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『Meigaを探せ!』より、他・出張所
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■ クライヴ・バーカーの小説『ヘルバウンド・ハート』(1986)から、バーカー自身が監督した『ヘル・レイザー』(1987)を始めとして、10作の映画が製作されたとのことで(他にコミックスなどもあるそうです)、その内見る機会のあったのは最初の4作だけなのですが、それぞれのお話を動かす駆動源となっていたのは、《ルマルシャンの箱》と呼ばれるパズル・ボックスでした(右)。片手で持てる大きさの立方体で、六つの表面は金を用いた細かな装飾で覆われています。 | |||||||||
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装飾の縁だかつなぎ目をいじることで変形することができます(上左から右へ)。いわゆる〈キューブ・パズル〉の一種ということになるのでしょうか? 〈組木〉とはまた違うのか?
ともあれたとえば、 秋山久義、『キューブパズル読本』、新紀元社、2004、「第9章 パズルでなくても、これはほしい ゆかいなキューブ玩具」 中の pp.210-213 には、「立方体から菱形十二面体に変わるカレイドフォーム」だの、「キューブから菱形六面体、菱形十二面体」に変わる「吉本キューブ」が、小さいとはいえ図版付きで紹介されています。比較することができましょうか。 第二作 『ヘルレイザー2』(1988)では、《ルマルシャンの箱》とは別に、おそらく普通の、いくつかのピースを組みあわせて立方体にする、キューブ・パズルを組み立てる場面も見られました(下左)。 |
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同じ人物はまた別のパズルに取り組んでいました(上右)。これはどういったパズルなのでしょう? 立方体が九つ、上面はそれぞれ白い部分と黒い部分に分けられています。組みあわせて何らかの図柄にするのか、画面に映ったのは完成状態ではなく、途中なのかどうか。 | |||||||||
他方《ルマルシャンの箱》は、いじっているといじり手の手を離れて勝手に変形したり、妖しげな光を放ったりします(右)。このシリーズでの怪光線はいかにもフィルムに付け足したという感じで、フィルムに映された世界からずれた別の層が重なっていることを示して、好感が持てます。 | |||||||||
とまれ、第一作でのパズルをいじる別の場面(約1時間3分)や、第二作での上左の場面では、すぐ後で異界への扉が開きました。上右も第二作からで、立方体からのっぽのピラミッドを底面で貼りあわせた八面体へと変形します。変形しきった時も、表面にうっすら模様が残っていました。 原作邦訳を見ると、 「漆塗りの黒い六面体」 (クライヴ・バーカー、宮脇孝雄訳、『ヘルバウンド・ハート』(集英社文庫 ハ-5-8)、集英社、1989(『魔道士』(1988)の文庫化)、第1章、p.5) と、映画版のように寄木細工で覆われてはいない。 「どこかを押せばパズルの一片がはずれるらしい」(同上) 「ふと手が滑った拍子に、中指と小指がたまたまどこかに触った。そのときである、ほとんど聞こえないほどのかすかな音がかちりと響き、箱の一部がせり上がってきた」(p.6) 「一つは、箱の内側がきれいに磨き上げられていたこと。…(中略)… もう一つは音楽である。歌う鳥の人形を作ったことで知られるルマルシャンは、この箱にもオルゴールを仕込んであったらしい」(同上)。 「縦溝つきの細長い穴と油にまみれた木の軸が並んだ部分を見つけた。そこをいじると、さらにまた複雑な仕掛けが動き始める。せり出してきた部分を百八十度ひねったり、引き出したりして、パズルが完成に近づくたびに、新たなメロディが生まれた」(同上)。 映画では急いで操作しなければならない場面もあって、音楽のテンポと調整しなければならなくなるためか(あるいはわざとテンポを合わなくする)、音楽は省かれました。また原作で別の時点には、 「断片の合わせ目にかすかな隙間があり、ほんのわずか亀裂が側面に走っているのだ。…(中略)… 箱を押したり引いたりしながら、側面の亀裂を順序立てて指でたどりはじめた。亀裂がこのおもちゃの地理を知る大まかな道しるべになった。…(中略)…これがばらばらになるのは亀裂が走っている部分だけなのだ」(第10章2、pp.142-143)。 第四作『ヘルレイザー4』(1996)では、《ルマルシャンの箱》が始めて制作された時の様子が描かれました。下左に映っているように、主要部分は木製のようです。ただ下右の左半に見られるような各種の歯車が組みこまれているらしい。同じ場面の右上で手が握っているのは表面に貼りつける、金製か、金メッキの装飾です。 |
