の分岐を感じさせてくれます。階段は右の方でいったん右上にあがり、すぐに踊り場を経て左上にあがり吹き抜け前の廊下となる。階段から廊下まで手すりが続いています。2階、吹き抜け前の奥が廊下に続いており、両脇にカーテンがくくりつけられています。さらに手前にはシャンデリアらしきものが見える。その下の1階部分も奥に続いていて、手前の部分は上がゆるい台形をなし、その向こうに格子天井が少し、さらに向こうにアーチが二つ見えます。

 応援が駆けつけるも隠し扉は開かず、電話も切られている。とこうする内に、なぜか隠し扉が回転します。まずは廊下が映ります。隠し扉は右奥にあり、石積みの壁が続く。壁には燭台がつけられています。天井は例によって二つのアーチで区切られているのですが、角度のせいか、アーチは平行しているというより、左の方で近づいているように見えます。明暗の配分が雰囲気を出してくれているところです。奥から手前へ婚約者が走ります。
 廊下に次いで、先にも映った階段をおり、拷問博物館の部分にやって来ました。その先には振子の部屋、ヒロインの父である判事が縛りつけられています。ベイトマンと取っ組みあいながら、もとの方へアーチを三つ越えて戻ってくる。位置関係がやや曖昧なのですが、こちらには装置、エレベーター部屋、そしてもう一つの部屋の扉が並んでいます。手前左側にも別の階段がのぞき、右手前では壁から湾曲した燭台が突きでています。かくしてクライマックスを迎えるのでした。


 例によって勘違いを一つ。この作品は大昔、ユニヴァーサルの怪奇映画をTV放映していた『ショック!』という一時間枠の番組で見たことがあり(1964年(?)、テレビ朝日系とのこと→こちらを参照)、それ以来ずっと、他の部分はまるっきり忘れていたのですが、ラストでベイトマンは博士を無理矢理壁の迫る部屋に引きずりこんで、運命をともにしたのだと思いこんでいました。見直してみればあにはからんや、博士に撃たれたベイトマンは、博士を部屋に押しこんだ後、必死に装置までたどりつき、スイッチを入れて力尽きるのでした。たしかにスイッチの操作という点でこちらの方が筋は通っています。
 ところでエピローグ部分で、ベイトマンが命をはって自分たちを助けてくれたというヒロインに対し、婚約者の医師は、(日本語字幕によると)僕がもう少し優しい顔に作り直そうと言います。とどのつまりベイトマンは生き延びたのでしょうか?

Cf.,  アルバート・S・ダゴスティーノが美術を担当した作品としてユニヴァーサルでは他に;『倫敦の人狼』(1935)、『女ドラキュラ』(1936)、
またRKOのヴァル・リュートン製作作品ではウォルター・E・ケラーと共同で『キャット・ピープル』(1942)などなどに携わっています→こちらも参照

デイヴィッド・J・スカル、『モンスター・ショー 怪奇映画の文化史』、1998、pp.225-226

北島明弘、『映画で読むエドガー・アラン・ポー』、2009、pp.63-66


Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, pp.155-156

タイトルのもとになったポーの詩の邦訳は;
福永武彦訳、「鴉」、『ポオ全集 3』、東京創元新社、1970、pp.142-148
原著は
Edgar Allan Poe, "The Raven", 1845

また博士の拷問装置の一つに関して言及される短篇は;
田中西二郎訳、「陥穽と振子」、『ポオ全集 2』、東京創元新社、1970、pp.245-263
原著は
Edgar Allan Poe, "The Pit and the Pendulum", 1843

「鴉」はやはりタイトルだけですが
ロジャー・コーマンの『忍者と悪女』(1963)としても映画化されています。


「陥穽と振子」は
やはりロジャー・コーマンの『恐怖の振子』(1961)
さらに
吸血魔のいけにえ』、1967、監督:ハラルト・ラインル

「陥し穴と振り子」(1983、監督:ヤン・シュワンクマイエル、短篇・『シュワンクマイエルの不思議な世界』(VHS)所収)

『ペンデュラム/悪魔のふりこ』(1991、監督:ステュアート・ゴードン)


なおポーについては→「viii. エドガー・アラン・ポー(1809-1849)など」(<「ロマン主義、近代など(18世紀末~19世紀)」<「宇宙論の歴史、孫引きガイド」)も参照

ちなみにやはり"The Raven"を原題とするのが;
『推理作家ポー 最期の5日間』、2012、監督:ジェイムズ・マクティーグ
です。邦題からもうかがえるようにこちらもお話は独自のもので、「陥穽と振子」を始めとしてポーのいくつかの作品に由来するイメージが登場します。

おまけ  こちらでも挙げた;
The Alan Parsons Project, Tales of Mystery and Imagination. Edgar Allan Poe, 1976(邦題:アラン・パーソンズ・プロジェクト『怪奇と幻想の物語~エドガー・アラン・ポーの世界』)
のA面2曲目が
"The Raven"(「大鴉(レイヴン)」)でした。

  また関係あるのかどうか;
ストロベリー・パス、『大烏が地球にやってきた日』、1971(1 →こちらも参照
の最後に収められたタイトル曲(英題は "When the Raven Has Come to the Earth" )。風の音とフルートをフィーチャーした器楽曲です。 

1. ヌメロ・ウエノ、たかみひろし、『ヒストリー・オブ・ジャップス・プログレッシヴ・ロック』、マーキームーン社、1994、pp.118-119。大鷹俊一監修、『ヤング・パーソンズ・ガイド・トゥ・プログレッシヴ・ロック』、音楽之友社、1999、p.216。舩曳将仁監修、『トランスワールド・プログレッシヴ・ロック DISC GUIDE SERIES #039』、シンコーミュージック・エンターテイメント、2009、p.158。
 
 2014/12/1 以後、随時修正・追補
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