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ハムレット
Hamlet
    1948年、イギリス 
 監督   ローレンス・オリヴィエ 
撮影   デスモンド・ディキンソン 
編集   ヘルガ・クランストン 
 美術   カーメン・ディロン 
 デザイナー   ロジャー・K・ファース 
    約2時間35分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ 

一般放送で放映
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 ローレンス・オリヴィエが監督・脚本・主演をつとめたシェイクスピア悲劇の映画化。亡霊は出てきますが、事態を動かすきっかけに留まっています。とはいえ舞台は古城です。この作品では、航海の場面(模型かと思われます)、オフィーリアが彷徨する野原、城の脇にある墓場をのぞけば城の外に出ることがなく、周辺の街とかも出てきません。そもそも城門も玄関も映らない。しかも幾種類もの空間が登場します。一部隣接するものをのぞけば、空間相互の位置関係はよくわからないのですが、それこそ古城が一つの宇宙であり、一つの宇宙もまた城であろうゆえんなのでしょう。
 オリヴィエはもともと舞台俳優から出発したとのことではあり、演劇のことはまったくもって詳しくないので、劇場での舞台装置と映画のセットの関係についてとやかくいう資格はもちあわせておらず、加えて戯曲の台詞運びと映画の撮影やカット割りとの関係については言わずもがなのですが、カメラはぐいーんぐいーんとよく動き、セットもあちこちの角度から映してくれたりします。電波状態が悪い時、VHSに3倍録画したという態なので、きちんと見るのはまたあらためてとなってしまいますが、ご容赦ください。

 タイトル・バック早々、夜空の下、デンマークはエルシノア城のシルエットが黒々と浮かびあがります。これは文字どおりシルエットで、細部はいっさい見分けがつかない。下の方では波が打ちよせ、視点は海面近くの高さにあるということなのでしょう、両端が高く、中央が谷状にくぼんだ岩山のようです。見てとれるのは手前に低い丘状のもりあがりがあることくらいです。後のロジャー・コーマンによる一連のポーもので、同様の仰角ショットがしばしば挿入されたことが思いだされるところでした(→こちらを参照)。
 次いではるか上空から、城が見下ろされる。やはり夜で、下手前に円塔があり、そこから城壁の歩廊が曲がりくねりながら伸びているのがわかるばかりです。霧とともにプロローグのナレーションが語られ、今度は円塔の屋上がより近く、やはり上空から見下ろされ、接近していく。屋上には数人の人物がいて、何かを肩に抱えあげているようです。奥にはやはり歩廊が伸びています。近づいたと思ったカメラは、二段階で後退していく。
 暗がりの中、城壁の間を縫うように、階段が折れ曲がりながらのぼっていくさまを、カメラは下から見上げます。見張りがそこを登っていく。三人になった見張りたちは、屋上で亡霊の出現に立ち会うのでした。三人が異変に気づいていきなり振り向いたかと思うと、カメラは前から、次に、背中から、また前からと切り替わって、顔のアップとなる。今度は上から見下ろし、回りこんでほぼ水平になる。手前にいる背を向けた三人はからだと手にした槍を斜めに傾けつつシルエットと化し、霧に包まれた奥から鎧亡者が現われるのでした。


 溶暗を経て、カメラは左から右へパンしつつ下向きになり、階段をくだります。塔の室内が映され、次いで下の階の回廊、長机や椅子にオーヴァラップしつつ右から左へ、何かを少し上向きでとらえ、少し下にある半円アーチ、前進しつつ上にある室内、一つにはキリスト像を据えた台があり、一つには奥に大きな寝台がある部屋を映す。さらに進めば向こう側には吹き抜けに二層に分かれた壁があり、下の層には真っ暗になった半円アーチが並び、上の層も半円アーチの前に三人の喇叭手が立つ。カメラによる城内巡りは後に中盤に一度、末尾でもう一度登場します。なお長机は宮廷会議で用いられるものであり、椅子はその際ハムレットが坐するもの、キリスト像のある部屋は現王が懊悩する場所で、大きな寝台があるのは王妃の部屋と、いずれも後に出てくる場面を予告する役割を担っています。