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歯車を組みこんだ小物という点では、『クロノス』(1993、監督:ギレルモ・デル・トロ)のタイトル・ロールが連想されたりもします(左)。金属製のスカラベめいた形状で、中央上よりの菱形突起のさらに上、二重円らしきところでネジを巻くと、六本の脚が飛びだします(下左)。内部には歯車を組みこんでありました(下右)。禍々しい事態を引き起こすという点も共通しています。 | |||||||||
舞台の一つである霊廟に関して、「怪奇城の肖像(幕間) - 実在する古城など」の頁(→こちら)で触れたことがある『ファンタズム』(1979、監督:ドン・コスカレリ)およびそのシリーズにおける〈シルヴァー・スフィア〉も、仲間に入れられるでしょうか(右)。飛行する球体で、鉤爪や、おそらく芯が中空のドリルが出たりします。 | |||||||||
『ファンタズムⅡ』(1988、監督:同)では三体に増え、『ファンタズムⅢ』(1994、同)では無数に増えるだけでなく(上左は『ファンタズムⅣ 最終版』(1998、同)より)、眼球を突きだしたり、回転ノコギリをはやしたり、あまつさえ次元間通路を開いたりします(約54分)。『Ⅲ』ではさらに、球の内部があかされます(約1時間7分)。そして『ファンタズムⅤ ザ・ファイナル』(2016、監督:デヴィッド・ハートマン)になると、巨大化するのでした(上右)。 これらから「怪奇城の隠し通路」の頁の「隠し扉とからくり」の項で触れた、時計仕掛けをはじめとするさまざまな機構のイメージへつながっていくのだとして(→このあたり)、他方《ルマルシャンの箱》に戻ると、〈パズル・ボックス〉という点では、「寄木細工、透視画法、マッツォッキオ、留守模様 - 幻想絵画の周辺(仮)より」の頁の始めの方でとりあげた箱根細工の秘密箱とも近しいことでしょう(→そちら)。細かな装飾に不連続な切れ目を紛れこませる点も同様です(追補:「『Meiga を探せ!』より、他」中の『K-20 怪人二十面相・伝』(2008)に出てきたパズル・ボックスと比べることもできましょうか→そちらの2)。 ウェブ上に[ Hellraiser Wiki | Fandom ]というサイトがあって、その中の次の頁も参照ください; "Puzzle Box" また同じサイトから; "Lament Configuration" 原作にも、映画の少なくとも日本語字幕にも出てこなかったかと思うのですが、パズル・ボックスの変化した形状ごとに呼び名が設定されていました。通常の形は〈哀歌形態 Lament Configuration〉、他にたとえば、先に触れた細長い八角形は〈レヴィアタン形態 Leviathan Configuration〉とのことです。上の二つの頁の後の方に、他の形態での画像がいろいろ掲載されています。 また"Lament Configuration"の頁によると、パズル・ボックスのデザインはサイモン・セイス Simon Sayce によるとのことです。[ IMDb ]の『ヘル・レイザー』(1987)の頁では"Makeup Department"中で"special makeup effects and creature crew"担当の一人として挙げられていました。 なお第一作『ヘル・レイザー』で、他に目を惹く美術品は出てこなかったかと思うのですが(たぶん)、舞台となる家(下左)の、屋根裏部屋に重要な役割が与えられています(原作では二階の一部屋)。加えて、階段で結ばれた上下構造が活用されていました(下右)。この家は Derek Pykett, British Horror Film Locations, 2008, p.66 によると、187 Dollis Hill Lane, London の家屋で、外観だけでなく屋内でも撮影されたとのことです。 |
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屋根裏の踊り場の階段の親柱には、木彫らしき小像が配されています(右)。エジプトの河馬の姿をした、家の守護女神タウェレトを思わせなくもない。 リチャード・ウィルキンソン、内田杉彦訳、『古代エジプト神々大百科』、東洋書林、2004、pp.185-186 など、また英語版ウィキペディアの該当頁に掲載された各種画像も参照(→あちら)。階段親柱上の装飾については、「四角錐と四つの球 - 怪奇城の意匠より」の頁の「4. 階段欄干のフィニアル」もご参考まで(→あちらの2)。 |
