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リサと悪魔 *
Lisa e il diavolo
    1973年、イタリア 
 監督   マリオ・バーヴァ 
 撮影   セシリオ・パニアグア 
 編集   カルロ・レアリ 
美術   ネード・アッツィーニ 
 セット装飾   ラファエル・フェッリ 
    約1時間35分 
画面比:横×縦    1.85:1
    カラー 

DVD
* 手もとのソフトの邦題は『新エクソシスト 死肉のダンス』、英語版。英題は Lisa and the Devil
………………………

 この作品を取りあげる際には必ず述べられることですが、当初1973年に製作されながら配給者が見つからず、『エクソシスト』(1973、監督:ウィリアム・フリードキン)のヒットにあやかって、プロデューサーのアルフレード・レオーネが悪魔憑き・悪魔祓いの場面を追加撮影し、再編集したものが1975年になって公開されました。この再編集版が日本でも『限界の恐怖・新エクソシスト』あるいは『エクソシストの館』の邦題でTV放映、後に『新・エクソシスト 死肉のダンス』の邦題でVHS化されました。英題が The House of Exorcism で、[ IMDb ]にも双方のページが設けられています。手もとのDVDソフトには両版収録されていますが、いずれにせよ追加場面を足した上、元の版からエピローグ部分を始めとして随所でカットされています。
 ともあれ本作のオリジナル版は、『血ぬられた墓標』(1960)、『白い肌に狂う鞭』(1963)、『呪いの館』(1966)、『処刑男爵』(1972)に続くバーヴァの本格的な怪奇映画です。城とはいえませんが館は出てきますし、『呪いの館』や『処刑男爵』に劣らず街路が迷宮化してくれます。『血ぬられた墓標』と『白い肌に狂う道』が示したある種艶冶な充実感、『呪いの館』での息苦しいまでの濃密さ、『処刑男爵』での古城巡り大盤振舞はありませんが、現実が横滑りしていくかのような不条理感に浸されているといえるかもしれません(追記:イタリア語で不勉強のため中身はよくわからないのですが、ロケ先に関しウェブ上で出くわした"LOCATION VERIFICATE: Lisa e il diavolo (1972)"および"VILLINO CRESPI"(2011/3/21)、"LOCATION VERIFICATE: La casa dell'esorcismo (1975)"([ < il Davinotti ])を参照)。

  本作のヒロインをつとめるエルケ・ソマーは『処刑男爵』に続いての出演です。助演のシルヴァ・コシナとともに、昔TVで放映されたイタリア製娯楽映画などでよく見かけたような気がしていましたが、[ allcinema ]で出演作を眺めてももう一つよく思いだせませんでした。
 アリダ・ヴァリについては、『処刑男爵』でのジョセフ・コットン同様『第三の男』(1949、監督:キャロル・リード)同窓会で、やはり『夏の嵐』(1954、監督:ルキノ・ヴィスコンティ)などに出演しつつ、伝説的な作品『顔のない眼』(1960、監督:ジョルジュ・フランジュ)、後には『サスペリア』(1977、監督:ダリオ・アルジェント)などのいわゆるジャンル映画にも出演している(やはり喜んでかどうかは知らず)やはり奇特な俳優です。
 1973年から78年まで放映されたというTVシリーズ『刑事コジャック』(日本では1975年から79年とのこと。声の吹替は森山周一郎)でお馴染みテリー・サヴァラスは、本作での一番の儲け役でしょう。怪奇SF系の作品では本作以外に、クリストファー・リーとピーター・クッシング(カッシング)が共演して双方死なずに結末を迎えた『ホラー・エクスプレス ゾンビ特急"地獄"行き』(1972、監督:エウヘニオ・マルティン)に出ていました。

 タイトル・バックは、真っ赤な布を敷きつめたテーブルの上に、テリー・サヴァラスがトランプのカードを次々に置いていくというものです。カードを裏返すと、主要なキャストが絵札のように紹介されます。
 本篇が始まります。白っぽい石でできた教会が下から見上げられます。空が思いきり青い。カメラが下を向いていって水平になると、観光バスが到着し、観光客たちが下車する。その中にヒロイン(エルケ・ソマー)と友人らしきキャシーもいます。
 ガイドがかなり横に長い階段をのぼった先にある屋外の壁画のところに観光客たちを案内する。ロマネスク風といえるでしょうか。その中に悪魔の姿が描かれており、禿頭で頬にほくろがある、つまりテリー・サヴァラスの似姿であります。
 ヒロインはキャシーに断って脇道へ入っていきます。白っぽいシャツに薄緑のジャケット、青のチェックのスカートという、涼しげな装いです。数段おりた先の古物商に入っていく。店の奥は煉瓦積みのトンネル状空間になっています。そこに店主と話している黒服の男がいました。背を向けていた彼が振り向くと、壁画の悪魔と同じ顔ではありませんか。口髭のある等身大の人形を抱えています。悪魔と同じ顔にびびったのか、ヒロインはそそくさと店の外に出る。路地をはさんで店頭の向かいにある壁の扉口から出てきます。

