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吸血魔のいけにえ *
Die Schlangengrube und das Pendel **
    1967年、西ドイツ 
 監督   ハラルト・ラインル 
撮影   エルンスト・W・カリンケ、ディーター・リファート 
編集   ヘルマン・ハラー 
 美術   ガブリエル・ペロン、ロルフ・ツェートバウアー 
 セット装飾   ガブリエル・ペロン 
    約1時間20分*** 
画面比:横×縦    1.66:1**** 
    カラー 

VHS
* TV放映時の邦題。手もとのソフトの邦題は『ドラキュラの生贄』
** 手もとのソフトは英語版。英題は Blood Demon。ただしソフトのカヴァーでは Castle of the Walking Dead
*** [ IMDb ]による。手もとのソフトでは約1時間14分
**** [ IMDb ]による。手もとのソフトでは1.33:1
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 この作品は大昔にテレビで放映されたのを見たという憶えがあるのですが、むしろ後で読んだ下掲の須永朝彦『血のアラベスク』で評価されていたのが印象に残りました。VHSで見たのはさらにその後でしょう。ただ手もとのソフトは画質芳しからず、原版がそこそこ褪色しているようでもあり、その際は必ずしもピンと来なかった。あらためて須永の評をひっぱりだして見ると、「筋の展開にもとりわけて珠色は認められません」とちゃんと書いてある(p.172)。しかし続けて曰く、「この映画の魅力は、伯爵の本拠地が城というより地下の洞穴を思わせる上に迷宮めいており、そのセットが美術的に傑れているところにあります」(同上)。今回見直してみれば、画質の粗さに加えて、セットも必ずしも資金潤沢とはいいがたいものの、たしかになかなか面白がれるだけのものはあるような気がしたことでした。

 地下城とそこにいたる森もさることながら、その前段で舞台となる街の眺めも、なかなかに捨てがたい。 [ IMDb ]によるとミュンヘンのスタジオ以外にロケ地として、同じバイエルン州のイーザル渓谷 Isartal, Bayern、同じくローテンブルク・オプ・デア・タウバー Rothenburg ob der Tauber, Bayern、そしてノルトライン=ヴェストファーレン州オストヴェストファーレン=リッペ地方のリッペ郡デトモルト市 Detmold, Nordrhein-Westfalen が挙げられています。Google の画像検索で見ると、映画の街景はローテンブルク・オプ・デア・タウバーを撮ったものではないかと思われます。また日本語版ウィキペディアの「デトモルト」のページ(→こちらを参照)に掲載されている「隣の市ホルン=バート・マインベルクのホルツハウゼン=エクステルンシュタイネ地区近郊に」あるエクステルンシュタイネ Externsteine が本篇中約18分弱で現われる奇岩のようです(→こちらも参照、とりわけ「自然文化財」の項)。

 レギュラ伯爵に扮したクリストファー・リーは、しかしプロローグ部分の後、約49分になってからの再登場です。髪は後ろではなく横に撫でつけています。一応の主役をつとめるレックス・バーカーは1940年代末から50年代初頭にかけてのターザン役者だったという。ヒロイン役のカリン・ドールは目のぱっちりした細面の美人さんですが、当時ラインルの夫人で、その監督作に数多く出演しているそうです(下掲 The Christopher Lee Filmography, 2004, p.172)。
 なお本作はポーの「陥穽と振子」(1842)に基づくとクレジットされています。原題の Schlangengrube は手もとの独和辞書によると「毒蛇の穴(危険が待ち受けている所)」、 Pendel は「振子」の意で、映画中には文字どおりの「毒蛇の穴」も登場します。ただしお話はコーマンの『恐怖の振子』(1961)同様、原作とは似ても似つかぬものでした。

