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恐怖の吸血美女
Lust for a Vampire
    1971年、イギリス 
 監督   ジミー・サングスター 
撮影   デイヴィッド・ミューア 
編集   スペンサー・リーヴ 
 美術   ドン・ミンゲイ 
    約1時間31分* 
画面比:横×縦    1.85:1 
    カラー 

VHS
* [ IMDb ]によると1時間35分。1時間31分はUSA版とのこと。
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 『バンパイア・ラヴァーズ』(1970)に続くハマー・フィルムによるカルンシュタインもの第2作。とはいえ後述するようにいくつか変更された設定もあり、細かくとれば続篇と見なせるかどうかは微妙なところです。
 ジミー・サングスターは『怪獣ウラン』(1956)で映画の脚本を手がけて後、『フランケンシュタインの逆襲』(1957)、『吸血鬼ドラキュラ』(1958)、『フランケンシュタインの復讐』(1958)、『ミイラの幽霊』(1959)、『吸血鬼ドラキュラの花嫁』(1960、共同)などハマー怪奇映画の黄金時代に監督のテレンス・フィッシャー、音楽のジェイムズ・バーナード、美術のバーナード・ロビンソンなどとともにその一翼を担った脚本家でした。監督としては The Horror of Frankenstein (1970)に続く第2作となります。ただフレディ・フランシスがカメラマンとしては絶品ながら監督としては……としばしば言われるのと同じパターンがサングスターにも当てはまるようです。それでもフランシスの『フランケンシュタインの怒り』(1964)や『帰って来たドラキュラ』(1968)は個人的にはけっこう面白がれたのですが、サングスターの監督第1作は未見につきおくとして、本作は確かにいろいろと突っこみたくなるところなしとは言いがたい(ちなみにハマー・フィルムではプロデューサーのマイケル・カレラスも同様の轍を踏んでいます)。カーミラを強制異性愛に屈せしめたのは脚本やプロデュース時点での話だとしても(脚本はテューダー・ゲイツ)、吸血鬼ものに(異性愛の)悲恋モティーフを導入し、あまつさえラヴ・シーンで"Strange Love"なる歌を流すまでしながら(もっともこの歌の挿入は監督のあずかり知らぬところでなされたとのことです:石田一編著、『ハマー・ホラー伝説』、1995、p.75、p.144 を参照)、互いが惹かれあう過程が段取りをもっておさえられていないため、筋運び全体とうまく噛みあっていないように思われるのでした。
 とはいえ充分ではないにせよ古城は出てきますし、設定にも面白い点は見受けられるので、手短かにとりあげることとしましょう。