 約5分にして、さっそく迷子化状態の始まりです。『処刑男爵』での街路彷徨は霧の這う夜に起こりましたが、今回は晴れ渡った昼間、石造りの路地が舞台となります。細かいところまでよく見える昼間の明るさがしかし、逆にあてどのなさを強めているように思われます。彷徨の始まりで人物が二人出てくるものの、ヒロインと交渉しようとはせず、むしろ街から人がいなくなってしまったかのような空虚さを感じさせずにいない。[ IMDb ]に挙げられたスペインのトレドでのロケがここにあたるのでしょう。Google でトレドの画像を検索すると、ぽつぽつ映画に出てきた眺めを見つけることができました(追記:ただし上掲"LOCATION VERIFICATE: Lisa e il diavolo (1972)"([ < il Davinotti ])によると、『呪いの館』でお馴染みのヴィテルボ県のファレーリア Faleria, Viterbo も混じっているようです)。広場や大通りではない旧市街の狭い裏通り、溜息が出ます。ほんの3分ほどのシークエンスですが、これがその後のお話への文字どおりの入口をなしています。ただし再編集版では、一部後ろに回された他はばっさりカットされていました。
 さて、かなり下から斜めに、腰から上のヒロインの背中がとらえられます。背後左に円塔があり、右の壁は白っぽく、その上に暗い赤の建物がそびえている。扉の閉まる音に振り向く。右の扉の方に戻り、どんどん叩きますが返事はない。詮方なく左へ進む。
 路地がやや下からとらえられる。上り坂になっているのでしょうか。右の壁は黄を帯びています。背を向け奥へ進むヒロインは、しかし振り返り振り返りします。
 石壁の路地は手前と奥にトンネル状のアーチがある。奥のトンネルの向こうに小さく人物が見えます。ヒロインは手前右から出てきます。
 赤い石壁の前の人物が映されます。ヒロインが道を尋ねようと声をかけますが、答えず角を曲がっていってしまいます。奥の右手には右上がりの階段、左に欄干がある。
 追ってきたヒロインが角を曲がると、もう誰もいません。先に見えるのは小広場のような空間で、右に奥へ上がっていく欄干付きの階段がある。その右上にも家屋が見えます。道をはさんで左手には、左上がりに幅の広い階段がのぼっています。その上の大きな建物は、壁が黄を帯びている。突きあたりの家屋は一部赤煉瓦で、窓の鎧戸は緑でした。やや下からカメラは右から左へ少し撫でます。手前から背を向けたヒロインが奥へ進む。アップをはさんで、奥へ、幅広階段の向こうを左へ折れます。
 カメラは斜めになります。小道をまたいで左と右の家屋をつなぐ渡り廊下があり、その下を奥からヒロインが出てくる。左手には手前左に伸びる欄干があり、その左に大きな扉の建物が建っています。ヒロインは手前で左に曲がります。
 路地がやや下から眺められる。右手前には白いアーチに囲まれた緑の扉が見えます。左の壁は赤茶けており、奥の方で白くなる。ヒロインは背を向け奥へ進む。白くなった壁の窓辺にいる老婦人にスペイン語で話しかけます。しかし老婦人は答えぬまま奥へ引っこんでしまう。
 踏面の広い下り階段が上から見下ろされる。下にはトンネル状の半円アーチがあり、その向こう右手にのぼり階段があります。右には数段登って少し間を置いて家屋となり、薄緑の扉が少し開いている。ヒロインは背を向け奥へおりていきます。
 陰になった暗く狭い路地が下から見上げられる。空はあくまで明るい青で、奥に白っぽい塔が見えます。路地は画面右よりに配され、画面左半は真っ暗な壁で占められる。背を向け奥へ進む。
 手前・上方に半円アーチが下から見上げられます。アーチの向こう、右には踏面の広いのぼり階段が見えます。その先にやや右向きの半アーチがある。左側は下り坂です。背を向け左奥へ進みます。
 路地です。奥へ進む。笑い声が聞こえて振り向きます。走りだす。
 踏面の広いのぼり階段になった路地です。左奥から右手前に進みます。
 やや広い道を右から左へ進む。カメラもそれを追います。手前右にアーケードがあり、道から3段ほど低くなっている。奥は窓の少ない壁が続いています。左先には家と家の間を狭い道が通っているようです。
 明るい路地が下から見上げられる。右手はゆるく湾曲する煉瓦壁で、陰になっています。左奥には多角形をなす明るい黄の壁がそびえる。けっこう風が吹いているようです。奥から手前にやってきます。前へ進むと、カメラはヒロインをほとんど真下から見上げる位置になる。右上に高い塔が見えます。
 左を見ると、右からごつい石壁が伸びてきて、その左は急な斜面になっているようです。斜面は二段に分かれ、上の段にはトンネルのようなものが設けられている。上の段のまた上に欄干が走っている。テリー・サヴァラスの声が聞こえてきます。ここまでで約8分でした。

