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バーバレラ
Barbarella
    1968年、フランス・イタリア 
 監督   ロジェ・ヴァディム 
 撮影   クロード・ルノワール 
編集   ヴィクトリア・メルカントン 
 プロダクション・デザイン   マリオ・ガルブリア 
    約1時間38分 
画面比:横×縦    2.35:1
    カラー 

DVD
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 1968年5月17日にフランス公開された『世にも怪奇な物語』に続き、同年10月10日USAで公開されたというロジェ・ヴァディムによる脱力系お色気SFです。ここにスリルやサスペンスを期待してはなりませんし、思想性など薬味にもしていない。視覚的な面でも、やはり同年4月2日USA公開になる『2001年宇宙の旅』(監督:スタンリー・キューブリック)のような厳格さは望むべくもない。それでいて無い物ねだりすることなく、『2001年宇宙の旅』同様1968年というサイケデリック文化花咲く中での、キッチュでポップな視覚的享楽をえ受けいれることさえできれば、それなりに楽しめる作品といえなくもないかもしれません。古城映画と呼ぶのはいささか苦しいものの、全篇セットの人工的な美術に覆い尽くされていますので、手短かにとりあげることにしましょう。

 撮影は『血とバラ』(1960)、『世にも怪奇な物語』第1話に続いてクロード・ルノワール、上の2作と『悪徳の栄え』(1963)に出ていたセルジュ・マルカンも出演しています。ただし今回はほとんど目立たない。衣裳デザインはパコ・ラバンヌとともに『世にも怪奇な物語』第1話でのジャック・フォントレーが担当していますが、SFという設定のせいか、前回ほど突拍子もないとは感じられない。
 『世にも怪奇な物語』第1話に続きヒロインをつとめるジェイン・フォンダの相手役の一人ジョン・フィリップ・ローは、同じ1968年の1月24日にイタリアで公開されたマリオ・バーヴァの『黄金の眼』で主演していました。ちなみにプロデュースも同じディノ・デ・ランレンティスによる『黄金の眼』は、やはり本作同様劇画を原作としているとのことです。脚本チームの一人テリー・サザーンは『博士の異常な愛情』(1964、監督:スタンリー・キューブリック)、『イージー・ライダー』(1969、監督:デニス・ホッパー)に携わった他、小説『キャンディ』(1958)の著者の一人でもありました(メイソン・ホッフェンベルグとの共著とのこと)。

 無重力状態で衣裳を脱いでいくバーバレラ(ジェイン・フォンダ)の姿をタイトル・バックに本作は始まります。彼女のいる部屋の壁はむらのある赤茶色で、最初肌理の細かい岩壁風かとも思いましたが、後に毛皮であることがわかります。奥の右手にはディアーナらしき女性の立像、左にはスーラの《グランド・ジャット島の日曜日の午後》(下の「おまけ」、また→こちらを参照)が衝立か扉のように配されている。スーラの絵は最初二分割されているのかと思いましたが、後に三分割であることがわかります。ディアーナ像とスーラの複製との間には、キネティック・アート風の方形が見えます。
 地球の大統領(クロード・ドーファン)から映像通信が入る。最初の挨拶は"Love"でした。60年代後半であります。タウ・セティ星系に行って行方不明の科学者デュラン=デュランを探してほしいとのこと。ちなみに科学者の名は、1980年代前半のいわゆるニュー・ロマンティックを代表するグループの1つ、デュラン=デュランの名のネタだそうです。話を戻すと、彼はポジトロン光線の発明者だという。当時戦争はなくなって久しいとの設定で、大統領は武器を博物館から調達します。宇宙船の飛行方法は少なくとも日本語字幕では言及されませんが、地球近辺から154時間7分(1週間弱)かかるとのことでした。

 目的地の近くまで着くも、磁気嵐に見舞われます。上ひろがりの平らな皿の下に下ひろがりの平らな皿を重ねたモニターが、まずは緑のピカピカで、追って赤い液体で満たされる。
 タウ・セティ系第16惑星に不時着します。外に出ると氷原でした。空は黄色で、後にオレンジになります。
 二人の少女が現われ、バーバレラを捕縛します。エイが引くスキーで運ばれる。真っ赤な宇宙船の残骸に子供たちがいました。青い兎もいます。縛りつけられたバーバレラにたくさんの自動人形がけしかけられます。人形の体裁は普通なのですが、口に並んでいるのはギザギザの牙でした。口を開いたり閉じたりしながら多くの小さな人形が迫ってくるさまはけっこう無気味です。
 バーバレラがあちこち咬みつかれているところへ、大人たちが現われて子供たちを捕獲します。大人の一人マーク・ハンド(ウーゴ・トニャッツィ)は謝礼としてバーバレラとの性交を所望する。当時の地球では、まずリズムが合うことを前提に、ピル=興奮伝達剤を飲み、手を合わせるという形で性交が行なわれるとのことで、そのさまは後の場面で登場します。しかしマーク・ハンドは20世紀までの(?)地球方式を望む。試しにと応じたバーバレラはけっこう満足したらしい。マーク・ハンドの胸は胸毛だらけです。
 なおマーク・ハンドの乗り物は氷上車で、風を起こして前方にある半透明の羽で受け、前に進むというものです。羽の下にはやはり半透明の角があり、その内部は寝床になっています。氷上車の後部には昔の自転車風の車輪が6~8個付いていて、なかなか風情のある車なのでした。