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またパズル・ボックスが怪光を放つ約1時間3分での場面に続いて、何もなかったはずの壁に異界への扉が開きます(右)。後半の主人公カースティ(アシュレイ・ローレンス)は通路を少し進みますが、悍ましい化物に出くわして、這々の体で元の部屋へ逃げ帰るのでした。原作にはなかった状況ですが、この異界の通路のモティーフは、第二作で展開されることでしょう。 | |||||||||
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■ 『ヘルレイザー2』(1988、監督:トニー・ランデル)は、第一作から地続きで始まります。もっとも第一作での後半の主人公カースティのボーイフレンド(原作には登場しません)は言及こそされるものの、その後出てきませんでした。他方カースティ、前作前半の主人公ジュリア(クレア・ヒギンズ)、もう一人の主人公フランク(ショーン・チャップマン)は続投します。フランクの決め台詞(この時外見はラリー役のアンドリュー・ロビンソンと入れ替わっているのですが)、 「キリストは泣き 俺は復活する」(第一作、約1時間22分) もタイトルの表示に続いておさらいされる(第二作、約0分)。この台詞も原作にはないものでした。前作では脚本もバーカーの担当でした。脚本執筆時になって思いついたのでしょうか? |
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それはさておき、カースティが入院する精神科病院(右)とその院長チャナード博士(ケネス・クラナム)の自宅が前半の主な舞台となります。 院長は《ルマルシャンの箱》を研究しているらしく、書斎の壁にその図を掛けているだけでなく(下左)、実物も蒐集している(下右)。《ルマルシャンの箱》はいくつもあったわけです。 |
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さて、ジュリアが復活するという重要な場面に続いて、画面いっぱいを覆ったのが、 M.C.エッシャー(1898-1972)、《昼と夜》、1938、39×68cm でした(下左)。稲光が走り、ただしこれが、ジグソー・パズルであるとわかります(下右)。続いて切り換われば、本作での重要人物の一人、ティファニー(イモゲン・ボアマン)がパズルを解いていました(上の画像3段目の右→こちら)。雷も鳴りますが、エッシャーの絵が前の場面と後の場面、どちらにかかっているのかは判然としません。 |
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同じ絵はずっと後に再会できます(上右)。異界に通じた病室に飾ってありました。大きさからして、縦40xcm弱の実物より大きいのかこんなものなのか、どうなのでしょう? | |||||||||
本サイトではエッシャーの登場は『ラビリンス - 魔王の迷宮 -』(1986)に続いて二度目です。第一作の前の年に公開と、製作時期も近い。第二作に関しては、〈迷宮〉が重要な役割を果たす点でも共通しています。ただ『ラビリンス
- 魔王の迷宮 -』での《相対性》(1953)は、クライマックスでの直接的な参照だけでなく、城へ通じるはずの迷路全体との照応も見やすいところでしたが、本作で《昼と夜》と異界の迷宮がどう関連づけられているのかは、もう一つよくわかりませんでした。昼と夜、白と黒の鳥が図から地へ、地から図へたえまなく反転するさまに、この世と異界とのあり方を見てとれるといっては、こじつけめくでしょうか。 ともあれエッシャーの作品は; Day and Night, 1938 (LW303)[ < M.C.Escher. The Official Website ]( > "Visit Our Online Gallery" > "Collection" > "Most Popular") また; 岩成達也訳、『M.C.エッシャー 数学的魔術の世界』、河出書房新社、1976、図11、作品解説(M.C.エッシャー) p.5/no.11 ブルーノ・エルンスト、坂根厳夫訳、『エッシャーの宇宙』、朝日新聞社、1983、p.56 M.C.エッシャー、坂根厳夫訳、『無限を求めて エッシャー、自作を語る』(朝日選書 502)、朝日新聞社、1994、pp.104-105 などを参照ください(追補;「『Meiga を探せ!』より、他」中の『サスペリア』(1977)の頁でも出くわすことでしょう→こちらの2、)。 ところで院長の自宅には、他にも美術品が見られました。書斎には先に挙げた《ルマルシャンの箱》図を始めとして、いろいろ資料類が壁に掛かっていました。また居間でしょうか、大きな絵があります(下左。下右はその部分)。抽象なのかどうか、委細は不明。 |