 ヒロインのアップを経て、石壁と斜面の間の狭い道からテリー・サヴァラスが出てきます。等身大の口髭人形を抱えています。するとカメラは左から右に振られる。窓のない壁が途中でゆるく折れています。右でヒロインが下からとらえられる。テリー・サヴァラスの背後・上の方には白っぽい多角形のドームが見えます。ヒロインは悪魔似のテリー・サヴァラスにはあまり近づきたくない様子ですが、向こうから愛想よく声をかけてきます。広場への道を尋ねると、「向こうだ」との答え。
 首から上が左に振り向くと、いつの間にやら背後に路地がある。カメラは少し後退して右から左に振られます。声をかけられ、今度は右に振り向きます。テリー・サヴァラスが多角形の建物の左へ曲がるのが、下からとらえられる。今少し街路彷徨は続きます。


 馬蹄形アーチが正面向きで画面奥に見えます。手前は少し高くなっており、そこからおりていった先のようです。アーチの周囲と奥は薄暗く、アーチの真下だけにスポット・ライトのように丸い光が落ちている。そこにヒロインが立っています。手前左右は画面の端から壁が少し出ており、明るくなっている。左の壁は少しだけ奥、右の壁はすぐ手前です。ヒロインは奥から手前へ踏面の広い段をのぼってきて、右へ折れます。

 右上がりの階段が下から右上にあがっていきます。階段のすぐ向こうは石垣になっている。上は踊り場で、向こうでさらに3段ほど上に登っています。その上は左右を低い石垣にはさまれた通路が奥へ伸びていく。石垣の向こう、離れた位置でシルエットと化した建物がいくつか横に並んでいるのは見えます。空は薄青です。
 通路の奥から口髭の男が駆け寄ってきて、ヒロインに「エレナ」と呼びかけます。心当たりのないヒロインが振り払うと、口髭男は数段転がり落ち、動かなくなってしまう。ここまでで約11分でした。

  夜です。街灯に灯がともる。カメラは上から下に振られます。煉瓦を隙間を空けながら互い違いに積みあげた壁の前にヒロインが立っています。向こうから車がやって来る。ヘッドライトが青い光で霧を照らす。奥に止まったようで、ヒロインは駆け寄ります。
 乗せてもらった黒い車には後部座席に男女が坐している。二人とも青みを帯びたグレーのコートを着ています。女はシルヴァ・コシナ。年嵩の男はエドゥアルド・ファハルド、何となく見覚えのある顔だと思ったら、『続・荒野の用心棒』(1966、監督:セルジョ・コルブッチ)でアメリカ人側の将軍役になった俳優とのことでした。運転手のジョルジョ(ガブリエーレ・ティンティ)はバック・ミラーでシルヴァ・コシナに目をやります。
 車は走りだすもすぐに故障してしまう。すぐ右手に大きな扉があり、中からテリー・サヴァラスが顔を出します。その姿を見て車の陰に引っこんだヒロインに、左から若者が現われて、行かないでと言う。若者(アレッショ・オラーノ)は少しくどめの王子さま顔です。


 若者=マクシミリアンは奥にあるゆるい半円アーチの玄関扉から出てくる。扉は幅が広く、ガラスのはまったものです。扉からまっすぐ手前に赤い絨毯が伸びている。周囲の壁は明るい色です。
 マクシミリアンは手前を左に折れ、「母様」と呼びかける。先に階段があり、アリダ・ヴァリが背を向けて登りかけていました。アリダ・ヴァリはこの後も固有名で呼びかけられないので、とりあえず夫人としておきましょう([ IMDb ]では Countess となっていました)。階段は手前から奥に伸び、踊り場で右上に折れます。踊り場の奥には大きな窓があります。階段をあがったあたりから手前へ、1階の天井が階段や手すりと同じ焦茶になって伸びていました。マクシミリアンに乞われて不承不承一行が滞在することを許可した夫人は、しかしここではなく別邸へと命じます。