 さて、喇叭手たちのいる同じ眺めが少し角度を変えて、手前に大きく横向きの王と王妃が坐っています。さらに角度が変われば、二人の背後には、暗くなった中、幅の狭い半円アーチが並ぶアーケードが離れてあり、屋外のようで上は空となっている。今度は王を背から見る位置になると、向かいの左側は半円アーチのある壁、右手にはやはり半円アーチの向こうに上への階段がのぞいています。王の前には長いテーブルがあって、ここで宮廷の会議が開かれているらしい。
 この広間の配置は、かなり上から見下ろしたショットになって、ある程度はっきりします。広間は幾本もの太い円柱によって支えられており、円柱の位置は左右でずれているようです。かなり大きなカーテンが円柱にからみついています。中央には長いテーブルが画面に対し縦に置かれ、奥へ行くと数段あがって、その先がバルコニーで幅の狭いアーケードがある。左側の二段の壁は上段に喇叭手たちがおり、下段のアーチのいくつかでは奥に壁画が描かれています。この城ではところどころに壁画が見られ、ルネサンス以降の写実的な描写でなく、たぶんに様式化された紋様風のものです。中世風の様式ということなのでしょう。右の少し奥には半円アーチの向こうに折れ曲がった階段が見える。
 これらを経て、カメラはハムレットの顔を大写しでとらえるのでした。ことほどさようにこの作品では、カメラの動き、カットつなぎ、フレーム内への人物の出入り等がある種の柔軟さをもって処理されているように思われます。これは以後何度も出くわすことになるでしょう。

 広間で幅の狭い半円アーケードの反対側にあたる方へハムレットが目をやると、大きな騎馬像が描かれた壁の左向こうに、少し斜めの位置で、半円アーチを連ねたトンネル状の廊下が見えます。そこをカメラとともに抜けると、円塔状の望楼のような部屋があります。そのまわりは外に面した円弧状の歩廊に囲まれていて、奥の方へ続いている。奥の方からレイアーティーズが現われ、回りこんで入口で背を向けます。望楼の外壁は石積みですが、内壁には斜め格子の交点に配するようにして、紋章のような模様が散らされています。カメラは左に右に動いて内部を見せてくれる。手前に入口、その向かいに出口があって、扉はついていないようです。出口の左隣には凹ませて窓がうがたれており、その前にオフィーリアが坐っている。窓の向こうには野原が見えます。窓や出口の上方は半円アーチが連なっていて、波形に刻まれています。出口のアーチを支える柱には浅い螺旋が刻まれている。出口の右側には上への階段があります。
 望楼を囲む歩廊には、下へおりる湾曲階段があるので、地面より高い位置にあることがわかります。上から見下ろされたそれは、けっこう高そうに見える。他方後の場面では、城外の野原からオフィーリアが走ってきて、この望楼を通り抜けます。するとすごく高い位置にあるというわけでもなさそうです。


 広間の方から見ればトンネル状廊下の左側、広間の奥の突きあたりの幅の狭い半円アーケードに対しては右側にあたる位置には、半円アーチが三つ並び、両端は奥に扉があるようにも見えますが、真ん中のアーチには上への階段があります。この階段はすぐに折れて左上へのぼっていくのですが、屋内ではなく、外壁に沿って設けられている。後の場面で、三つのアーチの右手にも、柱を経て半円アーチがあり、そこには右下から左上へのぼる階段が見えます。また同じ側で、円柱と壁の間は側廊状の空間で、壁を上半が斜めになった付け柱が支えています。このあたりでハムレットはホレイショーたちから亡霊の出現を告げられるのでした。

 冒頭同様、夜の海面から見上げた城のシルエットをはさんで、ハムレットが父の亡霊に対面するべく、日本語字幕にいうところの「露台」で待機する場面です。そこから見下ろすと、奥に半円アーチが並び、手前が中庭のようになった部屋で宴が催されています。その部屋の屋上には大砲が据えつけられており、中庭の右側には細い階段だか欄干がのぞいています。
 さて、亡霊の気配を感じたハムレットと3人の連れに対し、カメラは後退する。ハムレットは剣を逆さにして十字を作りながら、亡霊に従って上への螺旋階段をのぼります。まずは足もとだけが映されます。ハムレットの正面のアップは後頭部のアップに切り替わり、上からのカットに切り替わっては上昇し、また上からのアップを映して、再びゆっくりと距離をとる。
 亡霊の言葉で父の死の真相を知らされ、ハムレットが復讐を思う場面では、屋上で縁からのりだしたところを下から見上げます。この構図は後の"To be or not to be …"の場面で反復されることでしょう。ハムレットが三人に亡霊の件に対する沈黙を誓わせる際には、カメラは床近くから四人を見上げます。


