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袋小路
Cul-de-sac
    1966年、イギリス 
 監督   ロマン・ポランスキー 
 撮影   ギルバート・テイラー 
編集   アラステア・マッキンタイア 
 プロダクション・デザイン   ヴォイテク(・ロマン) 
 美術   ジョージ・ラック 
    約1時間51分 
画面比:横×縦    1.66:1
    モノクロ 

VHS
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 本作では超自然現象は起きません。ただ古城がほぼ全篇を通して舞台なので、手短かに取りあげることといたしましょう。ちなみにポランスキーは続く『吸血鬼』(1967)や後の『マクベス』(1971)でも古城を舞台にしており、『ナインスゲート』(1999)にもお城が出てきたかと思います。

 ラストのクレジットで Holy Island, Northumberland, England でロケされたと記されますが、さらに[ IMDb ]では、イングランド北東のノーサンバーランド州、北海に面したリンディスファーンのホーリー島にあるリンディスファーン城 Lindisfarne Castle, Holy Island of Lindisfarne, Northumberland が挙げられています。英語版ウィキペディアによると、城は1550年に建てられたとのことです(→こちらを参照、"As filming location"の項あり。また日本語版ウィキペディアの「リンディスファーン島」も参照)。この城は『マクベス』でも用いられたという。

 主演のドナルド・プレザンスは、『死体解剖記』(1960、監督:ジョン・ギリング)や『ミクロの決死圏』(1966、監督:リチャード・フライシャー)、『ハロウィン』(1978、監督:ジョン・カーペンター)、『ドラキュラ』(1979、監督:ジョン・バダム)、『フェノミナ』(1985、監督・ダリオ・アルジェント)、『バンパイア・イン・ベニス』(1988、監督:アウグスト・カミニート)などなどなど、当該ジャンルでもお馴染みの俳優です。
 ポランスキーは前作『反撥』(1965)でカトリーヌ・ドヌーヴを主演に据えましたが、今回はドヌーヴの実姉フランソワーズ・ドルレアックがヒロイン役です。双方イギリス映画なのに主演女優はフランス人というのに何か理由があるのかどうか。ちなみにドルレアックには『リオの男』(1964、監督:フィリップ・ド・ブロカ)、『柔らかい肌』(1964、監督:フランソワ・トリュフォー)などの出演作がありますが、1967年自動車事故のため25歳で亡くなったとのことです。
 城への闖入者の相棒役をつとめるジャック・マッゴーランは続く『吸血鬼』(1967)にも出演します。最初の客人の息子クリストファー役のイエン・カリエも同様です。またまったく気づきませんでしたが、本作にはジャクリーン・ビセットが出ていました。サングラスをかけていた客人の一人の役でしょうか。
 音楽のクリストファー・コメダはポランスキーの長篇第1作『水の中のナイフ』(1962)でも組んでおり、この後も『吸血鬼』と『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)で音楽を受けもつことになります。今回はジャズ調でした。撮影のギルバート・テイラーは『反撥』からの続投で、『マクベス』でも組むことになります。他に『博士の異常な愛情』(1964、監督:スタンリー・キューブリック)、『オーメン』(1976、監督:リチャード・ドナー)、『スター・ウォーズ』(1977、監督:ジョージ・ルーカス)、『ドラキュラ』(1979)などで撮影に携わりました。けっこうメジャーです。

 平原の一本道から本篇は始まります。遠くに山並みが連なっている。向こうから車が進んできます。平原と見えたものがすぐに、海に面した砂浜であることがわかります。いずれにせよ高い木や建物がない、地の果てのような雰囲気を感じさせずにはいません。
 車に乗っていた2人の男は、いずれも負傷しています。何やら犯罪がらみのようです。傷の深い1人(ジャック・マッゴーラン)を待たせて、腕を吊ったもう一人(ライオネル・スタンダー)が助けを呼びに行く。
 すすきの茂る野原を経て、約5分、丘の上に城が見えてきます。城壁に囲まれたいくつかの角張った棟、煙突などからなり、大規模なものではなさそうです。晴れた空に鴎が舞っています。

 男は丘のふもとをめぐる道を進んでいく。道の右側には柵が設けられています。幅広段で区切られた石畳の斜面をのぼっていく。鶏が何羽もいます。
 その先でしょう、石造りの幅が狭いトンネルに入る。中は上への階段になっています。
 トンネルから出ると、左に壁が続いており、方形の窓がいくつか見えます。その右手はテラスになっているようです。突きあたりは城壁に区切られており、尖り屋根の石造小屋が扉口を開いています。その右には粗石積みの壁が続いている。腹ほどの高さの壁は右へ囲むように伸びており、途中で台状になります。ぐるっとめぐって右端、こちらにも扉口がある。中は酒蔵のようです。その右があがってきたトンネルでした。
 男はいったんトンネルを下へ戻ります。おりた右には木造の小屋があり、鶏小屋になっている。中には上への梯子段がかけてあります。

