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ラビリンス -魔王の迷宮-
Labyrinth
    1986年、イギリス・USA 
 監督   ジム・ヘンソン 
 撮影   アレックス・トムソン 
 編集   ジョン・グロウヴァー 
プロダクション・デザイン   エリオット・スコット 
美術   テリーアクランド=スノウ、ロジャー・ケイン、ピーター・ホウィット、
フランク・ウォルシュ、マイケル・ホワイト
 
    約1時間41分 
画面比:横×縦    2.35:1*
    カラー 

VHS
* [ IMDb ]による。手もとのソフトでは1.33:1
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 『ハンガー』(1983)に続き、デヴィッド・ボウイ追悼として本作を再見することにしましょう。とはいえ上記のように手もとのVHSソフトでは画面左右が半分近くトリミングされていることになり、この映画を見たなどとはとても言えたものではありません。きちんと見るのはまたあらためてとなってしまいますが、ご寛恕ください。

 本作の主人公はあくまでジェニファー・コネリー演じるサラとはいえ、前半で退場した『ハンガー』に比べるとボウイはけっこう出番が多いような気がします。邦題の〈魔王〉という語感からはややずれますが、深読みしようと思えば大いに深読みできそうな役どころを演じています。またオープニング・クレジットおよびエンド・クレジットの他、劇中でも何度か歌います( [ IMDb ]の Soundtracks には5曲挙げられており、いずれもボウイの作曲、1曲をのぞき自ら歌っているとのことです)。
 1970年生まれのジェニファー・コネリーは本作に先立って『フェノミナ』(1985、監督:ダリオ・アルジェント)、本作当時は16歳、その後も『エトワール』(1989、監督:ピーター・デル・モンテ)、『ダークシティ』(1998、監督:アレックス・プロヤス)、『ダーク・ウォーター』(2005、監督:ウォルター・サレス)などといったジャンル映画に出演し続けてくれている奇特な女優です。
 脚本のテリー・ジョーンズはモンティ・パイソンの一員でもありました。製作総指揮はジョージ・ルーカスがつとめています。またプロダクション・デザインのエリオット・スコットは、『たたり』(1963)でも美術を担当していました。

 ジム・ヘンソンは自ら編みだした操り人形〈マペット〉を主軸に、本作の前にフランク・オズと共同で『ダーククリスタル』(1982)を監督しています。本作でもボウイとジェニファー・コネリー以外の登場人物の多くはマペットによって占められています。もっとも『ダーククリスタル』が、分裂していたものが再統合されることによって、終末を迎えようとするある世界が再生を果たすという、過ぎるほどに王道的なファンタジーだったのに対し(とはいえ主役のゲルフリン族2人のデザインのかわいらしさの果たした役割も小さくない。とりわけ畳んでいた羽をひろげて宙を翔け、相方の少年が僕は飛べないと言うのに対し、「男の子だもの」と切り捨てた少女のかっこよさには刮目させられたものです)、こちらは子供向けのお伽話でありつつ、いささか倫理臭の漂う内面的な通過儀礼譚に回収されるきらいがないとはいえない。それに歯止めをかけるものがあるとすれば、所狭しと駆け回るさまざまなマペットたち、そしていくつかの相で現われる迷路および城内の〈エッシャー風〉空間の描写なのでしょう。
 なお余談になりますが、『ダーククリスタル』にもお城が出てきます。本作同様そこに至る過程が話の主要部分を占めてはいるものの、城内の広間や地下通路、実験室などが登場する。また別の場所ですが、巨大な天球儀を据えつけた室内なんてのもありました。

  ボウイの歌が流れるオープニング・クレジット、闇の中を白い梟が飛び回ります。
 幕が開けると公園です。あちこちに小オベリスクがあり、川には石橋が架かっています。オベリスクの一つに白梟がとまっている。[ IMDb ]によるとイングランド南東部のバッキンガムシャー州の都市ハイ・ウィカムの西にある村ウェスト・ワイクームのウェスト・ワイクーム・パーク West Wycombe Park, West Wycombe, Buckinghamshire, England でロケされたようです。犬のマーリンを連れた少女サラ(ジェニファー・コネリー)がお芝居の練習か何かをしている。
 雨が降りだし、サラは郊外の街を通りぬけて家に駆け戻ります。入ると玄関広間ですが、吹抜の空間をめぐるように階段があがっていき、最初の踊り場で中2階、折れた次で2階、さらに上へのぼっているようです。家族は義母、父、そして赤子のトビーですが、サラは自分がないがしろにされていると思っているらしい。
 サラの部屋にはぬいぐるみ類に混じって模型の迷路もあります。並べた本の内に『オズの魔法使い』(→こちらも参照)のタイトルが見える。実際本作の筋立ても『オズの魔法使い』に通じるところが少なくありません。またベッドの脇にはエッシャーの《相対性》(1953年、下の「おまけ」に挙げた公式サイトの画像を参照)がかけられています。正方形の画面が縦長に見えるのは斜めの角度だからだとして、ただしなぜか、手もとの画集類では右辺にあたるところが上辺になっている。正方形の画面は上下左右をひっくり返しても支障がないよう組みたてられているとはいえ、複数の画集で落款のようなものが左上に配されているので、間違いはないものと思われます。
 迷路の模型やエッシャーの《相対性》等は、この後の展開を予示しており、それが内面的成長譚への回収という意味づけを強めてしまいもするわけです。


