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悪徳の栄え
Le vice et la vertu
    1963年、フランス・イタリア 
 監督   ロジェ・ヴァディム 
 撮影   マルセル・グリニョン 
編集   ヴィクトリア・メルカントン 
 セット装飾   ジャン・アンドレ 
    約1時間47分 
画面比:横×縦    2.35:1
    モノクロ 

BS放送で放映
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 「実際にはこれは全くサドの映画化ではない」とヴァディム自身記すように(下掲『世界の映画作家13 ロジェ・ヴァディム ロマン・ポランスキー』、p.73)、ここには登場人物たちが延々と繰りひろげる自然論=倫理学の議論も、人形芝居めいた残酷絵巻もありません。超自然現象も起きない。ただ、後半で古城が出てきますし、それ以外にも面白い空間が登場しますので、手短かに取りあげることといたしましょう。

 本作は『血とバラ』(1960)その他とともに古城が重要な役割をはたすヴァディムの作品の一つで、城の少なくとも外観はロケだと思われますが、残念ながら[ IMDb ]には記されていませんでした。実在するお城に詳しい人ならきっとわかるのでしょう。
 ジュリエット役のアニー・ジラルドはヴィスコンティの『若者のすべて』(1960)などに出ていた女優。ジュスティーヌ役は当時ヴァディムと恋仲だったカトリーヌ・ドヌーヴで、翌年には『シェルブールの雨傘』(1964、監督:ジャック・ドゥミ)が公開、当時のフランスを代表する美人女優の一人のはずなのですが、ポランスキーの『反撥』(1965)だの、ブニュエルの『昼顔』(1967)、『哀しみのトリスターナ』(1970)といったけっこう癖のある映画にも出ています。吸血鬼もの『ハンガー』(1983、監督:トニー・スコット)、ゴシック・ロマンス『ポーラX』(1999、監督:レオ・カラックス)なんてのもありました。ロベール・オッセンは『傷だらけの用心棒』(1969)などで監督をつとめたりしていました。

 第2次世界大戦時の記録フィルムを経て、最初の舞台は街中の教会の前です。花嫁衣装のジュスティーヌの前から、花婿ジャンがゲシュタポに連行される。
 次いで大きな屋内プールとなります。3階分の吹抜で随所に太い円柱が並んでいます。パリを占領しているドイツ軍がここに陣取っている。プールの一角にはボクシングのリングが設営されています。指揮官バンベルク将軍(O.E.ハッセ)とフランス人の愛人ジュリエットが登場します。将軍は親衛隊のシェーンドルフなる人物と対立関係にあるらしい。この他ボクシングの選手でもあるイヴァン(セルジュ・マルカン)は、以後運転手として狂言廻しの役割をつとめることでしょう。
 ジュスティーヌが姉のジュリエットに助力を求めてやってきます。二人はサウナで話をする。
 ジャンは隙をついて護送中の車から脱走する。

 約17分、将軍がジュリエットを囲っている家に舞台が移ります。ピアノが置かれ、鏡があちこちにある居間から、扉を開けて出るとくだりの階段で、暗めの短い廊下を経て玄関となる。
 居間は壁で仕切られない広い造りで、食堂だの応接間だのに分岐しています。随所に黒っぽい角柱が立っている。柱頭と台座は白っぽい直方体でした。白っぽい角柱を混じっています。モノクロの画面では白と黒に見える色が対比されるというデザインのようです。天井も明部と暗部に分割されており、後に床も同様であることがわかります。カーテンも暗色のものと明色のものがある。壁にも暗いところと明るいところがあるようです。
 奥の方には段差があるようで、食堂との間にはガラスの仕切りが配されています。と思うと、ジャポニスム風の装飾を施された壁面もある。絵だの彫刻もヨーロッパのものに加え、東アジア風の縦長画面が飾ってありました。
 1階から2階へあがる階段には、方形が段々になった欄干がついており、大きな円の穴が開けられている。階段をのぼった2階廊下にも同様の欄干が伸びています。
 ここに親衛隊長シェーンドルフ(ロベール・オッセン)が訪ねてくる。シェーンドルフたちはチロルの山中に「騎士の館」を構えているという。追ってジュスティーヌもやってきます。ジュスティーヌが帰った後、シェーンドルフは将軍に毒を盛るのでした。

