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セリーヌとジュリーは舟でゆく
Céline et Julie vont en bateau : Phantom Ladies Over Paris
    1974年、フランス 
 監督   ジャック・リヴェット 
撮影   ジャック・ルナール 
 編集   ニコール・リュブチャンスキ 
    約3時間13分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    カラー 

VHS
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 「更新履歴」のページでは本作を「1970~74年の非怪奇映画など」の中にくくっていますが、超自然現象は起こります。古城映画とはいいがたいにせよ、お屋敷は登場する。しかも特異な場所です。そこでは『幽霊屋敷の蛇淫』(1964)や『リサと悪魔』(1973)でお馴染み、過去の出来事が無限に反復されるのでした(『去年マリエンバートで』(1961)もその変奏と見なせなくもないかもしれない)。何やら暗合も頻繁に起こる。3時間を超える上映時間の長さが難ではあるものの(個人的な好みでしかありませんが、映画は1時間半前後でまとめてくれた方がうれしい)、ジャック・リヴェットという監督の名前からヌーヴェル・ヴァーグだ何だというのはよいとして、喜劇調の怪奇映画として享受することも許容されはしないものでしょうか。
 なお本作についてはウェブ上で出くわした下掲の押田友太「ジャック・リヴェット『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(1974)再考 異なる世界の邂逅による物語の相対化をめぐって」が、当方が見過ごした点も含めて詳しく取りあげていました。そちらを一読いただければ無理に付け足すことも思いつかず、また手もとのソフトは画質が芳しくないのですが、だらだらメモすることといたしましょう。

 公園のベンチで眼鏡をかけた赤毛で巻毛の女性(ドミニク・ラブリエ)が、表紙に『魔法 Magie』と記された赤い本を読んでいるところから本篇は始まります。真っ直ぐな黒髪でショールをひらひらさせた女性(ジュリエット・ベルト)は通りすぎる際サングラスを落とす。赤毛娘はそれを拾いあげて黒髪娘を追います。裏通りで階段をのぼったりおりたり、道ばたで市の開かれている広めの通りを抜け、黒髪娘がケーブル・カーに乗った際には、線路に並行する階段を駆けあがりさえします。追跡の間に黒髪娘は赤毛娘に気づきますが声をかけたりはせず、赤毛娘も近づいても声をかけない。この間カメラは往々にしてゆらゆらする。
 なお[ IMDb ]にはロケ先としてモンマルトルのみ挙げられています。モンマルトルの「モン mont」は「山」の意味ですが、モンマルトルの丘などと呼ばれるだけあって、斜面や階段がたくさん出てくるのは欣快の至りであります。
 黒髪娘がホテルに入ると、赤毛娘は諦めます。黒髪娘は台帳にセリーヌ、魔術師 magicienne と署名する。


 約14分、「しかし、翌日の朝 Mais, le lendmain matin ~」と字幕が出ます。この字幕はこの後何度か繰り返される。
 赤毛娘がホテルの近くのカフェに入ると、セリーヌがいました。赤毛娘は同じテーブルに坐ります。
 図書館らしき施設です。赤毛娘は司書らしい。同僚のリルとタロット占いをします。この図書館では司書も利用者も喫煙します。奥の席にセリーヌがいました。わざと大きな音を立てますが、赤毛娘は振り向きません。
 公園のベンチです。赤毛娘が前と同じ本を読む。移動します。階段をおりたところからアパルトマンに入る。
 屋内の階段にセリーヌが坐っていました。ちょうど赤毛娘の部屋の前です。
 浴室は壁が真っ青です。セリーヌにシャワーを使わせている間、赤毛娘は彼女のバッグを勝手にあさります。セリーヌはほら(?)を吹く。居間にはロフトへの白い階段が取りつけられています。またバルコニーもある。
 赤毛娘が飲み物を作って持っていくと、セリーヌはブラッディ・マリーが飲みたいという。まさに赤毛娘が作ったカクテルでした。赤毛娘はグラスを一つ落としてしまいます。
 セリーヌは7~8歳の女の子の子守としてある家に雇われていたという。

