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亡霊の復讐
Amanti d'oltretomba
    1965年、イタリア 
 監督   マリオ・カイアーノ 
 撮影   エンツォ・バルボーニ 
編集   レナート・チンクウィーニ 
 プロダクション・デザイン、セット装飾   マッシモ・タヴァッツィ 
    約1時間40分* 
画面比:横×縦    1.66:1
    モノクロ 

DVD
* 手もとのソフトはイタリア語版ですが、[ IMDb ]によるとUK版約1時間41分、USA版約1時間30分、イタリア版約1時間44分となっています。

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 『血ぬられた墓標』(1960)、『死の長髪』(1964、監督:アントニオ・マルゲリーティ)に続いて二役を演じるバーバラ・スティールと音楽のエンニオ・モリコーネにその魅力の多くを負った作品で、原題どおり「あの世の恋人たち」が邦題どおり復讐を遂げるというお話ですが、なぜか『吸血鬼』(1957、監督:リッカルド・フレーダ)や『生血を吸う女』(1960、監督:ジョルジョ・フェローニ)でお馴染みのバートリ・エルジェーベトのモティーフも盛りこまれています。
 舞台はもっぱら古城とそのまわりに終始します。 [ IMDb ]には撮影場所としてローマのデ・パオリス・スタジオしか挙げられていないのですが、壁画や天井画を始めとした装飾の豊富な室内は、どこかでロケしたもののように思われます。どうなのでしょうか? (追記:『処女の生血』(1974)にも同じ館が登場、その際ラツィオ州ローマ県の旧フラスカーティ Frascati, Roma, Lazio、現モンテ・ポルツィオ・カトーネにあるヴィッラ・パリージ(=ボルゲーゼ) Villa Parisi(-Borghese) , Monte Porzio Catone であることがわかりました。"VILLA PARISI A FRASCATI"(2009/10/9)[ < il Davinotti ])も参照)。もっとも、廊下をうろうろしたり階段をのぼったりおりたりするという形で充分に活用されているとはいいがたいところが惜しまれずにはいません。手もとのソフトはさいわい画質はきれいなので、手短かにとりあげることといたしましょう。

 パイプ・オルガンの鳴り響くタイトル・バックには、朽ち果てた死骸でありながら立っている男女を描いた絵が映されます。どこかで見たような気がすると思ったら、下掲のおまけに載せた挿図からリンクした拡大画像のページでも挙げたように、澁澤龍彦が『幻想の肖像』でとりあげていた作品でした。そこでは作者はグリューネヴァルトとされていますが、現在ではその帰属は認められていないようです。当該ページでも挙げたスタニスラフ・グロフの『死者の書-生死の手引 イメージの博物誌 32』ではステルツィングの画家が作者とされていますが、ここでは所蔵先であるストラスブールのルーヴル・ノートルダム美術館のサイトに従って、シュヴァーベンのウルムの画家の作品としておきます。ちなみにステルツィングことシュテルツィング Sterzing はイタリア北端にあるヴィピテーノ Vipiteno の別称で、Google で検索すると「シュテルツィング祭壇画の画家」というオーストリアの画家もいるようですが、そのあたりについては不勉強のためよくわかりませんでした。

 本篇は殺風景な壁の実験室から始まりますが、次いで居間らしき部屋に移ります。暖炉の上にバーバラ・スティールをモデルにした肖像画がかかっていますが、これは正直言って達者とはいいがたい。とはいえこの肖像画は後にも配置を変えて登場します。
 奥の敷居の向こうからムリエル(スティール)が現われる。光は暖炉の火だけのようで、この場面は全体に薄暗い。敷居の右奥が玄関に通じており、向こうに短い廊下が伸びています。奥の突きあたりとその右にも扉が見えますが、玄関は左らしい。
 次いで城の外観が一部映ります。右側に段々柱の半円アーチが三つ並んでおり、その右を方形の棟が結んでいる。アーケードの左が本棟の壁で、下にふくらんだ柵つきの窓が三つほど見えます。その左手に背の高い玄関扉が来る。後の場面で玄関の左側も右側と対称的な造りになっていることがわかりますが、城全景の外観は映らず仕舞いでした。


 ムリエルの夫ステファン(ポール・ミラーことポール・ミュラー)は何かの研究者で、何を研究しているかはこの時点ではよくわかりません。とまれ彼が学会に出席すべく馬車で出発した後、ムリエルは手前にピアノのある暗い部屋でピアノを弾きます。ノスタルジックなフレーズが何度も反復されるモリコーネらしいメロディーです。
 この部屋は奥の左右に扉があり、その間を大きな壁画が占めています。双方の扉の上にはメダイヨンが飾られている。