 マーク・ハンドに宇宙船を修理してもらったバーバレラは、デュラン=デュランの消息がわかるかもしれないというソゴーの都に向かいます。ソゴーは氷原の向こうにあるという。しかし離陸した途端、また墜落してしまう。外に出て気を失なった彼女を、盲目の有翼人パイガー(ジョン・フィリップ・ロー)が介抱する。彼もよその星から着て不時着したとのことです。
 彼らがいたのは「死の迷路」でした。岩盤を削って細い道がうねうねと曲がりくねっては枝分かれしているようです。あちこちで人が岩に半ば呑みこまれている。パイガーはバーバレラを物知りのピン教授(マルセル・マルソー。著名なパントマイム芸人)のもとに案内します。ソゴーは夜の国の悪の都で、悪人以外は迷路に追放されるのだという。迷路の住人は蘭を糧にしています。
 パイガーは岩の上部に木の枝を編んだ巣を作っていました。バーバレラが巣で寝ている場面に続いて、飛べないといっていたパイガーが飛行に成功します。皇帝の黒騎兵が現われる。バーバレラが持参した銃で撃つと、鎧の中は空でした。
 パイガーに抱きかかえられてバーバレラは空をソゴーに向かう。迷路が刻まれた岩盤は奥の方で丘に連なり、その頂には有機的な形状の建造物が建っています。
 パトロール艇が何隻も向かってきて空中戦になります。パトロール艇は二人乗りの小さなもので、上部に2つ、湾曲しつつ上ですぼまる透明なカプセルが突きだしており、側面には短く曲がった翼が付いている。空中戦にはスピード感が全くありません。


 ソゴーは幾本もの脚の上に平らなドームが載っているというものでした。歪んだ七角形のパイプから中に入ります。広い廊下の左右、壁にガラス張りのセルがいくつも設けられている。バーバレラは悪そうな連中に廊下から脇におりたところへ連れこまれますが、片目眼帯・黒髪のナイフ使いの女に助けられる。女はバーバレラを"Pretty pretty"と呼びます。背を向け踏面の広い階段をのぼって廊下に戻るところが下の階からとらえられる。
 透明で狭そうなチューブに包まれた、蹴上げのない白い階段をのぼります。上は円形のステージのようになっている。壁から幾本も白い管が突きだしています。
 パイガーを助けて壁の出入り口から入ると、パイガーをいじめていた連中は追ってきませんでした。そこは最終処理室だという。床はガラス張りで、下に何やら液体がうねくっています。3つの扉からどれかを選べということで、1つに入ろうとした時、皇帝の侍従長(ミロ・オーシャ)が現われます。床の下にあるのはマトモスという湖=液体生物で、プラスの磁性を持っているため、マイナスの霊気を好むのだという。

 床に開いた孔から滑り台で下の階におりる。皇帝の姪二人がいて、そのお守りをしていたのがセルジュ・マルカンの役でした。
 ひしゃげた曲線が上で尖る銀色のアーチの連なる回廊が映ります。奥に行くに従ってすぼんでいるように見える。その奥から皇帝こと黒の女王が現われます(アニタ・パレンバーグ。日本語字幕では Black Queen をなぜか一貫して「皇帝」と訳していました)。先だって助けてくれた黒髪の女です。眼帯はしていません。やはりバーバレラを"Pretty pretty"と呼ぶ。バーバレラはそんな風に呼ばれるのがいやそうです。アーチがそれぞれ下方で少し突きでていることがわかります。

 銀色の双頭の鷲の頭部、その下は球形のガラスの檻になっています。そこにバーバレラは入れられる。すると吹出口から小鳥の群れが出てきて、彼女をつつくのでした。
 床に落とし穴が開き、湾曲する透明なチューブを落ちてバーバレラは下の部屋に着きます。黒っぽい部屋で、何本もの透明チューブが集まってきている。そこにいたのは革命家ディルダノでした(デヴィッド・ヘミングス。ヤードバーズが登場することでも知られる『欲望』(1966、監督:ミケランジェロ・アントニオーニ)で主演した人です)。
 ディルダノは救出の謝礼に、先に触れた地球式のセックスを所望します。ピルをのんで手を合わせていると、それぞれの髪の毛が逆立ち、合わせた手から煙が出るのでした。
 余談になりますが、仏教の宇宙論では一つの世界の中心には須弥山がそびえ、その中腹に四天王、頂上に帝釈天を長とする三十三天が棲まう。これが地居天ですが、さらにその上に空居天の棲む四つの天界が重なり、合わせて六欲天と称します。これが欲界で、さらに上には色界が来るわけですがそれはさておき、欲界の住人はその名の通り欲望にとらわれている。地居天は「性器の挿入をせずには欲望の火を消すことができない。ただ、人間と違うところは、彼らには精液がない。/精液のかわりに風が漏れでることにより、彼らは熱悩を離れる。次に空中の天であるが、まず夜摩天は相手を軽く抱くだけで熱悩を離れる。覩史多天は相手の手を握ることにより熱脳を離れる。楽変化天は微笑しあうことにより、他化自在天は視あうことにより、熱悩を離れる」とのことです(定方晟、『須弥山と極楽』、1973、p.58。また山口益・舟橋一哉、『倶舎論の原典解明 世間品』、1955、pp.411-414)。つまりバーバレラの時代の地球は覩史多天に相当することになる。覩史多天は別の漢訳では兜率天で、弥勒が56億7千万年後の下生を待機する天界にほかなりません。ちなみに本篇中少なくとも日本語字幕には出てこなかったかと思うのですが、下掲の『世界の映画作家13 ロジェ・ヴァディム ロマン・ポランスキー』(1971) によると本作の舞台は宇宙暦の紀元4万年とのことです(p.80)。


