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謎の狼女
She-Wolf of London
    1946年、USA 
 監督   ジャン・ヤーブロウ 
撮影   モーリー・ゲルツマン 
編集   ポール・ランダーズ 
 美術   ジャック・オタースン、エイブラハム・グロスマン 
 セット装飾   ラッセル・A・ガウスマン、リー・スミス 
    約1時間1分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ

DVD
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 人狼や旧家にまつわる呪いの話は出てくるものの、実際に超自然現象が起こるわけではありません。下に挙げたDVD封入ブックレットの石田一の解説によると、そのため不評を買ったりもしているそうですが、顧みればコナン・ドイルの『バスカヴィル家の犬』(1901→こちらも参照)やディクスン・カーの『夜歩く』(1930)、『三つの棺』(1935)などを始めとして、怪奇現象を題材にした探偵小説というのも作例に事欠くわけではありません。もっとも推理ものとして見てもいろいろつっこみどころはあるのですが、とまれこの作品については、舞台となる館のセットがなかなかよくできています。

 開幕早々、夜の丘に建つ館の外観が映しだされます。垂直に伸びあがるのではなく、水平方向にひろがって丘の頂きを覆っていて、そんなに階を重ねたものではなさそうです。中央に三角屋根の棟があり、そこから左右に伸び、左端は塔になっている。窓か柱か、縦線が随所に見え、凸部が光に反射しています。手前にはざっと丘のふもとがひろがっており、最前景は暗くなっています。月夜ということなのか、雲の形もくっきりしている。すぐにタイトルやクレジットがかぶさるのですが、この全景はエンド・マークの際にも再登場します。

 ロンドンの警察署、本篇で副次的な舞台となる公園(ロンドンにあり、かつ館の近くということですが、かなりだだっ広い。後で出てくる夜の場面では、必ず地面に霧が這っている)に続いて、館の玄関前が映ります。扉はゆるい山型アーチの奥にあり、左右は太い角柱にはさまれている。地面から数段分高くなっています。カメラは上から見下ろしつつ、左から右へと振られます。手前には低い塀が右の方へ伸び、少し間をとって本棟のガラス窓となります。さらに右へ行くと、塀の奥から数段おりて、勝手口があります。勝手口の上は放射状のアーチで、上端は階段ピラミッド型をなしている。左右に塀が伸びていて、ここから召使いのハンナが出てきます。彼女はまっすぐに進むのですが、そこは最初の低い塀の手前にあたり、塀の向こうにいるヒロインの従妹と話す際には、地面の高低差がわかるようになっています。

 玄関から入ると、まっすぐ廊下が奥へ伸びているはずなのですが、まずはいったん右に折れ、それから奥に向かいます。ここは完全に壁でふさがれた部屋になっているわけではなく、アーケード状の仕切りで玄関廊下と分かたれているようです。このアーケードの柱はいったん受けで止めたその下は下細りになっていて、表面に装飾が施されている。この型の柱は後にヒロインの寝室でも見受けられます。柱は腰ほどの高さまでおりてきて、その下は仕切り板となります。
 従妹とともにカメラはさらに奥、画面右へ進みます。アーチを介して向こうに階段が見えます。階段は左上からおりてきて、踊り場を介して手前方向におり床に達する。この階段は後に何度も登場します。階段から手前方向へと絨毯が敷かれています。また手前のアーチには、金属の透かし模様が湾曲に沿って付されています。アーチの右端は石積みの角柱で、さらに右へ続く。暖炉があり、書棚があって、その先がようやく突き当たりです。角を折れれば窓になり、ガラス扉をはさんでまた窓、次いでカーテンが映ります。室内は居間、ガラス扉の向こうはテラスになっているようです。とこうして、延々と伸びる室内の結構が呈示されるさまは、なかなか楽しいものでした。

 夜になると、館の前面(?)を斜めからとらえたショットが映されます。高さは2階分ほどで、手前に少し突きでた部分と少し引っこんだ部分とが交互になり、随所に窓が設けられています。一番奥は尖り屋根の小塔になっている。このショットは後にもう一度くりかえされます。

 屋内に戻れば、先ほどの階段がより詳しく紹介されます。透かし細工のある金属製アーチと装飾を施された下細りの柱の向こうに、左上からおりる階段が見える。階段の手すりは、加速されて片方に歪んでいるかのように見える幾何学的な刻み方をされた柱に支えられています。手すりの一番下は、低い四角錐をいただく小柱で閉じられています。踊り場の上には壁をうがった奥に窓がある。画面右端は角を経て手前にある壁になっていて、角の部分がグレーの薄暗部、手前の壁は明るい。下にはまだ階段が続いているようで、斜めの手すりがのぞく一方、壁にグレーの石板のようなものも見えます。
 カメラはその下方に移ります。踊り場を経て、階段は湾曲するように手前に折れる。右の壁側は、階段に沿って板が貼られ、やはり小柱で終わります。カメラはさらに右へ、アーチを経て奥の方に続いているようで、階段のある側に暗色の扉が見えます。そこは食品類などを棚に置いた狭い部屋です。そのままさらに右へ回り、白い付け柱、装飾付き下細りの柱は暗色、壁を経て暗くなった部分と、幾段階かの明暗の細分が印象的でした。このまま右へ進めば、先に見た暖炉や書棚のある居間の方へ向かうはずです。