 寝室には渦巻飾りを左右に有する柱頭つきのイオニア式円柱があります。そこに馬丁だか庭師だかのデイヴィッド(リク・バッタリア、『さらば美しき人』(1971)に出ていたとのこと)が入ってくる。二人は不倫の関係にあります。
 寝室の扉を向かって右に、奥に短い廊下が伸びています。突きあたりに扉があり、その手間の敷居で左右上にカーテンか何かが束ねられています。寝室の扉の向かいが下への階段です。壁にロープの手すりが掛けられています。
 二人は温室に行きます。かなり奥の深い温室のようです。いちゃいちゃしていると出かけた振りをして見張っていたステファンがデイヴィッドを殴りつける。
 地下室です。これはセットではないかと思われます。壁は石積みで、向かいは洞窟状になっている。壁に墓碑が埋めこまれています。左方に扉口が見える。
 ここで恋人たちはステファンに拷問される。ただステファンは間男されて嫉妬に狂った夫というだけではないようで、ムリエルの財産目当てであることがわかります。今までのところ家政婦のように見える老女ソランジュ(ヘルガ・リーネ)も1枚咬んでいる。他方ムリエルも道ならぬ恋に迷っただけの人妻にとどまらず、財産を妹のジェニーに残すと遺言を書き換えており、また死んでも呪ってやると息巻きます。これに対しステファンは死んだらそれで終わりと唯物論者のようです。サディストぶりを発揮した後、二人を寝室のベッドで感電死させてしまいます。ここまでが第1部、約20分でした。


 城の外観です。前には映らなかった玄関扉の左側も、右側同様下ふくらみの柵つき窓が三つ、次いで段々柱のアーケードがさらに左に伸びています。今回アーケードの上が欄干を渡したヴェランダになっていることがわかります。アーケードの左端にはゆるい斜面の尖り屋根が見え、四阿のようになっているのかもしれません。ただし本棟の2階以上はついに映りませんでした。
 馬車が到着、ステファンと結婚したムリエルの妹ジェニーが到着します。バーバラ・スティールの二役で、ムリエルが黒髪だったのに対し金髪です。出迎えたソランジュは若くなっています。当初の姿が変装だったのかとも思いましたが、そうでないことがやがてわかることでしょう。
 玄関から入って、左奥から右前へ進むと広間の入口です。入口の両脇の柱が斑紋入りの大理石でできています。広間は右奥へ伸びている。
 広間に入って奥、左先に居間があります。暖炉の上にムリエルの肖像画がかかっている。暖炉の左手の壁に扉があり、衣装室とのことです。左奥にも扉口があり、寝室と同じく渦巻飾りを左右に有する柱頭つきのイオニア式円柱が控えています。扉口の向こうはすぐに壁で、左右に廊下が伸びているのでしょう。
 衣装室の中は、壁の両面に大きな壁画が飾られています。食堂も壁画だらけです。


 ジェニーは真夜中に目覚めます。ベッドから見て向こう側の室内が正面からとらえられる。手前に足もとの手すりが映りこんでいます。奥の方でいったん敷居があり、その向こうに扉が見えます。正面視の空間がかえって奇妙な感触をもたらしてくれます。天井は格子貼りで、各区画に装飾が施されている。
 ジェニーは地下室で柩から起きあがる夢だか幻を見る。ソフト・フォーカスになっています。次いで温室へ、過去の事件が再現されます。ただしステファンは頭部に貼りついた布をすっぽりかぶっていて顔が見えません。


 庭に噴水があります。多角形のプランになっています。離れて向こうに、欄干がずっと伸びています。ジェニーは以前精神科の病院に入院していました。

 ピアノの上に置いてあった楽譜はムリエルが作った曲とのことです。城には執事もいることがわかります。
 ソランジュはステファンの助手のような立場らしい。二人が話していると、悲鳴が聞こえてきます。地下室からだと、斑紋入り柱にはさまれた広間入口から手前に進みます。
 暗い廊下を右奥から出て手前へやって来る。方形の敷居が三つほど連なっています。手前で左に、粗末な木の扉があります。開けると中は螺旋階段になっている。裏の通路らしいのに階段の壁に額絵が掛かっています。振りかえるならこんなシークエンスがもっとあればと思わずにはいられません。しかも階段をおりるところを映さないとは残念にもほどがあります。螺旋階段なのに。
 下の扉の手前は、扉と同じ幅で壁にはさまれています。扉を開くとジェニーがいました。


 また城の外観です。アーケードの向かいに道をはさんで、柱の台座のみが並んでいます。玄関の向かいには鉄の柵があり、上辺が下向きの円弧にえぐれています。
 ジェニーが以前入院していた時に担当医だったドクター・ジョイス(ローレンス・クリフトことマリノ・マセ)が到着します。夫婦の姓が日本語字幕ではアイアスミス、 [ IMDb ]では Arrowsmith であること、城がハンプトン城であることがわかります。舞台は英国のようです。


 肖像画がなぜかイーゼルに位置替えしています。ステファンが血液の分解実験を見に来ないかとドクターに言うと、ジェニーがゲラゲラ笑いだします。
 ステファンがソランジュの若さを取りもどしたことがわかります。
 天井と壁の角が斜面になっており、その斜面に沿って欄干が描かれ、貴族たちが下を見ているという瞞し絵が映されます。食堂でした。奥の壁には、列柱が後退する風景の瞞し絵が壁画をなしています。
 ソランジュは血液の病気だという。


