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らせん階段
The Spiral Staircase
    1945年、USA 
 監督   ロバート・シオドマク 
撮影   ニコラス・ムスラカ 
編集   ハリー・W・ジャスター、ハリー・マーカー 
 美術   アルバート・S・ダゴスティーノ、ジャック・オ-ケー 
 セット装飾   ダレル・シルヴェラ 
    約1時間23分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ

一般放送で放映
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 この作品では超自然現象は起こりませんが、お話の大半が古い館で繰りひろげられるという典型的なゴシック・ロマンスで、タイトルの螺旋階段だけでなく、他にも素敵な階段が二つ、素敵な廊下、素敵な地下室が登場します。電波状態が悪い時、VHSに3倍録画したという態なので、きちんと見るのはまたあらためてとなってしまいますが、ご容赦ください。

 監督は『夜の悪魔』(1943)で情けないドラキュラを演出したことでも記憶されるロバート・シオドマク。RKOの製作ということで、撮影のニコラス・ムスラカ、美術のアルバート・S・ダゴスティーノ、セットのダレル・シルヴェラらは『キャット・ピープル』(1942)を始めとするヴァル・リュートン作品でお馴染みの面々です。原作はエセル・リナ・ホワイトで、最近になって邦訳されました(下記参照)。ちなみにヒチコックの『バルカン超特急』(1938)もこの作家の原作だそうです。

 タイトル・バックでまず、館の外観が映されます。画質が悪いためよくわからないのですが、二階建ての棟が横に伸び、手前に木が茂っているようです。時刻は夜、風の音が吹きすさび、雷が鳴っている。続いて螺旋階段を真上から撮ったショットがさっそく登場、左下でヒロインが下の方を見ています。右上、左上に窓があり、陰になった部分が雷光で照らされると、段をなしていることがわかります。螺旋のさらに内側では、明と暗の段が作る輪が、太さを違えて二重になっており、それから下の階となるようです。明暗の配分がきわめて印象的な、しかし現実の重さをどこかにはじき飛ばしたこの幾何学的な構図には、後にも再会することになるでしょう。

 ただし最初の舞台は館ではありません。街路を左から右に、けっこう速くカメラがなぞった後、映画が上映されているところから物語は始まります。無声映画とて、ピアノの伴奏がついている。カメラはヒロインを含む観客を水平にとらえていたかと思うと、首を上に挙げて天井とシャンデリアを映したりします。
 次いで別の室内で、女性が着替えをしている。衣装戸棚を開けると、カメラはそちらに近づきます。服の間に潜んでいる顔がのぞき、さらに接近、目付近がアップになり、やがて眼球だけになってしまう。一転して今度は、その目がとらえた眺めが画面に映される。魚眼レンズでも使っているのでしょうか、画面上には薄く楕円が縁どられ、手前にある椅子の影がひずんで背後の壁に映っています。右の方にも、背もたれの柱の影でしょうか、曲線が何本かバネのように伸びている。服を着ようと女性が上に挙げた両手だけが映されたかと思えば、その両手が痙攣するのでした。
 映画が上映されていた場所はこの部屋のある建物の一階にあり、そこがホテルであることがわかります。二階から聞こえてきた物音に、支配人が階段をあがっていくさまを下から見上げていたカメラは、踊り場を経たところで、上から見下ろす位置に切り替わります。手すりの影が大きく落ちている。カメラはそのまま1カットで、支配人が階段をあがったところから左に折れて、2階の廊下を進んでいくその背中を追います。メイドに呼び止められて引き返し、階段の向かいあたりにある半階分の段をあがり、さほど長くはない廊下を進むところが俯瞰されます。すぐ後の場面で、1階からの階段と、2階から4段ほどあがる階段が、廊下をはさんで一直線をなしていることが確認できます。


 殺人事件に駆けつけた刑事との対応で、ヒロインが口をきけないこと、町外れのウォーレン館で働いていること、夕刻近いことなどがわかります。ヒロインのことを気にかけている医師の馬車で館に向かいますが、途中で医師が急患の家に向かわなければならなくなり、分かれて歩いていく。木立の間を抜けると、館の塀が映されます。右手前でなかば暗くなった柱らしきものが画面を縦断し、そこから中央奥へ、透視画法の見本よろしく柵が後退していく。左側は林で、奥の方にヒロインがいます。半身のアップに切り替わり、左から右へ進み、またもとの透視画法的構図にもどる。こうしたカットの切り換えはすぐ後、夕立が降りだした庭を走るヒロインを映す際にも見られます。
 とまれその前に、柵の端で館が正面から見えるところに着きます。手前には何か水面があるようです。次いでけっこう広そうな庭を走り抜けるヒロインをカメラは引きで追い、鍵を落として探すところはアップで、再び走りだすところは引きになるのでした。