 約38分、ドイツ軍の本部は館状の外観だけ少し映り、すぐにそれとは別のゲシュタポ本部に舞台は移ります。最初出てくる廊下は暗めですが、少し後にシェーンドルフが通る玄関付近は明るい。ここでも明暗の対比が設計されているようで、ジュスティーヌが拘留された部屋は明るい壁で、ジュリエットがシェーンドルフを待つ部屋は暗い壁紙に覆われている。暗い部屋には額絵がかかっているのですが、それを手前に回すと、マジック・グラスの窓になっており、隣の明るい取調室がのぞけます。額絵を回した際、キャンヴァスの裏と木枠が見える点が生々しい。
 ジュリエットはこの隠し窓から将軍の副官が拷問されるさまを目撃させられます。目元がアップになる。次いで画面左に右向きのジュリエットのアップが配され、右手で扉が開いて光が射した箇所に、まずはシェーンドルフの影だけが落ちる場面が印象的でした。
 車でジュリエットとシェーンドルフが出発する際には、リア・ウィンドウに連行されるジュスティーヌが小さく見えます。

 約50分、ノルマンディー上陸などの記録フィルムを経て、ジュスティーヌの許嫁ジャンが街中で戦闘に加わっています。一方ジュスティーヌを含む女たちがジープに乗せられ移送されています。
 約53分、両側を木立にはさまれた道の奥に城が見えてきます。少し高い土台の上、方形を基本に背の高い建物です。城門をくぐった車が回るようめぐる道を進むさまがかなり上から見下ろされます。
 やがて見えてくる本丸は、交わる方形の棟二つと円塔が、いずれも尖り屋根をいただくというものです。最初に映る建物の上の方は、窓が少なく、あっても小さなものという武骨な造りでした。
 城へ入るため、地面から二叉になった湾曲する石の階段が築かれています。階段をのぼると玄関に通じる短い橋が渡してあるのですが、こちらは木造です。


 犬小屋で犬に餌をやるイヴァンが見上げると、低い円塔とそれに接して段々状になった城壁からジュスティーヌが見下ろしています。城壁の内側には壁に接したのぼり階段が設けてある。この城壁は本丸のものではなく、玄関の向かいあたりにあるものでした。本丸はやはり高くなった土台の上に築かれているわけです。城壁からは犬小屋の近くにおりる階段もあります。周囲は川沿いの庭園になっている。

 玄関をくぐると中庭です。中庭は上を欄干付きの回廊に囲まれている。ここにいたシェーンドルフの腹心ハンス(フィリップ・ルメール)は、壁に沿った黒っぽい階段をのぼり、中に入ると円形の壁の部屋です。壁は石の格子に分割されています。通信室として用いられており、ベルリンにいるシェーンドルフと連絡をとることになる。

 約1時間強、舞台はベルリンのシェーンドルフのアジトに変わります。狭い通信室から出て、狭い階段をのぼると暗い部屋になります。彫像などが飾られている。ベルリンは空襲を受けており、向かいにある建物が骨組みだけになってしまいます。

 城の広間です。奥にのぼり階段が見える。下の方は奥行きの広い踏面になっているようです。細長い広間の手前はゆるい半円アーチに区切られており、壁は粗石積みでした。広間は吹抜で、中2階に屈曲する回廊が走っている。広間自体出入りのある形をなしています。


 約1時間8分、記録フィルムを経て、またベルリンのアジトに移ります。ここも吹抜で、階段をのぼって2階ではジュリエットがくつろいでいます。3階もあるようです。吹抜に面した欄干は大きな円が刳られています。

 約1時間11分、また記録フィルムが挿入される。その中で、画面奥に塔が2基そびえていました。
 城の庭園で女たちにポーズさせてゲシュタポが筆をとっているキャンヴァスには、なぜかボッティチェッリの《春》の三美神と他の画像が組みあわされて模写されていました。
 ジュスティーヌがハンスに連れられて螺旋階段をのぼるさまが上から見下ろされます。階段室の壁は白っぽい漆喰のようです。
 のぼった先は、木組みの舟形天井の細長い部屋です。ここでジュスティーヌは、冒頭の屋内プールの場面でハンスとともに現われた占星術師の博士に純潔を奪われてしまう。これまでジュスティーヌのことをハンスがかばっていたのですが、いかんともしがたかったようです。ハンスが苦悶の表情を浮かべます。彼は戦傷のため性的に不能なのでした。

