ホーム 宇宙論の歴史、孫引きガイド 古城と怪奇映画など 美術の話 おまけ
吸血鬼の接吻
The Kiss of the Vampire
    1963年、イギリス 
 監督   ドン・シャープ 
撮影   アラン・ヒューム 
編集   ジェイムズ・ニーズ 
 プロダクション・デザイン   バーナード・ロビンソン 
 美術   ドン・ミンゲイ 
    約1時間28分 
画面比:横×縦    1.66:1 
    カラー 

DVD
………………………

 『吸血鬼ドラキュラの花嫁』(1960)と『凶人ドラキュラ』(1966)にはさまれたハマー・フィルムによる吸血鬼もので、ドラキュラのシリーズとは独立しており、異色の吸血鬼退治法で知られる作品です。いまだにその理屈はよくわからないのですが、これ以外にも面白い設定や筋運びがいくつか見受けられます。
 下に挙げた対談での石田一の発言によると、「この脚本が、元々は『吸血鬼ドラキュラ』の続編として作る予定だった『Return of Dracula / ドラキュラの帰還』のために書かれたものだったんですよ。クリストファー・リーが出演を固辞したので実現しなかった…(後略)」とのことです。実際出だしは『吸血鬼ドラキュラ』(1958)の正規の続編となった『凶人ドラキュラ』と共通点があります。まずプロローグにあたる部分が葬儀の場面で、そこに闖入者が現われる。ただし闖入者の振舞は正反対です。次いでどこやら山深い地方に、人数の違いはあれ夫婦者のイギリス人旅行者がやって来て山上の古城に招かれます。加えてマット画だか模型だか、城の外観もよく似ています。
 ジェイムズ・バーナードの音楽は、今回タイトル部分でピアノが響き、前半では登場人物の一人の自作ということでピアノ曲を披露してくれます。バーナード・ロビンソンのセットは、城の部屋数こそ多くはありませんし、中2階歩廊も登場しないのですが、複数の色が派手に配され、捻り柱も大盤振舞です。その意味ではやや地味な『妖女ゴーゴン』(1964)や『凶人ドラキュラ』よりは、『吸血鬼ドラキュラ』や『吸血鬼ドラキュラの花嫁』などでのセットに近い。短くはあれちゃんと廊下や階段を人物が移動します。

 冒頭の葬儀の場面は墓地で行なわれ、背後に教会が見えています。ごつごつした石造の教会は背景として映るだけですが、けっこう雰囲気があります。画面手前には尖った柵の囲いが一部入りこんでいる。この墓地は『吸血鬼ドラキュラ』や『吸血鬼ドラキュラの花嫁』の場合同様くぼ地にあるようで、換わるカットで階段が出てきます。階段の右側には方形の墓所、左側には左へあがっていく階段の塀らしきものがある。階段の上は岩場になっていて、そこに男(クリフォード・エヴァンス)が立っています。彼に気づいた参列者のひそひそ話を経て、男は階段をおりてきます。階段は最初の眺めに対し向かって左にあり、おりた先には石棺、手前に柵のあることが地面近くの高さからとらえられる。男は神父から聖水を受けとって柩にふりかけますので、どうやら亡くなった人に近しい者のようです。次いで人夫からシャベルを受けとり、問題の所業に及ぶのでした。

 タイトル部分をはさんで、城の外観が映されます。昼間です。黒っぽい木立越しに、岩盤の上、手前にやや太めで、しかし上に行くに従って細くなる塔、間のつなぎを経て、右奥に三角破風の高い棟が見えます。塔側から斜めに見た眺めということで、先に触れたように後の『凶人ドラキュラ』に出てくる外観とよく似ています。ただし『凶人ドラキュラ』では別の角度からの眺めも出てきましたが、本作ではこの角度のものだけでした。