 次に王と王妃がポローニアスと相談している部屋は、先の会議の広間とは別のようです。二人の前には両側をたくしこんだカーテンにはさまれ、三つ半円アーチが並んでいる。アーチの奥には壁画が描かれています。左側に階段が覗いています。右側には幾重かになった半円アーチの出入り口があり、その左脇の壁には頂点を上に向けた暗色の四角形がかけられています。王・王妃の背後の壁は、人の背より低い高さで区切られ、その下に実物ではなく、絵か浮彫による半円アーチが並んでいる。
 先の半円アーチの出入り口の上部は、四角錐状になっていて、右手にも頂点を上に向けた暗色の四角形があります。それらのちょうど向かい側、中2階にあたる位置から、柱だか壁の陰で三人を見下ろすハムレットの背が見えます。ハムレットの立つ中2階は部屋に沿って前後に続いているのですが、カメラがハムレットの正面に回れば、彼はいったん手前に出てから左側に折れ、向こうに廊下か何かの空間が見える。その床は低くなっていて、そこへおり、それから右に曲がる。単に戸口があることでその向こうもあるということを伝えるだけでなく、向こう側にも何らかの構造があることが示される。ぱたぱたぱたっと膝を叩きたくなるところでした。
 また三人のいる部屋側からの視点になります。画面奥の壁は左側下段に半円アーチ、それから柱を経て、右側も二段になっているのですが、これは左手より二段目は少しだけ低く、しかし床よりはじゅうぶん高い。下の段の右側には、何か図柄のある円が飾られている。この右側の二段目、半円アーチになった奥からハムレットが姿を現わします。奥の方にもアーチが連なっています。さらに右には太い柱があり、その裏を通って、右側にある階段をおりてくる。走り回りたくなる場面でした。しかしまだ続く。
 ハムレットの頭越しに床に立つポローニアスをかなり急角度で見下ろすカットに続いて、ハムレットはさらに右へ歩みます。斜めにカーテンがかかる下には頂点を上に向けた暗色の四角形のある半円アーチ、そのさらに右手、奥に窓が覗く段を下り、それでも床にいるポローニアスに対して、肩の下の高さほどある通路を右へ向かいます。カメラは後退しながらそれをとらえる。通路の幅は狭く、壁は柱と柱の間にぽつんぽつんと紋様風の人物の壁画を配しています。
 進んだ先には三角アーチが開いています。この城内ではほとんどのアーチが半円形で、尖頭アーチは見当たりません。ここでの三角アーチは曲線を描く尖頭アーチではなく、直線からなっています。ハムレットは三角アーチの中に入り、すぐ右隣にある同じく三角アーチから出てくる。手前には床への階段があります。階段の右手の壁には中世風の様式で受胎告知が描かれています。
 セットの中を人物が移動することで、見るものの視線ないしカメラも動くというのは、劇場の舞台でも可能でしょうから、これが映画固有の出来事かどうかは速断できないのですが、何にせよ動くことのできるだけの空間があり、しかもその空間がからっぽの箱ではなく、何らかの仕方で分節されているということ、これこそ古城映画の醍醐味にほかなりますまい。


 受胎告知が描かれた壁の右にあるアーチの奥からオフィーリアがやって来ます。オーヴァラップするようにオフィーリアが登場するのは、少し時間を置いたということでしょうか。何段かに分割された半円アーチの向こうにはそれなりの広さのある空間があって、その奥に斜面になった屋根のある半円アーチの出入り口が見える。出入り口の奥では、雲に日が隠れ、また明るくなります。
 オフィーリアが上半身だけになるまで前進したかと思うと、画面右端から手だけが出てくる。ポローニアスの手です。ポローニアスと王は左手の半円アーチにかかったカーテンの陰に隠れます。カーテンの脇の半円アーチを支える柱は人像柱になっているようです。右側には間を開けて円柱が二本、左のものは波形、右のものは螺旋の刻み目が施されている。その奥の壁には壁画。けっこう広いこの部屋の中央、床に石の書見台のようなものが据えてあります。「尼寺へ行け」の場面です。二本の円柱の奥の壁の向かい側が三角アーチ二つと受胎告知の壁にあたり、一方カーテンのある半円アーチの壁の向かい側には上への幅の広い階段があり、そこをハムレットは駈けのぼる。
 カメラは階段の下の方で泣き伏すオフィーリアを見下ろし、さらに後退・上昇します。暗い螺旋階段を上へ、すると途中ではるか下にオフィーリアのいる階段が見え、しかしそのまま上へ。暗がりを経て、また螺旋階段に出れば、向こう側は屋外で霧に閉ざされている。上昇の速度が増し、柱がくり返されます。これは同じカットを反復しているようです。カメラによる二度目の城内駆けあがりの段です。たまりません。
 雲に覆われた空を見上げたかと思えば、そのまま同じカットで、波打つ海を真上から見下ろす。少し下がってハムレットの後頭部が映り、今度は思いきり接近します。近づきすぎて暗くなっては、また岸辺を真上から見下ろす。"To be or not to be …"の場面です。
 胸壁にもたれるハムレットを下、つまり空中から見上げ、接近して額のアップ、また全身を映し、静止して長廻しとなります。ちなみにすぐ後で、ここは円塔の屋上で、その端に長方形が接続して、下への階段になっているらしきことがわかります。


