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吸血鬼ドラキュラの花嫁
The Brides of Dracula
    1960年、イギリス 
 監督   テレンス・フィッシャー 
撮影   ジャック・アッシャー 
編集   アルフレッド・コックス 
 プロダクション・デザイン   バーナード・ロビンソン 
 美術   トマス・ゴズウェル 
    約1時間26分 
画面比:横×縦    1.66:1 
    カラー 

DVD
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 『吸血鬼ドラキュラ』(1958)に続くハマー・フィルムによる吸血鬼ものの第2弾です。タイトルに相違してドラキュラ伯爵は登場しませんが、ピーター・クッシング(カッシング)扮するヴァン・ヘルシングが活躍します。冒頭のナレーションでドラキュラは滅ぼされたけれど云々と説かれるのは、前作の後日譚である旨を告げているのでしょう。ただし前作では吸血鬼は蝙蝠に変身したりしないという設定だったのですが、今回登場するマインスター男爵(デヴィッド・ピール)は蝙蝠に変化もすれば鏡にも映りません。また男爵の犠牲者となった娘の柩から、錠が手も触れないのに落ち、しかも錠は閉じたままだという場面があったり、それに先だっては、別の犠牲者を埋めた墓地で、男爵の僕が新たに吸血鬼と化した娘が起きあがるのを促すべく声をかけるなど、ある意味でのメルヘン的な趣きが前作との違いになっているように思われます。
 監督はテレンス・フィッシャー、撮影ジャック・アッシャー、美術バーナード・ロビンスンと、『フランケンシュタインの逆襲』(1957)以来のスタッフが続投していますが、音楽はマルコム・ウィリアムソンが担当しています。ジェイムズ・バーナードのそれほど一聴瞭然ではないものの、ピアノやパイプ・オルガンを繰りだしてけっこう頑張っているといってよいでしょう。
 何よりこの作品では、マインスター城のセットがかなり密度濃く仕上げられています。中でもロミオとジュリエットならぬバルコニーの場面は、一見して忘れられない構図で、おかげで後に記すような例によって例のごとき勘違いまでさせてくれたのでした。

 タイトル・バックでは崖の上にそびえる塔だらけの城のシルエットが映しだされますが、これは意図的に絵だとわかるようにしてあります。ナレーションを伴なったプロローグは、水辺の森が映され、川だか湖だかを奥に、手前は葉が落ちてねじくれた枝に覆われている。青灰色のトーンが全体を支配しています。場面はそのまま森の中を疾走する馬車に移り、霧がたなびいている。ぬかるみ状態の道をふさぐ木の枝を御者(マイケル・リッパー)が動かしている間に、黒衣の男(マイケル・ムルカスター)が馬車の後ろに貼りつきます。
 馬車は夜の村に着く。画面奥の、上に家屋をいただくトンネル状の通路を抜けて手前に停まる。まずこのトンネルの上の家屋の屋根が、妙にうねった曲線をなしています。その右手前の建物も同様です。こちらは2階にバルコニーがあります。そのさらに右手前、地面から何段かあがって入る建物も見える。この村のセットもとてもよくできていました。
 黒衣の男が御者にお金を渡している一方、ヒロイン(イヴォンヌ・モンロー)は先ほどの階段をあがって酒場兼宿屋に入ります。玄関から左右に伸びる体裁で、『吸血鬼ドラキュラ』にも登場したプランです。しかも今回は照明に特徴がもたされていて、奥の方は赤く染まる一方、ヒロインがつくテーブルの周辺は紫を帯びています。この色つき照明は城の中でも見られることでしょう。それだけではありません。玄関の左右には前に迫りだして曲線を描く柱だか仕切りがありますし、酒棚は背の高い三角形です。その横板は斜辺から少し突きだしている。『吸血鬼の接吻』(1963)で似た棚に再会できることでしょう。また外観では、宿屋全体は木造のようですが、土台は石積みで、玄関もその分、段上に上がるようにあっているわけです。玄関自体三角破風をいただいて手前へせりだしており、向かって右に階段が設けてある。この宿屋は後にも再登場します。
 馬車が勝手に出発してしまい途方に暮れたヒロインを、酒場を訪れたマインスター男爵夫人(マーティタ・ハント)が「丘の上」の城に誘う。何か言いたいけど言えない宿屋の経営者夫婦をよそに、ヒロインと男爵夫人を乗せた馬車が出発すると、黒衣の男がそれを見送るのでした。この黒衣の男の出番はここまでなのですが、とてもこれで退場とは思えない怪しさを振りまいていました。対するに男爵夫人の馬車の御者はいたって普通の人のようです。