 噴水が大写しになり、その向こう、夜の庭を一行が左から右へ進みます。カメラが近づいていき、下向きになって水面を映す。水面に一行が逆さで映ります。カメラはまた後退しつつ上向きになると、一行が橋を渡っています。周囲は暗緑色を帯び、空は暗青色です。石像の立つ古典様式風の四阿の前を右へ進む。執事のテリー・サヴァラスはヒロインにキャンディーを勧めます。
 左奥から手前に登る階段があるらしき眺めをカメラは下からとらえます、右手前にのぼり段があるようです。それとは別に、右奥にものぼり階段が枝分かれしています。一行は左奥からあがってきて右上に向かう。


 車が大きな格子戸から中に入ります。
 ヒロインが割り当てられた部屋にいる。内装は明るい。
 画面右寄りで柱時計の振り子がアップになります。鐘が鳴る。振り子の左手、時計の側面の内側は鏡になっているようで、そこにぼんやりした影が映ります。前に出てくるとシルヴァ・コシナでした。肩をだした黄のドレスを着ています。腰に緑の飾りが結びつけてある。手前まで来て左に進むと像は消え、画面左から実体の方が右へ進む。『白い肌に狂う鞭』冒頭での影の交叉が連想されたりもするところでした。
 扉を閉じて運転手と逢い引きします。夫は知っていると言う。約20分、ここでようやくコシナの役名がソフィアだとわかります。テーブルの上にシガレット・ケースが置いてあるのですが、その蓋の内側が鏡になっており、そこに口づけする二人が映る。


 またヒロインの部屋です。物音に右奥の扉口に向かう。部屋の外は内廊下になっており、向かいに扉が来ます。ここはやや薄暗い。扉の錠を下ろし、手前を左に、先に浴室があるのですが、その窓に口髭男が外からはりつくのでした。
 右の扉の方へ急いで戻り、錠をがちゃがちゃやってから外へ出ます。先に通った屋外の階段踊り場が映されます。右上からおりてきて、奥を下へ進む。先に半円アーチが見えます。
 右から左へ、まわりは木立です。左奥に古典様式の四阿が見える。
 木立を奥から手前に出てくる。カメラは前進します。
 向こうの右奥に柱廊のある建物が見え、その左奥から口髭男が出てきます。
 それを見てヒロインは奥へ戻る。木立を左から右へ、先にマクシミリアンがいました。マクシミリアンは「レアンドロですよ」と言う。約24分弱にしてようやくテリー・サヴァラスの役名がわかりました。彼は人形を担いでいます。マクシミリアンはヒロインに「君が戻ってくれて嬉しい」と言います。ヒロインは「戻って?」とはてなマークです。


 手前の小部屋でレアンドロが晩餐の準備をしている。奥が食堂です。その奥から夫人が姿を見せる。約26分、ソフィアの夫がフランシス・レハーだと自己紹介しますが、レアンドロがあらためて夫人に紹介します。次いでヒロインの名がリサ・ライナーだとやっとわかるのでした。
 夫人はもう一人客がいるはずだ、五人目の客はどこ?と言う。人数は違いますが、プラトーン『ティーマイオス』冒頭の「一人、二人、三人……おや、四人目の仲間は、親愛なるティマイオス、どこにいるのだろう」(17a、泉治典訳)というソークラテースの台詞が思い浮かばずにはいません。この点については湯浅泰雄、『ユングとキリスト教』、1978、pp.237-238 を参照ください。運転手は同席していませんので、この時点で食堂にいる客は三人となり、こじつければ『ティーマイオス』と一致する。
 天井の方で物音がします。青く暗い部屋をカメラは右から左へ撫で、前進します。
 食堂がほぼ真上から見下ろされる。夫人が「戻った」と言う。五人目の客を指すようです。

 下から階段が見上げられる。マクシミリアンがケーキをのせた皿を手にのぼっていきます。欄干は赤茶、右上に青みがかった暗がりがある。左の壁に欄干とマクシミリアンの影が落ちています。
 廊下が左手前から奥へ伸びています。奥の扉からマクシミリアンが出てきて、手前へ進んでくる。右の壁は画面に入らず、左手前の壁には褪せた壁画が見える。その向こうでカーテンと花瓶をはさんで、奥の方は青みを帯びている。マクシミリアンが前まで来ると、壁画と見えたのが実は、格子状に区切られた大きな鏡であることがわかります。いささか曇っている。左手前で鏡の一部は隠し扉をなしており、マクシミリアンが入っていきます。
 暗い室内をカメラは右から左へ撫でる。奥に天蓋付きのベッドがある。ケーキの皿を置いてマクシミリアンは「奴が戻った」と言います。


