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レモーラ
Lemora : A Child's Tale of the Supernatural
    1973年、USA 
 監督   リチャード・ブラックバーン 
 撮影   ロバート・カラミコ 
 編集   ピーター・S・ハバード 
美術   スターリング・フランク 
セット装飾   エレン・プリンス、アラン・A・アポーン 
    約1時間25分 * 
画面比:横×縦    1.85:1 **
    カラー 

VHS
* [ IMDb ]には約1時間53分のノー・カット版が記されています。
ただし同じ[ IMDb ]該当頁の"Message Boards"中の"Longer/uncut version?"からするとこの情報は根拠不明らしい。
** [ IMDb ]による。手もとのソフトでは 1.33:1
………………………

 「バンパイアものの味わい、特殊メイクによるゲテものの味わい、教会と悪魔の対立というオカルトものの味わいなどがごっちゃになって、何が何だかわからねぇという、エスニック(!?)ホラー。/いや、案外狙いは少女のヒロイン=ライラ・リー(シェリル・スミス)をとうして((ママ))、思春期の少女に潜む身も心も混沌とした妖しい瞬間の描写にあるのかもしれない。というのは、やはりホメ過ぎだな」と下掲 The Horror Movies, 2(1986)の解説で塩田時敏は記しています(p.106)。
 「ホメ過ぎ」かどうかはともかく、13歳の少女と吸血鬼のモティーフがからむ思春期の冥界巡りという点で、『闇のバイブル 聖少女の詩』(1970)に通じると見なせそうな気もします。『闇のバイブル』に比べるとジャンル映画色は濃いものの、低予算を連綿と訴えるかのごとき画面の寒々しい薄暗さからは1970年代の臭いを嗅ぎとることもできるでしょうし、多く薄暗い中での色彩設計はマリオ・バーヴァの諸作を連想させなくもない(たとえば→『白い肌に狂う鞭』(1963))。バーヴァの艶冶さにはほど遠いにせよ、照明にはけっこう気を遣っているようです。好感度が増します。またとりわけ約1時間前後以降、主人公がどこをどう進んでいるのかよくわからない廃村だか廃屋を延々と逃げ回るさまは、やはり70年代的薄寒さ・薄暗さ芬々たる『ヨーガ伯爵の復活』(1971)と比べられるのではありますまいか。本作を古城映画とは呼べないにせよ、この点をもって迷宮映画と見なすことはできるでしょうか。上記のように手もとのソフトでは画面左右が約2割8分トリミングされており、きちんと見るのはまたあらためてとなってしまいますが、ご容赦ください。

 ソフト帽をかぶったいかにもギャング然とした男(ウィリアム・ホイットン)がベッドの男女に散弾銃をぶっ放して逃走するプロローグに続いて、教会で聖歌を歌う白服の金髪少女ライラ、やはり白服の牧師(監督でもあるリチャード・ブラックバーン)が会衆に説明するところによると先のギャングの娘で、事件から3年たったという。
 夜走る車が野原から森へ抜ける。運転しているのはライラの父です。それを見つめる見開いた眼がある。車を降りたライラの父はいきなり散弾銃を撃ちますが、黒ヴェールの女はびくともせず、黒帽の蒼白い男2人に取り押さえられます。


 ライラのもとにレモーラという女から手紙が届く。病に伏せる父が自分の家にいるという。ピンクの花柄つきワンピースを着たライラは、夜に出発します。家の向かいにミュラー牧師の教会がある。鐘塔の上に白い十字架を戴いています。通りかかった車の後部座席に隠れる。
 回想がはさまれる。ライラに抱きつかれた牧師はうろたえます。着替えていると暗い鏡に男の顔が映る。『恐怖の足跡』(1962) が連想されるところでした。
 ライラは夜の街に着きます。いかにも堕落したありさまです。カントリーの曲が流れる。
 バス乗り場の受付に行きます。ノースパークまでと尋ねると、路線はないが運転手次第だ、一晩で着くとうさんくさげな係の男が応えます。
 待合場から出れば、夜の街は青いのですが、戸口、続いて乗りこむバスの天井は赤茶色でした。こうした色の配置は以後何度か出てきます。バーヴァ作品を思わせる次第です。
 バスはアストロンへ向かう。夜の森を抜けます。窓を開けると腐った湿地帯の臭いが入ってくる。運転手(ハイ・パイク)はアストロンまで湿地帯は続く、あんなところには行きたくない、汽車も通っていない、加えて「あいつら」はひどい顔だ、伝染病じゃないか云々と語ります。バスの中は暗く、手前の運転手と後ろの方の席に坐ったライラにのみ蒼白い光が当たっている。
 バスの外でゾンビ顔の連中が走り寄ってきます。運転席の上が赤茶色でした。車がエンコして外に出た運転手は捕まってしまいます。ライラがブレーキを外し車は走りだしますが、木にぶつかるのでした。


