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ミイラの復活
The Mummy's Hand
    1940年、USA 
 監督   クリスティ・キャバンヌ 
撮影   ウディ・ブレデル 
編集   フィリップ・カーン 
 美術   ジャック・オタースン 
 セット装飾   ラッセル・A・ガウスマン 
    約1時間7分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ

DVD
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 『ミイラ再生』(1932、監督:カール・フロイント)に続くユニヴァーサル社の〈ミイラ〉もの第2弾です。前作と話がつながっているわけではなく、他方、以後の『ミイラの墓場』(1942)、『執念のミイラ』(1944)、『ミイラの呪い』(1944)とは続き物になっています。『倫敦の人狼』(1935)と『狼男』(1941)以後のローレンス・タルボットものとの関係に対応しているとでも見なせるでしょうか。とはいえ過去の因縁話は『ミイラ再生』をなぞること多く、またその場面では前作の映像が用いられていました。ボリス・カーロフの顔が映るところだけが、トム・タイラーに差し替えてあります。また前作でカーロフ演じるイムホテプは、冒頭でだけミイラの姿で、その後は普通の人間アーダス・ベイとして登場していたのですが、今回以降、いわゆる〈ミイラ男〉はずっとそのままの姿で、これを操る古代エジプトの宗教を奉じるカルナクの神官の一団が現在まで生きながらえているという設定になります。
 古代エジプトの文化が放つ魅惑と相まって、〈ミイラ男〉のイメージは文化偶像としてそれなりの地位を確立したといってよいのでしょうが(→こちらも参照)、『ミイラ再生』を別にすれば、この4作に関しては作品としての評価はかなり微妙なものとされているようです。本作だけ見ても、ミイラの映し方や動かし方はいささか切れに欠ける気がします。ただここに登場する神殿およびそれに付随する二つの階段はなかなかに悪くないので、手短かにとりあげることとしましょう。


 タイトル・バックから神殿とそこに通じる階段が映されます。昼間の日の下、神殿は丘の上にあり、入口らしきもののある手前の棟と、そのすぐ後ろの少し高くなった棟からなります。双方石造りです。そのすぐ右から画面手前へ、長い階段がおりてくる。わずかに左向きで、途中に踊り場があるのか、そこから下の方が幅が広いように見えます。向かって右に沿っては、崩れた大振りの石材がいくつも散らばっています。手前に近いすぐ左脇にも石造りの建物があり、窓らしきものが開いています。階段とこの建物の間には大きな木が枝をひろげています。このショットはエンド・マークの折りにもくりかえされます。
 続いて丘の上に近づいた場面では、神殿の壁の上半分に大きな顔の像が刻まれていることがわかります。この棟は左の方に続いているようです。また少し後の場面では、ここを訪れた神官が階段をのぼります。階段はかなり古く、手当てもされていないようで、踏面が波打っています。のぼりきった先から少し左にふれば、入口です。とまれこの階段の長さは、視覚的にとても印象的でした。クライマックスでも効果的な用いられ方をすることになるでしょう。

 中に入ると、数段おりて床になる。画面上端にはずっと軒が伸びており、それを支え石を経て下ひろがりになる円柱が支えています。壁には壁画が描いてある。奥の壁には下ひろがりの台形に壁龕がうがたれ、そこに石の椅子が据えられています。カメラは神官とともにさらに左へ進む。円柱を経てもう一つ台形の壁龕、石の椅子があり、そこに神官長が座しています。手前には湯気の立つ長円形の水槽があり、その水面に過去の映像が浮かぶのでした。
 部屋の奥、さらに左は突き当たりになっているようで、そこに神像が据えられています。『ミイラ再生』から使い回した映像に即して、台座には隠し棚があり、そこに収められた箱には、前作での巻物ではなく〈タナの葉〉が入れてあります。
 ミイラの不死および活動を保証するという〈タナの葉〉は今回導入された設定です。満月の夜に効力を増すというのは人狼ものを連想させますが、9枚を超えて飲ませると制御不能の怪物になってしまうという話は、本篇では活かされませんでした。

 舞台はカイロに移ります。ここで映る博物館内部の吹き抜けのショットは、やはり『ミイラ再生』から。主人公たちが資金提供者を見つける酒場は、カウンターの奥に捻り柱があり、また客席側の窓は低い石の半円アーチに囲われています。次いで資金を提供することになった奇術師とその娘であるヒロインが滞在するホテルの一室では、クローゼットにハンガーの影が並んでいたり、ヒロインの向こうにある鏡だか窓に、ライトの光が9つ以上並んでいたりしました。

