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マクベス
Macbeth
    1948年、USA 
 監督   オーソン・ウェルズ 
撮影   ジョン・L・ラッセル 
編集   ルイス・リンゼイ 
 美術   フレッド・A・リッター 
 セット装飾   ジョン・マッカーシー・Jr.、ジェイムズ・レッド 
    約1時間43分 * 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ

DVD
* [ IMDb ]によるとオリジナルは約1時間47分、カットされた版が約1時間29分、ドイツ版が約1時間32分とのことです

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 本サイトでは黒澤明の『蜘蛛巣城』(1957)に続くシェイクスピア『マクベス』を映画化した2本目の作品となります。原作どおり魔女が出てきて予言し、幽霊だか幻だかも現われる。それ以上に本作では、主たる舞台となる城のセットが、岩山を刳りぬいてできたかのような特異な相貌を示しています。古城映画として、いずれとりあげることができればと考えているポランスキーによる『マクベス』(1971)とあわせて3通りの『マクベス』解釈を比べてみる、あるいは本作と同年に公開されたローレンス・オリヴィエの『ハムレット』(1948)と並べてみるのも一興かもしれません。
 そもそも本作では何かと陰影が濃い。人物の顔は往々にして半分陰に入っていたりします。空は昼間ならいつも曇っているかのごとくで、夜空は真っ暗でした。しばしば雷鳴付きです。霧も盛大に這う。城内以外で映されるのは荒野くらいで、町とか村は出てきません。カメラは上になり下になりします。とりわけ俯瞰の際はえらく高い位置から見下ろしたりする。人物に近づく際は仰角が多い。いささか台詞が多すぎる気がしなくはないものの、洞窟ないし岩盤風の荒々しい壁と相まって、いかにも荒涼とした眺めに終始するのでした。

 オーソン・ウェルズが監督した作品としては『市民ケーン』(1941)、『偉大なるアンバーソン家の人々』(1942)と本作の間に『ストレンジャー』(1946)と本作と同年公開の『上海から来た女』(1948)がありました。前者は未見につきおくとして、後者について少しだけ記しておきましょう。古城も超自然現象も登場しませんが、前景と後景を対比した構図や明暗の配分はやはりなかなかに面白い。手もとのDVDソフトに付いているピーター・ボグダノヴィッチの音声解説によると、最終的な編集はウェルズの目を通したものではなく、また音楽にも大いに不満があったとのことですが、それはともかく、クライマックスの鏡の間の場面、およびそれに先立つ「クレイジー・ハウス」の場面は古城映画的にも見逃せません。約1時間21分、斜めにとらえられた壁が左手前から右奥に滑っていく。壁にはむやみに複雑な格子の影が落ちています。左へ進む主人公は中央下に小さくピン留めされ、壁のみが動きます。続いてばかでかい絵が二種向こうに映った後、奥で急速にすぼまる部屋の隅のさまは、ボグダノヴィッチもいうように『カリガリ博士』(1919)を連想させずにはいません。扉をくぐり抜けるとカメラがぐるりと上下に回転し、その先でうねくる巨大な滑り台を滑り落ちてしまう。下から見上げていたカメラが俯瞰に替わる。落ちた先は張りぼての龍の口で、呑みこまれてみれば約1時間22分、有名な鏡の間の場面となるのでした。鏡の間については理屈をつけることもできるのでしょうが、その前段はほぼ意味が無く、であればこそ両手を挙げて喝采すべきなのではないかと思われます。


 さて本作に戻ると、撮影のジョン・L・ラッセルは後にヒチコックの『サイコ』(1960)でカメラマンを務めることでしょう。音楽のジャック・イベールには『わが青春のマリアンヌ』(1955)で再会できます。司祭( [ IMDb ]では"A Holy Father")役のアラン・ネイピアは『呪いの家』(1944)で医師、『奇妙な扉』(1951)でグラッサン伯爵に扮していました。後には『地底探検』(1959、監督:ヘンリー・レヴィン)や『姦婦の生き埋葬』(1962)でも顔を見せたという。先王ダンカン役のアースキン・サンフォードは『市民ケーン』、『偉大なるアンバーソン家の人々』、『ストレンジャー』、『上海から来た女』とウェルズの作品ではお馴染みのはずですが、申し訳ないことにちっとも顔が憶えられません。ウェルズ主演の『ジェーン・エア』(1944、監督:ロバート・スティヴンソン)にも出ていたそうです。王子マルコムに扮するのは、ちっともわかりませんでしたが若きロディ・マクドウォールです。後にあちこちで見かけることになりますが、ジャンル映画としては『ヘルハウス』(1973)、『フライトナイト』(1985、監督:トム・ホランド)、『フライトナイト2 バンパイヤの逆襲』(1988、監督:トミー・リー・ウォーレス)などが思いだされるでしょうか。

