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吸血ゾンビ
The Plague of the Zombies
    1966年、イギリス 
 監督   ジョン・ギリング 
撮影   アーサー・グラント 
編集   クリス・バーンズ 
 プロダクション・デザイン   バーナード・ロビンソン 
 美術   ドン・ミンゲイ 
    約1時間30分 
画面比:横×縦    1.85:1 
    カラー 

DVD
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 ハマー・フィルムによるゾンビもので、『恐怖城』(1932)および『私はゾンビと歩いた!』(1943)とあわせて、ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968、監督:ジョージ・A・ロメロ)以前の、ヴードゥー教に基づくゾンビを主題にした代表的な作品の一つと見なされているようです。
 音楽はジェイムズ・バーナードで、基本はいつもどおりながら、ハイチから来たという設定なのでしょう、冒頭ほかでの数人の黒人のお兄さんたちがコンガを叩いている場面以外にも打楽器だけの曲があったりします。
 プロダクション・デザインはバーナード・ロビンソンで、本作品に続けて撮影されたやはりジョン・ギリング監督による『蛇女の脅怖』(1966)とセットを共有しているとのことです。DVDに収録されたプロダクション・ノートによると、『凶人ドラキュラ』(1966)の氷結した濠を墓地に換え、城を分割してコテージやパブにしたという。古城映画とはいいがたいものの、お屋敷以外にも村や採掘場跡などに面白い空間がありますので、手短かに見ておくことにしましょう。

 プロローグの呪いの儀式を経て、お話はロンドン大学の医学教授フォーブス(アンドレ・モレル)のもとに、コーンウォールのある村で医師をつとめる弟子ピーター(ブルック・ウィリアムス)からの手紙ガ届くことで幕を開けます。教授役のアンドレ・モレルは『バスカヴィル家の犬』(1959)でワトソンに扮した俳優です。村に奇病が蔓延しているというピーターの話に、ピーターの妻アリス(ジャクリーン・ピアース)の友人でもある娘シルヴィア(ダイアン・クレア)の示唆もあって、娘ともども村へ出かけるのでした。アリス役のジャクリーン・ピアースは『蛇女の脅怖』にも続けて出演しています。

 教授とシルヴィアの乗る馬車が原っぱを走る場面を経て、村に入ります。画面手前をゆるく左上がりの坂が走り、左端で奥から伸びてくる橋につながっています。その奥に石造りの家並みが並んでいる。坂の右端には何やら石造の門のようなものが見え、馬車はそこを抜けて左へ向かう。坂の奥には手すりらしきものがあります。その奥から橋の右側にかけてくぼみになっているらしい。橋には奥から葬列がやってきます。
 さっそくここで一悶着あり、またすぐ後の酒場の場面で、ピーターが来てから12人が怪死をとげ、月に一人の勘定だという話が出ます。

 地主のハミルトン(ジョン・カーソン)の屋敷の広間が映ります。奥に左上がりの階段があり、突きあたりの壁に窓がある。階段は右下で折れ、手前へ3段ほどさがります。左は壁です。ハミルトンは奥から進んできて、手前で大きく映された蠟燭の火のもとへ来る。本作品では時々画面手前に思いきり大きく何かを配する構図が登場します。左の壁の奥の方、階段の手前には半円アーチがあり、そこから召使いが出てくる。その手前には暖炉があります。階段踊り場の突きあたりは黒い扉のようにも見えます。また階段をおりた手前では柱が前に迫りだしています。

 夜中、シルヴィアが2階の部屋にいると、前の通りをアリスが奥へ歩いていくのが見下ろされます。この作品ではカメラはしばしば上から見下ろしたかと思えば下から見上げたりするのがけっこう目につくような気がします。シルヴィアはアリスを追う。ピーターの家の前の通りは、すぐ左側に酒場があり、また突きあたりも近い。突きあたりからは家と家にはさまれた細い通りが続いています。アリスはその奥を左へ折れる。シルヴィアが追うと、折れた先は下り坂になっています。この作品ではカメラ自体の上下運動だけでなく、村周辺の地形もけっこう上下がある設定でした。
 アリス、続いてシルヴィアは夜の森を進みます。前に古い採掘場跡が開ける。左に建物があり、その右に高く大きな車輪をのせた櫓のようなものが見えます。その手前右の地面には、大きな輪が放置されている。背を向けたアリスは手前からいったん地面をくだり、また少しのぼって地面の輪の左へ進みます。輪の上4分の1ほどが大きく前面を占め、その向こうでアリスは振り向く。そのまま輪の後ろを回り、また右手前へ出てきます。すると彼女の前面に手の影が落ちるのでした。胸もとの小さな十字架が反射して光ります。