 約38分、「しかし、翌日の朝」その2、ロフトは寝室になっています。赤毛娘の名がジュリーだとわかる。ジュリーはセリーヌが雇われていた家の住所が逆さリンゴ通り7番地の2であることを聞きだします。
 ジュリーが出かけた後、電話がかかってくる。ジュリーの幼なじみグレゴワールことギルーからでした。セリーヌはジュリーのふりをして会う約束をする。

 約42分、「逆さリンゴ通り Rue du Nadir aux Pommes」の標識が映されます(手もとの仏和辞書によると"nadir"は「天底」(天頂 zénithの対蹠点で観測者の鉛直下方にある)とのことでした。直訳するとリンゴのある天底通りといったところでしょうか)。「7 BIS」の門の前まで来たジュリーは中に入っていく。門の向こうでは階段が下へおりています。
 セリーヌは室内を勝手にあさります。櫃の中に人形とともに古い白黒写真がありました。映っているのはお屋敷です。2階建てで壁には蔦が絡み、玄関へは7段ほど階段がのぼっている。階段は末広がりです。
 屋敷の実物の前にジュリーがいました。右端には小円塔があります。玄関付近に猫がいる。チャイムを鳴らして中に入ります。
 公園の四阿です。ギルーのもとへセリーヌがやってきます。2人とも白服です。セリーヌはパーマをかけている。ギルーはジュリーでないことに気づきません。セリーヌはなぜか話を合わせることができます。2人で踊りだします。それを子供たちが見ている。ギルーのズボンがずり落ちます。


 約50分、屋敷の玄関からジュリーが飛びだしてきます。画面は真っ暗になり、先の写真をはさんで、階段をのぼりかけるジュリーを映す。猫もいます。
 図書館をセリーヌが訪れます。ジュリーは遠い旅に出たとリルが告げる。
 ジュリーが門から出てきます。ふらふらしている。タクシーに乗り込み、モンマルトルの試練(カルヴェール)通り Rue du Calvaire へという(実在する通りです→フランス語版ウィキペディア該当頁。"calvaire"はキリストが磔刑されたゴルゴタの丘の意)。
 セリーヌが友人たちといます。ジュリーのことらしいほらを吹く。ジュリーの乗ったタクシーが着きます。待ちあわせていたのでしょうか。


 約58分、クラブでしょうか。奇術師マンドラゴラとはセリーヌのことです。客席でジュリーが見ています。その間、明るい画面で別の状況のカットが差し挟まれます。何やら不穏そうです。
 楽屋です。ジュリーは聞いていないはずのセリーヌのほらに話を合わせることができます。

 約1時間8分、ジュリーのアパルトマンです。ジュリーは何も憶えていない。
 約1時間11分、クラブ内での断片を予告として、屋敷内篇その1です。
 明るい屋内です。金髪の女(後に名がカミーユと知れます、ビュル・オジエ、同年の『ラ・パロマ』(1974)で再会できることでしょう)、黒髪の女ソフィ(マリー=フランス・ピジエ)、少女マドリン(ナタリー・アスナル)、それに看護士アンジェルがいます。アンジェルはジュリー似です。押田友太論文によると屋敷内の物語はヘンリー・ジェイムズの中篇『向こうの家 The Other House』(1896)に基づくとのことですが(註7)、映画の中では途切れ途切れかつバラバラに呈示されます。先取りしておくと、マドリンはオリヴィエ(バルベ・シュレーダー、[ IMDb ]によるとカミーユ役のビュル・オジエと結婚したとのこと)と亡き妻ナタリーの娘で、カミーユは妻の姉妹です。篇中ではソフィの立場はよくわかりませんでしたが、妻の友人とのことでした。
 手前の扉口から奥に伸びる幅の狭い廊下のさほど遠くない突きあたりに、湾曲階段が見えます。
 約1時間14分、画面が真っ暗になり、次いでアパルトマンです。白衣の女(アンジェル)はジュリーと顔がそっくりで、双子の妹かと思ったという。ジュリーの肩の後ろに赤い手の跡がついていました。


 約1時間19分、「しかし、翌日の朝」その3、ロフトの寝室です。セリーヌはジュリーに屋敷の住所を尋ねます。そもそもセリーヌが教えたのですが。
 セリーヌが屋敷まで来ます。チャイムを鳴らし中に入る。猫はいません。
 アパルトマンのジュリーです。櫃を開き屋敷の写真を出す。黒板に書いてあった魔方陣だか何かを消し、隣の壁に写真を留めます。画面が真っ暗になり、黒板に屋敷の絵を描く。また真っ暗になる。