 まず昼間、原っぱの奥に丘があり、その上に城だか村だかが見えます。その向こうには低い山並みが連なっている。カメラが近づくと、丘の下方から城壁がジグザグにのぼっていき、要所要所に塔が立っています。頂には横に長い建物があり、その屋根より高い塔は見当たりません。まだ城か村か判別できない。
 次いでこの丘の上なのかどうかは定かならず、村の中となります。そこから娘が出てきて森を抜ける。彼女を見つめる黒フードの人物の後ろ姿が映ります。かたわらには馬車が控えています。馬車は娘の近くに走り寄り、彼女を乗せるのですが、始め微笑んでいた彼女は相手と顔を合わせる内に悲鳴を上げることになる。
 丘の上の城がシルエットと化しています。馬車が城門を入ってきます。前庭はさほど広くはなく、すぐ玄関が見えます。画面右手には1段高くなった歩廊のような部分があり、奥で左に出てくだり階段となる。『ドラキュラ復活! 血のエクソシズム』(1970)における前庭と相似た結構であるわけです。玄関扉は半円アーチ状で、その上は壁が迫りだして窓を配してあります。玄関の左側は城壁が伸びており、途中に尖頭アーチを穿っている。城壁の上辺は崩れているようです。
 娘を横抱きにした御者が扉をくぐり、カメラの前を横切って左奥へ背中を見せて進む。カメラも右から左へ首を振ります。玄関扉の両脇には尖頭アーチの細長い窓がありました。左手の窓の左は角柱で、そのさらに左、やや上方に大きな方形の窓が設けられています。玄関の向かいは天井が低くなったスペースになっているようで、すみをエンタシスのある円柱が支えています。その中央あたりに奥の部屋への扉口がある。奥の部屋の突きあたりには尖頭アーチの大きな窓が見えます。その右にも同形の窓がある。
 玄関間は明るめでしたが、奥の部屋に入るとやや暗い。奥側からの視角に変わると、扉口の脇に手前に出た台座上の低い円柱があり、その上はアーチになっています。その右手では壇上に椅子が置いてある。御者は2~3段下りて奥へ進みます。数列の座席の間を抜け、祭壇に娘を寝かせる。手前に頭部が仰向けに下がり、髪の毛が垂れます。真正面からとらえた下向きの顔と垂れさがる髪の毛という構図はマン・レイの写真《長い髪 Tête aux longs cheveux》(1930;『マン・レイ展』図録、三重県立美術館ほか、1984-85、p.99/cat.no.244。『マン・レイ展』図録、セゾン美術館ほか、1990-91、分冊Ⅰ、p.63/cat.no.57 では《長い髪の女 Femme aux longs cheveux》、1929)を思いださせずにはいません。もっともこうした構図はたやすく思いつくものでしょうから、マン・レイの作例を参照したとは必ずしもいえますまい。
 さて娘の足側から短剣を手にした男が現われます。その左背後には4本組みになったエンタシスつき円柱が見えます。扉口には黒フードの女が立っています。顔は見えない。男は女に、次いで御者にうなずき、かたわらにあった柩の蓋を外す。中には骸骨と化した亡骸が横たわっています。男は女に短剣を渡す。女が黒マントの下に赤いドレスを着ていることがわかります.。また仰向いた娘の頭部が正面から映され、首に短剣が添えられる。床に置かれた杯に血が落ちます。
 男は闇の主 Lord of Darkness に祈りを捧げます。背後には尖頭アーチ、その右に半円アーチがあり、双方ステンドグラスで飾られています。壁は暗い。杯の血を遺骸に注ぎ、布をかぶせる。そして祈りを再開する。その冒頭では「アグラ、アドナイ、世界の長(マギステル・ムンディー)よ」と言っていたようですが、自信はありません。なお〈アグラ〉については『吸血鬼の接吻』(1963)についての頁の該当箇所でもふれました。ここでの音楽はパイプ・オルガンとコーラスです。雷鳴が轟き、布の下が発光します。その変化が男の赤目のクローズアップと交互に映され、やがて半身を起こすのでした。
 吸血鬼復活の儀式は『凶人ドラキュラ』(1966)でのそれに準じています。ただし『バンパイア・ラヴァーズ』で滅ぼされたカーミラは首を切り落とされていた点をおくにしても、今回復活した吸血鬼が前者と同じ人物かどうかははっきり述べられるわけではありません。そもそも復活なのか初めて吸血鬼化したのかも疑えなくはない。他方、前回黒幕に徹していた「黒衣の男」は今回はエンド・クレジットで「カルンシュタイン伯爵」と明記されます。本作ではマイク・レイヴンが扮しています。

