ホーム 宇宙論の歴史、孫引きガイド 古城と怪奇映画など 美術の話 おまけ
呪われた城
Dragonwyck
    1946年、USA 
 監督   ジョゼフ・L・マンキーウィッツ 
撮影   アーサー・C・ミラー 
編集   ドロシー・スペンサー 
 美術   J・ラッセル・スペンサー、ライル・R・ウィーラー 
 セット装飾   トーマス・リトル 
    約1時間43分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ

DVD
………………………

 この作品で超自然現象が起こったのかどうか、判然としないのですが、とまれ『ジェイン・エア』型の典型的なゴシック・ロマンスです(→こちらも参照)。原作はアーニャ(アニヤ、アニア)・シートン(Anya Seton, 1904-1990)の Dragonwyck (1944)とのことですが、邦訳はされていないようです。

 脚本も兼ねたマンキーウィッツはこれが監督第1作とのことで、その後の作歴については[ allcinema ]やウィキペディア日本語版の該当ページ等を見ていただくとして、ジャンル的には翌年の『幽霊と未亡人』(1947)が関係ありそうでしょうか。本作のヒロインを演じたジーン・ティアニーも続投しています。またうろ覚えですが後年の『去年の夏突然に』(1959)はたしか、とてもいやあな作品でした。
 美術監督のライル・R・ウィーラーは『レベッカ』(1940)、セット装飾のトーマス・リトルは『不死の怪物』(1942)に参加しています。
 ヒロインの母に扮したアン・リヴィアはどこかで見かけたような気がすると思ったら、『悪魔の命令』(1941)で霊媒役でした。翌年にはフリッツ・ラングのゴシック・ロマンス『扉の蔭の秘密』(1947)にも出ている。ヒロインの父親役のウォルター・ヒューストンは『そして誰もいなくなった』(1945)に出演していたとのことです。
 キャストのリストでは3番目となっていますが、しかし、本作の立役者はヴィンセント・プライスでしょう。プライスがホラー映画界における地位を確立したのは『肉の蝋人形』1953年版(→こちらも参照)によってと見なされているようですが、本作ですでに、『アッシャー家の惨劇』(1960)をはじめとするコーマンのポー連作における一連の役どころを先取りしているかのようであります。

 タイトル・バックに館の姿が、ハッチングを施した線画で登場します。
 続いてコネチカット州グリニッジ近郊、1844年5月と記される。ヒロインであるミランダの母(後に名がアビゲイル・ウェルズと知れる)のもとに、義理の従弟ニコラス・ヴァン・ライアンから手紙が届く。ニコラスはハドソン川流域の領主で、ドラゴンウィックという名の館に住んでいる。祖先はオランダから来た。8歳の娘の相手が欲しいという。
 ヒロインの父(日本語字幕には出てこなかったかと思いますが、名はエフライムとのこと)は信心深く、頭が固そうです。聖書を無作為に開き、そこに見出した1節から神意を読みとります。

 約7分、ニューヨークです。ニコラスとの待ち合わせ場所であるホテルのロビーにミランダと父がやってくる。ミランダは舞いあがっています。ウェイター二人は黒人でした。
 約10分、ニコラスが現われます。口髭なしです。1630年から領主の家系だという。

 約13分、左右を低い山並みにはさまれた川を蒸気船が進みます。「ドラゴンウィック」と乗客たちが騒ぐのを聞いて、ミランダは望遠鏡を借りる。円形の枠どりに囲まれて約14分、館の外観が登場します。模型かマット画でしょうか、崖の上に立つ館は、複数の破風が段々になっており、ギザギザした感触を与えます。オランダ風ということでしょうか。全体は横に伸び、2~3階建てのようですが、玄関らしきところの近くに平屋根の塔、右端に少し奥まって尖り屋根の塔が聳えている。話が進むと塔が出てくるのですが、位置からすると平屋根の塔がそれに当たるでしょうか。

 約15分、夜になってからの外観に続いて、屋内の大広間の登場です。天井がおそろしく高そうな中、使用人が左から右へ横切る。奥の方には左と右で階段がのぼっており、双方内側に折れ、その上で双方を2階の短い回廊がつないでいます。その中央には奥へのアーチ口があるのですが、その上の壁に1階分はありそうな装飾が施され、しかしまだ天井には達しない。また左右の階段にはさまれた回廊の下は、奥まって広い窓があるようです。大広間全体を支える柱は、上方で大広間方向に張りだした弓状の装飾が天井まで伸びているらしい。階段の手前には上からシャンデリアが吊りさがり、手前から奥方向に配された長テーブルは、しかし大きくは見えません。奥の右階段の右手は壁になっており、その右手は奥まっているようです。この時点では何やら影が落ちているように見えるのですが、すぐ後に暗がりに数段数列に重なる半円アーチ形の明るみが差しこんでいることがわかります。この部分のさらに右、奥に扉がある。このあたりも含めて、大広間の向かって右側、柱の右は大広間の床より数段分高くなっているようです。使用人たちも数段のぼってその先にある扉を開きます。これが玄関扉か、あるいは玄関ロビーにつながっているのでしょう。ニコラスとミランダがここから入ってくる。出迎えた二人の内一人は家政婦のマグダ(スプリング・バイイントン、『倫敦の人狼』(1935)に出ていたとのこと)でした。

