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偉大なるアンバーソン家の人々
The Magnificent Ambersons
    1942年、USA 
 監督   オーソン・ウェルズ 
撮影   スタンリー・コルテス 
編集   ロバート・ワイズ、ジャック・モス、マーク・ロブソン 
 美術   アルバート・S・ダゴスティーノ 
 セット装飾   ダレル・シルヴェラ 
    約1時間28分 * 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ

DVD
* [ IMDb ]によると、オリジナルは約2時間28分、試写では約2時間11分とのこと(ともに現存せず)
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 『市民ケーン』(1941)に続くオーソン・ウェルズが監督した長篇第2作ですが、本作について必ず記されるように、現存するのはウェルズ不在の際に大幅にカットされた版のみです。ラスト・シーンも元の脚本とは異なる形で撮り足されました。この間の事情については、ウェルズ側の言い分が主となりますが、下掲のバーバラ・リーミング『オーソン・ウェルズ偽自伝』、pp.251-258 を参照ください。とまれ一篇の作品として十全な状態にあるとはいえないわけですが、主たる舞台はお屋敷です。階段とその周辺が主役化した場面もあります。超自然現象は起きませんが、手短かにとりあげることにしましょう。

 原作はブース・ターキントンの小説とのことですが、邦訳はされていないようです。音楽は『市民ケーン』に続きバーナード・ハーマン、『シンバッド七回目の航海』(1958)を始めとする華々しい作歴は[ allcinema ]等でご確認ください。同じくセット装飾をダレル・シルヴェラ、編集をロバート・ワイズが担当しています。ただしワイズはカット版の編集も手がけたため、いささか汚点を残してしまいました。 また編集に関しては[ IMDb ]に、クレジット無しということでジャック・モスとマーク・ロブソンも挙げられています。ロブソンはワイズ同様、ヴァル・リュートン製作で『吸血鬼ボボラカ』(1945)や『恐怖の精神病院』(1946)を監督することになるでしょう。やはりクレジット無しで、ユニヴァーサルからRKOに移ってきたアルバート・S・ダゴスティーノ(→こちらを参照)が美術を担当している。撮影はスタンリー・コルテスに交代、彼は後にフリッツ・ラングの『扉の蔭の秘密』(1947)やチャールズ・ロートンによる伝説の童話『狩人の夜』(1955)、イヴ・メルキオールの珍品『巨大アメーバの惑星』(1959)、『最後の海底巨獣』(1960、監督:アーヴィン・ショーテス・イヤワース・Jr.)などを手がけます。
 今回はウェルズは出演せず、ナレーションでのみ声を聞かせてくれます。『市民ケーン』に続いてジョセフ・コットンとともにアグネス・ムーアヘッドが続投、前回は主人公の母親役で強い印象を残しましたが、今回も報われぬ叔母役で画面をさらっていきます。レイ・コリンズ、アースキン・サンフォードも続演組とのことです。


 アンバーソン家の栄華は1873年に始まったというナレーションに続いて、一軒の屋敷が真正面、やや下から映されます。横に伸びる白い柵の向こう、2階建ての棟の右寄りに六角塔が接している。壁は煉瓦です。塔の左に続く1階の棟、その右半ばほどまでに2階がのっています。1階の上にはやはり白い柵がかぶさっている。塔のすぐ左が玄関のようです。
 帽子をいろいろ試すユージン・モーガン(ジョセフ・コットン)の姿が、主に鏡に映る像としてとらえられる。続いて次々に衣裳を変えるのは、ファッションの変遷を表わしているのでしょうか。
 また先の屋敷が雪化粧で、次いで夏の姿で登場します。屋敷の前でユージンはすってんころりん、塔の2階の窓からそれを見る女性がいました。

 続いて別の館が登場します。やはり左隅に塔が接していますが、先の屋敷より一回り大きく、造りもごつい。階数も少なくとも1階分は高いようです。アンバーソン邸とのことで、ここが以後の主たる舞台となるわけですが、先の屋敷との関係はよくわかりませんでした。やはり正面からとらえられます。
 ユージンが花束を手にアンダーソンの令嬢イザベルを訪ねてきます。しかし玄関払いを喰らわされる。すっころんだ姿に愛想を尽かされたらしい。イザベル(ドローレス・コステッロ)はウィルバー・ミネファ(ドン・ディラウェイ)と結婚することになりました。ウィルバーは実業家、ユージンは自動車の発明家です。


 イザベルとウィルバーの一人息子ジョージが我儘放題に街を駆け回ります。
 館が正面から見て左前方・下からの角度で背景に配されたその手前で、ジョージを父母、祖父が取り囲みます。

