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蛇女の脅怖
The Reptile
    1966年、イギリス 
 監督   ジョン・ギリング 
撮影   アーサー・グラント 
編集   ロイ・ハイド 
 プロダクション・デザイン   バーナード・ロビンソン 
 美術   ドン・ミンゲイ 
    約1時間31分 
画面比:横×縦    1.85:1 
    カラー 

DVD
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 同じジョン・ギリングが監督した『吸血ゾンビ』(1966)の直後に撮影された作品で、バーナード・ロビンソンによるセットも続けて用いられました。二つの作品をさほど時間をおかず見れば、そのままの部分と変更された部分を比べることができるという楽しみも生じるわけです。『吸血ゾンビ』で印象的だった採掘場跡は登場しないものの、前作に比べると古城度は少しばかり上がっているといってよいでしょう。
 舞台もコーンウォールのある村で、前作では名前は挙がりませんでしたが、今回はクレグモア村と呼ばれます。プロローグ部分を経て、主人公たちが村に到着すると葬列に出くわす点も同じでした。加えてイギリスの片田舎で異郷の呪いが跳梁するという主題も共通しています。本作の設定については後の『レリック』(1997、監督:ピーター・ハイアムズ)と比較することもできるかもしれません。
 音楽は今回はドン・バンクス。キャストも前回ゾンビ化した若妻を演じたジャクリーン・ピアースが今回は蛇女に変じます。マイケル・リッパーも続投、今回はけっこういい役です。監督のギリングはリッパーを買っていたようで、翌年の『ミイラ怪人の呪い』(1967)でも起用しています(石田一編著、『ハマー・ホラー伝説』、1995、p.149;ギリングへのインタヴューより)。

 『吸血ゾンビ』でも登場した館1階付近の外観がさっそく登場します。やはり夜です。前作とは少し角度が違い、6角形に見える窓二つの左側に続く棟が少し見えます。まずは2階分の窓のある少し迫りだしたかのような部分、次いでまた1階に窓がある。画面左手前には石像が映っています。
 男が手前から玄関の方へ向かい、中に入る。入ると1~2段おります。上から見下ろされれば、手前下を右上がりの手すりがふさいでいます。手前に何かを大きく配するという構図も健在でした。男は奥から手前へ進む。真上から階段の下の方が見下ろされます。左は途中の高さまで壁で、その上で少し引っこみ、左奥は窓になる。下の壁には右から欄干の装飾の影が落ちています。右は欄干で、その向こうおよび手前に白い円柱がのぞいています。下の突きあたりは扉でしょうか。階段を男がのぼってきます。この階段は『吸血ゾンビ』で1階広間の奥にあったものと同じです。
 次いで前作では映らなかった眺め、2階の廊下です。男は右奥から現われ、手前へ進んできます。1~2段おりる。廊下の幅はあまり広くない。カメラは男の前進とともに後退し、止まって左へパンする。男はその前を横切ります。背中を見せて左へ、扉をノックしようとすると「離れろ!」と叫ぶ声。しかし背後から飛びだしてきた何者かに咬みつかれるのでした。男はよろめきながら階段をおり、広間で倒れ臥す。このシークエンスは後に変奏されることでしょう。
 男の亡骸をくぼ地の墓地に置き去りにし、逃げていく別の男の姿がはるか上から見下ろされます。カメラを上から下からで映すというやり方も前作どおりなわけです。この墓地も『吸血ゾンビ』に登場したものです。

 村の眺めも前作同様ですが、角度がやはり変えられています。画面左半ばから右手前へ橋が伸び、そこを死んだ男チャールズ・スポルディングの葬列が通る。橋の下が墓地なのも前作と同じです。橋の上から後に「阿呆のピーター」(ジョン・ローリー)と知れる人物と酒場の亭主トム・ベイリーが葬儀を眺めています。亭主を演じるのは『吸血ゾンビ』から続投するマイケル・リッパーで、顎髭を蓄えています。参列者はいない。ただ後に館の主ドクター・フランクリン(ノエル・ウィルマン)が花輪を手向ける。
 チャールズの弟ハリー(レイ・バレット)とその妻(ジェニファー・ダニエル)は黒猫をつれて兄の家に越してきます。仕事や収入はどうするのか、いささか気になりますが語られません。汽車で最寄りの駅に着き、そこから歩いて3キロでクレグモアの村です。チャールズの墓のすぐ右に右上がりの階段が7~8段あり、それから左へ水平に伸びるのも前作どおりでした。墓参りした後チャールズは「昇るひばり邸」の場所を聞くために階段をあがってすぐの酒場に入ります。酒場も前作と変わっていないようです。チャールズが入ってくると酒場にいた客たちはそそくさと出ていってしまい、亭主だけが対応してくれます。ひばり邸は村を出て森の先だという。

