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蜘蛛巣城

    1957年、日本 
 監督   黒澤明 
撮影   中井朝一 
 美術   村木与四郎 
 美術考証   江崎孝坪 
 照明   岸田九一郎 
    約1時間50分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ 

ケーブルテレビで放映
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 シェイクスピアの『マクベス』を、戦国時代の日本に舞台を移して翻案した作品。『ハムレット』(→こちらも参照)同様、超自然現象は起きますし、『ハムレット』における亡霊以上に本作の魔女(妖婆と呼んだ方がいいでしょうか)は宿命と戯れています。原作では三人の魔女が本作では一人に減らされたものの、その存在感はなまなかではない。主人公の見る幻なのかもしれませんが、亡霊も出てきます。他方タイトルどおり、主たる舞台はお城です。そのセットもさることながら、城を取り巻く周辺の雰囲気も荒涼としております。

 霧に包まれ、風がびゅうびゅうと鳴る山あい、両側の土手が谷状にくだってきたところに一本の碑が建てられていて、「蜘蛛巣城」と記されています。また霧に閉ざされ、それが開けると、城の全景が見えてくる。中央にはかなり横幅の広い城門があり、上に走り櫓をのせています。左右に塀が伸びていて、右の方には井楼(せいろう)が立っている。その物見はしかし、骨組みだけで屋根はついていません。この追手門を中心にした部分は、手前から見て少し高くなった丘状のところに建てられているのですが、その奥の方には、小山のようになったあたりにも櫓が見え、後の場面でそのまわりに塀が築かれていることもわかります。これが天守にあたるのでしょうか。
 カメラがやや近い位置に切り換えられると、追手門と井楼の間の部分がよく見えてきます。ゆるく右下がりに傾斜しており、そこに多聞櫓が設けられているのですが、これが一つながりのものではなく、段々と低くなっていくいくつかの段に分割されています。実例に基づいているのかどうかはわかりませんが、とても印象的でした。また追手門も含めて建物は皆グレーで、沈鬱な表情が色濃い。なおこの城は、土塁の上に木造の建物を築くという形でできているようで、石垣などはあまり見当たりませんでした。そんな中、右下から騎手が駆けあがっていき、それにつれてカメラも右から左へパンします。
 後の場面でも出てくるのですが、この城の回りには城下町の類は何もないようで、モノクロの画面で見ると荒野のようなひろがりに囲まれているかのようです。また周辺はなだらかですが、けっこう高い位置にあるようにも思われます。遠からぬところには「蜘蛛手の森」があって、これが慣れないものには迷路のように道を迷わせるという。ついでに物の怪の笑い声が響いたりもします。こうした次第ではなはだ生活臭を欠いた、寂寥感がいや増すわけです。


 城内では建物に囲まれた中庭状の部分で、「大殿」たちが戦の指揮をしています。その背後、中央に物見櫓がそびえ、その左右をそれよりは低い建物がはさんでいるのですが、右の建物の下方が、清水寺の舞台下のような格子になっています。これはクライマックスでも目立つ位置を占めることになるでしょう。
 さて、戦況を報告すべく騎手が馬を走らせる。まず追手門をくぐり、向かって右へ、第二の門を抜ける。抜けたところの画面奥にも、別の門と建物が見えます。そのまままわりこむようにすれば中庭に達するのでした。

 場面は変わって、蜘蛛手の森を走る騎馬の主人公(三船敏郎)と原作ではバンクォーにあたる相棒の出番です。カメラは離れて俯瞰、少し近づいてやはり俯瞰、次いで横からと切り替わり、しかしそれがけっこう長く続く。迷った主人公たちがたどりついたのは、黒々とした木の幹の向こうに立つ、白く輝く粗末な小屋でした。小屋といってもきちんと壁に屋根がついているわけではなく、笠状の部分も壁に当たる部分も、竹らしき何かをすかすかに並べただけであるかのようです。手前に二人の背が映っている。向かって右にあたる正面に二人が回れば、扉も竹をすかすかに編んだもので、内部が丸見えです。雨露を凌ぐ役には立ちそうにない。中には糸車を回す老婆が一人、武者二人がやたら黒っぽいのに対し、こちらは小屋同様に白い。予言を告げた後、彼女の姿は立ち消え、その先にはいくつもの髑髏が土に埋もれかけているのでした。
 その後二人は濃い霧の中を堂々巡りします。この場面もけっこう延々と続きます。やっと城の見えるところにたどり着き、入城する前に一休みするのですが、前景両端に二人が坐り、奥の方に城が見えるとして、その間の距離がかなり長そうです。しかもその間には、地面がひろがるばかりとあって、いかにも物寂しいことでした。
 城内に入った二人は予言された報償を授かります。手前に二人の背、少し向こうに大殿をカメラは下から見上げます。大殿の背後は二つの建物が交わる角になったところで、右手の建物は中層の屋根の下に板壁が右に伸びており、ぽつんぽつんと狭い窓が設けられています。