 上を向いた怪獣の石像が映されたかと思うと、カメラは左から右へ、石像の右背後に細長い尖頭アーチが二つ並ぶ窓がある。窓の中央には柱があり、その陰から望遠鏡が下向きで突きでています。
 望遠鏡を向けた先は冬の森の間の道で、そこを自動車が走ってくる。若い夫婦が乗っていて、後に新婚旅行であることがわかります。道に迷ってガソリン切れとなり、夫(エドワード・デ・スーザ)は助けを呼びに行く。いくらその方が早いからとはいえ、あの状況で妻(ジェニファー・ダニエル)を一人残していくのもどうかと思いますが、ともあれ待っている妻が視線をあげると、城が目に入るのでした。手前の塔と奥の棟の間のつなぎの低い棟が、途中で少し右に出っ張っていることがわかります。
 急な風に怯えた妻は車からおりて走りだす。十字路のようなところでは、柱の上に三角屋根をかけたものが後ろから映ります。後の場面からすると、屋根の下には小さな磔刑像があるようです。妻は墓場に登場した男にぶつかり、車に戻れと言われる。そうこうする内に夫が馬車とともに到着、二人は「グランド・ホテル」にたどり着くのでした。

 
ホテルの屋内では、扉や柱などは白塗りで、ぼんやりした植物紋らしき壁紙が貼られています。また二人の部屋では、壁は白く、柱等は緑でした。白や緑は城の中でも見かけることになるでしょう。
 二人は城主のラヴナ Ravna 博士から招待される。日本語字幕では宿の亭主(ピーター・マッデン)は博士のことを立派な紳士だと二人が招待されたことを喜んでいました。


 城の外観の夜景をはさんで、馬車が右奥から現われ、向かって左へ曲がります。ゆるくのぼりになった短い橋の先には門が待っている。門には厚みがあって、内側の奥寄りに尖頭アーチが見えます。少し走れば玄関前です。予算の都合か脚本の要請か、全景以外で映る城の外部はここだけでした。玄関扉を囲んで急角度の三角破風が前に迫りだしています。破風の内側は半円アーチになっています。地面から1段あがれば扉となります。玄関扉は暗緑色でしょうか、黒っぽい木製で、山型の刻みが縦に重なっています。右手には窓が見える。また画面手前には馬車の入れるだけの幅をはさんで石柱が据えられています。
 屋内に入ると、すぐ右手に白い捻り柱があります。その前には赤い籐椅子が置いてある。後に扉の左手にも捻り柱が映ります。
 画面奥、玄関扉側から見て左側には、2つの白い半円アーチが並んでいます。アーチの縁は二重になっており、上側のものはてっぺんで半円から離れ、いったん凹みながら上で左右が合流する態をなしています。同じパターンが『凶人ドラキュラ』の玄関で再会できることでしょう。なお二つの縁の間は本作では青く塗られています。アーチの間の柱も白い捻り柱で、金の線が走っています。
 右のアーチの向こうには階段があり、10段ほどで左へ折れる。周辺の壁は薄紫。玄関から入って正面すぐには、丸いテーブルに大きな鳥籠がのせてあります。
 カメラが左から右へ動くと、鳥籠のさらに奥に扉があることがわかります。その右手の壁は白です。壁にはたくさん絵がかけてあります。二人がきょろきょろしていると、階段からラヴナ博士(ノエル・ウィルマン)がおりてきて、「外見のように中も地味だと思いましたか?」と自慢気に言います。その際階段の両脇に扉が見えます。また踊り場突きあたりの壁には大きな窓があって、ステンドグラスで彩られているようです。
 3人が話しているのを踊り場からカメラが見下ろすと、階段の上から赤い衣装の娘(イゾベル・ブラック)がおりてきて、途中で隠れるように立ち止まります。視線の先、向かい側の突きあたりにも飾り窓があります。とまれハマー・フィルムの他の作品と同じように、この玄関広間のセットも、かつてのユニヴァーサル映画におけるようにだだっ広くはないわけでした。

 3人は玄関扉の向かいの部屋に入ります。画面の手前には茶色のピアノがあり、そのすぐ背後は壁です。画面の奥の方は数段分高くなっていて、すぐ左に緑の柱が立っています。高くなった部分への階段は半円形をなし、明るい黄色です。左端には緑の捻り柱が4本セットになっています。柱を何本かずつでセットにするのは『妖女ゴーゴン』でも採用されることでしょう。段上のつきあたりは格子窓だか扉が占め、縁は金色、桟や下の部分は赤く塗られている。その左にも窓があって、外は青く染まっており屋外のようです。この窓の左および右端にも数本組になった捻り柱があります。やはり緑で台座は赤です。
 ピアノは扉から見て右奥に位置するのですが、その右にも扉があり、その右側の壁は褐色の大きな綴織で覆われています。またピアノの左手の壁には暖炉がある。この部屋もさほど広くはない。


