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凶人ドラキュラ
Dracula Prince of Darkness
    1966年、イギリス 
 監督   テレンス・フィッシャー 
撮影   マイケル・リード 
編集   クリス・バーンズ 
 プロダクション・デザイン   バーナード・ロビンソン 
 美術   ドン・ミンゲイ 
    約1時間30分 
画面比:横×縦    2.35:1 
    カラー 

DVD
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 本作品については、以前少し触れたことがあります;

  △月△日
角川文庫から出た『ヴァンパイア・コレクション』を読みおわる。まずまず損のない内容だった。中に『凶人ドラキュラ』のノヴエライゼーションの抜粋が掲載されており、映画も見たくなったので、買ってあったLDをとりだす。輸入版なのでセリフはわからない。この映画、あまり評価は高くないようだが、雰囲気はあると思う。陰気な古城のシーンが多いのと、一度は滅ぼされた吸血鬼が復活するというモティーフが描かれているせいだろう。
古城内部のセットは、ひねり柱や変なアーケードのあった前作『吸血鬼ドラキュラ』に比べると魅力に欠けるが、まあ許せる。空間の種類が少ないのは淋しいが、これははるかに天井の高い、つまりセットに金をかけられたはずの『魔人ドラキュラ』でもあまり変わらない。この点では、あまり好きにはなれないのだが、ロジャー・コーマンのポオもの(追註→こちらを参照)やボランスキーの『吸血鬼』、二-ル・ジョーダンの『ブランケット城への招待状』がそこそこがんばっていた。他方『フランケンシュタイン復活』は、充分ではないにせよ、特筆すべきお城映画だ。正確には城ではないが、最近LDが出た『たたり』も美しかった。やっぱり怪奇映画はお城である。
 
  『蟋蟀蟋蟀』、no.3、1999.7.31、「小躍り堂日乗」より、pp.10-11。   

 『吸血鬼ドラキュラの花嫁』(1960)が『吸血鬼ドラキュラ』(1958)におけるピーター・クッシング(カッシング)演じるヴァン・ヘルシング教授についての続篇だとすれば、本作品はクリストファー・リー扮するドラキュラ伯爵についての続篇となります。テレンス・フィッシャーの演出はいささかくたびれてきた時期のものとはいえ、ドラキュラ復活に向けてじわじわと話が進むさまは上にも記したように沈んだ雰囲気と合っているといっては、贔屓のしすぎでしょうか。ジェイムズ・バーナードの音楽も、前回の主題を変奏しながら響いています。
 バーナード・ロビンソンによるドラキュラ城のセットは、リーがラスプーチンを演じた『白夜の陰獣』(1966、監督:ドン・シャープ、昔テレヴィで見たはずなのですがさっぱり憶えていません)との兼用とのことで、予算も減らされたのか、これも上に記したように前作での鮮烈さに比べると地味との感は拭えませんが、あらためて見直してみれば、決して手を抜いていない。