 相続手続きの際弁護士はひばり邸をただの小屋だと言っていましたが、なかなかどうしてちゃんとした田舎家です。二人が着くとしかし中は荒らされている。玄関入って右奥に幅が狭く角度が急そうな2階への階段が見えます。
 酒場で村人と言い争いになった後、ハリーはいつの間にやら調達した二人乗りの馬車で野原を家に向かいます。そこで「阿呆のピーター」と出会う。彼は10年、いや20年前に村へやって来たのですが、その頃は皆暖かかったとのことです。しかし「彼らに殺された」という。彼らとは何かと問えば、死の音との謎めいた発言です。

 真夜中、真っ黒になったピーターがひばり邸にたどりつきます。ハリーは助けを求めてお隣さんにあたるというドクター・フランクリンの館へ向かう。この時点で玄関付近がまた映り、『吸血ゾンビ』でも本作の冒頭でも画面左手前に映っていた石像が噴水の装飾であることがわかります。また広間の床が上から見下ろされれば、斜めの白黒市松でした。なおドクターは医師ではなく、神学博士とのことです。


 ピーターの葬儀が下から見上げられる。背後の石の建物の2階の窓の周囲が、あばた状の装飾で縁取りされています。また1階に時計が据えられているのは、チャールズの葬儀の際橋の上にいたピーターの背後に映っていました。ハリーは亭主から、村の住民が「黒死病 black death」と呼ぶ奇病によって、兄のチャールズ以外に数人犠牲者が出ていると聞かされる。ハリーは亭主に調査の協力を仰ぎますが、断わられます。かつて船乗りだったという亭主の苦渋がリッパーの見せ所です。
 なおこの作品では主要な人物が皆、現地で生まれ育った者ではないことになります。新参者のハリー夫妻はもとより、すでに長く村で暮らしているとはいえピーターと亭主ももとはよそ者でした。ドクターたちがもともとこの地の生まれかどうかは語られませんが、後に述べられるようにある程度の期間外国にいました。

 ひばり邸に妻が一足先に帰ってくると、中に見知らぬ娘がいて花を飾っています。不法侵入です。彼女はドクターの娘でアンナと名乗る。『吸血ゾンビ』に続いてのジャクリーン・ピアース登場です。なおこの時点で妻の名がヴァレリーだと知れます。少なくとも日本語字幕では約37分のここまで出てこなかったので、デュ・モーリアの『レベッカ』およびその映画版(1940)よろしく名前が出ないのかとどきどきしていたのでした。サスペンスです。歓迎の意を汲んでもらえたアンナが水を汲みに出れば館の召使(こちらはほんとうに名前が出ない。演じるのはマーン・メイトランド)に睨みつけられ、玄関を開けばちょうどそこにいたドクターに叱られます。夫妻を晩餐に招く許しは得たものの、罰だとして同席させてもらえない。
 広間でくつろぐハリーは汗を拭います。ドクターは暑い地域に慣れているので暖かくしているのだという。アジアの宗教が専門で、娘とともにインド、ジャワ、ボルネオにいたとのことです。アンナはヴァレリーにコレクションを見せたらどうかとドクターに言われ、別室に案内します。そこは多くの檻に動物が飼われているのでした。
 ドクターがハリーに引っ越してくれないかと相談している際、暖炉の右手、階段の手前左に出入り口がのぞきます。『吸血ゾンビ』では半円アーチでしたが、今回は方形に変わっています。その左右手前には高い台座と2本ずつの柱があり、左のものは円柱ですが、右のものは捻り柱のようにも見えました。
 戻ってきたアンナは今度はシタールを披露するよう言われます。右手前に大きく演奏する手が映り、向こうに着座するドクターがいる。召使が見つめる内、演奏のテンポが急速になり、激昂したドクターはシタールを壊してしまいます。『吸血鬼の接吻』(1963)、さらに遡って『女ドラキュラ』(1936)や『呪いの家』(1944)、『ドラキュラとせむし女』(1945)につながる演奏場面でした。