 一方シルヴィアは厄介事に巻きこまれ、地主の館に拉致されます。玄関口が下から見上げられ、次いで広間が上から見下ろされる。玄関間と広間の間で数段おりることがわかります。また暖炉は壁からゆるい曲線で少し迫りだしている。
 シルヴィアを危害から助けだし送りだした後、ハミルトンは手前から奥へ、そして左手、階段前の半円アーチに向かいます。アーチには少し厚みがある。カットが換わると進行方向からの視点になり、ハミルトンは奥から半円アーチをくぐってきて、すぐ左へ折れる。いったん1~2段おり、すぐにまた1~2段あがれば上半が窓になった扉を開きます。カメラは少し斜めです。

 他方教授とピーターは真夜中を待って、奇病の原因を突きとめるべく、今朝埋葬されたばかりの遺体を解剖しようと墓荒らしに出かけます。左上、奥から短い水平の通路を経て左下への階段を進みます。階段は下方で手前に折れる。水平の通路と階段には手すりがついており、水平部分の下は向こうに続いているようにも見えます。まわりはすべて石壁です。画面右手前に大きく、斜めに傾いだ十字架が映っている。

  館を飛びだしたシルヴィアは、採掘場跡にやってきます。斜め下からシルエットと化した輪が映され、風でかすかに回ります。輪は一つでなく、二つ平行に配され、間に水平の軸か何かがつないでいることがわかります。このショットは幾度となく反復されることでしょう。『執念のミイラ』(1944)での捲き上げ塔が連想されたりもするところです。
 また地面に放置された輪には歯車のギザギザがついていました。シルヴィアは歯車の背後から現われ、その前まで来れば頭部のアップが下から見上げられます。左後ろに上方の二つ輪がのぞいています。振り向くと、二つ輪の下に女を横抱えにしたゾンビが立っている。そのアップ、シルヴィアと切り替わり、かなり下からゾンビの膝から上がとらえられる。ゾンビは女を投げ落とす。アリスです。シルヴィアが駆け寄り、振りかえるとシルエットになった二つ輪が映るのでした。


 教授とピーターが墓を掘りかえすさまが上から見下ろされたかと思うと、下から警官二人が見上げられます。警官の一人で巡査はマイケル・リッパーが演じています。リッパーには続く『蛇女の脅怖』でも出会えることでしょう。警官二人のいる位置は階段の向かい側にあたります。とがめられた教授がすかさず柩の蓋を開けると、中はもぬけのからでした。
 教授が巡査の協力を取りつけ、後を任せて階段をあがってくると、シルヴィアが橋をふらふらとやってきます。その後ピーターの了承を得てアリスの解剖に取りかかる。死後硬直しておらず、口元についた血を顕微鏡でのぞくと、人間の血ではないという。
 ピーター邸の玄関間が上から見下ろされます。このショットは後にも反復されます。教授とピーターは巡査を誘って昼間の採掘場跡に出かける。錫の鉱山だったとのことです。『バスカヴィル家の犬』でも錫の廃坑が登場しましたが、実際コーンウォールは錫の産地だったそうです(→[ウィキペディアの「スズ」のページ内の「原産地の変遷」]による)。