 劇中劇とその準備の場面。暗がりから役者たちが現われる。手前には幅の広い階段が数段、おりています。向かいは大きなアーチを経て、別の部屋になっており、奥の方も二段アーチです。ここが稽古場であり舞台ともなります。加えてクライマックスの舞台ともなることでしょう。
 奥の二段になった壁の下段には半円アーチが並ぶ。左手には左下から右上へのぼる階段が大きく見えます。右端には波形を刻んだ円柱。半円アーチの前は、少し間をとって低い段が数段あるのですが。床との中間の段では、中央で踏面が楕円状に広くなっています。また蹴上げはいずれも縦縞が施されている。
 いざ上演となると、奥の二段壁上段の通路を、右から王と王妃たちが出てきて、階段をおりてきます。階段の上の方に光があたっています。階段は下に行くほど幅が広くなる。ただしこの階段は先ほどの舞台左手の階段とは別のものです。こちらの階段の前の床は、屈曲した段差があり、そこに王と王妃の席が据えられます。また階段の右の下段はやはり半円アーチが二つ、さらに右に、光のあたった円塔状の設備がある。舞台はこの向かい側にあたります。つまりこの部屋では、舞台に向かって奥の壁が二段になって、その左端からおりる階段が一つ、背中の側にも奥は二段の壁で、その右端からおりる階段がもう一つあって、部屋に対し斜めに向かい合わせになっているわけです。
 客たちが席に着き、先ほどの縦縞階段の奥の方から役者たちが登場すると、カメラは周囲をドリーします(この場面でのカメラの動き、カット割りなどについては、下掲のジュパンチッチ論文を参照ください)。


 劇中劇とパニック、雲談義の場面を経て、ハムレットが螺旋階段をのぼるさまを下から見上げれば、王が懊悩する狭い空間です。左には小さな祭壇があり、その上に決して華やかでも大きくもないキリスト像が据えられている。始めの方のカメラ城内巡りで映った場所です。端には上への階段が見えます。この階段を上から見下ろせば、影がのぼってくる。王妃のいる部屋で、この部屋は円形をなしているようです。壁は柱をはさんだ半円アーチで区切られ、そのカーテンの陰にポローニアスが身をひそめます。一方には大きな寝台がある。この寝台も、冒頭の城内巡りに登場していました。
 ハムレットが首から上のアップ、奥にいる王妃が小さく同じショットに映されたかと思えば、手前に大きく王妃、奥に小さくハムレットと、大小が極端に対比されたカットが切り換えられます。またこの場面では、奥にいるハムレットと王妃を正面から、少し離れてとらえるショットがあって、これはハムレットだけに見える亡霊の視点によるものなのでした。