 戦功の報いに授かった「北の(たち)」が次なる舞台です。こちらは手前に田畑がひろがり、少し高くなった土台の上、低い建物が横にひろがっています。右の方には物見櫓がある。後の場面で、門の前には幅広の段が数段あり、両側の塀が木製であることがわかります。
 中は広い中庭を囲むように棟が並んでおり、主人公とその夫人のいる部屋は広い板の間です。屋内は暗く、外は明るい。
 この館に大殿の一団が宿泊することになる。大殿の寝所の前の廊下を右へ進み、折れて渡り廊下を行くと、数段あがって開かずの間があります。この部屋の壁には、自害した前の館主の血がこびりついており、洗っても洗っても落ちないのだという。後の場面でそこも映されますが、そのさまはアンフォルメルの画面の如しです。化鳥の鳴き声が幾度も響きます。
 夜、夫婦の部屋に移ると、最初カメラは上から見下ろし、坐る夫人は全身が見えますが、その背後で歩きまわる主人公は肩から下しか映りません。床は板貼りで、隅の方だけに畳が二枚敷かれています。大殿の見張りの者たちにねぎらいの酒を持っていくため、夫人は奥の木戸を開け、中に入っていく。中は真っ暗で、夫人の背もその中に消えてしまいます。少し置いて、酒を持って出てくる夫人が正面からとらえられる。
 大殿を暗殺して開かずの間にもどってきた主人公は床に坐りこむ。対するに夫人は立ちあがり、大殿の部屋の前の地面を駆け抜け、内門を開く。動きが速い。ようやく主人公も動きだし、ようやく目をさました見張りの者を、地面から上へと刺し貫くのでした。


 続く騒乱の場面では、駆け抜ける馬の脚越しに、地面近くのカメラが向こう側をとらえるといったショットも見ることができます。逃げだした二人を追って森を追跡する場面も、これまたやけに長く感じられる。
 逃亡する二人が城門前までやってくるところで、追手門の様子が詳しく映されます。門の上の走り櫓には、高さを違えた銃眼がうがたれており、また銃眼には縦長の方形のものとともに、下向きの三角のものもあります。門の左右は壁を置いて、両端では土塁が下すぼまりに下ってくることがわかります。冒頭、およびラストで碑の左右にある谷状の傾斜は、この址だったわけです。


 大殿の柩とともに主人公たちが入城する場面では、再び追手門からの経路が描かれます。追手門が開くと、少し空間を置いて、突きあたりは壁になっています。石積みのようにも見えますが、いやに平滑です。中に入れば、向かって左にも門があり、その上には横に伸びる櫓、その土台は石壁です。右方へ進み、冒頭でも出てきた、奥に門のあるところを手前へ、また左に折れてまっすぐ、奥から土台にのった上すぼまりの壁が突きだしているところを経て、さらに進めば、戦の指揮が行なわれていたあたりなのでしょう。奥の方には石の階段も見えます。また舞台下風の格子の木組みと、その右手にはそこをのぼるためのものでしょうか、いったん折れる階段らしきもの。柩を担いだ一団はさらに手前の方へ進んでいきます。

 城主の座についた主人公と夫人がいる部屋では、背後、左半分は金雲を描いた板絵がずっと伸びています。横に伸びる金雲だけが上下に重なりあって、他には何も描かれていません。下には低い台が設けてあり、右半分よりも少し手前にあるようにも見えますが、さだかではない。右半分は明るく照り返す壁で、金箔を貼ったかのようでもありますが、こちらもさだかではありません。台の上に三日月形の立物のある兜が置いてあります。後の場面で、この部分は奥に凹んでおり、畳敷きであることがわかります。
 次いで宴の間ですが、ここも奥に金雲を描いた板絵が伸びており、最初は夫婦のいた部屋と同じところかと思えたのですが、板絵の右端で角になり手前へ折れて板戸が続いていて、別の部屋であることがわかりました。この場面では主人公の目にだけ大殿の亡霊ないし幻が見え、狂乱状態に陥れます。
 バンクォーを暗殺した者が首尾を報告しに来た場面では、暗殺者が中央で背を向けて坐し、彼を始末する主人公ともども、左右相称の構図が作られていました。城門での雑兵たちの雑談の場面をはさんで、城主の間に移れば、左右手前に木戸を配しつつ、やはり左右相称の構図が再現されます。
 その部屋から主人公は廊下に出る。カットが切り替われば、廊下が正面からとらえられます。主人公は右奥から進んで、奥から手前へと歩みます。廊下左側には木戸が連なり、右手は太い柱が奥から手前へと並んでいる。右奥の方には格子が見え、その向こうに城主の間があるのでしょう。
 主人公は手前で右へ折れる。またカットが換わると、廊下の右手は縁側になっていて、途中で右側へ伸びる縁側に分岐しています。そちらでは手前の方に三段ほどの階段がおりて、地面に達している。