 丘の中腹に沿って鋸歯型胸壁のある城壁が段々に重なり、教会や家屋が随所に見えます。村の酒場ではよそ者(マイケル・ジョンソン)が亭主から、娘衆にちょっかいを出すのはふだんならいいが今はよせと注意されています。今は1830年だが、「彼らが40年前と80年前に現われた」というのです。彼らとはカルンシュタインの者たちのことで、「丘の上の城」に住んでいました。40年ごとに現われるという設定は前作にはありませんでした。また前作で事件の起こった年は述べられませんでしたが、プロローグで男爵が復讐する引き金となった姉の死が1794年で、それから男爵の髪が灰色混じりになるくらいの時間が経っていたのだとすると、本作より少し前か同じ頃なのかもしれません。
 さてよそ者は怪奇小説の作家とのことで、話を聞いて城の探検に出かけます。画面左手前に大きく曲線を描いて下に曲がる長い首を有したドラゴンの石像が映ります。これは『吸血鬼ドラキュラの花嫁』(1960)に登場したものと同じでしょうか。その向こうには右下がりの階段が少しのぞいています。少し引きになると、画面奥を欄干のついた中2階回廊が左右に走っている。その下に向こうの部屋への扉口があり、床から数段あがる。階段は床から左に少しあがり、踊り場を経て右にあがって回廊につながります。カメラがさらに後退すると、画面手前に黒いテーブルが現われ、ルプソワールの役割をはたします。また中2階回廊は3つの幅広な尖頭アーチで分割されています。明るいので中庭か何かかと最初は思ったのですが、屋内のようです。作家は背を向けて奥へ進む。
 扉口に前向きで立つ視角に切り替わります。向こう側の部屋ではテーブルの向こうに暖炉のあることがわかります。数段おりれば右に椅子が置いてある。つまり先ほどの部屋は冒頭で登場した玄関間ということになるのでしょうか。ずいぶん印象が違います。作家はカメラとともに左から右へ進みます。奥に横臥像(ジザン)をのせた石棺が見えます。ただし像はけっこう粗造りのようです。その向こうには幅の広いアーチがある。進む先には祭壇とステンドグラスがあるのですが、ふと見下ろすと右下の石棺の縁に血らしきものがこびりついています。音がして振り向けば横臥像(ジザン)の向こうに緑フードの女が立っている。逃げようとするも白フード、次いで青フードが現われ囲まれてしまいます。
 顔の見えない色違いのフードの人物が複数やってくるというイメージは悪くないのですが、すぐさま中2階回廊に立つ男が下から見上げられ、男は教師、フードの女たちはその生徒とわかります。一行は丘の道をくだっていきます。作家の名前はコーク州のレストレインジ、教師はジャイルズ・バートンで、歴史の教師のようです。ラルフ・ベイツがジャイルズ役で、眼鏡を着用、役作りに励んでいます。
 さて、丘をおりきった向かいに庭をはさんでのぼり階段があり、その上に学校が見えます。茶色の横長の建物で、中央部だけ少し手前に迫りだしている。2階プラス屋根裏の高さです。左右には1階だけの棟か屋根付きの廊下かが伸びています。これは実物をロケしたようで、 [ IMDb ]によると東イングランドはハートフォードシャー州アボッツ・ラングリーのヘイゼルウッド・ハウス Hazelwood House, Abbots, Langley, England, UK で外観を撮影したとのことです。ともあれ廃城と学校はすぐお隣さんというわけです。羨ましい。


 ヘリツェン伯爵夫人(バーバラ・ジェフォード)が来校して姪のミルカーラ(ユッテ・ステンスガード)を寄宿舎に預けていきます。レストレインジは策を弄して学校で英文学で教えることになる。その授業でミルカーラは18世紀の小説なら知っていると言います。またジャイルズは授業で15世紀の資料は乏しいが、カルンシュタイン城はスティリアの全盛期に建てられたにちがいない、年代記では1187年に一族の名が初めて現われるという。
 カメラが左から右へ動くと、左に幅広尖頭アーチのある壁、角をはさんで右に尖頭アーチが3つ並んでいます。アーチとアーチの間・上方には円形の窓らしきものがあります。カメラがさらに右へ振られると、奥からジャイルズが生徒たちと出てきます。授業で敷地内の墓地を訪れたのです。ほんとに羨ましい。ジャイルズは左の石棺を指して、「カルミーラ・カルンシュタイン伯爵夫人 1688-1710」との銘を読む。ちなみに前作では本名はレ・ファニュの原作どおり「ミルカーラMircalla」で、マルシーラ Marcilla(原作ではミラルカ Millarca)、カルミーラ Carmilla という変名を使っていました。生没年は1522-1546でした。
 さて、石棺を生徒たちが囲むその後ろをジャイルズはまわっていきます。カメラはそれを追う。向こうにジャイルズ、手前に大きくミルカーラが配され、次に右手前にミルカーラと背後に離れて別の女生徒、また向こうにジャイルズ、手前にミルカーラのショットに戻れば、今度は手前にジャイルズ、石棺をはさんで向こうにミルカーラ、その次はこの逆、そしてミルカーラと背後の娘のショットとなります。この間ジャイルズは「当時の女の名は身内の名の綴り変えが多い」と述べ、マルシーラ、ミラルカと続けば背後の娘がミルカーラと言うのでした。