 その間にハミルトンはピーター邸を訪れ、割れたガラスで傷を負ったシルヴィアからその血を密かに採取した後、館に戻ります。玄関間と広間との間には低くなった梁があることがわかる。カメラが後退しながら左から右へ動けば、ハミルトンは玄関から広間を通り、いったんカメラとともに立ち止まってから、カメラの前を横切って、背を向けて半円アーチへ向かう。1カットでした。
 アーチをくぐって上半が窓の扉に入ります。書斎のようです。扉が画面左に映り、ハミルトンは右へ回って数段おりて手前へ来る。またカメラの前を横切って左奥へ、机の向こうでこちら向きに坐ります。これも1カットでした。
 次いで土俗的な仮面をかけた右手の壁をノックします。どうやら隠し扉になっているようです。扉の向こうがどう続くのかは残念ながら映されません。


 教授は牧師の蔵書で調べ物をしています。その際彼が見ている本にブリューゲルの《キリストの冥府への降下》の図版が掲載されていました(下の挿図参照)。ページをめくると三人の裸婦を描いた版画も映り、おそらく魔女を描いたものだと思うのですが、有名なバルドゥング=グリーンのものとは違っていて、ネタは今のところわからないでいます。女性の一人はミケランジェロのシスティナ礼拝堂天井画の《原罪》におけるエヴァを思わせる体勢なのですが。

 教授は調査からヴードゥー教におけるゾンビの存在を引きだします。早いなというのはおくとして、それを確かめるため埋葬したアリスの墓で番をすることになる。疲れた牧師は休みにいくのですが、その際トンネル状の通路を通る。牧師は下からのぼってきます。向こうは墓地の階段なのでしょう。その手前、天井部分が右下がりになっており、左側の壁は粗石積みです。この壁は手前で左に折れて家屋になります。牧師は奥から手前に出て左へ進むのですが、仮面をつけた男に襲われる。悲鳴を聞きつけた教授とピーターが駆けつける。手前に大きく車輪が配され、その向こうを二人は走ります。牧師の無事を確かめ、送った先は以前に出てきた下り坂をおりて右の扉でした。下り坂の右側には幅広の階段状をなす欄干がついています。
 二人が離れた隙に一味は墓を掘り起こそうとしますが、教授たちが戻ってきた足音を聞いて退散する。二人が戻るとすでに柩の蓋は開けられており、アリスの顔が見えます。上から見下ろすアリスの顔のアップがいやに長く続くと、徐々に灰色化するのでした。目を見開きます。教授とピーターの顔のアップが下からとらえられる。教授は「ゾンビ!」と言う。アリスは起きあがり二人の方へ近づきます。微笑を浮かべる。教授は地面のシャベルを拾いあげ、首を落とすのでした。ピーターは気を失ないます。


 左上から右下へ階段の手すりが上から見下ろされ、右下でピーターが手すりをつかんで立ちあがります。向こうは墓地です。カメラは左から右へパンし、途中にアリスの亡骸が転がっています。ピーターのバスト・ショットが斜め下から映される。背後には台座の上に柱が2本立っています。土をかき分ける指のアップが上から見下ろされる。土の下から開いた両手が出てくる。ピーターはゾンビの群れに取り囲まれます。足もとの水たまりは真っ赤に染まっています。

 悪夢でした。しかし教授はピーターに何を見たと訊ね、確かめに走れば、いくつもの墓がからっぽでした。ピーターの夢に根拠があるとなぜ考えたのでしょうか。
 留置されていた人物が消え、その前に地主が面会に来ていたこと、その際ガラスを落としたことなどを聞き、加えてシルヴィアの傷に気づいた教授は、シルヴィアに気を配るようピーターにに頼んで出かけます。また玄関間を上から見下ろすショットです。
 森を進むところが上から見下ろされ、館の前に着く。1階の窓は六角形をなしているようで、それが二つ、いずれも縦格子3本で区切られています。2階にも暗い窓が見えます。画面左手前にはグレーのねじれた木のようなものが映っています。これが何かは『蛇女の脅怖』で確かめることができるでしょう。背を向けた教授が手前から奥へ進み、左に曲がります。
 玄関に入って取り次ぎを頼む。召使いは階段をのぼっていく。その隙に玄関間右側の色ガラスのはまった窓をあけておきます。階段から広間が見下ろされ、玄関間からおりれば右はすぐ突きあたりの壁になることがわかります。

