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キャプテン・クロノス 吸血鬼ハンター*
Captain Kronos Vampire Hunter
    1974年、イギリス 
 監督   ブライアン・クレメンス 
撮影   イアン・ウィルソン 
編集   ジェイムズ・ニーズ 
 プロダクション・デザイン   ロバート・ジョーンズ 
    約1時間27分** 
画面比:横×縦    1.85:1 
    カラー 

VHS
* DVDでの邦題は『吸血鬼ハンター』とのこと
** [ IMDb ]によると1時間31分
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 ハマー・フィルムは吸血鬼を主題に、『吸血鬼ドラキュラ』(1958)以来、伯爵の登場しない『吸血鬼ドラキュラの花嫁』(1960)を含めて『ドラゴン vs 7人の吸血鬼』(1974)までドラキュラのシリーズを9本、後発のカルンシュタインのシリーズを『バンパイア・ラヴァーズ』(1970)、『恐怖の吸血美女』(1971)、『ドラキュラ血のしたたり』(1971)と3本製作してきましたが、これ以外に単発で『吸血鬼の接吻』(1963)、『鮮血の処女狩り』(1971)、『吸血鬼サーカス団』(1972、監督:ロバート・ヤング)などを残しています。本作もそうした1本。
 その前に『吸血鬼サーカス団』(手もとにあるVHSの邦題は『バンパイア・サーカス』)に触れておくと、冒頭の舞台は古城なのにあまり詳しくは映してくれませんでした。ただ暖炉を支える柱が太い捻り柱であることは記憶に値するかもしれません。そこにいたる経路はよくわかりませんが、地下納骨堂も出てきます。また後半でヒロインが唐突に逃げこむ礼拝堂-学校に付属しているということなのでしょうか-の内装デザインは妙に明るい配色でした。その脇には回廊か何かへあがる階段もありました。
 戻って本作品では、他の作品でまちまちだった吸血鬼に関する設定の問題を、意識的に取りあげたと見なすこともできるかもしれません。それとともに充分ではないとはいえ、古城だか館も出てきて、しかもセット、とりわけその配色がなかなか面白いので、手短かにとりあげることとしましょう。手もとにあるVHSソフトは画質芳しからず、暗くなると何も見えなくなるという態ではあり、きちんと見るのはまたあらためてとなってしまいますが、ご容赦ください。

 昼間、野原で鏡に見入る娘からお話は始まります。連れが離れると、鏡に黒いフードの何ものかが映る。そちらを見た娘は魅入られたかのようになり、地面に落ちた鏡に抱きあう2人が映ります。
 野原、河辺の森、丘、池の端を騎馬の人物とそれに続く馬車が走り抜ける。馬に乗っているのは剣士クロノス大尉(ホルスト・ヤンセン)、馬車を駆るせむしの人物はグロスト「教授」(ジョン・ケイター)です。途中でさらし者にされた娘(キャロライン・マンロー)に何をしたかと問えば、日曜日に踊ったのだという。そこで木枷を剣で断ち割り、娘とともに道中を進みます。ちなみに娘の名はエンド・クレジットではカーラですが、『レベッカ』(→こちらも参照)のヒロインよろしく、少なくとも日本語字幕では篇中一度も名前で呼ばれませんでした。というか気がつきませんでした。
 鍛冶屋の娘が森に出かけると、水たまりに黒フードの人物が映ります。この人物が通ると道脇に咲いていた花が萎れるのでした。ロジェ・ヴァディムの『血とバラ』(1960)が思いだされます。
 クロノス一行は丘にひろがる墓場を通りぬけます。まばらに十字架が立てられてある。この墓場はその後も何度となく登場することでしょう。四方を家屋に囲まれた中庭のようなところに入っていく。そこの主マルクス医師(ジョン・カーソン)はクロノスの知己でした。屋内に入ると、真ん中あたりに梁が横に伸び、その向こうは天井がゆるやかに下降しています。左の壁にはゆるい横長のアーチ型をなす窓がある。右手には梁を支える太い柱が見えます。
 医師は最近急激に老化してしまう奇病が続出しているという。亡くなる直前、唇に血がついていただろう、それは吸血鬼の仕業だと指摘する教授は吸血鬼に関する権威だそうです。血の代わりに若さを吸いとったのだ。動物にいろいろな種類があるように、吸血鬼にも多くの種類がいる。それに応じて退治法も変わる。医師が十字架をつけていたのにといえば、十字架は信仰するものしか守らない、襲われた時心を奪われていたのだろうとのことです。