 雨に雷鳴が加わった夜、留守番兼子守を任せられたサラが泣き止まないトビーに業を煮やし、ついゴブリンの合い言葉を口にしてしまったことから、トビーの姿がかき消えます。
 窓の外に白い梟が現われ、突風で開いた窓から入ってきたと思ったら、約11分、さっそくゴブリンの王としてボウイの登場です。髪の毛はぼさぼさ、黒ずくめのいでたちでした。長球形のクリスタルをサラに贈ろうとしますが断られ、トビーは城にいると指させば、窓の外にひろがっているのは赤茶の景色で、ゆるやかな丘とそこを長々と横切る幾本かの城壁、頂に小さく建物が見えます。画面上辺は暗い木の葉が横に並んでいる。手前の城壁と城壁の間は何やらうねうねとうねくっており、これが迷路なのでした。
 いつの間にやらサラとゴブリン王は屋外に出ています。13時間以内に迷路を通りぬけないとトビーは二度と戻らないと告げます。


 日が昇りました。手前を横に城壁が伸びています。城壁は小オベリスクで規則的に区切られている。城壁の向こう、迷路内の随所にもオベリスクが突きでています。
 手前の方形池で小便していたのがおじさんゴブリン、ホグルでした。彼は殺虫剤で妖精を駆除している。とんぼのような妖精は見かけは綺麗ですが、咬みつきます。城壁にはところどころ、低い尖頭アーチが設けられていることがわかります。
 入口があって門が開く。向こうはすぐに平石を細かく積んだ壁です。入って左に向けば、奥に通路が真っ直ぐ伸びています。上は空です。壁は上に奥まった傾斜をなしており、両側にありました。オベリスクが規則的に配されています。通路の幅は2~3メートルくらいでしょうか。床は石畳です。壁の所々に先が目玉になった草の束がはえています。
 サラは進みますが、行けども行けども真っ直ぐでした。青い芋虫が抜け道のあることを教えてくれます。見逃してるだけだ、通ればわかるとのことです。

 約21分、どこまでも続くかのような石の屈曲した迷路がやや上から見渡されます。右の方に球を載せた何かがのぞく。画面が切れていなければ見え方はまた違うのでしょう。
 遠くに城が見えます。ねじくれた本丸は上にドームをいただいており、左の副棟に接続しています。その左端では小塔が突きだしている。本丸の右は少し間をあけてねじれた塔となり、斜めの橋が両者をつないでいます。
 城内の玉座の間です。床には円形の浅いくぼみがある。壁には波打つ梁が二段になっています。奥に上りの階段がのぞく。ここにはゴブリン王とトビー、そしてゴブリンがうじゃうじゃいます。王は歌いだすのでした。


 迷路はあちこちに3段ずつくらいで段差があります。空は明るくなっている。ここでは上に石の球を載せた柱か何かが随所に配されています。サラは石畳に口紅で矢印を記しますが、下にいた妖精が文句を言いながらひっくり返したり向きを逆にしたりする。
 頭部が上下にある赤と青の紋章男2人が問いかけます。二つの道がある、一つは城へ通じる、もう一つは死の道だ。1人は嘘つきで1人は正直者だという。サラは謎を解いて一方の扉を開いて入りますが、すぐに落とし穴になっていました。
 穴の壁からは青緑の腕がいっぱいはえています。「助ける手」と名乗る。腕を組み合わせて顔の形になります。
 下を選んだサラは、扉のない部屋に落ちてしまう。ホグルが現われ、ここは「ウブリエット」の一つだと教えます。ここにずっといると記憶を失なってしまうとのことです。部屋の壁は洞窟状で、ところどころきらきら光っている。ちなみに'oubliette'は手もとの仏和辞書によると、「((多くpl.で))[終身刑の囚人を閉じこめた]地下牢;[人をひそかに抹殺するための城塞の]落とし穴」とのことです(→こちらも参照)。