 そもそも本作品では青みがかった夜の色調が全篇を浸しており、その調子を破らないかぎりで随所に色が配分されているとの感があります。『吸血鬼ドラキュラ』や『吸血鬼ドラキュラの花嫁』の時期が、レオナルドが明暗法によって画面全体の統一をはかる以前の、クワトロチェントの多彩色に対応するとすれば、本作品はレオナルド以降カラヴァッジョ、レンブラント、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールなどバロックを経て印象派前夜までの単一色調による統合に比定できるといっては、しかしやはり乱暴かもしれません。
 もとより歴史が一枚岩であることは決してない。先にクワトロチェントの多彩色と記したものが不透明なフレスコやテンペラに則ったフィレンツェを軸とするイタリア絵画を念頭に置いている一方で、同時期には白地に透明な薄膜を重ねる油彩を最大限に活用したヤン・ヴァン・エイクからブリューゲルにいたるネーデルラント絵画の輝く色彩が平行していました。レオナルドのスフマートと平行してジョルジョーネやティツィアーノらヴェネツィア派によって今度は有色地塗りから出発する油彩に主軸が移れば、イタリアでの色彩のあり方はまた変容します。フランドル/ネーデルランド絵画もまた、16世紀にはブリューゲルと同時期のロマニスムを経てイタリア方式に合流する。そんな中で17世紀のルーベンスは透明な層の塗り重ねを引き継ぎました。他方19世紀には、明暗法を発展させたそのもとになる世界把握が自明性を喪失しつつあったからか、アングルやその後のアカデミスム/サロン絵画、初期のラファエル前派などで、印象派系のものとは別の形で時にけばけばしくも映る明るい色彩が用いられることもありました。マネ、ゴーギャンらからマティスにいたって、光の中に色が溶けこむのではなく、複数の色の併置が結果として光を宿すことになるかたわらでは、分析的キュビスムやポロックらが三次元的な立体描写とは別の形で明暗法に依拠する。
 とはいえ、とりわけ色彩について云々しようとする場合、作品自体が時間の流れの中にある以上、経年変化や保存状態に加えて、作品をその一部とする自然および文化的環境そのものが変化する以上、当初の状態を復元することは原理的にできません。というより、オリジナルとそこからの変化を対置し、オリジナルに真正性という点での優位を与えるといったイデア論的発想自体が、少なくとも時間とともにあるこの世界の中にいるかぎり、有効性を持ちえないのでしょう。
 また媒体が変われば内容も変化します。絵画と映画、スクリーンとテレヴィ等のモニター、フィルムとヴィデオがそれぞれ映しだすのは、性質が異なる世界です。絵画自体さまざまなな技法ごとに事情は違ってきますし、同じ媒体でも時期によって変容します。映画は絵画に比べれば歴史が浅いとはいえ、フィルムやソフトの原版だけでなく映写機器や映写方法によっても見え方は変わってしまうことでしょう。画面自体のトリミングやカットは別にしても(これだけは止めましょうようと大いに言いたいところです)、映画における色彩について記述することは、それゆえ、視聴条件のさまざまな限界を念頭に置いた上で、とりあえずその時点で接することのできる状態での作品に、できるだけ即することくらいしかないのかもしれません。
 と理屈が長くなってしまいましたが、このサイトで取りあげた作品ならたとえば『オペラの怪人』(1943)など、モノクロからカラーに変わって早い時期の作品には個々の色彩をできるだけ際立たせるという設計がなされており、それが『シンバッド七回目の航海』(1958)や『吸血鬼ドラキュラ』などの時期まで尾を引いていたとして、その後撮影技術や照明、フィルムの製造やロケを含む予算事情などもからんでいるのでしょう、個々の色は全体の色調に溶けこませるという風に推移していったような気がします。


 話を戻せば、本作品の主題の1つが一度は滅びた吸血鬼の復活である点も注目されるところです。『吸血鬼甦る』(1943、監督:ルー・ランダース、カート・ニューマン)や『フランケンシュタインの館』(1944)ですでにこのモティーフは登場していましたが、双方打たれた杭を抜くという形でした。後者にいたってはほとんど偶然の成行きでしかありません。対するに本作品では、復活を成就するための段取り自体が前半を占め、また具体的な手続きは儀式の相を呈しています。以降のハマーによるシリーズでくりかえしドラキュラは復活させられることになります。

 タイトルの前にさっそく、かなり暗い夜、手前左右の木の幹越しに城の外観が登場します。前に角塔があって、右奥へ棟が後退していく。その先により幅が広い三角破風の屋根をいただいた高い本棟が控えています。下は崖で、奥の方には山並みが見えます。『吸血鬼の接吻』(1963)に出てきたものとよく似ています。この外観は角塔の側から斜めに見た角度にあたり、後に角度を変えた眺めを見ることができるでしょう。
 映画はただし、すぐに『吸血鬼ドラキュラ』のクライマックス部分が枠に囲まれ再映されることになります。何度見てもダイナミックです。この部分では広間の階段を伯爵が飛び段で駆けあがるわけですが、上から見下ろされるため、段は見えません。一時、広間にあるのは階段ではなく斜面だと思っていたものです。前作より後からだったでしょうか、本作品をテレヴィで幾度か見たため、前作自体以上に本作再映部分でのイメージが刻みこまれていたのでしょう。
 舞台はカルパティア山中だと述べられる。次いで前作のラスト、滅びた伯爵の灰が風に散らされ、指環だけが残った床の俯瞰に、クレジットが記されていくのでした。