 涙をこぼすジュスティーヌの真上からのアップが、ジュリエットのやはり真上からのアップに切り替わる。彼女のいる部屋は天井が鏡貼りで、逆さになった客人が映っています。客人は下の階にいるということらしい。天井の鏡は格子状に分割されているのですが、水平のカットをはさみつつ、それがほぼ真上から見下ろされたジュリエットおよびシェーンドルフのカットと交互に切り返される。真上から見下ろしているように見えるのは、天井の鏡をカメラが下から撮っているということなのでしょう。あるいは実際にはもう一つ鏡をはさんでいるのかもしれません。いずれにせよ上下の感覚を曖昧にしてしまうシークエンスでした。

 約1時間22分、戦況の不利にベルリンを逃げだしてきたジュリエットとシェーンドルフが城に到着します。
 本棚の左の扉から奥に入ると、白壁で円形の部屋となります。床は黒っぽい。壁面にはドゥローイングで半解剖図のような絵がいくつか描かれていました。昔日本でも個展を開かれたことがあるピエール=イヴ・トレモワなんかが連想されなくもありません(『トレモワ展』図録、伊勢丹美術館、心斎橋・パルコ、主催:読売新聞社、1982)。

 広間の主階段をおりたところのすぐ右から、狭い湾曲階段が上にあがっています。城にジュスティーヌが囚われていることを知ったジュリエットが、二人でこちらをのぼる。少し上に行くと、壁にいくつも髑髏が埋めこまれています。さらに上でまた主階段に合流する。二人が話している場面で、画面が真っ暗になり姉妹だけが浮きだします。これは後にもう1度変奏されることでしょう。

 2階の廊下は、脇に半円アーチが連なり、一番奥は少し高くなって欄干が横切っています。
 白っぽい円形の部屋で扉を開くと、扉の手前はまわりに合わせて白っぽいのですが、廊下側は暗色でした。廊下自体暗い。
 アメリカ軍が包囲・攻撃してきて、ジュスティーヌを含む娘たちは逃れる一方、ゲシュタポの面々は往生際の悪いさまを見せます。ジュリエットとシェーンドルフは二人真っ暗になった画面に浮かぶカットを経て、シェーンドルフは将軍の時と同様に毒を盛った酒をジュリエットに飲ませる。シェーンドルフが手にしていたグラスをジュリエットがはたき落とし、彼は結局広間でアメリカ軍の兵士たちに撃たれる。それを中2階の回廊で見ていたジュリエットも転落してしまい、二人を真上から見下ろしたカットにクレジットがかぶさるのでした。

Cf.,  世界の映画作家13 ロジェ・ヴァディム ロマン・ポランスキー』、1971、p.28、pp.40-42、pp73-74、pp.121-122

一応の原作というか発想源として:

マルキ・ド・サド、澁澤龍彦訳、『美徳の不幸』(角川文庫 赤 239-2)、角川書店、1970
原著は
Marquis de Sade, Les infortunes de la vertu, 1787
「サド侯爵が生涯に書いた三つの『ジュスチイヌ物語』のなかの、最初のエスキースともいうべき中編小説」(p.327)で、「原ジュスチイヌ」と呼ばれているとのこと(p.328)。
なおこの文庫には他に「悲惨物語」(1788)が収録されています。

マルキ・ド・サド、澁澤龍彦訳、『悪徳の栄え』(角川文庫 赤 239-1)、角川書店、1969
原著は
Marquis de Sade, Histoire de Juliette ou les prospérités du vice, 1797
「翻訳はこれをほぼ三分の一ほどの量に圧縮した、抄訳」(p.627)。またもともと1960年に現代思潮社から刊行、いわゆる「サド裁判」を経て、14箇所がカットされているとのこと(同)。

サドについては→「サド(1740-1814))」<「ロココ、啓蒙思想など(18世紀)」<「宇宙論の歴史、孫引きガイド」も参照

なお同じ邦題の映画として;
『悪徳の栄え』、1988、監督:実相寺昭雄


ついでに
『マルキ』、1989、監督:アンリ・グズヌー

 2015/11/03 以後、随時修正・追補
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