 約16分、食堂です。後に名がヨハンナと知れる夫人(ヴィヴィエンヌ・オズボーン)はすでに食事を始めている。やけに食欲旺盛です。奥の窓には、中央で円形になる縦の桟が並んでいる。娘のカトリーヌ(コニー・マーシャル)も呼ばれてやって来ますが、浮かぬ顔をしています。

 後に「赤の間」と呼ばれる部屋です。ニコラスはチェンバロを弾いている。その奥に女性の肖像画がかけてあります。いささか固いのですが、植民地時代風といわれればそんな気もしなくはない。モデルはニコラスの曾祖母アジルドで、彼女はニューオーリンズ出身、1743年に曾祖父と結婚した。息子を産んでから死んだという。夫人によると、今もチェンバロを弾いているという噂だとのこと。
 夫人は部屋を出て右に向かいます。部屋から出たところは奥の方より数段高くなった通路のようで、欄干も見える。奥は大広間でしょうか。他方食堂と同じ中央で円形になる縦の桟ものぞいています。
 残ったミランダとニコラスは話をしますが、ニコラスは顔が陰に入ったりするのでした。


 ニコラスと入れ替わりにマグダが入ってきます。彼女は童顔でいつもニコニコしていますが、そのままでいわくありげなことをミランダに吹きこみます。赤の間では説明のつかない不思議なことが起こる、彼女が住みついているのだ、彼女は夫に愛されなかった、夫は息子しか愛さなかった、そのためここで自殺したのだという。
 古城映画的山場です。マグダはミランダを部屋へ案内するべく、赤の間を出ます。左に壁のある階段、大広間の向かって右の階段でしょう、そこをのぼる二人をカメラはかなり上から見下ろします。薄暗い。マグダが手にする一本燭台のみが灯りです。右の欄干の下端の柱の上に、上に小さくなる円盤をいくつか上下に重ねた柱状装飾がありました。左の壁は格子張りです。その内右端から、途中の行にいくつか半円アーチ窓が並んでいます。後に上下にも重なっていることがわかる。これが階段の壁の向かって右で陰に落ちていた半円アーチ形の明るみになるのでしょう。
 二人がのぼってくると、カメラは右下から左上へ首を巡らせる。階段を途中で折れて奥から手前にあがってくる。カメラは後退する。画面手前で欄干上の柱がシルエットになっています。
 階段をあがりきると左へ折れます。その先にミランダの部屋がある。マグダは胡乱なことを話し続けます。


 カトリーヌに授業する部屋の奥の窓の向こうには、山並みが覗いています。カトリーヌは両親に愛されていない、自分も両親を愛していないと思っているようです。

 小作人たちの集会と祭りです。こっそり見ているミランダとカトリーヌのもとへジェフ・ターナー医師(グレン・ランガン)がやって来ます。カトリーヌは彼のことが大好きですが、ニコラスと彼はうまくいっていないという。
 馬でニコラスともう一人が着きます。広場の一角、壇上に大きな木の椅子が置いてある。200年前オランダから持ってこられたという。ニコラスと小作人たちは対立しています。


 大広間で舞踏会が開かれる。ミランダは周囲の人々になじめません。マグダは彼女を励ます。
 ミランダは大広間から外に出る。向こうに多角形の温室のようなものがあります。その外形に沿ってテラスがめぐっている。ニコラスが彼女を捜し当てる。
 二人は踊りながら大広間に戻ってきます。温室のような多角形の出窓が、二叉階段の奥に位置することがわかります。蒸気船の場面でニコラスは「嘘みたい」というのを止めてくれとミランダに頼んでいたのですが、この時またミランダがその台詞を口にすると大笑いする。本篇中でニコラスがもっとも共感を呼ぶ場面と見なせるかもしれません。なお何らかの台詞が反復されるという事態は、後にミランダとターナー医師の間でも起こります。