 本篇が始まると水辺の森が映ります。『吸血鬼ドラキュラの花嫁』の場合と同じ場所なのでしょうか。奥から手前へ葬列が進んできたと思いきや、遺体は担架の上にのせただけで、これから胸に杭を打とうというのでした。教区外の神父(アンドリュー・キーア)がそれを邪魔します。すぐ後の酒場の場面と合わせて、ドラキュラ伯爵は10年前に滅ぼされたこと、にもかかわらず村人たちはいまだ怖れを拭い去れずにいること、それを神父が迷信として苦々しく思っていることなどが伝えられます。
 次いで夜、右側に高い場所を走る道、左にずっと低い位置に立つ家屋、その向こうに平原がひろがり、彼方に山並みが見えるという青みがかって寒々としたショットを挿んで(『フランケンシュタインの怒り』(1964)で用いられたのと同じマット画でしょう)、酒場での4人の英国人旅行者紹介となります。兄アラン(チャールズ・ティングウェル)とその妻ヘレン(バーバラ・シェリー)、弟チャールズ(フランシス・マシューズ)とその妻ダイアナ(スーザン・ファーマー、AIPの『襲い狂う呪い』(1965)のヒロイン役でした)という一団で、弟の脳天気さに謹厳実直な兄の妻が嫌味を漏らすのでした。とはいえ本篇の実質的な主役はこの兄の妻にほかなりません。
 酒場に神父がやって来て4人と雑談を交わします。その際自分の修道院がクラインベルクにあることを告げつつ、明日はカールスバートへ向かうという4人に、止めた方がいい、少なくとも城にだけは近づくなと忠告するのでした。伯爵の脅威がすでに去ったことを認識しながらの忠言が逆に面白いところです。また城が地図にのっていないというのもなかなかよろしい。

 カールスバートまで後2キロとの標識がある森の中で、御者は日没が近いからと4人を無理矢理おろしてしまいます。この行動はいくつかの点で理屈に合っていないような気がしますが、むしろ木の間越しに見える城に兄が気づく一方、問われると「城なんて見えない」と答える点に、地図に載っていないこととあわせ、不在の城というイメージを垣間見せていました。
 木立越しに見える城の外観は、冒頭でのそれより横から見た眺めです。崖の上、左の塔には途中で段差があり、下の方が幅が広い。上下の境の部分には出窓の列が見えます。すぐ右後ろにも少し低い塔、その右に低めの棟が伸び、先で一段低くなっている。この棟の手前にもより低い棟が見え、手前と奥の間には中庭でもあるのでしょうか。2つの棟の右には三角破風屋根の棟が、左から二つ目の塔と同じ高さで立っています。右にさらに続いているようですが、木の陰になって定かではない。城は岩場の上にそびえています。
 馬車から降ろされたところへ戻れば、すぐ目と鼻の先に荒れた小屋があり、そこで夜を明かそうかという話をしていると、別の馬車がやって来る。向こうにはやはり水辺が覗いています。馬車は無人で、乗りこむと指示に従わず城へと導くのでした。

 ここまでで約20分です。少し上から見た城の玄関前の手前には中央から左へ向かう橋がかかっていて、渡った先を右に折れる。一つの台座に2本の柱をのせたセットが左右に並んでいます。台座は下の方に段差がある。間隔を置いたその奥に半円アーチが見えます。この玄関の左側は、少し奥へ退いて窓に灯りがともっている。
 馬車は橋を渡り、右へ、柱の向こう側に停まります。馬車の御者台にいる弟を下から見上げると、黒っぽいシルエットと化しています。馬車からおりる際には上から見下ろされますが、やはり青みがかって暗い。左下から右上へアーチが伸びていて、その向こうは夜の青い空でした。


 玄関扉を開くと、奥にお馴染みの中2階が左右に伸びています。『吸血鬼ドラキュラ』、『バスカヴィル家の犬』、『吸血鬼ドラキュラの花嫁』、『妖女ゴーゴン』に続いての登場で(未見の他の作品にもあるのかもしれません)、監督の意向かロビンソンの発案か、ここまで反復されると何らかの意味があるのではないかと勘ぐりたくなるところです。手前に低い欄干がかかり、2本の柱の間に椅子が配されている。すぐ右奥にもより小さい椅子が見えます。周辺の壁は白ですが、中2階の奥の壁は赤みを帯びています。
 1階にはテーブルが置かれ、右にのぼり階段があるようです。テーブルの上には燭台が置かれ、天井からはシャンデリアがかけられていますが、全体に薄暗い。
 玄関先にいる弟が振り向くと、中2階回廊の下、右寄りに奥への通路が開いています。右上に4分の1円アーチがかかり、奥の突きあたりに窓が設けられている。中2階の下は左にも出入り口があり、その上に低い破風がかかっています。
 広間の床は玄関より低くなっているようで、テーブル側から玄関の方を見ると実際3段ほどの段差がありました。玄関のすぐ左には窓があり、その左で壁が折れて手前に出ています。そのさらに左、向こうへの出入り口がある。玄関に向かって左にはすぐ奥に暖炉があり、そんなに広い部屋ではないことがわかります。
 中2階歩廊の右端へは下から階段があがっており、あがった先の右に廊下が伸びているようです。木の枝状の何かが見え、燭台でしょうか。階段は1階からいったん壁に向かい、すぐに折れて上へあがります。これも『バスカヴィル家の犬』や『吸血鬼ドラキュラの花嫁』でお馴染みのパターンでした。