  この間に赤衣の娘は玄関から抜けだし、墓地へ向かいます。朝方埋葬されたあたりの土を掘りかえしながら、待ってるのよと声をかける。『吸血鬼ドラキュラの花嫁』での同様の場面の変奏というところでしょう。するとその手を朝の男がぎゅっとつかむ。すかさず娘は手首に咬みついて逃れ去るのでした。

 赤衣の娘は城に戻り、玄関から入りますが、階上からの声に身をひそめます。娘のすぐそばには金属のてすりがあり、その向こうでは方形に四つ葉が穿たれた飾りが斜め上下に並んでいます。金属の手すりのあるのが、階段正面から見て左、壁に方形のあるのが右の欄干であることがすぐに映されます。食事を終えた博士一家と新婚夫婦が上から話しながらおりてくるのでした。ということは食堂は上の階にあるということになりますが、残念ながら本篇中には登場しませんでした。
 なお階段での会話でラヴナ博士は、科学の実験に失敗したため故郷にいられなくなり、数年前にこの城に越してきたのだと語ります。永くこの地に住みついていたのではないわけです。実験がどんなものだったのか気になるところですが、城のことを日本語字幕で「内装の美しい棺」と呼ぶのも印象的でした。また会話の様子からして博士一家は夫婦とともに食事もすればワインも嗜んだようです。『魔人ドラキュラ』(1931)での決め台詞の一つが「私はワインは飲みません」だったのに対し、『フランケンシュタインの館』(1944)でワインを飲んでいた点はそのページで記しましたが、具体的な描写自体こそないものの、ここにいたって普通に食事までしたことになります。
 先立つ場面で博士は息子のカール(バリー・ウォーレン)と娘のサビーナ(ジャッキー・ウォーリス)を紹介していました。この他に夫婦が到着した時に玄関で応対したごつい執事が一人。執事は一家に忠実に仕えているようですが、馬車の御者がどんな関係なのかはわかりません。また暖炉のそばでは犬がちらっと映りました。
 さて、広間に入った3人はカール自作のピアノ曲を聞くことになる。演奏が進むに従って妻が魅入られたような様子をしめしだします。『女ドラキュラ』(1936)や『ドラキュラとせむし女』(1945)での同巧の場面が思いだされるところですが、演奏途中で曲想が変わってしまう前2作ほどひねりは効いていません。『呪いの家』(1944)とも比べてみてください。
 妻の様子を案じた夫はホテルへ戻ります。その時の会話で、ガソリンはコンブルクで買う予定だったこと、この地がコンブルクから50キロもある山道に面していることが告げられます。また別の客がいるので夫婦に泊まってもらえないのが残念だともいう。晩餐にその客が列席した様子がないだけに、いろいろと気を回したくなるところです。なお広間の段差の境の部分には、半円アーチとそれを支える捻り柱セットがありました。


 その間墓場で赤衣の娘に咬まれた男は、傷口をランプの火で焼いて気を失ないます。こちらも『吸血鬼ドラキュラの花嫁』の変奏です。城での退出の場面を経て、男はホテルにあるバーで亭主と飲んでいます。こちらの壁は明るくくすんだ茶色でした。翌朝男の名がツィンマー教授であること、ホテルにもバーにも客は絶えて来ないこと、ひそかに女将(ヴェラ・クック)が泣いていることなどが見る者に伝えられます。
 朝方は雨でしたが、それが止んだ頃、ホテルに馬車が到着します。御者が黒傘をかざす下、カールとサビーナが夫婦を土曜の夜のパーティーに誘います。ホテルの受付の左には上から階段がおりてきており、その左には三角の棚が置いてありました。これは『吸血鬼ドラキュラの花嫁』で酒場に登場したものと同じなのでしょうか。
 話しているところへ教授が顔を出し、晴れてきそうだというと、城の兄妹はあたふたと帰ってしまいます。始めの方で博士が望遠鏡で夫婦の車を見ていたのも日中でした。この作品では吸血鬼は陽光を厭うとはいえ、曇天だったり日陰にいさえすれば大丈夫という設定なわけです。加えてワインも啜れば、食事もするらしい。なかなか面白いところです。