 嵐の夜の館の外観です。窓の向こうでニコラスがこちらを見ている。窓の中は夫人の部屋でした。ニコラスは夾竹桃の鉢植えを飾ります。塔の部屋で何をしているのかと問う夫人に、いかれた双子の兄弟を捜してると答える。
 ニコラスは夫人の部屋を出て手前へ進みます。カメラが右から左に滑ると、手前で左へ、5~6段左上へのぼる。その手前に欄干が伸びています。向こうは方形の扉口を経て、石壁が湾曲して上へ続いている。ここが塔らしい。
 あがりかけたところをマグダに呼びとめられる。だからニコラスとマグダの位置には高低差があります。切り替わると大広間の階段を下りてくる。つまり夫人の部屋や塔への入口は2階にあることになる。下ではターナー医師が待っている。階段の右の壁の右にはやはりアーチ列の影が落ちています。その手前では数段分高くなった通路の欄干が、左から右奥へ、折れて右奥からさらに右手前へ伸びている。欄干の角には階段の下に見えたのと同じ円盤重ねの柱装飾が立っていますが、円盤の下は下すぼみの四本柱に囲まれた宙空部になっていました。この柱は向かって左、階段の登り口にもあり、前の場面で映ったのはこちらだったのでしょう。


 ターナーは請われて夫人を診察します。ターナーが部屋を出た後、夫人はニコラスに、私を愛しているのか、私を殺したいのかわからないという。
 その間ターナーはミランダと暖炉の前で話しています。初めて会ったのが前の夏とのことで、けっこう時間が経っていたわけです。二人がいるのは赤の間でした。肖像画がアップになる。


 約49分、肖像画のアップに続いて稲妻の光る窓のカットがはさまれ、また肖像画になったかと思うと柱時計とオーヴァラップします。時計は3時を指している。どこやらから歌声が聞こえます。カメラが右から左へ流れると、大広間の右階段が下から見上げられる。上の回廊にカトリーヌがいます。階段を下りてくると、先ほど彼女がいた位置にミランダが出てきます。おりてきて階段の途中で合流しますが、カトリーヌに聞こえる歌声はミランダには聞こえない。調子が変わり不吉になったという。ミランダはカトリーヌを抱きしめます。

 約51分、また柱時計です。4時10分。マグナとターナーが奥から進んできて5~6段下り、少し進んでまた5~6段上ります。ここは階段上の回廊でしょうか。手前の扉からミランダが出てくる。
 三人は暗い廊下を右から左へ向かいます。カメラも平行する。やがて背を向け左奥へ、途中で左やや手前に折れ、さらに先へ進む。行き先は夫人の部屋です。
 ニコラスが塔への階段を下りてきて右奥へ、やはり夫人の部屋に向かいます。
 部屋の中で夫人が横たわるベッドの向こうにターナーが立ち、その背後に鏡台がある。鏡にターナーの背が映っています。夫人は急逝していた。皆が部屋を出ると、夾竹桃がアップになります。


 ミランダの部屋にニコラスがいます。鐘の音が聞こえてくる。夫人はカトリーヌを産んでもう子供が産めなくなったという。ニコラスはさっそくくどき出します。

 約57分、ミランダはドラゴンウィックを去ります。ニコラスはそれを階上の窓から見ている。雪が積もっている。途中でターナーが追ってきて話します。
 約59分、グリニッジ近郊の実家です。父は説教をしていたというので牧師なのでしょうか。ニコラスが来訪します。ミランダは心待ちにしていたようです。居間らしき部屋の天井に何やら影が落ちています。母は複雑な心境を抱いています。出番は短いものの、その点では本篇中ニコラスに匹敵する唯一の人物かもしれません。


 約1時間6分、新婚のお披露目が計画されている。カトリーヌの人形が見つかった、送ってあげてという点からすると、彼女は寄宿舎か何かに入れられたようです。先の歌の場面以後出番はない。
 ミランダには新しいメイドのペギー・オマーリー(ジェシカ・タンディ、ヒチコックの『鳥』(1963)に男性主人公の母親役で出ていたとのこと)がついています。足の悪い彼女をニコラスは見ていたくないという。齟齬の始まりでしょうか。
 ミランダは父に劣らず信心深い。ニコラスは自分を信じると返します。


 町の酒場です。市長が替わり領主制に影が差しているらしい。そんな中へニコラスが入ってきて、ターナーを捜します。ミランダは妊娠していましたが、容態が芳しくない。

 鐘の音が聞こえます。出産には成功しましたが、息子は長く生きられそうにない。認めないというニコラスをカメラは斜め下から捉えます。カメラが露骨に斜めになったのはここだけでしょうか。結局洗礼の直後に死んでしまう。