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その隣の部屋、奥の壁にモノクロのアンフォルメル風額絵が見えますが、こちらも不詳です(下左)。戻って居間らしき部屋には、細長い人体彫刻があります(下右)。ジャコメッティなのでしょうか? | |||||||||
さて、先に触れたように第一作では異界の通路に少し入っただけでしたが、本作ではさらに進みます。右の画面は上掲約54分(上の画像5段目の左→こちらの2)、変形したパズル・ボックスが院長邸の書斎の床に置かれた場面、そのほんの少し前、院長と復活したジュリアが進む場面です。 すぐに続いて、前回は逃げ帰ったカースティも異界に入ります(下左右)。いろいろと枝分かれしているようです。下の場面で、右側の通路は右の場面と同じか、それに近いセットでしょうが、左側の通路は、線遠近法による奥行きを誇張したマット画ではないかと思われます。 |
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迷宮は入った人物の記憶に呼応して見え方も変わるのでしょう、右の場面はティファニーが入った時の姿で、移動遊園地めいた相貌を体しています。 | |||||||||
そして迷宮を斜め上空から俯瞰した眺めが登場します(下左右)。幾層にも重なり、そこに留まる部屋のない、通路だけからなる空間らしい。いかにもマット画然としており、実写と滑らかにつながらない分、現実とは異なる空間があることを示す点で、好感が持てます。左の画面で層の下まで見える区画が、右の画面では右にずれており、マット画は画面に映ったより、幾ばくか広めに描かれていたわけです。 | |||||||||
層状の重なりを真上から見下ろした視角も登場します(上左)。下の方で何やら放電しています。おそらく底無しのイメージなのでしょう。上から三段目の二つくっついたアーチ、その左手の階段と橋が上右の画面でも見られ、やはり画面に映るより広い範囲のマット画を制作していたようです。 迷宮の上空では、巨大な八面体が浮いています。回転しながら黒い光を二方向に放つ(下左)。上の画像5段目の右(→こちらの3)にある通り、《ルマルシャンの箱》の形状と照応していることが後にわかります。その際には形態の変化に伴なって、怪光線も放たれる(下右)。 |
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日本語字幕によるとジュリアは、 「私をよみがえらせ - 私がこの世とあの世で仕える神 肉体と飢えと欲望をつかさどる創造主 我が神 リバイアサン 迷宮の支配者 Lord of the labyrinth 」(約1時間3分) と述べます。先に挙げた精神科病院外観の場面でも、空にうっすら現われようとしていました(→こちらの4)。 バーカーは「読むスプラッター・ムーヴィー」(前掲原作邦訳、「解説」(三橋暁)、p.182)と評されるホラーとともに、中身は忘れてしまいましたが、「近代など(20世紀~) Ⅴ」の頁に挙げたようなダーク・ファンタジーも手がけてきました(→そちら)。本作では監督・脚本に直接携わってはいないにせよ、物語はバーカーの原案によるとのことで(同上、p.184)、異界の設定にそうした面をうかがうことができるでしょうか。 他方レヴィアタンには「『Meiga を探せ!』より、他」第7回 『THEビッグオー』(1999-2003)第17回「Leviathan」でもお目にかかりました。しかしここでの姿は、「怪奇城の地下」の頁の「2 地中世界諸相」で触れた(→このあたり)、『ウルトラQ』第11話(1966)の〈バルンガ〉や『ウルトラマン』第17話(1966)の〈ブルトン〉、何より『モノリスの怪物』(1957)のタイトル・ロールなど、既知の動物形態に属さない相貌が連想されたりもします。先に触れた『ファンタズムⅤ ザ・ファイナル』(2016)での巨大化した《シルヴァー・スフィア》も挙げておきましょう(→そちらの2)。さらに、その神的な崇高性という点では、 諸星大二郎、『BOX ~箱の中に何かいる~』(全3巻、講談社、2016-17) の舞台である〝箱〟およびそこに潜んでいたものと比較することができるかもしれません。 