 約1時間24分、ジュリーが屋敷まで来ます。扉は開きません。チャイムを鳴らしますが応答はない。
 屋敷の壁が赤と白の横線が交互に並ぶものであることがわかります。下からの視角です。また玄関の前では幅広のゆるい階段が左におりていく。屋敷の向かって左で奥へ道が伸びています。その左には欄干がついている。
 こちらの壁は蔦で覆われています。ジュリーはどこからか梯子を引っ張りだし、鶏の鳴き声が聞こえる。梯子を立てかけて登ると、上はバルコニーでした。扉があるものの開きません。
 左を見ると5~6段上がって通用口でしょうか、位置はわかりませんが壁はざらざらで屋敷の前に見えたものとは別でした。画面がいったん真っ暗になり、通用口にジュリーは向かう。
 チャイムを鳴らします。顔を出した老女に「ばあや!」と叫べば、老女も「ジュリー!」と応える。脈絡が読めません。ばあやの家は問題の屋敷の向かいにあるという。ジュリーと同じ年頃の女の子がいたが、看護士を怖がっていた。一家は引っ越して戻らなかったとのことです。
 また画面が真っ暗になる。屋敷の玄関前です。階段にジュリーがいると、セリーヌが飛びだしてきます。真っ暗な画面をはさんで、セリーヌはふらふらになっている。停まっていたタクシーに2人で乗りこみ、しばらく走る車内が映ります。前回もそうでした。セリーヌの左肩の後ろに赤い手の跡がついていました。


 約1時間34分、アパルトマンです。2人ともジーパンをはいている。セリーヌの口の中にあったキャンディーを口に含むと、微風が吹きます。屋敷内篇その2です。
 屋敷の廊下奥の湾曲階段です。上からカミーユがおりてきます。下にオリヴィエがいる。
 画面が真っ暗になります。アパルトマンです。キャンディーの2つ目のかけらを口に入れる。
 屋敷です。右から左へ進むと先は食堂です。その手前は通路状広間のようで、奥に木製ののぼり階段が見える。カミーユとソフィがいる。
 キャンディー3つ目です。ソフィがいます。マドリンと看護士がマドリンの部屋に入ります。今回看護士のアンジェルはセリーヌ似です。オリヴィエもやってくる。
 キャンディー4つ目です。カミーユとソフィです。亡きナタリーの話をします。オリヴィエがやってきます。次いで看護士も現われる。
 真っ暗になればアパルトマンでした。5つ目のキャンディーを用いる。広間の木製階段が上で曲がっていることがわかります。あがった先にマドリンの部屋がある。シーツに赤い手の跡が残っています。また真っ暗になり、アパルトマンに戻ります。


 約1時間46分、「しかし、翌日の朝」その4、手もとのVHSソフトでは1巻が終わります。
 ジュリーはセリーヌの肩の後ろに「33」と書きます。
 約1時間48分、セリーヌは屋敷の玄関へ、ベルを鳴らし中に入る。
 アパルトマンのジュリーです。魔術の本を見ている。電話が鳴ります。ギルーからです。修道院に入るという。また電話が鳴る。セリーヌへのものでした。
 約1時間55分、楽屋です。ジュリーが「カミカゼ」の名でセリーヌの代役を務める。手品ではなく歌います。
 約2時間3分、ジュリーはクラブを飛びだし、長い階段をおります。タクシーに乗りこむ。ふらふらになったセリーヌを拾います。彼女の口からキャンディーを取りだす。