 教授はいったん帰るふりをして、灯りが消えるとあけておいた窓から不法侵入します。よく似た状況が『蛇女の脅怖』でも反復されることでしょう。暗い中、ハミルトンは階段をおりて書斎へ向かう。背を向けた教授は広間を進み、左の半円アーチの方へ向かいます。ハミルトンと教授の動きが交互に映されます。

 画面手前に編物をする手が大きく配されています。奥にはピーターが坐っている。ピーターが振り向くと、カメラは右下から左上へ動き、左上にシルヴィアの顔が大きく映される。
 教授が書斎に入るところが下からとらえられます。すぐ前のハミルトンの動きをなぞるように教授も進む。
 地下ではゾンビたちが労役につき、鞭打たれています。仮面をつけたハミルトンが来ると、黒人たちがコンガを叩きはじめる。
 画面左いっぱいを右を向いたシルヴィアの横顔が占める。奥にはピーター。ピーターが下から見上げられる。左向きのシルヴィアのバスト・ショットにカメラが接近すると、彼女は手前を向きます。
 仮面のハミルトンが「来い」という。下からのショットです。
 シルヴィアとピーターがやや下から映されます。ピーターに席を外させた隙に抜けだした彼女の背が、家と家の間の下り坂の方へ向かいます。
 書斎でカメラが右から左へ動く。教授のシルエットと化した背中を経て、時計の鐘が鳴ります。
 採掘場跡の二つ輪のシルエットが下から映されます。前と同じフィルムでしょうか。地面の歯車の右後ろからシルヴィアが現われ、手前へ出る。彼女の背中の右少し上からゾンビが近づきます。留置場で消えた人物です。
 教授が物音に身をひそめると、背後から白衣の男が襲いかかり、格闘になる。倒れた男の右腕に暖炉の火が移り、炎は燃えひろがります。
 地下にゾンビとシルヴィアが入ってくるところが下から見上げられます。ゾンビはシルヴィアを抱きかかえます。画面右手前に左向きのゾンビのアップが大きく配され、その向こうでシルヴィアを抱えたゾンビが左に進む。手前のゾンビは右奥に目をやります。ハミルトンのいる祭壇の上へ寝かされ、ハミルトンは彼女にかがみこむ。ハミルトンがアリスやシルヴィアをゾンビ化しようとする理由はよくわかりません。カメラが下を向くと、煙が這ってきます。
 書斎に入ってきた黒人の召使いをつかまえ、ハミルトンの居所が「採掘場」だと聞くと、火事を放置してそちらに急ぎます。教授の行動はいささか問題があるのではないでしょうか。
 また二つ輪が下からとらえられ、ピーターが現われる。カメラは上からと下からの角度を交替します。ピーターは二つ輪の下の方へ進んでいく。次は下降するエレヴェイターの中にいます。二つ輪の下にエレヴェイターがあるということのようです。ゾンビたちは煙を吹く腕をはたいています。それが燃えだして催眠が解けたのか、指図していた連中を襲いだす。教授もエレヴェイターで降りてきて、シルヴィアを救いだしたピーターを入れて上にあがります。ハミルトンが乗せてくれと駆けつけますが、背後からゾンビに首を絞められる。
 画面は真っ暗になり、また二つ輪が下から見上げられる。ゾンビたちは燃えだしています。二つ輪が燃えだすさまが下からとらえられる。逃げだす3人が手前に出、振り返るさまをカメラは接近、引き、俯瞰を交互に映すのでした。

Cf.,  The Horror Movies, 4、1986、p.74

伊藤美和編著、『ゾンビ映画大事典』、2003、pp.59

黒沢清+篠崎誠、『黒沢清の恐怖の映画史』、2003、pp.123-125

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, pp.131-133

David Pirie, A New Heritage of Horror. The English Gothic Cinema, 2008, pp.142-144

Derek Pykett, British Horror Film Locations, 2008, pp.99-100

Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.136-137
おまけ ブリューゲル《キリストの冥府への降下》
ブリューゲル《キリストの冥府への降下》
1632


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 2015/2/15 以後、随時修正・追補
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