 兄の妻は城に入るあたりからずっと怯えています。これに対して弟夫婦はいたって呑気で、結局兄嫁がもっとも敏感だったと証明されることになるでしょう。
 誰かいないかと、弟が中2階を右から左へ進むさまが下から見上げられます。歩廊の左端にある右下がりのアーチをくぐると、カメラは少し上から見下ろして、左に折れます。さほど幅の広くない廊下が奥から手前へ伸びている。歩廊から入ってくれば右にあたる、その奥はすぐに窓のある突きあたりで、窓が青く染まっています。手前には低い半円アーチがあり、壁はやはり白い。
 弟が廊下を奥から手前へ進む恒例の1カットです。アーチの手前は少し高くなっており、カメラが左から右へまわると、その前を弟の肩から上だけが通り過ぎ、向こうには左上がりの階段の手すりが見えます。弟はさらに右へ進む。階段はのぼり口前の台座の上に捻り柱をのせている。その向こうに窓がある。弟が階段を右から左へあがるさまが真横からとらえられます。あがりかけて誰かいませんかと声をかけ、また戻るところが下から見上げられます。階段の下は右へ廊下が続いています。そこを進む背中が映る。いったん廊下の幅が少し広くなり、左手には赤茶の綴織がかかっています。その先でしかし、すぐにまた狭くなり、水平の梁が走っている。奥、突きあたりには窓があり、やはり青く染まっています。弟はまた戻り、カメラの前を横切り、背を見せて半円アーチの向こうへ行ってから左の方を向きます。その際突きあたりの窓が、格子状に分割され、濃さの異なる青ガラスをはめてあることがわかります。左手には扉があり、ノックして開ける。ここまで1カットでした。古城映画を見る醍醐味ここにありというほかありますまい。

 部屋に入り、下を向くと荷物が置いてあります。それを見て兄を呼ぶ。兄が階段をのぼるさまが下から見上げられます。階段の上で左の中2階回廊の壁と右の通路との間が少し奥まっており、窓のあることがわかります。また階段の右の壁が、上方では奥まっていて肖像画がかけられている。下から中2階を見上げれば、兄が左へ進みかけては立ち止まり、下に残った二人に手を振って安心させるのでした。
 兄弟が上にあがっている間、暖炉の斜め向かいにあたる中2階の下、左側の通路の奥から、左の壁に黒い影が進んできます。影が実体になってもシルエットのままです。女性陣二人が少し下から映され、兄嫁が悲鳴を上げる。2階の廊下を駆け戻ってきた兄弟が合流します。シルエットにカメラはぐぐっと近づく。背後の壁に絵がかけられ、その右に扉があることがわかります。廊下の天井も映っています。壁の左側は縦の黒い縞と化しており、絵と扉の間にも暗くなった部分がある。ただしその左縁は下でふくらむゆるい曲線をなしていました。
 シルエットの人物の顔がアップになります。頭はやや下向きながら、上目遣いしています。中2階歩廊の下、人物が出てきた通路出入り口は方形なのですが、その右の壁で、やや右下がりになった横に長い茶色の平行四辺形が見えます。壁が傾斜しているのでしょうか。右手にあるアーチの曲面に連なっているようにも思われますが、はっきりとはわかりませんでした。
 人物はクローヴ(フィリップ・レイサム)と名乗ります。『吸血鬼ドラキュラの花嫁』で始めの方に出てきた黒衣の男と似た雰囲気ですが、演じている俳優は別人でした。とまれ彼は亡くなった城主である伯爵の遺言で、いつでも客を迎えられるようにしているのだという。そして暖炉の上にかかった紋章を指し示します。また暖炉の向かいの壁に大きな窓があるのですが、テーブルのすぐ背後で、広間がやはりそんなに広くないことが確認できます。しかも広間の大半をテーブルが占めていることになる。これも『吸血鬼ドラキュラの花嫁』と類した配置でした。