 下の道を城の主らしき禿頭の男(ドナルド・プレザンス)と客二人が歩いてきます。客たち夫婦は連れの息子(イエン・カリエ)を呼んでボートで帰る。
 台所で城主とその妻テレサ(フランソワーズ・ドルレアック)が会話する。薄暗い台所をカメラは下からとらえます。
 次いで二人の寝室が映る。やはり薄暗い。窓があります。2階に位置するようです。
 暗い廊下が台所に通じています。闖入者リチャードが電話する際、城の住所がリンディスファーン11と知る。
 夫婦が物音に2階から下りてくる。階段から下りると、左に粗造りの壁があります。廊下から台所に向かう。台所からの扉口は上部が半円をなしています。
 リチャードの相棒はアルビーといい、ドリスという妻がいます。闖入者とアルビーのボスはカトルバックというらしい。リチャードに問われて、ここがノーサンバーランドのリンディスファーン島であることを告げます。


 城壁はゆるい角度の多角形をなしているようです。下からそのシルエットがとらえられる。

 アルビーが待つ車に波が寄ってきます。満潮時には車では往き来できなくなるようです。『ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』(2012、監督:ジェイムズ・ワトキンス)が相似た設定でした。

 2階に上がる階段が上から見下ろされます。画面左に配された階段の右手には、2階の幅の広い欄干が映りこんでいる。階段をあがった先には2連半円アーチがあり、その向こうで5段ほどのぼりの階段が見えます。欄干のある廊下を手前に進むと、夫婦の寝室です。
 寝室の壁は白い。奥に洗面所への扉口があります。ベッドは天蓋付きで、捻り柱が天蓋を支えている。

 テラスの酒蔵には扉があり、中央上寄りに十字が穿たれています。十字の先端には円が付いている。

 夫婦は寝室に閉じこめられますが、テレサは洗面室の窓から外に抜けだします。出た先はテラスのように見え、寝室は2階にあったはずですが、この点はもう少し後で様子がわかることでしょう。
 玄関に通じるトンネルをおりた外で、ディッキーことリチャードが穴を掘っています。テラスに戻ったテレサはアルビーが死んでいることに気づく。


 1階と2階を結ぶ階段の、1階側にも2連半円アーチのあることがわかります。

 早朝の曇り空を背景に、3人がシルエットと化します。主によると、城は11世紀のもので、ウォルター・スコットの『ロブ・ロイ』にゆかりの地だということです。スコットが執筆したステンドグラスのある部屋のことは、以前にも主が客に話していました。全財産をはたいてこの城を購入したのだという。何て羨ましいんでしょう。
 前景に明るく3人と砂浜、中景がグレーで、遠景に城が真っ黒に映ります。少し後には、前景で左にディッキーが立ち、右で主が跪くという構図が出てきます。この構図は二人の配置をそのまま中景に移して変奏されます。ここでも抽象化された眺めが地の果ての感触を伝えずにいません。
 酔っぱらった主がいうには、城は冬は暖まらないし、何か奇妙なこと・気味の悪いことが起こるそうです。残念ながらこの話はここだけでした。主とテレサが結婚したのは10ヶ月前の10月27日だという。まだ新婚といっていいのでしょうが、前の場面でテレサは客夫婦の息子と情事に耽っていたようです。

 テラスには上への階段があり、2階のバルコニーに出ます。テレサが洗面室の窓から出てきたのはここなのでしょう。バルコニーからさらに上へのぼる階段があり、あがると屋上のようです。屋上から入れる部屋は、蒲鉾型の天井で、黒っぽい水平の梁が支えています。壁は白く、部屋自体は奥に伸びる形です。ここはアトリエとして用いられているらしい。テレサを描いたと思しい絵が何点か立てかけてありました。残念ながらあまり達者とはいいがたい。

 天井が蒲鉾状の別の部屋が登場します。壁は石積みです。右後方、柱の右に低い半円アーチがあり、奥へ続いている。そのすぐ右にも同じようなアーチがあるようにも見えますが、定かではない。

