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闇のバイブル 聖少女の詩
Valerie a týden divu *
    1970年、チェコスロヴァキア 
 監督   ヤロミール・イレシュ 
撮影   ヤン・ツリーク 
 編集   ヨセフ・ヴァルシアク 
 プロダクション・デザイン   エステル・クルバホヴァー 
 美術   ヤン・オリヴァ 
    約1時間17分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    カラー 

DVD
* [ IMDb ]によると独題;
Valerie - Eine Woche voller Wunder、仏題;Valérie au pays des merveilles / Valérie ou la semaine des merveilles、英題;Valerie and Her Week of Wonders
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 吸血鬼こそ登場するものの、本作は怪奇映画というにはニュアンスがずれ、幻想映画とでも呼ばれるべきものなのでしょう。ややとりとめのないイメージの連なりで紡がれるお話は、やはり少女が主人公で吸血鬼が出てくる大林宣彦の『ÉMOTION 伝説の午後 いつか見たドラキュラ』(1967)と比べることができなくはないかもしれません。古城映画と見なすのもこれまたいささか無理がありますが、面白い空間がいくつか見られますので、手短かにとりあげることといたしましょう。

 なお本作にはチェコのシュルレアリスト、ヴィーチェスラフ・ネズヴァルによる原作があるとのことです。下掲のように邦訳も出ているのですが今のところ未見なのでした。チェコのシュルレアリスムといっても勉強不足のため、フランス語読みのトワイヤンの名で日本でも『シュルレアリスムと画家叢書 骰子の7の目』第10巻として画集が出たことのあるトイエン、本名マリエ・チェルミノヴァー(1902-1980)くらいしか思い浮かびませんが、トイエンの世界と本作には通じるところがなくはないといえるかもしれません。勉強不足といえば、チェコ語は不案内なので上に挙げた監督以外のスタッフの表記はいい加減です。ご注意ください。

 主人公のヴァレリエ(ヤロスラヴァ・シャレロヴァ)は初潮を迎えた13歳の少女、祖母と二人、お屋敷に住んでいます。冒頭で夜の草原越しに見える屋敷は、横に伸びる2階建て、白い壁に明褐色の切妻屋根、木立に囲まれ、その向こうでしょうか、塔が頭を突きだしています。塔頂は曲線を描いてすぼまり、上に十字架を立てている。
 いくつかのイメージ・カットを経て、主人公が登場するのは温室かサン・ルームのようなガラス張りの部屋です。白い籐椅子で眠っている。白い服です。斜めになった天井もガラス張りでした。後にも出てきますが、その際壁が粗石積みであることがわかります。
 梯子をかけて天窓から眼鏡の青年(ペートル・コプリヴァ)が彼女の耳から耳飾りを盗む。この耳飾りは以後何やらよくわからない役割を果たし続けることでしょう。仮面を手にした白塗りの男(イリー・プリーメク)、続いて鳥を襲ういたちのイメージが挿入されます。ヴァレリエはいたち(トゥホジ)と叫ぶ。こちらもまたその後の話を動かしていきます。
 噴水のある庭に箱形馬車の箱部分が停められています。黒塗りで縦長楕円の窓が扉についている。眼鏡の青年オルリークは白塗り男に何やら命令されています。

 彼女の部屋はいやに細長く、壁は白い。カメラは最初扉近くから垂直に近い角度で俯瞰し、徐々に上向きになっていきます。このカメラの動きは後にも反復される。また本作はカラー映画ですが、白と黒が往々にして強調されます。
 屋敷内では次いで食堂が出てきます。壁は白く、大きなクリーム色の陶製ストーヴがあり、その左から祖母(ヘレナ・アニェゾヴァ)が現われる。オルリークにしろ祖母にしろ、本作の登場人物はやけに白塗りが多い。祖母は白服、ヴァレリエは黒服です。ヴァレリエの父母は死んだと祖母はいう。


 食堂の窓から見下ろされた街路に、何やら行列が通過します。結婚式の行列で、花嫁はヘドヴィカだという。黒ずくめに鼻面が着きだした獣の仮面をつけた男がいました。仮面をずらすとある時は真っ白な前出の男、ある時は口髭の優男に替わる。白手袋をはめた手に扇子を持っています。彼を見た祖母は死んだはずだという。