 昼間、丘の墓場です。画面手前に大きく教会の鐘が映り、脇に蝙蝠が止まっています。墓場にいた娘が教会に入ってきます。左奥から入り、少し進んで壁寄りの座席につく。突きあたりの壁にばかでかい十字の影が落ちています。カメラはそのまま左から右へ動きます。右手前に大きく十字架が入ってくる。壁の十字の影の横木部分が垂れさがり、ゆらゆらするのでした。
 鐘の音にクロノスたちが駆けつけます。再び手前に鐘、向こうに墓場の構図となり、奥から騎馬のクロノスがやってきます。堂内に入ると、壁に十字の影は消えていました。

 医師が墓場にいると、石像の前で馬車がとまります。石像のモデルはハーゲン・ダワードで、7年前にペストで亡くなったとのことです。馬車から息子のポール(シェイン・ブライアント)がおりてきますが、その母はおりてこない。医師が挨拶しようとのぞきこむと、その老化のさまに驚きます。
 一方教授はカーラと森でヒキガエルを埋めています。
 昼間の森で男女が逢い引きしています。女がとても年老いた誰かが見ているという。2人は別れますが、男の方はずっと見送っています。にもかかわらず被害が出るのでした。男は誰も見なかったと証言します。
 クロノスたちは埋めた蛙を確認していきます。吸血鬼が通ると死んだ蛙が生き返ると、古詩にあったというのです。実際その通りでした。周囲の地面を探ると、馬車か荷車が通った跡が見つかります。たどっていくと先に小さな村があり、居酒屋に出るというところで医師は別れます。居酒屋ではごろつきの剣士が居合の腕前を披露しています。

 医師は手前の欄干に馬の手綱を結びつけています。奥に扉がある。いよいよ城だか館です。ただし外観の全景は登場しません。中へ入るとけっこう暗い。画面奥に扉があり、手前に数段おります。医師は前へ進む。手前にある柱の向こうを通っていくと、広間に出ます。画面の奥に窓があり、その前にポールがいて声をかけます。けっこう小さく映っているので、距離があるように感じられます。ポールの前方、および右側に白い装飾的なアーチらしきものが見えます。右手のアーチの奥には上への階段がのぞいている。左側には暖炉があります。
 医師は背を見せて奥へ進み、それを追ってカメラも前進する。同時にポールが手前へやって来ます。2人が近づくと、奥に左上がりの階段が見えます。先ほどの階段は途中で左に折れていたようです。2人は右へ歩き、切り替わると奥から手前に進みます。柱は茶色、アーチは青で、そこに白で雲形紋が飾られています。この時点では壁は明るい茶色、床は少し暗い茶色に見えます。わけても柱の茶色とアーチの青、装飾の白との対比が印象的で、これは後に何度も見ることができるでしょう。『吸血鬼ドラキュラ』における玄関広間と比べたくなるところです。2人の奥には数段あがって、右へのぼっていく階段が見えます。どうやら階段は踊り場で左右に枝分かれしているらしい。
 テーブルの上の本に医師が目を留めると、『妖術と死体占い Witchcraft and Necromancy』なる本でした。ポールは父の蔵書を整理していたという。ポールの姉サラ(ロイス・ダイン)が左の階段からおりてきます。階段や床は斑入りの白大理石でできているようです。姉は老いのことを考えるのを嫌っています。3人が近づくと、最初ポールがいた奥の窓に、両側からかかるカーテンの間が釣り鐘型になっていることがわかります。
 医師が辞去した後、ポールは母の寝室をのぞきます。中は暗い。ポールが寄りかかる扉の向こうの廊下も暗く、扉には青みがかった光がかかっています。残念ながら廊下がどう伸びているかは映されません。