 約20分、気づくと素っ気ない白壁の部屋のベッドでした。青く薄暗い。ベッドの上の壁には縦格子のはまった窓が開いています。向かいに館の玄関ポーチらしきものが見える。子供たちが踊っているらしい。館全体の外観は最後まで映りませんでした。
 扉が開き、ざんばら白髪の老婆(マクシーン・バランタイン)が入ってきます。手にしたランプの光が赤い。歌います。歌詞は不吉げです([ IMDb ]の"Quotes"に記されています)。
 呼び声に老婆は扉から出る。扉の外は直接庭でした。窓から子供が3人覗きこみ、ケタケタ笑います。


 心配になった牧師が外で車に乗りこみます。昼間の画面は赤系と緑があざやかです。ラジオの放送でライラの父の名がアルヴィン・リーだとわかります。

 ライラは13歳、閉じこめられた部屋の扉は緑でした。
 日暮れ、食べ物を持ってきた老婆を突き飛ばし外へ逃げだします。軒下に隠れ、匍匐前進する。地面は岩盤状でした。
 奥に進むと上の部屋から父の声が聞こえてくる。レモーラと話しています。蜘蛛にビックリして悲鳴を上げてしまい、さらに奥へ、軒下から出るとレモーラ(レスリー・ギルブことレスリー・タプリン)が立っていました。かなり上から2人が見下ろされます。


 約30分、屋内に入る。廊下が奥へ伸びている。薄暗い。奥の玄関扉から2人が入ってきます。手前へ来る。手前右で角になり、さらに前へ進むと、右上がりの階段がありました。上で折れて左上がりになっているようです。この1階廊下と2階への階段はこの後何度か登場することでしょう。
 2階廊下が上から見下ろされます。やはりこの後何度か登場する2階廊下は、決まりでもあるかのようになぜかいつも、かなり上から俯瞰されます。廊下の突きあたりがライラの部屋だという。
 部屋の中は青みがかり、ランプとカーテンは赤い。真っ赤な生肉でしょうか、皿に盛ってありました。
 置いてあった手鏡は曇っています。ライラは自分の鏡を取りだしますが、入ってきたレモーラの姿が映りません。レモーラは黒のドレスに黒の手袋をしています。ライラのお下げを解き、紫のドレスを渡します。

 ライラが2階廊下を左から右へ進むさまが、またかなり上から俯瞰されます。
 階段が下から見上げられ、ライラがおりてくる。階段の下で子供たちがケタケタ笑います。エコー付きです。
 1階廊下を奥へ、玄関扉の前で右に入ります。レモーラは「一種のワイン」をライラに勧める。5人いた子供たちも相伴します。
 ライラが歌います。やや下からの視角で、右後ろに騎士像がありました。ふらふらします。胸に小さな十字架を掛けています。
 レモーラがレコードをかける。プレイヤーの喇叭状スピーカーが赤茶色でした。ライラと踊ります。くるくる回る。カメラも回ります。何やかやからの〈解放〉を示唆しているようです。
 ガラスの割れる音が聞こえてきます。別室へ急ぐ。そこは父がいた部屋でした。ベッドのシーツは明るい青に映え、その右上に真っ赤なランプ・シェイドが配されています。左からカラヴァッジョ風の光が射している。子供たちには免疫があるとレモーラはいいます。