 ハムレットが英国へ送られた後、オフィーリアが川にかけられた小橋を駆け抜け、円塔状の望楼から半円アーチが連なる廊下を通って、宮廷会議が行なわれていた広間の前の空間に出ます。以前の廊下から望楼へと進む場面の際にはよくわからなかったのですが、ここもけっこう広い。天井はありません。カメラが右から左へなぞると、まず右の方には幅の広いアーチがあって、階段が覗いています。左手には左下から右上への階段で、半階分ほどで室内への半円アーチ。後に同じ起点から、右下から左上への階段があることもわかります。二つの階段の間には柱がたち、左手の階段に沿った壁には、染みなのか、地図なのか判然としない模様がいっぱいにひろがっています。王妃は左、王は右の階段をそれぞれのぼる。さらに左には、上方に三角の列の浮彫を刻んだ円柱があります。
 余談になりますが、右手の幅の広いアーチからハムレットの書状を王たちに渡すべく登場するのが、ピーター・クッシング(カッシング)でした。大昔に本作を見た時は、それ以前に『吸血鬼ドラキュラ』(1958)あたりを見ていてもおかしくないのですが、少なくとも気がついたという記憶は残っておらず(『赤い風車』(1952、監督:ジョン・ヒューストン)では気がついた(と思います)。もっとも同じ映画に出ていたクリストファー・リーについては憶えがない。 [ IMDb ]によれば何と!新印象派の創始者ジョルジュ・スーラ役とのこと。そもそもリーは『ハムレット』にも槍を持つ兵士役で出ていたそうですが、こちらも気づかずじまいでした。ただし"Lights!"という号令のみで姿は映らなかったとのこと)、今回久しぶりに見直すにあたって、タイトル後の出演者一覧に名前を見つけてこの方、今か今かと待ち構えていた次第です。明るい衣装をまとい、大仰な身振りで、いささかちゃらちゃらした廷臣を演じています。クライマックスでは試合の審判もつとめていました(唐沢俊一、「私的ピーター・カッシング体験」、p.52 でちゃんと述べられていました)。
 アーチの下はゆるい下り坂になっているようにも見えます。アーチの向こう、右よりでは、階段がくだってきています。
 他方、半円アーチが連なる廊下は、床にアーチを支える柱ごとに影が落ちています。オフィーリアは望楼のある手前から奥のテラスへと進む。この廊下を出ると、廊下を右にする位置でオフィーリアと兄のレイアーティーズが対面する。兄の右後方には少し高い位置に上への階段のように見えるものがありますが、これは階段ではなく、柱の上部がそのような形で壁に接続しているということのようです。さらに右手には廊下への半円アーチがあります。ここでアーチ部分が装飾的な円の連なる帯で囲われ、支え柱は柱頭部分が細い列柱、その下は角が刳られていることがわかります。オフィーリアはいったんしゃがみこみ、それから立ちあがるさまが下から見上げられる。背後には刳られた柱の角がなすギザギザとその上の細い列柱が見えます。


 オフィーリアが柳の垂れる小川を歌いながら右から左へ流れていく場面では、岸辺に草むらが茂っており、ラファエル前派第一世代のジョン・エヴァレット・ミレーの《オフィーリア》(1851-52、下掲参照)が連想されずにはいません。ただしミレーの作例では頭が左にあるのに対し、本作では頭は右で、足の方へ流れていく。戯曲ではオフィーリアの死の状況は王妃の口からレイアーティーズに伝えられるという次第になっており(第4幕第7場)、舞台でも伝聞の形にとどめたのか、何らかの方法で視覚的に表わしたのかはわかりませんが、少なくとも現在の時点では、ミレーや先行するドラクロワの作例(油彩:1838、1844、1853、石版画:1843;橋秀文、『ドラクロワとシャセリオーの版画』、p.37、pp.95-96 を参照)などによってそのイメージが影響されるようになってしまいました。
 石のケルト十字架に先導された続く墓場の場面では、同様に、ドラクロワの油彩(1839、下掲参照)や石版画(1843)が思い浮かびました。この墓場は谷間のような窪地にあるらしく、白っぽく映り、上空から俯瞰されます。右側には城の塔が見えます。
 塔の下、すぐ脇には階段があってレイアーティーズと王がのぼっていく。壁に小さなアーチがあり、板扉がつけられています。そこをくぐると、数段おりて、騎馬像のある広間、すなわち宮廷会議の行なわれた部屋です。奥に上への階段がのぞく。広間がやはり、1階に相当する高さにあることが確認できたわけです。