 約2時間4分、屋敷内篇その3です。奥に下からの階段がのぼってきている。
 切り替わればアパルトマンの2人です。2人は横並びで坐り、こちらを見ている。あたかもお芝居か映画を見るごとくです。この後屋敷の場面と2人のカットが交互に配されます。
 屋敷です。階段をセリーヌ状看護士があがってきます。マドリンの部屋に入る。この部屋は2階にあったわけです。
 アパルトマンの2人をはさんで、屋敷の場面に戻れば少し巻き戻っています。それからカミーユが登場する。
 2人のカットをはさんで、また屋敷の場面が少し巻き戻ります。2人、巻き戻り、2人、カミーユがオリヴィエの部屋へ、2人、ソフィがマドリンの部屋へ、前にも出てきた状況です。2人、前にも出てきたオリヴィエのカット、2人、また前出の場面、2人、画面が真っ暗になり、2人に戻る。
 奥に湾曲階段の見える狭い廊下です。その中ほど右から看護士が出てくる。手前まで来ると左に折れます。左右に伸びる廊下の奥には下からの階段がのぼってきている。2階なのでした。左の突きあたりには箪笥が配され、その左右に扉があります。左の扉からソフィが出てきます。
 アパルトマンの2人をはさんで、マドリンが合流する。看護士はもとの方へ戻ります。
 狭い廊下奥の湾曲階段、上からカミーユがおりてくる。左下からオリヴィエがあがってきます。螺旋階段だったわけです。外観が映った屋敷の屋内で撮影されたのかどうかはわかりませんが、仮にそうだとすると屋敷は2階建てでした。ただし右の角に塔がありましたから、この螺旋階段は塔の中にあると見なしてよいのでしょうか。あるいは後の場面で屋根裏部屋なるものが出てきますが、そこに通じているのか。
 アパルトマンの2人をはさんで、狭い廊下は途中で手前に1段高くなっていることがわかります。
 アパルトマンの2人をはさんで、ソフィはカミーユが胸に挿した花に怯えます。2人は突きあたり左の部屋に入る。アパルトマンと屋敷の場面を何度か往き来します。オリヴィエと看護士の場面に続いて画面が真っ暗になる。アパルトマン、屋敷の女性陣、アパルトマン、マドリンとソフィ、それに洗面所での看護士とカミーユ。カミーユは15年前の繰り返しだという。アパルトマン、画面手前の左右に白い扉、奥に木の階段が見える。階段は左上からおりてきて折れて右下へ、そして手前にくだる。ソフィがおりてきます。手前を右へ、オリヴィエがいる。アパルトマン、カミーユは右から左へ、奥に木の階段が見えます。アパルトマン、ソフィの気絶に続いて画面が真っ暗に、次いで誕生会です。
 アパルトマン、ピアノ、レコードがかけられオリヴィエとカミーユが踊ります。アパルトマン、誕生会でのだるまさんが転んだ、アパルトマン、誕生会での連想ゲーム、画面が真っ暗になる。2階のマドリンの部屋の前での看護士とオリヴィエ、アパルトマン、少し巻き戻り、またアパルトマン、キャンディーがなくなりました。


 約2時間30分、夜の図書館です。天窓があります。黒ずくめのセリーヌとジュリーが忍びこむ。街路に出るとローラー・スケートで走ります。何やら木組みが斜めになったところを経て、上り坂をあがる。
 アパルトマンに戻ると、魔法を執行します。四元素による薬が作られる。薬を飲みます。金魚にも飲ませる。がぶ飲みします。


 約2時間36分、屋敷内篇その4です。階段をあがってきた看護士、アパルトマンの2人、看護士とカミーユ、アパルトマンの2人、看護士が奥から左へ、突きあたりまで進む前出のカット、アパルトマンの2人、カミーユとオリヴィエ、アパルトマンの2人、カミーユ、ソフィと看護士、アパルトマンの2人、やはり前出の洗面所での看護士とカミーユ、少し続きも描かれる。アパルトマンの2人、誕生会のカミーユ、アパルトマンの2人、また誕生会、アパルトマンの2人は酔っぱらいます。2階の看護士が木の階段をおりる。オリヴィエもいます。上からソフィ、看護士は2階へ、2階にいたカミーユの手のひらは真っ赤になっている。いくつかの断片が挿入され、画面は真っ暗になる。
 アパルトマンの2人は「助けに行こう」という。