 半円アーチの連なる狭い廊下から本作は始まります。岩壁で、薄暗い。幅もあまりない。看守らしき人物を先頭に数人が連れだって進んでくる。内一人は、顔まで覆う尖った赤い頭巾に上半身は裸、筋肉隆々です。幅の広い黒のベルトを締め、赤いタイツをはいている。『惨殺の古城』(1965)が思いだされるところですが、死刑執行人のこういった装束というのは歴史的な根拠があるのでしょうか。やはり顔を隠す黒頭巾の人物も二人います。こちらは白シャツです。途中で一度折れ曲がる。
 監房です。中には蒼白いクリストファー・リーことレギュラ伯爵が収監されている。くるくる巻き毛の鬘をつけた人物が12人殺したという罪状、そして刑を宣告します。少なくとも日本語字幕では年代は出てきませんでしたが、下掲 The Christopher Lee Filmography, 2004 の梗概によると、17世紀とのことです(p.172)。赤頭巾の執行吏が金色の仮面を手にしています。内側は棘がいくつも生えている。これを伯爵の顔にかぶせるのでした。その前に伯爵が裁判官に呪いを吐く点と合わせて、『血ぬられた墓標』(1960)そのままです。ただし大きな槌で打ちつけた『血ぬられた墓標』とは異なり、ここでは黒頭巾が二人がかりで顔に押しつけます。いずれにせよ厭な感じに変わりはない。ただそのせいかどうか、伯爵は刑場まで自分の脚で歩いていきます。
 監房から出て仮面をつけた伯爵を囲む一行は廊下を手前へ、カメラは後退する。右に曲がり、先でまた右へ、カメラはそれを追います。背を向けた状態ですぐまた右へ曲がる。前向きになって左奥から出てきて、手前へ、カメラはまた後退します。そのまま左へ、カメラもそれを追います。また左へ、次いで右へ。おそらく同じセットをぐるぐる回っているのでしょう。後半で出てくる地下城のセットも同じものかもしれません。ともあれこの廊下巡りだけで、この映画は許容されるべきものとなったといってよいでしょう。

 鐘楼の鐘が鳴ります。カメラは右下へおりてゆく。石畳に覆われた街の広場です。まわりは塔も聳える古い街並みでした。高い建物の破風は階段状になっている。先に触れたローテンブルク・オプ・デア・タウバーの景色なのでしょう。伯爵の捕縛に協力したという女性が裁判官と話します。伯爵は四肢をそれぞれ馬につながれ、八つ裂きの刑に処されるのでした。
 35年後のバーゲンシュタットです。一角で伯爵の事件を物語る紙芝居が興じられています。紙芝居師の頭上、門の上に猫らしき石彫が配されている。きついY字状に枝分かれする坂道、塔などが見えます。
 夜、トンネル状になった回廊を35年前の裁判官にそっくりの男が進んできます。弁護士のロジェ・モンテリーズ(レックス・バーカー)とのことです。紙芝居師でもあった片脚の男が彼を呼び止め、招待状を手渡す。サンダー・ヴァレー・マウンテンのアンドマイ城へという、レギュラ伯爵からのものでした(手もとのソフトの日本語字幕では、アンドマイン、後にアルトマインに替わったりします。ここでは下掲 The Christopher Lee Filmography, 2004 の梗概に従っておきます。ちなみに弁護士の名前もアンジェリス卿、後にはモンテリスとなったりしていました)。

 野原を走る馬車を経て、リンデンハイムの街に換わります。やはり紙芝居が行なわれている。その中には城の絵もちらりと映ります。白壁の家屋が並んでいる。小塔の窓から日本語字幕で「奥様」と呼ばれた女性が顔を出します。
 また野原を走る場所に戻る。御者はじきに中部地方の中心部に着くという。キリストを膝に抱えた父なる神の石像の脇を通り過ぎます。
 街に入る。白壁の家屋、向こうには大きな教会、塔などが映ります。城のことを訊ねると拒否反応が返ってきます。上に家屋がつながるトンネルのある坂の下から、大きな十字架を背負った人物を先頭にした行列が進んできます。谷の人喰い怪物を追いだす儀式だという。行列が解散、十字架を背負う男は階段を登りかける。弁護士は聖人だという彼に城のことを訊ねます。レギュラ伯は12人の処女を殺し、35年前に死んだ、城は崩壊したということです。
 通りかかった馬車から先に「奥様」と呼ばれていた婦人が顔をのぞかせます。顔の濃い牧師ファビアン(ヴラディミール・メーダー。翌年の『ターヘル・アナトミア-悪魔の解体新書-』(1968)でも出会えます)が案内しようと申しでます。地元の人々は城のことを「血塗られた城」と呼んでいるのだという。


 荒野を馬車が走ります。ひねこびた木がぽつぽつと立っています。十字架もある。馬車の中では弁護士が、自分の生まれを知らないと牧師に話している。牧師は陽気です。
 森に入ります。約18分弱、シルエット化した城の廃墟らしきものが見えてきます。その手前には水面がひろがっているようです。右に少し斜めになった塔らしきものが聳えているのですが、輪郭が丸みを帯びている。どうも建物ではなさそうだと思っていると、切り替わって小さく見える馬車がその前を左へ横切ります。奇岩にほかなりませんでした。先に触れたエクステルンシュタイネなのでしょう。

