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狼男*
The Wolf Man
    1941年、USA 
 監督   ジョージ・ワグナー 
撮影   ジョゼフ・A・ヴァレンティン 
編集   テッド・J・ケント 
 美術   ジャック・オタースン 
 セット装飾   ラッセル・A・ガウスマン 
    約1時間10分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ

DVD
* TV放映時の邦題は『狼男の殺人』
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 『倫敦の人狼』(1935、監督:ステュアート・ウォーカー)に続くユニヴァーサル社の〈人狼〉もの第2弾で、脚本はカート・シオドマク。お城は出てくるものの、核となるのは夜の森です。とはいえ城のセットは、なかなか見所があります(DVDの音声解説でトム・ウィーバーは、このセットが続く『フランケンシュタインの幽霊』(1942)などでも用いられると述べています)。

 冒頭、タルボット城の外観が映ります。これは模型のようです。丘の上に建っており、玄関棟を中心に左右に伸び、両脇を締める棟が少し前に出るというかっこうで、水平性が強調されているのですが、遠景でも大きな窓の縦の桟や、煙突らしきものがくっきり見えて、装飾的な趣きがあります。続いて玄関外景が接近して斜めからとらえられるのですが、やはり開放的な感触が強い。現在も人が住んでいるということで、廃墟寸前の妖気など求めるべくもありませんが、重厚さを欠いてはいません。
 ロン・チェイニー・Jr演じる主人公とクロード・レインズ演じるその父親が玄関から入って、奥に進むさまをカメラが追います。玄関室を経て広間に入ると、画面奥に階段があって、いったんまっすぐ奥へ、踊り場で左右に分かれます。左側は手前に折れて2階にあがる。その下には物置でしょうか、1階部分に扉がついています。すぐ左隣、玄関側にもう一つ扉があります。右側はそのままの高さで右に進み、回廊をなしている。広間側にはアーケードが設けられています。
 二人と彼らを追うカメラはさらに1階を右に入っていく。中2階の回廊の手前には衝立のようなものが配され、そのさらに右、暖炉と書棚のある一角となります。壁には化粧板が貼られ、落ち着いた感じを出しています。
 後の画面で映る、大きな窓に蔦がからむ明るい空間も、この広間のどこか続きにあるようです。また別の場面では、奥からの角度で、扉の向こうの玄関室の壁に、枝のように何本かの斜線が落とす影が見えます。これは何の影なのでしょうか。

 続いて届いたばかりの望遠鏡が設置される、階上の部屋が映されます。ここはさらに開放的で、この時点では凶事の影などいっさい感じられません。父子も和気藹々としています。奥の壁とそれが折れた右側の壁は総ガラス張りになっています。奥は中2階になっていて、そこに望遠鏡が配される。中2階には右端に設けられた鉄製の細い階段というか手すりつきの梯子であがるようになっています。この階段が据えられた低い壁は書棚になっていて、階段のすぐ左隣には大きな星図がかけてあります。部屋の手前にも天球儀が置かれている。
 中2階の高さの部分は、窓の外まで張りだしていて、バルコニーになっているようです。奥の方には鋸状の胸壁のある高くなった部分と、そこにあがるための低い段がのぞいていました。


 望遠鏡で見つけた眺めに誘われて、主人公は村の骨董屋に向かいます。この骨董屋も、外観からするとそんなに広くはなさそうなのに、内部は数多くの品物を並べていることもあって、けっこう入り組んでいるように見えます。とりわけ後の場面で映る、玄関脇の廊下状の空間は印象的でした。

 以上の他、ベラ・ルゴシが客演したベラの葬儀の場面での、教会正面(DVDの音声解説によると『ノートルダムのせむし男』のセットだという。時期からすると1939年のウィリアム・ディターレ監督の作品のことでしょうか。ロン・チェイニー・Jrの父、ロン・チェイニーがカジモドを演じた1923年の作品からはずいぶん時間があいているのですが。ただ『透明光線』(1936)でも23年作のセットが使用されたとのことです)から墓場を経て、納骨堂にいたる道行きも挙げておきましょう。納骨堂は太く低い柱が交差アーチをなしていました。また後の場面で教会身廊も映りますが、こちらはゴシック様式で窓から光が降り注いでいます。
 また『女ドラキュラ』(1936)のところでも記しましたが、主人公を正面からとらえたアップに始まって、さまざまな光景がオーヴァーラップしながらモンタージュされる場面が挿入されています。やはりDVDの音声解説によると、『ジキル博士とハイド氏』(1941、監督:ヴィクター・フレミング)の同巧の趣向に触発されたのだろうが、いささか見劣りするとのことです。
 主人公の部屋は城の1階にあるのですが、そこに入る前に映る廊下がなかなか魅力的です。天井は幅の広い山型をなしており、右には椅子が置いてあります。奥には窓がある。懊悩する主人公は左奥から現われて自室に入ります。自室には大きな鏡が台の上に据えられているのですが、これが前倒れの傾斜で天井に取りつけられています。壁には綴織がかかっていました。
 やはり懊悩する主人公がヒロインの骨董屋に向かう夜の村は、なぜかソフト・フォーカスで撮られています。家の脇から2階の窓に小石を投げつける場面では、奥の家の壁に左上がりの縞状の影が落ちていました。