 約2時間49分、「しかし、翌日の朝」その5、2人は屋敷にやってきました。猫が2匹います。中に入ります。
 屋敷内篇その5です。その1~その3までは2人のどちらかが屋敷に入ったものの、その時点では中の様子は描かれず、屋敷から出た後になってから、キャンディーの力で中の様子が断片的に回想されていました。また意識は看護士のそれに置き換えられている。その4は中に入ることなく魔法薬の力でのぞき見しますが、やはり意識は保たれていない。またその3とその4ではアパルトマンの2人は観劇態勢になる。その5で始めて、意識を保ったまま、しかも2人揃って、屋敷に入り中の様子が時間を置くことなく映画の進行と同時に描かれるわけです。
 玄関ホールです。左に左上がりの階段がある。ジュリーは看護士化、セリーヌはそのままです。
 玄関前、玄関ホール、下からの外観とカットが重ねられ、次いで薄暗い廊下です。手前右から奥へ、左の扉に向かう。ベッドのマドリン、オリヴィエ等に続いて、廊下の看護士化ジュリーです。屋根裏部屋のカミーユと廊下のジュリーが交互に反復される。
 マドリンの部屋です。ソフィ、オリヴィエ、看護士が入ってくる。
 暗い舞台でしょうか。拍手が鳴る。
 薄暗い部屋です。セリーヌとジュリー双方看護士の姿になっています。
 洗面所のソフィを経て、狭い廊下で2人の看護士が入れ替わって現われます。同時に2人いたりもする。2人はまた先の薄暗い部屋で落ちあいます。
 他の面々は白塗りになっています。ゾンビ状であります。随所に鏡が配され、アパルトマンの洗面所でもそうでしたが、2重化したり時に3重化したりします。セリーヌとジュリーはいちびります。2階へ上がりマドリンを連れだす。3人で窓から脱出します。


 約3時間9分、アパルトマンです。浴室にマドリンがいます。
 3人でボートに乗ります。すれ違う別のボートにはオリヴィエ、カミーユ、ソフィが乗っていました。
 猫のカットをはさんで、うとうといていたセリーヌが目を覚まします。公園のベンチです。通り過ぎたジュリーが本を落とす。セリーヌは追いかけます。猫に続いてクロージング・クレジットとなるのでした。


 押田論文でも下掲のドゥルーズの本でも、セリーヌとジュリーは互いの分身であると見なされています。聞いていないはずの片方が言ったことを他方が知っているかのように喋ったり、逆に知っていたはずのことを本人が忘れてしまい、あたかも情報がもう一人に移行したかのごとき点、お屋敷で看護士アンジェールが交互に2人によって演じられたりといった点からして、なるほどと思わないでもない。ただ『血とバラ』(1960)の場合もそうだったように、2人の姿で現われたイメージは、あくまで見た目のままに2人なのだととりたいと個人的には思ってしまうのでした。その上で2人の間に何やら横滑り的な関係が生じているのではないでしょうか。ちなみに原因と結果が縦につながっていく時間の進行と対比した意味での〈横滑り glissement〉といい方は、大昔に読んだロブ=グリエ『快楽の漸進的横滑り』(平岡篤頼訳、新潮社、1977)から拾ったものですが、例によって中身はすっかり忘れたので、ロブ=グリエが使った意味に適っているかどうかは保証の限りではありません。
 ともあれ本作では、2人の関係のみならず、夢の中よろしくお話の展開も横に滑っていくかのようです。滑り方があくまで軽快であって深刻にならないのは、個人的には大いに評価すべき点かと思われるのですが、それを支えるのは何より、坂だらけのモンマルトルの地と、そのただ中で門の向こうの窪地に聳えると思しい幽霊屋敷であり、また屋敷内の2階の曲折する廊下や螺旋階段に木製階段、木製階段につながる1階のおそらくは玄関ホールなどではないでしょうか。

Cf.,  押田友太、「ジャック・リヴェット『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(1974)再考 異なる世界の邂逅による物語の相対化をめぐって」、Autumn 2012 [ <CineMagaziNet!, no.16

そこで言及されており、読んだはずなのに例によって例なるがごとくきれいさっぱり忘れていたのが;
ジル・ドゥルーズ、宇野邦一・石原陽一郎・江澤健一郎・大原理志・岡村民夫訳、『シネマ2*時間イメージ』(叢書・ウニベルシタス 856)、法政大学出版局、2006、pp.14-15

 2016/6/26 以後、随時修正・追補
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