 街路を黒ずくめの行列が通ります。黒塗りに縦長楕円窓の箱形の籠があり、窓から白手袋の手が出ている。白いむく犬を連れています。花売り娘と花のやりとりをします。
 ヴァレリエがチェンバロの練習をしていると、白い伝書鳩が手紙とともに飛びこんできたりする。手紙はオルリークからでした。読んだ後で燃やします。
 玄関付近でしょうか、画面の手前右半を陰になった壁が遮っています。壁は左端で手前と左にアーチを伸ばしている。その向こう左で祖母とヴァレリエがやや上から見下ろされます。奥の壁は白く、祖母のすぐ左に黒っぽい柱時計が据えられている。やはり祖母は白服、ヴァレリエは黒服(襟は白)で、黒と白の諧調・対比がなかなかかっこういい。
 金色の草原を神父と尼僧たちが通ります。交わる塀の角に出入り口があり、そこから入ってきたヴァレリエの手前には、人が入れるだけの大きな白い鳥籠状のものがある。俯瞰です。神父たちも先の門から入ってきます。傍らの白い枯れ枝で若い男女がさかっている。
 教会の中の壁は黒っぽく、背の高い1本燭台の間に居並ぶ処女たちは皆白衣を着ていますが、ヴァレリエだけが黒い服でした。花売り娘もいます。黒い説教壇で説教する人物は、扇子を白手袋の手に持つ黒ずくめの黒仮面の男です。ふと気づくとヴァレリエ以外誰もいない。
 街の広場には噴水があります。上部には彫像が据えられています。これは後にもたびたび登場する。教会でしょうか、広場に面した2階の浅い壁龕に黒の説教師がいます。噴水の低い塀に伸びる手枷にオルリークが拘束されていました。噴水の水面に彼のかんかん帽が浮いている。ヴァレリエは手枷を外しますが、オルリークは鞭を振り回す上半身裸の若者たちに追い回されます。


 石造りの街路でヴァレリエの後ろから扇子付き黒衣の男が追いつきます。白いむく犬を抱いている。やや下り坂でしょうか、まわりの建物の壁は白です。救貧院に送っていきます。
 救貧院の外観は玄関付近しか映りません。街路から1~2段上って扉、その左手前に彫像が2組配されている。中に入るとまずは暗く狭い階段で下におりる。カメラは下に据えられています。下で左に折れる。
 奥から右下に下りてくると、白い壁の地下室でしょうか、天井は交叉アーチ状で、丸い天窓が2つ見えます。角をはさんで壁の上方に本棚があります。
 梯子が立てかけてあり、そこをのぼると両側が本棚にはさまれています。本棚は下の方まで続いている。本棚の間にはモノクロの壁画があり、人物の目に覗き孔がありました。向こうにいるのは祖母と神父グラツィアンです。5年前二人は恋仲だった。神父はつれない。
 ヴァレリエは黒ずくめに促され梯子を登りますが、オルリークが梯子を外すと、黒ずくめだけ落ちてしまいます。オルリークは黒ずくめをいたち(トゥホジ)と呼ぶ。

 一度画面が真っ黒になった後、ヴァレリエとオルリークは鳩小屋にいます。鳩小屋の窓の下から屋敷の前庭が見下ろせます。
 そこで話す祖母のエルサもいたち(トゥホジ)と過去に因縁があるようで、彼をリヒャルデと呼びます。リヒャルデは年をとらず、かつてお屋敷の持ち主だったらしい。屋敷の屋根中央に丸い時計のあることがわかります。また玄関には壁と平行に2~3段上って入ります。


 川辺で神父、祖母、それに若い娘たちが食事します。ヴァレリエもいました。
 ヴァレリエが自室に戻ると、神父が迫りますが、なぜかたじたじと退散します。
 鶏のペストが流行る。
 白い壁にベッドの背などの黒が対比された部屋です。窓の白いカーテンが風に揺れています。祖母といたち(トゥホジ)が契約を交わす。

 晩餐の後、客たちがいなくなった長テーブルのある食堂に花嫁ヘドヴィカと地主であるいささか年上の新郎がいます。花嫁は嬉しくなさそうです。二人が抱きあっていると向こうから祖母といたち(トゥホジ)が現われ、祖母は後ろから花嫁の首筋に咬みつく。いたち(トゥホジ)が黒いマントをかざして右に動くと祖母の姿はない。新郎新婦は何も気がつかなかったようです。
 霧のたなびく草原をヴァレリエが走ります。川で杭に縛りつけられたオルリークを見つけます。