 城の外観が下から見上げられます。模型のようです。左に二基の尖り屋根の塔にはさまれた棟、わすかに間をあけて右にもう一棟、その右端の角には小塔がついています。全体を基台が支えている。本体部分は明るいグレーで、いかにもおどろおどろしいというのではない、すっきりした印象をもたらしています。左の棟だけ屋根は緑で、二つの塔、右の棟と小塔の屋根は赤茶色です。左の棟だけ縦横に黒い桟が区切っている。右の棟では随所に設けられた窓から灯りが漏れています。

 男爵夫人とヒロインは画面右寄りの扉から入ってきます。その向こうが玄関なのでしょう。扉の両脇には『吸血鬼ドラキュラ』に続いて捻り柱が控え、左側では2本あります。扉を抜けて左へ折れれば、そこが広間です。そんなにだだっ広そうではない。少し進んですぐ右奥にひろがっていき、突きあたりには『吸血鬼ドラキュラ』や『バスカヴィル家の犬』(1959)同様、中2階の回廊が見えます。回廊の欄干には内側が花型紋様の円が並んでいる。回廊の下にはゆるい尖頭アーチが二つほど見えます。広間の中央は大きな黒の長テーブルが占めている。テーブルの向こう、回廊に向かって左の壁には中央に暖炉が設けられています。広間にはいくつか大きな枝付燭台が配されている。
 中2階歩廊へは向かって右に壁沿いの階段でのぼります。まず壁に数段のぼって左へ折れる。これは『バスカヴィル家の犬』と同じパターンでした。あがってすぐの踊り場には手前、すなわち扉口から入った短い部分に向かった手すりがつけられています。
 ヒロインは使用人のグレタ(フリーダ・ジャクソン)に案内されて自分に当てられた部屋に向かいます。階段をあがるとすぐ、回廊の欄干には大きなドラゴンでしょうか、石像が吹き抜けに向かってとりつけられており、これがこの広間の特徴をなしています。ドラゴンは長い首を下に曲げ、王冠をいただいている。二枚の翼があります。このドラゴン像は回廊の先にももう一つあります。
 回廊の壁には低い水平の梁が走っています。回廊を進んだ先に、ヒロインの部屋があります。扉を入ると数段さがり、両脇には手すりがつけられているのですが、その内側に紫の光があたっている。扉の向かいにやはり数段分高くなってフランス窓があります。外はバルコニーになっていて、両脇に蔦を絡ませた捻り柱が控えています。

 ヒロインはバルコニーから斜め下を見下ろします。ここが本作品のハイライトの一つでしょう。かなり下に、まる1階分以上は下にありそうなバルコニーが見える。こちらのバルコニーの欄干の手前側は凹んだ円をなしています。それから右奥へ少し伸び、角をはさんで右手前へ折れる。折れた部分の上は半円アーチのあるファサード状をなしています。このファサードの右端を隠すようにして、その右に迫りだした棟がある。ここには両脇を2本ずつの捻り柱にはさまれた頂きが半円の窓があり、中は赤紫色に染まっています。
 左側のバルコニーに戻ると、奥には3つ尖頭アーチが並んでいて、真ん中のものが出入り口になっています。左側のアーチの下には、後に出てくる真紅の寝椅子がのぞいています。バルコニーは右奥、ファサードの向こうにも続いているようです。
 バルコニーの下には切り立った壁がかなり下まで落ちこんでいるかのごとく感じられます。この深さの感触が眺めをいっそう印象的なものにしているわけです。ヒロインはここに若い男の影を見るのでした。
 さて、例によって例なるがごとき勘違いというのは、昔TVで見て以来ずっと、ヒロインの部屋のバルコニーと階下のバルコニーは向かいあった位置にあると思いこんでいました。ということはバルコニーとバルコニーの間は中庭だということになります。他方後の場面で、ヒロインと男は言葉を交わし、また頼まれた鍵を上から下へ投げいれるのですから、そんなに離れているわけでもない。すると中庭もそんなに広いものではなく、しかしあの深さからして、光があまり射しこまないはずで、ずいぶん変わった造りだなと思っていたのでした。もっとも考えてみれば二つのバルコニーが向かいあっている必要はないし、実際ヒロインの視線は斜め下に投げられています。仮に向かいあっているのだとしても、四方すべて閉じた中庭でなければならないわけでもない。つまり城の壁自体に凹凸があり、そこにバルコニーが設けられていると考えた方がよほど自然なのに、久しく中庭として憶えていたというのは、思いこみの強さを示してあまりあるというものなのでした。
 他方ヒロインがグレタに声をかけられて広間へ戻る際、ヒロインの部屋の窓の向かいにも壁があり、青紫に染まった窓が見えます。


