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魔の家
The Old Dark House
    1932年、USA 
 監督   ジェイムズ・ホエイル 
撮影   アーサー・エディスン 
編集   クラレンス・コルスター 
 美術(室内デザイン)   チャールズ・D・ホール 
 セット装飾   ラッセル・A・ガウスマン 
    約1時間12分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ 

DVD
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 『フランケンシュタイン』(1931)に続いてホエイルが監督、カーロフが出演した作品で、原作はJ.B.プリーストリー(1894-1984)の Benighted(1927、邦訳は下記の『嵐の夜の出来事』)。嵐の夜、道に迷った面々が難を逃れた山中の館には、しかし奇妙にエクセントリックな一家が住んでいて……というお話で、超自然現象は起こりません。本作品の原題に由来するという〈オールド・ダーク・ハウス〉ものなる呼び名があるそうで、先に見た『猫とカナリヤ』(1927)などがその先例となります。詳しくは次のウェブ・ページを参照ください→「オールド・ダーク・ハウス~呪われた屋敷の一夜」[ < angeleyes ]。ちなみに『猫とカナリヤ』同様、この作品も夜が明けるまでの一夜の物語です。

 闇の中に浮かぶ館の外観は、2~3階建てくらいの、さほど高くないもののように見えます。玄関も大きくはなく、地面から高い階段を5~6段上がるという態で、裏口ではないのかとも思わせますが、少なくとも門からまっすぐ進んで着いたのがここなのでした。扉を開くとすぐ奥に階段がまっすぐ伸びています。階段はいったん踊り場をはさんでまたまっすぐ上がり、次の踊り場から左右に枝分かれする。壁には手すりが大きな影を落としています。手すりには随所に飾りが上につきだしており、最初は塔状のものが映ります。枝分かれした左の方は後の場面で描かれるのを待つとして、階段の下を右へ行くと広間なのですが、吹き抜けになった広間の壁に沿って、右に上がった階段からは廊下が続いていて、突き当たりで左に折れて、奥に上がる階段となる。この階段の先がどうなっているかは、映画の中では映らずじまいでした。

 広間は2階分の吹き抜けとはいえ、照明の暗さもあってさほど天井の高さは強調されません。壁は漆喰塗りなのでしょうか、装飾のない素っ気ないものです。奥には暖炉が、手前に大きなテーブルが置かれ、食事の場でもあれば、物語の上でも中心的な役割を果たすことになります。
 暖炉のそばには花型というのかつぼみ型というのか、ランプがかかっていて、くるりと回る短い柄で壁につけられており、下に電線らしきものが垂れ下がっています。後の場面では、暖炉の前に2本、ゆるやかにうねる柄の先に球体のついたものが床から立ちあがっていることが、暖炉の奥からのショットによって示されます。これもランプなのでしょうか(と思いきや、同じラッセル・A・ガウスマンがセット装飾を担当した『フランケンシュタイン復活』(1939)にも登場、暖炉の内と外を仕切る囲いのようなのでした)。とはいえ広間の主要な光源は暖炉で、そのため下から当てられた光によって、大きく伸びあがる影がしばしば壁に映ることになるでしょう。


 正面の階段の向かって左側はいったん壁になっており、大きな時計がかかっています。その脇には扉があり、そこから入れば暗い廊下が伸びています。廊下の左には窓が並び、カーテンが風にたなびくという、定番ですがすてきな描写も忘れられてはいません。廊下を進んで左に折れると、館の当主である老婆の若くして亡くなったという妹が使っていた部屋への扉があります。後の方には老婆が自らの部屋だという扉も映り、ということは館は玄関から廊下の分いったん左に伸び、それからさらに左に折れていることになるものと思われます。しかしこれも後に、玄関から外に出て左へ建物に沿って進み、車を停めた厩へ行こうとする場面があるのですが、そこでは建物が鉤型に折れ曲がっているようには見えませんでした。少し先には窓があって、台所でカーロフ演じる執事が嵐に感応したかのように飲んだくれています。これも後の場面では、廊下の右側に台所があるように描かれているので、筋は通っていないようなのですが、もとより物語を追うのに支障があるわけではありません。ちなみに台所は、廊下からは数段分低い位置が床になります。