 プラスチックのブレスレットで取引に応じたホグルは、扉を示す。左に開くと物置でしたが、右に開くと出口でした。
 その先も洞窟状の通路が曲がりくねっています。岩の大きな顔がいくつも壁にはえており、おしゃべりします。
 クリスタルの長球が転がっていく。その先にいたのは青いゴブリンですが、変じて王の姿を現わします。背後には半円アーチ、その向こうに天窓が開いているようです。
 サラが説得に応じないでいると、王はクリスタルを奥へ投げる。すると下すぼみになった円筒状の通路いっぱいの「ゴミさらい」が向かってくるのでした。
 ホグルとサラは壁を壊して難を逃れます。ゴミさらいの後部はトロッコ状で、2人のゴブリンが操作していました。

 破った壁の奥には上への梯子がついていました。それをのぼると、出てきたのは生垣迷路に囲まれた壺でした。ただし壺を台に載せてあるのですが、台の下は宙空になっている。
 駝鳥の首を頭上にのせた老賢人(フランク・オズ)に出会います。いっかな役に立ちません。別れ際なぜかスペイン語で「ありがとう、お嬢さん Gracias, Señorita」と言う。
 生垣迷路がやや上から見渡されます。右にはあまり高くない壁がある。吠え声が聞こえます。ホグルと別れたサラがのぞくと、赤毛のゴリラがゴブリン兵たちの罠にかかって吊されていました。ゴリラは二つの角、下牙二本があり、平べったい顔をしています。サラは兵たちの鎧の頭部に石を投げつけて追っ払う。ゴリラはルドと名乗ります。このあたりの壁は大きめの石積みになっていました。

 また二つの扉があり、今度はノッカーがしゃべります。うまくだまくらかして右の扉から入ると、その先は森のようです。
 約47分、ゴブリン王の名がジャレスであることがわかります。
 森に霧がかかります。ルドは落とし穴に落ちてしまう。
 ホグルが大きな石の顔のそばを通ります。石の顔と見えたのは実際には三つ奥に並ぶ石板で、離れてみると顔に見えるのでした。またジャレスが現われ、クリスタルの変じた桃をサラに贈れと命じます。
 一方サラは赤毛の直立する獣たちに囲まれていました。獣たちは歌います。彼らは目玉や首が抜けるのでした。追っかけられていると岩の上からロープが垂れさがってきます。上は城壁で、ロープを下ろしたのはホグルでした。
 2人は落とし穴に落ちて滑り台状の穴を落ちていきます。出た先は城壁の外に沿った細い道で、その下はジャレスがつねづねホグルをそこへ送ると脅していた「悪臭の沼」でした。上の城壁は平滑でなく、ところどころ浅くでこぼこしています。
 細い道を伝いますが落ちてしまうと、下には別の落とし穴から落ちて来たルドがいました。


 沼に渡された石橋が先にあります。橋は騎士サー・ディディムスが守っていました。愛玩犬風で、片目に黒の眼帯を当てています。
 石橋は先で吊り橋風になっているのですが、渡ろうとすると崩れだす。ルドが叫びを上げると、あちこちから岩が転がってきます。岩は友だちとのことです。
 サー・ディディムスとその忠馬ことむく犬のアンブローシャスが一行に加わる。

 サラはホグルに渡された桃をかじってしまう。ジャレスが城の窓から長球クリスタルをいくつも宙に放ちます。サラの元へ向かう。
 クリスタルの一つには仮面舞踏会の様子が映ります。白っぽい広間です。ボウイの歌付きです。サラとジャレスが仮面をつけた人々の間で彷徨する。サラは巨大な歪み鏡を割るのでした。


 目覚めるとゴミ捨て場でした。自室にあったはずの熊のぬいぐるみランスロットを見つけます。そこにいた老婆に案内されて入った先は、もといた世界での自分の部屋でした。夢を見ていたのかと扉を開くとしかし、老婆が入ってきます。鏡台の前に赤い本があり、Labyrinth と題されています。冒頭で暗誦していた台詞はここに載っていたらしい。鏡台の鏡を割ると部屋は崩壊する。