 宴の間に戻って、まず足もとだけのアップになる。その後全身を映し、またしても左右相称の構図が作られ、中央を奥から前へ主人公は進み、「馬を引け!」と叫びます。
 主人公は蜘蛛手の森に入り、「物の怪、出会え!」と音声を張りあげる。すると奥の土手を白い妖婆が左へ走り抜けるのでした。


 画面いっぱいに明るい丘がひろがっている。しかし下辺沿いには、森の木立の先端がひろがっています。丘の中腹あたりに、白い軍勢が散開している。かなり上から斜めに見下ろす角度ということでしょうか。
 志村喬のアップになると、その背後は旗ばかりが揺らめいています。そしてまた下辺に森を見下ろす丘の眺めとなるのでした。


 報告を受けた主人公は、物見櫓を駆けあがります。カメラも下から上へと動く。まずは2階にあたる部分が横に伸びており、床下には柱が立ち、その間は暗がりです。2階の廊下は手前に手すりがあり、その向こうに階段が見えます。下から右上がりにのぼってきた階段は、2階で左上がりに折れる。階段の向こうにも手すりがのぞいています。『大いなる幻影』(1937)での階段を駆けあがるくだりが連想されなくもない。2階の上には斜めに屋根がおりているのですが、その一角を物見が切りとっています。物見では手すりが二重になっていました。
 そこの窓から下を見下ろすと、手前には向こう側へ突きでた屋根があり、彼方に森、その手前に敵軍がいる。主人公の半身などをとらえた後、先の窓とは反対側に行けば、下方の地面に自軍の兵士たちがいっぱいに群れ集っています。カメラは水平の角度に切り替わり、次いで主人公をかなり下から見上げます。彼は物見の下の階、2階の走り櫓にいて、森が動いて攻めてこないかぎり破れることはないと告げて、喝采を浴びるのでした。


 宴の間に鳥たちが舞いこむ。この場面では宴の間の手前が、中庭に面していることがわかります。部屋の奥行きはかなり深い。
 主人公はここを出て右の廊下へ、次いで左に折れます。手前に格子、その奥に右上がりの階段があるところを経て、廊下を進めば、奥が板戸になった、さらにその先の部屋、中には衣紋掛けに着物が掛けられ、その向こうから光が射しています。衣紋掛けの着物を放りだすと、向こうで夫人がひたすらに手を洗って血糊を落とそうとしているのでした。奥の壁は照り返しています。


 主人公のアップ、その手前や向こうを逃げる男たちが走っていきます。主人公はまた物見櫓を駆けあがります。カメラはその前・上からとらえる。すると森が動いているではありませんか。
 原作ではマクベスは「女から生まれた人には討たれない」という予言がなされ、このため最後の大暴れとなります。たしかポランスキーの『マクベス』(1971)でも大立ち回りがありました。ところが本作ではこの設定は省かれています。ゆえに大暴れするどころか、恐れをなした味方から、矢を浴びせかけられる仕儀となるのでした。この時点で主人公は物見櫓2階の走り櫓にいたので、矢は下から飛んできます。カメラが地面を見下ろせば、味方勢の足もとには霧がよどんでいる。
 再び動く森が前面からとらえられます。この場面はけっこう無気味でした。城の正面が映され、霧に隠れたかと思うと、城門はもはやなく、冒頭同様に土手の谷底にある碑をながめながら、終幕となるのでした。


Cf.,  丹野達弥編、『村木与四郎の映画美術 【聞き書き】黒澤映画のデザイン』、フィルムアート社、1998、pp.85-98:「蜘蛛巣城」

五十嵐太郎、「黄金時代の美術監督-中古智、中村公彦、村木与四郎」、『映画的建築/建築的映画』、2009、pp.76-94

「村木与四郎」、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』、2014、pp.170-183

上島春彦、「矢と甕、門と室、魂と魄、あるいは白い黒澤-『蜘蛛巣城』論」、内山一樹編、『怪奇と幻想への回路 怪談からJホラーへ 日本映画史叢書⑧』、2008、pp.225-254

原作については各種の邦訳があることと思いますが、とりあえず;
シェイクスピア、福田恆存訳、『マクベス』(新潮文庫 赤 20G)、新潮社、1969

シェイクスピアに関連して→こちらも参照

同じ原作からの映画化として
→O.ウェルズの『マクベス』(1948)、およびポランスキーの『マクベス』(1971)

 2014/12/27 以後、随時修正・追補
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