 運転手が車の修理を終えます。手すりのついた丸い池越しにレアンドロが棒付きキャンディーを口におしゃべりしています。

 マクシミリアンがやや暗い部屋にいます。書斎でしょうか? 宙空に「なぜ戻った」と叫ぶ。肩から上の姿でぐるぐる回ります。その間カメラはずっと顔の前にいる。

 居間です。車の修理ができたことが伝えられ、しかしリサだけ残るように言われます。夫人が入ってきて、リサの顔に手を当てる。夫人は目が見えないことがわかります。「恐れていたが、もう遅すぎる」と言う。

 本のページの間にリサ(?)を描いた肖像素描がはさまっていました。マクシミリアンはそれに火をつけます。『アランフエス協奏曲』の有名な旋律を編曲した音楽が流れます。

 リサが下から見上げられる。前には台上に数体の小さな焼物の人形をのせ、それが円をなして回転するという玩具が置いてあります。人形には王と王妃、それに死神などが混じっています。輪舞のように回る人形を見る目元がアップになる。
 すると過去らしき情景が浮かびあがってきます。ソフト・フォーカスで色も鮮やかになる。古典様式の四阿に走るリサらしき女性の動きはスロー・モーションです。女声のスキャットが流れる。いささか俗っぽい。リサは巻き毛になっています。口髭男(エスパルタコ・サントーニ)が現われ、約42分弱にして名がカルロだとわかる。
 二人は室内にいます。まわりにやたらと頭部のマネキンが置いてあります。


 暗い室内です。リサとマクシミリアンが口づけする。マクシミリアンは「戻ってくれたんだね」と言う。マクシミリアンはカルロに変わります。

 車の前をカメラは右から左へ動く。向こうにソフィアが来ました。運転手の名を呼んでいます。カメラはいったん止まり、今度は左から右へ動きます。車の窓越しにソフィアがとらえられ、彼女の前まできてカメラは止まります。手前から夫が現われ、平手打ちを喰らわす。ソフィアはのけぞった際に車のドアの取っ手をつかみ、そのままドアが開くと、中から首をかき切られた運転手の亡骸が転がりだすのでした。

 壁の前、左寄りに血まみれのハサミを手にした薄紫のスカートがとらえられます。ハサミが青く反射する。スカートの右に光があたり、ハサミと手の影が壁に落ちています。カメラはハサミにズーム・インする。

 廊下です。カメラは少し斜めになっている。画面左寄りに廊下が伸びており、右の壁が奥へ伸びていきます。壁は青みを帯びていますが、右の壁の中央付近はオレンジです。右手前には真っ暗な扉口が開いている。夫人が奥から手前に来て、左へまっすぐ進みます。本作では夫人は終始薄紫のドレスを身につけています。

 運転手と、その後ろに嘆くソフィアが配される。カメラは上昇し、かなり上から見下ろします。周囲に一同がいる。男連中が亡骸を台車に乗せるとともにカメラは下降し、水平になる。台車を囲んで一同が右に移動し、カメラも少し後退しつつそれを追います。いったん止まり、間を置いて右に動く。上からの俯瞰になり、また止まり、左へ動く。扉のガラスは黄で、世紀末風の装飾が施されている。ガラスの向こうをレアンドロの影が左へ、次いで一行の影も続きます。
 屋外に出る。三つ叉踊り場の向こう・下からのぼってくる。


 カルロが鏡扉の部屋を寝台の方へ進みます。

 レアンドロがソフィアの夫にすぐここを出た方がいいと忠告します。階段の下です。夫に煙草を一本所望する。階段の上に夫人が現われると、慌てて火をつけた煙草をソフィアの夫に押しつけ、口にキャンディーをくわえる。煙を払いながら「煙草はご遠慮を」と言います。本作では珍しいお笑い場面でした。

 庭です。石のスフィンクス越しにリサとマクシミリアンが見えます。カメラは右から左へ回りこみます。左から石像に手が当てられる。夫人でした。カメラは今度は左から右へ回りこむ。マクシミリアンは夫人と向こうに行きます。リサは木立の奥へ入っていき、回るようにして手前に出てくる。
 芝生をはさんだ向こうの建物の前に影が進んでくる。リサの口に手が当てられる。カルロでした。影はレアンドロでした。人形を抱えています。扉口の中に入る。カルロは様子を見にいきます。窓に灯りがともる。リサも見に行きます。
 格子越しに上から屋内が見下ろされる。レアンドロは鼻歌を口ずさみながら葬儀の準備を進めています。大きな花輪がいくつも置いてあります。柩から足がはみだしています。レアンドロは足を折って無理矢理中に押しこむ。柩の中に横たわるのはカルロでした。
 リサは逃げだします。前からカルロが現われ、「エレナ」と呼ぶ。