 城の外観が下から、より近づいた眺めで挿入される。続いてまずは弟夫婦に当てられた寝室で、兄嫁の怯えを妻が気遣っているのに対し、弟はあくまで脳天気です。次いで兄夫婦の寝室です。扉を開くとクローヴが立っており、その位置が高いことから、扉より床が低くなっていることがわかります。扉の左に寝台、さらに左に窓があり、やはりさして広い部屋ではありません。
 廊下を半円アーチの向こうから手前へクローヴが進みます。切り替わるとかなり上からのショットで、クローヴが蠟燭を消すさまが映される。そのままフェイドアウトすると、赤茶色の綴織をカメラは右から左へパンします。半円アーチの壁に大きな人の影が落ちる。
 冒頭と同じ角度で城の外観を挿んで、眠る弟夫婦、次いで扉のアップが映される。カメラは左から右へパンしながら前進し、半円アーチと突きあたりの窓が暗くなったさまを示します。アーチを越えて、左の扉のアップへとゆっくり移る。オーヴァラップして兄夫婦の室内となり、ほぼ正面にあるベッドへ、カメラは少し上から、わずかに右へ回るようにして近づきます。兄嫁はうなされています。目をさますと誰かが呼んでいるという。物音に兄はいやいや起きあがり、扉を開いて外を見ます。手前を半円アーチが縁取っています。奥に伸びる廊下の陰影は濃い。向こう側突きあたりの窓がやはり格子状に分割されているものの、色ガラスではないことがわかります。桟は縦に太い2本、横に上4分の1ほどで1本ある。廊下の先、左側に奥まった部分の対面する壁には肖像画がかかっていて、暗青色に染まっています。その奥からクローヴが箱を引きずって後ずさってくるのが真横からとらえられる。彼は少し廊下を奥へ、すぐに左に入っていく。
 雷鳴がとどろき、兄も奥から手前へ、弟夫婦の寝室をのぞいて無事を確認した後、また手前へ進む。カメラは後退しつつ左から右へふる。兄は右を見て、すぐ前へ、綴織にふれると向こうが宙空になっていることに気づき、右端をもちあげながら向こうへ行く背中を見せます。1カットでした。


 少しの間暗い画面が続きます。手前を左右に細い金属の手すりが横切っています。カメラはやや下から見上げている。手すりの向こう、左手は真ん中が少し凹んでおり、右の壁に左下から右にあがる格子の影がくっきり落ちている。『吸血鬼ドラキュラ』における地下室が思いだされるところです。壁の左側にもこの影は続いていますが、こちらは暗さにまぎれそうです。カメラは下から上へ、かつ左から右へ動きます。右端の扉が開かれると、兄が顔を出します。扉の上半にはやはり格子が影を投げかけています。手すりの先、すぐに右上から左下へくだる階段があり、そこを兄はおりていく。カメラは右から左へ、かつ上から下へ動く。階段は下方で左手前へ折れ、すぐに床となります。
 手前を柱がさえぎっている。柱は幅が広く、半ばのところを凹凸のある細い帯が横切っています。カメラが右から左へ動きを速めれば、柱の向こうから兄が出てくる。その奥の壁も中ほどで横帯に区切られ、上は白、下は灰色です。黒っぽいカーテンも見えます。手すりからここまで1カットでした。音楽もなし。浮き浮きせずにいられましょうか。