 2人はライラの部屋に戻る。老婆が風呂の用意をしていました。彼女の名はソランジュで、ここの前の所有者だったという。
 ライラとレモーラは仲睦まじい。レモーラがいったん部屋を出る。ブロンズ像でしょうか、部分部分に真っ赤な光が当たっています。その陰からゾンビ顔の男が現われる。ライラが扉から飛びだしたところが例によってかなり上から俯瞰されます。
 台所でしょうか、老婆がいましたが、男に喉を割かれてしまいます。レモーラが駆けつけ、手にした松明の炎を押しつけると、男は窓を突き破って逃げます。

 ライラとレモーラは手前左から出て廊下奥へ進む。1階廊下で、奥に玄関扉が見える。その手前右に入る。日本語字幕によると、1年前から皆あんなになった、醜く、獣みたいにとレモーラがいいます。
 レモーラはライラをお姫様だっこします。そのまま廊下の奥から手前に来る。手前で少し右へ、カメラは左から右に振られる。階段をのぼり、折れて奥へ、上でまた折れて左にあがっていく。この間レモーラは身の上話を続けます。彼女は海の向こうの国から来たのだという。2階廊下を右から左へ進むさまが、例によってかなり上から見下ろされます。
 ライラの部屋です。以前老婆が口走ったメリー・ジョーの名を口にすると、レモーラは意気地なしと吐き捨てる。ライラのためのドレスを見せます。[ IMDb ]の"Quotes"によると明日の儀式(セレモニー)の後2人は血の姉妹になる、私の力全て、私の美しさ全て、私の命全てをあなたと分かちあう。儀式は教会で?と問うライラに、然り、洗礼?、もっとずっと古い、他の全ての教会がそこから発した教会だ、儀式がいつ始まったか誰も知らないという。眠ったライラにレモーラが覆い被さろうとします。


 暗い玄関ポーチ、昼間車で移動する牧師を経て、約53分、ライラが目を覚まします。もう暗くなっている。戸棚で少女の写真と日記を見つけます。「メリー・ジョー、13歳。6月3日、パパはまだいる……」。
 ライラは扉から出る。またしてもかなり上から、廊下を左から右へ。階段をおりてくるさまが下から見上げられます。カメラは右上から左下へ、廊下が見えます。廊下をカメラのみが前進します。壁にかかったいくつもの肖像画が撫でられる。以上2つのカットが繰り返されます。「逃げろ」という子供の声が聞こえてくる。真っ暗な扉のアップがはさまれます。
 玄関扉を開け、ポーチに出ます。右奥へ向かう。壁に沿って奥から手前へ来ます。
 高い位置に窓がある。覗きこむとレモーラと少年の1人がいました。レモーラが少年の首筋に屈みこみます。ライラの悲鳴に振り向くと、口元が血に濡れていました。

 約58分、ライラは森に逃げこみます。小屋がある。脇の木に登ると、下にゾンビ顔男がやって来ました。また別のゾンビ顔も合流、争います。その隙にライラは木からおり、また森へ、別の小屋か何かのところに着き、脇に停めてあった車に乗りこむ。レモーラが何か指図する声が聞こえます。町へ向かうという。
 約1時間1分、走りだした車の後ろの窓から見ると、黒服の男たちにゾンビ顔男たちが襲いかかっていました。
 車の荷台には柩が置いてあります。ライラはその中に隠れる。
 別の車から牧師がおります。夜です。通りに人々の倒れるさまがかなり上から見下ろされる。場所はどこなのでしょうか。

 約1時間5分、ライラの潜む車が停まります。教会の前でしょうか。まわりに黒い修道衣の男たちがいる。松明を手に、顔は蒼白く、牙が生えています。
 ライラは飛びだし、木製階段の裏に隠れる。階段は幅が狭く、急です。
 出てきてうろうろします。縦長の板に描かれているのは眠る少女の姿でしょうか。またうろうろします。円柱の並ぶファサードらしきところに来ます。数段のぼって中に入る。
 入った扉の左にあった梯子を登る。上で奥へ向かいます。かなり上から梁越しに見下ろされる。
 さらに階段をのぼるさまが下から見上げられます。
 キャットウォークのようなところです。奥でまた上へ。
 屋上に出たのが下から見上げられます。壁についていた梯子を下りる。壁はトタンのように波打っています。下で片方に飛びおり、今度は階段をおります。
 奥から手前へ、隣の建物の屋上でしょうか。床は梁だけで下の階が見下ろせます。手前へ、切り替わって奥へ進み、右奥へ向かう。