 下から右上がりの階段が見上げられる。階段は上で折れて左上がりになります。リサがのぼっていく。上には白い列柱が見えます。本館です。
 中の階段が下から見上げられます。リサは駆けあがる。
 約55分、手前に暗い部屋があります。壁は青を主体に、瞞し絵で捻り柱が描いてあります。板が立てかけてある。使われていない部屋のようです。この部屋越しに、左奥の扉の向こうに廊下があるようで、ずっと奥に別の部屋とフランス窓が見えます。廊下をリサが左から右へ走ります。カメラは手前で左から右へ動く。途中で壁を横切ることになります。先にあるのも使われていない部屋でした。壁は赤茶です。右に扉口がある。手前は青みがかっています。この美しいシークエンスは後に2度変奏されることでしょう。
 肩から上のリサが下から見上げられます。左から右へ進む。カメラは後退します。すぐ右が壁ですが、ぼろぼろになっています。何やら装飾的な壁画が描かれているようです。
 先に明るい部屋がある。カメラは室内を右から左へ動く。
 中に入って扉を閉めます。カメラは少し斜めになっている。扉の左手の壁には捻り柱の瞞し絵が描かれています。奥のテーブルの上にはマネキンの頭部がいくつも置いてある。全身像のマネキンもいくつか立ててあります。右からカルロが現われます。


 嘆き続けるソフィアを夫が引っ張りだします。彼女を車に押しこみ、自分で運転できると運転席の方へ回ろうとする。ソフィアはとっさに運転席に移り、車を急発進させます。そして夫の躰の上を何度も往復する。
 ガラス戸越しにレアンドロが下から見上げられます。背後・上には天井画が見える。
 マネキン部屋です。気絶したリサの上にカルロがかがみこもうとする。マネキンのアップがいくつか挿入されます。と、背後から杖で殴りつけられます。犯人は真っ赤な衣を着ている。

 約59分、古城映画的山場の始まりです。殴打をソフィアが目撃する。ソフィアはやはり黄の肩出しドレスで、赤毛です。リサの明るい金髪と対照的です。悲鳴を上げ扉の外を左へ走る。先ほどリサが通ったのと逆に、使われていない暗青色の部屋を壁をはさんで二つ走り抜けます。カメラはやはり壁の手前で、少し斜めになっている。最初の部屋では、右にある扉の向かって右辺と平行する位置に木の柱が立ち、上で三つ叉になっています。『白い肌に狂う鞭』における広間右手前の三つ叉柱が思いだされるところです。壁を越えた二つ目の部屋では手前にベッドの背らしき金属細工が映りこむ。ソフィアは向こうの廊下でいったん振り返ります。
 腰から上になり、奥を右に入る。
 空っぽの部屋を左から右へ抜けると、扉口の右で廊下が奥に伸びています。青みがかっている.。右手は真っ暗です。ここを背を向け奥へ走る。カメラが少し左から右へ振られます。
 オレンジの壁の廊下を奥から手前へ進んできます。奥には扉口があり、さらに向こうにも扉口が見える。手前は左で角になっています。右の壁には板戸が斜めに立てかけてある。奥から光が射しており、右の壁にソフィアの影が落ちます。彼女は扉口のすぐ手前で左に入ります。
 上から階段が見下ろされる。左半で下からあがってきて、右半で手前から上へあがる。左半の下にも踊り場が見え、右でさらに下へおりていっているようです。踊り場には奥への扉口が開いている。左の壁には欄干の支え柱の影が並んでいます。壁は下が白く、上は薄黄になっている。ソフィアは下からのぼってきて、手前でカメラの前を横切り、右で上にのぼります。カメラは下を向いていたのが上向きに移る。右手の壁もやはり縦線の影で分割されている。
 左右を扉口が縁取るところを、奥から手前に走る。壁は青く、奥で燭台(?)の曲線とその影がくっきり目立ちます。間の部屋は明るい壁紙に植物紋様が記されている。
 カメラが後退すると、手前にも扉口があります。暗い部屋です。
 使われていない浴室でした。ポタポタと水の垂れる音がする。カメラが右から左へ見回す。窓の木戸を上げると鉄格子がはまっている。戻ろうとすると扉の左手の壁がギイっと前に開きます。カメラは後退する。中から赤衣の手が出てくる。カメラはソフィアに向かって前進します。ステッキを振り下ろしたのはマクシミリアンでした。
 ここまでで約1時間1分弱、2分にも満ちませんが、これあらばこそのバーヴァ作品でありました。