 霧の這う荒野で岬のように突きだした岩の上で三人の魔女が鍋を煮だたせ、泥人形を引っ張りだす冒頭に続いてオープニング・クレジット、同じ場所で騎馬のマクベス(オーソン・ウェルズ)とバンクォー(エドガー・バリアー)が魔女たちに出会って予言を授かる。雷鳴付きです。魔女たちの顔はいつも陰の中です。合流した司祭が魔女たちに長い杖の先の十字架を突きつけます。杖の先の十字架という小道具はこの後も登場することでしょう。司祭は巻き毛のお下げを左右に垂らしています。魔女たちがそれぞれY字状の杖を差しあげる云々といった序盤を経て、約10分、手前を馬で横切るマクベスの後景彼方に、山上の城が見えてくる。城の本体は太い5基の塔からなりますが、いずれも岩山から生えでたかのごとくです。手前と奥の城の間の荒野には霧がたなびいています。
 続いて中庭から城門付近が映されます。城門はアーチ状をなすものの、その左右および橋状の上部はごつごつとした岩の塊のようです。橋状上部の通路はやや下がりながら右に伸び、そこから手前に幅の広い階段がおりてきます。階段の右上には物見らしき岩の小屋が配されている。
 岩山に沿った下の道を走る騎馬のマクベスがかなり上から見下ろされた後、次に登場するのは中庭の一角でしょうか。床は平らにならされていますが、左奥で下ってくる部分は崖状で、その右は欄干が伸びるにせよ、その欄干はやはり岩を削りだしたかのよう、しかもいやに低い。手前右でも上から崖状の壁がおりてきています。そこでシルエットと化したマクベスと夫人(ジャネット・ノーラン)が再会を喜びあうのですが、奥の低い欄干の向こうには門型の木組みが絞首台として、罪人を吊るしているのでした。絞首台の左にはやや斜めになった細く背の高い十字架が立てられています。


 前の領主が斬首され、横に並ぶ太鼓隊が太鼓を打ち鳴らす。いずれもかなり下から見上げられます。
 続いて岩山の裾でしょうか、その下を小さく左から右へ軍が進みます。山の裾からは岩なのか塔なのか、どちらともとりがたい縦長の塊がいくつか生えだしていました。
 ダンカン王の一行が到着しました。祈りの際、兵の一部は城門右手の階段をのぼり、終わると下ります。細く背の高い十字架の先端に先領主の首が突き刺してあります。

 マクベスと夫人がほぼ真上から見下ろされます。夫人がダンカン王たちを追って階段をのぼると、カメラは右下から左上に回る。階段をあがった先、角には物見があり、左にゆるい傾斜の通路がのぼってきます。幅は狭そうです。欄干はやはり低い。手前で水平になる。通路の左右は宙空のようで、どうも城門の上の橋状部分ということらしい。王たちは手前で左へ折れます。そこに王のための部屋があるのでしょう。先に映った階段は城門の右にあったわけですが、その先の棟の左側にものぼり階段がありました。

 画面右辺に沿ってシルエットと化したマクベスが立っています。仰角です。向こうからやって来たバンクォーがその左に立つ。続く夫人とマクベスとのやりとりの際は雷が鳴っています。城門を叩くノックの音が延々と続きます。マクダフ(ダン・オハーリヒー)でした。
 右の階段をのぼって城門の上を通る通路の左、王たちが入った棟の下方が見えます。右の側面に出入り口のある棟に接して、左にももう一つ棟がありますが、こちらはやや白っぽい。いずれも下方に末広がりの輪郭で、壁面はごわごわでした。
 司祭を始めとする人々が狭い廊下を走ります。撮影は同じ場所かもしれませんが、見かけはいくつもの廊下が錯綜しているように映る。
 マクダフの妻(ペギー・ウェバー)が時計では昼なのに暗いままだという。


