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バスカヴィル家の犬
The Hound of the Baskervilles
    1959年、イギリス 
 監督   テレンス・フィッシャー 
撮影   ジャック・アッシャー 
編集   アルフレッド・コックス 
 プロダクション・デザイン   バーナード・ロビンソン 
    約1時間23分 
画面比:横×縦    1.66:1 
    カラー 

VHS
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 コナン・ドイルによるシャーロック・ホームズものの長篇4作の内、第3作を原作にした作品で、呪いの話は出てきますが、結局超自然現象は起きません。ただ古城が主たる舞台ではあり、加えて修道院址の廃墟に、少しだけですが廃坑なんてのも出てくるので、手短かにとりあげておきましょう。
 また本作品は『フランケンシュタインの逆襲』(1957)、『吸血鬼ドラキュラ』(1958)に続くハマー製作、監督テレンス・フィッシャー、撮影ジャック・アッシャー、音楽ジェイムズ・バーナード、美術バーナード・ロビンスンにピーター・クッシング(カッシング)、クリストファー・リーのコンビが主演した第3作でもあります。クッシングがホームズ役で、リーは旧家を嗣ぐべくやって来たヘンリー卿を演じています。クッシングのホームズは本国では当たり役だったそうで、本作が縁になってTVシリーズでホームズ役を務めたとのことです(デボラ・デル・ヴェッチーノ、「さよなら、聖ピーター」、pp.49-50)。リーのヘンリー卿は旧家の御曹司ということでやや高飛車ではありますが、素直な性格らしく、ロンドンのホテルでホームズと初めて顔を合わせた際は、二人してはきはきとしゃべりまくります。『フランケンシュタインの逆襲』では台詞なし、『吸血鬼ドラキュラ』では登場時こそはきはきしゃべりますが、その後は台詞なし、本作と同年公開の『ミイラの幽霊』では過去の場面で礼式を唱えるものの、現在の場面では台詞なしとあって、これだけでも一部ファン限定であれ見ものですが、さらに、仕込まれた毒蜘蛛が上腕を這いあがろうとする時に怯えた表情を見せてくれるなど、一部限定のファンにはたまらないことでしょう。

 余談になりますが、『ミイラの幽霊』は古城度が低いので今のところ棚上げの予定につき少し触れておくと、この作品は原題こそ『ミイラ再生』(1932、監督:カール・フロイント)と同じ The Mummy ですが、王女の名がアナンカ、高僧の名がカリス、発掘者親子の姓がバニングである点からもうかがえるように、実際には『ミイラの復活』(1940)の再話というべきものです(カルナクはなぜか神殿ならぬ神様の名前になっているようですが、手もとにあるソフトが輸入盤LDなので自信はありません)。『ミイラ再生』にいわゆる〈ミイラ男〉は最初ちらっと出てくるだけなので、ミイラが動き廻る『ミイラの復活』を取りあげたのでしょうか。底無し沼がクライマックスの舞台になるのは『執念のミイラ』(1944)を念頭に置いているのでしょう。というわけでリーが扮するミイラは、メイキャップに覆われ言葉を奪われた怪物なのですが、それでいて、王女と生き写しの女性に面した際、『ミイラ再生』の主演をつとめ、また『フランケンシュタイン』(1931)以来疎外されたマイノリティを演じてきたボリス・カーロフを彷彿とさせる悲哀を感じさせてくれます。

 本作品に戻れば、タイトル部分で、夜の原野の向こうの丘の上の城が映されます。二段構えでカメラが近づくと、城というよりは尖り屋根の家々からなる村のように見える。カメラはさらに接近、切り替わると母屋の1階の壁で、浅い三角に突きでた部分があって、窓が二つ設けられています。左の壁にもやや高くなった窓があり、いずれも黄色い光を漏らしている。ズーム・インすると二つの出窓の右の方から人が投げだされます。下は水を張った濠のようです。
 屋内に入ると、カメラが後退しながら左から右へとめぐるのは、館の広間です。窓の壁から向かって左は広間の奥にあたり、中2階の歩廊が横切っている。そこの壁は肖像画がいくつも掛けられています。歩廊の下には左右に二つ出入り口が見えます。歩廊の右端からは、窓の壁の向かいの壁に沿って階段がおりており、階段の上の天井は斜めになっています。階段降り口の先には暖炉がうがたれています。

 この広間が館の中枢にあたり、話が進むに従って結構も明らかになっていくのですが、まずは階段です。広間からはまず壁に向かって数段あがり、それから左に折れて壁沿いになります。
 冒頭の場面は館に伝わる伝説を物語っているのですが、どんちゃん騒ぎ最中の領主が下から見上げられると、背後は広間の角で、角をはさんだ左右双方の上に斜め格子に色ガラスをはめた窓が見えます。右の窓の方が高い位置にある。領主は階段をあがり、歩廊を進みます。
 歩廊の先で、ということは広間の窓側の壁近くになるのでしょうか、右に折れると暗い廊下が伸びている。廊下の途中にはゆるいアーチ状の仕切りが二つほどあり、突きあたりは数段あがって簡素な扉が見えます。角を曲がった領主の背が奥へ進み、切り替わって前からとらえられます。そのまま進めばカメラの脇を通ってまた背を見せることになる。2階廊下でのこうした動きは何度かくりかえされ、古城映画的には最大の見せ場でしょう。『フランケンシュタインの逆襲』における研究室前の廊下が思いだされるところでもあり、また『吸血鬼ドラキュラの花嫁』(1960)でも変奏されることでしょう。

