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悪魔の命令
The Devil Commands
    1941年、USA 
 監督   エドワード・ドミトリク 
撮影   アレン・G・シーグラー 
編集   アル・クラーク 
 美術   ライオネル・バンクス 
    約1時間5分 
画面比:横×縦    1.37:1 
    モノクロ

DVD(『アメリカン・ホラー・フィルム・ベスト・コレクション vol.1』(→こちらを参照)より)
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 エドワード・ドミトリクといえばヘンリー・フォンダ、アンソニー・クイン、リチャード・ウィドマークが出演した西部劇『ワーロック』(1959)あたりが個人的には思い浮かぶのですが、その早い時期の作品。
 ボリス・カーロフがにこやかな愛妻家の科学者ブレア博士として登場しつつ、妻の事故死をきっかけに禁断の研究にのめりこむというお話で、それを後押しする霊媒ウォルターズ夫人(アン・リヴィア)が、その動機は曖昧なまま、むしろだからこそ存在感を放っています。たまたま同じ『アメリカン・ホラー・フィルム・ベスト・コレクション vol.1』というセットに入っていたからか、『呪いの家』(1944)に登場するミス・ハラウェイと比較したくなるところです。もっとも霊媒に引きずられているように見えて、最後まで実験にこだわり続けたのは博士自身にほかならず、霊媒に普通の人なら危険だという電流を流してみたり、大学の守衛か何かなのでしょうか、大丈夫といったそばから手伝ってくれた彼に傷を負わせたり、ついには霊媒を死なせたあげく、実の娘までひきずりこむことになるなど、温厚そうに見えてけっこう箍が外れているのでした。
 また、やはり同じボックス・セットに入っていたせいか、やはりカーロフ主演の『歩く死骸』(1936、監督:マイケル・カーティス)と本作品は主題を共通にしているように思われます。『歩く死骸』については画面いっぱいを格子の影が覆い、しかもカメラが斜めになっている場面など、面白い点はあるものの、お城映画とはいいがたいので今のところ棚上げ中です。なのでここで少し触れておけば、カーロフ扮する音楽家は無実の罪で死刑に処せられてしまうのですが、科学者の措置によって蘇るというお話です。蘇生措置の場面は『フランケンシュタイン』(1931)でのそれを連想させるとともに、死の世界の探索という点で本作品に通じるのではないでしょうか。実際『歩く死骸』での科学者は、善意によって蘇生手術を行なったものの、その後主人公が示す超感覚から、他界のあり方に関心を移すようになるのです。音楽家はといえば、死刑に処される前は死にたくないと言っていたのに、復活後は墓場などに安らぎを覚えるようになります。この点では『フランケンシュタインの花嫁』(1935)ラストでの、我々は死に属しているという台詞が思いだされるところです。最後に悪漢たちに撃たれた音楽家は、博士に問い詰められて死の世界について語ろうとする。その第一声が我らが神は嫉妬深いというのもなかなか面白い点でした。とまれその先を述べることなくついに力尽きてしまうのですが、本作品『悪魔の命令』にしても、博士の実験によって何が引き起こされていたのか、畢竟不明のままです。ポーの「ヴァルドマアル氏の病症の真相」(1845→こちらを参照)あたりを連想することもできるかもしれません。


 さて、映画は嵐の夜、海辺の崖の上に建つ屋敷ともに開幕します。時折雷がひらめけば、屋敷の姿もはっきり見える。三角屋根がいくつか横に長く伸びるような態で、模型のようです。この場面はラストでも登場します。カメラはより近づいて、屋敷の前に塀があることも映し、バーシャム・ハーバーという土地にあるとナレーションが告げます。
 ただし前半の舞台はそこからほど遠いというミッドランド大学です。夜の嵐はそのまま引き継がれる。実験を実施するたびに灯りを消すので、電流が走り影を落とすことになるのですが、それ以上に印象的なのは、被験者にかぶせる仮面でしょう。両目の部分と口の部分は横に開いているのですが、中央を太い鉄の帯が縦断しており、まさに鉄仮面といったありさまです。この仮面は最後まで用いられ続けることでしょう。
 前半ではこの後ウォルターズ夫人の交霊会に出席してペテンを暴いたりする場面もありますが、面白いのは自宅の玄関を入ったところにある階段でした。扉のある壁の奥の方からおりてきて、右に折れ、半円状に曲線を描きながら手前で床に達します。玄関よりの側には手すりがついており、これは階段の湾曲に応じて曲がるのですが、手すりを支える柱も真っ直ぐではなく、下の方で曲線としてふくらむという装飾的なものです。この影が奥の壁に落ちるとして、二重になっている。一つは手すり部分のみ濃くはっきりした軌跡を描き、もう一つはそれに交わるように、やや薄く、そのかわりうねった柱の影もついています。階段の左端、玄関側の壁にもこちらは細く、しかし濃い影が左下に急角度で落ちこんでいます。内装はいたって明るいだけに、階段とその影の有機的な曲線が過剰なまでに目を引きました。