 洞窟状の通路をマクベスが右から左へ進みます。先は寝室でした。通路と寝室の境に、縦に幾本も溝が走る柱のようなものが見えましたが、すぐにカーテンだとわかります。寝室はその左奥にあるらしい。
 マクベスは手前左へ数段下ります。先に暗い通路だか部屋だかがあり、中央部ですぼまった太い柱だの不定型な柱だのが立っています。


 約42分、魔女たちの再登場を経て、歪んだ鏡に王冠を戴くマクベスが映る。玉座の間も洞窟状です。右へ進むと屋外に出る。城門上の橋状通路でした。右の下り階段に向かいます。昼間です。

 竿につけた縦長の旗が並ぶ中をマクベスが進みます。仰角です。屋内を通りぬけ、城門の向かいで中庭に面した玉座があるらしい。かなり高い位置です。背後の壁は皺のよった岩壁でした。マクベスが下から見上げられ、中庭の夫人が上から見下ろされる。高低差が甚だしい。夫人の右後ろに階段が見える。画面上辺沿いに洞窟状の縁取りが映りこみます。
 二人の客人が来ます。玉座の手前にはのぼり階段があるらしい。マクベスはバンクォーとその息子の暗殺を唆す。中庭の欄干の外に節くれだって爪のような木の枝が左から伸びています。画面が溶暗すると、やはり木の枝が映りますが、そこではバンクォー親子を暗殺者たちが待ち伏せしていました。

 約53分、古城映画的山場です。暗殺者たちは洞窟状の通路を奥から手前に進んできます。仰角です。先に扉口の仕切りがあり、右からマクベスが出てきます。天井も洞窟状です。
 マクベスは左から進んできて、角で折れて右奥へ向かう。切り替わると奥から手前に進みます。その姿はシルエットと化しています。下からの視角です。切り替わって、また奥から手前へ進む。水でしょうか、ぼこぼこ泡立つような音が聞こえてきます。その音が速くなります。また奥から出て右に進むと、先に上から水が流れ落ちる壁がありました。
 さらに右へ、大きな酒樽の脇を通って、宴会場に着きます。ここはいやに天井が低く、中央で下に垂れているように見える。


 約57分、宴の席で憔悴したマクベスが眼を見開き、右の方を指さします。壁に指の影のみが右へ動く。バンクォーの亡霊がマクベスにだけ見えたのです。ダンカンの亡霊も現われます。
 マクベスは左へ走ります。すぐに中庭に出る。欄干の一部が岩として盛りあがっています。背後の空に何やら木の枝らしき影が映っています。十字架を戴く教会の屋根らしきものもありました。雷が鳴る。稲妻も光ります。
 約1時間4分、魔女たちの声のみが聞こえてきます。マクベスは闇の中、下に小さく配されている。バーナムの森がダンシネイン(の城)に向かわぬかぎりマクベスは無事だという。カメラは下降しながらマクベスに近づいていきます。

 洞窟状通路の交差点です。手前の部屋にマクダフ夫人と子供たちがいました。右奥にも開口部があるのですが、最初はその左寄りに、方形の鱗状の何かが2列縦に並んでいるように見えました。すぐに窓の中央に柱が立ち、柱から左右互い違いに魚の骨状の横桟が出ているとわかります。その向こうから司祭が現われ、マクダフ夫人に警告する。
 しかし虐殺が始まってしまいます。ここまで夫以上に気丈だったマクベス夫人は、この時点で揺らぎ始めたようです。
 なお洞窟状の壁からして、舞台はマクベスの城かと思っていましたが、この後の司祭とマクダフたちの会話からすると、マクダフの城ということらしい。この映画では当時のスコットランドの城はいずれも岩山を削りだして造られたかのごとくであります。


