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恐怖城*
White Zombie
    1932年、USA 
 監督   ヴィクター・ハルペリン 
撮影   アーサー・マルティネリ
編集   ハワード・マクレモン 
 美術   ラルフ・バーガー 
 セット   コンラート・トリッチュラー 
    約1時間5分** 
画面比:横×縦    1.37 : 1 
    モノクロ 

VHS
* 手持ちのVHSソフトの邦題は『ベラ・ルゴシのホワイト・ゾンビ』。[ IMDb ]ではなぜか”Kyôfu-jô”で出てきます。
** [ IMDb ]によると、1時間9分、1時間25分のヴァージョンがあるようです。
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 ゾンビが映画に登場した最初の作品とされていて、編中で名前を告げられることもない妖術師を演じたベラ・ルゴシは、心なしか『魔人ドラキュラ』より生き生きしているような気がします。この作品はそれだけでなく、古城映画としてもかなり魅力的だといってよいでしょう。デイヴィッド・J・スカル『ハリウッド・ゴシック』、1997、p.216、p.300 によると『魔人ドラキュラ』のセットと小道具を模様替えして使ったとのことですが、一見してそれとわかるわけでもなく、そうと聞けばむしろ、いろいろ工夫している点の方が目につきます。

 始めの方で婚約者たちをのせた馬車に、両の目のアップがオーヴァラップするさまは、他にも類例に事欠かないのでしょうが(『亡霊怪猫屋敷』(1958)など参照)、コッポラの『ドラキュラ』(1992)での同様の使用はこのあたりにさかのぼるのかと感慨を抱かせたことでした。丘から降りてくるゾンビたちの列を仰角で撮ったかと思えば、ずっと離れて真横から映したり、工場長室でベラ・ルゴシを同じく仰角で4度ほど捉えるなど、印象的なショットも少なくありません。
 花嫁を失なった新郎が酒場で飲んだくれる場面では、小さなテーブルについた彼以外は、他のテーブルの客や踊りに興じるカップルは壁に落ちた影ばかりです。ドライヤーの『吸血鬼』(1931/32)の場合のように超自然的な現象ではありませんが、影の使用については、工場長室での壁に落ちた階段の手すりの影が短剣と交わる構図や、クライマックスでベラ・ルゴシに迫る手もまずは影だけが現われるなど、効果的に用いられています。ヒロインがピアノを弾く場面では、ピアノの黒い蓋の裏に、ヒロインの白い影がぼんやり映っていて、これは魂を奪われた状態を表わすものとも読みとれなくはありませんが、何より不定形なゆらぎがイメージとしての力を発揮していました。


 古城に先立っては、砂糖工場が建物として興味深く撮られています。作業場は吹き抜けで中央に大きな挽き臼が設置されており、ゾンビたちが輪になって動かしている。吹き抜けの2階部分は壁に沿って通路が設けられ、その一箇所から中央に渡し廊下が延びていて、上から原料を注ぎこめるようになっているのでした。こうした造りが実際の砂糖工場に即したものなのかどうかは、詳らかにしないのですが。
 工場の入口は2階部分にあるらしく、通路から階段を降りると、円形や方形を含む鉄格子があり、そこから工場長室に通じています。その部屋では先にふれた階段以外にも、奥にも階段があるのでした。


 妖術師の住む古城は海辺の崖の上にあって、これはマット画なのですが、ほとんど岩と一体化したように描かれています。工場との関連は不明。
 まずは海を見下ろすテラスのようなところが登場します。そこからは途中に踊り場をはさみつつもまっすぐ延びる階段があり、上に半円アーチがかかっています。左には生け垣のようなものが見え、そちらにも階段があります。
 次いで大広間が映る。尖頭アーチと何本もの柱に支えられ、天井の高さは7~8m以上ありそうです。左側には床からいったん数段高くなって、半階分ほどの階段が上方に延びています。階段の手すりの下は、4つ葉型というのか花型というのか、そのパターンがくりかえされる。後の場面では、このパターンを通して階段を降りてくる花嫁が映されたりすることになるでしょう。階段の下には扉が一つ。広間の奥には大きな窓があり、やはり数段高くなってピアノが置かれている。手前右にはテーブルがあって、ここで妖術師と花嫁に横恋慕したばかりにひどい目に遭うボーモンがやりとりするのでした。壁面やカーテンには絵が描かれていたりもします。
 この大広間が城の中心で、それに応じての広さというわけですが、『巨人ゴーレム』(1920)でそうであったようにこの映画でも、空間の面白さを伝えてくれるのはむしろ、大広間からつながる他の場所との関係にほかなりますまい。