 夜になって石棺のあたりでジャイルズとミルカーラが落ちあいます。ジャイルズは資料の内にカルミーラの肖像画の複製を見つけたというと、ミルカーラの脳裡に復活の場面が回想され、黒フードの女がヘリツェン伯爵夫人であることも映される。ミルカーラがジャイルズに近づこうとすると彼は十字架を突きつけます。しかしただちにそれを上下逆転させ、自分は黒魔術を研究している、召使にしてくれと懇願するのでした。ミルカーラはジャイルズを咬み、去っていきます。この間一言も喋らない。ジャイルズは追いすがりますが、力尽きます。黒衣の男がそれを見てにんまりする。

 前作では伯爵夫人はカルミーラを預けると退場しましたが、今回は噂が洩れないよう校長のもとへ何かと姿を現わします。黒衣の男ことカルンシュタイン伯爵も前回は離れてにやにやしているだけでしたが、今回は伯爵夫人の侍医フローハイムとして死亡診断を書いたり、業を煮やした教師ジャネット(スザンナ・リー)の通報で来校した警部が井戸の底を調べにおりたところをロープを切って突き落としたりしています。ちなみに警部役は前作で執事を演じたハーヴェイ・ホールで、やや居丈高ではありますが真面目に捜査していました。
 レストレインジは変なことをしないようにと校舎から離れた小屋の部屋に放りこまれ、そこをジャイルズと共用していました。ジャイルズ亡き後。その机をあさればシュルレアリスム風の素描を記したスケッチ帖に加えて、『カルンシュタイン家の呪い』、『黒魔術』、『吸血鬼』、『スティリア』といった本を見つけます。うっかり落として開いたページにはカルミーラ・カルンシュタイン伯爵夫人の肖像が掲載されていました。そこで夜の学校へ入っていく。この校内のセットおよび宿舎のセットも悪くないものでしたが、ここではおきましょう。


 その後件のラヴ・シーンが夜の城の墓地でくりひろげられた後、翌日の昼間警部が同じ墓地を訪ねた際には、石棺の向こうの3連アーチの真ん中のものから、下へくだり階段のあることがわかります。またその画面では右手前に折れ曲がる柵が映りこみます。『吸血鬼の接吻』での1場面が思いだされるところです。
 他方ミルカーラの最初の犠牲者の父親がやってきて墓暴きした後、村の酒場で医学教授とひそひそ話し、亭主たちがそれを見てひそひそ言っているところへ司教一行が立ち寄ります。話を聞いた司教に促されて村人たちは城へ向かいます。この時点では司祭2人が先頭に立っており、暴徒化していません。
 城では伯爵が中2階回廊を右から左へ進み、階段をおります。下には伯爵夫人がいる。馬車で逃れようとしますが間に合いません。ミルカーラも城へ戻ってきます。ちなみにミルカーラは昼間も活動しますが、1日に1度は必ず柩にもどらねばならないというのもレ・ファニュの原作どおりです。
 村人たちに馬車を駆って御者が突っこんでいきます。口元には牙がのぞいている。しかし引きずり下ろされ、亭主に杭打ちされる。とたんに村人たちは暴徒化し、城に火を放つのでした。司教はそんなことをしても無駄だ、杭がなくては滅ぼせないと叫びますが、もはや聞く耳持たずです。面白いことに城内では伯爵と伯爵夫人が「火なら死なないで済む」と、泰然と腕を組んだりしています。そして後ろに下がる。
 そこへミルカーラの身を案じたレストレインジが飛びこんでくる。ミルカーラはしかし伯爵に操られ、牙を剥きます。そこへ炎上した天井の梁が胸に杭として刺さる。レストレインジは女生徒の父に助けだされます。前者はどこまでも役立たずで、後者はけっこういいところをさらっていきました。


 最後に城の炎上する姿が映されますが、本篇中これまで出てこなかった姿で、『ドラキュラ復活! 血のエクソシズム』(1970)の始めの方で用いられたフィルムを挿入したものと思われます。エンド・クレジットでは伯爵と伯爵夫人が後退する姿が再登場し、2人は生き延びたということなのでしょう。
Cf.,  ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、p.106/no.058

Peter Hutchings, Hammer and Beyond. The British Horror Film, 1993, pp.164-165

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, pp.174-175

David Pirie, A New Heritage of Horror. The English Gothic Cinema, 2008, pp.181-182

Derek Pykett, British Horror Film Locations, 2008, pp.84-85
 2015/3/3 以後、随時修正・追補
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