 後半は冒頭に映された、ニューイングランドはバーシャム・ハーバーの屋敷が舞台となります。博士たちが越してきてすでに2年、その間墓泥棒が何度か起こっており、住民たちは博士に敵意を抱くようになる。暴動を防ごうと保安官は塀を乗り越えては邸内に入り、無実の証しを得るためと家政婦に実験室を探るよう依頼して結果として彼女を死に追いやったあげく、暴動もとめそこなうなど、この作品では善意はつねに裏目に出るかのごとくです。
 まずは保安官の夜の訪問場面です。玄関を入ると何段かおりて床となり、少し先に2階への階段があがっていきます。左手が手すりで、右手の壁にはその影が大きく落ちています。実験で電力を喰うため灯りを消しているのです。手すりの影は右上でぐるっと曲がるとともに、柱は1階に近づくと間隔を狭めています。
 2階から博士と霊媒がおりてくると、二人の影もそれぞれ左右上方に浮かびます。二人がさらにおりてきて、下から保安官、博士、ランプを手にした霊媒が横に並ぶ。グレーの壁に三人の影が濃く大きく映ります。

  次いで昼間の2階です。画面の手前に階段室吹き抜けの手すりが横に伸びるさまをカメラが下からとらえます。左の方に進めば実験室です。画面左端には階段部分の手すりの影が急角度で降下しています。吹き抜けの奥の壁には、窓と枝葉の影がやや薄く、しかしくっきり映っていて、一幅の絵のごときさまです。
 右に進めば廊下で、突きあたりは広い窓、左右に部屋への扉があります。右側の部屋に戻る博士が実験室に施錠し忘れたのを見た家政婦は、さっそく忍びこもうとする。この時、実験室の扉に、ハレーションを起こしたかのような、奇妙に明るい有機的な形が浮かびあがります。その部分のすぐ左側が家政婦の影で、明るい部分は光があたっているところなのですが、左手の暗くなった部分には木の肌理が感じられるのに対し、こちらは照り返しで質感が飛んでしまい、そのため異様に目立ってしまったのでしょう。またさらに右側では、手すりの柱の影が縦断しています。
 実験室の中に入ると、暗い中、何やら黒っぽい布をかぶせたものがいくつも並び、その影が上の方に伸びています。ふとしたことから電源を入れてしまえば、それらの間で光の渦巻が発生し、布は宙に浮きあがる。中央に光を放つ小さな装置を囲んで、チューブでつながれた六つほどの鉄仮面が着座させられているのでした。

 駆けつけた霊媒のスカートの下の方と足だけが画面右側に大きく映されたカットもありました。左側にはテーブルらしきものの脚が一本、その下に変化を含む幾何学的な格子の影が落ちていて、とても印象的なショットでした。
 あるいは博士と保安官、家政婦の夫が玄関から外に出ようとする場面。玄関向かって左脇に椅子が置かれていて、その影が奥の壁に大きく浮かんでいます。椅子は背もたれが二本の柱に両脇から囲まれる形になっており、そのため影は、二本の腕がある人型のように見えました。


 とこうする内に保安官から連絡を受けた娘たちが駆けつけ、娘が来たからこの家は変わるといったそばから、霊媒を死なせた博士は、しかし娘が近くにいたからこそ反応があったのだと、今度は娘を被験体に実験をエスカレートさせるのでした。保安官の制止むなしく、家政婦の夫に率いられた暴徒も焼き討ちに来襲しますが、ずっと付き従ってきたもと守衛(?)氏と揉みあう内に、装置は暴走、天井は崩落するという結末を迎えるにいたる。最後に、冒頭での夜の嵐の中の屋敷の全景が映され、終幕となるのでした。
 2014/11/30 以後、随時修正・追補
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