 妖術師に逆らおうとしたボーモンを助けるべく、手を振りあげた執事はしかし、妖術師の眼力に動けなくなり、左の階段から降りてきたり、階段下の扉から出てきたゾンビたちに連れ去られてしまう。階段を上ってその外は、奥に低いアーチのある空間で、右にもアーチが見えます。上方では横に溝らしきものが走っており、壁の明るさとアーチや溝の暗さとが著しく対比され、硬質な感触を与えています。左にも低い階段が見えます。右下は長い溝になっていて、流れの急な水路になっています。この城の地下には水路が走っているらしいのです。

 他方意志を奪われた花嫁には専用の居室があてがわれています。この部屋の位置はわかりませんが、小さなバルコニーがあって、そこに立つ花嫁を外から捉えたショットが何度か映されます。まわりは壁がひろがっていて、バルコニーがかなり高い位置にあることを示しています。バルコニーへの扉口には、三つ葉アーチがかぶさっていました。
 室内は奥に窓があり、窓の格子の影が右側に落ちています。後の場面では、小さな円が規則正しく並ぶ影が映ったりもします。奥に尖頭アーチが見える一方、手前にも半円アーチがあって空間を分節する。

 花嫁を追ってきた新郎が浜辺から階段を上がると、大きなアーチと太い柱のある場所に出ます。地面には大きな穴があいていて、その底は水路に通じている。
 さらに進むと城への裏口(?)になっていて、狭くなった奥と左に扉があります。左側から入れば、見下ろすカメラに映るのは、これも明暗が強く対比された空間です。下には深く水路が走っていて、壁に沿った短い階段を下ると、いったんほぼ水平になり、再び螺旋状の階段を降りることになります。降りた先が水路と同じ高さになっている。この空間は先にゾンビたちが執事を拉致した空間とは別のように見えるのですが、あるいは螺旋階段を降りたところが後者ということでしょうか。ここを通り抜けた新郎は、大広間左側の階段を上ったところにある踊り場に出て、力尽きるのでした。


 花嫁は居室を出て裏口から水路の階段室を通り、踊り場でベンチに伏した新郎を見つけます。妖術師は花嫁を操って新郎を殺させようとするのですが、踊り場の脇から伸びた黒い影に手をつかまれて混乱し、走り去ることになります。この間台詞は一切なく、大広間を引きで映すいつものカメラの視点は、そこを横切る花嫁の動きによって、ついに本分を全うしたとでもいえるでしょうか。
 大広間を階段とは反対の右奥から走り抜けたその先は、海を見下ろすテラスでした。ここでクライマックスが展開することになります。
 ともあれ大広間と(2?種類の)水路のある通路、そこにいたる出入り口、花嫁の居室、海に面したテラスなど複数の空間を連結させた古城に加えて、始めの方で出てくるボーモンの屋敷はまあ普通だとして、砂糖工場や屋外の十字架だらけの墓地と納骨堂、背に土手の斜線が走る浜辺など、あざやかな印象を残す舞台を盛りだくさんに登場させたこの作品は、りっぱな古城映画の名に値するのではないでしょうか。


 余談ですが、編中で新郎の手助けをする牧師が、ゾンビは生き返った屍体ではなく、薬草で昏睡状態に陥った被害者を催眠術で操ったものだという説を述べています(ちなみにこの説が語られる牧師の書斎もきちんと造られている)。クライマックスではゾンビが銃で撃たれても平気で動く場面もあり、超自然的な妖術か強い催眠術か、いずれが設定されているのかは必ずしも判然としないのですが。
Cf.,  伊藤美和編著、『ゾンビ映画大事典』、洋泉社、2003、p.28
 本書からは →ここ(『月光石』)こちら(『私はゾンビと歩いた!』)そちら(『吸血ゾンビ』)あちら(『恐怖の足跡』)こっち(『エル・ゾンビ 落武者のえじき』)そっち(『デモンズ'95』)でも挙げています

Michael Sevastakis, Songs of Love and Death. The Classical American Horror Film of the 1930s, 1993, pp.41-56 : "Part I -3. White Zombie : 'Death and Love Together Mated"

Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, pp.108-110

Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.36-37
 2014/09/02 以後、随時修正・追補
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