 ドクターが階段をのぼってきて、2階廊下の突きあたりの部屋に向かいます。その前まで来ると、廊下の反対側の壁、右手前に置かれたブロンズの胸像の後ろの壁が開きます。隠し扉になっていたのでした。ドクターは燭台を手に入っていきます。
 実験室です。右奥の壁に器材類の影がくっきりと落ちています。その下に横たわるソランジュの頭部が右から伸びてきています。ドクターが血が古すぎる、次回は新しい血をといいつつソランジュに注射します。今回もうまくいった、しかし効果は長続きしない。
 ジェニーが目覚めると、「私の血を、実験室にある」という声が聞こえます。
 隠し扉の先は地下室に通じています。悲しや、隠し通路の中は映されません。向こうにゆるい半円アーチが連なっています。地下室の石棺に「ムリエル・ハンプトン 1872年歿 20歳」と刻まれています。第1部は1872年、その後のお話はそれ以後に起こったわけです。石棺の蓋が勝手に開きます。中は空でした。

 寝室です。笑い声とともに風で別の扉が開きます。向こうは狭い廊下です。左は壁で、右に扉がいくつか並んでいます。突きあたりにも扉が見える。本作では先の地下への道程も含めて、こうした裏廊下の空間が面白かったりするのですが、残念ながら充分には展開されません。

 書斎です。三角破風のある屋根付き書棚が間を置いて壁に並んでいます。

 ドクターに割り当てられた部屋には縦溝の刻まれた円柱があります。
 裏の廊下です。壁は板貼りで、奥に方形の窓があります。いたって質素です。窓の下はちょうど実験室の窓にあたります。この廊下はドクターの部屋の浴室の壁の外にあたります。ステファンが壁に穴を開け、浴槽に電流を流す算段をしています。執事の名がジョナサンであることがわかる。
 ドクターの部屋の前は奥への短い廊下になっており、ドクター室の扉の向こうの扉から入ると、浴室裏の廊下なのでした。執事は浴槽に手を差し入れてあわれ感電死してしまう。


 ソランジュの部屋でしょうか。暖炉の上に大きな絵がかかっており、下半中央に立つ人物の裸の脚のみ見えます。
 ソランジュは呪われた血のせいで気分が優れません。血はムリエルのものだという。


 執事の亡骸を安置した部屋にドクターが入ってきます。下から光が当たっている。

 ドクターが去った夜、雷が鳴り雨が降ります。ジェニーの血をソランジュに輸血しようとします。二人が横たわる台が間を置いて平行に並ぶという、『生血を吸う女』でお馴染みの光景です。しかし本作ではバートリのモティーフは副筋に留まっており、必要だったかどうかも疑問無しとはしません。
 ドクターが忍びこみます。灯りの消えた居間でしょうか。彫像の台座に二つの心臓の浮彫があります。ドクターが出発する前にジェニーがほのめかしていたのでした。浮彫を回転させると、台座の一面が開きます。水槽が入れてありました。水槽の中には心臓が浮かんでいます。
 振り向くと笑い声が聞こえる。吹抜の上方、半円アーチの窓の前に男女の姿がありました。『回転』(1961、監督:ジャック・クレイトン)に相似たショットがなかったでしょうか。二人の左右に柱頭を支えるアトラスの瞞し絵が描かれています。
 男女が消えたかと思うと、扉口に現われる。それを見るドクターを、後ろから忍び寄ったステファンが殴りつけます。ステファンは二人の姿を見る。ムリエルは究極の快感を与えてくれたといって、ステファンを仕掛けつきの椅子に坐らせて動けないようにしてから、火をつけるのでした。
 ソランジュのもとにデイヴィッドがやってきます。輸血用のパイプを抜くと、ソランジュは老女の姿に戻り、あげく髑髏と化してしまいます。理屈がわかりません。ムリエル同様デイヴィッドも狂笑をあげます。いやに暴力的です。あげくジェニーの首を絞めようとします。見境ありません。
 駆けつけたドクターがジェニーを救いだすも、ムリエルが迫ってきます。デイヴィッドまた然り。ドクターが水槽の心臓を暖炉に投げこむと、二人の姿が消えます。ステファンにかけられた火は燃え尽き、古城はさいわいにも炎上しませんでした。パイプ・オルガンにブラスが加わって、幕となるのでした。

Cf.,  Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.132-133

Danny Shipka, Perverse Titillation. The Exploitation Cinema of Italy, Spain and France, 1960-1980, 2011, p.57

Roberto Curti, Italian Gothic Horror Films, 1957-1969, 2015, pp.143-146
おまけ ウルムの画家《死せる恋人たち》1470年頃
ウルムの画家
《死せる恋人たち》
1470頃


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 2015/8/09 以後、随時修正・追補
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