 右奥で兄は柱の陰から出てきます。その頭上、および画面奥には天井より低い水平の梁が走っています。奥の梁とその奥の壁との間には間隔があいており、梁の向こうは少し高くなっているようです。奥の壁には間をあけて半円アーチがうがたれ、すぐにまた壁となります。アーチとアーチの間の壁には、上にドラゴンらしき様式化された絵がかけられ、下に外は黒、内は赤のマントがひろげてあります。出入り口から数段おりれば床で、床は黒白の市松で覆われています。すぐ前に奥から手前へ下すぼみの石棺が部屋の中央を占めています。石棺の上には青、および白に縁取られた橙の旗がかぶせてあります。
 寝室で待つ兄嫁のカットを挿んで、石棺の部屋が上から見下ろされます。兄が入ってきた出入り口と奥の壁の間にもう一箇所、狭いカーテンに覆われたところがありました。そこをくぐると暗い部屋です。兄が進むとともにカメラは右から左へ動く。すぐ先に方形の何やら容器が台の上に置かれ、その上部で光が反射しています。奥の上の方には窓が設けられています。兄が戻ろうとすると、カーテンの向こうに影が映ります。カーテンを開いたクローヴが、背を向けた兄を刺すのでした。
 石棺の上の旗をのけると、肩の所で広くなり、その上は半円形、下は狭まりながら伸びる凹部がうがたれています。けっこう深そうです。頭部に当たる部分の下には赤い枕が敷いてあります。兄の死体の足に縄をしばりつけ、滑車を操作するクローヴが少し斜め下からとらえられます。クローヴはいったんカーテンの奥の小部屋に入り、白い容器をとってきて石棺のもとに戻ります。カメラは少し上から見下ろしている。石棺の底に土が敷いてあることがわかります。その上に容器内の灰を撒く。少し下からの引きになり、クローヴが壁際に控えると、室内は暗くなります。
 兄の血を注がれた灰から徐々に骨、次いで肉が透けて現われ、それから霧が発生する。クローヴのショットを経て、棺の上辺ににゅっと片手が出てきます。指環をはめています。下の霧は光をはらんでいました。ここまでで約47分です。


 兄嫁が雷に怯えて扉を開けば、クローヴが夫の異変を告げます。廊下を奥から手前へ進み、右側の綴織の向こうへ消えるまで、先だっての夫の動きと同じく1カットでした。階段をおり、吊された夫を見て悲鳴を上げ、急いで引き返そうと振り返ります。上から階段下を見下ろすと、左手の壁の下半は格子状に分割され、それぞれ十字紋で満たされていること、右手は少し奥まって粗壁になり、その下方は少し手前に迫りだしていることがわかります。次いで下から見上げると、伯爵の肩から上が映る。光は下から射しています。上から兄嫁、次いで下から伯爵。口を開いて牙をさらす。上からの引きになり、伯爵は階段をおり、兄嫁にマントをひろげながらかがみこむのでした。

 横からの城の外観が、木立越しに挿まれます。少し明るい。
 丸窓は直線で放射状に分割され、色ガラスがはめられています。カメラが右から左下へ動くと、暗がりを経て眠る伯爵が映されます。
 左半分は白い壁、右半分では手前の黒い手すり越しに、奥から怯えた弟嫁が階段をおりてきます。カメラは少し上から見ています。右から左へ出ると広間です。夜は明けたのですが、兄夫婦の姿が見えない。弟夫婦はいったん馬車を下ろされた場所近くの小屋へ行き、弟だけが城へ戻ります。午後2時半とのことです。
 城の玄関前では、半円アーチの右側で壁が手前へ折れ、その下に方形の扉口があることがわかります。その右で棟は途切れるのですが、下半はさらに右へ続き、浅いアーチとその奥の窓がいくつか並んでいる。上には頂きが半円で背の高い鋸歯型胸壁が見えます。ところどころ雪が積もっています。
 カメラは弟ともに右から左へパンします。玄関の前にある柱がポーチの天井を支えているわけではなく、上細りの形状をなして宙にそびえていること、また玄関を覆う半円アーチの上に、半円から上に伸びて尖る梁が附属していることがわかります。双方『吸血鬼の接吻』に続いての登場です。玄関口やその他の開口部は黒々としており、眺め全体は灰色に少し茶が混じっています。
 弟は城内に入り、少し前に妻がおりてきた、手すり越しに見える階段を逆にのぼっていく。
 一方妻が待つ小屋に現われた馬車に乗るクローヴをカメラは下からとらえます。
 また城内です。階段をおりてくる弟をカメラはやはり下から見上げる。おりてきた下には捻り柱がのぞいており、つまり下が2階廊下、弟は3階からもどってきたことになりますが、誠に残念なことに3階は映されません。断腸の思いとはこのことでしょう。弟が階段をおりて手前へ進むと、カメラは後退する。いったん戻りかけて右手の綴織を開きます。綴織には弟の影が落ちています。ここまで1カットでした。
 格子戸と下への手すりが下から見上げられます。階段は踊り場で左へ折れればすぐ床です。カメラは後退しながら上から下へ動く。部屋側から出入り口の弟が映されます。カメラが下を向くと石棺内の伯爵が横たわっている。奥の箱からはみ出ている腕に気づき、駆け寄ります。赤茶の壁に左下がりの青緑の光が射すさまを、カメラは上から見下ろす。光は折れて左へ続いています。箱の蓋を開けて呆然と口を開く弟を、カメラは下から見上げる。色ガラスの窓が斜めからとらえられたかと思うと、暗くなり、ほぼ真っ暗になってしまいます。
 暗くなった玄関前に馬車が到着します。おりてくる弟嫁とクローヴの上で半円アーチが枠どりしています。中へ入る弟嫁の背中が映れば、奥の中2階歩廊、赤い椅子の向こうの壁に斜めにひずんだ火焔状の影が投げかけられています。クローヴは扉を閉じて外に残る。
 柱越しの階段3度目の登場となり、そこを白い影がおりてきます。兄嫁です。最初の方でのお堅さ、城に入って以来の怯えとは一転して生き生きと解放された表情を浮かべ、弟嫁に迫ります。しかし『吸血鬼ドラキュラ』における場合同様、伯爵が制止する。伯爵は中2階にいましたが、階段を駈けおり、弟嫁の手を引くのでした。
 そこへ現われた弟が止めろと叫ぶ。伯爵と弟嫁の背後にいた兄嫁が二人の右後ろから進んできます。それを払いのけると、弟嫁は弟のもとに駆け寄るのですが、同時に二人の背後を兄嫁がふさぎます。階段下の半円アーチのあたりです。この後活劇がくりひろげられるかたわら、弟嫁の首にかけられた十字架が兄嫁をひるませる。伯爵がそちらに気をとられた隙をついて、その前に伯爵にへし折られていた剣を弟は十字架の形に掲げるのでした。
 二人が逃げ去った後、寄り添おうとする兄嫁を邪険に振り払って、伯爵は玄関へ向かいます。玄関を出て右へ、そこが曲線をなしていることがわかります。カメラはかなり上から見下ろしている。そのまま左から右へカメラはめぐり、曲線の道が半円をなして橋に通じています。背を見せて進む伯爵の姿は、『吸血鬼ドラキュラ』でのそれの再現ですが、とてもかっこういい。ここまでで約1時間1分弱でした。