 野原に立つ大きな石のケルト十字が下から見上げられます。その下に王子マルコムとマクダフ、もう一人がやって来ます。追って司祭も合流する。

 約1時間16分、マクダフの軍勢が進攻します。細長い竿の先は十字架で、円を背負っている。それがたくさん、兵たちの手にあって林立しています。
 崖に沿って巡る道を逃げだす面々が上から見下ろされます。
 マクベスは中庭からすぐの部屋に入ります。夫人が病に臥していました。左に窓があるのですが、そこには魚の骨状桟が付いています。
 霧の中、バーナムの森が動きます。『蜘蛛巣城』でもそうでしたが、劣らずけっこう無気味です。
 夜の中庭、手前で医師と小間使いが話しています。背後、階段の上から夢遊病の夫人がおりてくる。左上へ通路が伸び、右上に物見がある。夫人と二人の間には岩の斜面があります。夫人は階段を下りながら手を拭います。おりて前進、カメラは後退します。二人は右後ろに配されている。手前にマクベスが現われます。


 約1時間30分、ねじくれた枝の目立つ荒野を霧が覆う。蠢く森の姿は『人類SOS』(1963、監督:スティーヴ・セクリー、フレディ・フランシス)におけるトリフィドの群れを連想させずにいません。
 城の外観に続いて、夫人が走ります。中庭の縁に、幾本も先すぼまりの高い岩柱が並んでいることがわかります。さらに先にはいくつも魚の骨状桟がありました。マクベスも追ってきますが、夫人は身投げし、はるか下へ落ちていく。
 延々と夜の霧だけが映り、そこにマクベスの台詞が重ねられます。


 森動くとの報せが寄せられる。伝令は中庭に、マクベスは右上、背後を上から見下ろされます。高低差が大きい。
 マクベスがかなり高くから見下ろされるかと思えば、床の高さから見上げられたりします。俯瞰の際には中庭の大振りな石畳が不定形に近い模様をなします。絞首台に吊るされた罪人がほぼ真下から見上げられたりもする。
 約1時間36分、動く森が兵士たちに変わる。マクベスが槍を投げつけると司祭を貫きます。軍が城内に侵入、通路を走ります。
 マクベスとマクダフがチャンバラします。階段で、門の上の通路で、迫力を欠いてはいませんがややカットの切り返しが多い。
 魔女の叫びが聞こえる。洞窟内です。チャンバラ再開、背後の壁に縦長な半円アーチ状窓の光と魚の骨状桟の影が落ちています。マクベスの首が転げ落ちる。


 昼間の城外観です。カメラは後退する。霧這う中、中景の丘で三人の魔女が背を向け、城の方を見ています。いずれもY字状の杖を手にしている。前にも出てきた夜の霧だけの画面をはさんで、魔女が振り向きます。顔はやはり見えない。
Cf.,  フランソワ・トリュフォー、山田博志訳、「ウェルズとバザン」、『シネアスト』、no.2、1985.9:「特集 オーソン・ウェルズ」、p.51
(『上海から来た女』について;pp.50-51。
また同特集から兼子正勝、「表面の力学」、pp.188-189)

バーバラ・リーミング、宮本高晴訳、『オーソン・ウェルズ偽自伝』、1991、pp.357-360, 362, 371-372 など
(『上海から来た女』について;pp.344-354 など)


アンドレ・バザン、堀潤之訳、『オーソン・ウェルズ』、2015、pp.5-8, 45-48 など
(『上海から来た女』について;pp.42-44 など)

Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, pp.297-300

原作については→こちら(『蜘蛛巣城』)を参照
シェイクスピアに関連して→こちらも参照
おまけ      『オセロ』(1952)のおまけでシャセリオーの作品を載せましたが、同じ画家には『マクベス』に取材したものもあります。魔女だの亡霊が出てくるので、こちらも紹介しておきましょう;
 
シャセリオー《マクベスと三人の魔女》1855
シャセリオー
《マクベスと三人の魔女》
1855

シャセリオー《王たちの亡霊を見るマクベス》1849-54
シャセリオー
《王たちの亡霊を見るマクベス》
1849-54

シャセリオー《バンクォーの亡霊》1854
シャセリオー
《バンクォーの亡霊》
1854

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 2016/3/18 以後、随時修正・追補
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