 真っ黒な騎手が数人、馬車を追い越していきます。森の先で婦人の乗った馬車が襲われている。弁護士が手綱を取って駆けつける。婦人はリリアン・フォン・ブラバント(カリン・ドール)、小間使いのバベット(クリスティアーヌ・ベッカー)が付いていますが、御者は攫われてしまったとのことです。
 合流して約21分、森に霧が出てきます。御者の目に、木々に引っかかった白い屍がいくつも見えてきます。枝に首がのっかっていることもあれば、幹から腕や脚が何本も突きでていたりする。つい手綱を引きます。枝に3羽の烏が留まっているのを見たと訴える。聖なる日に悪魔がやってくる前兆とのことです。今日は「受難日=聖金曜日」なのでした。
 夜になります。まだ森の中です。道に転がった屍を踏み越えてしまいます。木の枝から首吊り死体がいくつもぶらさがっている。『幽霊屋敷の蛇淫』(1964)のクライマックスが連想されるところです。御者はついに心臓麻痺を起こしてしまいます。首吊り死体の1つのフードを挙げてみると髑髏でした。その隙に男が馬車を走らせます。女性二人は馬車の中です。
 鐘の音が聞こえます。風で鳴ったのでしょうか。そこいらに十字架が林立している。傾いた聖母像も見えます。随所に照明が配され、このあたりはマリオ・バーヴァ風といえなくもない。
 とまれ、森の道行きはいかにもいかにもなお化け屋敷風味と見なすこともできるでしょうが、雰囲気を欠いてはいません。『生きた屍の城』(1964)での城への道程と比べることもできるでしょうか。


 約27分、先の方に尖頭アーチの門が見えてきます。格子戸が風でぎ~と鳴る。門の奥の床には大きな揚げ蓋があり、地下に通じているらしい。揚げ蓋はやはり格子状をなし、下の面には棘々が生えています。それが人もいないのにあがる。
 石の階段をおります。壁に松明が掛けてあります。おりきると、背後で揚げ蓋が勝手に閉じます。
 階段の下に出ると、カメラは斜め上から見下ろします。降り口は手前右の壁に開いている。奥へと板の渡し廊下が伸びており、その下は水面です。渡った先には石畳が敷いてある。
 渡し廊下と石畳の境は尖頭アーチです。石畳の間に入ると、下から扉がせり上がって閉まってしまいます。この扉は渡り廊下の一部だったのでしょうか。
 格子で仕切られたアーチを、カメラは左へとなぞり、そのまま進みますが、戻ってアーチの格子が上にあがります。カメラも上昇する。上に弁護士と牧師がいます。格子は数段の下り階段の途中に位置していました。
 鉄格子越しに、二人は左へ階段をおります。カメラもそれを追う。
 おりた先はゆるい大半円アーチに区切られています。広間でしょうか。壁のアーチの下には、ボス風の壁画がいっぱいに描かれています。高い椅子に腰かけ人を呑みこむ悪魔などが描かれている。楽器も見えます。プラドの《快楽の園》右翼をなぞったものなのでしょう。手もとのソフトではグリザイユのように見えます。ボス風壁画は後に城内の別の部屋でも登場しますので、下の「おまけ」に載せた挿図と比べてみてください(→こちらに拡大画像)。
 広間は石畳に覆われ、嘴のようなものを突きだした奇妙な彫像も映ります。格子戸が勝手におりる。右奥にも格子戸があったようですが、やはり抜けられません。


 じきに格子はあがり、向こうの壁に影が落ちます。燭台を手にした執事(カール・ランゲ)でした。名をアナトールという。蒼白い。
 壁の取っ手を回すと、伯爵の肖像画が回転し、奥の部屋でリリアンがピアノ(?)を弾いています。白いドレスに黒いショールをかけている。人格が伯爵の夫人と化しています。ボス風壁画は自作だという。壺の中に生きた蛇が入っていました。小間使いはとりこまれた振りをして、グラスを配ります。しかしこぼした中身は酸でした。動転した牧師は自分の正体が追いはぎだとあかします。執事は酸入りグラスを飲み干す。リリアンは正気に戻ります。
 カーテンを開くと大きな絵がかかっています。画面左に正面向きの弁護士とリリアンにそっくりな肖像が描かれています。写真をもとにしたのでしょう。右上には小さく八つ裂きの刑に処せられる伯爵が描きこまれている。こちらはいかにも稚拙風です。筆致も空間構成も達者とは言いがたいものですが、それがかえって奇妙な効果をあげているといえなくもないかもしれない。弁護士とリリアン似の人物の下には大きく紋章が配され、"Von Marienberg"と記されている。「マリアの山」という意味で、そこから弁護士が自分の出自に気づく。