 いよいよ館に入りましょう。話の先後はおいておくとして、玄関を入るとまっすぐ広間が伸びています。玄関から向かって右側には、すぐ脇にある扉を経て、大きな部屋への入口が二つあります。最初のものは居間で、奥のものは突きあたり近く、中には窓が見えます。後の場面で、居間と窓のある部屋はつながっており、また居間から玄関側には食堂、居間から奥にも部屋があることがわかります。居間の向かい、玄関から見て左側には書斎があります。
 玄関広間の突きあたりは階段です。階段登り口と窓のある部屋へは一段のぼって円形四分の一ほどの段になっており、階段は右下から左上にあがっていく。階段の下、左側には扉があって、すぐのところが電話室ですが、さらに奥に続いており、廊下を経て台所に通じています。主に使用人が使う裏方部分というわけですが、この廊下がなかなか面白い。廊下の奥の方から見ると、奥の右側に玄関広間への戸口、左側に台所への入口があります。左側の手前には大きな鏡がかかっており、さらに手前にもどると、タイトルにある螺旋階段になるのです。螺旋階段の話はいったん置いて、先に手前の方を振りかえれば、まっすぐか、いったん曲がるのか、短い廊下があってすぐに突きあたり、窓が設けられています。


 玄関と向かいあった階段にもどりましょう。まず上からの眺めが映されます。両脇は植物紋様でしょうか、壁紙に覆われ、左手に壁付きのランプがやはり見下ろす角度で見えます。次いで下からの眺めとなるのですが、すると最初の眺めが、踊り場に配された大きな鏡に映った像であることがわかります。この踊り場の大鏡は原作にも記されていました。また壁には手すりの影が落ちているのですが、この手すり、上半は縦の棒が並んでいるとして、下半はアーケードになっています。このパターンの手すりは、2階吹き抜けでも同じです。次いで構図は最初の眺めと同じ形に戻り、鏡に向かうヒロインを映す。
 ヒロインが2階に上がると、左に曲がって廊下を進むさまを、壁側からカメラが追います。カメラはやや下向きの角度で、手すりの上は切れています。階段をあがったところや床に手すりの影が落ちています。カメラが先回りして右へ進むと、壺のようなものの陰に人物の両足をとらえることになります。ここで再び、半分陰になった顔、目の回り、そして眼球が大写しになり、逆転して眼球に映る光景を見せるのです。
 しかしこの時は、廊下の奥の方で動きがあって何事も起こりませんでした。廊下の突きあたりには角をはさんで二つ扉があり、右側が館の当主である教授の義母の部屋で、看護士が出入りします。カットは階段からあがったあたりに切り替わり、ヒロインが奥へ進む。次いで突きあたり側からヒロインがこちらへ向かうさまをとらえます。
 一体にこの作品では、カメラは人物の歩みとともによく動きます。またその際、カットを切り換えて引き、接近、引きが交互に配されることが少なくない。切り換えのリズムも歯切れがよいように思われます。


 原作とは異なる人物の関係を整理しておくと、館を仕切っているのが教授で、先代はすでに亡くなっている。先代の後妻が義母にあたる夫人で、かなりの年配で部屋にこもり、看護士付きです。夫人の息子が義弟、しばらく館をあけていたのが戻ってきたところです。教授には秘書がいますが、彼女に義弟がちょっかいを出しています。使用人はヒロインの他に、夫婦ものがいます。また使用人夫婦が世話をしているブルドッグが一匹いて、活躍するのかと思いきや、後半はあまり顔を出しませんでした。義母の病状を診察に来るのが、ヒロインのことを気にかけていた医師ですが、彼もクライマックスでは急患に呼ばれて不在です。
 ヒロインは幼い頃火事で両親を失なっており、その時のショックで口がきけないのですが、これは原作にはない設定です。そのため原作での快活でもあればおっちょこちょいとも見える性格は、よりけなげな印象に変わっています。ちなみにこのお話は原作に従って、冒頭の映画上映から結末まで、半日の間に畳みこまれています。


 さて、教授とともに家政婦が酒壜をとりに地下室におります。地下室は中央に暗い廊下が貫いているのですが、縦線や斜線など、格子状の影が錯雑しています。次に螺旋階段をおりる家政婦と教授が映されます。灯りは家政婦が手にする蠟燭だけで、壁に手すりの影が落ちている。階段をおりて左に折れれば先の廊下で、二人を正面からとらえたカメラは、二人が進むとともに後退していきます。地下室はけっこう広いようで、壁は煉瓦です。右側の壁に扉があり、そこを入って、さらにその奥に酒蔵への扉がある。終始暗いままなのでした。