上で触れた箱根細工の秘密箱のことを知ったのもこの作品からでした。そもそもこの作品はパズルがテーマで、 「作中のパズルは、作者が毎回うなりながら自作しています」(第1巻、p.184) とのことです。ちなみに、やはりパズルをテーマにした、 『ファイ・ブレイン 神のパズル』、全75話、第1~2シリーズ:2011年10月~2012年9月、第3シリーズ:2013年10月~2014年3月 というアニメもありました。細かな点をまるっきり憶えていないのはいつものこととして、SFないしファンタジーの範疇に属するとはいえ、出てくるさまざまな巨大パズルが、作りあげるのにどれだけの時間と空間、費用に労力がかかるんだと気になってしようがなかったのはうろ憶えしています。 |
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■ 第一作と第二作はイギリス映画でしたが、第三作『ヘルレイザー3』(1992)以降はUSAで製作されました。、監督のアンソニー・ヒコックスは、「『Meigaを探せ!』より、他・目次」の頁(→ここ)や、『ドラキュラとせむし女』(1945)の頁の「おまけ」(→ここの2)で取りあげた、『ワックス・ワーク』(1988)および『ワックスワーク2 失われた時空』(1992)、「怪奇城の図書室」の頁の「追補」(→ここの3)で触れた『サンダウン~ボクたち、二度と血は吸いません~』(1989)などを手がけています。 第二作と本作との間には4年あいていますが、作品内世界でもおそらく、同じくらいの時間が経っているとの設定でしょうか。舞台はUSAのどこかの都市のようです。 |
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その町にある「ピラミッド・ギャラリー PYRAMID GALLERY」という画廊で本作は始まります。店内に展示されていたのは主に抽象的な彫刻でしょうか(右)。後の場面で、日本語字幕によると、 「あくどい店ね。置いてるのは高校の美術の課題や差し押さえのガラクタよ」(約23分) なんて言われていました。 |
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ともあれその中にいくつもの人体を組みこんだ柱状の彫刻がありました(下左)。なまなましい見かけは石彫風になりましたが、第二作のエピローグで唐突に出現したものということなのでしょう(第二作の約1時間35分)。 | |||||||||
柱状彫刻はこれを購入したクラブのオーナーの部屋に移されます。まわりには他にも絵の類が飾ってありました。 上右の場面で柱状彫刻の奥・左右に見える絵などずいぶんポップに見えますが、日本語字幕によると、 「この部屋にある絵や彫刻は どれも肉体的苦痛がテーマだ」(約32分) と評されたりしていました。 |
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この他、ヒロインであるTVリポーターのジョーイ(テリー・ファレル)の寝室、ベッドの両脇に、風景の中に人物を配した絵が掛けてありました(右)。素性はやはり不明。 | |||||||||
唯一見当のついたのが、エピローグに出てくる大きな屋外彫刻です(右); アルナルド・ポモドーロ Arnaldo Pomodoro、《大きな円盤 Il Grande Disco (The Grand Disc)》、1974、ブロンズ、直径457cm ノースカロライナ州シャーロット Charlotte のEトレイド通り37番地 37 E Trade Street に設置されています。 |
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ウェブ上なら Il Grande Disco - Clio (theclio.com) Charlotte's Il Grande Disco: Facts and History (tripsavvy.com) などで見ることができます。Google マップのストリートビューでも確認できます。 ポモドーロの作品は日本でも、愛知県美術館、岐阜県美術館、豊田市美術館、彫刻の森美術館、ふくやま美術館などに収蔵されています。回顧展も開かれました; 『アルナルド・ポモドーロ展』図録、1994、彫刻の森美術館、富山県立近代美術館、大原美術館、西宮市大谷記念美術館 表面は滑らかな幾何学的形態、しかし内側の錯綜したさまが裂け目から溢れだそうとする、といった作品が多いようで、《大きな円盤》もその例に漏れません。