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『Meigaを探せ!』 第7回 『THEビッグオー』第17回「Leviathan」(片山一良監督、1999年から2003年、 日本、TVアニメーション) 「三重県立美術館ニュース」、第143号、2011/12/09 |
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たまたま上記のアニメを見ていたところ、なじみのあるイメージに出くわしました。 この回は舞台となる都市に、災厄の到来を告げるビラがばらまかれるというのが話の発端なのですが、このピラの片面に、当館にも収蔵されているウィリアム・ブレイクの《ヨブ記》の内、第15図「ベヘモトとレヴィアタン」が写されていたのです。 (画像はこちら ⇒ https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/art-museum/da/detail?mngnum=764727&flg=0&language=jp ) イメージを読みとりやすくするためでしょうか、線が太くされていたので画面の雰囲気は損なわれてしまっていましたが、お話しのテーマには合っていたといっていいでしょう。 |
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『THEビッグオー』第17回「Leviathan」 1999/2003 約2分 |
ブレイク《ヨブ記》(1825)より第15図「ベヘモトとレヴィアタン」 |
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ブレイクの画面では、下半分を占める楕円の中いっぱいに、河馬のような獣と海龍が描かれています。前者はベヘモト、後者はレヴィアタンで、旧約聖書『ヨプ記』のそれぞれ40章15から24まで、40章25から41章3までに登場します。いずれも混沌から宇宙の開闢にいたる移行期に属する原初の存在で、バビロニア神話のティアマート、イランや北欧神話における原初の牛、あるいはインドの神話において、宇宙の終末と開闢のあいまの期間、ヴィシュヌ神の寝床になるというアナンタ蛇などに対応するものと見なせるでしょう。何らかの形で彼らをなだめ、従わせ、あるいは生贄とすることによって宇宙が成立するわけです。逆にいえば、彼らがくびきを解かれた時、世界は終わりを迎えることになります。 『ヨブ記』の該当箇所では、神が彼らを支配下に置いていることが語られ、ブレイクの画面でも、両者は楕円の中に封じられています。楕円の上中央で彼らを見下ろす位置に神が配されているのは、神による彼らの支配をしめしているのでしょう。 さて、『THEビッグオー』の舞台となる都市では、40年前に起こつた何らかの事件のため、すべての住民がそれ以前の記憶を失ったと設定されています。第17回「Leviathan」のビラは、この忘却自体を日常の内で忘却することに対して警告を発するのです。忘却を思いだせ、さもなくば災いが訪れる、というわけです。そのビラにブレイクのイメージが載せられているのは、来たるべき災厄とは、ベヘモトとレヴィアタンの解放であり、つまり始元の混沌が回帰することを物語るためなのでしょう。 ところでアニメといえば、今年の後半に始まって現在も放映中の『輪るビングドラム』は、『少女革命ウテナ』(1997)以来となるのでしょう、幾原邦彦が監督しており、相変わらずのひねった演出は健在で、話の先がなかなか読めない作品ですが、その第18回の冒頭に、モネの《日傘をさす女》(右向きヴァージョン、1886、オルセー美術館)が登場していました。 また、今年の始めに放映されて話題になった『魔法少女まどかマギカ』は、新房昭之監督のマニエリスティックな映像処理と、筋運びを巧みに構成した虚淵玄の脚本が印象的な作品でしたが、その第10回に、ピカソの《ゲルニカ》(1937、ソフィア王妃芸術センター国立美術館)が用いられていました。 そういえば前々回のカルトクイズ回答で「くらげとも宇宙人とも呼ばれる」と記した元永定正の《作品》(1956頃、『元永定正展』図録(2009)所載「作品目録no.33)は、見ようによっては、『魔法少女まどかマギカ』に登場する「きゅうべえ」に似ているといえなくはないかもしれません。現在も常設展示室第1室にかかっていますので(25日まで)、ぜひ確かめてみてください。
→「ユダヤの頁の「i. 『創世記』とその周辺」、また「暖炉の中へ、暖炉の中から - 怪奇城の調度より」、さらに「『Meigaを探せ!』より、他」中の「『ヘル・レイザー』 1987 『ヘルレイザー2』 1988 『ヘルレイザー3』 1992 『ヘルレイザー4』 1996」の頁(→こちら)でも触れました。 追補(2024/1/4); |
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上で触れたように『輪るピングドラム』(2011)第18話の冒頭、楽譜をバックにモネの《日傘をさす女》(右向きヴァージョン、1886、オルセー美術館)が登場します(右)。「『Meiga を探せ!』より、他・目次」の頁でも記したように、この作品はマリオ・バーヴァの『ロイ・コルト&ウィンチェスター・ジャック』(1970)でも見られました(→こちら)。 | ||
『輪るピングドラム』第18話に戻ると、すぐ後でモネに基づくモティーフが再登場すると、女性は左向きになり、足下に子供がいる(右)。これは先行する《散歩、日傘をさす女》(1875、ワシントン・ナショナル・ギャラリー)に基づいているものと思われますが、女性や子供の顔の向きは原作から改変されていました。 | ||
またすぐ後、女性の胸から上を捉えたカットでは、頭部と傘の配置はそのままですが、顔の向きが右に振られました(下左)。目鼻立ちの省略、帽子は右向きオルセー版に近い。さらに近づいたカットでは、顔はまた左を向き、傘との関係は今度は、やはりオルセー美術館所蔵の左向きヴァージョン(1886)を参照しているようです。日本語版ウィキペディアのワシントン・ナショナル・ギャラリー本の頁に三点の図版が掲載されているので、比べてみてください(→そちら)。 | ||
なかなかややこしい参照ぶりでしたが、やはり上で触れた、『魔法少女まどかマギカ』(2011)第10話でのピカソ《ゲルニカ》(1937)の採用も、原作そのままでありませんでした。次々と変容していくシークエンスから一例だけ切りとっておきましょう(下右)。 | ||
原作には目の位置がずれ、口を開いた人物の頭部が五つ認められますが、いずれも右の頭部とは一致しません。 また原作の中央下・右寄りに折れた剣を掴む手が描かれています(中央上・左寄りにはランプを握る手が突きでて、対をなしている)。そこでは手のひらが上向きなのに、右の画面で右上に伸びる剣らしきものを掴む手は、手のひらが下を向いています。 |
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他方前腕部にバッテン状の線が走っているのは、双方一致する。原作を部分部分にばらし、改変したり反転させたりして、あらためて並べ直したのでしょう。「『Meiga を探せ!』より、他・目次」の頁の内、『ミギとダリ』(2023)第11話からのシークエンスに関して述べたところも想い起こされます(→あちら)。 |
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