 医師を送りだしたヒロインが玄関に寄りかかるさまがアップで映される。この映画では犯人の目だけでなく、随所で人物の顔がかなり接近してとらえられます。やがて左手、ヒロインの背中側にあたる壁が暗くなり、医師と踊るヒロイン、二人の結婚式などの幻想が描かれるのですが、これが館の階段広間でくりひろげられるというのが、予算の都合なのか何か意味があるのか、頭を悩まされる次第です。

 正面階段を左手から見ると、階段の裏側が見え、格子張りであることがわかります。次いで階段をあがったすぐのところは、ゆるいアーチをいただいて扉が二つあり、左側が秘書の部屋です。さらに左へ進めば義母の部屋に向かう廊下になるのですが、右側にも廊下は伸びていて、すぐ左手に、何段かのぼって扉があり、こちらがヒロインの部屋です。後の場面で、廊下の突きあたりには窓、その手前、右側の壁に螺旋階段に通じる戸口があることがわかります。
 とまれ秘書は螺旋階段をおりていきます。壁は湾曲して円塔状をなしており、2階と1階の間には、縦長の窓が三つ、だんだん低くなりながら並んでいます。例によって手すりの影が落ちています。
 1階は前にも出た台所への入口に通じる廊下で、やはりすぐ手前にはランプを載せたテーブルがある。戻ってさらに螺旋階段をおりれば、地下室に着きます。地下室の廊下の天井には水道管らしきものが走っており、酒蔵への扉と反対側の壁には格子戸がある。奥は物置で、カメラはなぜか、いろいろなものを接写でパンします。そして眼球のアップとなるのでした。秘書は鞄をとりにきたのですが、画面の中央、縦に暗い帯に覆われ、その両端で両手だけが突きでて、痙攣するのです。冒頭のホテルでの犯行場面の変奏というわけですが、この作品では、眼球のアップや犯行場面だけでなく、カットつなぎや構図などいくつもの要素が、変化を加えつつ反復されているようです。


 ヒロインが台所から廊下へ出る場面では、明るくなった戸口に影、その隣にかけられた大鏡に鏡像が同時に映ります。電話室を通って玄関広間に出、思いきりアップで映された後、踊り場の大鏡の前を過ぎる。階段をおりる時にはまたしても鏡像の形でとらえられます。
 ヒロインは夫人の部屋を出て廊下へ、手すりにもたれればカットが切り替わる。自分の部屋に入って窓にランプを向ける。このあたりのカット割りはけっこうスピーディーです。窓から助けを呼ぼうとするのですが嵐の音にまぎれてしまう。稲妻が光れば、画面は明るくなる一方、ヒロイン自身は影絵と化します。
 犯人は電話室を通って裏の廊下へ、そして螺旋階段に向かう。ヒロインは正面階段踊り場の大鏡を上から見下ろしています。犯人は地下室の螺旋階段のたもとにいる。あたりは有機的な影に覆われ、左の足もとには陶器の破片をたくさん貼りつけたようなものが見えます。後の場面からすると、積みあげられた薪の切り口なのでした。
 ヒロインが螺旋階段をのぼるさまをカメラは上から見下ろす。手すりなどの影が実物と混ざりあっています。ヒロインが背を向けたカットでは、両脇を影が閉ざす中、下の方に頭部の影が覗く。次いでかなり上の方から螺旋階段が見下ろされます。手前には2階で見下ろす人物の背、中程にヒロイン、下の方に犯人。そして三人が迎えるクライマックスが、それぞれに近づいて、俯瞰や仰視を切り換えながら展開するのでした。決着がついたところで、オープニングの後半同様、ほぼ真上から螺旋階段をとらえたカットが映されます。


 事が終わった後も、螺旋階段はしばらく映されます。階段の裏側が明暗の交替をなしているさまが見えたかと思えば、助けを呼びに階段をおりるヒロインが、錯綜する影に囲まれながら、自身も影と化して下にいくところをカメラは首を振って追います。最後に電話室でも、奥の煉瓦壁に椅子か何かの影が落ちているさまをとらえ、カメラは後退しながら上昇するのでした。
 タイトルに違わぬクライマックスでの螺旋階段の大活躍ぶりはもとより(原作にも螺旋階段は登場しますが、クライマックスの舞台は別の場所でした)、鏡の像で反転する正面階段、2階廊下の伸び具合に1階舞台裏廊下のそっけない空間、そして暗く沈んだ地下の廊下など、超自然現象が起きないことを補ってあまりある、古城度及第点以上の作品と見なせるでしょうか。

Cf.,  原作の邦訳は;
エセル・リナ・ホワイト、山本俊子訳、『らせん階段』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1739)、早川書房、2003
原著は
Ethel Lina White, Some Must Watch, 1933
解説「今甦る幻のゴシック・サスペンス」(小山正)は映画版の話が中心になっています。
 2014/12/11 以後、随時修正・追補
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