 次は発掘現場の谷です。発見された墓は、洞窟状の廊下を通って、その奥の玄室に入ります。ここはたぶんに殺風景で、柩は壁に立てかけた状態で配され、壁龕には大きな壺が置いてありました。
 谷のある山の裏手には、最初に登場した神殿があるという配置になっていて、復活したミイラが発掘現場に戻る際、位置ははっきりしないのですが、塔のような湾曲した壁面の吹き抜けに設けられた階段をのぼっていきます。階段はかなりごつい石造りのもので、下の方はあけてあるのか、黒い凹みが少しのぞいています。壁には壁画が描かれ、松明がさしてあります。また高さに応じて、どういった機能があるのでしょうか、壁にぽつんぽつんと丸石のようなものが埋めこんである。階段の頂きは通路への扉口になっています。この階段は後にもう一度登場します。

 発掘現場のテントでは、灯りを消した際、光の当てられた人物と対比される暗めのグレーのひろがりが印象的でした。とりわけ眠りについたヒロインの服だけが白く輝き、一方暗灰色のテントの向こうにミイラの影が左から現われるカットは、かっこうがよろしい。
 ヒロインをさらったミイラは、墓の発見された洞窟に向かいます、この洞窟と裏手の神殿が秘密の通路でつながっているという設定はうれしいところです。もっともテントへは屋外からやって来ており、そのあたりの位置関係は定かではありません。他方主人公はいささか悠長に通路の入口を探し、壁に立てた柩の裏にあることを発見するのでした。


 ヒロインが連れこまれた神殿の広間は、最初に出てきた神官長のいる部屋とは別のようで、位置関係は定かではありません。ヒロインを抱えるミイラとともにカメラは、後退しながら上昇し、そのさまを見下ろします。画面右手、半円アーチの扉口から数段おりれば床になります。右奥の壁には梁を支える石組みが二組見え、そこに松明がさしてあります。石組みは上に大きな石、下に小さな石というもので、1943年版『オペラの怪人』の地下湖にも登場します。左から右へ進むと、やがて巨大なジャッカルらしき獣の石像が見えてきます。二重になった円形の台座の上にそびえるそれは、人の背よりずっと大きい。手前の方の床には、縦長の陳列ケースのようなものがあって、中にはどうも柩が置いてあるようです。
 さて、カメラがさらに右へ進むと、ジャッカル像が一体だけでなく、背中合わせにもう一体あることがわかります。ジャッカルとジャッカルの間は祭壇のようになっていて、何か櫃が置いてある。祭壇部分の上は太い柱というか、ほとんど塔状になって上へ伸びています。祭壇部分の手前には低い横長の台があり、ここにヒロインは横たえられるのでした。
 『ミイラ再生』ではアーダス・ベイが、恋慕しそのため生きたままミイラにされる原因となった王女アンケセナモンの生まれ変わりであるヒロインと添い遂げるために、彼女にいったんミイラになることを要請し、肘鉄を喰わされることになったわけですが、今回はミイラであるカリス本人でもない神官が、王女アナンカの生まれ変わりでもないヒロインに惚れこんで、ともに永遠の生を生きようというのでした。そのためにはタナの葉の汁を注射して、いったんミイラ化しなければならない。このモティーフは続く『ミイラの墓場』でもくりかえされます。
 なお後の場面で、扉口とジャッカル像の間の壁を奥に進んだ突き当たり、やはり巨大な獣の横顔のように見えるものがあります。ただこれは単なる岩なのかどうか、はっきりしません。また台座の脚の部分にも、やはり獣の横顔を象ってありました。


 銃声を聞きつけた神官は、ジャッカルの間から、先に出た湾曲する階段をのぼり、神殿の入口に出ます。扉口は台形をなしており、ここで主人公の相棒に返り討ちにあって、外の階段を転げ落ちるのでした。階段の正しい使い方というべきでしょうか。
 他方主人公は秘密の通路の入口を発見、先を急ぎます。通路には円柱が立ち、壁画ものぞいています。たどりついたのはジャッカルの間の入口で、かくして最後の戦いがくりひろげられることになります。

Cf.,  Jeremy Dyson, Bright Darkness. The Lost Art of the Supernatural Horror Film, 1997, pp.79-82

Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, pp.197-198
 2014/11/8 以後、随時修正・追補
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