 レイアーティーズと王がはかりごとを相談する場面では、カメラは後退しつつ上昇して離れたかと思えば、また近づき、それからさらに上昇する。カメラだけが中2階を左から右へ動くと、壁を経て、階段に続く半円アーチで、そこをハムレットがおりてきて。ホレイショーと合流します。さらに右には半円アーチを重ねた窓、向こう側は外です。この場所も屋根のない城壁に沿ったところのようです。また狭い銃眼が二つ並ぶ壁を経て、下寄りに半円アーチ、そこをクッシング演じる廷臣がのぼってきます。ハムレットとホレイショーは下の方へおりていき、廷臣が追います。気取りと軽薄さに染められた廷臣をからかう息抜き的な場面なのですが、古城映画的にはたいへん面白い見せ場となっています。
 廷臣がのぼってきた階段をもどり、踊り場で折れ曲がる。上からおりてくる階段と踊り場で折れて下へくだる階段が同時に映るショット。下への階段の上にも半円アーチがかぶさり、奥、下の方にもアーチが見えます。塔の内側のように湾曲した階段をさらにおりていけば、左側に屋内に入るアーチがある。中は暗めで、手前はやはり天井がないため明るい。入口側に立つハムレットとホレイショー、階段側に立つ廷臣がカットを切り換えられて映され、内外の明暗が対比されます。
 屋内に入れば、しばらく列柱が並ぶ空間を手前に進む。柱には壁画を施されたものがあります。右に折れてさらに下へおりると、奥の空間に対しけっこう高い位置にあるらしい床に達する。左手には二本の円柱が立ち、右側の柱は山型に刻まれ、左側の柱は菱形らしき形に覆われています。そうこうして、奥の下にある部屋が舞台の間であり、今の位置が壁沿いの中2階の通路であることがわかる。手前の床から階段をくだれば、舞台側に出る。斜め向かいには、劇中劇の際、王と王妃たちが出てきた中2階の通路と、そこからくだる階段があります。ちなみに中2階の通路の背後にあるアーチ列の向こうは、前回は夜だったためわからなかったのですが、空になっています。


 ハムレットとホレイショーが俯瞰から仰角に切り換えられ、ハムレットとレイアーティーズが並べば、こちらを向く前者だけ光が当てられ、背を向ける後者とそのまわりは暗い。そしてハムレットのアップになる。
 二人の試合はまず上からとらえられ、カメラは遠ざかっては近づく。全体に暗く、明暗の対比が強い。試合開始にあたっては、切っ先だけがアップになったりもします。ちなみにチャンバラはけっこう迫力があります。また劇中劇およびその後の場面に続いて、ここでも現王が存在感を放っています。


 事が終わってしばらく真っ暗になり、カメラは右から左へ動く。奥の方では弔砲が鳴らされ、その前を横切って、ハムレットの遺骸を四人が担いで運ぶ。数段おりて真っ直ぐ、右奥へ進む。回ってまた右奥へ、遠くで弔砲、手前下では椅子の上部がシルエットと化している。宮廷会議の場面でハムレットが坐っていたものでしょう。カメラは椅子を見下ろしながらぐるっと回る。ここまで1カットで映されます。暗がりを経て、螺旋階段をのぼってくる四人を上から見下ろし、カメラは付き従ったかと思えば追い越され、のけぞったハムレットの顔がアップになります。そのまま回りこんでさらに階段、回れば奥にキリスト像のある部屋がのぞく。暗がりを左下から右上へ、今度は王妃の部屋が見え、冒頭同様少し接近したかと思うと、また暗がりを左下から右上へ、暗がりは空となる。塔とその左側に接した階段が真横からのシルエットとして映され、そこをのぼる四人をカメラが後退しながら見上げる。開幕直後に塔の上にいた人物たちは彼らだったわけです。そして左上にエンド・マークが刻まれるのでした。
Cf.,  レオン・バルサック、『映画セットの歴史と技術』、1982、p.152

たまたま見かけたのですが、本作の劇中劇の部分をとりあげているのが;
アレンカ・ジュパンチッチ、「完璧な死に場所-ヒッチコック映画における劇場」、スラヴォイ・ジジェク編、鈴木晶・内田樹訳、『ヒッチコック×ジジェク』、河出書房新社、2005, pp.111-154、とりわけ pp.131-134
原著は
Slavoy Žižek ed., Everything You Always Wanted to Know about Lacan (But Were Afraid to Ask Hitchcock), 1992

原作については各種の邦訳があることと思いますが、とりあえず;
シェイクスピア、福田恆存訳、『ハムレット』(新潮文庫 赤 20C)、新潮社、1967
シェイクスピアに関連して→こちらでも触れています


Mark A. Miller, Christopher Lee and Peter Cushing and Horror Cinema, 1995/2010, "3. Two Fortuitous Pairing. Hamlet (1948), Moulin Rouge (1952)"より pp.28-32

David Miller, Peter Cushing. A Life in Film, 2000/2013, pp.25-26

The Christopher Lee Filmography, 2004, pp.10-11
おまけ ジョン・エヴァレット・ミレー《オフィーリア》1851-52
ジョン・エヴァレット・ミレー
《オフィーリア》
1851-52

 ドラクロワ《墓場のハムレットとホレイショー》1839
ドラクロワ
《墓場のハムレットとホレイショー》
1839
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 2014/12/16 以後、随時修正・追補
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