 ゴブリン・シティの門の前にいました。門は平べったい馬蹄形です。向こうに街が見える。
 金属でできた門型巨人が現われます。ホグルが城壁から飛びついて頭を飛ばすと、小猿が操縦していました。
 金属製の門から入ると、いささか歪みの目立つ家々が並んでいます。『巨人ゴーレム』(1920)におけるユダヤ人街を連想させなくもない。ただしサラの背丈と2階建ての家が同じくらいの高さなのでした。通りを黒猫が横切ります。


 玉座の脇の時計の文字盤には、13時まであることがわかります。
 一方サラたちは噴水のある広場にたどり着きました。広場に面して幅広ののぼり階段があり、その先が城の入口のようです。階段の両脇を低い城壁がはさんでいます。そのあたりから兵たちがぞろぞろ出てくる。ドタバタが始まります。ルドが呼び声をあげると岩がゴロゴロ転がってくる。

 巨大な城門の奥は、水平路を経て10段ほどののぼり、また水平、のぼり階段がくりかえされて奥に伸びています。左右は太い柱が並び、天井は半円アーチが連なる。しかしサラたちはなぜかそちらには進まず、門を入ってすぐ右に向かうのでした。
 階段をのぼってくれば玉座の間でした。サラは一人で行くと言って奥の階段をのぼります。向こうは空が見えている。ただしその手前でやはり右に曲がる。
 切り替わってのぼってくるさまがやや下からとらえられます。途切れた手前を見下ろすと、約1時間27分、上下左右が入り乱れたエッシャーの《相対性》風の空間です。ただしエッシャーの画面をそのまま再現しているわけではなく、武骨な石造の部屋になっている。
 サラは左へ進み、角で折れる。上からのショットに切り替わると、下への階段がくだり、おりると少し水平、すぐにのぼり階段に続いています。間の水平部分には半円アーチの扉口が開いている。水平部分から階段をのぼる際には、カメラは水平に切り替わっています。
 入り組んだ空間をサラとジャレス、トビーが追いかけっこします。歌も始まります。トビーの元へたどり着こうとするサラがあちこちから出てきて行ったり来たりします。サラの立つ床の下でジャレスが逆さに立っており、端でくるりと上向きになったりもする。ジャレスはサラに対し水平になったり、背後からサラのからだを通りぬけたりします。
 ジャレスがクリスタルを投げると、転々としてトビーの足もとに着きます。トビーはもうよちよち歩きできる。


 サラが飛び降りると、階段の残骸が浮遊する空間に降り立ちます。ジャレスはサラを説得しようとします。サラは芝居の台詞を暗誦する。ジャレスは押されます。鐘の音が響く。

 クリスタルが布に変じ、さらに白梟になる。自宅の玄関広間にいました。
 トビーの無事を確認してから自分の部屋に戻ります。鏡の中にのみ仲間たちの姿が映る。いよいよ少女の内宇宙の話だったのかいと落ちがつきそうなところですが、いつかまた助けをというところで、深読みすれば少しニュアンスが変わったと見なせるかもしれない。振りかえると仲間たちをはじめゴブリン一同がいてパーティーとなります。ここは何としても内なる夢・幻、ましてや内面的成長の比喩などに回収されることなく、異界は実在することが示されているものととりたいところです。
 窓の外からどんちゃん騒ぎの様子を見ていた白梟は、飛びたって月へ向かうのでした。


 エンド・クレジットでもボウイの歌が流れます。モーリス・センダックの諸作品に対するヘンソンの謝辞の後、エッシャーの著作権管理者から許可を得てそのイメージを使用した旨が記されます。であればなおさら、最初に《相対性》が映された時に左に90度ひっくり返っていた点が不思議なのでした。
おまけ  エッシャー(1898-1972)は著作権が切れていないので《相対性》の図版を載せることはしませんが(→ Relativity, 1953 [ < M.C.Escher. The Official Website ])、とりあえず;

岩成達也訳、『M.C.エッシャー 数学的魔術の世界』、河出書房新社、1976、図67、作品解説(M.C.エッシャー) p.11/no.67(カヴァー図版にもなっています)

ブルーノ・エルンスト、坂根厳夫訳、『エッシャーの宇宙』、朝日新聞社、1983、pp.79-82

M.C.エッシャー、坂根厳夫訳、『無限を求めて エッシャー、自作を語る』(朝日選書 502)、朝日新聞社、1994、pp.104-105

こちらでも触れました

ついでに;
WAPPA GAPPA、『我破』、2004
の7曲目、「エッシャー」


迷路・迷宮に関して→こちらも参照
 2016/1/20 以後、随時修正・追補
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