 アンナの部屋に召使が黒猫を連れてきます。アンナは大いに喜びます。しかしこの黒猫はヴァレリーたちが飼っていたものでした。
 他方翻意して協力を申しでた亭主とともにハリーは豪雨の中墓荒らしに出かけます。家に残るヴァレリーを窓から召使が見つめ、気配を感じた彼女が玄関に行くと手紙ガ残されていました。
 前もって亭主が掘り起こしておいたピーターの亡骸、新たに暴いたチャールズの遺骸双方の首筋に咬み跡が残されていました。ともに渡航経験の長い亭主とハリーはそれを、インドでキングコブラのものとして見知っています。
 ハリーが一足先に家に戻ると手紙には「助けて。アンナ」とある。一方雨が止んだ墓場を埋め直していた亭主が物陰に隠れれば、ドクターが墓に花を捧げます。


 ハリーは館に向かい、『吸血ゾンビ』での教授同様窓から不法侵入します。入った先は廊下です。このあたりは前作にはありませんでした。右奥へ進めば扉があり、動物部屋でした。そこを奥へ、左に扉があって書斎でしょうか、さらにその奥の扉をこえれば広間です。手前から奥へ進むと階段の下となります。冒頭の場面同様、上から階段が見下ろされる。ただし今回は灯りも消えて暗い。ハリーがのぼってきます。次いでやはり廊下を奥から手前へ、カメラも後退していったん止まり、ハリーはその前を横切る。蛇女のアップが登場します。下からドクターが「危ない!」と叫ぶのもまた冒頭をなぞるものでした。ハリーが咬みつかれるのをカメラは斜めにとらえる。蛇女は奥の部屋に引っこみます。部屋の中は赤い。階段が上から見下ろされ、駈けおりるハリーの背中が映されます。彼は広間を横切り玄関へ向かう。

 ハリーが死んでしまわなかったのは咬まれたのがカラー越しだったからです。インドで覚えた手順なのでしょうか、家にたどり着いた彼は傷をナイフで切りとります。
 その頃館では召使がドクターに誰が主人なのか考えろと迫っている。
 ヴァレリーが酒場の亭主を呼びに行くのが2階から見下ろされます。
 館でドクターが廊下を右から左へ進む。窓から夜明けらしき空がのぞいています。ドクターはカメラの前を横切り、背中を見せる。突きあたりの扉はアンナの部屋のものです。中へ入るとベッドには脱皮した後の皮だけが残っている。
 部屋を出て、廊下を右へ、窓がまた見えます。窓の右手で数段のぼるまでが下からとらえられます。階段をおりてくるところがやはり下から、そのままカメラは左から右へ振られる。階段をおりた向かいの扉口へ背を見せて入っていきます。
 地下室への階段が左上から右下へおり、手すりは下で折れて左下へさがっています。階段をおりて右へ、カメラの前を横切り右へ背を見せて進む。カメラはこれを下から1カットでとらえます。
 左奥の扉口から出てくれば、奥に窓のある部屋です。手前方向に曲がって正面向きで進んできます。
 今度は洞窟状の空間となります。奥の左上から下へくだってくる。右奥には通路が伸びており、向こうに青い光が射しています。その手前の壁に蠟燭の黄色い光。下からのバスト・ショットをはさんで、手前からの引きになる。手前下には床より高くなって、内側にぶくぶくと泡立つ沼があります。その向こうに布に包まれた躰が横たわっている。一気に古城度がアップするシークエンスでした。廊下や階段など、経路こそが古城映画の肝だと教えてくれます。拍手するべきところではないでしょうか。