 ディッキーが心待ちにしていたボスからの迎えかと思いきや、訪ねてきたのは主の知人でした。夫婦と男の子、また別の夫婦です。後者の妻をジャクリーン・ビセットが演じていたのでしょう。彼女はファッションには関心を示します。男の子はかなりの悪ガキで、かわいげが一切ありません。
 扉口からやや長めの廊下が伸びています。幅は狭く、天井は半円形をなす。壁の造りも粗そうです。そこを通り、手前で数段おりると、やはり天井が蒲鉾状の部屋に出ます。少し前に出た部屋とは別のようですが、定かではない。やはり右奥には半円形の開口部が見えます。つながっているのでしょうか。壁は上半が大振りの煉瓦積みで、下半は白でした。右の壁には窓があり、上部の桟はゴシック風でしょうか。奥の壁には城を描いた絵が飾ってあります。ここに客たちが通される。ディッキーは召使いの役回りを演じます。


 1階から2階への階段が上から見下ろされます。1階の上がり口が三角アーチになっていることがわかります。
 2階廊下の右奥には「作家の部屋」がある。その向かいにも別の部屋があり、位置からすると寝室かと思ったのですが、そうではありませんでした。このあたりの位置関係はよくわかりません。椅子だけを置いた空っぽの部屋です。壁は白い。板張りの床は斜めに見えます。扉から向かって正面の壁には横長の窓があり、下がベンチになっているようです。右側の壁にも窓がある。
 少なくとも日本語字幕では、約1時間17分で主の名前がジョージだとわかります。彼は工場を売って引退したのだという。先妻でしょうか、アグネスという女性と何らかの関係があった。
 「作家の部屋」にも横長の窓があり、一部がステンドグラスになっています。「作家」とはウォルター・スコットのことでした。


 蒲鉾型天井に煉瓦壁の部屋に戻ります。右の壁に何やら斜めになった、大きな半円が刳りこまれている。奥の城の絵はジョージの手になるものでした。
 始めの方で出てきた客夫婦の息子クリストファーもやってきます。悪ガキがテレサの大事にしていたレコードに傷をつけ、猟銃をぶっ放してステンドグラスを割ります。


 テレサが入ってくると、右手の壁に2つ窓が並び、右側の窓は手前に開かれています。そのため窓の桟や窓にはまった格子、影などが角度を変えつつ4段になっていました。

 屋上からのアトリエには、奥に2連半円アーチがあり、そこから下への階段がおりているらしいことがわかります。

 とこうする内に物語は進み、客たちを追い返したジョージたちはまた対立関係に戻り、ジョージがディッキーを撃ち、仲間の仕返しを恐れたテレサは猟銃を取りに戻ってきた客の一人に連れだしてもらう。ジョージは浜の石の上にのって「アグネス」の名を呼ぶのでした。

 城の住人であるジョージとテレサおよび闖入者であるディッキーとの関係は、安定したものではなくぐらぐらと揺れ動いているように思われます。当初はディッキーによる脅迫が支配するものの、アルビーの埋葬に続く砂浜の場面では、テレサお手製のウォッカの力もあってか、より友好的なものへと変化したかのごとく映る。と思いきや夜が明ければ迎えを待つディッキーは二人をまた閉じこめます。客たちの来訪にあっては、ジョージもディッキーも、彼らを一刻でも速く立ち去らせたい点で一致しているかのようでした。しかし客たちが去り、ディッキーの迎えが来ないことがはっきりすると、三人の関係はまた滑り落ちだす。
 とりあえずはジョージとテレサ組対ディッキーという構図が描けるにせよ、ジョージとテレサの間も盤石どころではない。一人一人も一貫した態度をとるわけではなく、いわんやアクション映画の登場人物とはほど遠い。こうした不安定な関係が、まわりに何もない、満潮とともに周囲から隔絶する小さな城の中で展開し、時として人物や城を真っ暗に塗りつぶすかのような、人工的な照明を強調しない撮影によって綴られるため、現実的な出来事の描写である以上に、皮肉な童話めいた感触をたたえることとなったのでしょう。

Cf.,  世界の映画作家13 ロジェ・ヴァディム ロマン・ポランスキー』、1971
同書中「ロマン・ポランスキー編」は
ポランスキーの世界(白井佳夫、pp.156-157)/ポランスキー論(筈見有弘)/ポランスキー伝(田山力哉、pp.177-178)/ポランスキー全自作を語る(田山力哉訳・編、pp.193-195)/シナリオ吸血鬼」(ロマン・ポランスキー、ジェラード・ブラック 採録・日野康一)
からなり、この他
対談 二人のコスモポリタン(品田雄吉・中原弓彦、pp.130-132)/二人の作家の海外論(村上英訳・編、p.237)
( )内で頁を記した箇所などで『袋小路』が取りあげられています。
こちら(『吸血鬼』)も参照

 2015/11/09 以後、随時修正・追補
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