 約1時間9分、先に扉がありました。入ると切り替わって、やや上からの眺めです。画面右寄りに左下がりの階段があり、下で折れて右下がりになります。階段の角の手前に白く反射する角柱が吹抜を貫いています。
 かなり上からのショットに換わります。右奥に扉が見え、そこからライラが入ってくる。左手前に左上がりの階段、そこをのぼります。やはり角手前の白い柱が目につく。踊り場で折れて右上へ。
 奥から手前に進んでくる。手前右に上へ少し湾曲する階段があります。幅は狭い。そこをのぼっていくさまが下から見上げられます。斜め下からの視角になる。
 扉を開けて中へ、寝室のようです。右から左へ、先に窓がありました。
 窓から出て樋伝いに進みます。角度の急な屋根の下です。先に別の窓がありますが、いたらず落ちてしまう。画面が真っ暗になります。

 約1時間12分、暗い中に立っていました。屋内のようです。松明だけが動き、レモーラの声だけが話しかけます。
 ライラは大鏡にぶつかる。日本語字幕によると「私のは愛から、森の奴らは飢えから」とレモーラがいいます。
 左奥へ、赤いカーテンをくぐります。先は冒頭の教会でした。明るい。会衆たちもいます。オーヴァラップして白塗り男たちの顔がアップになり、ライラを弾劾します。白塗り男たちにゾンビ顔男たちが襲いかかる。スロウ・モーションです。過去の断片がフラッシュバックされます。悲壮な音楽が反復される。曲はキュルキュルキュルと収斂します。
 約1時間17分、音が消えると死体だらけでした。その合間に松明が直立しています。
 ゾンビ顔男が一人残っていました。迫る彼に剣が突きたてられる。「ライラ、教会に行け」といいます。父親だったのでしょう。
 白塗りのレモーラが現われます。ライラをまたしてもお姫様だっこする。十字架を下げた鎖を首の後ろから千切ります。「あなたは何?」と問うライラに、「お前が望むものに」と応える。

 約1時間20分、牧師が眠っています。目覚めるとすぐそばにライラがいました。内側が赤の黒いマントらしきものを身につけています。彼女を同じ装束のレモーラが見守っている。
 教会で聖歌を歌うライラ。彼女の背後には背の高い黒のカーテンが垂れ、その左右の壁は青みがかっていました。


 赤いカーテンをくぐってからの過去と現在が入り乱れ、混沌と死が相争うシークエンスは、思春期の通過儀礼を表わそうとしていると見てよいのでしょう。『狂恋:魔人ゴーゴル博士』(1935)を始めとする1930~40年代の作品でしばしば見かけたフラッシュバックや、コーマンのポー連作での惑乱場面と比べることができるかもしれません。
 他方レモーラとその僕である白塗り黒服男たち、また子供たちと、森に住む獣化したゾンビ顔男たちとの関係は本篇中で整理された形では説明されません。日本語字幕に従えば獣人化が1年前に始まったことと、「私のは愛から、森の奴らは飢えから」というレモーラの台詞くらいが手がかりでしょうか。どのような設定があったのか、気になるところです。
 また仲間にし損ねたメリー・ジョーも13歳だったのとこと、13歳という年齢にいかなる意味が与えられているのか。いずれにせよ本篇中には現われない設定がいろいろとありそうなのでした。
 とまれ意味づけは何であれ、暗い町や建物の中を主人公がうろうろしてくれた点、これに館の1階廊下-階段-2階廊下と合わせて、抜けだしようもない悪夢の様相を与えていることをもって、本作の誉れと見なすべきでしょう。

Cf.,  The Horror Movies, 2、1986、pp.106-107

ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、p.201/no.210
 2016/5/15 以後、随時修正・追補
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