 ちなみにDVDの音声解説で骨董屋の室内場面に関し、この頃の映画で天井が映るのは珍しいと述べています。セット設営にあたって、天井をつけない方が照明などに便利だし、経済的でもあろう点は容易に想像できるところです。またセットの天井のあるなしと、天井が高く見えるかどうかは、別の問題でしょう。とはいえこれまで見てきた30年代までのハリウッド映画の古城やお屋敷では、少なくとも近代日本の平均的住居に慣れた目からすると、度外れなまでに天井が高く感じられることが少なくありませんでした。本作品でもタルボット城の階段広間や展望室は、この例に漏れません。
 他方、骨董屋の室内だけでなく、この映画の肝である夜の森でも、垂直性よりは水平軸を強調する画面設計がなされているように思われます。森の木々はいずれも、根もと付近で枝分かれして、真っ直ぐ上に伸びるというより、放射状にひろがっていきます。木と木の間隔はかなりあいていて、馬車で往き来できるほどです。その足下を霧が這い寄ってくる。こうした水平性の強調は、犠牲者に忍び寄る狼男の動きに呼応しているのでしょう。とりわけクライマックスでは、逃げるヒロインとそれを追う狼男、さらにそこに駆けつけるタルボット卿の動きが連動して効果をあげていました(追記:本作での森のセットは翌年の『フランケンシュタインの幽霊』(1942)のタイトル・バックで再利用される他、『扉の蔭の秘密』(1947)でも用いられたという。また近い雰囲気の森が『ヤング・フランケンシュタイン』(1974)の始めの方に登場します)。


 もとよりこの映画に、垂直軸に沿った運動が欠けているわけではありません。展望室の場面でもタルボット卿が細い階段をのぼるところがありましたが、とりわけ印象的だったのは、1階の階段を上から見下ろす形でとらえ、そこをまずタルボット卿が中2階からおりていきます。下には主人公がいる。次いで主人公は階段をあがり、タルボット卿が1階にいる。二人は会話を交わしつつ、タルボット卿はまた階段をのぼってくる。カメラは二人の動きにあわせて角度を変えていき、中2階の高さで二人とともに水平となる。
 さらに後の場面で、森の木の枝と枝の間に、あまり高くはない見張り台が設けられるのですが、その上にいる人物と地面に立つタルボット卿が言葉を交わす。この関係は、馬車の御者台にすわる、マリア・ウスペンスカヤ演じるジプシーの老女と地面のタルボット卿との間で反復されます。二つの場面の間でタルボット卿が森を歩くところでは、下から見上げるように撮っています。とまれこうした上下構図を経ることで、この後のクライマックスでの水平運動が際だつのでしょう。三人の動きの速いこと。そして最後は、タルボット卿の打ち振るう銀の杖の上下運動に転じ、倒れた主人公と彼を見下ろす人々の姿で幕を下ろすことになるのでした。

Cf.,  ハーラン・エリスン、「イントロダクション 月に吠える『狼』!」『妖魔の宴 スーパー・ホラー・シアター 狼男編 1』、1992、pp.7-16
菊地秀行、「我が狼人間(ウィアウルフ)映画の時代」、同上、pp.305-309

石田一、Monster Legacy File、2004、p.12

デイヴィッド・J・スカル、『モンスター・ショー 怪奇映画の文化史』、1998、pp.245-250

Jeremy Dyson, Bright Darkness. The Lost Art of the Supernatural Horror Film, 1997, pp.83-95

Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, pp.215-217
 
Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.62-63

なお、『倫敦の人狼』や本作品を含めた人狼映画の概観として;
トム・ウィーバー、石田恵子・大下美男訳、「REEL世界の人狼伝説」、『日本版ファンゴリア』、no.1、1994.9、pp.9-18

こちら(『不死の怪物』)でも挙げています

本作品の続篇となるのが→『フランケンシュタインと狼男』(1943)

また本作品の再製作版が;
『ウルフマン』、2010、監督:ジョー・ジョンストン

おまけ  人狼は銀に弱いだとか、満月の夜に変身するといった設定が、民間伝承に由来するものではなく、本作品をはじめとする映画によって定着したとは、しばしば語られるところです。もっとも本作品の本編中では、満月云々という話は出てこないのですが(先立つ『倫敦の人狼』にはありました)。
ともあれ民間伝承の人狼についてはとりあえず;
池上俊一、『狼男伝説』(朝日選書 463)、朝日新聞社、1992、pp.13-79:「第1章 狼男伝説」

また
松村一男、「さあ狼になりなさい」(1993)、『神話思考 Ⅰ 自然と人間』、2010、pp.484-493


他方、『フランケンシュタイン』や『ドラキュラ』の場合とはちがって、人狼ものには決定版的な典拠となる近代のフィクションはないようです。とりあえず一例として;
ガイ・エンドア、伊東守男訳、『パリの狼男』(ハヤカワ・ミステリ 912)、早川書房、1965
原著は
Guy Endore, The Werewolf of Paris, 1933
発行年や原題からすると、『倫敦の人狼 The Werewolf of London』(1935)製作の触発源とはなったかもしれません。
エンドアについては→こちらでも触れました

 2014/10/27 以後、随時修正・追補
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