 庭は死んだ鶏で一杯です。屋敷の窓から神父が首を吊っていました。
 屋敷の地下は納骨堂でした。アーチに区切られ、蜘蛛の巣だらけです。柩には祖母が横たわっています。

 廊下の壁は白塗りです。扉から従姉だというエルサ(ヘレナ・アニェゾヴァの二役)が現われる。ヴァレリエ、オルリークと書斎に入ります。壁の上から下まで本棚に覆われていますが、角をはさんだ片側の壁しか映りません。前に出てきた救貧院地下室の書架とよく似ているような気がします。
 エルサを祖母の部屋に案内する。やはり白っぽい。エルサはヴァレリエの首に咬みつこうとします。
 自室の俯瞰ショットが変奏されます。エルザが入ってきて眠るヴァレリエに首輪をかけ、抱き起こす。

 何やら機械のある納屋か倉庫のような部屋です。機械は2階にあり、そのそばにヴァレリエは横たえられていました。床板の隙間から下を覗くと、1階部分でエルサが男の血を吸います。
 2階部分は斜めの柱が格子状に区切っています。カメラが上の方から見下ろす中、7~8段下りて奥へ、1~2段上がった先の扉の鍵穴から覗くと、向こうは書斎でした。エルサとオルリークがいる。
 機械のあるところのさらに上からエルサがおりてきます。半上階に柩が置いてありました。鶏の羽が飛び散ります。壁の板を外して単発拳銃が2丁突きだされ、2発撃つ。
 上から見下ろされたソファにヴァレリエが横たわっています。頭の上に単発拳銃を交叉させて置いてある。角で交わる本棚の上にのってギターを奏でるオルリークが下から見上げられます。エルサは祖母だ、耳飾りをしていたとヴァレリエはいいます。真珠を抜きとっておいた、真珠は君の守り神だとオルリークがいう。


 噴水のある広場で市が開かれます。花売り娘に花をもらう。鶏の籠がたくさんある。籠を1つ盗みます。
 前に通った下り坂の街路が上から見下ろされます。なぜか馬が1頭裸でいる。
 救貧院の玄関が俯瞰されます。蜘蛛の巣だらけの階段を下りるヴァレリエが見上げられます。
 地下室です。エルサの背後では天井に丸い穴が開けられ、その中央から鎖が垂らされています。いたち(トゥホジ)は何やら苦しそうで、床に転がっている。禿頭に尖り耳というノスフェラトゥ風の体裁でした。ほぼ真上からの俯瞰です。ヴァレリエは自分の娘だといたち(トゥホジ)はいう。
 エルサが去った後、ヴァレリエが上から下りてくる階段の左奥には、アーチが連なる暗い空間が見えます。
 ヴァレリエは鶏の血を口に含み、口移しでいたち(トゥホジ)に飲ませると、いたち(トゥホジ)はいったん若返り、口髭の優男になる。しかしまたノスフェラトゥ風に戻ります。


 地下室です。半円アーチに格子が嵌っている。向こうでエルサが何やら嘆いています。手前ではいたち(トゥホジ)がヴァレリエを柩に入れる。蒼白になっています。蜘蛛の巣だらけです。別の柩には神父がいました。
 玄関前に花売り娘が手紙を置きます。見下ろされた玄関の左右に彫像があるところからすると、先の地下室はやはり救貧院にあったのでしょうか。


 画面左を噴水上部の彫像が占め、そこにヴァレリエが寄りかかっています。右奥には塔、空は青い。
 花売り娘が届けたオルリークからの別れの手紙を読みます。塔は角塔で、何重かになった屋根は曲線を描き、上に十字架を戴いています。屋敷の奥に見えたのと同じ塔でしょうか。


 噴水の下にふらふらと近寄ってきた花嫁ヘドヴィカの首筋には咬まれた跡がありました。蒼白です。白っぽい部屋です。壁に鏡がかけてあります。ヴァレリエの唇にキスします。同じベッドで寝ます。夜が明けると咬み跡が消えていました。またヴァレリエとキスします。

 広場で神父が魔女を弾劾します。ヴァレリエが魔女だという。噴水の向こうに連なる家屋の壁は、横中央が山型に浅く突きでた石を積みあげたものです。カメラは水平位置から上昇して俯瞰に移ります。
 ヴァレリエは火焙りにされます。火刑台からヴァレリエは神父を嘲弄する。耳飾りだか真珠だかを口に含む。花売り娘がうろちょろします。画面が真っ白になる。