 ヴァレリーは駆けつけた酒場の亭主とともにハリーの無事を確認します。亭主は酒場を開けにいかなければならない間二人を休ませようとココアに鎮静剤か何かを混ぜますが、ヴァレリーは手をつけず、館の玄関付近を手前から奥へ背を見せて進みます。画面の左手前には像の一部が大きく映り、右上では枝が揺れている。ヴァレリーが玄関の方へ行った直後、左から召使の頭部がにゅっと突きだすのでした。
 またしても『吸血ゾンビ』の教授にならってヴァレリーは窓から忍びこみます。暗い廊下を奥へ背を向けて進むさまをカメラは下からとらえる。アップをはさんで、動物部屋を左から右へ、扉を開けば広間の椅子でドクターがうつらうつらしているのを見て引き返します。
 ドクターは目をさまして剣をとる。扉口を通って暗い廊下を奥から手前へ進みます。カメラが前進すると、すぐ後ろにヴァレリーがいます。ドクターは階段の手前を左から右へ、向かいの扉口に背を見せて入っていく。先は地下への階段です。上から見下ろされた眺めの手前に、左下がりの手すりが移っています。その向こうをヴァレリーが右から左へ進み、カメラもパンする。柱の向こうを通り、背を向けて地下への扉口に向かいます。
 ドクターは地下室を左奥から手前へやってくる。カメラは後退します。ヴァレリーが階段をおりてくるのをカメラは下から見上げ、そのまま左上から右下へ首を振ります。ヴァレリーは階段をおりて左へ曲がり、背を見せて奥を右へ進む。この時はカメラは見下ろす形になっています。
 ドクターが洞窟を左上からおりてくるのをカメラは下からとらえます。やはり下から、沼の前で剣を振りあげる。動物の鳴き声がします。かなり上からのショットに換わり、沼の左側に檻が積んである。ドクターがそちらへあがって背を見せます。黒猫や兎を逃がす。
 上からのカメラはヴァレリーが左から右へ進むと水平になります。手前へ折れて正面向きでこちらへやってくる。
 洞窟の奥の青い通路から召使が出てきます。沼の縁からおりるドクターが上からとらえられる。剣をとろうとすれば召使と格闘になり、藁に火が移ります。ドクターは召使を沼に沈める。そこへヴァレリーが着く。逃げだすヴァレリーをドクターが追います。洞窟の階段をのぼるさまが上から見下ろされる。洞窟への階段が映ったのはここが初めてでした。洞窟の上の倉庫状の地下室で追いつき、広間でつかまえて奥から手前へ進む。扉の中へ入れば書斎でしょうか。


 事情が説明されます。男が娘に呪いをかけたのだという。日本語字幕によれば「ボルネオの宗教を研究中、ある密教の存在を知った」。それは「蛇神教」で、表に出るのを嫌う。それをドクターは論文に書いて公表します。数週間後アンナが消え、3週間して戻ります。その時彼女は蛇の僕にされており、それが彼らの復讐だというのです。ドクターとアンナはイギリスへ戻ります。硫黄泉で冬でも暖かいからです。

 この間ハリーは眠ったままです。ふりかえればヴァレリーがハリーをほったらかして積極的な行動に出たのは面白い点といえるかも知れません。もとより当時のハマー・フィルムの常套どおり、彼女の行動はつまるところ怖い目に遭わされるためであり、最終的に男性の登場人物に助けられるのですが、ハマー作品のヒロインの多くがおおむね受け身なのとは多少とも対照を見てとることができるかもしれません(悪役になれば女性登場人物も能動的になります)。

 さて眠っていたハリーは亭主のノックで目を覚まします。二人は館に向かい、『吸血ゾンビ』も含めここで初めて屋根の上までの館の外観が登場します。大小さまざまな階段状の破風が連なり、煙突等が何本もそびえるというものでした。3階プラス屋根裏の高さです。それが登場早々煙を吹いています。
 どういうつもりかドクターはヴァレリーを部屋に閉じこめて広間へ出ます。そこには蛇女と化した娘が立っている。ドクターは手を差しのべますが咬みつかれてしまう。ヴァレリーが扉を開くと蛇女と顔を合わせます。
 また館の外観となり、今度は右下から炎がのぼってきます。ハリーと亭主が駆けつける。ハリーは玄関から中へ、亭主は窓を割る。それが書斎の窓で、入りこむ外気に蛇女は「寒い It's cold」と叫んで倒れます。火事で暖まっていると思うのですが、それはおきましょう。ヴァレリーは玄関側から来たハリーと合流する。炎上する館。ヴァレリーは黒猫の鳴き声を聞きつけて助けだします。炎に包まれる館の外観が映され幕となるのでした。


 なおジョン・ギリングは翌年『ミイラ怪人の呪い』(1967)を監督しています。『ミイラの幽霊』(1959、監督:テレンス・フィッシャー→こちらで少しだけ触れました)、『怪奇ミイラ男』(1964、監督:マイケル・カレラス)に続くハマー・フィルムでのミイラもの3作目です。古城度が高いとはいえないのでここで触れておくと、とはいえプロダクション・デザインはバーナード・ロビンソン、美術監督ドン・ミンゲイとあって、冒頭の古代の場面こそ味が薄いものの、王子の墓につながる洞窟がいやに長い点を皮切りに、主人公たちが滞在するホテルの内装、とりわけホテル周辺の路地のセットは密度が濃い。マイケル・リッパーも小心な現地取りまとめ役でがんばっていました。
Cf.,  The Horror Movies, 4、1986、p.78

黒沢清+篠崎誠、『黒沢清の恐怖の映画史』、2003、pp.125-129

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, pp.133-134

David Pirie, A New Heritage of Horror. The English Gothic Cinema, 2008, pp.142-144
 2015/2/17 以後、随時修正・追補
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