錯綜した部分も有機的だったり不定形だったりするわけではなく、短い直線を反復した区画を組みあわせたものです。ただ凹凸の細かな落差が蓄積されることで、全体の滑らかな表面と錯綜した部分との落差に掛けあわされ、落ち着きの悪さそれ自体を、存在感として放つものになっています。 もっともなぜ大写しにされたのか、エッシャーの《昼と夜》同様、外と内がこの世と異界に対応し、また異界を開く《ルマルシャンの箱》にも通じているなどと、怪しげな深読みはできるものの、はっきりとはわかりませんでした。カメラで写すことのできる現実の空間から、続いて映されるビル内部へ移行する際の境界標として適していると、見なされたのかもしれません。 |
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ともあれ彫刻の向こうにあるビルということなのでしょう、中に入ると、ホールの壁面が《ルマルシャンの箱》と同じ模様の装飾で覆われているのでした(右)。 | |||||||||
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■ 『ヘルレイザー4』(1996、監督:アラン・スミシー=ケヴィン・イエーガーおよびジョー・チャペル)は、宇宙基地の姿で始まり、驚かされました(右)。『ジェイソンX 13日の金曜日』(2002、監督:ジェイムズ・アイザック)が連想されたりもしましたが、こちらの方が先に製作されていた。 | |||||||||
続いて映されるのは基地内の通路4カットですが、ピカピカツルツルではさらさらなく、薄暗く、荒れた様子なのはいかにもいかにもといった態で、好感を抱かせます(下左右)。『エイリアン』(1979、監督:リドリー・スコット)以後というところでしょう。 | |||||||||
3カット目で「宇宙基地ミノス SPACE STATIONn MINOS 2127年」と記される。ギリシア神話のミーノースは、ダイダロスに迷宮を造らせ、ミーノータウロスをそこに閉じこめた、クレータの王です。パズル・ボックスの召喚機能を封じる、といった意味でもこめられているのではないか、と見てはしかし、これも深読みにほかなりますまい。 物語は22世紀から18世紀に遡ります。ここで先に触れた、《ルマルシャンの箱》誕生時のいきさつが綴られるのでした(→こちら)。 |
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ところでその際、玩具職人のルマルシャン(ブルース・ラムゼイ)が師だか知人だかに相談する場面で、死体安置場だか解剖室の壁が、金色の方形装飾で覆われていました(右)。何かモデルがあるのでしょうか? | |||||||||
次いで映画製作と同時期、1996年です。まずUSAに移住したルマルシャンの子孫、建築家ジョン・マーチャント(同じブルース・ラムゼイ)とその家族を映した後、舞台はいったんパリになります。といっても、「パリ 1996年」とテロップが出る、エッフェル塔周辺を捉えたショットは、車が動いているので写真ではないとして、そのためだけにロケしたのでなければ、実質一部屋の中だけで展開するのですが。とまれそこで画架に立て掛けられていたのが、 ユベール・ロベール、《古い神殿 Le vieux temple (The Old Temple)》、1787–88、油彩・キャンヴァス、255 × 223.2 cm、シカゴ美術館、 ずいぶん大きな作品の縮小複製でした(下左。下右はその部分)。 |
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この絵については、 所蔵館公式サイトの該当頁→The Old Temple | The Art Institute of Chicago (artic.edu)、 また Catalogue de l'exposition Hubert Robert 1733-1808. Un peintre visionnaire, Musée du Louvre, Paris, 2016, p.96 / fig.39 などを参照ください。 壁ではなく画架に立て掛けるというのは、いかにも強調されているわけですが、何らかの意味がこめられているのかどうかは、やはりよくわかりません。ロベールの絵は18世紀に描かれた作品で、《ルマルシャンの箱》成立時に近い。双方フランス産でもある。しかしヴァトーでもブーシェでもフラゴナールでもシャルダンでもなく、ロベールを選んだ理由があるのかどうか。古代の神殿の廃墟といった主題や、奥行きを強調した線遠近法の構図とそれを支える列柱などを映画のお話と結びつけるのは、かなり深読みが必要そうではありますまいか。単に複製が手近にあったからという事情も考えられます。 また上の場面で、右手にある小ブロンズ像にもネタがありそうです。ヘーラクレースあたりを主題としたものでしょうか。小ささからすると、もしかして映画のための作り物ではないのかもしれません。 |