 村の居酒屋は天井が低く、奥行きがあるように見えます。入ってきたクロノスと教授に3人のごろつきがからみます。クロノスが1人ずつ挑発するごとに、カウンターの向こうにいる亭主と女給が一段ずつ頭を下げ、最後は見えなくなる。3人の内1人は前段で自慢の居合抜きを誇っていた奴です。クロノスと3人がにらみあう。クロノスが剣を左右に振るうと、3人は一瞬で倒されてしまう。黒澤明の『用心棒』(1961)というか、雰囲気はセルジョ・レオーネ『荒野の用心棒』(1964)でした。

 医師は帰りの森で黒フードの人物に出会います。雷と風が滾り、画面が一瞬静止する。医師が奥から手前に出てくると白手袋に血が1滴ついています。しかし医師は何も記憶していないようです。
 医師邸では教授がごろつきたちに躰のことでからかわれたことに憤っています。カーラが容色はうつろうけれど美しい心は永遠だと母に教わったという。これは先刻のサラの発言と対比されているのでしょう。クロノスは背中に蛭を何匹も吸いつかせています。自分は貴族の出だという。
 森でクロノスとカーラが見張りをしています。クロノスの持つ剣の柄は日本刀のようです。教授や医師も離れた位置で見張っていますが、通りかかった娘の顔に蝙蝠が貼りついてしまうのでした。


 館のサラです。壁が青い。手前から奥へ少し斜めに中2階の欄干が走っています。ポールが寄りかかっている。左下から手前へサラがあがってくる。背後にものぼりの階段が見えます。左手や上にアーチの黒っぽいシルエットがかぶさっています。前段でポールが立っていた窓付近、居酒屋の屋内ととともに、遠近が強調されたこの構図は、後にも登場することでしょう。
 サラは美しかった母が老いてしまったため、会うのが怖いという。ポールは生粋のダワード家の人間は若さを保つことで知られているといいます。いかにもいわくありげです。


 クロノスは戦争から戻ると、母と妹が吸血鬼化していたとカーラに語ります。
 丸鏡に向かって医師がひげを剃っていると、おのが顔の異変に気づき、クロノスに見てくれと叫ぶ。教授は唇を咬まれたのだ、俺も咬まれたことがあるという。医師は森の娘は俺がやったんだ、殺してくれといいます。
 ギャグなのかどうか判断に困りますが、ここから今回の吸血鬼に対する退治法の模索が始まります。胸に十字架をかけ、椅子に縛りつけた医師に、まずは木の杭を打ちこむ。しかし杭を抜けば血の一滴も流れません。教授は吸血鬼は死ぬ時血を流すとコメントします。次いで首吊りです。これも効果がない。さらに火を試そうと蠟燭を近づける。身じろぎした医師をクロノスが押さえると、医師の髪が灰色に戻ります。火はまだ触れてもいませんでした。押さえた時胸に食いこんだ鋼の十字架こそが退治法であることを2人は悟ります。一方窓からのぞいていた村人は、2人が医師を殺したのだと思いこみ、仲間とともに仇討ちに出かけます。
 丘の墓場です。教授が大きな十字架を背負い、脇へ進みます。クロノスはやってきた村人たちを迎え撃つべく、二刀流で、跪いて待機するという構えをとります。ちゃんばらが始まりますが、クロノスは村人たちの戦意を奪うにとどめたようです。
 教授が十字架から(?)剣を作ります。できあがった剣にクロノスの顔が映る。これは後の伏線になっています。