 暗いカーテンを束ねた柱越しに礼拝堂が映されます。夫人が祈っている。カメラは左から右へ撫でる。

 マネキン部屋です。レアンドロがカルロ人形を運んできて損傷を確かめています。口にはキャンディーをくわえている。リサは気絶したままです。レアンドロが愚痴をぼやきます。小役人風なのがさもありなんといったところでしょうか。ぶつぶつ言いながらも職務を遂行するのでした。

 柩にカルロがおさまっている。それを上から見下ろすカメラは上昇し、また下降する。花輪越しになる。奥から真っ直ぐ夫人が近寄ります。カメラは水平になると夫人に向かって前進します。カルロは夫人の夫なのでした。

 マネキン部屋でレアンドロがリサの寸法を測っています。リサが気づく。前にカルロ人形があります。カルロはマクシミリアンの継父でした。レアンドロは気さくに説明してくれます。

 約1時間7分、リサはマネキン部屋を出て、先ほどのソフィアと同じく左へ進む。カメラも手前で右から左に動きます。壁を越え、青の部屋の向こうで奥を右に向かう。ソフィアが通った廊下を手前から奥へ進む。浴室に通じる通路を奥から手前にやって来ます。ソフィアの死体に夫人がかがみこんでいました。
 リサはマクシミリアンの名を呼びながら奥へ逃げる。夫人は奥から手前に出てきます。鉄の飾り柵越しになっています。レアンドロを呼ぶと少し奥を右から現われます。
 暗い部屋です。手前の家具にはシーツが掛かっています。右奥の扉からリサが出てきて、手前に来る。マクシミリアンがいます。
 汚れた鏡にマクシミリアンとリサが映る。マクシミリアンは「君はエレナより美しい」と言う。リサは「エレナ?」とはてな顔です。鏡戸の中に入ります。マクシミリアンがベッドのカーテンを引くと、骸骨が横たわっていました。エレナは浮気を止めなかったと言いながら、リサに麻酔をかがせます。
 左に髑髏、右にリサが横たわっている。『アランフエス協奏曲』の旋律が流れます。マクシミリアンは今度こそ愛せるとシャツを脱ぐ。カメラは右へ流され、針のない時計を映します。マクシミリアンは笑いだし、そこに女の笑い声がかぶさります。


 マクシミリアンは性的に不能で、これはソフィアの夫も同様だったのでしょう。前者の場合は母である夫人との関係が根っこにあるらしい。その結果マクシミリアンの妻エレナと夫人の夫カルロが不義の関係を結ぶことになった。というわけで約1時間17分、母と息子の対決となります。
 礼拝堂です。列柱は黄を帯びた白、たくしこんだカーテンは暗い紫です。マクシミリアンが柩を台からひっくり返し、、花輪を投げて当たり散らしています。薄紫のスカートが映され、カメラが上に振られる。夫人です。カメラが左から右へドリーし、夫人の首の後ろまで来ると右から左へ逆行します。マクシミリアンの頭部の後ろまで来る。カメラが動くことで浮遊感がもたらされる一方、間を置いて対峙する二人は、さながら西部劇の決闘場面です。夫人は奥から手前に出てきます。カメラは右から左へ振られる。マクシミリアンが夫人を刺します。


 玄関口です。手前に燭台がある。マクシミリアンが奥から出てきて手前へ、レアンドロを呼びながら階段をのぼる。
 右奥から出てきます。手前左に円柱があり、赤い光を浴びている。左手前に進む。カメラのみが左から右へ動きます。先にあるのは食堂でした。テーブルにつく人影があります。右から左へ、順にソフィア、その夫、髑髏、カルロ、運転手と席についている。皆人形化しています。振り向くと夫人の人形が立っています。真上から見下ろすショットをはさんで、夫人の人形が前に進みますが、首や肩は動きません。マクシミリアンは後ずさりし、窓から下へ落ちてしまう。下から見上げられると、向こうに夫人の人形が映る。その背後から人形を運んでいたレアンドロが顔を出します。