 ジョージ(ティム・ホルト)は大学2年生になる。約9分弱、古城映画的山場です。夜の館が右少し斜めから引きでとらえられます。館で舞踏会が開かれる。客が玄関を入って前進、カメラもやや下からそれを追います。
 薄暗く見える広間がやや下からとらえられ、イザベルにユージンが話しかけます。口髭付きです。ユージンには娘のルーシー(アン・バクスター)がおり、ジョージは彼女に惹かれる。
 柱の左右にゆるい湾曲アーチの扉口があります。ルーシーとジョージは話しながら手前へ進む。カメラは後退します。アーチの扉口の右手に、方形の扉口のあることがわかる。また手前右には右上への階段がのぞきます。この階段が以後重要な役割を果たすことでしょう。
 ルーシーとジョージは階段をのぼります。一度折れて2階となり、さらに上へ続いている。
 二人は3階まであがってきたのでしょうか。扉口や手前両脇の柱が何かと装飾的です。扉口の左右にも小扉口がある。扉口のアーチは小さな弧で分割されており、滴状の突起が下方に垂れさがっています。二人は前進する。やや下からのカメラが後退します。
 手前右にはダンスする面々がいる。ユージンとイザベルも踊っています。その先を左でしょうか、上への階段が見えます。ルーシーとジョージは階段の途中に坐ります。手前に二人の背、奥でダンスする人々、あちこちで滴状突起が垂れさがっています。
 3連アーチ扉口の手前に酒類を置いたテーブルがありました。テーブルから見て左に広間がひろがっています。奥の方では左右に部屋が分岐していく。
 ユージンともう一人が暖炉の前で話します。暖炉の上には少し前屈みで大鏡がかかっており、そこに踊る人々が映っている。ユージンがイザベルに求愛していた頃から18年経ったとのことです。
 ルーシーとジョージが肩から上の姿で手前に配されます。奥に伸びる天井は白く、格子の梁で区切られている。奥の壁近くに来るとゆるく傾斜することがわかります。
 暗い広間で踊っているのはユージンとイザベルだけになりました。奥に階段があり、ルーシーとジョージがおりてきます。二人はまたしても下の方で坐ります。カメラがゆっくり前進しながら二人に接近する。
 暗い階段をイザベルとジョージがのぼってきました。イザベルはウィルバーの具合が悪そうだという。二人は階段をあがって右から左へ進みます。シルエット化する。先に夫婦の部屋がある。
 ジョージは戻ってウィルバーの妹ファニー(アグネス・ムーアヘッド)と暗い廊下を進みます。廊下の奥に階段上がり口の欄干がのぞいている。天井の梁には滴状突起が垂れています。二人は前進、カメラは後退します。廊下の左側に祖父の部屋、やはり左の手前がファニーの部屋でした。ジョージは廊下を戻ります。
 ここまでで約24分でした。普通にとれば客たちを通し、踊りが行なわれるのは1階でありそうなものですが、このシークエンスでの案内役ルーシーとジョージが途中で階段をのぼるので、階数が定かでなくなり、加えて分岐する広間はむやみに広そうです。下掲のバーバラ・リーミング『オーソン・ウェルズ偽自伝』、p.253 によると舞踏会のシークエンスはもともとカットなしの長廻しだったとのことで、カットされたためにわかりづらくなったのかどうか。とまれ暗い廊下も登場する一連の場面を編集した経験が、ワイズが後に監督した『たたり』(1963)に引き継がれたと見なすのは、いささか深読みに過ぎるというものでしょうか。


 雪にはさまれた小川に走る橇が映ります。ユージンの自動車はエンスト、ルーシーとジョージは馬が引く橇から転げ落ちる。

 約29分、玄関扉に男の影が落ちます。男ともう一人が中に入ると、玄関扉が閉じられる。
 人々が巡っているのは柩の周りなのでしょう、柩に横たわる死者の位置から見上げられます。
 約30分、夜の館外観です。下からの仰視です。雷鳴轟き稲妻が走る。
 台所でしょうか。ファニーの出したケーキをジョージががっついている。奥に扉があり、その向こうはのぼり階段でした。そこから叔父のジャック(レイ・コリンズ)(?;すいません、このあたりの人物関係はよくわかりませんでした)が現われます。
 約34分、ユージンの自動車工場を見学にイザベルたちが訪れる。
 約36分、館が正面から見てほぼ真左から眺められ、手前右に木、その左下にイザベルとユージンがいます。
 街を馬車が走る。乗っているのはルーシーとジョージで、胸から上の姿です。カメラは下から二人を捉えつつ、併走します。時に角度や速度を変える。このシークエンスについては下掲のアンドレ・バザン『オーソン・ウェルズ』、pp.20-22, 76-79 で取りあげられています。後ろの馬車には祖父と叔父が乗っていました。


 約40分、食堂です。中央に長テーブルが配されている。ジョージの自動車批判を受けて、車はいいことばかりじゃないとユージンは認め、退出します。
 約44分、ジョージが食堂から出てくると、左からユージンを見送ったファニーが現われます。奥左寄りに上への階段がある。階段映画的山場の始まりです。階段は1階の床から左上に、折れて右上へ、少し水平になってまた右上へ、また水平になります。ファニーとジョージが階段をのぼりながら、時に立ち止まって話します。カメラは最初は第1踊り場くらいの高さでしょうか、停止をはさみつつ上昇します。最初の傾斜の向こうには2連ステンドグラスのあることがわかります。第2踊り場から上へのぼる際には、カメラは下から見上げている。向こうにやはりステンドグラスがありました。第3踊り場で二人は立ち止まる。奥の上の方に、上階のバルコニーらしきものが覗いている。これは後に確認できることでしょう。ジョージは階段を駈けおりる。それをバルコニー状踊り場から見下ろすファニーが下から捉えられます。