 着るものがないという妻にサビーナが真っ赤なドレスを貸してくれます。着付けを手伝ったのは女将です。ドレスを着た妻を見て女将は思わず涙ぐんでしまう。亭主は夫をそっと階下へ連れだします。
 ことほどさように、本作品で人物造形がもっともよくできているのはホテルの亭主とその妻でしょう。とりわけ亭主は、閑古鳥の鳴く宿に訪れた夫婦を歓待し、また土地の名士であるラヴナ博士との交遊を素直に祝福する。他方、人の寄りつかなくなった現状に抗するすべもないことを実感してもいれば、娘を亡くした嘆きから逃れられない妻を気遣うことも忘れない。この時点でこうした態度に二心あるという兆しは見受けられないといってよいのではないでしょうか。だからこそ後段でのある場面が効果を発揮するわけです。


 夜の城の外観をはさんで、左奥から馬車が出てきて右に折れ、短い橋を渡って門をくぐるカットが反復されます、ただし今回は門の扉が勝手に閉まります。
 城内に入れば仮面舞踏会が開かれており、広間には色とりどりの提灯がかけられています。段上では楽隊が演奏し、妻とカールが踊っていると他の皆はまわりを囲んで二人を見つめます。夫の姿を求める妻に、探してくるといったカールは、広間の綴織の前に置かれた赤い衝立の陰に入り、夫に渡したのとの同じ赤鬼の面をかぶる。
 さて、ここから古城映画的には山場の一つです。玄関広間で食べ物をとっていた妻を、少し離れて赤面が無言のまま手招きします。赤面は階段をのぼり、妻が後を追う。階段をあがった先、廊下が少し上から見下ろされます。画面左奥にアーチがあり、そこから赤面、次いで妻が出てきます。奥の突きあたりの壁には有機的な桟の影が落ちている。廊下は狭めで、すぐ右に壁となります。廊下を手前へ、隠れていますが数段のぼり、左に折れます。折れた先はくぼんでいるようで、松明がかけられている。カメラは右から左へパンします。松明のある短い壁の左、背の低い方形の出入り口となっている。その向こうは右上へ曲がりながらあがる階段がのぞいています。廊下と階段口の間に短い壁のあるところがたまりません。捻り柱ももちろんいいのですが、古城映画はやはり廊下とその屈曲だよねといったところでしょうか。
 のぼった先は下の廊下同様武骨なベージュの石壁の狭い廊下で、一段おりて赤面が右手の扉をノックする。

 部屋に入ると、一段おりて床になります。壁は白、扉は深緑で、扉の両脇にも同じ色の帯が施されている。帯は中ほどで方形を刳りぬいた格好になっています。床は暗色で、手前右に天球儀が置いてあります。画面奥にあたる、扉から見て左の壁には、まず細長い尖頭アーチの飾り窓、次いでその右に大きな円の飾り窓が設けられています。二つの窓の間の白壁には、天球儀のものでしょうか、交差する曲線の影が落ちています。丸窓の右にもう一つ、やはり細長い尖頭アーチがあって、その奥は1~2段あがって戸口になっているのでしょうか。その右で角になって、扉と向かいあう壁となります。角のすぐ右には紺のカーテンがかかっている。扉の正面には石製の低い天蓋があり、その下辺沿いに装飾が施されています。天蓋は白い石に金の輪をまとわせた柱に支えられており、柱と柱の間には深紅のカーテンがかけられています。妻がカーテンを引くと、中には白衣をまとい、口の端から牙をのぞかせた博士が横たわっているのでした。