 夜、夫婦者が襲われる。
 翌日の昼間、墓場の石像の前にサラが立つ。クロノスがやってきて、抜く手も見せない剣士だったそうですねと話しかける。サラがその娘と聞いて驚いています。サラが乗りこむ馬車は、車輪が黄色でした。『ドラキュラ'72』(1972)冒頭の馬車が思い起こされるところです。
 教授がクロノスの首の後ろに赤で十字をいくつも描きます。


 夜、道に迷ったふりをしてカーラが館に転がりこみます。寝室を用意してくれなくともかまわない、暖炉の側でいいと断って広間にとどまる。灯りの消えた広間を、カメラは上から、ゆっくり左から右へ動く。奥の茶色の柱、青いアーチなどを次々と横切っていきます。今度は右から左へ動く。近づく足もとが映り、女の目元がアップになる。階段でサラが悲鳴を上げます。上からポールがおりてくる。2人は画面右手前にある鳥籠の格子越しにとらえられます。サラは「母の顔が……」とポールに呟く。
 母は自分がカーステン家の出で、かの家には多くの暗い秘密があるのだと告げます。手もとのソフトの日本語字幕では「カーステン」となっていましたが、 [ IMDb ]の Plot Synopsis によると"Karnstein"で、つまるところカルンシュタインものに接続していたわけです。まったく気がついていなかったこの点を記してびっくりさせてくれたのは→「吸血鬼ハンター」[ < 吸血鬼映画の部屋 ]でした。
 7年かけて若さを取りもどした、私と父さんは生まれ変わるのだ。ポールが父は死んだといい、サラも同じ言葉を繰り返す。
 上からの視角で、手前から奥に伸びる中2階の欄干が前と同じ構図で登場します。右側で何かが動いている。
 父は決して死んでいない、眠っていただけと母はいう。私が起こしたのだ。
 また中2階の欄干が映されます。動いていたのはクロノスでした。彼は上から見下ろす。
 母は姉弟にこの場で見たことは忘れよという。1階脇の扉口から黒フードの人物が現われます。クロノスが飛び降りてくる。母に対し、目の前に水平に剣を構えます。剣の刃に母の目が映る。かけようとした催眠が逆に自分を縛ってしまいます。ここから先しばらく、カーラ、姉弟、母は静止したままとなります。
 フードを脱ぎ捨てた若い父とクロノスのちゃんばらが始まる。柱の向こうに2人の姿は隠れ、奥の青い壁に影だけが映ったり、正面上から、上に半円アーチの縁取りをいただいて画面と平行に配された黒い長テーブルの上で丁々発止したりします。4人が静止状態にあるのも継続しています。時々アップの切り返しが混じったりする点を除けば、ちゃんとちゃんばらしています。ここはぜひ実物でお確かめください。
 とこうして何やかんやあった末に決着はつく。前の場面で忍びこんだクロノスがベッドの上に老いの仮面を見つけていたのですが、母が刺されると、寝室のベッドに残されていた仮面が崩壊するのでした。

 カメラが上から見下ろせば、上辺沿いは斜めになった青いアーチが縁取り、左奥の扉から3人は出ていきます。風が吹きこんで落ち葉が舞いこむ。右手前では姉弟が抱きあっている。
 そしてカーラを残して2人はさすらいの旅に出かけるのでした。

Cf.,  The Horror Movies, 4、1986、pp.116-117

ジョン・L・フリン、『シネマティック・ヴァンパイア 吸血鬼映画B級大全』、1995、p.108/no.061

Jonathan Rigby, English Gothic. A Century of Horror Cinema, 2002, p.191

Jonathan Rigby, Studies in Terror. Landmarks of Horror Cinema, 2011, pp.178-179
おまけ Hammer. The Studio That Dripped Blood!, 2002
2枚組の2枚目13曲目が
"The Vampire Hunter -Main Themes"
6分27秒。

 2015/3/12 以後、随時修正・追補
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