 約47分、イザベルとユージンの噂について抗議すべく、ジョージはジョンソン夫人宅を訪問する。二人の位置が前になり後ろになりします。
 約48分、叔父が浴槽に浸かっています。浴室はけっこう広く、浴槽の向かいに大鏡がある。
 約49分、館の外観です。ユージンが訪ねてくる。対応するジョージの動きから、玄関扉と広間の間に狭い玄関間があり、広間との間にも扉のあることがわかります。ジョージはユージンを追い返す。ユージンは20年前後を経てまた同じ目に遭ったわけです。

 約51分弱、イザベルの部屋でしょうか、奥の壁に大振りな格子の影が落ちています。
 階段映画的山場その2です。玄関広間が上から見下ろされる。画面上辺沿いに丸みを帯びた上階下部が縁取っています。右の玄関から叔父が入ってくる。その奥からイザベルが出てきます。二人は中央奥の扉口から中に入る。この扉口は角に位置しており、左右で壁が後退していきます。食堂でしょうか。
 扉が閉まるとカメラは上昇します。2階になるのか、バルコニー状踊り場にジョージがいました。声に後ろを振り向き見上げるのに応じて、カメラはそのまま上昇する。3階でしょうか、やはりバルコニー状踊り場にファニーがいました。上下に二人が重なる、しばしばスティール写真などでも見かける、おそろしく印象的な構図でした。下掲のバーバラ・リーミング『オーソン・ウェルズ偽自伝』、p.241 でこの場面のことが述べられています。
 ファニーは左下に階段を下ります。ジョージも左下に下りる。カメラは下降します。ファニーが2階半(?)踊り場につくと、ジョージはちょうど向かいの位置まで下りています。ファニーはさらに下りて合流する。カメラは俯瞰になっています。
 二人は階段をあがる。カメラは左から右へ動きます。2階にいる二人をカメラは上から見下ろす。


 約53分、ユージンが自室の机についています。カメラが後退し、真っ暗になる。
 明るくなると踊り場から玄関広間が斜めにとらえられます。上辺沿いにやはり上階下部が縁取っている。誰もいません。
 暗い室内にイザベルがいます。
 扉からジョージが出てきます。傲岸不遜だった彼が打ちひしがれているかのようです。廊下を左から右へ進む。先にイザベルの部屋がありました。

 約58分、街でルーシーとジョージが出会います。
 約1時間2分、ユージン邸に叔父が訪ねてきていました。ジョージと旅に出たイザベルの容体が悪いという。
 約1時間4分、帰郷です。玄関広間をユージンが左へ進む。右からジョージが現われます。ユージンが階段をのぼりかけると、上からファニーが下りてきます。右に振り向くと1階半の踊り場に叔父がいました。カメラは左下へ、階段の登り口に戻ります。
 イザベルの部屋です。イザベルとジョージの顔に何やら影が落ちています。
 祖父が正面向きで、肩から上の姿がとらえられます。そのままの構図に、他の人物の声が聞こえてくる。
 駅です。奥の方の湾曲天井を格子の影が区切っている。その左下の壁には、3連半円窓があります。手前にいるのは叔父とジョージ、二人とも破産したという。叔父は去ります。


 ユージンとルーシーが散歩しています。二人とも胸から上が仰視されます。
 ジョージとファニーです。ファニーも破産状態でした。二人は手前へ進みます。館の広間ですが、家具にはシーツが掛けてある。
 変化する街並みが下からとらえられていきます。工場なども混ざっている。
 ジョージが化学工場で事故にあったという記事が新聞に出る。ルーシーが病院に向かいます。ユージンも後を追う。このあたりからが撮り足された部分なのでしょう。オリジナルとの異同については、下掲のバーバラ・リーミング『オーソン・ウェルズ偽自伝』、pp.253-254、256-257 を参照ください。
 病院です。ユージンとファニーが奥の扉から出てきて、廊下を前へ進みます。カメラは後退する。
 クレジットをナレーションするのはオーソン・ウェルズでした。

Cf.,  フランソワ・トリュフォー、山田博志訳、「ウェルズとバザン」、『シネアスト』、no.2、1985.9:「特集 オーソン・ウェルズ」、pp.38-67、その内 pp.47-48
こちら(『マクベス』)そちら(『オセロ』)あちら(『審判』)にも挙げています

兼子正勝、「表面の力学」、同上、pp.188-197
こちらでも挙げています

バーバラ・リーミング、宮本高晴訳、『オーソン・ウェルズ偽自伝』、1991、pp.233-236, 240-242, 247-248, 251-258 など


アンドレ・バザン、堀潤之訳、『オーソン・ウェルズ』、2015、pp.20-22, 35-37, 59-61, 69-70, 76-79, 82-83 など
 2016/3/14 以後、随時修正・追補
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