 広間でテーブルについて男爵夫人と会話する時、夫人の背後に回廊の下が見え、2段あがって左のアーチの奥に、さらに1段あがって扉のあることがわかります。アーチの左手は台座状に手前に出ており、回廊からおりてきているのでしょうか、ドラゴンの脚らしきものをのせています。また夫人が坐る椅子の背もたれには、むやみに豪華な飾り縁がついています。
 暖炉の左は手前に短い梁がでており、すぐに柱に支えられています。柱は上半が方形で下半は円柱で、奥の壁から出てきた台座にのっている。その向こうに扉があって、息子を隔離した部屋につながっているのだと言います。後の場面で、扉の前の門状の部分は、ヒロインが少しかがまなければならないほどの高さしかないことが映ります。

 ヒロインの部屋は、戸口の向かって右手が奥に凹んでおり、そこに寝台が据えられています。そのあたりは紫に染まっている。起きだしてバルコニーに出ると、下のバルコニーの欄干の上に男がのぼっているのが目に入ります。飛び降りるのを止めるべく、ヒロインは回廊を左から右へ、階段をおり、広間を横切って暖炉脇の扉へ向かう。これが1カットで映されます。『バスカヴィル家の犬』にも同様のカットがありましたし、さかのぼって『フランケンシュタインの逆襲』や『吸血鬼ドラキュラ』でもこれに類したカットが見られました。本作品でも変奏しつつ反復されます。これあることによって城の空間が通過すべきものとして把握されるわけで、古城映画必須の場面というべきでしょう。
 さて、カットが換わるとヒロインは画面奥、画面と平行に走る廊下を左から出てきます。壁は石積みです。すぐに左へ折れ、数段おりて手前にも廊下が伸びています。すぐ左に扉があって、入ると細長い部屋のようです。入口から向かって左奥の突きあたりには机の上に赤いシェイドのランプが置いてあり、周囲を赤く染めています。突きあたりの壁に向かって左側が、バルコニーに面した尖頭アーチの連なりでした。手前に出たその柱には斜め格子や色ガラスの青や黄の影が落ちています。
 足を鎖でつながれた男、男爵に夫人の部屋にある鎖の鍵をとってきてほしいと頼まれたヒロインは、自分の部屋の隣にあるという夫人の部屋へ向かいます。上から見下ろしながら後退するカメラによって、ヒロインが今度は先ほどと逆に、広間を横切り、階段をのぼり、ドラゴンを横目に回廊を右から左へ、廊下に通じる奥の白い半円アーチへ背を向けて進むところが1カットでとらえられます。
 アーチをくぐって左へ折れると、また白い半円アーチがあり、そこをくぐると向かって左、すぐの扉が夫人の部屋です。そこで曲がらずもう少し手前に進めばヒロインの部屋なのでしょう。
 一方階段をのぼってくる夫人が上から見下ろされ、扉をあけます。自室に戻ったのかと思いきや、そこはヒロインの部屋で、しかしヒロインのベッドがもぬけのからなのを見ると、部屋を出ます。廊下の左脇は壁が前に迫りだしており、ここは夫人の部屋にあたるはずですから、ヒロインの部屋で扉の脇が凹んで寝台を置いていたのと同じような造りになっているのでしょう。とまれすぐに廊下になって、画面の奥には半円アーチが見える。
 半円アーチの手前で左に折れれば、自室です。やはり入って数段おりるようになっていますが、ここでは階段は向かって右に向かいます。この短い階段にはやはり欄干が設けてあります。また向かいが窓で、バルコニーに通じる点も同様です。部屋のセットはおそらく一つ造ったものに変更を加えて使い回したのではないかと思われます。2階の寝室の前の廊下と、1階の男爵の部屋の前の廊下もたぶん同様なのでしょう。似たようなパターンが続くといえばそのとおりですが、むしろパターンの反復によって城の空間の複数性が保証されると見なすこともできます。
 話を戻せば、夫人の部屋にヒロインは見当たらず、しかしヒロインはバルコニーの欄干を乗り越えて壁に貼りついていたのでした。自分の部屋のバルコニーまではすぐで、何とかまたいで帰り着きます。バルコニーの欄干に中2階回廊同様、飾り円の列があることがわかります。そしてハンカチにくくりつけた鎖の鍵を下のバルコニーに投げ落とす。
 室内に入ればしかし、夫人に問い詰められ、逃げるようにして回廊を右へ進むところをカメラは下から眺めながら、そのまま階段をおり、その後は首から上だけが映ったかと思うと、下にいる男爵の胸に飛びこむさまが1カットでおさえられます。