 ニコラスは塔に1週間こもっているという。約1時間22分、塔への階段に向かうミランダが上から見下ろされます。階段をあがって右へ、カメラはやや下からです。進んだ奥で少し右上に伸びる階段があがっていく。階段の右手は何もない。左の壁に欄干が濃く影を落としている。上には扉が見え、その左右は少し前に出ています。そこに不規則な斜め縞の影が落ちています。その右にも欄干が続いている。カメラは左から右へ動きます。
 背を向け階段をあがる姿が下から見上げられる。今度は階段を右上がりに、カメラは平行した位置につきます。カメラの視線が水平になると、階段をあがった向こうに、奥まって飾り格子の窓がある。向こうは山並みらしい。飾り格子の影が先の不規則な斜め縞になっていたようです。
 扉の中に入って、数段あがります。この部屋は床が高くなっているらしく、奥の尖頭アーチ窓の手前に欄干が設けてある。扉の上に本棚、その向かいの暖炉らしきものの上にも本棚があります。手前を横にベッドか何かが配され、そこにニコラスが横たわっていました。ニコラスは無精髭が伸びています。山があり雲があるかぎり自由だ、私は薬物中毒だという。ミランダは二人でやり直そうと提案しますが、ニコラスはそっぽを向きます。


 約1時間27分、ターナー邸にペギーが訪れています。花を贈られてミランダは喜んでいる、自室で食事を取ると聞いてターナーはドラゴンウィックに急ぎます。

 ミランダの部屋にニコラスがいます。無精髭のままです。風の音がするという。ミランダには聞こえない。アジルドの歌声だと、ミランダは信じてなかったけど本当なのねといいます。
 ニコラスは階段を下り赤の間に入る。薄暗い。肖像画を見ます。ターナーとペギーが入ってくる。別の入口からミランダも合流します。ターナーによる謎解き、次いでニコラスとターナーの格闘になります。
 ミランダはターナーと出ていきます。振りかえると目に涙を溜めている。


 ニコラスは広場の壇上、木の椅子のところへ来る。一人で演説します。ドラゴンウィックは誰にも渡さない、息子が相続するといって銃を撃つ。
 小作人たちに新市長、ターナーとミランダが現われます。ニコラスは銃を振りあげ、撃たれる。単発銃なので弾丸はもうなかったはずです。小作人たちは帽子を脱ぐ(以前の祭りの場面では脱ぎませんでした)。ニコラスは最後に頭を持ちあげます。


 ミランダはドラゴンウィックを去ります。ターナーと話す。エンド・マークの向こうに、冒頭での線画による館の姿が再登場するのでした。

 ドラゴンウィックはどうなるのかとか、カトリーヌは放りっぱなしかいとか、いささか腑に落ちない点でした。原作ではどうなっているのでしょうか?
 またヨーロッパからやって来た過去の領主制を体現する貴族およびその館と、新しい国アメリカの自由な市民である農民が対比されるという、階級闘争めいた図式は、後者の勝利が前もって自明視されているだけに、今となってはいささか鼻白むものなしとしますまい。ヒロインが夢に幻滅して現実に目覚めるという構図とはいえ、そのためゴシック・ロマンスに経済や男子相続など現実的な問題が持ちこまれたのもいささか辛いところではありました。
 そんな中でヴィンセント・プライスはとりわけ無精髭姿になって以後、熱演していましたし、ジーン・ティアニーのヒロインも考えなしの脳天気娘から、やはりニコラスと結婚して以降、沈痛なものを潜ませるにいたったように思われます。初めに本作を『ジェイン・エア』型と記しましたが、『ジェイン・エア』や『レベッカ』と異なるのは、ヒロインと館の主が最終的に破局を迎える点でしょうか。結婚、さらに出産までの道筋をたどりながら、ついに修復不能の状態にいたるというのは、なるほど現実の重みと見なせなくはない。ちゃっかり後釜が用意されているのは、いささか感情移入を妨げるにせよ。
 しかし何より、マグダに伴なわれて暗い階段をのぼる場面、歌声を聞くカトリーヌに寄り添う同じ階段の場面、塔の階段をのぼる場面という、階段をめぐる三つのシークエンス、加えてマグダとターナー、追ってミランダが夫人の部屋へと廊下を進む場面、また短いながらニコラスが夫人の部屋を出て塔への階段をのぼりかけながら呼びとめられる場面などがあればこそ、本作は邦題に違わぬ古城映画として記憶されることでしょう。

Cf.,  Jonathan Rigby, American Gothic: Sixty Years of Horror Cinema, 2007, pp.274-275

Joel Eisner, The Price of Fear. The Film Career of Vincent Price; In His Own Words, 2013, pp.46-48
 
 2016/02/18 以後、随時修正・追補
   HOME古城と怪奇映画など呪われた城 1946