 酔いつぶれた夫は、サビーナによって階段の上へ連れてゆかれます。先ほどの2階廊下とは別の場所のようで、右奥から出てくるとすぐ右に黒い縦格子をはめた両開きの扉があります。扉の位置からすると石製天蓋のある部屋の前のセットを模様替えしたものでしょうか。夫はそこに運びこまれる。こちらも残念ながら内部は描かれません。画面奥の突きあたりにも黒茶の扉が見える。

 広間に戻れば、段上右奥の壁には赤い花紋様の壁紙が貼ってあります。また角をはさんで右にアーチがあり、その両脇には緑の捻り柱が控えている。提灯が片づけられ、楽団が退出します。この楽団は単なる雇われだったのでしょうか。兄妹は夫婦をパーティーに誘う際、パリからシェフ、ウィーンから楽団が来ると言っておりましたが。
 3階の部屋では博士が妻に白衣を着せます。博士のものと違って袖無しです。
 一見広間とは別の部屋のようにも見えるのですが、上から見下ろされた黒い床には、横長のX字の飾り石が嵌めこんであります。壁は緑で、天井からは幅広で短い赤い布がいくつか垂らされ、右手前には同じく赤で、紋様を刻んだ円形の何かが見えます。白衣の者たちが並んで坐ります。男は袖付き、女は袖無しということのようです。
 左奥から博士と妻が出てきて、広間であることがわかります。博士は妻を「新しい弟子 disciple」と紹介する。背後の壁に左から緑の捻り柱、円柱、捻り柱と組状に並び、赤い桟の窓が見えます。


 階段をよろめきおりてくる夫が、下から見上げられます。カットを換えて、やはり下から、少し接近した後、夫の主観カメラとなる。ふらふら揺れながら下方を見下ろします。下からのバスト・ショットと交互に切り換えられ、また主観カメラに戻って床から上を向くと、そこにカールがいます。妻はどこだと問えば「君は一人で来た」との答えで、執事につまみ出されて「また来たら犬をけしかける」とまで言われるのでした。ともあれやはり犬を飼っていたわけです。
 森にさまよいだし、馬車にはねられて倒れたところを教授にかつぎあげられるのですが、気がついてホテルの亭主に問うても、やはり妻などいなかったとの答えです。カールが知らん振りするのは一味側からすれば自然だとして、翳りはあるにせよこれまで真っ当に描かれてきた亭主による否定は、ある意味で妻の不在こそが本当なのではないかと、一瞬であれ思わせるに足ります。後の場面で教授に問い詰められて、城に自分たちの娘がいるということを昨晩知らされたがゆえの否認だったことが明かされ、それゆえの態度の急変でもあれば、逆にいえばその前までの善意に嘘はなかったことの証しとも見なせるでしょう。そもそも一味側からすれば、亭主の口を封じうることがわかっているのであれば、夫を城から帰さない方が楽だろうにとはすぐ思い浮かぶところです。それをなぜか一度は放りだしたというのは、物語の展開の上で夫の逆襲を導きだすためというのが大きな理由なのだと推測されます。と同時に、不条理劇風のイメージが欲しかったと考えるのは、考えすぎというものでしょうか(後日、このモティーフが〈消えた旅行者〉とも呼ばれ、1つならぬ作品を生みだしてきたことを町山智浩、『トラウマ映画館』、2013、pp.12-21:「1 『消えた旅行者』は存在したのか? 『バニー・レークは行方不明』」で知りました)。
 さて夫は、警官に訴えれば訴えたで、地元の名士である博士に何をと、とりあってもらえません。ここで『吸血鬼ドラキュラ』や『吸血鬼ドラキュラの花嫁』のように、城周辺の住民が魔の脅威に日々おびやかされているわけではないことが再度呈示されます。それどころか博士は大いに尊重されているらしい。このあたりも詳しく語られはしないのですが、推測するに、前段での博士の説明を額面どおり受けとってよいのであれば、彼らがこの地に来てまだ数年であること、またおそらくは、本作品の吸血鬼たちの集団性から敷衍して、それでいて当地の支配階層にすでに根を張っていることが、警官なり亭主による名士扱いの根拠なのでしょう。他方彼らが吸血鬼だと目星をつけた教授は、冒頭の葬儀の場面では参列者から飲んだくれ扱いされていましたし、まったく孤立している模様です。このように本作品では筋運びや設定にいろいろと隙があるがゆえにかえって、想像をめぐらしたくなる余地を開いています。
 ともあれ夫は最後に教授に助けを求めます。その際教授の娘がかつて家出し、町に行って金持ち連中と交わる。家に戻ってくるのだがその時すでに吸血鬼の呪いを受けていたということが話されます。冒頭で葬られた娘が教授の子だとは語られませんが、その際の神父や人夫の態度からして、そのようにとってよいのでしょう。