  続いてやはり下から見上げれば、夫人が回廊から階段まで進んでくる。階段下端の小柱がこれもドラゴンの石像をのせていることがわかります。この後に続く場面は、ある意味で本作品の山場の一つでしょう。まず上から、階段をのぼりかけるヒロインと下に立つ男爵が見下ろされる。次いで下から夫人の上半身。上から男爵の見上げる顔をアップで。下から夫人のアップ。いったん背を向けます。上から男爵のアップ再び。下から振りかえる夫人のアップ。上半身に切り替わって、からだをねじり階段をおりかける。上からまた男爵のアップ。下から引きで、左手前に背を向けた男爵の肩から上、その右上で紫がかった寝着のヒロインとおりてくる夫人がすれ違います。夫人は青紫のスカーフをつけている。男爵は青みがかったグレーのマント。男爵は夫人の肩を抱いて奥の方へ向かいます。

 ヒロインが部屋にいると下から「行ってしまった」というグレタの声が聞こえてくる。ヒロインが階段をおり、広間を横切って暖炉脇の扉へ向かうさまが1カットでとらえられます。男爵の部屋でグレタは、泣き叫び、落ち着いた口調で語るかと思えば、次いで笑いながらヒロインを椅子に力なく腰掛ける夫人の前へ導く。ヒロインは広間を横切り、玄関外のポーチを抜けて、水辺の森へ逃れ去るのでした。
 さて本作品でもっともひねりの効いた人物は夫人とグレタでしょう。先立つ場面で城の使用人は自分だけだとグレタは述べており(馬車の御者は臨時雇いだったということでしょうか)、ヒロインと夫人の会食の場面では、息子の世話はグレタ任せだと夫人が言ってグレタの手を握れば、グレタは夫人の手にもう一方の手を重ねます。深い絆を伝える情景ですが、ヒロインが逃げ去った後のグレタの独白はそこに複雑な陰影のあったことを物語ってくれます。この間赤ランプを背に、前に出ればカメラに近づいて横顔のアップになる。そして「彼は自由になった。でも戻ってくる、私のもとへ」と言って赤ランプの右手にある赤いカーテンをさっと開けば、床には空になった黒い柩が置いてあるのでした。それを見下ろすグレタの背後にはアーチが見えます。ここまでで31分弱です。
 影の主役というべきグレタはここまで引っ詰め髪にショールを肩にかけるという扮装でしたが、次に登場する際は髪をばらしていることでしょう(なおグレタを演じたフリーダ・ジャクソンにはAIPの『襲い狂う呪い』(1965)で再会できます。ただし顔のほとんど見えない役でした)。