 今度は2階から階段に向かう経路が映される。部屋から廊下に出て、手前にやってくる。奥で廊下は折れて、右の方へ続いているようです。手前では右に石のアーチがあり、その奥の壁には水平な手すりの影が落ちています。
 そちらへ進むと、玄関廊下の吹き抜けに沿った短い廊下となり、それから階段に達するのでした。廊下の壁には手すりの薄い影、上の方はやはり薄い影の帯に覆われ、壁には厚い額縁を施された絵のようなものが見えます。後の場面では、絵ではなく両扉のようでした。カメラはまず2階の高さで水平に人物を追い、階段では上から見下ろしながらぐるっと回り、1階で再び水平になるのでした。


 ヒロインの寝室が映るある場面では、まず、左の方に暗い色の木の捻り柱が見えます。これは寝台の天蓋を支えるものです。その右手にはグレーで、下細りの柱があり、下方で仕切り塀につながっています。また右には少し奥まって扉があり、さらに右の壁の前には細身の、階段状になった棚が置いてあります。棚には本などを容れているようです。棚の上には楕円形の額がかけてある。棚の右の壁には、やはり階段状の影が落ちています。もっと右にも、下細りの柱が立っています。
 後の場面と合わせると、この部屋は中央あたりで仕切られており、扉側には暖炉や椅子などが、窓の方には寝台が配されているようです。寝台の頭側、窓よりの壁には扉があって、クローゼットになっています。その向かい側には有機的な輪郭の大鏡が置いてあります。後の場面では、幾本もの柱とその影が印象的でした。


 テラスでヒロインとその婚約者が話す場面では、奥の窓一区切りごとに、それぞれ異なる紋章のような飾りが、おそらく色ガラスで配されていることがわかります。その左手の扉から入ると、暖炉と書棚のある居間なのでした。

 玄関の方から廊下を奥へ見渡す場面もありました。左に階段がおりてきており、そのすぐ向こうが石のアーチで区切られています。右へ行けば暖炉と書棚のある居間になるはずです。さらにその奥にはシャンデリアがのぞいており、先立つ場面に現われた食堂ではないかと思われます。

 また2階の廊下が映される場面では、今度は廊下を正面からとらえます。奥に真っ直ぐ伸びるその突き当たりは窓になっています。床には絨毯が手前から奥へ、正面視の透視図法に従っています。突き当たりの窓の右手は、短く斜め奥に折れ、それから右の方に続いているようです。廊下の両側に寝室への扉があって、左手前にヒロインの部屋。その奥の方には階段へ続く廊下があるはずです。ヒロインの部屋から少し奥に進んで、右側に従妹の部屋があります。ちなみにこの廊下の配置は、『夜の悪魔』(1943)での、やはり2階廊下に似ていました。

 ことほどさように、この作品では、少なくとも画面に映った範囲内であれば、その位置関係がある程度把握できるように編集されているのでした。ただし、たとえば始めの方で出てきた玄関廊下の右側、仕切り塀で区切られた部分、つまりカメラの位置が、廊下なのか部屋になっているのかは不明です。またやはり始めの方で出たテラスは玄関の脇なのに対して、後にヒロインと婚約者が話すテラスは、暖炉や書棚のある居間に通じている点からして、建物のちょうど反対側になるはずですが、セットは同じでしょうから、見た目も似たように映っていました。なお、玄関からまっすぐ廊下が伸びていて、向かって左に2階への階段、右に部屋が連なるというパターンは、『ドラキュラとせむし女』(1945)でも見られました。
 さて、クライマックスは、階段を上がる叔母を上から映したショットで始まります。ヒロインの部屋に入って、寝台に横たわるヒロインと扉から入る叔母をそれぞれ斜めにとらえ、今度はヒロインを上から斜めに、かたわらに立つ叔母を下から斜めにと、カットを切り換えします。扉の外で話を聞くハンナは水平に映される。ちなみこの作品では、ヒロインの恋人にせよ警視にせよ、男は基本的に出遅れていて、事件を動かすのはハンナを含む女たちなのでした。逆にいえば館という閉じられた環境に女4人は封じられているとも見なせます。それでもなお、自分は肩幅が広いから頼りがいがあるんだと、ヒロインに言う従妹の台詞は泣かせます。
 とこうして、人物たちは階段に移動し、終局を迎えるのでした。


 なお、夜、庭を通って外へ出かけるフード姿の女性の後ろ姿に付き従うかのように、犬たちが次々と塀を跳び越えていく場面は、なかなかかっこうがよろしい。状況は少し違いますが、『狼の血族』(1984、監督:ニール・ジョーダン)のラストが思い起こされたことでした。
Cf.,  石田一、Monster Legacy File、2004、p.19
 2014/11/3 以後、随時修正・追補
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