 夜の城の外観をはさんで、夫は城の門に向かいます。門は閉ざされていますが、中から出てきた召使いを昏倒させて忍びこむ。次いでベッドで眠る娘が映されたかと思えば、その部屋の窓から夫が入ってきます。目ざめた娘にお前はホテルの亭主の娘のターニャだろうと声をかけ、妻のもとへ案内してくれるように請う。ターニャは城から墓場に赴いた人物です。
 彼女が眠っていたベッドは上の部屋のもの同様低い天蓋付きで、画面手前には尖頭アーチがかぶっています。アーチは左右それぞれ2本ずつの円柱に支えられている。画面奥の壁にはこのアーチの曲線や、窓の上の装飾、縦格子の影が落ちています。
 さて、短くはあれ廊下行です。娘は奥から数段あがってアーチの下をくぐります。次いで右に数段おり、奥へ進む。角をはさんでさらに右側にも尖頭アーチがあります。真っ直ぐ進めば、以前赤面をかぶったカールと妻が通った廊下で、左側の出入り口から上への階段があがっている。ということはターニャのいた部屋は途中を省いているのでなければ低くとも2階にあることになり、どうやって夫がたどりついたのか気になるところですが、それはおきましょう。
 階段をあがってすぐ右の扉を入れば、石製天蓋の部屋です。今回、円窓の右の尖頭アーチのすぐ奥には、装飾的な窓か扉のあることがわかります。また円窓は壁から凹んだ位置にあり、この凹みの側面に、色ガラスの影か、あるいはここ自体に装飾を施してあるのか、いずれにせよ色彩がばらまかれていました。
 また前回は妻が入ってすぐに扉が閉じられたのですが、今回部屋の方から開いた扉の方を向くと、暗く山並みが見えます。最初は壁画か何かとも思いましたが、すぐ後で脇に蔦がからみついているのがちらっと映った点からすると、廊下の奥の側は外に面しているということのようです。
 さて、待ち構えていた博士は、妻を連れてこさせて帰らないと言わせた後、ターニャに夫を彼らの社会に加えるよう命じます。ここでそうするのであればなぜ前回はつまみ出したのかと思ってしまいますが、それはともかく、原語では"initiate to our society"と言っていたようです。自信はありません。ターニャは夫のシャツをひっぺがし、引っ掻き傷をつけます。そして首筋に咬みつこうとするのですが、夫は傷から流れでた血を十字の形になすりつける。一同がひるんだところへ扉から教授が闖入、妻を連れて逃げだすのでした。


 3人は階段を左下へおりる。右奥から現われれば、向こうには夜の山が見えます。数段おりる。右手の柱に装飾的な窓の桟の影が落ちています。手前を右へ進むと、玄関広間の階段に出る。階段の下、右側に窓があり、ちょうど広間への扉の左に位置することがわかります。
 日本語字幕によると「巨漢の執事がいなければ彼らも無力だ」と教授が言うのも面白い点でした。玄関前が斜め上から見下ろされ、執事が出てくる。前にも映っていた画面手前の石柱が、実はポーチの天井を支えるものではなく、オベリスク状のものであることがわかります。こちらも『凶人ドラキュラ』で変奏されることでしょう。下の方には左右に翼が出ている。この柱を倒して執事を始末するのでした。そう簡単に倒せるものなのかという気もしますが、この点もおきましょう。
 次いで教授は玄関扉に何か液体を十字にこすりつけます。聖水かとも思ったのですが、後の台詞でニンニクのエキスだと告げられる。