 いったん城は舞台からはずれますが、その後も面白い空間を見ることはできます。登場なったヴァン・ヘルシングが倒れていたヒロインを助け起こす朝の森、二人を乗せた馬車は先の酒場兼宿屋に戻り、いろいろな機能を果たしているらしく、奥の薄紫のカーテンの向こうには朝、森で発見されたという娘の遺骸を納めた柩が置いてあったりします。ヴァン・ヘルシングが逗留する宿の部屋も映ります。そこでは神父との吸血鬼談義が交わされるのでした。
 日は暮れて見せ場の一つ、宿屋の脇にあるという墓場です。ヴァン・ヘルシングは手前の門の方へやってくるのですが、門をくぐった右脇には上への階段があって、『吸血鬼ドラキュラ』の場合同様墓地がくぼ地にあることがわかります。ヴァン・ヘルシングが目をやると、地べたに身を伏せて髪をばらけさせたグレタが下の方へ声をかけています。土からにゅっと白い手が突きだすさまはなかなかかっこうがいいとともに、グレタが復活を励ます口調は、彼女が一種の母なるものの役割をつとめていることを伝えずにいません。正確には夫人と役割を分担しあっていたというべきなのでしょうか。ともあれ男爵を生かしつつもおさえていたはずのグレタがここに来て、吸血鬼の僕というより協力者に変貌するのは、影の主役の面目躍如たるところというべきでしょうか(宿屋での吸血鬼談義で昼間は人間の保護者が必要なことも語られていました)。


 『吸血鬼ドラキュラ』同様、第1部が終わった後でヴァン・ヘルシングは城を後始末しに訪れます。まずは夕刻でしょうか、城の外観で、前回とは少し違った角度で見ることができます。画面手前には円柱とのぼりの欄干らしきものがある。その向こうの丘の上に2本の塔とその間に左寄りで高い棟、右の塔のさらに右にもう一つの棟があります。
 玄関前のポーチにカメラが近づくと、向こうからヴァン・ヘルシングがやってくる。画面左の扉の両脇では、台座に何かの像が載せてあります。中扉から広間の長テーブルへ、そのまま暖炉脇の扉へ向かうさまが1カットでおさえられる。廊下から向かって左の扉へ向かえば、バルコニーの部屋です。部屋の奥、赤ランプと赤いカーテンの間には、黒っぽい先尖りの何かが見え、壁には木を描いた綴織がかかっている。カーテンを開けば、床に柩を置いてあった跡だけが残っています。
 ヴァン・ヘルシングの背後には尖頭アーチが並んでバルコニーに通じているわけですが、左のアーチの向こうには、左上からくだってくる階段がのぞいている。階段は下方で折れて手前にくだり、そこに夫人が現われます。他方赤ランプのある壁の向かい側には、数段のぼってカーテンをかけたアーチがあります。カーテンを開く男爵が下からとらえられる。向こうはすぐ壁になっており、赤く染まった窓が設けてあります。天井には枝状の影が落ちている。
 この部屋の中央にも黒い長テーブルが置いてあり、これをはさんで男爵とヴァン・ヘルシングの活劇がくりひろげられた後、男爵が暖炉脇の扉から広間を横切るさまと、彼を追うヴァン・ヘルシングが1カットで映されます。玄関前には馬車が駐めてあり、男爵は自らそれを操るのでした。
 ヴァン・ヘルシングが部屋に戻ると、夫人がバルコニーから室内へ入ります。この時点で夫人は吸血鬼化しているのですが、自分の意志もあることがわかります。カメラは上から夫人にゆっくり近づく。換わってヴァン・ヘルシングに下から近づき、アップをとらえる。また上からの夫人のアップ、次いでヴァン・ヘルシング、夫人それぞれのアップ。
 さて、バルコニーにいるヴァン・ヘルシングが夜明けを迎えます。右のアーチの向こうには上への階段が見えます。室内に入れば、奥の窓は紫です。カメラは回りこんでアーチに沿った寝椅子の夫人を上から見下ろします。彼女に杭を打つヴァン・ヘルシングが、かなり下から見上げられます。
 お城再訪は約48分頃から始まって、約1時間1分弱まででした。この後舞台はまた移り、『吸血鬼ドラキュラ』の場合とは異なり残念ながら城に戻ることはありません。