 その間に奥へ向かっていた牧師が戻ってきます、別の部屋では斜め十字に小間使いが縛りつけられている。床は棘々です。器に水が溜まると、その重みで斜め十字が前傾していくのです。この部屋は廊下の奥、扉の向こうでした。牧師に呼ばれて駆けつけた弁護士が2人して、間一髪で小間使いを助けだす。
 廊下の壁は洞窟状の岩造りです。幅はさほど広くはなく、天井も高いものではありません。おそらく冒頭の獄舎の廊下と同じセットを用いているのでしょう。ただ枝分かれして入り組んでいるということのようです。陰で執事が身を隠しつつ救出劇をうかがっている。
 4人は廊下を進みます。先にアーチがあってすぐ突きあたりになるところに出るのですが、その一帯は壁一面に髑髏が埋めこまれています。皆下向きです。
 怯えた小間使いは逃げだす。すると執事に出くわし、召使いは忠実でなければならないと言って、小間使いの首を絞めます。駆けつけた牧師が銃で執事を撃ちますが、いっこうに堪えた様子がない。それどころか高笑いします。胸もとを開くと傷跡はすぐに消えてしまう。自分はもう死んでいる、死刑のすぐ後に持ち去られた死体は不死身となって生き返るとのことです。

 弁護士とリリアンは廊下を進んでいます。先には何羽も禿鷹が屯していました。牧師も合流する。執事の声が伯爵がお待ちだと告げます。
 声に導かれてドアから入る。室内、ドアの上には人面の浮彫が配されています。入って数段くだる。階段の両側は粗石が迫りだしています。室内の一角には玉座が、また別の一角には拷問具が並び、娘たちの屍がのせられている。
 奥から執事が現われます。彼が手をかざすと篝火がともります。テーブル状の紫の布をどける。下にあったのはガラスの柩で、中に伯爵が臥していました。伯爵は死の前に命令を残していた、「受難日」に生き返れるのだという。執事が自らの手首をナイフで切る。ガラスの柩に青い血が垂れます。ちょうど金の仮面の上です。
 しかし執事は何か巨大な力を感じると訝しみます。十字架の存在でした。リリアンが首にかけていた十字架がなくなっており、ちゃっかり牧師の手中にありました。牧師は追いだされます。その先の暗い部屋には死体が転がっていました。片脚男です。
 執事はあらためて手首を切る。柱につけられた大きな砂時計が回転します。向こうにはフラスコ類が数多く並んでおり、あたかもフランケンシュタインの実験室であるかのごとくです。
 伯爵の胸が上下する。執事は弁護士とリリアンに向こうを向け、儀式を見る資格はないと告げます。粗壁に執事の影だけが落ち、そこに起きあがる伯爵の影が加わります。かくして約49分、クリストファー・リーの帰還となる。


 伯爵は不死を探求していた。その中で血が鍵であることに気づく。13人の処女の血が必要だった。13人目が捕縛に協力した女性だったのですが、捕まる前に凝縮した血液を飲んだ。伯爵の研究は不死の霊薬(エリクシル)を求める錬金術だったようですが、十字架が障害になるという点で、悪魔の力と関係があるということらしい。
 他方執事のアナトールは、裁判官たちの家族を一人一人消すことに成功したが、弁護士の父の家族だけは遠くへ引っ越してしまう。その後捕えられて絞首刑に処せられるが、執行直前に霊薬(エリクシル)をフラスコ半分飲んだのだという。
 説明が終わると弁護士は床の落とし穴で階下に落とされます。落ちた先の部屋は、やはりボス風壁画に覆われていました。卵から手足が出ていたりする。
 他方牧師は草に火をつけ、煙の向かう先から脱出の手立てを得ようとしていました。


 フラスコ群で液体が泡立っています。カメラは左から右へ撫でる。リリアンが拷問台に縛りつけられています。しかし縛めを解かれ、玉座の脇にある半石柱の、仮面状の上面から下をのぞくよう促される。仮面の目から見える下の部屋では、弁護士が床に縛りつけられていました。
 弁護士が見上げると、カメラは左から右へ、ボス風壁画を撫でます。歯車が回り、天井から振子がおりてくる。揺れだします。
 伯爵はリリアンに、助けられるのはお前だけだと言って、拷問台コーナーの奥のドアの後ろが、もう一つのドアへの抜け道になっている、そのドアの向こうに部屋があると告げます。