 ヴァレリエは玄関前にいました。見下ろされたその左に彫像があるので、やはり救貧院でしょうか。左下がりの階段から蜘蛛の巣だらけの地下室におりる。パーティーの真っ最中でした。花売り娘もいます。いたち(トゥホジ)もいる。ヴァレリエが忍ばせた耳飾りだか真珠入りのワインを飲むと倒れます。俯瞰カメラの下、黒衣を取り去ると下にいたのは動物のいたちでした。
 ヴァレリエは階段をのぼって踊り場の丸窓から外を見ます。向こうに噴水があり、花売り娘もいる。黒い行列が通りかかり、黒い籠の楕円窓から白手袋が出ています。白いむく犬もいる。


 夜の屋敷が引きでとらえられ、地面に届く斜め屋根をヴァレリエが下りてくる。温室だかサン・ルームのガラス越しに、椅子で眠るオルリークにキスする。
 冒頭の変奏となります。俯瞰された自室、陶製ストーヴ、その脇から元に戻った祖母が現われる。冒頭とは逆に祖母は黒服、ヴァレリエは白服です。祖母は宣教師たちのことを知らない。
 見知らぬ旅人=オルリークがあぶり出しの手紙を届けます。サン・ルームのヴァレリエの頭の上・後ろに鏡がかかっている。読んだ後で手紙を燃やします。
 鶏をいたちが襲いますが撃たれます。草原をいたち(トゥホジ)が逃げていく。
 祖母が倒れます。黒手袋をしています。御者のいない馬車が通りかかる。


 オルリークが馬に乗って駆る馬車には行方知れずだった母と父が乗っていました。屋敷の外壁にいたちの毛皮がかけてあります。母に耳飾りを渡すと、母はヴァレリエの唇にキスします。黒服の祖母も来ます。
 馬車の御者席にヴァレリエ、馬に跨っているのはオルリークです。
 川辺の林の中で皆がキスしている。父は黒マントを着て扇子を手にしています。神父は白い大鳥籠の中です。
 林の中の白いベッドが引きで上から見下ろされる。皆が周りで輪になります。いつの間にか誰もいない。ヴァレリエが目覚めます。画面が真っ白になる。

 主な登場人物たちは主人公ヴァレリエに対し、それぞれ微妙な距離をとりつつ、その隔たりの中に相反するヴェクトルを抱えているように思われます。
 最も近しいオルリークは、彼女の恋人であり兄であり、ある意味で守護天使、おそらくは分身でもあるのですが、広場の噴水や川の杭に縛りつけられたり、若者たちに追い回されたりして、常時ヴァレリエのそばに寄り添うことができずにいる。
 ヴァレリエと二人で暮らしている祖母は、唯一の保護者でありながら若返るために彼女を見捨てる。また祖母は娘の夫と恋仲でもあった。
 ヴァレリエの両親は不在で、ただ父親はノスフェラトゥ風の誘惑者として出現、祖母を吸血鬼化する一方、ヴァレリエによる救いを求めたりもする。
 家族の外部からやって来た神父は、ヴァレリエを性的欲望の対象と見なし、しかし拒まれると魔女として火焙りにしようとする。
 そしてさほど人口が多そうでもない街にやたらたくさんいる若い娘たち。ヴァレリエは彼女たちのグループからは少しずれた位置にいるようでもあり、しかしヘドヴィカが助けを求めるとそれに応えたりもします。花売り娘は人と人の間をすり抜けるように動きつつ、連絡をつけたりもする。ヘドヴィカとヴァレリエ、ヴァレリエと母、娘たち二人がキスするのも目につく点でした。
 これらの関係を整理すれば何らかの理屈を立てることができるのかもしれませんが、しかし意味づけに回収してしまってはやはり興を削がれるように思われます。むしろさまざまな関係の中にある揺らぎがイメージを発動・連鎖させ、フェリーニの『8½』(1963)におけるラストの万象復興(アポカタスタシス)めいたイメージが連想されなくもない大団円にたどり着くに加えて、それが白い部屋や地下室、書斎、機械のある裏部屋めいたところなどなどで展開される点をこそ、楽しむべきなのでしょう。

Cf.,  手もとのソフトには藤本博之による解説を掲載したリーフレットが封入されていました

原作の邦訳;
ヴィーチェスラフ・ネズヴァル、赤塚若樹訳、『少女ヴァレリエと不思議な一週間』、風濤社、2014
原著は
Vítězslav Nezval, Valérie a týden divů, 1945
書かれたのは1935年頃とのこと(p.205)。
 2016/4/13 以後、随時修正・追補
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