 妹の部屋は暗いものの、ふつうの居室で、そこで老婆と二人のヒロインの内の一人が会話をする、というか老婆が一方的に話すのですが、その際老婆の顔が波打った鏡に映ったかのようにひずんで映されます。老婆が去った後、ヒロインが鏡台の前に坐れば、二面からなる鏡はやはり波打っていたり割れていたりするかのごとくで、ヒロインをおびえさせることになります。単純ではありますが、なかなか効果的だったのではないでしょうか。
 また老婆が着替えをするヒロインの胸元をさわろうとして逃げられる場面があるのですが、この状況は後にもう一度くりかえされます。若さへの嫉妬と憧憬の入り交じった感情を表わしたものか、あるいは同性愛を暗示したのかは、定かではないのですが(この場面は原作にも描かれています、第3章、邦訳 p.63)。
 なおその二度目は広間で起こるのですが、他の皆が席を外していて手持ちぶさたになったヒロインが、壁に映る大きな自分の影で影絵遊びをしている最中のことでした。老婆との二度目のやりとりもすべて影だけで表わされます。先にもふれたように、この映画で影が大きな役割をあてられていることの、これはもっとも端的な見本でしょう(原作ではヒロインの想像裡の出来事とされています、第8章、邦訳 pp.186-187)。


 話を戻せば、停電になったため「最上階の踊り場」にあるというランプをとりに行くべく、玄関前の階段を昇る場面がありました。左右に枝分かれしたところを左に進み、次の踊り場でさらに左へ折れます。この踊り場には老婆の弟の部屋への扉がありました。次の踊り場から今度は右に続き、湾曲した階段が伸びています。その上には真っ暗な廊下があって、奥に南京錠のかかった扉がある。
 このあたりはカメラが上から見下ろしたり、あるいは逆に下から見上げたりと、セットを縦横に活かして撮影されています。この点は後の格闘の場面でもおおいに活用されることになります。


 弟の部屋と同じ階だと思われるのですが、枝分かれする踊り場から左に上がった、次の踊り場を右に入れた先の急な階段をあがってすぐの扉を開けると、かなり広い部屋につながっていました。広間の素っ気ない白壁とはちがって、壁は板貼りで、左に暖炉と窓、床には絨毯が敷かれ、奥に大きな寝台があります。そこに横たわる老人は姉弟の父親で、100歳を超えているという。顔はぼうぼうのひげとしわに覆われているものの、声は女性の高いそれで、吹き替えかと思ったら女優が演じているとのことでした。

 格闘で階段から転げ落ちたカーロフ演じる執事が目ざめた後、最上階に幽閉されていた長兄を解放して、クライマックスとなります。これは広間で展開するのですが、それに先だって二人のヒロインを隠すのが、暖炉の脇にある扉の奥でした。これはしかし、ちゃんとした部屋なのか物置なのかは、画面だけからではわかりませんでした。また少し前の場面では、チャールズ・ロートン演じる人物が暖炉のそばの椅子に腰掛けているのですが、左側は漆喰壁なのに、右側は煉瓦か石を積みあげた壁のようで、その間にはよくわからない影が映っていたりして、暖炉周辺にはまだまだいろいろと仕掛けてあったようです。

 館に火を放つ長兄とそれを止めようとするメルヴィン・ダグラス演じる一応の主人公が吹き抜けの回廊から転落して物語は一段落となります。この時倒れた長兄に駆けつけるカーロフ演じる執事の姿が印象的です。執事はその前にヒロインの一人を追っかけ回してはいたのですが、ホモソーシャルというべきなのか同性愛の暗示なのか、あるいは単なる忠誠なのか、詳しい事情は説明されないままに終わり、ともあれ深い絆を暗示していたことでした(原作では先立つ場面で言及されています、第11章、邦訳 pp.258-259)。
 そして長い夜が明け、天候も持ち直します。ダグラス演じる人物は傷を負い、長兄がどうなったのかはわからない。火はいつの間にかおさまったらしく、終幕となるのでした。
 ともあれこの映画においては、幾度も折れ曲がりながら上がっていく階段や、風の吹きこむ廊下こそが物語とカメラを突き動かす最大の要因だったのではないでしょうか。

Cf.,  Juan Antonio Ramírez, Architecture for the Screen. A Critical Study of Set Design in Hollywood's Golden Age, 2004, p.139

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, pp.17-18

Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.38-39

原作の邦訳;
T.B.プリーストレー、河村橘雄訳、『嵐の夜の出来事』、昭和書房、1941
326ページ。訳者による序では作者名はちゃんと「J.B.プリーストレー(
John Boynton Priestley)」なのですが(p.1)、なぜか表紙、背表紙、および扉では「T.B.プリーストレー」となっています。
ちなみに原題
Benighted は「行き暮れて」と訳されています(同)。
映画の原題に対応するであろう「…(前略)…この暗い古い家に…(後略)…」という台詞が、第11章で登場人物の口に上ります(p.254)。

 2014/09/07 以後、随時修正・追補
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