 日本語字幕では教授によると、じき満月で、城では儀式が行なわれ、悪の力を呼び起こそうとするはずだ。その力で彼らを自滅させるというのです。城を見つけて以来このチャンスを待っていたとのことでした。
 他方城では一味が外に出られなくなったと騒ぎ、ラヴナ博士に詰め寄ります。この場面で博士は「師 master」と呼ばれているのが印象的でした。博士は妻こそが自分たちの守り our protection になるといいます。
 教授たちが床に魔方陣を書いているところが天井の高さから見下ろされます。白墨で円の中に斜めに交わる2つの正方形を描くというもので、円の縁をあけておき、教授が中に入ってから円を完成する。呪文は最初ラテン語らしきものが続いた後、日本語字幕で「アグラの神が話した4つの言葉と天上の9つの世界の名にかけ、太陽と月と水と火の力で悪魔を滅ぼしたまえ」となる。〈アグラ agla〉というのはゲティングズ、松田幸雄訳『オカルトの事典』(1993)によると、「魔除けのための魔法で使われ、一説ではヘブライの atha gibor leolam adonai(「御身は永遠に強いお方です、おお、主よ」)から派生したと言われるカバラの用語」とのことです(p.21、またp.353。エルヴェ・マソン、蔵持不三也、『世界秘儀秘教事典』、2006、p.10 も参照)。
 その間夫はこっそり妻の様子を見に行くと、姿が見えない。博士側の呪文によって呼びだされていたのです。夫は助力を求めていた神父とともに彼女の姿を探せば、白衣で森の中をふらふらと歩んでいます。森をさまよう白衣のお姉さんというのも怪奇映画的にはおいしい点です。
 他方教授の呪文は続き、たぶん"I conjure thee, in the name of great god Alpha, in the name of mighty Beelzebub. Appear!"というような感じだと思うのですが、自信はかなりありません。"Alpha"はギリシア語アルファベットの最初の文字なので始源の神ということでよいとして、"Beelzebub"は日本語字幕が「魔王」だったのでそうかなくらいの当てずっぽうです。とまれ「出でよ!」のかけ声とともに突風が吹き荒れ、止んだかと思うと羽ばたきの音が響くのでした。
 塔が下から見上げられます。頂き近くの窓が灯りで明るくなっている。と、黒い蝙蝠の群れがやって来て、塔の上で旋回します。ここはアニメで処理されていましたが、なかなかイメージとして鮮烈でした。
 広間が暗くなって一味がざわついていると、窓から蝙蝠の群れがなだれこんできます。そして吸血鬼たちの首筋に咬みつこうとするのでした。女性陣はなぜか皆、太ももをさらけだします。いつの間にか3階石製天蓋の部屋に移動している。床は緑でした。吸血鬼たちが皆倒れ臥すと、蝙蝠たちは去っていきます。やはり理屈はよくわかりませんが、先の教授の言葉からすれば、類感呪術よろしく、悪をもって悪を制したということなのでしょうか。また窓を突き破るのもいいのですが、廊下や階段を蝙蝠が舞う場面も欲しかったところです。しかし贅沢はいいますまい。咬みつく蝙蝠は模型を役者たちが手に持っていたのでしょうが、少なくとも印象的なイメージではありました。

Cf.,  The Horror Movies, 4、1986、p.59

ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、p.108/no.060

菊地秀行・石田一、「特別対談 ハマー・ホラーに魅せられた男たち(後編)、」『モンスタージン』、no.2、2013.10、p.35

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, pp.98-100

バーナード・ロビンソン(→こちらを参照)とともにハマー・フィルムの美術を担当したドン・ミンゲイが関わった作品で、本作以外にこのサイトでとりあげたものを並べておくと;『フランケンシュタインの怒り』(1964)、『妖女ゴーゴン』(1964)、『凶人ドラキュラ』(1966)、『吸血ゾンビ』(1966)、『蛇女の脅怖』(1966)、『恐怖の吸血美女』(1971)、『ドラキュラ'72』(1972)
おまけ Hammer. The Studio That Dripped Blood!, 2002
2枚組の1枚目14曲目が
"Kiss of the Vampire - Vampire Rhapsody"
6分57秒。

 2015/2/10 以後、随時修正・追補
   HOME古城と怪奇映画など吸血鬼の接吻 1963