 廊下の突きあたりの部屋は、この後何度も登場するのですが、この時点では使用人の娘が閉じこめられています。しかし彼女は窓から抜けだします。窓は屋外から見ると、凹部になった角の左脇にあることが続いて映しだされる。娘がいないことに気づいた領主は急いで広間に戻ります。広間が上から見下ろされ、歩廊の向かい側の壁、右寄りに数段あがって向こうへ通じる出入り口が見えます。
 玄関から出ると、濠をまたぐ短い通路を経て、数段おりて地面となります。玄関に向かって左側はゆるい上り坂になっていて、その奥から犬たちが放たれる。坂をはさんで母屋の向かいにも棟が手前に出ています。玄関前の階段の右側には鋸歯型胸壁が伸びており、濠に沿っているのでしょう。

 原野に逃げこんだ娘が見上げると、廃墟のシルエットが見えます。斜めの支え柱があって、これが今後も目印になることでしょう。シルエットをなしていたのは斜面にかかるアーケードで、その先はくぼ地になっています。そちらを上から見下ろすと、後に修道院址と語られる廃墟が続いています。このくぼ地は『吸血鬼ドラキュラ』におけるルーシーの墓所のある墓地を思い出せますが、本作品ではより規模も大きく、クライマックスの舞台ともなります。加えて壁の一部には、やはり『吸血鬼ドラキュラ』でドラキュラ城玄関広間にあったのと同じような、上辺に木の芽状の飾りを散らした半円アーチが、ここでは壁に埋めこまれています。

 ロンドンのホテルでの顔合わせをはさんで、まずはヘンリー卿とワトソン(アンドレ・モレル)が館に到着します。2階廊下を右から左へとカメラが動き、扉が映されるとそこがワトソンに割り振られた部屋です。ワトソンは部屋から出て、右の方を振り向くと、突きあたりの扉が見える。

 玄関付近の外観が昼の光のもとで映されます。玄関のある壁の左側には冒頭での出窓状の部分があり、さらに左へ窓の縦桟に刻まれた部分、次いで石壁と続きます。石壁の2階部分は少し前に出ています。玄関前の階段に続く橋には両側に手すりがあり、三角屋根状になっています。これも『吸血鬼ドラキュラ』で見られた細部です。

 訪ねてきた司教をヘンリー卿が屋内へ案内する。木の壁にゆるいアーチがあり、数段おりると広間です。アーチの奥は玄関に通じているのでしょう。このアーチは中2階歩廊の向かいの壁、右寄りにあり、左の方にも同様のアーチがあって、奥に通路が続いています。その向かい、ということは中2階歩廊側の左寄りの出入り口から執事が現われる。出入り口の右脇は凹んだ幅の広い空間になっており、その右が中2階への階段です。
 会話する司教とヘンリー卿の背後、上方に円形の花型紋を刻んだ石の装飾が並んでいます。階段の壁の先なので暖炉のあたりかと思えば、後にそのとおりであることがわかる。また階段の欄干が黒っぽい木製であることも映ります。


 郵便局に出かけたワトソンは帰り道、ステイプルトン(ユワン・ソロン)に出会った後、岩の上にいる娘を見かけます。声をかけると岩を駈けおり、沼の方へ走ってしまう。その動きが速い。娘はステイプルトンの娘セシール(マーラ・ランディ)なのですが、しばらく台詞なしで通します。彼女は館の玄関前でヘンリー卿と出会う。何かにつけ反応の起伏が激しく、彼を斥けては逃げだし、キスし、また逃げだす。実のところ本作品でいっとう存在感を放っていたのは彼女ではないでしょうか。

 奥への廊下が上から見下ろされます。下方、左に上への階段が続いている。その向かいの扉からヘンリー卿が現われます。振りかえると、廊下突きあたりの扉が見えます。この扉は壁を刳った凹みに設けられており、離れてみると方形の上の方で左右が突きでているかのようです。扉に耳を寄せるヘンリー卿が下からとらえられ、その上に大きな影がかかります。ワトソンでした。二人して中に入れば、荒れたままで物置化していました。
 奥の窓によると、向こう側から合図が送られていることがわかります。二人は部屋を飛び出す。廊下を奥から手前へ進み、カットが切り換わると、角を曲がって中2階歩廊から階段へ、広間を横切って向かい側右の出入り口に向かうさまが、左から右へ動くカメラによって1カットでとらえられる。カットが換われば、玄関を外から見た場面です。


 廃墟でホームズと合流したワトソンは、何者かの鳴き声を聞いて走ります。この映画では皆何かとよく走るのでした。
 その後、館の玄関が、広間右奥のアーチをくぐってすぐ右にあることがわかったり、錫の鉱山址に入ったりという展開を経て、クライマックスは廃墟を舞台とします。ここで啖呵を切るセシールがとてもかっこういい。梯子をかけた、上の段から怪犬が飛びだし、ヘンリー卿に襲いかかるのでした。

Cf.,  Peter Hutchings, Hammer and Beyond. The British Horror Film, 1993, pp.76-82

Mark A. Miller, Christopher Lee and Peter Cushing and Horror Cinema, 1995/2010, pp.96-112: "6. The Definitive Sherlock Holmes. The Hound of the Baslervilles (1959)"

David Miller, Peter Cushing. A Life in Film, 2000/2013, pp.76-78

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, pp.58-60

The Christopher Lee Filmography, 2004, pp.79-82

Derek Pykett, British Horror Film Locations, 2008, pp.67-68

原作については各種の邦訳があることと思いますが、とりあえず;
コナン・ドイル、延原謙訳、『バスカヴィル家の犬』(新潮文庫 赤 134G)、新潮社、1954
原著は
Arthur Conan Doyle, The Hound of the Baskervilles, 1901-1902

その著述の経緯を辿ったのが;
クリストファー・フレイリング、『悪夢の世界 ホラー小説誕生』、1998、pp.285-384:「第4章 バスカヴィル家の犬」
 2015/1/24 以後、随時修正・追補
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