 宿屋に戻って別の医師が喜劇的な息抜き役をつとめてくれた後、彼とともにヴァン・ヘルシングはヒロインの赴任した学校を再訪します。前夜亡くなったというヒロインの同僚の首もとへ、ヴァン・ヘルシングに促されてかがみこめばカメラもそのまま下へ同伴し、次いで上で水平に戻る。ヴァン・ヘルシングとともにカメラは後退、扉へ向かうまで1カットでした。
 学校の厩に柩を置くことになります。ヴァン・ヘルシングの指示で番をすることになった校長夫人とヒロインが交替します。壁に黒い馬具とその影の曲線が異様なまでに錯綜しています。話す厩番とヒロインからカメラは回りこんで柩をアップでとらえます。錠が勝手に落ちると俯瞰でアップにする。厩番が振り向き、錠を拾って校長を呼びにいくさまをカメラは回りながら1カットで映します。外に出た厩番を上から見下ろせば、蝙蝠に襲われるのでした。ヒロインが一人残った厩では、また錠が落ちます。上から床を見下ろしたかと思うと、柩の蓋が跳ねあげられる。柩の内側には薄紫の布が貼ってありました。


 黒いシルエットと化した風車小屋が下から見上げられます。中は1階部分と5段ほどのぼった中2階部分が登場するのですが、1階部分にも段差があります。中2階に置かれた柩を十字架で封印しようとするヴァン・ヘルシングを、グレタと二人の〈花嫁〉が止めようとして、グレタは上から突き落とされてしまう。次いでやって来た男爵とヴァン・ヘルシングの活劇です。カメラもまた上になり下になりの活劇を演じます。二人の花嫁はその間、中2階から見下ろしているのですが、ともに白衣をまとい、蒼白なメイキャップを施された二人はからだの向きも平行して、あたかも双子化したかのごとくです。
 なお1階部分には上から太い縄が垂れさがっていて、これをヴァン・ヘルシングは三度にわたって用います。まずは探索の際ひょいと段差のある上へ跳びあがる時につかまり、男爵との格闘の際にはターザンよろしく縄につかまって飛びかかる。そして男爵に咬まれた後に焼き鏝を当てる荒療治の際、腕に巻きつけてからだを支える。小道具が大いに活用されている好見本というべきでしょうか。
 ヴァン・ヘルシングをやっつけた男爵は、学校のヒロインの部屋に現われます。寸前にヒロインはヴァン・ヘルシングから渡された首掛け用の小さな十字架を鏡に引っかけていたのですが、そこに駆け寄るヒロインと彼女を追う男爵の動きが素早い。
 ヒロインを連れて男爵が風車小屋に戻ると、荒療治が功を奏したヴァン・ヘルシングは、先だって神父に渡された聖水入りの小瓶をとろうとします。その時二人の花嫁は前と同じ体勢で上から見ているのですが、声もありません。十字を切るようにして聖水を振りかけられた男爵は篝火を蹴り倒します。二人の花嫁は奥へ逃れますが、その後どうなったかは語られません。
 風車の羽にヴァン・ヘルシングが飛びついて十字架の位置になすさまが、下から見上げられる。奥には満月が照っています。男爵が上から見下ろされる。十字架の影は四つの枝の先端が左右にひろがっています。ヴァン・ヘルシングは中2階の出口の左にある階段へヒロインをおろす一方で、自分は踊り場の手すりからひらりと飛び降りて男爵のもとへ駆けつけます。ヒロインを抱き寄せて見上げれば、下から風車小屋についた火が燃えひろがるのでした。燃える風車小屋は『フランケンシュタイン』(1931)のラストを思いださせずにはいませんでした。

Cf.,  石田一編著、『ハマー・ホラー伝説』、1995、p.178。

石田一、『ハマー・ホラー写真集 VOL.1 ドラキュラ編』、2013、pp.14-23

The Horror Movies, 4、1986、p.58

菊地秀行、「我がドラキュラ映画の時代」、『妖魔の宴 スーパー・ホラー・シアター ドラキュラ編 1』、1992、pp.313-317

ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、pp.94、96/no.050

Peter Hutchings, Hammer and Beyond. The British Horror Film, 1993, pp.120-121

David Miller, Peter Cushing. A Life in Film, 2000/2013, pp.86-88

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, pp.82-84

Derek Pykett, British Horror Film Locations, 2008, pp.24-25

Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.110-111
 2015/1/26 以後、随時修正・追補
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