 残り約30分弱は、森を馬車で逃げる二人が転倒してしまい、そこで出会った神父に連れて行かれた修道院が主な舞台となります。その間もけっこう面白い細部がいくつかありますが、城内ではないのでここは手短かに挙げておきましょう。
 弟に対する神父の説明で、伯爵が最後に現われたのが10年前であること、吸血鬼はすでに死んでいる dead ので、滅ぼす destroy ことはできても、殺す kill ことはできないと述べる点。また少し後には、伯爵は見たし触れもした獲物は、自分のものにしないと気がすまないとも語られます。さらに家の中に人がいると吸血鬼は入らない、ただし招かれればOKだという。
 原作でのレンフィールドにあたるルートヴィヒ(ソーリー・ウォルターズ)なる人物の登場。城のそばで見つかった旅行者で、記憶を失なっており、修道院に住みついて12年になるとのことです。その間、伯爵がいったん滅ぼされて以降も含め、彼を支配する力の作用のあり方が気になるところでした。また少し後には、まだ昼間なのにルートヴィヒが何者かの声を聞くことになります。
 修道院の裏口付近で、壁の右側に二つ、上が半円の細長い壁龕がうがたれており、下の方では角を経て少し幅広になっています。その中に楔状の何かが配されていました。さらに右には半円アーチ下の大扉があり、そこに梯子がかかっていた点。
 ここにクローヴの操る馬車が到着するのですが、中には木製の黒い柩が二つのせられています。後の場面で、柩の底にちゃんと土を敷いてある点も映ります。
 次いで眠る弟嫁の姿が斜め下からとらえられ、神父と弟も加わって、上からのショットと下からのショットが切り換えされ、いったん斜め下からのショットでまとめた後、眠るヒロインの上からのショットに続いて、物音ともにカメラが右から左に振られれば、窓のすぐ外に現われた兄嫁が下からとらえられるのでした。兄嫁は弟嫁の手首に咬みつきますが、またしても伯爵が払いのけます。
 この後薄紫の衣を着た兄嫁が杭を打たれる場面となります。下に挙げたプロウアーの『カリガリ博士の子どもたち』第8章はこの場面を枕に、ハマー怪奇映画全体、とりわけ本作品について論じたものです。またレ・ファニュの『カーミラ』(1872→こちらを参照)やストーカーの『ドラキュラ』(1897)以前にすでに、ゴーティエの「死女の恋」("La morte amoureuse", 1836。邦訳はたとえば青柳瑞穂訳、『怪奇小説傑作集4』(創元推理文庫 501D)、東京創元社、1969)で吸血鬼を滅ぼすべく墓を暴く「セラピオンの熱意には、なにか非情で酷烈なものがあって、使徒や天使よりも悪魔に似ていた」(同上、p.194)と記されていたことが思いだされずにはいません。
 一方弟嫁はルートヴィヒの手引きで院内に入りこんだ伯爵のもとへ導かれます。その際伯爵は自分の胸を開き、爪で傷をつけてそこから流れでた血を弟嫁に飲ませようとするのでした。これはストーカーの原作でも伯爵がミナに行なっていたところです(→こちらに挙げた平井呈一訳、p.420)。
 弟嫁を連れて伯爵は城へ戻ろうとします。神父が弟に、「城内に入れば奥さんは永遠に戻らん」と告げるのは、前作での同様の台詞と合わせて、城の迷宮性を物語ってくれています。