 リサが眠っています。裸です。目覚める。左目から涙がこぼれます。屋外でした。ベッドがありますが、まわりは蔦に覆われています。カメラは右から左に動く。
 列柱のファサードが下からソフト・フォーカスでとらえられる。植物に覆われています。緑と赤と。空は青い。廃園をカメラは右から左に撫でる。蔦の下にマクシミリアン人形が転がっています。
 広場です。そろって赤いカーディガンを着た少女たちが、数え唄を歌いながら赤い布を浮かしボールを跳ねさせています。ボールが転がり、それを草むらから出てきたリサが拾う。少女たちはあれは幽霊だ、100年前に死んだといって逃げだします。リサはボールを手にしたまま左へ進む。
 右手前に壁があり、その左奥から右へ向かいます。左上から右下へゆるい踏面の広い段がおりている。奥は石垣です。
 上から奥の馬蹄形アーチが見下ろされる。背を向け奥におりていきます。
 両脇に暗い壁が迫っています。奥の先に塔門が見える。空は明るい青です。背を向け奥へ進む。ボールを投げ捨てると、カメラはボールを追って右から左へ動きます。
 足もとが映る。カメラが下から上へ振られると、レアンドロでした。
 奥の東門へ向かうリサが引きでとらえられます。
 またレアンドロです。左からリサ人形が出てくる。カメラが引くと職人でした。遅くなったと言えば、レアンドロは遅すぎたと答える。


 リサは教会の前でタクシーを拾います。教会はトレドの大聖堂で、黄を帯びた明るい白です。カメラは下から上へ振られる。空が真っ青です。
 空は飛行機につながる。リサが着席しています。赤、黒、緑、黄の横縞の上着に着替えています。同じ柄のベレー帽もかぶっている。
 離陸しますが、見回すと他の乗客が見当たらない。ずっと先へ進むと馴染みの面々の人形がありました。
 戻って螺旋階段を上へのぼります。扉を開く。操縦席です。振り向くとキャンディーをくわえたレアンドロがいます。彼は「エレナ」と呼ぶ。すると憔悴した巻き毛のエレナ人形が崩れ落ちます。下からレアンドロのアップとなります。キャンディーを煙草に換える。


 アルフレード・レオーネによる再編集版では、レアンドロ(後ろ姿だけなのでテリー・サヴァラスではないのでしょう)が人形をはたくと広場にいたリサが倒れ、病院に担ぎこまれます。追加撮影まで時間があいたはずですが、やはり白っぽいシャツに薄緑のジャケット、青のチェックのスカートという扮装でした。原版ではちらっと出ただけの友人キャシーがもう少しだけ顔を出し続けます。ミカエル神父(ロバート・アルダ)が付き添う。話の進行の随所に、病院のリサが『エクソシスト』風に悪魔憑きの症状を示す場面がはさまれ、最後に廃屋の2階を左から右へ進み、瞞し絵の壁画がある部屋で神父が悪魔祓いを執りおこなう。病院の場面ではカメラはよく動くものの、照明等が平板なような気がします。
 ちなみに『エクソシスト』のイタリア版亜流としては『デアボリカ』(1974、監督:オリヴァー・ヘルマンことオヴィディオ・G・アソニティスおよびロバート・バレット)や『レディ・イポリタの恋人 夢魔』(1974、監督:アルベルト・デ・マルティーノ)などがありました。下掲の殿井君人「オカルト」pp.140-143 を参照ください。
 大昔テレヴィで、後にVHSで見たのは再編集版ですが、ラスト近く、逃げだしたリサが街路で振り向いた場面が印象に残っていました。しかしこれは始めに述べたように、原版では冒頭の街路迷子の段にあったものを最後に持ってきていたのでした。

 なお過去の惨劇が残留思念によって無限に反復されるという主題は、アントニオ・マルゲリーティの『幽霊屋敷の蛇淫』(1964)に先例があります。本作ではそれが操り人形というモティーフと組みあわされています。また同じ主題は『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(1974)にも見られます。
Cf.,  二階堂卓也、「二人目 マリオ・バーバ イタリアン・ホラーの先駆者」、『マカロニ・マエストロ列伝 暴力と残酷の映画に生きた映画職人たち』、2005、pp.48-49

殿井君人、「オカルト」、『イタリアン・ホラーの密かな愉しみ』、2008、pp.143-144
こちらにも挙げています


Troy Howarth, The Haunted World of Mario Bava, 2002/2014, pp.132-140, etc.

Tim Lucas, Mario Bava. All the Colors of the Dark, 2007, pp.894-923、また『新エクソシスト 死肉のダンス』について; pp.924-939

Danny Shipka, Perverse Titillation. The Exploitation Cinema of Italy, Spain and France, 1960-1980, 2011, pp.51, 53, 56-57, 146, 148-149, 152

Jonathan Rigby, Euro Gothic: Classics of Continental Horror Cinema, 2016, pp.276-278

バーヴァに関して→こちらも参照
おまけ  牧野修、『蠅の女』、2004
本作には人間の姿の悪魔が登場するのですが、「丸い棒付きキャンディー」(p.71)を咥えています。

 
 2015/7/3 以後、随時修正・追補
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