 リリアンは廊下を奥から手前へ進んできます。そして左へ、カメラもそれを追います。先にも背後にも禿鷹がうろうろしていました。大人しそうです。さらに進み、切り替わると左奥から手前へ、そして背を向け右へ折れます。奥から砂煙とともに突風が吹きつけてくる。リリアンは左から右へと押し返されます。突風が止むと、蠍だの蜘蛛だの蜥蜴だのがわんさか出てきます。
 そこを走り抜け、切り替わると奥から手前へ進んでくる。手前は鉄格子です。その向こうで左のドアから中に入る。手前の角・左で執事がそれをうかがっています。左奥へと廊下が伸びている。執事はそこを少し奥へ、すぐ右の壁に覗き孔がありました。
 覗き孔の向こうの部屋にリリアンがいます。上からランタンがおりてくる。下を見ると大きく穴が開いており、そこには蛇の群れと骸骨があるのでした。穴の上には板の橋がかけてある。リリアンはその上に載っているようですが、橋は段階を追って引っこんでいきます。徐々に扉の方へと追いつめられる。ぎりぎりのところで執事が受けとめるのでした。
 いささか子供じみていると見なせもなくもないヒロイン怖がらせには一応理由があって、不死の霊薬を成功させるためには、提供者となる処女たちが恐怖を感じる必要があるからだそうです。


 他方弁護士は、床に転がっていた石を利用して脱出に成功します。牧師も壁に杭を打ちつけて踏み台とし、上の方へ登っていきます。
 弁護士が出口を探していると、上から縄梯子がおりてきます。牧師でした。弁護士は上に登る。二人は拷問部屋に急ぎますが、鉄格子に遮られます。
 なお振子の部屋は玉座の広間がある地下1階のさらに下の階にあるわけですが、地下1階と地下2階をつなぐ階段は本篇中には出てきませんでした。そもそも地上から地下1階に下りる階段についても、地上からの入口と地下1階に下りたところは出てきますが、階段の長さがわかるようには映されない。地下1階に入った少し先に設けられた段差を示す数段のくだり段、拷問部屋入口のやはり数段のくだり段以外、本作ではなぜか、階と階をつなぐ階段が目につきません。セット設営の都合なのか、いささか淋しいところではあります。


 凝固がうまくいっていないと執事が叫びます。魔力を妨げるものがあるはずだ。弁護士の十字架でした。伯爵は顔を背けます。クリストファー・リーは生涯に何度この仕草を演じたのでしょうか。
 弁護士は壁に取りつけてあった砂時計を外し、これがお前の命だと断じる。十字架を揺らし、私も振子を持っていると告げる。これはけっこう気が利いた台詞かもしれない。十字架をフラスコ群に投げつけます。執事がのけぞります。砂時計の砂が落ちきると、伯爵も拷問台の娘たちも消え失せます。
 轟音とともに地下室は崩壊、ねじくれた木材をカメラが左から右へ撫でると、いつの間にやら地上でした。落ちていた十字架をリリアンが胸につける。
 馬車で牧師と小間使いが迎えに来ます。牧師は高笑いしています。荒野を去る馬車とともに閉幕となるのでした。


 クライマックスのまとめ方は必ずしも釈然とせず、少し前に公開された作品との共通点も目につくし、お化け屋敷風味もちゃちといえばちゃちなのですが、ここは目くじら立てず、気楽に楽しんでおけばよいのでしょう。何より冒頭で引いた須永朝彦の引用文にあったように、地下の廊下が入り組んでいる点、正確には入り組んでいるかのように映される点をもって、よしとするに値するのではないでしょうか。地下城という点では、製作者たちが知るはずもなかったであろう、中川信夫の『女吸血鬼』(1959)と比べるのも一興かもしれません。
Cf.,  須永朝彦、『血のアラベスク 吸血鬼読本』、ペヨトル工房、1978/1993、「吸血鬼映画館」、p.170、p.172
同じ著者による→こちらを参照

北島明弘、『映画で読むエドガー・アラン・ポー』、2009、pp.107

Cathal Tohill & Pete Tombs, Immoral Tales. European Sex and Horror Movies 1956-1984, 1995, p.50

The Christopher Lee Filmography, 2004, pp.170-173

一応の原作等については→『大鴉』(1935)のページ

なおポーについては→「viii. エドガー・アラン・ポー(1809-1849)など」(<「ロマン主義、近代など(18世紀末~19世紀)」<「宇宙論の歴史、孫引きガイド」)も参照
おまけ   ヒエロニムス・ボス《快楽の園》1500-05年
ヒエロニムス・ボス
《快楽の園》
1500-05年

ヒエロニムス・ボス《快楽の園》右翼 1500-05年
同右翼
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 2015/11/27 以後、随時修正・追補
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