 ここまでで約1時間24分です。残りは追跡劇と城の玄関前でのクライマックスに費やされます。その際日が暮れて柩から飛びだした伯爵が、濠を埋める氷に銃弾が撃ちこまれたため生じた〈流れ水 running water〉を見下ろすと、カメラはそれを下からとらえます。その右背後の柱上に、長い首を下に、翼を上にした石像が黒いシルエットと化していました。『吸血鬼ドラキュラの花嫁』で城内の吹抜に飾られていたドラゴン像を思わせるものです。またその右には、急角度で斜めになった軒先もシルエットで映っています。
 また伯爵が氷の下に落ちた後、氷の裂け目が閉じるとともに、最後にマントが徐々に吸いこまれていくさまも印象的なイメージとなっていました。
 とこうして、プロウアーが指摘するようにいろいろ問題はあるのかもしれませんが、全体のほぼ半分が古城の中で展開され、城内の空間がそれなりに曲折し、中2階歩廊に加えて捻り柱も登場、あまつさえ廊下を行った入り来たりする本作品は、古城映画として顕彰される資格を欠いているわけでは決してありますまい。

Cf.,  石田一編著、『ハマー・ホラー伝説』、1995、pp.179

石田一、『ハマー・ホラー写真集 VOL.1 ドラキュラ編』、2013、pp.24-33

S.S.プロウアー、福間健二・藤井寛訳、『カリガリ博士の子どもたち』、1983、「第8章 あるイメージの背景」

The Horror Movies, 4、1986、p.60

菊地秀行、「我がドラキュラ映画の時代(後篇)」、『妖魔の宴 スーパー・ホラー・シアター ドラキュラ編 2』、1992、pp.269-272

ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、pp.96-98/no.051

Peter Hutchings, Hammer and Beyond. The British Horror Film, 1993, pp.121-123

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, pp.126-128

The Christopher Lee Filmography, 2004, pp.149-152

David Pirie, A New Heritage of Horror. The English Gothic Cinema, 2008, pp.103-105

手もとにあるDVDには、"Behind the Scene"として、作品製作時に出演者であるフランシス・マシューズの弟ポール・シェリーが撮影風景を記録したした8mmフィルムに、リー、バーバラ・シェリー、スーザン・ファーマー、マシューズが1997年2月23日に集まってコメントしたものが収録されています。冒頭で触れた輸入盤LDにも納められていましたが、こちらは日本語字幕つきです。約4分半。
こちらでも触れました


映画を小説化したもので、後半、修道院のダイアナのもとにヘレンが訪れる場面からラストまで;
ジミー・サンスター、風間賢二訳、「凶人ドラキュラ」、ピーター・ヘイニング編、『ヴァンパイア・コレクション』(角川文庫 キ 9・10)、角川書店、1999、pp.292-320
原著は
Peter Haining ed., The Vampire Omnibus, 1995
映画に関しては他に『夜の悪魔』(1939)の小説化版も掲載されています。

なお、
『ビザンチウム』、2012、監督:ニール・ジョーダン
の中で、登場人物たちが見ているテレヴィで本作品の一場面が放映されていました。ヘレンが滅ぼされるくだりです。

おまけ Hammer. The Studio That Dripped Blood!, 2002
2枚組の1枚目2曲目が
"Dracula. Prince of Darkness - Funeral in Carpathia / Finale: Confrontation & Climax / The Fall of Dracula"
5分7秒。

 2015/1/31 以後、随時修正・追補
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