 黒の女王はマトモスの上、夢の秘密の部屋で休息をとるという。その部屋は見えない壁に囲まれており、鍵も目には見えない。しかしディルダノは鍵の1つを盗みだしていました。武器と引き替えに鍵を預かったバーバレラは下向きの笠から透明チューブを上昇して、12番廊下に向かいます。
 途中、磨りガラスの壁の向こうから緑の光が洩れている広間を通ると、巨大なフラスコの中に若い男が入れられていました。フラスコにはちょうど阿片を吸うためのもののようなパイプがつながっており、女たちが吸っているのは男のエッセンスとのことでした。

 バーバレラは侍従長に見つかってしまいます。銀色のアーチが連なる回廊を奥に控えた場所で、彼女は人間オルガンに入れられる。しかし彼女の性的力の方が強く、オルガンは壊れてしまいます。その際大統領から渡されていたデュラン=デュランを見つけるための脳波識別装置が、侍従長に反応する。彼こそがデュラン=デュランだったのです。ポジトロン光線は当てられたものを4次元に送ってしまうとのことです。

 バーバレラはデュラン=デュランに連れられて、女王の眠る夢の部屋に通じる黒い部屋に来ます。床から真っ白な草がいくつもはえています。また大きな円形のレンズがいくつも吊されて揺れている。
 バーバレラは夢の部屋に入りますが、鍵を捨てられ出られなくなる。この部屋では女王の夢が大きく投影されます。女王によると夢の部屋に一人以上の人間がいるとマトモスは怒るとのことです。

 叛乱が起こったとの報せにデュラン=デュランは赤い部屋に入ります。大きな横長モニター、そして幾本もの透明なパイプを束ねたポジトロン光線砲がある。光線砲によってピン教授やディルダノも消されてしまいます。後に戻ってくるのかと思いきや、そのままでした。

 女王はもはやこれまでと、マトモスを解放します。女王とバーバレラはカプセルに入ったまま流され、気を失なったパイガーを見つける。バーバレラにせよ彼にせよ、無垢なのでマトモスは消化できなかったのだろうと女王が説明する。バーバレラと女王、二人を抱えてパイガーが宇宙船の元へ飛びたつ。ひどい目に遭わされたのになぜ女王も助けるのかというバーバレラの問いに、パイガーは「天使には記憶がない Angel has no memory」と答えるのでした。

 3人を残して、少なくともソゴーと死の迷路にいた人間は皆死んでしまったということになるのでしょうか、かなり乱暴な決着の付け方には、高千穂遙の『ダーティペア』シリーズ(1980~ )が連想されたりもするのでした。
 ソゴーの住民の頽廃ぶりは『世にも怪奇な物語』第1話を引き継ぐものですが、ある意味で女王は、悪を必要とするマトモスの暴走を抑え、秩序を保とうとしていたのだと解することもできなくはないかもしれません。もっともそんな風にとっては、天使が善悪の隔てなくバーバレラと女王を二人とも救うというとても面白いイメージに、いらぬ意味づけを与えてしまうことになる。
 また都市規模の活ける液体マトモスは、レムの『ソラリス』(1961)を思いださせずにはいません。ジャン=クロード・フォレによる原作(1962~ 、映画版の脚本にも参加)は何か関係があるのでしょうか。

Cf.,  澁澤龍彦、「『バーバレラ』あるいは未来像の逆説」(1968)、『澁澤龍彦集成 Ⅶ 文明論・芸術論篇』、桃源社、1970、pp.347-350
同じ著者による→こちらを参照

世界の映画作家13 ロジェ・ヴァディム ロマン・ポランスキー』、1971、pp.80-81、p.125

友成純一、『暴力/猟奇/名画座』、洋泉社、2000、pp.58-61

北島明弘、『世界SF映画前史』、2006、p.326
おまけ   スーラ《グランド・ジャット島の日曜日の午後》1884-86
スーラ
《グランド・ジャット島の日曜日の午後》
1884-86


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 2015/12/07 以後、随時修正・追補
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