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ちなみに後ほど、宇宙基地内に右の絵がありました。18世紀のルマルシャンの肖像なのでしょう。まず映画オリジナルの制作と見てよいでしょうが、なぜ宇宙基地まで持ってきたのか、何か理由は設定されていたのでしょうか? | |||||||||
ところで、上で触れたように、宇宙基地の場面で基地内の廊下が映されていましたが、この作品では他にも廊下がいくつも出てきて、好感度を増さずにいません。18世紀の部でも、《ルマルシャンの箱》の制作を依頼したド・リール公爵の屋敷の廊下が二度ほど見られました(右)。 | |||||||||
下左は1996年の部でのビル内の場面で、小綺麗ではあるものの、警備員たちが「図面にない」と言ったドアから通じています(約43分)。下右はマーチャント一家の住む集合住宅の地下でしょうか、階段を下りて洗濯場へ行くための通路です。 | |||||||||
上左はビル内の廊下。上右は同じビルの7階にあって、会議室のような部屋に通じているのですが、その相貌は第一作や第二作での異界の通路に近い。 さて、1996年の部では、USAのどこか、マーチャント一家の住まいと彼が設計したビルが主な舞台となります。第二作エピローグの柱が第三作で再登場したように、第三作エピローグのビルがこの建物なのでした。そもそもこのビルは、第三作のエピローグに先立つクライマックスの舞台だった工事現場に建てられたものです。『ドラキュラ'72』(1972)での廃教会が『新ドラキュラ 悪魔の儀式』(1973)で高層ビルになったことが連想されたりもします。 第三作エピローグと見かけは変わりましたが、やはりホールには《ルマルシャンの箱》と同じ装飾が施されています(下左)。 |
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この装飾に光を当て、反射させて回路を形成することが目論まれるのですが(上右)、「出力オーバー」になってしまう(約1時間1分)。 | |||||||||
そもそも18世紀の部、先に触れた死体安置所だか解剖室の場面で、ルマルシャンは師だか知人だかに 「地獄の扉が開いたなら 閉じられるはずだ。…(中略)… 悪魔を呼び出す機械を作ったと心配するなら 退治する機械も作れ」(約19分) と言われます。そこでマルシャンは設計を試みる(右)。 |
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この設計図は代々受け継がれ、1996年のマーチャントの事務所に、額装して飾ってありました(下左)。 | |||||||||
さらにマーチャントはコンピューターでシミュレートします(上右)。日本語字幕によると; 「鏡とレーザーを使う。 理論的には可能なんだ。 永遠の光だ。 反射と吸収を繰り返し光り続ける。 何かが足りなくて未完成なんだ。 数秒すると 消える」(約39分) との説明に、18世紀ド・リール公爵に召喚されたアンジェリーク(バレンティナ・バルガス)は 「数秒で充分かもよ。玩具職人さん」 と呟く。この装置は異界への扉を閉じるためのものだったはずですが、別の用途に用いることができるようなのです。 「強力だと思われた箱は 試作品にすぎなかった。 お前には完成品を作ってもらう」(約57分) と、シリーズを通じてのレギュラー、《ルマルシャンの箱》によって召喚される「 かくして2127年に戻ります。上掲のサイト[ Hellraiser Wiki | Fandom ]によると〈エーリュシオン形態 Elysium Configuration〉と呼ばれる装置が、より規模の大きい形で実現されるのでした(下左右)。『ヘルレイザー2』で巨大なレヴィアタンと《ルマルシャンの箱》が照応していたように、ここでも変形した宇宙基地は《ルマルシャンの箱》の「哀歌形態」と同じ形状へと畳みこまれるのでした。 |
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2024/02/22 以後、随時修正・追補 |
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